スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第28話「獣を超え、神を超え、出よ最後の戦士 ファイナルダンクーガ!」

─クイーン・エメラルダス号─

 

 

 

 青い船体に髑髏の旗を掲げた海賊戦艦クイーン・エメラルダス号。アラン・イゴールとその仲間達は今、その艦に乗船し、任務に当たっている。VBの分隊として、隠密にミケーネ帝国の火山島基地を発見する。目下の脅威と戦い続ける本隊の負担を少しでも減らすため、この任務は必要不可欠のものだった。

 

エメラルダス

「……では、そのポイントが敵の火山島基地で間違い無いのですね」

アラン

「ええ。我々バンディッツの情報網にようやくヒットした。まず間違いなく、ミケーネの火山島基地でしょう」

 

 スクリーンに映し出される島。その映像には、ミケーネの無敵要塞デモニカが飛び立つ場面がありありと映し出されている。

 

キンケドゥ

「ここに、セシリーが……」

アラン

「確証はないが、可能性は高い。問題はこの火山島基地だが、相当の防衛戦力を有していることだ。現地に潜入したフランシスが言うには、戦闘獣だけでなく機械獣やメカザウルスのプラントにもなっているらしい」

アレンビー

「まさに、前線基地ってわけね」

 

 しかし同時に、地下深くに眠っていたミケーネ帝国がここまで迅速な動きを可能としたのも、この火山島基地の存在が大きく関与していることは疑いようのないものだった。

 

エメラルダス

「アルカディア号は現在、マチュ・ピチュに向かっているとの情報を得ています。アルカディア号が任務を遂行した後、我々が先に火山島へ襲撃する。そして敵の戦力を削ったのちにアルカディア号と合流。全戦力で基地を攻略するというのはどうでしょう?」

アラン

「私も、同じ考えです。このクイーン・エメラルダス号はアルカディア号と同等の戦闘力を有している。この艦の戦力ならば、奇襲をかけるのに十分と思います。問題は敵の無尽蔵な攻撃をどう掻い潜り撤退するかですが……」

 

 率直に、アランは答える。クイーン・エメラルダス……『B世界』においてキャプテンハーロック。それに大山トチローと友誼を結び、自由の旗の下に戦った女戦士を前にしても、彼は動じることはない。戦友として当然の敬意と、忖度ない言葉にエメラルダスはフッと笑う。

 

エメラルダス

「それに関しては問題ありません。引き際を見極めるのはアラン。お前に一任します」

アラン

「……了解しました」

 

 故にエメラルダスもまた、アラン・イゴールという男を信頼していた。政府組織に表立っては属さず、独自の情報網でこの世界の危機を察知し、それに立ち向かうチーム……VBの成立に誰よりも貢献したこの男を。

 

キンケドゥ

「そういえばアラン。兜博士から送られてきた(ゼウス)の雷計画に関してはどうするんだ?」

アラン

「我々もアルカディア号と合流し木星軍との戦いにあたる。だが、その前に地球圏の問題を解決しなければならん。そのために……ある男の助力を得ようと思っている」

キラル

「ある男?」

アラン

「西田啓。日本の国学者にして、おそらくパブッシュのクーデターにも関与のある男だ」

 

 そう言って、アランはデスクの上に資料を並べていく。西田啓という人物に関する経歴や思想。それに彼の影響力。それらあらゆるデータが紙面には記載されている。

 

エメラルダス

「……クーデターに関与した男の協力を得るのですか?」

アラン

「西田の望みは、日本をかつての精神的に豊かな国へ取り戻すことです。その為の第一歩として、コロニーからの支配を脱却すべくクーデターに手を貸していました。ですが、地球規模の危機を前にすれば間違えない。そう信じています」

 

 アランが入手した情報によれば、マキャベルのクーデターが強行された後、西田は東京湾でのオーラバトラー事件を経て自身の屋敷で謹慎しているという。だが、その影響力は未だに健在。マキャベル失脚後の地球圏は、既に多くの火種を抱えている。世界中のマフィア・コネクションがこの混乱の中で相手を出し抜こうと画策しているはずだ。そして、そのような状況を抑える力は今の国連軍にはない。

 

キンケドゥ

「……それで、その西田って人を説得してこちらの協力者になってもらおうってことか」

アラン

「ああ。既に雇ったネゴシエイターが西田の下に向かっている。彼はアメリカ人だが、仁義を重んじる彼の性格は西田氏にとっても好ましい人物のはずだ」

 

 アランの雇ったネゴシエイターは、予定では今頃西田氏と面会している頃合いになる。地球での諸問題に関し、西田を動かす事ができるのならば、今後VBは木星軍の『(ゼウス)の雷』計画阻止に専念することができるだろう。

 

キンケドゥ

「……だが、俺達が木星軍の相手をするとなれば、ミケーネ帝国だけは今のうちに叩かなければか」

アラン

「ああ。故にこの火山島基地攻略は急務となる。……何だ?」

 

 アランがそう言って、一呼吸置いた次の瞬間だった。クイーン・エメラルダス号が、ひとつの暗号通信をキャッチする。バンディッツ内部で使われる独自の暗号文だ。印刷された暗号文に目をやるアラン。するとアランの表情はたちまち深刻なものへと変わっていく。

 

エメラルダス

「……どうしました?」

アラン

「……極東基地が、敵の襲撃を受けている」

キンケドゥ

「何だって!?」

 

 国連軍極東基地。かつてのムゲ・ゾルバドス帝国との戦いの最前線基地でもあった獣戦機隊の本拠地であり、科学要塞研究所と共にVBの母体でもある軍事基地。

 

アレンビー

「襲撃? 科学要塞研究所じゃなくて?」

 

 アレンビーが怪訝な声を上げる。VBとしての前線基地はむしろ、科学要塞研究所の方が表向きその傾向が強い。現に今も、アルカディア号に乗艦していない半数のメンバーは科学要塞研究所で待機しているはずだった。戦略的な価値で言えば、科学要塞研究所の方が高いと言っても過言ではないはずだ。

 

アラン

「……そうか。敵の狙いはガンドール!」

エメラルダス

「ガンドール?」

 

 エメラルダスが訊く。

 

アラン

「極東基地が所有する機動戦艦……我々の切り札だ。今ガンドールを失えば、木星軍との決戦において大きな痛手になる」

キラル

「……聞いたことがあるな。ムゲとの戦いにおいて、天翔る竜がその姿を現したと」

 

 今ガンドールを……そして極東基地を失うわけにはいかない。アランは通信回線を開き、科学要塞研究所へと繋げる。

 

アラン

「科学要塞研究所、応答しろ。現在、極東基地が敵の攻撃を受けている! 繰り返す、応答しろ!」

 

 暫くの間、流れたのはノイズだった。しかし数秒の後、途切れ途切れだが音声をキャッチしはじめる。平時なら、現代の通信回線においてここまで時間を要し、荒い回線になることはあり得ない。ましてや科学要塞研究所はその名の通り最先端の科学技術の粋を集めた要塞だ。それが起きていると言うことは。

 

アラン

「ミノフスキー粒子が、戦闘濃度まで散布されている……?」

 

 それはつまり、今科学要塞研究所もまた戦場となっているということ。やがて炎ジュンの声が、アラン達の耳へと届く。モニタ内にも、荒い解像度の研究所内の映像が映し出された。

 

ジュン

「こちら科学要塞研究所。現在、謎の敵から攻撃を受けているわ。アムロさんや獣戦機隊が応戦してくれてるけれど……」

アラン

「やはりか。こちらの情報網から、極東基地も同じような襲撃を受けているとの情報が入った」

 

 アランがそう告げると、「なんだって!」という声を荒げた忍の声が返ってくる。しかし、間髪入れずに敵のものと思われる激しいミサイルの音が、その後の忍の言葉を遮る。

 

アラン

「藤原……!」

キラル

「どうやら、この襲撃は入念に計画されたもののようですな」

 

 キラル・メキレルはその盲目の瞳で何かを見つめるように、静かに呟く。

 

アレンビー

「このままじゃまずいよ。アラン、助けに行かなきゃ!」

アラン

「…………ああ。だが、今クイーン・エメラルダス号は火山島基地を張れるこのポイントから離れるわけにはいかない」

 

 火山島基地には、フランシス他数名のバンディッツが潜入している。彼らは特殊部隊として訓練を受け、ムゲ戦争やデビルガンダム事件を生き抜いた手練だ。しかし、相手はミケーネ帝国。根本的に人間と違う倫理観を持っている敵の下に潜入しているとあれば、その危険度は人間の軍やマフィア・コネクションを相手にするのとは次元が違う。

 相手は人間を虫か何かでも殺すように簡単に殺してしまえる力と残酷さを持っているのだ。彼らが速やかに火山島を脱出した後、クイーン・エメラルダス号は彼らを救助するという任務がある。

 

キンケドゥ

「となれば、今から救援に迎えるのは単独での飛行能力があり、極東基地へひとっ飛びできるマシンだけか」

 

 つまり、今クイーン・エメラルダス号にそんな機体はアランのブラックウィングしか存在しない。

 

アラン

「俺が行く。エメラルダス号は科学要塞研究所、並びに極東基地へコンタクトを続けてくれ」

 

 そう言うと同時、アラン・イゴールは駆け出していく。その背中にはどこか、焦りのようなものが見え隠れしていた。

 

アレンビー

「アランの奴、ちょっと様子おかしくない?」

キンケドゥ

「……前に聞いたことがある。極東基地のロス・イゴール長官は、アランの親父さんなんだそうだ。軍人としての考え方の違いで仲違いしたそうだが……」

 

 キンケドゥには、アランの焦りがわかる。かつて、シーブック・アノーという少年は戦乱の最中で父を失った。母が仕事にかまけて家を空けてばかりいたアノー家で、父はまだ幼い妹のリィズと、シーブックのために尽くしてくれていたと言っても過言ではない。

 そんな父は自分を守るために戦って、コスモ・バビロニアのモビルスーツにやられたのだ。あの光景は今でも、たまに夢に見る。

 

キンケドゥ

(父親に、あんな形で死なれたらたまったもんじゃない。間に合えよ、アラン……!)

 

 キンケドゥの視線は、飛び立ったブラックウィングに注がれていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

─科学要塞研究所─

 

 

 アランからの通信を受けたその時、既に科学要塞研究所は敵の奇襲を受けていた。敵はギラ・ドーガタイプのモビルスーツに加え、小型の陸上歩兵。それらを中心とした部隊。

 

村井

「敵機確認。ネオ・ジオン製モビルスーツと、べギルスタンで確認したTAの混成部隊です!」

 

 オペレーターを務める特務自衛隊の村井

中尉。特自のTA部隊も今はユウシロウを除き全員が科学要塞研究所の防衛に回っている。

 

安宅

「どうしてあいつらがここに来るの!?」

北沢

「わかんねっすよ!」

 

 防衛に出撃したロボット部隊。しかし、TA部隊はギラ・ドーガのパワーを前に窮地に陥っていた。

 

速川

「TAのパワーが上がらない?」

鏑木

「はい。以前の、暗黒大将軍との決戦時に比べると……」

 

 安宅、高山、北沢の一小隊。その練度は決して悪いものではない。むしろTAの操縦において、彼らはスペシャリストだ。ひとつ、以前と違うことがあるとすれば。

 

速川

(豪和大尉の存在か……)

 

 安宅から、鬼哭石での出来事やそれに付随する豪和ユウシロウの話は聞かせてもらっていた。そこから推測するに、豪和はあの骨嵬を復活させるための一歩としてTAを開発した。そしておそらく敵……“シンボル”も。

 TAの性能を引き出すことで、周囲のTAも性能を飛躍的に上昇させる昨日相転移が起きる兆候が見えない。この現象は常に、豪和ユウシロウが引き出していた。

 

速川

(やはり、TAは豪和大尉のために作られたものなのか……!)

 

 

 

カミーユ

「どうして、どうしてこんな時に人間同士で戦争なんかやってるんです!」

 

 カミーユ・ビダンの感情が発露し、Zガンダムのハイパー・メガランチャーが火を吹く。彼の眼前に現れた敵……以前、べギルスタンで交戦したTAとよく似たメタルフェイク・イシュタルMK-Ⅱはメガ粒子の波動を直撃させ、爆発する。

 

ジョルジュ

「どうやら、敵は“シンボル”のようですが……」

アルゴ

「解せんな」

キッド

「ああ。例のクーデター艦隊が解体された今、どうして“シンボル”が動く必要があるんだ?」

サイ・サイシー

「ミハル姉ちゃんを返してほしいっていうんなら、生憎ミハル姉ちゃんは留守なんだよ!」

 

 ドラゴンガンダムの伸縮自在の両腕が、フェイク部隊を囲むように伸びる。そして、両腕から放たれる火炎が敵機を蒸し焼いていく。

 

トビア

「頼むから、脱出しててくれよ!」

 

 ピーコック・スマッシャーで次々と敵を撃墜していくクロスボーン。だが、敵の動きが妙であることを既に、トビアは気づいていた。

 

 “シンボル”。歴史の闇に潜む秘密結社。彼らはパブッシュ艦隊のエメリス・マキャベルと同盟を結び……いや、マキャベルという存在を隠れ蓑に今まで、裏方に徹していた。彼らが表立って行動する時はいつも、後から考えればガサラキに関わることばかり。べギルスタンの紛争や、豪和総研への襲撃。ユウシロウとミハルという二人の嵬が一緒になったことで、その事実が浮かび上がっている。

 

アイザック

(彼らの情報網ならば、今ここにミハルとユウシロウがいないことくらいは既に判明しているはず。なのに何故、“シンボル”は科学要塞研究所を狙う?)

 

 アイザック・ゴドノフは思考する。その間にもブライガーは、ブライスピアの一閃でギラ・ドーガを真っ二つにしていた。J9は情け無用。トビアやジュドー達のように、できれば急所は外そうなどと彼らは考えない。悪党には、死あるのみ。

 

アイザック

(“シンボル”……パブッシュ艦隊。Mr.ゾーン、豪和……そして、その全ての裏に潜むもの!)

 

 彼が一つの仮説に思い至った時。科学要塞研究所へコールサインが鳴り響く。オープンチャンネルにしていた各機にも、それはしっかりと伝わっていた。

 

アラン

「科……塞研究所、応答しろ。現在、…………が敵の……………………いる! 繰り返す、…………しろ!」

 

 ノイズに塗れた声。しかし、それがアランのものであり、必死に何かを伝えようとしていることはミノフスキー粒子の影響下でも理解できる。科学要塞研究所の天上に備えられた高度のアンテナが回転し、ミノフスキー粒子の影響の薄いポイントを探り始めた。それから数秒、アランの声が少しずつ鮮明なものへと変わっていく。

 

アラン

「繰り返す。現在、極東基地が敵の攻撃を受けている!」

 

「なんだって!?」

アイザック

「そういことか!」

 

 忍の怒声。そして、アイザック・ゴドノフは真実に辿り着いた。

 

ボウィー

「おいおいアイザック。今ので何かわかったの?」

アイザック

「ああ。現在極東基地では、エメリス・マキャベルとの司法取引が行われている。だが……それを快く思わないものもいるだろう。パブッシュ艦隊に協力する見返りとして、己の野望を成そうとしていた者達だ」

 

 アイザックの脳裏に浮かぶのは、蛇のような笑みを湛えた不気味な男。

 

シャア

「カーメン・カーメン……。君達の言うヌビア・コネクションとやらの総帥か」

沙羅

「冗談じゃないよ。極東基地は私たちにとって、故郷も同じなんだ!」

雅人

「そうだよ! それに今は、葉月博士とローラもそっちに行ってるじゃないか!」

 

 科学要塞研究所に出向していた葉月孝太郎博士と、その養女のローラは今、(ゼウス)の雷計画を阻止するための切り札を起動するため、極東基地へと戻っている。そのタイミングでの襲撃。博士やローラの身に何かあったらと思うと、雅人はいても立ってもいられない。

 

「……そういうことか。こいつらは俺達への足止め。奴らの本命はガンドールだ!」

 

 エウロペ・ドゥガチ曰く、木星帝国の地球での動きには、背後にヌビア・コネクションの影があるという。そして、ヌビアは“シンボル”と同様にパブッシュ艦隊を隠れ蓑としていた。そこから導き出される答えはひとつしかない。

 

シャア

「“シンボル”もまた、木星軍の動きに同調していると?」

アイザック

「おそらくは。或いは“シンボル”すらもカーメン・カーメンに利用されているのかもしれません」

 

 しかしそうであるならば、やることは決まっている。

 

アイザック

「キッド、ブライスターだ。最高速で極東基地へ急ぐ!」

キッド

「了解! ブライシンクロン・アルファ!」

 

 ブライガーがサイズを可変させ、航空機形態ブライスターへ変わる。今、この場で機動力と推進力、そしてパワーを併せ持つブライガーがやるべきことはひとつ。

 

アイザック

「ハリソン大尉。我々は極東基地へ向かいます」

ハリソン

「了解した。獣戦機隊も行け!」

 

 現場指揮官のハリソン・マディンは青いF91のビーム・サーベルで敵モビルスーツを斬り裂くと同時、ダンクーガは指示を送る。

 

沙羅

「いいのかい? ブライガーだけじゃなくダンクーガまで抜けたら」

 

 現在科学要塞研究所に残っている戦力のうち、圧倒的なパワーを有するスーパーロボットはブライガーとダンクーガの2機。相手がモビルスーツとメタルフェイクの混成部隊とは言え、スーパーロボット2機が持ち場を離れるとなれば、隊列は大きく見直さざるを得なくなる。

 

ハリソン

「大丈夫だ。このメンバーはそういう不測の事態には慣れている」

ドモン

「ああ。早く行ってやれ」

東方不敗

「この程度の敵ならば、ワシ一人でも十分よ!」

 

 ゴッドガンダムとマスターガンダムの超級覇王電影弾が次々と敵を薙ぎ倒し、撃ち漏らした敵を研究所の上に鎮座するジョンブルガンダムが狙撃していく。さらにサザビー、νガンダム、ダブルゼータ、ゼータといった英雄達もシャッフル同盟に全く引けを取らない。

 それに、何よりも。

 

「彼らなら大丈夫だ。急ぐぞ忍!」

「おう! イゴールの親父、俺達が行くまでくたばるんじゃねえぞ!」

 

 獣戦機隊。彼らは野生のままに力を解放するその時こそ力を発揮する。大事な仲間の危機とあって、それに目を瞑り隊列を守らせるよりも。

 

ハリソン

「獣戦機隊、それにJ9! 兜博士も葉月博士も、それにイゴール長官も未来のために必要な人物だ。絶対に助け出してくれ!」

「おう! やってやるぜ!」

 

 ブライスターを追い、ダンクーガも飛行ブースターを最大に噴かし上昇していく。風を切り、加速するダンクーガ。その雄々しき姿に賭けるべき。そう、ハリソンは確信していた。

 

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 

─国連軍極東基地─

 

 

 アランからの連絡がアルカディア号に齎される数時間前。極東基地にはロス・イゴール長官と葉月博士。それに科学要塞研究所の兜剣蔵博士が集まり、エウロペ・ドゥガチによりもたられた木星軍の計画……。即ち「(ゼウス)の雷計画」を前にして、ある男との司法取引が行われようとしていた。

 その男は両手こそ拘束されているものの仕立てのいいスーツを纏う、恰幅のいい巨漢の紳士だった。エメリス・マキャベル。パブッシュ艦隊の責任者であり、多数の核兵器と軍事力を背景に地球の鎖国とコロニー国家からの独立を宣言した男。

 

マキャベル

「アレックス。この場を設けたのはお前か?」

 

 マキャベルは、彼の隣に立つ金髪の軍人へ訊く。アレックス・ゴレム大佐。彼はパブッシュ艦隊において実務の中心を担い、アレックスの側近だった。そしてマキャベルを更迭に追い込んだ男。

 

アレックス

「……司令。確かに我々は袂を分かちました。ですが、あなたが当初に掲げた理念。即ち地球の自立を促すというものに感銘を受けたのも事実です」

マキャベル

「フン……」

 

 更迭された今、マキャベルにパブッシュ艦隊の実権はない。しかし、パブッシュ艦隊が彼のカリスマと長い年月をかけた根回しで作られたものであるということも事実だった。

 やがてマキャベルは、ひとつの部屋に通される。会議室のようなその部屋にはマキャベルのために用意された椅子と、向かい側には無骨な雰囲気の軍人……ロス・イゴール長官。それに葉月博士と兜剣蔵博士の3人が座っていた。

 

イゴール長官

「エメリス・マキャベル……。久しぶりだな」

マキャベル

「イゴールか……。ムゲとの戦争では随分、活躍したらしいじゃないか」

 

 最初に交わされた言葉は、旧友との再会の挨拶。しかしそこにあるものは決して、友好的な視線ではない。二人の間にどのような友情があり、そしてどのような確執があるのか。それを知るものもここにはいなかった。

 

イゴール長官

「マキャベル。単刀直入に言う。パブッシュの貯蔵する核兵器。それを我々に譲ってもらいたい」

マキャベル

「……何?」

 

 怪訝な目をイゴール長官へ向けるマキャベル。無理もない。核兵器は極東基地が所有するスーパーロボット・ダンクーガとはわけが違う。一度撃てばどう使おうと悲劇を起こす代物に他ならない。ダンクーガだけでなく、組織間の協力体制を経て多数のスーパーロボットや、オーラバトラーを始めとした超兵器を保有する特殊部隊VBを管轄に置いている中で、さらに核兵器まで手中に収めるとなれば。

 

マキャベル

「イゴール貴様、世界の支配者にでもなるつもりか?」

 

 そのような目を向けられても、不思議なものではなかった。

 

剣蔵

「待ってください。イゴール長官はそのような

……」

イゴール

「兜博士」

 

 剣蔵の抗議の声を、イゴールは制す。

 

イゴール

「マキャベル。木星軍が地球への長・長距離攻撃を画策しているという情報が入った。それを阻止するための戦力を我々は集めている」

マキャベル

「……何?」

 

 木星軍。その言葉にマキャベルはピクリと反応しイゴールを睨む。その視線を受け取りイゴールは、ニヤリと笑った。

 

イゴール

「以前、月面のゾルバドス軍基地跡に木星軍が長距離レールガン……奴らの呼称ではダインスレイヴキャノンによる地球への直接狙撃を試みたという事件があった。幸い、VBの分隊がその作戦を阻止する事はできたが、いくつか気掛かりなことがある」

マキャベル

「……………………」

イゴール

「ひとつは、ダインスレイヴキャノンの防衛に参加したモビルスーツの中に、『B世界』の機体があったこと。それに、ダインスレイヴという長距離マスドライバーも元々は『B世界』で使われた兵器だという」

 

 淡々と、事実を重ねていくイゴール。『B世界』……竜馬やハーロック、それに鉄華団が守った地球でギャラルホルンが使った兵器の数々を木星軍が所有しているという事実は無視こそできないが、この場において重要なものではないように一見すれば聞こえた。しかし、

 

マキャベル

「……イゴール、貴様何が言いたい?」

イゴール

「お前の艦隊には、『B世界』出身の技術者フェーダー・ゾーンがいたはずだ。そしてゾーンは艦隊の停止命令を聞かず、現在も独自の行動を続けている」

マキャベル

「……………………」

 

 遠回しに、ゾーンの暗躍に言及するイゴール。マキャベルの額に冷たい汗がジワリと滲み出ているのを、隣に座るアレックスは見逃さなかった。

 

アレックス

「まさか、司令……」

 

 フェーダー・ゾーンの暗躍。そこにエメリス・マキャベルの関与を追及されている。ダインスレイヴキャノンによる地球への狙撃。それはパブッシュ艦隊が地球独立宣言を掲げる口実として十分なものだった。そして事実、マキャベルはダインスレイヴキャノン事件の直後、パブッシュの独立宣言を全世界に発表している。その手際は鮮やかすぎると言っていい。まるで誰かと、示し合わせたかのように。

 

マキャベル

「……脅迫のつもりか。イゴール」

イゴール

「そう取ってくれて構わん。だが、パブッシュには未だお前を信奉する士官が多く残っているのも事実だ」

 

 その状況を差し置いて、マキャベルをただ罪人として処断するより司法取引に持ちかけた方がいい。ロス・イゴールはそんな駆け引きのできる男だった。冷たく重い静寂が、その場を満たす。マキャベルとしても、テロリストに加担することでテロリストとの戦いを謳ったマッチポンプが知れ渡るのは大きな痛手だ。世間に知られれば、おそらくマキャベルのキャリアは、人生は二度と再起できるものではなくなるだろう。それだけではない。

 

マキャベル

(どの道、このままでは“シンボル”とヌビア・コネクションが黙っていない。奴等は何れワシを始末しに来る。それならば……)

 

 身柄の保護と引き換えに、イゴールの提案を呑むのが最も賢い処世術であると理解していた。

 

マキャベル

「わかった。イゴール、お前の提案を……」

 

 エメリス・マキャベルがそう言いかけた次の瞬間のことだった。マキャベルの巨体が、グラリと揺れる。

 

葉月

「ム……?」

アレックス

「司令……?」

 

 それは、あまりに不可解な動きだった。まるで、一瞬で身体全身が硬直と弛緩を繰り返しているかのような……。

 

マキャベル

「グ、グォ……」

 

 そんな言葉とも呻きともつかない声を漏らしたマキャベルは、口から泡を吐きそのまま力なく後ろへ倒れていく。それはあまりにも常軌を逸した動きだった。

 

アレックス

「し、司令!?」

 

 マキャベルが倒れた直後。彼のスーツの裏で何かが蠢いた。うねうねと蠢き、顔を出したのは猛毒のコブラ。

 

葉月

「これは……!?」

 

 当然、この極東基地やその周辺にコブラなど生息していない。このコブラは野生のものが紛れ込んできたわけでは断じてない。

 そうなると、可能性はひとつ。何者かが暗殺のためにコブラを差し向けたということだ。

 

アレックス

「暗殺用コブラ……まさか、カーメン・カーメンか!」

 

 カーメン・カーメン。ヌビア・コネクションを若くして手中に収めた新総帥。彼が得意とする要人暗殺手段の一つが、コブラである。

 コブラはするすると、逃げるようにマキャベルの身体から離れていく。そして、自分が注目されていることに気付くと舌と牙を見せて威嚇のポーズを取る。

 

イゴール

「マキャベル!」

アレックス

「クッ!」

 

 咄嗟に銃を抜くアレックス。乾いた破裂音が2、3回鳴ると同時、彼の正確な射撃がコブラの頭部を撃ち抜いた。それを見た直後、葉月博士がマキャベルへ駆け寄り脈を取る。

 

イゴール

「博士!」

葉月

「……………………」

 

 首を横に振る葉月。それが何を意味することか、その場の誰もが察する。

 

アレックス

「なんてことだ……」

葉月

「長官、ヌビアの狙いがマキャベルだけであるとは考えられない。恐らくは……」

 

 葉月博士がそう言った直後、耳を裂くようなサイレンの音が、基地全体に響き渡った。

 

イゴール

「何事だ!」

職員

「敵襲です! 上空よりロボット部隊。こ、これは……!」

 

 剣蔵が窓を見やると、それは肉眼でも確認することができた。研究所へと降り掛かる小型の蜂型ロボット。そして、パラシュートで降下する人型機動兵器。人型の脚。その踵の部分にキャタピラを装備した迷彩柄のマシン。

 

剣蔵

「シグルドリーヴァだと……?」

 

 シグルドリーヴァ。マーガレット・エクスが愛機としたヴァルキュリアシリーズ。開発計画そのものが抹消されたはずの幻の機体。その量産型モデルが、極東基地の大地に足を踏み入れていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 その機体は、サングリーズという名前が与えられていた。ヴァルキュリアシリーズ。戦車の延長線上にあるキャタピラを内蔵した脚部と、ビームコーティング。そして多数のミサイル兵器を内蔵する重装歩兵。かつてマーガレット・エクスが愛機としたシグルドリーヴァ。彼女が出会った時には最後の一機とされたヴァルキュリアには、隠し子が存在していたのだ。

 

アレックス

「まさか、完成していたのか……」

 

 アレックスが呻く。

 

葉月博士

「ゴレム大佐、何か知っているのですか?」

アレックス

「ええ。Z&R社のヴァルキュリアシリーズと、フレンモント・インタストリー社のアサルト・ドラグーン。国連軍の次期主力機候補だったこれらの開発が凍結したのは、日本のある企業が自社の新型をトライアルするために、圧力を与えたからだと聞いています」

葉月博士

(豪和インスツルメンツの、TAか……)

 

 しかし、それは今ここに迫る戦乙女への説明にはなっていない。葉月が視線で続きを促すと、アレックスはひとつ頷いて言葉を続ける。

 

アレックス

「しかし、シグルドリーヴァやアシュクロフトのように、既に完成している実機は存在していました。また、開発計画に携わったエンジニアも。マキャベル司令はそれらを集め、パブッシュ艦隊の独自戦力とすべく量産計画を進めていたのです」

剣蔵

「量産計画……」

イゴール長官

「その量産型を、ヌビア・コネクションにまんまと使われているというわけか!」

 

 イゴールが怒りに声を荒げた、その時だった。会議室の向こうから、悲鳴が響く。それはまだ幼い、少女の声だ。血気盛んな男所帯の軍事基地には似つかわしくない声。それが誰のものであるかを理解すると同時、イゴール長官の身体は動く。

 

イゴール長官

「ローラ……!?」

 

 ローラ・サリバン。気付けば獣戦機隊のマスコットのような存在になっていた少女。戦うことはおろか、自分の身を守ることもできないだろう華奢な少女。少女の身を守るべく、ロス・イゴールは駆け出していた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 極東基地を包囲するように着陸したサングリーズ部隊。緑色を基調とした森林迷彩のそれは、ダムに覆われ周囲に木々が立ちこめる極東基地の地形と合わさり効果を発揮している。その中に一機、色違いの機体があった。

 紫。紫紺色のそれは緑迷彩を中心とした部隊の中で一際目立ち、異彩を放つ。それに乗る男は、淡々と僚機へと指示を送っていた。

 

シャピロ

「……各機、速やかに極東基地を制圧。目標はこの基地に隠されている戦艦、ガンドールだ」

 

 シャピロ・キーツ。以前、バイストン・ウェルの深遠……カ・オスの空間での闘いでダンクーガに敗れ、死んだはずの男。しかしシャピロの右半身は金色の鉄に覆われ、その瞳はどこか虚空を見ている。

 心ここに在らず。シャピロ・キーツはまるで機械のように、淡々と指示を出す。

 シャピロの号令と同時、緑色のサングリーズ達は一斉に極東基地へ向かい進軍を始める。機械のように正確な隊列。まるでブリキの兵隊のように、乱れることなく進軍する戦乙女。

 

ヌビア構成員

「大アトゥーム計画のために……」

 

 蜂型の小型ロボットが空を埋め尽くし、大地を塞ぐ戦乙女の隊列。

 

ヌビア構成員

「シャピロ様。これでよろしいのですか?」

 

 シャピロに随伴するコネクションの若い構成員は、疑問を口にする。ヌビア・コネクションの……偉大なるカーメン・カーメンの目的は極東基地の切り札であるガンドール。マザー・バンガードが失われた今、地球圏に唯一存在する2週間以内に木星へ辿り着く可能性を秘めた艦。しかし、そんなものが存在するならば無傷で手に入れ自分達の戦力にするべきではないか。若い構成員はそう、シャピロへ訊いている。

 

シャピロ

「敵の力を侮るな。基地内の人間は一人残らず殺し、ガンドールも速やかに爆破しろ。時間をかければ奴らが……ダンクーガが来る」

 

 ダンクーガ。その名前を口にした瞬間、シャピロの脳に火花が走る。それは、憎しみという名の閃光だった。しかし、何故自分がダンクーガを憎んでいるのか。ダンクーガという名前と共に思い出す赤い髪の女の横顔は何なのか。今のシャピロには何も、思い出せないでいる。

 

シャピロ

(混沌の宇宙を漂っていた私を拾い上げ、こうして新たな身体へ生まれ変わらせてくれたのは他ならぬカーメン・カーメン……。しかし何故、私はダンクーガを憎む。そして何故、ガンドールとダンクーガに繋がりがあることを知っている?)

 

 シャピロ・キーツという男には、憎しみのみが残されていた。しかし、その憎しみのルーツをシャピロは知らない。或いはそれを確かめるため、シャピロはこの作戦の指揮を買って出たのかもしれない。

 

シャピロ

「全軍、攻撃開始。極東基地とガンドールを粉微塵に、塵ひとつ残さず消滅させろ!」

 

 シャピロの号令と共に、サングリーズ部隊の砲塔が開かれる。シグルドリーヴァのものと同タイプのマトリクスミサイル。戦車砲のそれと同等以上の威力を有し、しかも連射可能。畳み掛けるように放たれるミサイルの雨が極東基地へと浴びせられていく。警備のモビルスーツが発進する暇など与えない、迅速な殲滅戦。ミサイルの爆発音と土煙が極東基地を覆っていく。

 

シャピロ

「よし、ハチどもを突入させろ」

 

 風穴を開けた次は、無人機による虐殺。かつて、クロスボーン・バンガードを名乗る貴族主義者達が実行したそれを彷彿とさせる無情にして合理的な作戦だった。シャピロの合図と共に、基地へ向かい進んでいく蜂型ロボット達。しかし、その後進は空より来たる荒鷲に阻まれる。

 

ヌビア構成員

「シャピロ様。4時の方向より接近する機影あり。数は1!」

シャピロ

「ム……」

 

 風を切り、バルカン砲を撃ちまくりながら接近する機影。その黒い翼はまるで、大空を駆ける竜騎兵。

 

アラン

「……こちら黒騎士。極東基地へ、応答しろ!」

 

 ブラックウイング。アラン・イゴールが駆る猛禽類を模したマシン。黒騎士アランが蜂型ロボット達を蹴散らし、極東基地を守るよう駆け、極東基地へコンタクトを取り続ける。しかし、応答はない。

 

アラン

「……親父」

 

 歯噛みするアラン。ブラックウイング目掛けて飛び交うミサイルを掻い潜り、ビーム砲で反撃する。しかし、サングリーズのビームコーティングされた装甲はビームの粒子を霧散させ、熱を弱めていく。

 

アラン

「やはり、シグルドリーヴァと同様の耐ビームコーティング装甲か。ならば!」

 

 大空を飛ぶ荒鷲は、その姿を四肢を持つ人型へと変え、大地へと急降下する。落下の加速を加えた剛脚が、サングリーズの頭部を押し潰す。

 

ヌビア構成員

「な、何ッ!?」

アラン

「その機体のデータはこちらにもある!」

 

 ビーム砲による砲撃が効かない、重装砲撃マシン。ならばその懐に入り込み、射程の死角から潰す。数は手間だが、それが一番効率的な手法だと判断しアランは実行に移す。敵の懐の中に入り込むことで、僚機のミサイル攻撃を躊躇わせる効果もあった。

 しかし、ブラックウイングたった一機で全てを相手取るには多勢に無勢。それは、アラン自身が一番よく理解している。

 

シャピロ

「……黒騎士、か」

 

 突如現れた乱入者を、紫色のサングリーズに乗る男は冷徹な瞳で睨んでいた。その目に映るものは、憎しみ。しかし何故それを憎んでいるのか、今のシャピロには理解できないでいる。

 

シャピロ

(私はあれを、知っている。ガンドール……そしてダンクーガの仲間であると理解している。だが、何故だ?)

 

 しかし、その憎しみはシャピロに行動させていた。無言のまま、マトリクスミサイルを憎き敵……ブラックウイングへと撃ち放つシャピロ。アランはブラックウイングを再びビーストモードへ変形させ、迫り来るミサイルを躱してみせた。そして、シャピロの放ったミサイル弾は次々と部下のサングリーズへと命中し、爆炎をあげていく。

 

ヌビア構成員

「シャピロ様、何を!?」

シャピロ

「馬鹿者めが。敵が懐に入り込むならば、そこを撃つまでのこと。お前達は偉大なるカーメン・カーメンの教えを忘れたか。大アトゥーム計画の為に命を捨てるのが、我々の本懐だろう」

 

 言い切るシャピロに、ヌビアの構成員達は戦慄する。しかし、戦慄はすぐに納得に、そして狂信へと変化していった。カーメン・カーメン。その名が持つ威光をヌビアの構成員達は信じているからだ。

 

ヌビア構成員

「そうだ。カーメン・カーメン……!」

ヌビア構成員

「大アトゥーム計画の為に……!」

 

 動き出すサングリーズ達。その動きは今までとは違う。

 

アラン

「何……!?」

 

 サングリーズ達はブラックウイングを無視して極東基地へと再びスコープの照準を合わせ、次々とミサイルを撃ち始めたのだ。

 そもそも、この作戦の目的は極東基地とガンドールの破壊。乱入者の存在など、何の問題でもない。それも、たかだか一機の機動兵器など。

 

 大アトゥーム計画の完遂。それに伴うヌビアの神による救済こそが真実。それ以外に何があろう。彼らは、ヌビア・コネクションの構成員は……カーメン・カーメンの信徒とは即ち、殉教者なのだ。

 

シャピロ

「そうだ。これは聖戦(ジハード)だ。お前達の死後の安らぎ。来世の安寧。それらは神たるカーメン・カーメンが約束してくれることだろう」

 

 先導するように謳う紫色のサングリーズ。シャピロ・キーツの機体のみがバックパックに装備する大型の砲塔が展開され、ブラックウイングへと照準を合わせる。圧縮荷電粒子砲。フレンモント・インダストリー社で開発されたアサルト・ドラグーンの一機アシュクロフトが装備しているものと同じ超火力のビーム砲だ。一撃をまともに受ければ、超合金のブラックウイングだってただではすまない。

 

アラン

「まずい!」

 

 避けようとして、アランは自分の迂闊さを呪う。今ここで粒子砲を避ければ、ブラックウイングの斜線上に存在するのは極東基地。まるで、そうなるのを見越したかのように敵は陣取り、手厚い攻撃を浴びせている。

 量産機の攻撃を止めるために動けば、或いは指揮官機の攻撃を避ければ、指揮官機の攻撃は確実に基地へ届いてしまう。それでは、ここにきた意味がない。

 

アラン

「万事休すか……」

 

 こうなれば、ブラックウイングを盾にして攻撃から基地を守り、少しでも時間を稼ぐ以外に方法はない。そう、諦めかけたその時だった。戦場を覆うような、巨大な影。まるで雨雲のように空を覆うそれは、風を切り裂く黒き超獣機神。

 

雅人

「いけるぜ、忍!」

「やってやるぜ! パルスレーザー、シュート!」

 

 超獣機神ダンクーガ。その胴体から伸びるパルスレーザー砲が火を吹き、サングリーズ部隊へと伸びたのだ。

 ビームコーティングされた装甲を持つサングリーズだが、そのダメージを完全にシャットアウトできるわけではない。畳み掛けるように放たれるパルスレーザーは少しずつ、しかし確実にサングリーズの装甲を焼いていく。そして、

 

「いけるぜ、忍!」

「任せたぜ亮!」

 

 敵の見せた一瞬の隙に繰り出されるしなやかな蹴り。巨体故の四肢のリーチが、サングリーズのうち一機を突き飛ばした。

 

「来やがれ悪党ども! 俺たちが来たからには、基地には指一本触れさせねえ!」

 

 超獣機神ダンクーガ。その燃え上がるような怒りの咆哮が、戦場に木霊した。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ヌビア構成員

「だ、ダンクーガだと!?」

 

 サングリーズのパイロット達が驚愕の声を上げる。それを無視し、ダンクーガはブラックウイングの前に降り立ち、巨大なライフル……4機の獣戦機の携行武器を合体させたダイガンを放った。その目標は、指揮官機。

 

シャピロ

「ダンクーガ……!」

「俺達の野生、受けてみやがれ!」

 

 ブラックウイングを狙って放たれた荷電粒子砲。それとダイガンが熱の渦を作りぶつかり合う。周囲の大気をイオン化させ、周辺の木々に引火していく中、ふたつのエネルギー砲が互いを呑み込まんと拮抗した。

 そして、勝ったのはダイガンだ。圧縮された荷電粒子砲すらも飲み込む灼熱の怒りが、熱を放ち、シャピロの乗るサングリーズへと迫る。

 

シャピロ

「ちぃっ……」

 

 しかし、シャピロの明晰な頭脳はその結果をいち早く計算すると同時に荷電粒子砲を投げ捨て、ダンクーガの射程から退避していた。数瞬後、先ほどまでシャピロのいた位置をダイガンの光が通り過ぎ、周囲は炎に包まれる。

 

沙羅

「おい忍! 何やってんだ!」

「今のは仕方ねえだろ。それより、敵は!?」

「敵の指揮官機、どうやらできるようだな。すぐにこちらの射程から退避している。粒子砲を捨てる判断も早い」

雅人

「嫌だね。そういう思い切りのいい敵って」

 

 軽口を叩く雅人を尻目に、忍はブラックウイングへ通信を送る。

 

「黒騎士、無事か?」

アラン

「なんとかな……。おかげで命拾いした」

「命拾いついでに頼みがある。基地へ行って、長官達を助けてやってくれ」

アラン

「だが、お前達だけでは……」

 

 渋るアランに、忍は続ける。

 

「何もお前の親父さんを助けに行けなんて言ってねえ。イゴール長官は、俺達にとっても親父なんだ」

沙羅

「頼むよ黒騎士。今、基地にはJ9が向かってる。けどあんたがいれば百人力だ」

アラン

「…………」

 

 アラン・イゴールが答えるのに、数秒を要した。アランにとって、ロス・イゴールは決していい父ではなかった。人類存亡を賭けた戦いの中で和解こそしたものの、アランの中にあるわだかまりは完全に氷結したわけではない。

 それでも父が、ロス・イゴールが獣戦機隊にとって……人類の今後にとって、そしてアランにとって大切な存在であるということも、理解していた。故に、

 

アラン

「了解した」

 

 ブラックウイングはビーストモードへ変形。翼を広げて戦場を反転する。目指すは極東基地。基地に侵入した敵を殲滅し、ロス・イゴール長官以下所員の人命を守ること。

 それは、戦士として最も誇り高き任務だった。

 

「頼んだぜ、アラン……。さて、こっちも行くぜ!」

 

 ブラックウイングをの背中を守るように、ダンクーガが聳え立つ。胸のパルスレーザー、腰のレールガン、そして背中から展開される巨大な砲門。それらが基地を狙うサングリーズ達を一度にまとめてロックする。

 

雅人

「狙いはばっちりだ!」

「行くぜ、断空砲フォーメーションだ!」

 

 断空砲フォーメーション。ダンクーガの火器全てを一度に放つ必殺兵器。その圧倒的な火力の嵐はたちまちサングリーズを呑み込み、蒸発させていく。

 

沙羅

「マーガレットのマシンのコピーなんか、私達の敵じゃないね!」

「同感だ。だが、あの指揮官機……妙なだな」

 

 圧倒的な戦闘力を誇示するダンクーガ。それを前に、燃え盛る森林を掻い潜るように紫色のサングリーズは距離を取りながら、マトリクスミサイルでダンクーガを迎撃していた。

 

シャピロ

「ダンクーガ……」

 

 その名前はシャピロ・キーツという男にとって、憎しみの象徴である。口の中でその音を半数だけで、右肩が小刻みに震えるのがわかる。だが、自分が何故こうまでダンクーガという存在を憎んでいるのかがわからない。或いはその答えを得るために、シャピロは憎むのかもしれない。

 サングリーズのミサイル攻撃を受けながら、ダンクーガはジリジリと距離を詰めていく。荒ぶる野生を前に、サングリーズのミサイル弾などでは、今のダンクーガに致命傷を負わせることはできない。荒ぶる野生が、ダンクーガの全てのポテンシャルを限界を超えた領域へと引き上げている。

 獣戦機。それはパイロットの野生を力へと変え人を獣に、獣を神へと回帰させるマシンなのだ。

 

「野郎。ちょこまかと逃げ回りやがって!」

 

 連装キャノン砲を打ちまくりながら、ダンクーガは進撃する。サングリーズはそれを回避しながら、まるでダンクーガを基地から引き離すように少しずつ、少しずつ後退していく。

 

沙羅

「…………あいつ?」

 

 その動きに、沙羅は妙な既視感を覚えた。同じような動作を繰り返しながら、右肩を振るわせミサイル攻撃を続けるサングリーズ。敵の懐に飛び込む隙を窺いながらも、少しずつ前進しサングリーズとの距離を詰めていくダンクーガ。そのやりとりは。

 

沙羅

「シャピロ……!?」

「何ッ!?」

 

 沙羅が叫んだその瞬間。ダンクーガの周囲を包囲するように現れる多数のサングリーズ。死の包囲網。かつてシャピロ・キーツが多用した戦術。敵を引きつけ、消耗したところを包囲殲滅するシャピロの十八番ともいうべきそれが今、ダンクーガに炸裂したのだ。

 

「伏兵か!?」

雅人

「ミノフスキー粒子が濃くて、レーダーに映らなかったんだ!」

シャピロ

「やれ!」

 

 シャピロの号令とともに降り注ぐミサイルの雨。ダンクーガの巨体は、爆ぜるミサイルの業火に晒される。いかにダンクーガが強力と言えど、一度に畳み掛けるような攻撃を受ければダメージになる。装甲に傷がつけばそこが弱点となり、砕ければ内部の精密機器が露出する。

 

沙羅

「きゃぁっ!?」

 

 マトリクスミサイルとファランクスミサイル。サングリーズの放つミサイルによる波状攻撃が、ダンクーガを追い詰めていた。

 

シャピロ

「ダンクーガ。私の憎しみを終わらせるために、貴様には死んでもらう……」

「この声は……っ!」

 

 指揮するシャピロの、漏れ聞こえた声。それをイーグルファイターの集音器が広い、その声は爆音の中、微かだが藤原忍の耳に届いた。

 

「シャピロ……てめぇ!」

「シャピロだと!」

沙羅

「やっぱり……シャピロなのかい!」

 

 シャピロ・キーツ。獣戦機隊にとって因縁浅からぬ敵。そして結城沙羅の心に一生消えぬ傷を与えた男。

 

シャピロ

「…………攻撃の手を緩めるな。相手はあのダンクーガだ」

沙羅

「シャピロ!」

 

 シャピロ・キーツは死んだ。自分の手で殺した。そのはずだった。それなのに、今三度沙羅の前に姿を現したシャピロ。沙羅の野生は、或いは女の勘とでも言うべきものは、シャピロという男の宇宙すら喰らい尽くすほどの憎しみを、爆炎の中から感じ取っていた。

 

沙羅

「そんなに……そんなに私達が憎いのかいシャピロ。墓場から這い出てくるほどさ」

 

 宇宙を手に入れようとした男の、宇宙すら呑み込む暗い憎しみの渦。死の淵にあってシャピロを形容する憎悪と執着。それが今ダンクーガを、沙羅を追い詰めている。

 

「しっかりしろ沙羅! シャピロはお前が殺した。あそこにいるのは、ただの抜け殻に過ぎねえ!」

 

 サングリーズの一斉砲撃を受け続けながらしかし、忍の闘志は燃え上がっていた。それは、宿敵を前にしての高揚なのかもしれない。断空剣を引き抜き、迫るミサイルを振り払ってダンクーガはブースターを噴かし上空へ飛ぶ。空への一時退避。サングリーズの射程圏から脱することができるわけではないが、時間は稼げる。そう考えての判断だ。しかし、忍がそう考えて上昇することはシャピロも予測の上。

 

シャピロ

「ステルス解除。デスシャドウ号、ダンクーガへ引導を渡すがいい!」

 

 ダンクーガが上昇したその先。現れたのは巨大な機動戦艦。全長はおよそ280mに及ぶその巨体の正面に備えられた2門のエネルギービーム砲が、ダンクーガを捉えていた。

 

「何ッ!?」

 

 全くの予想外の角度から繰り出される集中砲火。それを正面から浴びてダンクーガは地に堕ちていく。瞬間、亮が咄嗟の起点で姿勢制御することで致命傷は免れたがしかし、既にその姿は満身創痍だった。

 

「グッ…………。なんだよ、ありゃ」

雅人

「ミノフスキー粒子が濃いからって、あんな馬鹿でかいやつを見逃すわけない」

「どうやら、アルカディア号並のステルス性能を有しているようだな……」

 

 突如現れた戦艦デスシャドウ号は、冷酷にダンクーガを見下ろしている。その間にも下部の砲門はダンクーガを捉えている。

 

シャピロ

「終わりだダンクーガ……。死ぬがいい」

 

 シャピロの合図とともに、デスシャドウ号の砲門が再び開く。

 

沙羅

「忍、忍!?」

 

 急いで退避行動を取らなければやられる。それはしのぶにもわかっていた。しかし、今の落下の衝撃で右手の感触が鈍い。脳震盪でも起こしたのか、力が入らない。

 

「クソッ……腕が、動かねえ……」

雅人

「おい、冗談だろ!?」

 

 冗談ならどれだけよかったことか。ダンクーガのメインコントロールを担当する忍の身体は今、満身創痍の状態だった。

 

シャピロ

「さらばだダンクーガ。そして、私の胸にこびりつくこの焦熱」

 

 シャピロが勝利を確信した次の瞬間、それは起こった。

 

ヌビア構成員

「シャピロ様、地下より高エネルギー反応!」

シャピロ

「何……!?」

 

 地鳴りと共に、極東基地が揺れる。ダムの貯水槽が割れ、中から現れ出でるものはデスシャドウ号のそれよりも遥かに巨大な、1kmはあろう巨大な機動要塞とでも言うべきものだった。

 

葉月

「ガンドール、始動!」

 

 機動要塞の下部からまるで東洋の伝説に伝わる龍のような鋭く、細い手足が伸びる。そして、中心部から伸びるのは龍の頭部。ガンドール。ムゲ・ゾルバドス戦争末期に突如として現れた幻の龍。その雄大な姿が今再び、極東の空に姿を現したのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

─極東基地内部─

 

 

 時は、ダンクーガが極東基地へ到着したあたりに遡る。

 忍達がシャピロ・キーツとの激戦を演じているその頃、基地内部は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。侵入した蜂のような形状の小型マシンは、熱を感知すると自動的にそれを追尾し熱源へ向かい針を飛ばす。その機械的な動きで、基地内の所員は次々と貫かれていった。

 その仕掛けは10年前、コスモ・バビロニア建国戦争でクロスボーン・バンガード軍が使用したとされる殺人兵器・バグの応用だ。曰く、人間だけを殺す機械。その侵入を許した極東基地は今、まさに地獄と化していたのだ。

 その蜂型マシンを蹴散らし、広大な基地を突き進むスーパーカー・ブライサンダーの車内でJ9の4人は渋面を作っていた。

 

キッド

「こいつはひでぇや」

お町

「この蜂型メカ、ガリコネの防衛メカよね」

アイザック

「ああ。だが恐るべきはカーメン・カーメン。そして敵の指揮官だ。この蜂メカを殺人マシンへと改造し、基地へ侵入させるとは」

 

 今までJ9は、あらゆる悪党を成敗してきた。マフィア・コネクションの手先だけでなく、マフィアと癒着し守るべき市民から金品を巻き上げる悪徳警官のようなものもいた。だが、これは人の所業ではない。

 

ボウィー

「こういうの、嫌になっちゃいますねまったく」

キッド

「ああ全くだ。ですからボウィーさん、かっ飛ばしていきましょう!」

 

 「イェイ!」と4人はサムズアップし、基地内をブライサンダーは加速する。道中の蜂型メカをブラスター・キッドは機銃で次々と破砕し突き進む。百発百中。正確無比な射撃こそが彼をブラスター・キッドと言わしめるのだ。故に、キッドは外さない。例え高速で突っ走るブライサンダーでも、ボウィーの操縦に合わせて狙撃してしまうのがキッドだった。

 やがてブライサンダーは基地格納庫までの区画を制圧する。問題となるのはこの先、居住ブロックだ。小型の蜂メカが居住ブロックから先へ侵入している可能性は否定できない。

 

ボウィー

「それで、どうすんのさアイザック。俺の子猫ちゃんでも、居住区画まで入るのは無理があるぜ?」

アイザック

「仕方あるまい。ここから先はキッドとお町に任せ、私とボウィーはいつでも出られるよう待機する」

キッド

「そういうことなら任せてくださいよ。行くぜお町」

お町

「イェイ」

 

 手早く、そして軽快にやり取りを済ませてキッドとお町がブライサンダーを降りる。蜂メカが侵入しているのならば、ここから先は命懸けだ。

 

アイザック

「頼むぞ、二人とも……」

 

 今ここには、地球の未来を肩にかけた頭脳が集まっている。それらを失うことは、人類の敗北を意味している。J9に課せられた責任は重大だった。

 

 

 

 キッドとお町が侵入した居住区画のあちこちに、蜂メカはいた。しかし、彼らが発見したその全ては完膚なきまでに破壊されている。

 

お町

「あら、ここの兵隊さんもなかなかやるみたいね」

キッド

「ああ。……見てみろよお町。こいつはすげえぞ」

 

 破壊された蜂メカの近くに落ちていたのは、焦げついた弾丸。しかしそれは、あまりにも乱雑に散らばっている。

 

キッド

「フルオート式マグナム弾散弾銃……。どこのどいつだよ、こんなもの考えたの」

 

 それは、特務自衛隊で開発されていた対機械獣想定のマグナム。その改良版だった。おそらく、まともに喰らえば蜂メカはおろか、旧式のモビルスーツなら吹き飛ばせる代物。

 

お町

「あら、そんなものがあるならもしかして私達余計なお世話だった?」

キッド

「いや、こんなもん人間が撃ちまくったら肩から思いっきりぶっ壊れる。急いだ方がいいな」

 

 キッドがそう言った直後、けたたましい銃声が鳴り響く。それも一回や二回ではない。乾いた音が次々と鳴り響き、それと同時に破裂音。

 

キッド

「……どうやら、探す手間が省けたみたいだぜ」

お町

「ええ。行きましょう!」

 

 戦場と化した基地の中を、キッドとお町の2人が走る。長い廊下の突き当たり、銃声は強くなっていく。戦場はすぐそこだ。キッドは覚悟を決め、腰から銃を引き抜いた。そして突き当たりを右折する。そこでキッド達が見たものは、

 

イゴール長官

「ぬぉぉぉっ!」

 

 対機械獣用のマグナム散弾銃を撃ちまくり、群がる蜂ロボットを次々と破砕するロス・イゴールの姿だった。その膝下には、金髪の少女……ローラ・サリバンが愛犬ベッキーを抱えて身体を丸く屈めている。

 

ローラ

「おじいちゃん……!」

イゴール長官

「やらせん、やらせんぞ! 私の命に代えても、この子と仔犬を殺させはせん!」

 

 鬼気迫る叫びと共に、イゴール長官は散弾銃を撃ちまくる。

 

イゴール長官

「この若い命こそ未来への希望。それを守り抜くのが、私の務めだ!」

 

 散弾銃が弾け、蜂メカを次々と打ち砕いていくロス・イゴール。しかし蜂メカ達は人間の熱を感知し自動で攻撃するようにプログラムされている。イゴール目掛けて針を向け、突撃する蜂メカ。それをイゴールは一機一機と撃ち落としていく。眼前の敵を撃破するイゴール。やがて散弾銃の弾が尽き、カチ、カチと音を鳴らす。

 

イゴール長官

「くっ……!」

キッド

「危ない!」

 

 瞬間、ブラスター・キッドの銃弾が蜂メカのエンジンを撃ち抜く。落ちる蜂メカ。イゴール長官はその瞬間、ローラを抱え踵を返す。

 

イゴール長官

「そのウルフマークは!」

お町

「コズモレンジャーJ9、只今参上よ長官さん。イェイ!」

 

 そう言ってお待ちはポーチから丸いものを取り出し、そのピンを引き抜く。そして突き当たりへキッドとイゴール長官、それにローラが避難すると同時、その丸いもの……即ち手榴弾が爆裂した。

 

キッド

「ヒュー。なかなかいいもの持ってるじゃないですかお町さん」

お町

「あらやだキッドさん。手榴弾は乙女のたしなみですよ?」

 

 軽口を叩き合うキッドとお町。危機的な状況にあっても余裕の態度を崩さない。それは彼らが数々の修羅場を潜り抜けてきた証拠だった。

 

ローラ

「おじいちゃん、そうなの?」

イゴール長官

「…………」

 

 しかし、そんな冗談を信じてしまう無垢な少女がそこにいれば、堅物なイゴール長官は彼らを睨むしかない。

 

キッド

「あらら、冗談言ってる場合じゃないみたいですよ」

お町

「そうね。本気にしちゃダメよお嬢さん」

 

 イゴール長官の眼光に気圧されて、お町は観念しつつもチャーミングなウィンクを欠かさない。それはエンジェルお町の矜持だった。

 

キッド

「それで長官殿、どうすればいい?」

イゴール長官

「今、葉月博士が龍の心臓に灯を入れているはずだ。龍が目覚めれば、勝てる」

お町

「龍……。ガンドールのことね」

イゴール長官

「ああ。ガンドールとダンクーガが揃えば、この局面も……グッ!」

 

 ローラを抱えるイゴールの手。本来ならば屈強な握力を持つはずのその手から力が抜け、ローラが床へ着地する。ローラは心配そうに、イゴールの顔を見た。

 

ローラ

「おじいちゃん?」

イゴール長官

「あ、ああ。大丈夫だ。このくらい……」

 

 そうは言うがイゴールの額には汗が滲み、肩から手の指先にかけての動きは明らかに精彩を欠いている。キッドはそんなイゴールの様子を一瞥すると、何かを悟ったように神妙に頷いた。

 

キッド

(年甲斐もなく無茶をしたもんだ……。あんなものを撃ち続ければ、肩から骨ごと砕けても文句は言えねえ)

 

 天才スナイパーであるブラスター・キッドから見ても、先ほどまでイゴール長官が使っていたマグナム散弾銃は無茶な代物だ。おそらくは本来、補助用の強化服か何かを着ていることが前提の出力。それでも、連射できるものではない。イゴール長官はそれを、スーツ姿のまま何度も撃ち続けていた。キッドとお町が来た道で見た蜂型メカの残骸も、イゴールの成果だろう。

 ロス・イゴールは相当に無理をして、このローラ・サリバンという少女を守っていたのだ。

 

キッド

「なあ長官殿。あんたとローラちゃんは一体、どう言う関係なんだ?」

 

 ローラ・サリバン。藤原忍が助けた戦災孤児で、葉月博士が養子として引き取り、以降は獣戦機隊のマスコットのような存在だった少女。しかしそれは獣戦機隊のメンバー達の話であり、このロス・イゴール長官はまた違う。それは純粋な、興味だった。

 

イゴール長官

「ローラ……。ローラは……」

 

 足を止めず、しかしイゴールは言葉を選んでいた。ローラへと投げかける優しい笑顔は、噂に聞く厳格な軍人像からはかけ離れている。

 

イゴール長官

「私には、息子がいた。アラン・イゴール……。お前達の雇い主か。私は軍人として強く、厳しく生きるあまり、家庭を顧みない父親だった」

 

 キッドもお町も走りながら、それに耳を傾けていた。イゴールの独白は続く。

 

 

イゴール長官

「アランは、母の葬式にも出席せず軍務に明け暮れる父を見限った。私も、私のやり方を否定するアランとは勘当同然だった。だがな……はは、獣戦機隊。あの問題児どもを見てみろ。自由に大空を羽ばたき、野生のままに戦う。鉄の規律をよしとした私の生き方は、あいつらにとっては古臭いものだったかもしれん。それに、ローラは……あのバカどもが連れてきたこの子は、そんな私などをおじいちゃんと呼び、慕ってくれる」

ローラ

「だって、おじいちゃんはやさしいよ? 私、おじいちゃん大好きだもん」

 

 ローラの顔は、純粋に祖父を心配する女の子のものだった。そこには一切の嘘偽りはない。

 

ローラ

「お母さんが死んじゃって、私にはベッキーしかいなかったの。ベッキーのことは大好きだけど、それでもお母さんがいないのは寂しかった。だけど忍が、雅人が、亮が、沙羅が、それに葉月のおじちゃんと、おじいちゃんが私をここにいていいって言ってくれた。だから私、寂しくなくなった。ここが新しいお家で、優しいお兄ちゃんとお姉ちゃん、おじちゃん、おじいちゃんがいるのが嬉しかった」

イゴール長官

「ローラ……。そうだ、ローラは私の孫だ。この若く、未来のある命を守ることこそが軍人の使命なのだと、私はローラに教えられた。だから……」

 

 話しながらも、4人は居住区画のさらに奥へ進んでいた。地下へと続く階段。その先に眠る龍の心臓へ向かって螺旋階段を降りていく。もう少し、もう少しでガンドールへ辿り着く。しかし、煩い羽音とモーター音が少しずつ迫っているのを、キッドは聞き逃さなかった。

 

キッド

「危ない!」

 

 4人を追いかけて迫る蜂メカ。キッドの銃撃が正確にエンジンを貫いていくが、すぐにまた次の蜂がやってくる。

 

キッド

「このままじゃ埒が明かないな。お町さん、何かいい手はないですか?」

お町

「お生憎様。こんなところで手榴弾投げたら私達も生き埋めですわよキッドさん」

 

 即ち、万事休す。それでも万に一つのチャンスに賭けて、ブラスター・キッドは狙い撃つ。小型の蜂メカは生き物を殺すために最適化された動きをする自律回路。人間の熱を感知するとそれを自動で追尾し、そして羽音は周囲の蜂を呼び寄せるようにできている。

 一機、また一機撃ち抜いても現れる蜂はキリがない。やがてキッドの愛銃も残弾が尽きれば、リロードに時間を要してしまう。

 

キッド

(その時は仕方ない。俺がイゴール長官の盾になるしかねえか)

 

 ロス・イゴールは失ってはいけない男だ。そうキッドは今までのやり取りで確信していた。ブラスター・キッド……木戸丈太郎はかつて、

国連軍に所属しその射撃の腕を振るっていた。しかし、キッドの射撃の腕はいつしか汚れ仕事を任されるようになり……命令とはいえやりたくもない殺しをさせられることにキッドは嫌悪し、軍を抜けた。そんなキッドにとってロス・イゴールの第一印象は、旧来通りの堅物な軍人。それは決していい印象ではないものだった。だが、

 

キッド

「長官殿。あんたは俺が命に代えて守る。だから急げ!」

 

 小さな命のために己の命を捨てて戦えるこの男ともし早くに出会えれば、木戸丈太郎の人生は変わっていたかもしれない。軍というものに失望することなく、人を守るための職務に誇りを持てたかもしれない。

 これからも、国連軍に志願する若者はきっと現れる。そんな若者達がかつての自分のように軍に失望してしまわない為にも。

 軍人という職務を、誇り高い生き方だと思えるためにも。

 

キッド

「あんたは若者達のためにも、死んじゃならねえ人だ!」

 

 残りの弾はあと3発。ブラスター・キッドはそれを的確に、蜂ロボットへ当てていく。1発。コントロールを失った蜂は力なく明後日へと飛び落ちる。2発。エンジンに直撃し蜂は爆裂。3発。センサーを失った蜂は瞬く間に落ちていく。しかし、それで弾切れ。リロードにかける時間より先に、次の蜂メカがやってくる。

 

キッド

「俺の命も、これまでか……」

 

 そう、キッドが呟いたその時。少女ローラの手からするりと仔犬が抜けていく。

 

ローラ

「ベッキー!?」

ベッキー

「ワン!」

 

 ベッキーは小さな身体を奮い立たせ、主人の前に出て蜂を威嚇するのだ。しかし蜂は犬の小さな身体の熱よりも、人間の熱を優先して感知する。だが、そんなことをローラが知るべくもない。

 

ローラ

「ベッキー、ダメ!」

 

 瞬間、ローラ・サリバンはキッドよりも前に……仔犬を庇うように躍り出たのだ。

 

お町

「お嬢ちゃん!?」

イゴール長官

「いかん!」

 

 蜂ロボットが、ローラの幼い身体に針を向ける。一瞬。一瞬あれば距離を詰め、ローラは串刺しになる。誰もがそう思った。蜂が動き出した。その瞬間だ。

 

イゴール長官

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 ロス・イゴールは全身の気力を振り絞り、既に疲弊しているはずのその身体を動かしていた。キッドが反応するよりも早く、ローラの前に飛び出すイゴール長官。そして、ブスリ。

 

イゴール長官

「グ、おォッ……!」

 

 瞬間、ローラの前で赤いものが噴き出す。それがロス・イゴールという男の血液であることを、いかにローラが箱入り娘だったとしても理解しないわけにはいかなかった。

 

ローラ

「おじいちゃん!? い、嫌ァァッ!」

 

 蜂メカの針は、ロス・イゴールの腹に大きな穴を開けていた。しかし、それでも尚ロス・イゴールは立っている。そしてイゴールは、力任せに蜂メカを針の部分に右拳を押し当てた。瞬間、針の付け根にヒビが入る。

 

イゴール

「今だ、ブラスター・キッド!」

キッド

「!!」

 

 イゴールの叫びと同時、弾倉を入れ替えたキッドの狙撃が蜂メカの針とお尻を確実に撃ち抜いた。針と本体が完全に分かれた次の瞬間、キッドは本体にトドメの一撃をお見舞いする。その場で蜂は崩れ落ち、ロス・イゴールもそこに倒れ伏した。

 

ローラ

「おじいちゃん! おじいちゃん!」

 

 イゴールの身体に縋り付くローラ。しかし、蜂の行軍はまだ終わらない。

 

キッド

「クソッ! クソッ!」

 

 動けないイゴールを運びながらでは、無理だ。キッドはあの時、動けなかった自分を呪う。そして次の蜂が襲い来るその時……。

 

アラン

「……!」

 

 巨大な腕が、地下階段越しに蜂の群れを握りつぶした。

 

お町

「ブラックウイング!」

 

 ブラックウイング。先ほどまでサングリーズと交戦していた黒騎士アランの愛機。それが今、基地の隔壁をブチ破り腕を伸ばしていたのだ。ブラックウイングから飛び降りるアラン。アランは腹に大きな穴を開けたロス・イゴールを一瞥すると、その瞳を大きく見開く。そして小さく「親父……」と呟くと、イゴールの下に駆け寄るのだった。

 

イゴール長官

「あ、アラン……」

アラン

「親父、喋るな。ガンドールはすぐそこだ。治療室ならまだ間に合う!」

 

 アランは言い聞かせるように、或いはそう願うように父へ叫ぶ。アランは携帯していた小さなカバンからガーゼと包帯を取り出すと、手早く父の止血を始める。

 

イゴール長官

「いつの間にか、こんなに大きくなっていたのだな……」

アラン

「やめてくれ! アンタの口からそんな弱気な言葉は聞きたくない!」

 

 

 父を肩で抱え、歩き始めるのアラン。ジワリとした熱の感触が、アランの肩に伝わる。それは、命の漏れ出る熱だ。

 

イゴール長官

「アラン……。我が息子……。獣戦機隊と、4人の息子達と共にこの星を、若者達の生きる未来を守ってくれ」

アラン

「ああ……親父。約束だ」 

 

 そうして、ガンドールへ繋がる扉を開くアラン。手近な所員にローラとベッキー、それにイゴール長官を預けると、ロス・イゴールは担架で運ばれていく。アランはそれを、静かに見送っていた。

 

アラン

「偉大なる最後の将軍ロス・イゴール。親父……」

 

 アランの肩に乗っていた父の腕は、自分の知るそれよりも小さなものだった。いや、アランの記憶の中にあった父の大きな腕は、幼い頃のアランの思い出のまま、更新されていなかったのかもしれない。アランが思春期を迎える頃には、父子はそれほどまでに疎遠になっていた。だが、アランは知っている。ロス・イゴールがなぜそれほどまでに厳格に、家庭すら顧みず軍務に励んでいたのかを。

 

アラン

(ガンダムファイトで疲弊した地球は、常に争いの火種に塗れていた。それは今も、昔も変わらない。親父は誰よりも、そんな地球を、人々の未来を守るために軍人であり続ける人だった)

 

 そしてその血は、アランにも受け継がれている。やり方こそ違えたが、根っこの部分で親子は、似た者同士だった。そうであるが故に、

 

アラン

「……行くぞJ9。すぐに龍が目覚める」

 

 既にやるべきことは、決まっていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 極東基地が崩れ落ち、その地下より浮上する巨大空母。デスシャドウ号よりも遥かに大きなそれを、忍達は知っている。

 

「ガンドール……!」

 

 ガンドール。「龍」と呼称される極東基地の切り札。地球上に現存するあらゆる戦闘母艦よりも大きく、しかしそれに見合うエネルギーを持たぬ故に短命のこの空母は、起動に爆発的なエネルギーを要するという弱点を抱えていた。そのガンドールの司令塔で、葉月博士は通信マイクを持ち、ダンクーガへコンタクトを送る。

 

葉月

「藤原、結城、司馬、式部、全員無事か?」

「ああ……どうにかな。それより、他のみんなは!?」

 

 それに答えたのは、ガンドールを旋回するように大空を舞うブラックウイングだった。

 

アラン

「ローラは無事だ。あの人が……俺達の親父が命を賭して、守ってくれた」

沙羅

「それじゃ……長官は?」

 

 愕然とする沙羅。しかしアランは頑なに首を振り、その可能性を否定する。

 

アラン

「……あの人らしい、誇り高い生き様だ。そして父は今も闘っている。俺達にできることは、親父が戻ってきた時に胸を張れる戦士であることだ」

 

 ブラックウイングは翼をはためかせ、バルカン砲をデスシャドウ号に浴びせていく。ダンクーガへ狙いを定めていたデスシャドウ号の周囲を飛び回り、ダンクーガが立ち上がる隙を作っているのだ。

 

「イゴールの親父……。うぉぉぉぉっ!」

 

 イゴールは戦った。戦って戦いって戦い抜いた。大事な命を守るために。生命を振り絞るような叫びを上げて、忍はダンクーガの姿勢を但した。再びブースターを噴かせ、立ち並ぶ大鷲と機神。

 

「そうだ、イゴールの親父だけじゃねえ。俺達は沢山の人達に生かされて、ここまできた!」

雅人

寮長(ドン)やゲラールの兄貴だって、俺達に未来を託してくれた……!」

「俺達の背中には、多くの人が託した未来がある!」

沙羅

「だから、あんたの復讐になんか付き合ってやれないんだよ、シャピロ!」

 

 忍の、沙羅の、雅人の、亮の心は今、爆発していた。ダンクーガは、全ての人々の希望を乗せた剣。ここで折れるわけにはいかない。

 ダンクーガは腰から断空剣の鍔を抜く。荒ぶる野生のエネルギーが断空剣の刀身を固定し、デスシャドウ号を前に構えを取る。

 

シャピロ

「ええい何をしている。デスシャドウ号、ダンクーガを撃ち落とせ!」

 

 シャピロの合図とともに、三連装ビームキャノンが光を放つ。ダンクーガは、エネルギーの線を見切り機体の軸をずらす。その巨体で躱しきれない僅かな光を断空剣のエネルギーで相殺し、デスシャドウ号の攻撃を無傷で乗り切っていた。

 

「そんな攻撃で、今の俺達を止められると思うなよ!」

 

 忍の、沙羅の、雅人の、亮の野生は最高潮に達している。人が理性の枷で止めている力の限界。それを超えた先にある境地。そして、

 

アラン

「これは……この感覚は……!」

 

 その境地に今、アラン・イゴールも達していた。ブラックウイングの操縦桿を通し、アランの野生が解き放たれる。そしてその時を、ガンドールの司令塔にいる葉月博士は待っていたのだ。

 

葉月

「藤原、結城、式部、司馬、アラン。今からダンクーガの最後の封印を解除する!」

「最後の封印だと?」

葉月

「そうだ。以前の月面基地でアランが特攻した後、修復したブラックウイングにも獣戦機と同じシステムを組み込んでおいた。今、送信したコードを解放しろ!」

 

 ガンドールから送信されたコードに従い、ダンクーガとブラックウイングはデスシャドウから距離を離していく。その動きに、シャピロは只ならぬものを感じデスシャドウ号へ指示を送る。

 

シャピロ

「デスシャドウ号、奴らの妙な動きを牽制しろ!」

 

 デスシャドウ号から放たれるミサイル弾がダンクーガを襲う。しかしミサイルの悉くは降り注ぐビームの閃光により、ダンクーガへ届くことなく弾けて消える。

 

キッド

「ダンクーガを、イゴール長官の希望をやらせるかよ!」

 

 銀河旋風ブライガー。操るは狙撃の名手ブラスター・キッド。ブライガーが両手に持つ二丁拳銃・コズモワインダーがデスシャドウ号のミサイル攻撃を次々と撃ち落としたのだ。

 

ボウィー

「あらあら、キッドさんいつになく熱いじゃないですか」

キッド

「悪いけどボウィーさん、今回ばかりは冗談じゃないですよ」

 

 ロス・イゴールという男の生き様。それはブラスター・キッドの胸にもしかと響いていた。だからこそ、仕事である以上に義理人情として、イゴール長官が希望を託したダンクーガに自分も賭けてみたいという気持ちになっていた。

 それは、闘志だ。

 

シャピロ

「なんだ、あのロボットは……?」

 

 シャピロの記憶にない伏兵の介入。それが瞬間、シャピロの思考処理を遅らせた。その隙はそのまま、ダンクーガとブラックウイングに時間を与えることになる。

 

「データTEX-138-4EB、ロック解除!」

 

 ダンクーガのモニタに、アルファベットが表示される。ダンクーガが初めて合体した時と同じ。しかしあの時以上の高揚感が、忍を昂らせる。

 

「発動コード、F•I•N•A•L! ファイナルダンクーガ!」

 

 ダンクーガとブラックウイングが垂直に飛ぶ。ブラックウイングの脚が収納されると同時、ダンクーガの飛行ブースターが切り離される。切り離されたブースターとのコネクタ部分をブラックウイングの収納された脚が掴み、そのまま姿勢を固定。そのまま新たな高機動ブースターとして、ブラックウイングがダンクーガへ納まった。

 漆黒の荒鷲を背負ったダンクーガ。その姿こそが、

 

「人を超え、獣を超え、神をも超える最後の戦士、ファイナルダンクーガ! もうお前らの好きにはさせねえ、やってやるぜ!」

 

 

………………………………………

第28話

「獣を超え、神を超え、

 出よ最後の戦士

 ファイナルダンクーガ!」

………………………………………

 

 

 

 ファイナルダンクーガ。ブラックウイングを加えた5機の獣戦機が真の力を解放したことによって生み出されたダンクーガの最終形態。その圧倒的な存在感に、サングリーズに乗るヌビアの構成員達は慄く。それは無論、指揮官であるシャピロ・キーツも同様だった。

 

シャピロ

「なんだ……その姿は?」

 

 シャピロの脳裏に、いくつもの光景がフラッシュバックする。シャピロの完璧な作戦は、常にダンクーガの発揮する力に一手上回られてきた。ダンクーガ。シャピロ・キーツの憎むべき宿敵であり、死戦の中に常に存在した強敵(とも)とも言うべき存在。そして、一人の女。

 それが今、再びシャピロの計算を、予測を荒ぶる野生の力によって越えたのだ。だが、だからと言ってそう簡単に負けを認めるわけにはいかない。

 

シャピロ

「デスシャドウ号!」

 

 デスシャドウ号のビームカノンが、続け様にファイナルダンクーガを狙う。ダンクーガを地へと落とした連続砲撃。しかし、その攻撃はファイナルダンクーガに届くことはない。

 

アラン

「来るぞ、藤原!」

「わかってらぁっ!」

 

 獣のような防衛本能で危機を察知し、ブラックウイングの翼即ち、ファイナルダンクーガのブースターは忍の反射神経に応えるように俊敏に起動する。以前のダンクーガよりも、立ち上がりがスムーズ。その結果、光の速さで迫るビーム砲撃を忍は、動体視力で避けてみせた。

 それは、今までのダンクーガではありえない動きだ。

 

「すげえ……すげえぜ!」

「ファイナルダンクーガ……。燃え滾る闘志の中にありながら、澄み切った水の一雫のような境地に達した気分だ」

 

 真の野生化。それは人の理性でブレーキされた荒ぶる野生を引き出し、それでありながら愛の心を失わぬ境地。

 

アラン

「俺にも、野生が眠っていたのか……」

 

 今新たに、ダンクーガの一部となったブラックウイングのコクピットでアランは小さく呟いた。データの収集と解析・予測を信条としていたアランにとってそれは、俄には信じられないことだった。だが、悪い気はしない。それに、今なら信じることができる。

 

アラン

(俺の中に眠れる野生……。ロス・イゴールから受け継がれた遺伝子が叫んでいる。彼らと共に戦えと!)

 

 圧倒的な存在感を解き放つファイナルダンクーガ。このままではまずい。シャピロは、自覚のない記憶の中にこびり付いた経験からそれを理解する。

 

シャピロ

「ええい、それならば奥の手だ。ザン・ガイオーを発進させろ!」

 

 シャピロの合図と共に、デスシャドウ号のハッチが開く。そこから現れたのは赤いボディに身を包んだ、しかし内部からは触手のようなものが蠢く異形の兵器。ザン・ガイオーを呼ばれたそれは、憎しみに満ちた瞳でファイナルダンクーガを睨む。その姿は以前、岩国でダンクーガが戦った自爆するメカ恐竜・グザードを想起させる。

 

雅人

「あれ、ムゲの兵器だろ!」

 

 雅人は記憶していた。以前の戦いでムゲ・ゾルバドスの本拠地へ乗り込んだ際に戦った強敵。それが今、どういうわけかヌビア・コネクションの手先として再びダンクーガと対峙している。

 

「ムゲ野郎まで生きてるのかは知ったこっちゃねえ。だがな、そんなもんでファイナルダンクーガを止められると思うなよ!」

 

 ザン・ガイオーの肩に装備されたハッチが開き、ミサイルがファイナルダンクーガを襲う。しかし、今のファイナルダンクーガはミサイルの軌道を読み切り、そして瞬時に避けるほどの運動性を獲得していた。ならばとザン・ガイオーは、腕のメカ部分の隙間から緑色の触手を伸ばし、ダンクーガの手足を絡め取る。

 

「相変わらず気色悪い野郎だぜ。雅人!」

雅人

「OK、忍!」

 

 手足の動きを封じらてた程度で止まるファイナルダンクーガではない。その推進力に任せた突進は余りある勢いで、渾身の力でダンクーガを縛る触手の筋肉を引き攣らせる。その瞬間、触手の拘束が弛んだ。ファイナルダンクーガはその隙を見逃さず、パルスレーザーを浴びせてザン・ガイオーを怯ませる。怯んだその時、ファイナルダンクーガは触手を振り解いた。そしてザン・ガイオーが体勢を整える前に、その眼前へと躍り出る。

 

「そこだっ!」

 

 ザン・ガイオーの眼前に広がったのは、ファイナルダンクーガの掌だ。掌底。顔面を潰すような掌の一撃は重く、ザン・ガイオーを吹き飛ばす。距離が離れたその瞬間、ザン・ガイオーは再び触手を伸ばした。だが、既に勝敗は決している。

 

アラン

「照準はこちらに任せろ!」

「おう!」

 

 ファイナルダンクーガのバックパック……即ちブラックウイングの、嘴が大きく開いた。本来のブラックウイングには存在しない機能。超獣機神となったことで、今ブラックウイングには新たな機能が追加されている。

 開いた嘴に、膨大なエネルギーがチャージされていく。それこそオーバヒートしてしまいかねないほどの、危険な熱量。しかしアランは性格無比に照準を定め、忍の号令で引き金を引く。

 

「ファイナル断空砲!」

 

 同時、真紅のエネルギーが渦を巻いて、ファイナルダンクーガから放たれた。

 放たれた赤い光の渦は天を裂き、そして天空で狼のようなシルエットを浮かび上がらせる。獣の唸り声のような音を立てて、狼はザン・ガイオーを呑み込んでいく。

 灼熱の怒り。そして怒りすらも超克した戦士の雄叫びの中に呑まれたザン・ガイオーは、真紅の光の中に消えていった。

 

キッド

「すげえ……これがファイナルダンクーガ」

 

 ロス・イゴールが託した人類の希望。その姿にキッドは、感嘆の声を漏らす。

 

アイザック

「そうか。獣戦機とは人の野生を解き放つ機体。超獣機神は解放された4人の野生をより高めるもの。しかしその数式は倍式ではなく、乗式だったか」

 

 悟ったように、アイザック。ブラックウイングが合わさっただけで、ここまでのパワーアップが測れるとは考えにくい。とすれば、その真髄はパイロットの野生。アランを加えた5人の野生が5乗され、ファイナルダンクーガは神をも超える戦士として覚醒する。

 

葉月

「これがファイナルダンクーガ……。人類の希望を背負う最後の戦士」

アラン

「次はてめえだ! シャピロ!」

 

 断空剣を抜き、ファイナルダンクーガは紫色のサングリーズをカメラで捕捉した。

 

シャピロ

「この力は……。機械を、人を、獣を、神をも超える力だというのか!」

 

 今解き放たれたファイナルダンクーガの力。それをシャピロはどうしようもなく、“ほしい”と感じてしまっていた。他人を羨むなど、恥ずべきことだとシャピロのエゴが告げているにも関わらず。しかも、なぜその力を欲してしまうのか、今のシャピロは見当もつかないでいる。

 

シャピロ

「理性が野生を超え、混じり合った境地……。この戦いに勝ち目はない……」

 

 そう呟くと同時、デスシャドウ号から放たれた光が戦場を包んだ。

 

「何っ!?」

アラン

「閃光弾だ!」

 

 視力を奪う強烈な光。それが収まっても数秒の間、目がチカチカする。忍の視界が安定してきた時にはデスシャドウ号も、サングリーズの姿も消えていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

─アルカディア号─

 

 

アラン

「以上が、戦いの顛末だ。現在ロス・イゴールは意識不明。生死の境を彷徨っている」

 

 

 全てが終わった直後、ガンドールに帰投したアランから受けた通信を聞き、槇菜は大きく動揺していた。

 

槇菜

「じゃあ、お父さんを……」

アラン

「気持ちは有難いが、余計な心配な無用だ。科学要塞研究所に立ち寄りハリソン大尉達と合流後、我々はついにミケーネ火山島基地への総攻撃を仕掛けることになる」

槇菜

「ミケーネと……!」

 

 毅然とした態度で告げるアラン。ミケーネ帝国。それは槇菜の日常を一変させた、はじまりの敵。

 

トッド

「ここの指揮官様は随分、ドライなんだな。親父さんの側にいてやった方がいいんじゃないのか?」

 

 トッドが言う。それはトッドなりの、気遣いだった。

 

トッド

「もし今お袋の身に何かあったら、俺は戦場を放り出してでもお袋のところへ駆けていくぜ」

アラン

「……俺は、俺達は偉大な父から希望を託されたのだ。ここで立ち止まるわけにはいかん」

 

 それこそが親孝行だ。そうアランは言ってトッドを睨む。その視線にトッドも、アランの覚悟を感じ取った。

 

トッド

「悪かったな。今のは失言だった」

ショウ

「お前は一々、一言多いんだよ」

 

 謝るトッドと、嗜めるショウ。アランはそれ以上の追及はせず、話を戻す。

 

アラン

「アルカディア号も激戦続きかもしれないが、マシンの整備、補給をしつつ指定座標へ向かってほしい」

ハーロック

「…………了解した」

 

 しばらく沈黙し、そして了解するハーロック。だがキャプテンハーロックの目が大きく見開かれているのを、アランは見逃さなかった。

 

アラン

「何か、気になることでもあるのか?」

ハーロック

「ああ。今、画像で確認したがヌビアが使っていたという艦。デスシャドウ号だが、あれは……」

トチロー

「…………」

 

 事情を知っているのか、トチローは深々と帽子を被る。しばらくの間があり、やがてハーロックは口を開いた。

 

ハーロック

「あれはかつて、俺が命を預けた艇だ」




次回予告

みなさんお待ちかね!
ミケーネ帝国火山島基地を突き止め、先攻するグレートマジンガー。
しかし、待ち受けていた地獄大元帥の罠により、窮地に陥ってしまうのです!
ですが、友のピンチを救うべく、我らがヒーローが帰ってきました!

次回、「決戦ミケーネ帝国! 我らがダブルマジンガー」にレディ・ゴー!
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