スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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インターミッション『カムイ・ショウという少年』

─アルカディア号─

 

 

 その少年は、短く刈り揃えた金髪と灼熱のように赤い瞳が印象的な少年だった。一見して誰もがハンサムと認めるその出立ちはしかし、周囲から戸惑いの視線に晒される。無理もない。

 少年の肌は蜥蜴のような鱗に覆われた、緑色をしているのだから。

 

カムイ

「……………………」

 

 少年。カムイ・ショウは山岸獏を引き連れ、アルカディア号の主要メンバーと対面していた。隻眼の海賊キャプテンハーロックと、彼の友であり相棒の大山トチロー。鉄華団のオルガ・イツカ。それに……。

 

竜馬

「何だぁ。化け物じゃねえか」

 

 流竜馬。カムイの親友でもあり宿命の相手でもある拓馬の父は開口一番、カムイの地雷を踏んだ。

 

カムイ

「…………!」

竜馬

「へっ。やるか?」

 

 ギロリ。とした赤い目が竜馬を睨む。それに対し竜馬はどこか嬉しそうに口元をニヤつかせる。一触即発。そんなピリピリした空気はしかし、「そこまでにしろ」というキャプテンハーロックの重々しい一言でどこかへ霧散する。

 

カムイ

「失礼しました」

竜馬

「チッ、悪かったな。だが一応説明してくれよ。お前のその肌、どうなってんだ?」

 

 実際、竜馬が言わずともその疑問はアルカディア号にいる……この場に集まる誰もが疑問に思うところだった。「化け物」という言い方こそ問題はあるものの、その異様な容姿は警戒心を与えてしまうものであることも、カムイは理解している。

 

「あ、ああ。こいつは……」

カムイ

「いい、獏。……私は、人間とハチュウ人類。私達の世界において、人類の発生以前に地球を支配していた種族とのハーフです」

 

 気遣う獏を制し、カムイが告白する。自らの血に刻まれる、忌まわしき螺旋の話を。

 

カムイ

「私達の世界では、私が生まれるより以前……ハチュウ人類と人類の戦争がありました。地球という星の霊長の座を賭けた生存競争。その際、私の母はハチュウ人類の恐竜帝国に拉致され、交配実験に使われたのです」

マーガレット

「拉致した人間を、実験台に……」

 

 それは当然、倫理的に許されるものではない。槇菜やリュクスなどは口元を塞ぎ、そうでないものも眉を顰める。それだけの凄惨な出自。

 

カムイ

「結果としてハチュウ人類の恐竜帝国は敗れ、私の母は海底深くのマシンランドウに潜伏した恐竜帝国で暮らさざるを得なくなりました」

ハーロック

「そうして、君が生まれた。だが解せないのは、その君がなぜゲッターロボに乗っているかだ」

 

 問われて数秒、カムイは押し黙る。それは思考を整理する時間だった。何を話し、何を話さないべきか。カムイ達は異世界人だ。違う世界、違う歴史。違う未来。それらの存在をハーロック達は理解しているようだが、それがどこまで理解できているのかという問題もある。

 だが、この場所に竜馬……即ちカムイ達とは別の可能性を持つゲッター線の申し子が存在する以上、この世界における戦いの中心に彼らいることは間違いない。そう判断し、カムイは口を開く。

 

カムイ

「……恐竜帝国と人間の戦争が終わって十数年後、地球は更なる窮地に立たされていました。恐竜帝国と人類は秘密裏に協定を結び、私はゲッターの操縦者として……人間との混血により普通のハチュウ人類よりゲッター線に耐性があるという理由で選ばれた。そしてと拓馬や獏といった仲間を得て、共に“厄祭戦”を戦った」

オルガ

「“厄祭戦”だと……!」

槇菜

「……!」

 

 “厄祭戦”。オルガ達の歴史の上では300年前に起きた終末戦争とされているもの。しかし、この宇宙においても繰り返される輪廻の終末戦争。そう邪霊機の少女が語ったものでもある。

 故に、その言葉は彼らにとっても無視できるものではなかった。

 

カムイ

「私達ゲッターアークは戦いの中で“厄祭戦”……。未来の人類が経験することになる、宇宙規模の戦いの渦中に巻き込まれることになった。その中心にあったのが、ゲッターエンペラー」

竜馬

「!? エンペラーだと……!」

カムイ

「ああ。私達の経験した“厄祭戦”においてエンペラーは、人類の守護者であると同時に宇宙の破壊者。人類は宇宙全てを淘汰し、ゲッターで破壊の限りを尽くす、宇宙全てに恐怖をもたらす悪魔と化してしまっていた」

ユウシロウ

「……………………」

 

 宇宙を破壊する悪魔。“恐怖”を呼び起こすもの。それは竜馬達の知る……早乙女博士の開発した戦闘母艦としてのエンペラーと詳細は違うがしかし、エンペラーが行き着く未来として十分な実感を竜馬に伴わせる。

 

槇菜

「じゃああの神様は、ゲッターがそうなっちゃう可能性のことを言ってたの……?」

「だろうな。そして俺達は“厄祭戦”を見届けた後、自分達の世界に戻り……ゲッターを宇宙の破壊者にさせないために、新しい未来を手に入れる為の旅を始めたんだ」

 

 それこそが、ゲッターアークがこの世界に現れた理由。

 

カムイ

「…………エンペラーの特異点から脱したことで、この宇宙のゲッター線は新しい進化の可能性を獲得した。それと同時に、エンペラー抜きで人類は“発動”を乗り越えねばならなくなった」

ハーロック

「そこだ。あの敵も言っていたが“発動”とは何のことだ?」

 

 ハーロックは、射抜くような眼光でカムイを見据えていた。彼が嘘を言っているようには見えない。しかし、全ての言葉を信用するには、まだ情報が足りていない。

 

鉄也

「どうも『巨神』と関係があるような素振りをしていたが、どういうことだ?」

カムイ

「……“発動”とは、無限力による死と再生。宇宙をリセットし、輪廻させる力の発露。そして、その力の器こそが『巨神』。イデオンと呼ばれるものだ」

 

 死と再生。宇宙の輪廻。カムイの語るそれは荒唐無稽でありあまりにも壮大だった。しかしそうでありながら、そこにはある種の現実感を伴っている。

 

槇菜

「……あの時、“厄祭戦”の墓場で私達は、『前の宇宙』の“厄祭戦”を見た」

鉄也

「ああ。その中にはヤマトのゴッドマジンガーや、俺たちの知らないマジンガーZ。それにゲッターの姿もあった」

 

 宇宙そのものが輪廻転生を繰り返し、その記憶が集積されていく。エクス・マキナが時折示す反応や、ゴッドマジンガーの記憶。それらが『前の宇宙』と呼ぶべき宇宙の前世での出来事であり、イデオンと呼ばれる巨神もまたエクス・マキナやゴッドマジンガー同様、その輪廻を越えて存在し続けているとしたら。

 

ユウシロウ

(……俺とミハルの、嵬の記憶。それも輪廻の蓄積なのか?)

ミハル

「…………」

 

 “厄祭戦”の映像の中で、月に蔓延る骨嵬の軍団がガンダム・バエル率いるガンダム・フレーム達と戦う映像をユウシロウは見た。即ち、骨嵬……ガサラキの記憶を引き継ぐ嵬の乗り物であるそれも、繰り返す宇宙の輪廻を越えて存在しているのかもしれない。

 無論、答えはない。故にユウシロウは月に問いかけることしかできない。しかし、今まで燻っていた多くの疑問がここにきて、ひとつの解……その指針を導き出していることは事実だった。

 

カムイ

「……あなた達の言う『巨神』が私達の知るイデオンと同一のものであるならば、この宇宙にも“発動”……そして、そのトリガーとも言うべき“厄祭戦”が迫っていることになる」

ハーロック

「……………………」

 

 宇宙の輪廻を司る神。俄かには信じられなかった。しかし、ハーロック達が今まで見て経験してきた全てが、カムイの言うことを肯定する。

 

トチロー

「もし、そいつが本当なら“発動”とやらは、『巨神』を倒せば止めることができるのか?」

エイサップ

「そうです。あなた達は、一度その“発動”を阻止したのでしょう?」

カムイ

「わからない」

 

 カムイは即答する。しかし、その回答はトチローの望むものではなかった。

 

ショウ

「わからないって、どういうことだ?」

カムイ

「私達が経験した“厄祭戦”では、イデオンとゲッターエンペラーが運命を共にし、対消滅した。それを“倒した”と表現していいのか、それともイデオンの無限力とゲッターエンペラーの無限力がぶつかった結果、全く違う何かに変質したのか……。その答えを私達は持っていない」

 

 ともあれ拓馬、カムイ、獏の3人は未来で起こった“厄祭戦”を生き延び……この宇宙へと流れ着いたという。

 

カムイ

「……私は、恐ろしかった。ゲッターエンペラーの加護の下、全てを破壊し生命を奪う侵略者と化した人間が」

トチロー

「…………そうか」

 

 トチローは、そこについては何も訊かなかった。宇宙の破壊者と化したゲッターへの恐怖。かつて侵略者イルミダスに愛する地球を占領されたトチローには、痛いほどわかる。

 それでもゲッターに乗り旅を続け、竜馬達のゲッターを守るために戦ってくれた。それだけで、カムイの決意は伝わった。だから敢えて、それ以上追及する必要はなかった。

 

トチロー

「お前さん達も、苦労したんだな」

 

 トチローができるのは、そんな彼らに労いの言葉をかけることだけだった。

 

カムイ

「……」

 

 トチローの屈託ない笑みと言葉に、カムイは虚を突かれたように口をポカンと開ける。

 

カムイ

「……警戒しないのか、人間とハチュウ人類のハーフである私を」

トチロー

「ハチュウ人類ったって、同じ星で生まれてるし言葉だって話せるんだろ。そりゃあパッと見はびっくりするが、こちとら宇宙海賊だ。いろんな見た目の人を知ってるよ」

 

 冗談っぽく言うトチロー。

 

オルガ

「まあ、そうだな。アロサウルス星人のラ・ミーメさんなんか、身体全体が金色に光ってる」

マーガレット

「前に聞いたわ。アロサウルス星人の身体は全体が水とアルコールの化合物でできているから、そう言う肌の色になるって」

 

桔梗

「……本音を言うと貴方の肌の色や鱗は少し怖い。だけどそれは、貴方を奇異の視線で見たり、不当に扱うことを正当化する理由にはならない」

 

 桔梗は感情と、理性を整理しながら口にする。それは、桔梗自身の感じる本能的な差別意識を理性で受け入れ、そして律することでカムイを仲間として受け入れようと意識してのことだった。

 

カムイ

「…………」

「大丈夫だカムイ。この人たちは信頼できる」

 

 静かに、諭すように言う獏。カムイは小さく頷くと、改めてキャプテンハーロックへと向き直る。

 

カムイ

「あなた達が『巨神』と戦うなら、それが“発動”を食い止める道に繋がるはずだ。我々の戦い……ゲッター線に関わる者の運命を越えるための戦いにおいても、『巨神』の存在は避けられない」

「だから、しばらくの間俺達も仲間に入れてくださいよ」

 

 坊主頭を掻きながら巨漢の少年……山岸獏はそう、屈託なく笑う。それは、人好きのする笑顔だった。

 

ハーロック

「……わかった。お前達の決意。そして旅の意味は聞かせてもらった。誰のためでもない。自分自身の信じるもの、胸の中にあるもののために戦うお前達だから、俺たちと道を交えたのだろう」

 

 運命を越えるための戦い。それは広大な広い宇宙の中で、遠き理想郷を探す旅を続けたハーロックにとって、他人事のようには思えない長く、果てしない道のりを想像させた。

 生まれた世界が違えど、彼らがハーロックにとっても友であるゲッターチームと同じ宿命を、そして血統を持っているというのも、理由だったのかもしれない。ともかく、キャプテンハーロックは既に、カムイと獏。それに今神隼人の面倒を見ている流拓馬を既に同志と認めていた。

 

ハーロック

「我々は今、木星へ向かう手筈と戦力を整えている。そして、それまでの間に地球圏に抱えている敵……ミケーネ帝国の火山島基地を破壊するのが、当面の目的だ」

「ミケーネ帝国……。あの時メカザウルスを操ってた奴らか」

桔梗

「ええ。それに関連して、今極東基地で会議が行われているはずよ」

 

 この世界の問題も山積みになっている。それらを早急に片付け、木星へ出発する。それがVBの、当面の方針だった。

 

鉄也

「特に大きな敵がミケーネ帝国と、『巨神』を有する木星軍だな」

桔梗

「それに、木星軍に協力しているヌビア・コネクション。ヌビアはパブッシュ艦隊にも出資していたことを考えると、同じようにパブッシュと同盟していた“シンボル”も、何かを仕掛けてくるかもしれない」

竜馬

「それだけじゃねえ。ゾーンの野郎も結局、雲隠れしたままだ」

マーガレット

「あの子。邪霊機に乗るライラと、紫蘭も“厄祭戦”について何か知っている風だった。どうあれ衝突は避けられない」

 

 現在、この世界にはこれだけの危機と陰謀が跋扈している。その中心にあるのはミケーネ帝国と、木星軍。それは誰もが一致する見解だった。

 

ハーロック

「マチュ・ピチュのフィールドワークに出たルー博士とヤマト、アイラ姫が戻り次第我々も出立する。いいな」

 

 ハーロックがそう言った、その直後だった。アルカディア号の通信設備がひとつの周波数をキャッチし、モニタに映される。そこに映っていたのは金髪の美青年。アラン・イゴールだった。

 

アラン

「こちらバンディッツ。アルカディア号応答されたし」

ハーロック

「こちらアルカディア号。どうした?」

 

 一瞬、モニタに映るアランの顔にノイズが走った。ミノフスキー粒子の影響だろう。しかし、濃度はそう高くなかったようですぐに映像は正常なものへと戻る。

 

アラン

「2つ、伝えなければならんことがある。1つは先程、極東基地がヌビア・コネクションの襲撃を受けた」

マーガレット

「何ですって!?」

 

 極東基地は、ムゲ・ゾルバドス帝国との戦いで獣戦機隊の前線基地として活躍した国連軍の秘密基地だ。四方を海に囲まれ、易々と手出しは出来ない立地と防衛機能を有している。そこを一回のマフィア・コネクションが襲撃したというのは、俄かには信じがたい。

 

アラン

「ヌビアは俺と、科学要塞研究所から出向していたVBの残りメンバーで対応し基地そのものは無事だ。だが、結果として極東基地司令ロス・イゴールが重症。生死の狭間にあるというのが現状だ」

 

 アランの瞳が一瞬、躊躇いと悔恨に淀んだ。それをハーロックの鷹のような眼光は見逃さない。

 

槇菜

「イゴール……って」

 

 槇菜の呟きに、答えるものはいない。しかし、やがてアランが静かに口を開く。

 

アラン

「……俺の、父だ」

 

 アランの声がどこか、震えているように槇菜には聴こえた。

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