─木星圏/衛星イオ─
木星の第一衛星イオ。4つのガリレオ衛星の中でも最も大きなそこに建造された軍事施設に、“巨神”は眠っていた。
“巨神”。イデオンと呼ばれるそれは静かに
だが厳かにその時を待っている。イデオンの内部……操縦席とでも呼ぶべき場所には帝国の技師や士官達が日夜、目覚めの時を迎える準備を進めていた。
帝国士官
「“巨神”のゲージはどうだ?」
小太りの士官が、部下に聞く。
帝国兵
「はっ。ゲージは依然として沈黙を保っています。やはり、この“巨神”は新総統以外に扱えるものはいないのでは……?」
帝国士官
「フム…………」
以前の起動実験の際、カリスト新総統がこの席に座ったと同時、イデオンのゲージは灯り、動き出した。それは新総統の持つサイコミュ的な波動を“巨神”が感じ取り、呼応してみせたのかもしれない。
帝国士官
「となればやはり、サイコミュ・システムによる調整が急務となるか」
予定される
その時、新総統は自らのモビルスーツで迎撃に出るつもりでいる。その間、“巨神”を動かすための調整は帝国にとって必要なことだった。
帝国兵
「アムロ・レイのバイオ脳を使うというのは?」
帝国士官
「バカモン。バイオ脳の培養にどれだけの時間とコストがかかると思っている?」
アムロ・レイのバイオ脳。正確にはその戦闘データのみを学習させた最終兵士。たしかに記録上では、アムロのバイオ脳はサイコミュ的な波長を発揮したと言われている。しかし、製造されたバイオ脳は全て木星軍に破壊されている。今から作り直していては、計画には間に合わない。しかし、それは強化人間を作るにしても同じこと。小太りの士官は腕を組むと小さく唸り、それから溜め息を吐いた。
帝国兵
「隊長?」
帝国士官
「いや…………。なかなか前途多難だと思ってな」
そう、士官が言った時だった。ポゥン、という音ともに“巨神”の計器に光が灯る。
帝国兵
「これは……!?」
ポツンと灯った光は一条の線を描き、そして急激なGが士官達を襲う。“巨神”が、動き出したのだ。
帝国士官
「どうなっている!?」
帝国兵
「わかりません!?」
“巨神”が立ち上がり、そして天を見上げる。暗い空の向こうには、果てしない闇。吸い込まれるような宇宙が広がっていた。木星からでも、宇宙は暗く、星は眩い。しかし、そんな闇の向こうから、何かが迫っているのを士官達は見た。瞬い光と共に降り注ぐ光。一瞬、それは隕石か何かに見えた。しかし、違う。隕石ならばこんな軌道は描かない。
それは、直角に曲がる不自然な軌道を描きながら接近しているのだ。
帝国士官
「UFO!?」
幼い頃、そんな話を聞いたことがある。旧世紀の中世、宇宙に夢と希望を抱いた人々が作り上げた御伽噺。しかし、違う。御伽噺などではない。なぜなら瞬い光と共にそれは、現実に士官達の下へ向かっているのだから。やがて一瞬の時間が過ぎ、それは眼前に姿を現す。それは、黒い外観を纏った悪魔のようなマシンだった。地球に住む蝙蝠という動物を思わせる大きな翼を広げ、両手に戦斧を構えたそれを視認した瞬間、“巨神”の計器に灯ったゲージがさらに輝きを増す。まるで、生存本能に訴えかけるように。
黒い悪魔は“巨神”の前に躍り出ると同時、戦斧を振りかざす。そして、
號
「ゲッタァァァットマホォォゥク!!」
その宇宙すら揺るがす咆哮に、誰もが目を奪われる。“巨神”の生命を刈り取る悪魔の戦斧が振り下ろされ、しかし、
イデ
「…………!」
“巨神”の頭。バイザー型のカメラアイが緑色に発光すると同時、巨神の腹部のハッチが開き、キャノン砲が展開される。
號
「ゲッタァァァッビィィィッム!」
爆炎の中から立ち込める緑色の光。ゲッタービームが、“巨神”に炸裂するのだった。
…………………………
「漆黒のSTORM」
…………………………
一文字號。悪魔を操る少年は、対峙する“巨神”を睨む。そこにあるのは、敵意でも殺意でもない。純粋な使命感。それはある意味、本能と言ってもいい。號は本能で、己の精神力で、本来ならば3人のパイロットが必要なマシンを動かしている。
號
「真ゲッター……。奴が“巨神”か!」
真ゲッター。そう呼ばれた黒いゲッターロボは唸るような駆動音を上げ、號の言葉に応えた。
真ゲッターロボ。それは拓馬達の世界で過去に、流竜馬らが搭乗し地球の危機を救ったとされるゲッター。今の一文字號は、正確にはゲッター線により受肉した意識体である。ゲッター線の代行者。その黒い疾風が嵐を呼ぶ。ゲッタービームの一閃が“巨神”へと届き、爆ぜる。全てをゲッター線へと同化していく、真ゲッターロボのゲッタービームを浴び、“巨神”の巨体は大きく揺さぶられた。
帝国兵
「う、うわぁぁっ!?」
圧倒的な力を持つ“巨神”の中にあっても、真ゲッターロボの威容は、そしてゲッター線の光は恐怖を呼び起こす。
イデ
「…………!」
“巨神”の計器に記されたゲージが、また一つ伸びた。次の瞬間、ゲッタービームは“巨神”へ届くその直前に霧散していく。まるで、“巨神”を守るように、見えない障壁が生み出されたかのように。
號
「バリアか!」
號の……ゲッター線の記憶の中に、それは刻み付けられている。イデバリア。意志を持つエネルギーが、自らの防衛本能を剥き出しにして発動する障壁。前の宇宙で、ゲッターエンペラーのエンペラービームからもその身を守り抜いた絶対の防衛結界。ゲッタービームすら打ち消してしまうまでに、既に“巨神”は復活を果たしている。だが、まだ完全ではない。
號
「ならば、ゲッタァァァッサイトォッ!」
二振りのトマホークを重ね合わせる真ゲッター。トマホークはたちまち命を刈り取る大鎌へと変化し、漆黒の嵐は再び“巨神”へと接敵する。
號
「うぉぉぉぉっ!」
“巨神”の懐に入り込み、號はゲッターサイトを振り上げた。しかし次の瞬間、“巨神”はまるで赤子のように身を屈める。当然、中の士官達はそんな操作はしていない。
帝国兵
「な、何が……?」
帝国士官
「“巨神”が、勝手に動いているのか!?」
瞬間、“巨神”の全身から次々とミサイル弾が発射される。まるで近づくもの全てを迎え撃つようなミサイルの雨が、真ゲッターに叩きつけられた。
號
「グォッ……!?」
振り上げた大鎌は“巨神”に届くことなく、真ゲッターはミサイルの雪崩に飲み込まれていく。光速で飛び回る真ゲッターすらも、避けきれない量のミサイル。それを“巨神”は、防衛本能のままに繰り出していた。
帝国兵
「こ、これが“巨神”なのか……!」
その力で地球への直接攻撃を計画している木星軍の兵士ですら、“巨神”の力を前に戦慄する。もし、この力の矛先が我が身に……そして木星に向いたらどうなるか。想像するだに恐ろしい。だがしかし、より恐ろしいのは“巨神”の力に撃たれても尚、立ち上がる悪魔の姿。
號
「ハァ……ハッ……!」
真ゲッターは受けた傷を即座に癒し、腹部から螺旋状のゲッタービームを撒き散らす。“巨神”のバリアはそれを霧散させるがしかし、真ゲッターは畳み掛けるようにさらにゲッタービームを連射する。“巨神”の存在を、今ここで完膚なきまでに打ちのめす。そんな強い意志がそこにはあった。
帝国士官
「な、なんなんだこいつは!?」
帝国兵
「ば、化け物めぇっ!?」
しかし、その漆黒の意志は帝国士官達の恐怖を助長し、恐怖心は“巨神”に更なる力を与える。イデバリアの出力は上昇し、グレンキャノンの斉射が真ゲッターを襲う。しかし、既に一度受けた攻撃を易々と受ける真ゲッターではない。號はゲッターウィングを広げ、直角に機体を動かしグレンキャノンを避けていく。
號
「ゲッタァァァッバトルウィングッ!」
大きく広げた悪魔の翼は、それそのものが鋭利な凶器になる。號は光速で真ゲッターを移動させながらも、“巨神”への攻撃の手を緩めない。
號
「ウォァァァァァッ!!」
叫び、吼え、唸る。まるで闘争本能のままに戦っているかのような號に応えるかのように、漆黒の嵐……真ゲッターロボ・タラクもその力を高めていく。その本能のままに荒ぶる血潮が、その全身という武器が、イデのバリアを突き破り“巨神”の装甲に傷を与えた。
帝国士官
「な、ぁぁっ!?」
鋭利な爪が眼前に迫る。士官が叫び、失禁する。一切の躊躇ない、剥き出しの殺意を浴びればいかに訓練を受けた、帝国のために死ぬ事を喜びと教えられた士官であっても湧き上がる恐怖の感情には逆らえない。人間とは、そういう生き物なのだ。
そして、ヒトが“恐怖”に呑まれる生き物であればこそ、“巨神”はその秘めたる力を刺激される。
イデ
「…………!」
巨神の全身が、
號
「何ッ!?」
瞬い光に、號の視界が一瞬、歪む。そして、
イデ
「…………ゲッターよ。何故、刃を向けるのです」
“巨神”の輝きの後、ゲッターに……號に語りかけるものがあった。その姿はまるで、黄金の女神。もし信心深いものが一度その姿を見れば、忽ち傅いてしまうだろう。しかし號は黄金の女神の姿を認めると、敵意を剥き出しの視線で叫ぶ。
號
「黄金の女神……いや、イデ。お前達は、人類の文明を……歴史を無へと還す。意志を持つ者は、お前達の有り様を認めない!」
叫ぶ號。しかし黄金の女神……イデの化身はそんな號の叫びを憐れむような瞳で受け流す。
イデ
「それは、ゲッター線の……全ての生命を果てなき闘争へ導くもの。お前はその意志に従い、全ての宇宙を破壊するのをよしとするのですか?」
號
「…………!」
イデの化身は語る。號はしかし首を振り、黄金の女神を睨め付ける。
號
「黙れ! 俺はゲッターに支配されちゃいねえ! ゲッターが宇宙を破壊しちまうなら、俺がゲッターをぶっ壊す!」
號が吼える。その叫びに呼応するように、真ゲッターロボは両手を掲げると、その中に熱を
灯した。
號
「ゲッター線も、無限力も関係ねえ! てめえらが人類を試すような真似をするなら、俺は絶対に認めねえ!」
それは、ゲッター線の意志すらも超克する叫び。號の叫びと共に、ゲッターエネルギーが膨れ上がる。真ゲッターロボ・タラクの両腕の中で増幅するゲッターエネルギーの熱暴走。それを精神力で球体に押し留めている。それは黄金の女神……イデの化身から見ても、驚愕すべき出来事だった。
イデ
「お前はゲッター線を、自らの意志でねじ伏せているとでもいうのか?」
そんなことができるわけがない。何故なら號は、既に同化された存在。ゲッターと一つになることを受け入れた自我が、ゲッター線に……無限力に叛逆しそして、ゲッター線を支配している。神ですら畏れ、悪魔すら慄く無限の力。その片鱗を支配できる人間など、いるはずがない。
號
「俺の意識は、長くは持たねえ。いずれゲッター線の中に戻っていく。だがな! 今てめえをぶっ倒すには十分なんだよォッ!」
真ゲッターの両手に込められたゲッターエネルギーの塊が、一気に膨れ上がる。それはまるで、ゲッター線の太陽。太陽を生み出した真ゲッターロボは、その超高熱の塊をそのまま“巨神”めがけて投げつける。
號
「ストナァァァァァァッサン、シャイィィィィィィッン!」
ストナーサンシャイン。ゲッター線の力で擬似的な太陽を作り出し、敵のど真ん中で太陽を爆発させ、ゲッター線のビッグバンを発生させる真ゲッターロボの最強兵器。それを受けた“巨神”はイデバリアを発動させるが、次第にビックバンの中に呑まれていく。
帝国兵
「ウ、ウワァァァァァッ!?」
イデバリアに守られながらも、“巨神”の中にいた木星帝国軍人達はその光を、熱を完全に遮断することはできない。生命が消える音を、“巨神”は聞き届ける。そしてそれは、“巨神”の覚醒を促すゲージに更なる力を与えていく。
イデ
「愚かな……ゲッター線よ。全ての生命は輪廻する。お前は輪廻の円環を侵し、全ての生命を闘争へと駆り立て、宇宙を破局させる!」
黄金の女神が叫ぶと同時、ストナーサンシャインのビックバンの中から伸びてきたものは、
號
「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
イデ
「争い、憎み合い、滅ぼし合う。そのような道しか選ばなかった愚かな無限力・ゲッター線の使者よ。お前は、ここで果てるがいい」
イデオンソード。無限力そのものを放出する必殺の技。それに打たれたものは悉く、文字通りの無へと還元されていく。真ゲッターはイデオンソードを真正面から受け、號の全身に激痛が走り、絶叫する。
イデ
「ゲッターよ。お前と私は決して相入れることはない。必ず滅ぼし合う。だからこそ宇宙はイデの宇宙とゲッターの宇宙に分たれた。だが、ゲッター線の意志が私の宇宙を侵すのならば、消えてもらう」
號
「ふ、ざ、け、ん、、じゃ、ね、ぇぇぇっ!」
真ゲッターは、イデオンソードの光の中でしかし、その大きな翼を翻す。一文字號という男の精神は、イデの光を拒みそして、振り切ったのだ。しかし、
號
「チク、ショウ……」
一文字號の意識が連続していたのは、その瞬間までだった。やがてプツリと、糸の切れた人形のように號の意識は暗転し……真ゲッターロボ・タラクも光となって消えていく。
やがてイデオンソードの光は止み、“巨神”に灯っていた熱も、ゲージも消えた。まるで、はじめからそこに意志など存在しなかったかのように。それは、號という存在を“巨神”は、イデの化身は既に脅威と認識していないことを意味していた。
そして残されたのは、ダメージを受けた“巨神”のみ。それの解析を続けていた木星帝国の士官、調査班、技師、兵士は全て……忽然と姿を消してしまっていた。
…………
…………
…………
─???─
深い、深い闇の中で一文字號の意識は覚醒する。まだ、自分の意識は完全にゲッター線へ取り込まれていない。それを認識すると、號は精神を集中し、自らを包む深い闇を真ゲッターロボの姿へと変化させていく。
號
「俺の力じゃ、“巨神”は倒せない……」
不完全な覚醒を果たした“巨神”にすら、號と真ゲッターロボ・タラクでは届かない。それは號には屈辱だったがしかし、予想していたことだった。
號
「人類の未来は、あいつらに託すしかねえか……」
ゲッターロボアーク。ゲッターエンペラーの意志を越え、運命に勝つ力と可能性を秘めた若き戦士。そして、號の知るそれとは違う、もう一つの世界の流竜馬。
號
「なら、俺にできることは……」
少しでも気を抜けば、再びゲッター線の中に還っていく。そんな不安定な状態のまま號は力を振り絞り、真ゲッターロボの翼を広げた。