スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第29話「激闘ミケーネ帝国! 我らがダブルマジンガー!」

─火山島基地─

 

 

 

地獄大元帥

「何? それは本当かヤヌス侯爵」

ヤヌス侯爵

「はっ。人間どもはこの火山島基地を発見し、既にグレートマジンガーが向かっている模様です」

地獄大元帥

「フム……。東京湾に駐留している艦から核弾頭を強奪する作戦は、一時保留にする他ないか」

 

 地獄大元帥の耳に届いたその報告は、彼の脳裏に“決戦”の二文字を想起させるものだった。地獄大元帥はしかし、それを聞いて不敵に笑う。前回のマチュ・ピチュでの戦いでは、ゲッターロボアークの乱入により不覚を取った。しかし、ここは火山島基地。こちらにとってのホームグラウンドでもある。

 

地獄大元帥

「フフ。飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことよ。ヤヌス侯爵。剣鉄也を迎え撃つ準備をしておけ。丁重にな」

 

 地獄大元帥がそう言うと、ヤヌス侯爵はニヤリと笑う。既に準備は万端。そういう雰囲気がヤヌス侯爵にはあった。

 

ヤヌス侯爵

「はっ。既に手は打ってあります。キャットルー!」

 

 ヤヌス侯爵の合図に合わせ、黒豹のような出立ちの人造人間……ヤヌス侯爵の忠実な手駒・キャットルー達がモニタを映す。そこは、火山島基地に捕えられた人間達を捕囚する地下牢だった。映されているのは、金髪と凛々しい目をした女性。ベラ・ロナ。闇の帝王の手駒となったザビーネによって捕えられ、闇の帝王の妃になることを強要されている女性。で、あると同時にVBの主力メンバーである宇宙海賊クロスボーン・バンガードにとっての要人。

 

ヤヌス侯爵

「諜報部の調べでは、ベラ・ロナはVBのメンバーであるシーブック・アノーの妻でもあるようです。仲間の身内を人質にすれば、剣鉄也も迂闊には攻撃できないことでしょう」

 

 ヤヌス侯爵は、それが名案であるかのように語る。ベラ・ロナの命を盾にするのは悪い作戦ではないと地獄大元帥もコクリと頷いた。しかし、その表情はどこか不満げ。

 

ヤヌス侯爵

「いかがいたしました。地獄大元帥」

地獄大元帥

「いや、ベラ・ロナは貴族主義を終わらせた女。そして木星軍との戦争では海賊軍を率いた女傑でもある……」

 

 地獄大元帥はモニタ越しに映るベラの顔をまじまじと見やった。覚悟を決めた人間は、時折人質としての価値を放棄する恐れがある。生半可な戦士が相手ならそれでもいけるかもしれない。しかし、相手は剣鉄也だ。ミケーネを滅ぼすために青春を捧げた偉大な勇者だ。

 地獄大元帥が恐れているのは、剣鉄也が人質を無視する覚悟を決めてしまうことだった。

 剣鉄也という人物を、地獄大元帥はまだ十分に見極めたわけではない。しかし、はっきりしていることが一つだけある。それは、鉄也は誰よりも厳しく、強い生き方を自らに課した戦士であり、真の勇者はたとえ仲間から恨まれようとも世界の、人類の未来のためならば大義を成すだろうと言うこと。

 ベラ・ロナという人質だけでは切り札になり得ない。そう、地獄大元帥の直感は言っていた。

 

ヤヌス侯爵

「フフフ、地獄大元帥。既に抜かりはありません」

 

 ヤヌス侯爵が言う。それに合わせるように、キャットルー達は地下牢の映像をスライドさせる。ベラが捕まっている牢の隣。そこには、幼い子供がひとり。

 

地獄大元帥

「ほう! その子供を捕まえていたのか!」

 

 地獄大元帥……ドクターヘルにとっても、その子供は因縁浅からぬ相手だった。兜シロー。兜十蔵の孫であり、宿敵・兜甲児の弟。

 

ヤヌス侯爵

「兜シローはあの兜甲児の弟であり、兜剣蔵の実の子です。剣鉄也も易々と見捨てることはできないでしょう。そして万一見捨てたとしても、鉄也と甲児、そして剣蔵の間には決して埋まらない深い溝ができるのです!」

地獄大元帥

「フム……。面白い、面白いぞヤヌス侯爵。兜甲児と剣鉄也。魔神の宿命を背負う者同士が憎み合うやもしれぬ。それに何より、甲児は唯一の肉親としてシローをとても大事にしていた。鉄也が降伏するならばそれもよし。鉄也がシローを殺し、甲児と憎み合うことになるならばそれもよし!」

 

 甲児と鉄也が憎み合うことになれば、ダブルマジンガーは連携を取れなくなる。それだけではない。ともすればダブルマジンガーが激突する展開もあるかもしれない。それは、あまりにも魅力的な想像だった。地獄大元帥の憎むマジンガー。マジンガー同士が憎み合い、殺し合う。実現すれば、どれほど胸のすく思いがするだろう。

 

地獄大元帥

「よし。エルド王子に迎撃の指揮をやらせろ。ヤヌス侯爵は人質の準備を整えておけ」

ヤヌス侯爵

「はっ」

 

 ミケーネ帝国火山島基地。ここはもうじき戦場になる。下手をすれば、ミケーネは地上侵攻のための最前線基地を失うことになるかもしれない背水の陣だ。当然、やってくるのは鉄也だけではないだろう。ゲッターロボやシャッフル同盟。VBの全戦力がやがて火山島基地へ向かいやってくる。

 だからこそ、全戦力で迎え撃ちそして、完膚なきまでにVBを叩きのめす。それは語るまでもない前提だった。その上で、憎きマジンガーに最大限の屈辱を与えたい。そんな、ドクターヘルという人間としての心が今、地獄大元帥を逸らせていた。

 

地獄大元帥

「それとヤヌス侯爵。エルド王子にはあれを渡してやれ」

ヤヌス侯爵

「あれを、ですか……?」

 

 地獄大元帥の指示に、ヤヌス侯爵は怪訝な声を上げる。地獄大元帥の言うあれとは言わば、ミケーネの切り札だ。

 

ヤヌス侯爵

「お言葉ですが大元帥。エルド王子をそこまで信用してよろしいのですか?」

 

 ドラゴニア王国のエルド王子。ミケーネ帝国がかつて傘下としたドラゴニアにおいて、国王ドラドを追い落とし自らが権力の座に立たんとした若き王子。彼が闇の帝王への叛意を秘めていることなど、ヤヌス侯爵にもわかっていた。

 そのエルドに、切り札を与える。それは新たなミケーネの敵が生まれることを意味しているのではないかとヤヌスは考える。

 

地獄大元帥

「フフ、ヤヌス侯爵。お前の懸念は最もだ。だが、だからこそお前にはエルドへの抑止力となってもらう」

ヤヌス侯爵

「! それは、つまり……」

地獄大元帥

「ヤヌス侯爵。お前にも切り札を与える。エルド王子がワシや闇の帝王へ叛意を見せたら、容赦なく殺せ」

ヤヌス侯爵

「ハハッ!」

 

 敬礼と共にヤヌス侯爵らが退出し、地獄大元帥はひとりになる。孤独の時間。しかしそれも長くはない。もうじき敵が来るのだ。もしかしたらこれが最後の時間になるかもしれない。

 だからこそ、地獄大元帥……ドクターヘルはひとりごちる。

 

地獄大元帥

「あしゅら、ブロッケン。地獄で吉報を待つがいい。ワシがついに憎きマジンガーを倒すという、お前達の念願をついに、叶える時が来たぞ」

 

 この戦いは地獄大元帥……ドクターヘルにとっても、家族同然でもあった仲間の悲願。そして、

 

地獄大元帥

「兜……。ワシはドクターヘルだった頃、ついぞお前に勝つことはできなかった。ワシの機械獣達はことごとく、お前のマジンガーに倒されたのだからな」

 

 ドクターヘルはひとりごちる。今は亡き宿敵(とも)へ。

 

地獄大元帥

「冥土の土産を待っておれよ。ワシと、お前の遺したマジンガー。それに子と孫の戦いを思う存分、語って聞かせようじゃないか」

 

 それは、ドクターヘルという人間性の哀愁なのかもしれない。歪んだ友情を語る地獄大元帥の声は暗く、しかし楽しそうだった。

 

 

 

 

 

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第29話

「激闘ミケーネ帝国!

 我らがダブルマジンガー!」

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─ミケーネ帝国・火山島基地─

 

 

 

 

 火山島基地に潜入し、クィーン・エメラルダス号との連絡役を買ってでいるフランシスは、基地の様子が何やら慌ただしくなっていることに気づいていた。物陰に隠れ、ミケーネス達の行き交う様子を息を殺して見守っている。

 

フランシス

(VBの火山島基地攻撃作戦が始まるのか?)

 

 だとしたら、急がなければならない。危険を承知でフランシスがミケーネへ潜入したのは、クィーン・エメラルダス号に情報を送るためともう一つ、重要な仕事を任されている。

 

フランシス

(ミケーネに囚われているベラ・ロナを救出する。今がチャンスだな……)

 

 ベラ・ロナが囚われている地下牢への道は、既に調べはついている。あとは鍵さえ手に入れれば、救出に向かうことができた。ここが戦場になるならば、警備も手薄になるかもしれない。そうなれば、まさに千載一遇のチャンス。

 

フランシス

「…………よし!」

 

 ミケーネス達の行軍が去ったのを確かめると、覚悟を決めてフランシスは駆け出していった。

 

 

 それと時を同じくして、火山島基地は既に迎撃体制を固めていた。空を、海を、大地を埋め尽くす機械獣、戦闘獣、メカザウルス。そしてその中央には、地獄大元帥の無敵要塞デモニカが鎮座し、その時を待っている。

 

エルド

「……地獄大元帥、本当に敵が来るのか?」

 

 メカザウルス隊を指揮する無敵戦艦ダイの艦長席に座る金髪の美青年、エルドは疑いの目で地獄大元帥を見やる。しかし、地獄大元帥はそんなエルドの視線を受け止めると、「無論だ」と呟くのみ。

 

エルド

「……闇の帝王に捨て駒とされた俺を拾ってくれたことには感謝している。だが、俺はこれでもドラゴニア王国の王子だ。地獄大元帥、俺を手駒にできるとは思っていまいな?」

 

 エルドにも、プライドというものがあった。今となってはミケーネ帝国の一部に加えられたといえ、彼はドラゴニア王国の王子だ。

 だが地獄大元帥は、そんなエルドの眼光を物ともしない。エルドの心に野心の炎が燃えていることなど、地獄大元帥には手に取るようにわかっていた。何故ならその炎は、一度はドクターヘルだった自分も燃やしたものなのだから。

 

地獄大元帥

「フフフ、エルドよ。お前が闇の帝王への叛意を隠していること、見抜けぬと思うか?」

エルド

「!?」

 

 ミケーネ帝国が地上を支配した時、エルドは闇の帝王に叛旗を翻す。やがて自らが世界の全てを手に入れなければ気が済まない強欲の男。そんなエルドの心を、地獄大元帥はまるで小学生向けのパズルでも解くかのように容易く解いていた。

 

エルド

「……それでどうする? 貴様も闇の帝王のように、この俺を使い捨てるつもりか?」

地獄大元帥

「いや、お前の野心……ワシは高く買っておる」

 

 エルド王子も地獄大元帥も、共に闇の帝王の力でこの世に再誕した存在。闇の帝王の支配に抗うことはできない存在であると、地獄大元帥は自らを理解していた。おそらく、闇の帝王に逆らえばその瞬間にもこの命は潰えることになる。だからこそ、地獄大元帥はミケーネの尖兵という立場を受け入れている。

 だがエルド王子は違う。エルドは今も、闇の帝王の寝首を掻くチャンスを伺っているのだ。いずれ自らが、闇の帝王となるために。

 それは、同じく世界の頂点に君臨することを志した地獄大元帥にはないエネルギーだった。

 

地獄大元帥

「エルド。お前がこの世の全てを手に入れるのをワシも見てみたいのだ。だが、そのためにはまず憎き魔神をこの世から葬り去らねばならん」

 

 グレートマジンガー。それにマジンガーZ。地獄大元帥の胸中に渦巻く黒い炎。それを激しく燃やす薪。そしてそれは、エルドの胸の内にもある。

 

エルド

「火野ヤマトと、ゴッドマジンガー……!」

 

 “光宿りしもの”にして、ムー王国の守り神。ゴッドマジンガーと火野ヤマトに、エルドは幾度となく辛酸を舐めさせられた。その屈辱は、筆舌に尽くしがたい。

 

地獄大元帥

「エルドよ。闇の帝王は邪霊機の娘……ライラの術を真似て我らを蘇らせた。そしてライラが蘇らせたリビングデッド達には、共通点があった。何かわかるか?」

エルド

「…………この世にしがみつくほどの、強い憎しみか」

地獄大元帥

「左様。この世で最も強く、世界すらも変えてしまう感情。それが憎しみだ。我々はマジンガーを強く憎むが故に、闇の帝王が蘇らせることに成功したのだ」

 

 魂がワーラーカーレンを通り、新たな命として生まれ変わるためにはバイストン・ウェルで魂の修練を積む必要がある。人間の言葉で言うならば天国や地獄といったような死後の世界。しかし、あまりにも強い憎しみの心は現世に留まり……或いは魂の坩堝に陥って嵐の壁を越えることはできない。

 

地獄大元帥

「シャピロ・キーツやショット・ウェポン。それにミケロ・チャリオットにザビーネ・シャル。奴らはそんな強い憎しみを抱えていたが故に、邪霊機に見初められたのだろう。そしてワシらもまた、マジンガーへの憎しみが現世に染みついていた。故に、闇の帝王に見染められた」

 

 それは、地獄大元帥として復活してからずっと、ドクターヘルが考えていたことだった。闇の帝王との邂逅。そしてミケーネの知識の片鱗を与えられたことで、ドクターヘルは人間だった頃には辿り着けなかったいくつかの答えに迫りつつある。

 闇の帝王曰く、宇宙とは無限に輪廻を繰り返す螺旋迷宮。神とはその輪廻を越えて存在するもの。宇宙は膨張を続け、やがてビックバンにより消滅する。そして再び新たなる宇宙が生まれる。途方もない時間をかけて行われるはずの、言わば宇宙という生命の寿命。その中で繰り返される闘いの数々。宇宙を越えて人々のインスピレーションに現れる魔神の姿。

 

地獄大元帥

(“光宿りしもの”……。ゴッドマジンガーとは即ち、原初の魔神。その姿を人間のDNAは克明に記憶するが故に、マジンガーが生まれる。或いは宇宙の輪廻を越えて必ず生まれるガンダムやゲッターロボという存在も、オリジンが存在するのやもしれんが……)

 

 地獄大元帥は、常に疑問を抱いていた。なぜ闇の帝王は、人類の殲滅と地上への侵攻を掲げるのか。たしかに地下に追いやられたことは事実だろう。しかし、地下がミケーネにとって過ごしにくい環境であったかと言われれば疑問が残る。地下で繁栄を続け、人類と不干渉を貫くという方向に舵を切ることもできたはずなのに、ミケーネ帝国はそれをしなかった。

 そして今、一つの仮説に思い至っている。それは、即ち。

 

地獄大元帥

(人間という存在を滅ぼさぬ限り、宇宙はいずれ破滅を避けられぬのやもしれぬ……)

 

 マジンガー。ゲッター。それにガンダム。宇宙が幾度と無く輪廻転生を繰り返しながらもその果てに必ず生み出される機神。それが人間の想像力の産物であるというならば、人間から想像力を奪う……即ち生きる力を失わせることこそが、宇宙を永遠に導くものであると。だからこそ闇の帝王は地下での潜伏を止め、人類への攻撃を開始したのではないかと。

 とはいえ、全ては空想に過ぎない。闇の帝王の真意など窺い知れようもない。故に地獄大元帥は、闇の帝王の忠実な駒になった。だが、エルドは違う。

 

エルド

「フン、闇の帝王が我が身を蘇らせたことには感謝もしよう。憎き火野ヤマトを血祭りに上げるチャンスをくれたことにもだ。だが、俺は誰かの下につくというのは我慢ならん。それだけのことだ」

 

 エルドは、闇の帝王に魂魄を握られながらもその叛意を捨てていない。その燃え上がる憎しみと野心は、時に思いもよらぬ力を発揮させる。

 地獄大元帥は、見てみたいと思ったのだ。この男と、マジンガーの戦い。その行く末を。

 

ミケーネス

「2時の方向より、高速で接近する物体あり! 数は1!」

地獄大元帥

「お喋りの時間は終わりのようだな」

 

 たった一機でこの火山島基地に迫る者など、心当たりはひとつしかない。地獄大元帥の指示で2時の方向のカメラを拡大すると、そこには真紅の翼を広げた偉大な勇者が一人。

 

鉄也

「マジーン・ゴー!」

 

 グレートマジンガー。ミケーネ地上侵攻における最大の敵がついに、この火山島基地に足を踏み入れようとしていた。

 

エルド

「来たか。メカザウルス隊、攻撃開始せよ!」

 

 エルドの号令と共に、上空を舞う翼竜型のメカザウルス・バドの一団がミサイルを放つ。グレートマジンガーはミサイルの軌道を見切り、最低限の動きでそれを躱す。躱わせない攻撃と判断すれば、グレートタイフーンでミサイルそのものを吹き飛ばしていく。そして、

 

鉄也

「雑魚に用はないぜ! ダブルマジンガー・ブレード! アトミックパンチ!」

 

 肩部から展開された二振りの剣を両手に握るグレート。握った剣を掲げた拳を、アトミックパンチ諸共射出する。剣を握る拳が飛び、次々と翼竜の首を斬り落としていく。

 

地獄大元帥

「やるではないか。ならばこちらはどうだ! 機械獣グロッサムX2よ。対空魚雷を発射せよ!」

 

 地獄大元帥が叫ぶ。それと同時、火山島基地の近海に潜んでいた頭部に大きなハサミを持つ機械獣・グロッサムX2が飛び出し魚雷を発射。今のグレートは両手を飛ばした状態。空中での防御姿勢に僅かな揺らぎがあることを、地獄大元帥は見越していた。しかし、

 

鉄也

「甘いぜ機械獣! バックスピン・キック!」

 

 飛んできた魚雷を、グレートマジンガーは速攻で蹴り飛ばす。蹴られた魚雷はそのまま反転。グロッサムX2目掛けて落ちていく。そして機械獣の目の前で爆発。そのまま機械獣は、自らの放った魚雷で木っ端微塵。

 

地獄大元帥

「ぬう。やるではないか剣鉄也!」

鉄也

「地獄大元帥、貴様を地獄に送り返してやるぜ!」

 

 アトミックパンチがグレートの身体に戻ると、紅の翼がはまた大空を駆けていく。スクランブルダッシュの加速と共に、デモニカ目掛けるグレート。デモニカからの弾幕を掻い潜り、ネーブルミサイルを叩きつけていく。しかし、デモニカの重装甲はそれをものともしない。

 

地獄大元帥

「効かぬ。効かぬわ! 戦闘獣軍団よ、今こそ憎きグレートを血祭りに上げよ!」

 

 地獄大元帥の合図とともに、デモニカの周辺に待機していた戦闘獣達が動き出す。グラトニオス、ダンテ、ゴールドフェニックス……いずれも強力なパワーを、技を持つ強敵達。グラトニオスのムチが伸び、ゴールドフェニックスの放つ火球がグレートを襲う。

 

鉄也

「ヌッ!?」

 

 グラトニオスのムチが、マジンガーブレードを叩き落とす。ダンテの放つ破壊光線が、超合金ニューZのボディに傷をつける。しかしその程度のアクシデントで怯む鉄也ではない。

 

鉄也

「戦闘獣が束になったところで、今のグレートの敵じゃないぜ! ブレストバーン!」

 

 グレートの胸部放熱板が、灼熱を放射する。それに合わせてグレートは空中で回転。回転する火炎放射器がグラトニオスを、ゴールドフェニックスを、ダンテを瞬時に溶解していく。

 

鉄也

「地獄大元帥、今の俺はこんなもんじゃ止められないぞ!」

地獄大元帥

「フン、流石は魔神に選ばれた男なだけはある。だが、ここは火山島基地。我らミケーネの本拠地だぞ?」

 

 地獄大元帥が不敵な笑みを見せる。そう、ここは敵の総本山。まだ機械獣も、戦闘獣も、メカザウルスもごまんといる。それに対し鉄也は孤軍。

 

鉄也

「フ……。本当にそうかな?」

 

 対する鉄也の口元にも、ニヒルな笑みが浮かんでいた。それと同時、グレートマジンガーの後頭部、プレーンコンドルのハッチが開く。

 

鉄也

「雑魚の相手は任せたぞ、ヤマト!」

ヤマト

「任せろ鉄也!」

 

 プレーンコンドルの後部座席。そこに静かに待機していた少年が剣を抜き、空高くから飛び降りる。まるで自殺行為。しかし、この少年に限ればそうではない。

 

ヤマト

「ゴッドマジンガー!」

 

 ヤマトが声高に叫ぶと同時、空に投げ出された身体が黄金の輝きに包まれる。そして現れたのは、青銅の大魔神。

 

エルド

「ゴッドマジンガー……火野ヤマトか!」

 

 火野ヤマト。ゴッドマジンガーと一心同体となっているこの少年が呼べば、ゴッドマジンガーは瞬時に現れる。そこに時間や距離、次元の概念は存在しない。

 “光宿りしもの”火野ヤマトは、ゴッドマジンガーの中に宿ると同時、その剛脚と剛腕で次々と機械獣とメカザウルスを蹴散らしていく。

 

ヤマト

「お前達との決戦とあっちゃ、いてもたってもいられねえ! エルド、貴様との因縁も今日までだ!」

エルド

「ほざくがいいヤマト! 飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと。今日こそお前を血祭りにあげ、その屍をアイラへの手土産にしてくれる!」

 

 雑魚を蹴散らし、無敵戦艦ダイを目掛けて進撃するゴッドマジンガー。機械獣の破壊光線を魔神の剣で弾き返し、剛脚が機械獣を蹴り飛ばす。

 

ヤマト

「勝負だ、エルド!」

 

 ゴッドマジンガーよりも遥かに巨大な無敵戦艦ダイ。背中の大砲が火を吹き、ゴッドマジンガーを襲う。生半可なマシンなら、一撃で吹き飛んでしまう火力。しかしゴッドマジンガーはそれをものともせず、高く跳び上がり剣を振り上げる。轟、という叫びと共に、ゴッドマジンガーは無敵戦艦の首に剣を突き立てる。悲鳴のような叫び声を上げる無敵戦艦。エルドはしかし、そんな中でも不敵に笑みを浮かべている。

 

エルド

「フッ。その程度かゴッドマジンガー!」

ヤマト

「何ッ!?」

 

 無敵戦艦ダイの残る一頭の口が開き、灼熱の業火がゴッドマジンガー目掛けて放たれた。ダイの身をも焦がすほどの灼熱地獄。神の加護によって護られたゴッドマジンガーの装甲を越えてヤマトを炙る。

 

ヤマト

「ウッ!?」

 

 熱に炙られ、ヤマトは呻く。ジリジリと身を焦がす灼熱は、確実にヤマトの超能力を奪っていく。

 

エルド

「フフフ。魔神が無事でも、その中身が動けなければゴッドマジンガー、恐るるに足らず!」

ヤマト

「う……る、せぇ!」

 

 歯を食いしばり、ヤマトは耐える。無敵戦艦ダイの火炎放射を受けて、膝を付くゴッドマジンガー。無敵戦艦の丸太のような脚が、ゴッドマジンガーに蹴りを入れる。脳天をグラグラと揺らすような衝撃が、ヤマトを襲った。

 

ヤマト

「ウワァッ!」

 

 突き飛ばされるゴッドマジンガー。しかし、その衝撃はヤマトの超能力をさらに刺激させる。空へと投げ出されたゴッドマジンガーの姿が、無へと消えた。そして次の瞬間、大魔神は無敵戦艦ダイの背後にその姿を現す。

 

エルド

「な……っ!」

ヤマト

「残念だったなエルド。俺とゴッドマジンガーは一心同体だ。どちらかだけを倒そうなんて甘えたことを考えた時点で、お前は負けてるんだよ!」

 

 黄金の輝きを放ち、ゴッドマジンガーの口が開いた。まるで怒髪天を突いたかのような憤怒の表情を浮かべる魔神。その姿は、エルドすらも恐怖させる。

 

エルド

「お、おお……!」

ヤマト

「ゴッドマジンガー、フルパワーだ!」

 

 魔神の剣を大きく振り上げ、ゴッドマジンガーが吼えた。それと同時に振り下ろされる刃。恐竜戦艦は甲高い雄叫びを上げると同時、ゴッドマジンガーの剣は恐竜の、心の臓を突き破る。それは、断末魔の叫びだった。

 

ヤマト

「エルド、お前との因縁もこれまでだ!」

 

 魔神は剣を引き抜く。血液を噴き出して倒れる無敵戦艦。ゴッドマジンガーは思い切り、艦橋に剣を突き立てんと掲げた。狙うは敵将・エルドの首只一つ。

 

エルド

「フフフ……。これで終わりと思うな」

ヤマト

「何ッ!?」

 

 しかし、エルドはそんな中にあっても不敵な笑みを、余裕を崩さない。まるでこの局面を既に予測していたかのように。そうでありながら、エルドを乗せたまま無敵戦艦ダイは倒れ臥す。巻き上がる土煙。ゴッドマジンガーは逃れるように身を引き、無敵戦艦ダイの屍骸を見据えていた。

 

ヤマト

「何かがおかしい……。あのエルドが、こんなに簡単にやられるわけがねえ」

 

 古代ムー王国に召喚された時から、エルドはヤマトにとって最も手強い相手だった。執念深く狡猾なあの男が、こんなに簡単に死ぬだろうか。そんな疑念が、ヤマトの中で渦巻き続けている。だが、いつまでもエルドにかまけるわけにはいかない。ゴッドマジンガー目掛け、機械獣の破壊光線が迫る。ヤマトはそれを念力で弾き飛ばし、魔神の剣で髑髏の機械獣・ガラダK7を両断する。

 

地獄大元帥

「フフフ……。見せてもらったぞ。“光宿りしもの”これがその力の片鱗か」

 

 無敵戦艦ダイを沈めたゴッドマジンガーの力。それを目の当たりにした地獄大元帥。その目は醜く歪み、そして憎悪に満ちている。

 

ヤマト

「けっ、悪の親玉に褒められたって嬉しくねえな!」

地獄大元帥

「“光宿りしもの”。お前の伝説がバードス島に残っていたからこそマジンガーZ、そしてグレートマジンガーは作られた。言わばお前は、ワシにとっても仇敵。そして……見るがいい!」

 

 戦艦ダイが倒れたあたりで何かが蠢いたのをヤマトは見た。そして、次の瞬間に飛んだものは黒鉄の拳。漆黒のアトミックパンチが、ゴッドマジンガー目掛けて飛ぶ。

 

ヤマト

「何ッ!?」

鉄也

「バカな!?」

 

 グレートマジンガーのそれと同等の鉄拳。咄嗟に防御耐性を取るゴッドマジンガーだがしかし、超合金ニューZの質量攻撃を前に突き飛ばされてしまう。

 やがて炎の向こうから現れたもの。それは黒い翼を広げ、胴体には金色の放熱板。その姿はまさに、漆黒のグレートマジンガーそのものだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

エルド

「フッ、フフフ……」

ヤマト

「エルドか!」

 

 漆黒のグレートマジンガー……ブラックグレートの頭部、プレーンコンドルの中でその操縦桿を握るのは、先程まで無敵戦艦の指揮を取っていたエルド王子。あの時、エルドが発した不敵の笑い声。その正体はこれかとヤマトは自分の迂闊さを呪う。

 

鉄也

「どういうことだ。何故、グレートをお前達が持っている!」

地獄大元帥

「グレートマジンガーの量産計画……。月のサナリィで行われていたな」

鉄也

「ッ!?」

 

 量産型グレート。それはマジンガーZの強化計画と合わせて密かに進行していた計画だ。それを地獄大元帥が知っているとなれば。

 

鉄也

「まさか……スパイがいたのか!?」

 

 無敵要塞デモニカの不気味な口が、ニィと口角を吊り上げているように鉄也には見えた。

 

エルド

「このブラックグレートは、サナリィの量産型グレートの設計図を盗み出し作り上げたもの。基礎スペックは完全にグレートマジンガーと同じ。だが、細部の調整を地獄大元帥が直々に行った、言わば最強の魔神。ヤマトよ、貴様とゴッドマジンガーはこの最新の魔神の前に敗れるのだ!」

 

 マジンガーブレードを抜き、ブラックグレートがゴッドマジンガーへと迫る。対するゴッドマジンガーも魔神の剣を抜き、ブラックグレートと相対。剣の腕ならばヤマトも決して引けを取るものではない。いかにブラックグレートがグレートマジンガー同等の豊富な武器を持っているとしても、この距離に近づいてくれるならばやりようはある。気をつけるべきはグレートブーメランやネーブルミサイル、ブレストバーンによる不意打ち。それができないように、後ろを取る必要がある。ヤマトは一瞬の間にそこまで考え、ゴッドマジンガーは大きく跳ねた。

 飛び上がり、ブラックグレートの上を取るゴッドマジンガー。そのままプレーンコンドルを蹴り付けようと足に力を込める。しかしエルドもそれは見抜いていた。ブラックグレートは顔を上げ、口の排気口から巻き起こす竜巻……グレートタイフーンでゴッドマジンガーを吹き飛ばす。

 

ヤマト

「ウワァッ!?」

エルド

「はははは、風速150mの竜巻だ。如何にゴッドマジンガーが頑丈とはいえ、中の貴様はどうかな!」

 

 ゴッドマジンガーと一体化するヤマトは、マジンガーの感じる痛みを肌で受けてしまう。今、ヤマトはその身を突風に刻まれているも同じだった。マジンガーと一体化していなければ、当然ヤマトは全身をズタズタにされて死んでいただろう。

 

ヤマト

「クソッ、こんなもんで死ねるかよ!」

 

 ゴッドマジンガーと一体化するヤマトの超能力が、魔神の力を高める。黄金に輝いたゴッドマジンガーは竜巻き切り裂き、再びブラックグレートへと切り込んでいく。

 

エルド

「ハハハ、これがマジンガー。神にも悪魔にもなれる力か!」

 

 しかし、ブラックグレートはスクラナンブルダッシュを展開すると空高く飛び上がり、ネーブルミサイルを次々と打ち込んでいく。最初のマジンガーブレードは、接近戦に持ち込むと見せかけたフェイント。エルドはゴッドマジンガーの特性を理解している。

 

エルド

「ヤマト、貴様のマジンガーは如何に強力な神通力があろうと、空からの、そして長距離からの攻撃には対処できまい!」

ヤマト

「エルドの野郎っ! ウワァッ!?」

 

 ネーブルミサイルが次々と放たれ、ゴッドマジンガーのボディで弾け、爆炎を呼ぶ。全身が焼け爛れるような激痛が、ヤマトを襲った。

 

鉄也

「ヤマト!? クソッ、グレートの紛い物め!」

 

 ゴッドマジンガーを助けようと、グレートはマジンガーブレードを抜いた。しかし、次の瞬間だった。

 

地獄大元帥

「フフ……。準備ができたようだな。剣鉄也、それに火野ヤマト。お前達に降伏を勧告する」

鉄也

「何だと?」

ヤマト

「ふざけるな……。どういうつもりだ!」

 

 声を荒げ、抵抗の意思を見せる鉄也とヤマト。その反応に地獄大元帥は、愉しげな笑みを溢す。

 

鉄也

「!? 何がおかしい!」

地獄大元帥

「フフフ……。これを見ろ!」

 

 無敵要塞デモニカのハッチが開くと同時、戦闘獣がデモニカの天井へと登ってくるのを鉄也は見た。以前、科学要塞研究所での戦いでジュンとボスが交戦した戦闘獣・グレシオスだ。

 

鉄也

「今更戦闘獣の一体が増えたところで!」

地獄大元帥

「フフフ、よく見るがいい!」

 

 グレシオスの胴体には、牢屋のようなスキマと、それを埋める柵がある。その中に、何かが入っているのが見えた。鉄也はカメラを拡大し、望遠する。そこに見えたのは女性と、子供だ。

 

鉄也

「あれは……まさか、貴様!」

 

 ベラ・ロナ。またの名をセシリー・アノー。キンケドゥの妻であり、宇宙海賊クロスボーン・バンガードの立役者。ザビーネに拐われていたセシリーが、グレシオスの牢屋の中にいる。

 

セシリー

「…………卑怯者」

 

 セシリーは柵を掴みながら、気丈にな目でこちらを見据えていた。そして、セシリーの足下。彼女の内腿にしがみついているのは、まだ小学校低学年程の男の子だ。

 

シロー

「うぅ……。こんにゃろう! 俺達を解放しろってんだ!」

 

 兜シロー。兜甲児の弟であり、兜剣蔵の次男。そのシローが、グレシオスの中に捕えられていたのだ。

 

鉄也

「シロー……!」

地獄大元帥

「剣鉄也、それに火野ヤマトよ。その女と子供の命が惜しくば、武器を捨てて投降するがいい」

 

 地獄大元帥の得意げな声。それは圧倒的な優位に立っている人間が、不利な立場の者を見下す時に特有の声色を以て響いた。

 

ヤマト

「卑怯だぞ。地獄大元帥、エルド! お前らそれでも男か!」

エルド

「何とでも言うがいい。この世界を制するものは力。卑怯などと、弱者の遠吠えに過ぎぬ!」

 

 ヤマトの罵声。しかしそれは、エルドにとっては心地の良いものだった。今まで何度も辛酸を舐めさせられ、そしてこの命すらも奪った怨敵。そのヤマトが、ゴッドマジンガーが、振り上げた剣を振り下ろせずに止まっている。

 

エルド

「ヤマト。女子供を見捨てることのできぬ甘さが貴様の敗因だ!」

 

 ブラックグレートの胸部から照射されるブレストバーン。その威力はグレートマジンガーのものと一切の遜色はない。超高熱が、ゴッドマジンガーを焼き焦がす。

 

セシリー

「なんて事を……!」

シロー

「クソー! 鉄也さん、こんな奴らの言うことなんか聞かないでくれよ!」

 

 グレシオスの中から叫ぶセシリーとシロー。しかしマイクのない戦闘獣の牢屋からでは、その言葉は鉄也の耳には届かない。いや、届いていたとしても鉄也にシローを見捨てるなどという選択は取れなかった。

 

鉄也

(俺にはできない。甲児の、所長の大切な家族を奪うなんて……)

 

 孤児だった鉄也にとって、兜剣蔵は実の父も当然の存在。その剣蔵の息子である甲児とシローは、鉄也にとっては弟も同じ。

 何より、家族を失う辛さは鉄也の心の底に染み付いている。

 剣蔵に、甲児に、自分と同じ辛さを体験させることなど、鉄也にはできない。

 

鉄也

「クソ……。地獄大元帥、見下げ果てた野郎だぜ」

地獄大元帥

「このワシは地獄大元帥。マジンガーへの恨みを晴らすため、地獄より蘇った。貴様らに屈辱的な敗北を与えるためならば、喜んで悪鬼になろうではないか!」

 

 攻撃の手を止め、立ち尽くすグレートマジンガー。そこへ頭部から腕の生えた異形の戦闘獣スパイスの持つ鎖が巻きつけられ、さらに鳥類型戦闘獣イゴーが、この時のために用意したとばかりにグレートの頭部に鉄のマスクをつける。視界すらも奪われ、安定感を失ったグレートは地上へ降下。鉄也のバランス感覚で咄嗟に両脚で受け身を取るが、今自分が何処に不時着したかもわからない。

 

鉄也

「クッ、どうするつもりだ。地獄大元帥!」

 

 セシリーと、シローを人質に取られている今、鉄也はどうすることもできない。鉄也は戦闘獣達に引きずられるまま、グレートを歩かせる。

 

ヤマト

「鉄也!?」

エルド

「ヤマト、貴様はこっちだ!」

 

 助けに行こうにも、ブラックグレートは強い。そして人質がいる以上、ヤマトも迂闊な動きはできないでいる。

 そして両腕と胴を縛られ、顔を仮面で隠されたグレートマジンガーは火山島基地の麓……。活火山が生き、マグマが脈打つ火口へと連れてこられた。火山の熱が、グレートマジンガー越しにも鉄也に伝わる。

 

地獄大元帥

「剣鉄也。そこからグレートマジンガーを3歩進めろ」

鉄也

「っ……!」

 

 それが何を意味するのか、視界を遮られていても感じる熱で鉄也にはわかる。

 

鉄也

「…………」

 

 3歩進めば、グレートはたちまち火口に落ちる。超合金ニューZのボディはそれでもしばらくは保つかもしれない。しかし、プレーンコンドルと中の鉄也は、ひとたまりもない。

 

鉄也

「なるほどな。この鉄仮面は俺を逃さないためでもあったのか。悪知恵の働く奴だぜ」

 

 悪態を吐きつつも、鉄也に選択肢はない。セシリーを、シローを人質に取られている以上。

 

鉄也

(どうする……。アルカディア号や別動隊の到着まで時間を稼げるか?)

 

 こうしている今もマチュ・ピチュからアルカディア号が、日本からガンドールがこちらに向かっている。それに、近くにはアランの集めた別働隊……キンケドゥ達も待機しているはずだった。

 

地獄大元帥

「どうした? 偉大な勇者も命が惜しくなったか」

 

 煽るように、挑発の言葉を放つ地獄大元帥。その声色からは勝者の余裕すら感じられる。

 

地獄大元帥

「いいことを教えてやろう。グレシオスの中にはヒーター機能が備わっていてな。あの女と子供は幸い、凍えることはない」

鉄也

「何……?」

地獄大元帥

「最も、人間には耐えられない熱の鉄板じゃ。今はまだ靴底が溶けかかる程度だが、お前がもたもたしている間にどんどん温度は上昇する。そうなればどうなると思う?」

 

 くつくつと笑う地獄大元帥。その心底楽しげな笑い声は、この男は確実にそれを“やる”男だと鉄也に確信させる。もはや一刻の猶予も、ありはしない。

 

鉄也

「万事休すか……」

ヤマト

「クソッ。こんな勝ち方して楽しいのかよ!」

 

 ヤマトの罵声も、今の地獄大元帥には、エルドには届かない。吠えれば吠えるほど、悩めば悩むほど、この二人は勝利を確信し……いや、憎き相手の屈服する姿に愉悦するのは火を見るより明らかだった。

 

シロー

「チクショウ。セシリーお姉ちゃん、どうにかならないのかよ!」

セシリー

「…………」

 

 セシリーの表情も険しかった。自分達に人質としての価値がある以上、彼らは戦えない。しかし、地獄大元帥が自分達を生かしてくれるとは思えない。この状況下でセシリーが打てる最善手。それは自ら舌を噛み切り命を絶つことに他ならない。そうすれば、自分の人質としての価値はなくなり、マジンガーは全力で戦うことができる。

 

セシリー

(覚悟はしていたはず……。なのに……)

 

 今のセシリーには、それができない。

 

セシリー

(キンケドゥ……シーブックは今も、私を助けるために戦ってくれている)

 

 愛する人のためにも、自分は死ぬわけにはいかない。それは命を捨てることすら覚悟して木星帝国との戦いに挑んだあの時にはない心だった。それだけではない。

 

シロー

「セシリーお姉ちゃん。なんとか言ってくれよ!」

 

 今こうして、共に捕まっているシロー。自分が死を選ぶと言うことは、まだ幼く未来あるこの少年にまで死を選ばせることに他ならないのだ。

 

セシリー

(そんなこと、できはしないわよ!)

 

 兜シローという少年がここにいることで発生する効果は、地獄大元帥の目論見以上の成果を上げていた。剣鉄也がシローを見捨てることなど選べないだけでなく、この小さく、弱い少年の存在は強く気高いセシリーの心すらも、鈍らせてしまうほどに大きなものだったのだ。

 それはコスモ貴族主義の先頭に立つ祖父・マイッツァー・ロナからの教えによるところも大きい。即ち、ノブレス・オブ・リージュ。

 セシリーはその気高き心故に、シローに犠牲を強要することなどできはしない。自分一つの命ならば、投げ出す覚悟をしていたとしても、そこに守るべきものがあればセシリーにそんな決断はできなかった。

 

セシリー

(どうすればいいの……)

 

 足下の鉄板は、ジリジリと靴底を焼いている。少しずつ、少しずつ熱くなっていくそれはやがて二人の靴を完全に溶かし、次は足を焼く。そうなればこうして柵に捕まるのもままならなくなるだろう。待っていても、やがて訪れるのは死。

 

ヤマト

「どうすればいいんだ……」

 

 抵抗できないゴッドマジンガーも、ブラックグレートの攻撃に傷付き膝をついていた。積年の恨みを晴らすかのように苛烈なエルドの攻撃。それを耐え続けているのはヤマトの精神力に他ならない。

 

鉄也

「……………………」

 

 ドクン。と心臓が鳴る音を鉄也は聞いた。このまま時を待っていても、おそらく地獄大元帥は待ってはくれない。このままでは確実に、全員が死ぬ。

 

鉄也

「クソッ……。俺は……」

 

 鉄也、今こそ甘さを捨て去る時じゃないのか。所長が自分を鍛えてくれたのは、こういう時に非情な選択ができる戦士にするためじゃないのか。鉄也の中で、戦士としての心が叱責する。

 だが、人質に取られているのは他ならぬ所長の息子なんだ。そしてそれは、自分にとっても家族同然。家族を見捨てるなんて、俺にはできない。鉄也の人としての心は、抗議する。

 

鉄也

「俺は……いつからこんな甘ちゃんになっちまったんだ!」

 

 かつての鉄也なら、肉親を盾に取られても戦士として使命を果たしただろう。それこそが自分の、勇者の義務として。しかし今、それができないでいる。

 鉄也は悩み、葛藤の末……。

 

鉄也

「……わかった。人質の解放だけは約束してくれ」

 

 敗北を、認めるのだった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—火山島基地・内部—

 

 

 人質に取られたセシリーとシロー。その罠にかかり窮地に陥ったマジンガー。その一部始終をモニター越しに眺めながら、恍惚の表情をする男がいた。

 

ザビーネ

「ああ……ベラ様。あなたの命が盾となる。それは、真の貴族である証!」

 

 ザビーネ・シャル。暗黒大将軍との決戦の際、キンケドゥらに倒された男。ザビーネはDG細胞によって自らの傷を癒やし、雌伏の時を待っていた。ザビーネの本来なら美しいなだらかな金髪は既に色褪せ、狂気の眼を血走らせたままセシリーの、ベラ・ロナの窮地に興奮するザビーネ。その姿にはかつて、クロスボーン・バンガードでモビルスーツ隊の指揮を執っていた頃の面影はない。

 

ザビーネ

「ああ……ああ。美しい、ベラ様。やはりあなたこそが人類の未来を背負う貴族!」

ヤヌス侯爵

「……………………」

 

 恍惚のまま譫言を吐き続けるザビーネを、ヤヌス侯爵はまるで不可解なものを見るかのような目で一瞥する。しかし、今はザビーネの妄想に付き合うつもりはない。

 

ヤヌス侯爵

「ホホホ、剣鉄也。暗黒大将軍の仇は討たせてもらうぞ」

 

 戦闘獣グレシオスは今、ヤヌス侯爵のコントロールで動いている。ヤヌス侯爵が握っている杖で、戦闘獣という身体に本来入っているはずのミケーネ人の頭脳をミケーネ帝国諜報部が使用するコントロール装置と同期させているのだ。

 地獄大元帥曰く、バードスの杖で機械獣を操るのと原理は同じだと言うことだが、つまり今グレシオスは……或いはセシリー、シローの命はヤヌス侯爵が握っていると言っても過言ではない。

 敵の命を握っているという優越感。それはやはり、ヤヌス侯爵の気を大きくさせていた。加えて言えば、ヤヌス侯爵には地獄大元帥より授かったもう一つの切り札がある。エルド王子が叛意を見せた時のために用意された切り札。ともすれば、今ヤヌス侯爵はミケーネ帝国における最高戦力を有していると言っても過言ではない。

 

ヤヌス侯爵

「ホホホ、剣鉄也。そしてグレートマジンガー。お前達の亡骸はこの火山島基地の養分になるのよ。けれど安心しなさい。VBの奴らも、お前と同じところに送ってやるわ」

 

 高々と杖を掲げるヤヌス侯爵。その後ろ姿を、ゆっくりと観察する人影があった。

 

フランシス

(…………あの杖が、あの戦闘獣をコントロールしているのか)

 

 フランシス。黒騎士アランの同志であり、火山島基地に一足早く潜入していた工作員。フランシスはたった一人で敵地の中核に忍び込み、そしてついに敵に捕えられたベラ・ロナを救出する鍵を見つけたのだった。

 

フランシス

(あの杖を奪えば、戦闘獣ごと人質を救助できる……!)

 

 戦場では今まさに、グレートマジンガーは窮地に陥っている。少しずつ、ゆっくりだがグレートは火口へ向かい進んでいる。もう、時間はあまり残されていない。迷う時間すら、今フランシスには残されていなかった。フランシスはおもむろに、右手に握った玉を投げ入れた。直後、玉からもくもくと煙が立ち込める。

 

ヤヌス侯爵

「な、何だ!?」

 

 発煙弾。狭い室内を瞬く間に煙で満たし、ヤヌス侯爵とザビーネの視界を眩ませる。

 

フランシス

「今だッ!」

 

 瞬間、フランシスは駆ける。そして力一杯のタックルでヤヌス侯爵を突き飛ばし、その右手に持つ杖を引ったくった。

 

ヤヌス侯爵

「なっ……!」

 

 捨て台詞を吐く余裕もない。杖を引ったくるとフランシスは反転し、脱兎のごとく駆けていく。

 

ヤヌス侯爵

「お、おのれ……!」

ザビーネ

「どうやら、鼠が紛れ込んでいたようですな」

 

 ゆらり、とザビーネが揺れる。一切の迷いなく、フランシスを追って動くザビーネ。駿足がフランシスを追い詰めていく。

 

ザビーネ

「その杖はァァッ! 平民が触っていいものではないィィィィッ!!」

 

 般若のような形相でフランシスを追うザビーネ。視界を奪う煙幕を浴びながら、充血した目を向けてフランシスへ迫っていく。

 

フランシス

「な、なんだあいつは!?」

ザビーネ

「その杖はァァッ! 歴史あるミケーネの貴族のみが触れるものぉ! 平民ごときが奪うなどぉ恥を知るがいい!」

 

 今のザビーネは、全身をDG細胞により強化されている。ガンダムファイターにも決して引けを取ることのない身体能力は、ゲリラで鍛えたフランシスすらも凌駕している。フランシスは一瞬の内に距離を詰められ、そして手刀の一撃で胸を刺し貫かれた。

 

フランシス

「カハ……!」

 

 吐血。心の臓を貫かれたことを確信し、しかしフランシスは決して怯まない。

 

フランシス

「俺の任務は、ミケーネの偵察。そして貴様に攫われたベラ・ロナを奪還すること……」

ザビーネ

「何?」

 

 ザビーネの、槍のように重い手刀に貫かれながらもフランシスは、渾身の力を込める。火事場の馬鹿力とでも言うべきものだろうか。死を覚悟した男の怪力。ベキ、という音と共に、フランシスの怪力が戦闘獣をコントロールする杖を真っ二つに折る。

 

ザビーネ

「なっ……!」

フランシス

「仕事は果たした……。あとは、頼む!」

 

 フランシスが叫んだ、その直後。

 火山島基地の上空に、青い飛行船が姿を現した。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

—クイーン・エメラルダス号—

 

 

 

 フランシスから、戦闘開始の合図を受けたクイーン・エメラルダス号は最大船速で火山島基地へ向かっていた。その間、フランシスとの通信越しに火山島基地の様子は知ることができていた。

 グレートマジンガーと、ゴッドマジンガーが先行しミケーネに打撃を与えていること。量産型グレートマジンガーのデータが、ミケーネの手に渡ってしまったこと。ベラ・ロナ……いや、セシリーと兜シローが人質にされ、グレートが窮地に陥っていること。

 そして今……フランシスが命を賭けて任務を果たしたこと。

 

エメラルダス

「……フランシス、勇敢な男です」

 

 その一部始終を聞いた女海賊は凛と立つ。美しく、なだらかな髪を伸ばし、強い意志を秘めた瞳と瞳を割くような傷を顔に持つ美女。しかしその傷すらも、神秘的な魅力を醸し出す女。

 

エメラルダス

「各機、出撃。フランシスの勇気を無駄にするわけにはいきません」

 

 女の号令と共に、戦場に現れたのは3機のガンダムだ。ガンダムの特徴とも言うべきトリコロール・カラーに、女性的なフォルムをしたしなやかなマシン・ノーベルガンダム。鐘のような出立ちにマスクを被る特徴的な外観のマンダラガンダム。そして、流星形のフォルムをしたガンダムF91。

 

ヤマト

「援軍か!?」

エルド

「何とッ!」

 

 クイーン・エメラルダス号の艦首から放たれるビーム砲が、ミサイルが戦闘獣を次々と撃破し、ガンダム達の道を切り開く。それは、戦場に突如現れた死神も同様だった。

 

地獄大元帥

「なんというステルス性能……。近くに潜んでいたか!」

 

 クイーン・エメラルダス号。一見すれば優雅な飛行船のようにも見える船はしかし、その中央部に髑髏のマークを持ってる。海賊船。それはこの広い宇宙において、誰よりも自由に生きることを己の魂に定めた者の刻印。

 クイーン・エメラルダス。彼女は何者にも縛られることはない。その顔の傷は、死神を連想させる。だが、彼女は真の勇気を持つ者の味方なのだ。急降下し、フランシスの信号ポイントへ突き進むクイーン・エメラルダス号。その突進は火山島基地を穿ち、火山島に覆われた基地施設を露わにしていく。

 

エメラルダス

「……………………」

 

 女海賊が降り立ったのは、ザビーネ・シャルがフランシスを突き刺した場所。今まさにフランシスは倒れ伏し、ザビーネは狂気の瞳をエメラルダスに向ける。

 

ザビーネ

「賤しい女海賊が……神聖なるミケーネ貴族の城に足を踏み入れるなどォッ!」

 

 ガンダムファイターもかくやというジャンプ。そこからの飛び蹴り。DG細胞に侵蝕されたザビーネの身体能力は、人間だった頃よりも飛躍的に上昇していた。しかしエメラルダスは、腰から引き抜いた重力サーベルを一振り。ザビーネを腰から真っ二つにする。瞬間、流れたのは赤い血などではなく、ザビーネの身体を作り替え蝕む金属細胞。二つに分かれたザビーネは呻くような声を上げ、しかしDG細胞はその上半身と下半身を一つに繋げようと自己再生、自己増殖、そして自己進化を試みる。

 

エメラルダス

「黙りなさい。人の心を捨て、偽りの永遠に手を伸ばした愚か者。私はお前のような卑怯者にではなく、真の勇者のために足を運んだのです」

 

 エメラルダスは倒れ伏したフランシスを抱き抱える。既に冷たくなったその身体からは、命が抜けていることをエメラルダスに実感させる。

 

フランシス

「……う、」

エメラルダス

「喋らないで。まだ間に合う」

 

 無理だ。そうわかっていてもエメラルダスは、まるで自分に言い聞かせるように声をかける。だが、フランシスの口は止まらない。

 他人から見て間に合わないほどの傷を負い、死を覚悟した渾身の力を使い果たした男はしかし、安らかな顔をしていた。

 

フランシス

「美しい女海賊、クイーン・エメラルダス……。最期に看取ってくれるのがあんたなら、俺も悔いはないさ」

エメラルダス

「…………!」

 

 その言葉を最期に、フランシスの全身に残っていた小さな力は今度こそ、完全にぬけていた。エメラルダスはフランシスの亡骸を抱き、自らの艦へと戻っていく。フランシスの託した仕事は、まだ終わってなどいない。

 

エメラルダス

「ゴッドマジンガー、それにグレートマジンガー。悪魔の軍団へ果敢に挑んだ勇者達。あなた達のおかげで、時間を稼げました。そして、フランシスの勇気ある行動が、道を切り開いてくれました」

 

 クイーン・エメラルダス号に戻り、エメラルダスは気丈に指揮を取る。今ここで、ミケーネの息の根を止めるために。

 

キラル

「左様。故に、今度は儂らの番だ!」

アレンビー

「王子様は早く行ってあげなよね、キンケドゥ!」

 

 エメラルダス号の指揮の下、マンダラガンダムの錫杖が敵を切り伏せる。ノーベルガンダムのしなやかな動きが、敵を引き付ける。

 

キンケドゥ

「わかった。待ってろ、セシリー!」

 

 専用のドダイ改から飛び立ったガンダムF91は、ブーストを吹かせて飛ぶ。F91の口元を隠すマスクが開き、肩や膝から放熱フィンが展開されていた。デモニカ周辺を護衛する機械獣や戦闘獣達が、F91目掛けて次々と攻撃を放つ。しかし、攻撃された箇所にF91はいない。

 

地獄大元帥

「質量を伴う残像だと!?」

キンケドゥ

「なんとぉぉぉぉっ!」

 

 敵の分厚い防衛網を突破するため、F91の腰から大型のビーム・ライフル……ヴェスバーが放たれた。高エネルギーのビームが、敵の防衛網に風穴を開ける。そうなれば、やることは一つ。

 

キンケドゥ

「セシリー!」

 

 キンケドゥ・ナウには……いや、シーブック・アノーには、わかっていた。セシリーが、どこにいるのか。だからこそ、F91は迷わずに突貫できる。

 

セシリー

「シーブック!」

 

 その姿を、セシリーははっきりと見ることができていた。

 

セシリー

(あの時……私が鉄仮面にやられて、宇宙に投げ出された時も、シーブックは見つけてくれた)

 

 だから、今度もきっと助けてくれる。セシリーはそれを一瞬たりとも疑ったことなどなかった。だが、それでも。

 

セシリー

(ガンダムが……あんなに頼もしく見えるなんて)

 

 きっとあの時も、シーブックのガンダムはこんな顔をしていたのだろう。あの時は、漆黒の宇宙空間に投げ出され、意識も朦朧とした中だった。だが、今ははっきりと見える。ガンダムを通した、シーブックの顔が。あの時と同じガンダムに乗り、あの時と同じように必死で自分を助けようとしてくれるシーブック。それがセシリーの心を、一瞬だけ少女時代へとタイムスリップさせる。

 

セシリー

「シーブック……私はここよ!」

 

 だからセシリーは、叫んだ。心のままに。

 

キンケドゥ

「ああ、見えてるよ。セシリーの花が!」

 

 フランシスの特攻で、戦闘獣グレシオスはコントロールを失っている。そこまで取り付いたF91は、グレシオスの胴体に極小サイズまで出力を絞ったビーム・サーベルを押し当てた。瞬間、柵が融解する。

 

キンケドゥ

「セシリー、早く!」

セシリー

「ええ!」

シロー

「お、俺も!」

 

 手を伸ばすF91。それに飛び乗るセシリーとシロー。キンケドゥはビーム・サーベルを格納すると、二人を両の手で抱え身を切るだろう風から、戦場で散らす火花から守るように抱き止める。そして離脱する直前、F91はその華奢な外観から繰り出される蹴りでコントロールを失ったグレシオスを叩き落とした。

 

キンケドゥ

「鉄也、聞こえるか! こちらキンケドゥ・ナウ。人質の救出に成功した!」

 

 コックピットハッチを開き、セシリーとシローを入れながら、キンケドゥは今まさに火口へ進むグレートマジンガーへ通信を送る。視界を封じられながらも、一部始終の空気を鉄也は肌で感じ、そして今それは確信に変わった。

 

鉄也

「キンケドゥか!」

 

 火口へ向かい歩を進めていたグレートの足が、ピタリと止まる。

 

地獄大元帥

「ええい何をしておる! そのままグレートを火口へ突き落とせ!」

 

 地獄大元帥が怒鳴り、戦闘獣スパイス、イゴーはグレートを突き落とさんと手を伸ばした。しかし、その手は届かない。彼らが手を伸ばしたその瞬間、しなやかなビームのリボンが伸び、戦闘獣の腕を切り落とす。

 

アレンビー

「マジンガーはやらせないよ!」

 

 ネオスウェーデンのノーベルガンダム! 新体操の動きをガンダムファイトに取り入れ、柔よく剛を制すを体現したその機体。ビームのリボンが戦闘獣の腕を切り、締め上げるのです!

 そして!

 

キラル

「暫し待たれよ、マジンガー!」

 

 2体の戦闘獣は、その背後より忍び寄る黒き影の手で真っ二つにされました。マンダラガンダム。盲目の暗殺者キラル・メキレルの操る異形のガンダムが持つ錫杖。そこに隠された仕込み刀が、戦闘獣を切り裂いたのです!

 

 そしてマンダラガンダムは、目にも止まらぬ神業でグレートマジンガーを縛る鎖を、視界を奪う鉄仮面を斬り落としました。グレートマジンガー本体には一切の傷を付けず。それは、盲目の男にできる業とは到底思えぬものです。

 ノーベルガンダム、それにマンダラガンダム。その姿を鉄也は、一度見たことがありました。

 

鉄也

「あんた達は……七大将軍と戦ってた」

アレンビー

「そう、ガンダム連合のアレンビー・ビアズリーと」

キラル

「キラル・メキレル。我らも義によって助太刀致す!」

 

 かつてデビルドゥガチと宇宙海賊クロスボーン・バンガード、そしてシャッフル同盟の戦いにおいて、各国のガンダムファイター達を集結させたガンダム連合。その立役者でも2人が今、ミケーネ帝国との戦いに馳せ参じたのです!

 

キンケドゥ

「鉄也、無事か?」

 

 ドダイ改に搭乗し、F91はクイーン・エメラルダス号へと引き返していきます。コックピットに乗せたセシリーとシローを降ろすと、再び戦場へ向かうキンケドゥ。彼は状況を確認するべく鉄也に通信を送りました。

 

鉄也

「ああ。あんた達の到着があと3秒遅かったら、俺はマグマであの世行きになってたかもしれん。だが……助かったぜ!」

 

 セシリーが、そしてシローが助け出されたのならば、敵の言うことを聞いて死んでやる道理などどこにもない。グレートマジンガーはその目を光らせ、スクランブルダッシュを展開。再び、大空を飛ぶ。

 

ヤマト

「へへっ。見たかエルド! 卑怯な手を使って勝とうとしたってな。こういうしっぺ返しがあるんだよ!」

 

 ブラックグレートの攻撃を耐え続けていたゴッドマジンガーも、黄金の輝きでブレストバーンを跳ね返し立ち上がった。

 

エルド

「お、おのれ……!」

地獄大元帥

「伏兵を忍ばせていたとは、なんという卑劣な!」

 

 怒声を放つ地獄大元帥。その乗艦である無敵要塞デモニカの前に、巨大な髑髏が立ちはだかる。クイーン・エメラルダス号。ハーロック、トチローと友誼を交わした女海賊エメラルダスの艦であり、その優美にして苛烈な眼は真っ直ぐに地獄大元帥を見据えていた。

 

エメラルダス

「女子供を人質に取り、自決を強要する……男のやることではない。お前達こそ、恥を知るがいい!」

 

 エメラルダスの怒りの言葉が、裂し、ビーム砲が、ミサイルが、次々とデモニカへと降り注ぐ。しかし、その体積はデモニカの方が遥かに上。

 

キンケドゥ

「流石は敵の要塞だ。一筋縄ではいかないか!」

 

 F91のビーム・バズーカが、クイーン・エメラルダス号を援護する。しかし、F91目掛けて飛ぶ高出力のバスター・ランチャーが、キンケドゥの進行を妨げるのだった。

 

ザビーネ

「ハハハハハハ! キンケドゥ、なぜ貴様がここにいるキンケドゥ!?」

キンケドゥ

「ザビーネかっ!?」

 

 ザビーネ・シャル。キンケドゥの宿敵たる男と黒いクロスボーン・ガンダムX2。キンケドゥ……シーブックの手からセシリーを引き離した張本人が、狂気の笑みを浮かべていた。

 

ザビーネ

「キンケドゥ! ダメじゃないかキンケドゥ! 貴様のような下賎なものが、ベラ様に触れたりしちゃあ……」

 

 狂乱状態にありながら、ザビーネの狙撃は正確無比。ドダイに乗りながらでは、F91の機動性も満足には発揮しない。キンケドゥはドダイを乗り捨て、X2の下へと降下する。

 

ザビーネ

「キンケドゥゥゥッ! 貴様さえ、貴様さえいなければ! 貴様のような平民に、ベラ様が心を奪われたりしなければ!」

 

 迫るF91を、クロスボーンX2は狙い撃つ。しかしキンケドゥは、F91のポテンシャルを最大に高めて加速。バスター・ランチャーの砲撃を避け切り、ビーム・ライフルを構えて迎撃する。

 

キンケドゥ

「ザビーネ……貴様ッ!」

 

 キンケドゥの胸に去来するのは、虚しさだ。

 キンケドゥ・ナウの知るザビーネという男は、貴族主義者であることにさえ目を瞑れば優秀で頭の切れる優秀な男だった。しかし、今のザビーネはどうだ。

 

ザビーネ

「罪を償え、キンケドゥゥゥゥッ!」

 

 今のザビーネは、耄碌している。貴族主義社会というそのものを取り違えている。

 F91はビーム・ライフルを立て続けに3連射。X2はその軌道を見切りながら、バスター・ランチャーを投げ捨てビーム・ザンバーを構える。それを確認すると、キンケドゥもF91のビーム・サーベルを引き抜いた。

 

キンケドゥ

「ザビーネ、まだミケーネに手を貸すのか!」

 

 サーベル同士が鍔迫り合い、火花を散らす。頭部のバルカン砲を撃ち放つX2に、F91は咄嗟に距離を引き離す。

 

ザビーネ

「闇の帝王が、世界を導いてくださると仰ったのだよ! 死と再生を繰り返す宇宙を、永遠に導けるのは闇の帝王のみであると!」

キンケドゥ

「何っ!?」

 

 マシンキャノンをばら撒きながら、X2の周囲を動き回るF91。しかしザビーネのクロスボーン・ガンダムは損傷を即座に回復させてしまう。DG細胞の自己再生。それを上から叩き潰すには、F91の武装では分が悪い。

 

ザビーネ

「や、闇の帝王様によって……正しい世界を!」

キンケドゥ

「…………」

 

 いや、ある。F91にはひとつだけ。DG細胞すら焼き尽くすパワーを秘めた力が。

 

ザビーネ

「正き貴族による、美しき世界……。その時、闇の帝王様の隣にいるのはべ、ベラ様でなければならないのだよぉっ!」

 

 もはや、ザビーネの言葉には一切の意味がない。これ以上の問答は無駄。そう断じたキンケドゥは、F91の腰に下げられた2丁の大型ビームライフル・ヴェスバーの照準を定める。そして、

 

キンケドゥ

「ザビーネ、お前は……!」

 

 放たれたヴェスバーの光が、クロスボーン・ガンダムX2を飲み込んでいく。通常のモビルスーツならば、一撃で爆散する威力を秘めた超兵器。しかし、X2はそれでも尚、悪魔の形相でF91へ向かっていく。

 

ザビーネ

「キンケドゥ……キンケドゥゥゥゥッ!」

キンケドゥ

「………………」

 

 さらに、F91の肩部から2門のヴェスバーが展開される。そして、斉射。計4門のヴェスバーが黒いガンダムを、男の歪んだ精神諸共に焼き尽くしていく。

 F91のツイン・ヴェスバーは、諸刃の剣だ。4門同時の発射は、機体のエネルギーを瞬く間に食い尽くす。それだけではない。機体の耐熱装甲も追い詰めていくほどの高火力。それをキンケドゥ・ナウは無言で叩きつけていく。今や妄執のみで動く、かつての友へ。

 

ザビーネ

「あああ、おおおおぉぉぉっ!」

 

 クロスボーン・ガンダムX2は、ザビーネは今全身がDG細胞で強化されている。自己再生能力を持つ今のザビーネは、焼き尽くされながらも瞬時にその皮膚を銀色の細胞に置換し復活させていく。だが、ヴェスバーの4斉射はそれを上回る熱量でザビーネを焼き尽くしていく。

 やがて、ヴェスバーは全ての熱を出し尽くす。その先にあるのは、焼け焦げ、消し炭となったX2。そしてその中心……。

 

ザビーネ

「ははは、見える……。見えるぞキンケドゥ……。お前の負けが、私の勝ちが」

 

 もはや見る影もない、ザビーネ・シャルの姿。F91は4撃ち尽くしたヴェスバーを切り離すと、ゆっくりとX2へと向かう。そして、

 

ザビーネ

「ベラ様が……世界を正しく統治する未来が……」

キンケドゥ

「……例え幻でも、お前にそれを見せるわけにはいかない」

 

 剥き出しのコックピットに座るザビーネへ、ビーム・サーベルを押し当てた。それと同時、X2の再生もピタリと止まる。

 

キンケドゥ

「……やはり、自らを生体コア化させてDG細胞を操っていたのか」

 

 ビームの熱量で、ザビーネは……ゾンビ兵同然と成り果てていた男は完全に蒸発した。核を失った細胞は、そのまま自己崩壊を始める。ボロボロに崩れ落ちるX2……かつての友の愛機を、キンケドゥ・ナウは静かに見守っていた。

 

キンケドゥ

「お前が……支配者に最も相応しいと言った女性はな。支配など正しいと思っていない。支配をよしとしないものが支配者に相応しいなら、それを望むものは支配者に相応しくないことになる。……貴族主義は、はじめから間違っていたんだよ。ザビーネ」

 

 友へ向けるその言葉を聞き届ける者は、もうどこにもいなかった。

 

…………

…………

…………

 

 

 キンケドゥが宿敵・ザビーネを倒したのと同じ頃、空中では無敵要塞デモニカとクイーン・エメラルダス号の熾烈な対艦戦が繰り広げられていた。 

 

地獄大元帥

「ええい小癪な女め。デモニカの体当たりを喰らわせてくれる!」

 

 デモニカの巨体が激突すれば、クイーン・エメラルダス号はひとたまりもない。しかしエメラルダスは、誇り高き女海賊はそうであっても決して怯みはしなかった。

 

エメラルダス

「面舵いっぱい。敵艦の突撃を躱し、側面から叩く!」

 

 デモニカの動きを見切ったエメラルダスは、その動きを逆手に取る。側面からの一斉射撃。それは確実に、デモニカに被害を蓄積させていた。

 

エメラルダス

(だが、艦の出力はあちらが上。このままではジリ貧になる……!)

 

 クイーン・エメラルダス号は、エメラルダスの誇り。負ける気は毛頭ない。しかし、彼我の戦力差を理解できないエメラルダスではなかった。

 

地獄大元帥

「フン。この火山島基地は我らが本拠地。そこに飛び込んだのが運の尽きだ!」

 

 地獄大元帥の号令で、次々と戦闘獣が出撃する。かつて怪鳥将軍バーダラーが指揮していた鳥類型戦闘獣の大群。それがエメラルダス号へ向けて進撃する。だが、その時だった。

 

ミケーネス

「ま、待ってください。火山島基地に、何かが迫ってきます!」

 

 戦場へ何かが迫っているのを索敵担当のミケーネスがキャッチする。

 

ミケーネス

「熱源反応は1! で、ですがこれは……」

 

 大きい。デモニカの巨体にも匹敵……いや、それ以上のものが、火山島基地に近づいている。数秒後、まるで巨大な雨雲のように火山島基地を覆う影。

 

鉄也

「あれは……!?」

エメラルダス

「龍……?」

 

 飛龍。その影形は確かにそう見えた。長い首と尾を持ち、鋭い爪を生やし、悠々と空を飛ぶ。まるで、東洋の神話に登場するかのような出立ち。

 

ミケーネス

「り、龍から高エネルギー反応!?」

地獄大元帥

「何ッ!?」

 

 瞬間、エメラルダスは見た。大きな口を開き、全てを灰燼へと帰す龍の息吹を。

 

葉月

「エネルギー充填100%。ガンドール砲、発射!」

 

 天翔る龍……ガンドールの口から放たれた熱線。ガンドール砲。その一撃が、戦闘獣軍団の行進を呑み込んでいく。

 

地獄大元帥

「あの龍はまさか……現れおったか、VB!」

 

 地獄大元帥が言うと同時、ガンドールから次々と機動兵器が出撃する。Zガンダム、ZZガンダム、νガンダム、サザビー、クロスボーンガンダム・パッチワーク、青いF91のモビルスーツ部隊。ゴッドガンダム、ガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダム、さらにジョンブルガンダムとマスターガンダムのモビルファイター部隊。そしてブライガーと、ファイナルダンクーガ。

 

「鉄也、ヤマト!」

トビア

「キンケドゥさんも、無事ですか!」

 

 戦場に駆けつけた仲間達。その存在は、鉄也を安堵させるものだった。抜群の機動力を持つウェイブ・ライダーと、風雲再起に騎乗したゴッドガンダムは瞬く間に戦場のど真ん中へと突撃し、次々と敵を撃破していく。

 

キンケドゥ

「ああ、なんとかな。セシリーも助け出したが……ヴェスバーはエネルギー切れだ」

トビア

「ウモンじいさんが、バックキャノン装備を用意してくれました。使ってください!」

 

 パッチワークがF91の隣へ行くと、“ノッセル”に格納していたバックキャノンをF91へ装備させる。

 

キンケドゥ

「こいつは……」

ハリソン

「F91の武装バリエーションプランだ。ヴェスバーの使用できない状況下を想定して作られた4連装ビームガトリングガンとミサイルランチャーの複合装備だとよ」

 

 ヴェスバーを装備した青いF91のハリソンが答える。本来のヴェスバーが装備された位置に、バックキャノンを装備したF91は、スマートなフォルムの中にある種のマッシブさを兼ね備えている。

 

キンケドゥ

「なるほどな……。出力はヴェスバーには劣るが、火力は負けてないって感じか」

 

 それなら、十分に戦える。キンケドゥはそれを確信し、再び戦場に意識を向けた。

 

 

 そして、ここにも再会を果たした者達がいる。ドモン・カッシュとアレンビー、それにキラル。

 

ドモン

「アレンビー、キラル・メキレル……。お前達も、バンディッツに合流していたのか」

 

 ノーベルガンダムとマンダラガンダムの姿に、ドモンも感慨深げな声を上げる。彼らは第13回ガンダムファイトで戦ったライバルであり、そして戦友でもある。特にアレンビーには、少々複雑な思いがドモンにはあった。

 

キラル

「この地球の危機に、人種や国籍など関係あるまい。儂は己の贖罪のため、こうして地球と人を脅かす敵と戦うことを選んだまでのこと。……ドモン・カッシュ。お主とのガンダムファイトが、その道を示してくれたのだ」

アレンビー

「そういうこと。ねえドモン。平和になったら、またファイトしようよ。今度は負けないんだから!」

 

 キラル・メキレル。それにアレンビー・ビアズリー。ドモンとの出会い、戦いによって人生を大きく変えた二人は言う。それは、決意の言葉だ。

 

東方不敗

「なるほどな……。ドモン、お前のファイトは少しだが、確かに世界をいい方向を変えたのかも知れぬ」

 

 本来なら敵同士である各国のガンダムファイターが、世界の危機を前に団結し共に脅威に立ち向かう。それは、東方不敗が見ることのできなかった世界。

 

チャップマン

「……俺達が本来、見る事のできなかった未来か」

 

 チャップマンも、東方不敗も、本来ここにいるはずのない存在。そしてそれは、宇宙世紀を戦い抜いた戦士達にとっても同じだった。

 

アムロ

「そうだ。国家や人種。スペースノイドやアースノイド。人間の英知はそんなものを、乗り越えられる」

シャア

「この希望の火。これが未来か」

ジュドー

「ならさ。俺達にできることって、それを守ることだよね?」

カミーユ

「ああ。そういう戦いなら、俺も喜んで参加できる」

 

 ベース・ジャバーで火山島へ到着したモビルスーツ部隊。彼らの仕事は敵地上部隊の撃滅だった。ダブルゼータのハイパー・ビーム・サーベルが、狙撃タイプの機械獣ジェノバM9の腹部を貫き、さらにウェイブ・ライダーから変形したZガンダムはグレネードランチャーで敵の視界を潰していく。そしてサザビーとνガンダムは伏兵として待ち伏せていた戦闘獣達をファンネルで先回り牽制。突貫し戦闘獣の頭脳だけを次々的確に撃ち抜いていた。

 

ドモン

「そうか……。俺の、俺達のこの手が掴んだ未来!」

 

 今こうして、人類の危機を前に団結することができる。それを信じることができることこそが、あのガンダムファイトでドモンが、ファイター達が手にした輝く光。

 

地獄大元帥

「ほざけ! 貴様ら人類はそう言って綺麗事を並べ、何度それを反故にしてきた!」

 

 だが、それを許せないのがドクターヘル……地獄大元帥だった。

 

地獄大元帥

「生まれの違い、身分の違い、人種の違い、信条の違い……些細な違いで争いを繰り返し、この地球を破壊してきたのは他ならぬ人間だろうに。何を今更都合のいいことを言う!」

東方不敗

「…………」

 

 地獄大元帥の怒声が響く。それは暗く、黒い声だった。

 

地獄大元帥

「貴様達がどれだけの綺麗事を並べようと、これまでこの地球を蔑ろにしてきたのがお前達人間だろう。その結果が宇宙世紀に起きた戦争であり、今日まで放置され続けた地球とコロニーの関係ではないか!」

 

 デモニカからの爆撃が、モビルスーツ隊を襲う。絨毯爆撃。機動性が高く、抜きん出た反応速度を誇るエースパイロット達は爆弾の落ちてくるポイントを先読みし回避し続けていくが、面を制圧するような爆撃はアムロ達の体力と精神力を奪っていく。

 

アムロ

「クッ……!」

 

 万能要塞デモニカから放たれるドス黒いプレッシャー。アムロはそれを感じ、舌打ちする。

 

シャア

「地獄大元帥……。それが貴様の本音か」

 

 シャア・アズナブルが、東方不敗が、サコミズ王が感じた激しい失意と怒り。それと同じ……いや、それ以上に暗い激情を地獄大元帥は吐露していた。

 

地獄大元帥

「フン、シャア・アズナブル……。人類に絶望した挙句、隕石落としなどという愚行を行なった貴様に何かを言われる筋合いはない。ワシはワシのやり方で、この地球を……人類を正しく導くために世界征服へと乗り出した。貴様のような愚か者が、これ以上この星を汚し、この世界を破滅させようとする前に、ワシの手でこの星を支配する……。その才覚がありながら、世界を征服する度量もなかった貴様の言葉など、ワシに通じるものか!」

シャア

「……!」

 

 ドクターヘルの怒りと憎しみ。闇の帝王により、マジンガーへの復讐のために蘇った地獄大元帥の原動力。地獄大元帥は今、人間への失望と憎悪を煮えたぎらせていた。

 

アイザック

「……都合のいい時だけ団結するが、常にいがみ合い諍う。そんな人間への失望が、悪の科学者ドクターヘルを生み出したか」

 

 ブライガーの操縦席で、アイザックは冷静に分析する。

 

地獄大元帥

「人類の歴史を知れば、人類の未来に希望など持てるはずもない。素晴らしい科学の進歩を、愚かな人類はいつだって徒労に終わらせる。地球の自然環境を蘇らせるために生まれたアルティメットガンダムが、一人の人間の欲望のためデビルガンダムへと突然変異してしまったように!」

ドモン

「何ッ!?」

 

 地獄大元帥の言葉は、その当事者であるドモン・カッシュにとって聞き捨てならないものだった。

 

東方不敗

「ドクターヘル。貴様、デビルガンダムについて知っておったか」

地獄大元帥

「そうとも。カッシュ博士の提唱した理論は、当時科学者の間でも注目を集めていたからな。だが、その結果はウルベの暴走。そして、デビルガンダムの力を巡って醜い争いが繰り広げられた」

ジョルジュ

「第13回ガンダムファイト……。その裏ではウォン首相やウルベ。それに木星軍といった多くの勢力がデビルガンダムを巡る陰謀を張り巡らせていた」

地獄大元帥

「それだけではない。人類の歴史を知れば、似たような話はいくらでも出てくる。宇宙へ進出して2世紀が経とうとしている中で、人間という種は一向に成長しておらん。故に、ワシは古代ミケーネの遺産を使い、世界征服に乗り出した」

 

 地獄大元帥は語る。自らの野望、その原点。そこにあるのは、人類への深い憎しみと怒り。そして失望。

 

トビア

「そんなに人類のことを考えてるなら、どうしてミケーネなんかに力を貸すんだ!」

 

 クロスボーンのトビアが、抗議の声を上げる。しかし、その言葉は地獄大元帥に届くことはない。その程度の言葉は、聞き飽きている。

 

地獄大元帥

「人間に失望したからこそだ。あのザビーネは闇の帝王が正しく人間を導くことができると信じておったようじゃがな……ワシからすれば、正しく導かれる必要などない」

キンケドゥ

「何っ……!?」

 

 それは、ザビーネへの。道を違え、見るに耐えないものに成り果ててしまった友への侮蔑の言葉だった。

 

キンケドゥ

「貴様達は、最初からザビーネを利用していたのか!」

地獄大元帥

「利用され、道具となることを望んだのはあの男だろう。所詮人間など、ミケーネの奴隷にすぎぬとな!」

キンケドゥ

「それは貴様も同じだろうに!」

 

 キンケドゥにとって、それは許し難い言葉だった。道を違え、理想を異にし、その果ての自己矛盾に狂ってしまった男だが、ザビーネはそれでも戦友だった。そのザビーネを、もう一度この手で殺させたミケーネ。理想を歪ませ、悪魔の力に手を染めさせた闇の帝王。その存在を、許すわけにはいかない。

 

エルド

「フン、さっきから何をくだらぬ話をしている」

 

 一方で、そんな問答に一切の興味を持たない者もいた。ブラックグレートに乗るエルド王子。ブラックグレートはマジンガーブレードを引き抜くと、ゴッドマジンガー目掛けて突撃する。

 

ヤマト

「エルド、てめぇっ!?」

エルド

「今は戦争の只中、卑怯とは言わせまい!」

 

 ゴッドマジンガーも魔神の剣でそれを受け止め、鍔迫り合いの状況となった。しかし、不意を打つように仕掛けたエルドに対し、受け身を取ったゴッドマジンガーは体制的に不利を強いられている。

 

エルド

「地獄大元帥も貴様達も、思想を語るのは勝者の特権であると忘れるな! 力で全てを手中に収めた者こそが、大義名分を振り翳せると!」

ヤマト

「そんな理屈で、てめえは!」

 

 ゴッドマジンガーが反撃に繰り出した蹴りを、ブラックグレートはスクランブルダッシュを展開し上昇することで回避する。

 

エルド

「この世界を統べるものは力だ。神にも悪魔にもなれる力……魔神の力を持ちながら、くだらぬ正義や愛などのために戦う貴様達にはわかるまい!」

ヤマト

「なんだと、この野郎!」

 

 正義と愛。火野ヤマトがそれまで芯としてきたものをエルドは愚弄し、嘲笑する。

 

エルド

「地獄大元帥、貴様は言ったな。私の野心が世界を統べるところを見てみたいと。ならば見せてやろうではないか! ブラックグレートと、この私ならばそれも可能であると。だが、そのためには!」

 

 飛び上がったブラックグレートはマジンガーブレードを抜剣。再び加速し、ゴッドマジンガーへと突撃していく。

 

エルド

「“光宿りしもの”! 貴様の力、今日こそ貰い受ける!」

ヤマト

「ッ!? 速いッ!」

 

 ブラックグレートの性能は、鉄也の乗る本物のグレートマジンガーと遜色ない。その危険なパワーをエルドは、全力の殺意を込めて振り回す。パワーならゴッドマジンガーも引けを取らないが、ことスピードや、武装のバリエーションといった面でゴッドマジンガーは、グレートに大きく水を開けられている。それをカバーしているのは、ラグビーで鍛えたヤマトの反射神経と、ゴッドマジンガーと一つになったことで得た超能力。だが、エルドの執念はヤマトから集中力すら奪う。いや、エルドの憎しみが乗ったマジンガーブレード。距離を離す際に打ち込まれるネーブルミサイル。さらにバックスピンキックの波状攻撃は、ヤマトに反撃の隙を与えない。

 

ヤマト

「エルドの攻撃を防ぐので、手一杯かよ!」

 

 ゴッドマジンガーを援護しようとファイナルダンクーガが、ガンダムローズが、マックスターが動いた。しかし、それを遮るようにデモニカから放たれるミサイルの弾幕。さらに、戦闘獣が次々と押し寄せていく。

 

チボデー

「sit!」

ジョルジュ

「そう易々と、近づかせてはくれませんか……ならば、ローゼススクリーマー!」

 

 ガンダムローズの左肩、巨大な盾と一体化した肩部から射出されたローゼスビットが回転し、渦を作り出す。渦の中に巻き込まれた戦闘獣の動きを封じていく。

 

ジョルジュ

「今です、チボデー!」

チボデー

「ナイスアシストだ。バーニングパァァァンチ!」

 

 続け様に繰り出されるマックスターの拳。一発のパンチから繰り出される灼熱が、次々と戦闘獣を燃やし尽くしていく。戦闘獣は確かに、機械獣よりも強い。しかし、修業と実戦を重ねてガンダムファイター達の技のキレはそれを凌駕するものへと成長していた。

 

地獄大元帥

「目障りな奴らめ!」

「それはこっちのセリフだぜ! グレートのパチモノなんか作りやがって。所詮てめえらは他人の褌でしか戦えねえ、肝っ玉の小さい野郎ってことだろうが!」

エルド

「フン。狡猾さとは即ち力。それを理解できない以上、貴様達に勝利はない!」

 

 忍が吼える。しかし、それすらも地獄大元帥は、それにエルドは意にも返さない。ブラックグレートは追撃と言わんばかりに、ゴッドマジンガーを蹴り飛ばす。

 

ヤマト

「ウワァッ!?」

エルド

「トドメだ、火野ヤマト!」

 

 ブラッググレートの周囲に、暗雲が立ち込めていく。そして雷鳴がひとつ鳴ると、ブラックグレートのエネルギーが膨れ上がっていく。

 

鉄也

「あれはっ!?」

ヤマト

「これが魔神の力。受けろ、サンダーブレーク!」

 

 サンダーブレーク。グレートマジンガー最大最強の必殺技。あらゆるものを焼き焦がす雷光が、ゴッドマジンガー目掛けて飛んでいく。

 

ヤマト

「避けられ……ねえ!?」

 

 ブラックグレートの苛烈な攻撃を前に、ヤマトの体力はひどく消耗していた。何より、サンダーブレークは光の速さでゴッドマジンガー目掛け迫っている。このままでは、直撃。誰もがそう思った時だった。

 暗雲を突き破り、天より二筋の光が伸びる。光はサンダーブレークと激突すると、激しい爆発を起こし、対消滅。

 

エルド

「なんだと!?」

地獄大元帥

「こ、これは!?」

 

 その光を、地獄大元帥はよく知っている。ドクターヘルの野望を幾度となく潰えさせた、光子力の光。

 

鉄也

「光子力ビーム。まさか!」

 

 鉄也が、グレートマジンガーは天を仰ぐ。天より降り注いだ光子力ビーム。正体は空に聳え、大空羽ばたく紅の翼を掲げ、今。

 

甲児

「マジーン・ゴーッ!」

 

 マジンガーZ。山を砕き、正義の怒りと平和の祈りを一身に背負った鉄の城がここに今、再び降り立ったのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

地獄大元帥

「マジンガーZ……。兜甲児! おめおめと現れおったか!」

 

 地獄大元帥の中で、ドクターヘルの意識がザワつくのを感じていた。兜甲児。それにマジンガーZ。世界征服の野望を阻み打ち砕いた最大の敵。だがそれと同時に沸き立つのは歓喜の声。

 

地獄大元帥

「フフフ、マジンガーZよ。今度こそ貴様を血祭りに上げてくれる!」

 

 自分がなんのために甦ったのか、この時地獄大元帥は……ドクターヘルははっきりと理解した。世界征服、ミケーネの悲願、マジンガーへの復讐。全ては正しく、全ては間違っている。

 

甲児

「ドクターヘル! 性懲りもなく蘇りやがって。てめえの出番はもう終わってんだよ!」

 

 その減らず口すら、今は愛おしく感じる。それこそ、老体が若返るような感覚だった。やはり、兜甲児だけは……マジンガーZだけは己の全身全霊で叩き潰さねばならない。めらめらと燃え上がる闘志のようなものを、ドクターヘルは自覚する。

 しかしそんな地獄大元帥の無敵要塞デモニカを無視し、マジンガーZはゴッドマジンガーと対峙していた黒き魔神・ブラックグレートの下へと割り込むように降下していった。

 

甲児

「やいやいてめえ! 量産型グレートマジンガーのデータを盗んだみてえだがな。てめえはマジンガーの力を100分の1も引き出せちゃいねえぜ!」

エルド

「何だと?」

 

 ゴッドマジンガーを庇うように立つマジンガーZ。対峙するブラックグレートは胸部の放熱板を引き抜き、グレートブーメランにして投げつけた。しかし、その軌道は容易く、甲児に見切られてしまう。

 

甲児

「お前はそのブラックグレートを、マジンガーを神にも悪魔にもなれる力と言った。だがなぁ、マジンガーが真の力を発揮するのは神や悪魔になろうとした時じゃない。人の心が宿った時なんだ!」

 

 グレートブーメランの軌道を見切り、マジンガーZが突撃する。スクランダーカッター。ジェットスクランダーを質量兵器として、マジンガーZが直接切り込む突貫攻撃。鋭利なスクランダーの突撃が、グレートブーメランを真っ二つに引き裂いた。

 

エルド

「何ッ!?」

 

 グレートブーメランは知っての通り、ブレストバーンの射出口の役割を兼任している。それを破壊されるということはつまり、ブレストバーンまでもを使用不能にされたも同じこと。そのことに気付き、エルドの表情には僅かな焦りが見え始めていた。

 

甲児

「てめえみたいにマジンガーを自分の力だと思い込んでる奴にはなぁ、一生かかってもマジンガーを使いこなすことなんざできねえ。それを教えてやるぜ!」

 

 スクランダーから放たれるサザンクロスナイフが、ブラックグレート目掛けて飛ぶ。超合金ニューZすらも容易く破壊する金属の撹乱幕。エルドは怯み、機体を下へと降下させた。それが、隙になる。

 

甲児

「そこだっ、ロケットパンチ!」

 

 マジンガーZの右腕が火を噴き、ブラックグレートを追いかけるように飛んだ。

 

エルド

「しまった!?」

 

 落下する速度は、ロケットパンチの方が速い。その重力加速度を受けた鉄の拳が、ブラックグレートを殴り飛ばす。その一連の動きに、エルドは全く反応できなかった。そしてすかさず、マジンガーZは追撃の冷凍ビーム。ロケットパンチをもろに喰らい態勢を崩したブラックグレートは、それを避けることができなかった。ブラックグレートがの胴体、手足がたちまち凍り付く。

 

エルド

「こ、これでは!?」

 

 グレートマジンガーは全身の多くの装備を持っている。しかしアトミックパンチも、ネーブルミサイルも、そして最強武器でもあるサンダーブレークも手足を凍らされてしまえば使えない。氷漬けを解くことができるだろうブレストバーンも、放熱板を破壊された今使用不能。この状態で使える武器は、グレートタイフーンのみ。

 

エルド

「ええい、こうなっては!」

 

 このままでは袋叩き。そう判断したエルドは迫るマジンガーZへグレートタイフーンを放った。突風が、マジンガーZを襲う。だが、その判断は誤りだった。

 

エルド

「マジンガーZなど、所詮は旧式の魔神。最新型の魔神たるこのブラックグレートの敵ではない!」

 

 ブラックグレートの放つ竜巻を受け、マジンガーZは防御の体制を取る。たしかにグレートタイフーンは、マジンガーZの装甲をジリジリと削っている。しかし、

 

甲児

「今だ、ヤマト!」

ヤマト

「おう!」

 

 エルドは完全に、失念していたのである。背後から迫る、青銅の魔神が黄金の輝きを放ち魔神の剣を振るう。

 

エルド

「火野、ヤマト……!?」

エルド

「エルド。お前の言う力なんてのはな。結局、独りよがりなんだよ!」

 

 魔神の剣が、ブラックグレートの後頭部……ブレーンコンドルからエルド諸共、ブラックグレートを真っ二つに斬り裂いていく。

 

エルド

「バカな……。この私が……」

 

 エルド王子は確かに、類稀なる才覚を有していた。それは戦争において発揮され、かつて古代ムー王国は壊滅寸前まで追い込まれた。

 しかし、エルド王子はその実誰も信頼せず、武力と陰謀によって全てを手中に収めようとした。それは、自分ならば誰にも負けないという

自負故のものだったのかもしれない。

 だがそれを、火野ヤマトは独りよがりと断じた。他者を顧みず、野望の道具としか見ない男の、独りよがりな力の発露。

 魔神の剣に斬り裂かれ、ブラックグレートは爆発する。その爆発の最中、エルドはアイラ・ムーの事を思った。

 アイラ。アイラ・ムー。気高く優しき王女。その細い身体。なだらかな髪。慈愛の瞳。

 世界の全てを手に入れれば、アイラもまた手に入れることができる。そう、思っていた。だが、アイラは自分ではなく、ヤマトを選ぶ。

 それは、この結果を思えば。

 

「そうか……。私の力では、お前を手にするには足りなかったということか……」

 

 それが、エルド王子が最期に口にした言葉だった。

 才能と権力を持つが故に、幼稚なエゴを律することのできなかった男は、自らを顧みることなくその野望を潰えさせることしかできなかったのだ。

 

 

 

 ブラックグレートは、エルド王子は倒れた。その事実を突きつけるようにマジンガーZは拳を振り上げ、無敵要塞デモニカへ向かい突き上げる。

 

甲児

「次はてめえだ、地獄大元帥!」

地獄大元帥

「ヌゥ、兜甲児……!」

 

 地獄大元帥が、ドクターヘルが最も警戒していた男。兜甲児の存在は、確実に自分達の側にあった流れをあちら側に引き戻している。

 

鉄也

「甲児君……。来てくれたのか」

甲児

「待たせたね、鉄也君。マジンガーZ、ここに復活だ!」

 

 並び立つマジンガーZと、グレートマジンガー。その光景は地獄大元帥が最も恐れた光景。地獄大元帥の中に、僅かな焦りが見えはじめていた。だがそんな中でも地獄大元帥は静かに、そして激しく燃え上がるものを沸々と感じている。

 

地獄大元帥

「フフフ……そうだ。兜甲児、そしてマジンガーZ。貴様の存在こそが人類の希望。貴様がいる限り、人類は希望などという愚かなものに縋りつく!」

 

 だからこそ、マジンガーはこの手で倒さなければならない。そうでなければ、地獄大元帥として復活した意味もない。

 

甲児

「うるせえ! 俺とマジンガーZが切り開くのは、みんなが生きる明日だ。それを奪おうとするなら、何度だって地獄に送り返してやるぜ!」

地獄大元帥

「やれるものならばやってみるがいい。だが、お前達はワシを本気にさせたのだ。見るがいい!」

 

 地獄大元帥が叫ぶと同時、火山島基地が大きく揺れる。陸上部隊のモビルスーツ達が足元をふらつかせるほどの強い地震。

 

アムロ

「この感じ……この悪意は!」

トビア

「なんだ……これ……!」

 

 悪意。邪霊機のライラが発露する深く、黒い憎悪とは違う。ハイパー化したサコミズ王が見せた深い悲しみとも違う。ただ純粋に、敵に対する加害意識と衝動がプレッシャーとなっていた。

 

東方不敗

「この悪意の源泉、下か!」

アラン

「藤原、海底深くから浮上する熱源がある。これは……!」

エメラルダス

「!? 各機、対ショック体勢を!」

 

 次の瞬間、海水が柱を作るように迫り上がる。水柱はあまりにも大きく、上空で戦うクイーン・エメラルダス号すらも呑み込まんほどの水飛沫となって押し寄せる。

 

甲児

「うわぁっ!?」

鉄也

「クッ!?」

 

 水飛沫は、物理的な力を伴いスーパーロボット達を襲った。超合金が身を守り、科学の粋を結集して作られたスーパーロボット達と言えど、圧力を感じる水圧。その奥に何かが、立っていた。

 

甲児

「あ、あれはっ!?」

 

 空に聳えるは、漆黒の城。

 四本の腕と、胴体に大きく描かれた髑髏のレリーフ。

 

「で、でけえ……!?」

アイザック

「バカな。これほどの質量をどうやって支えているというのだ!」

 

 アイザックの知見を持ってしても、理解不能の巨体。ゆうに3000mはあるだろうか。空に聳える……いや、天に轟く地獄の城。

 

地獄大元帥

「兜甲児。ドクターヘルがこれを完成させていたならば、今頃世界はドクターヘルのものだったろう」

甲児

「何ッ!?」

ヤマト

「ならあれは、機械獣だっていうのかよ!」

 

 にわかには信じられなかった。機械獣の全長は大小あれど、そのほとんどはマジンガーZと比較ができるサイズ。だが、目の前のこいつはどうだ。鉄の城マジンガーZが、まるで小人のようではないか。

 

エメラルダス

「しかし、あの巨人には頭がない……?」

 

 あまりの体格差で見えにくいが、カメラを拡大するとわかる。巨人には頭部がない。まるで、そこだけが未完であったかのように。

 

シャア

「頭など飾り。そういうことか……?」

 

 否。即座に出た呟きをシャアは即座に否定する。このマシンに頭がない理由は、決して慢心などではないと直感が告げていた。

 

鉄也

「俺が、震えているのか……?」

 

 超巨大機械獣。あまりにも世界観の違う存在が鉄也すらも戦慄させる。その体格差がどれほどのアドバンテージになるか、戦闘のプロは知っているのだ。

 

チボデー

「あんなデカブツ相手に、どうすりゃいいんだ!」

アルゴ

「まるで、デビルコロニーだな……」

地獄大元帥

「フフフ。今こそこの、地獄王ゴードンは復活する!」

 

 地獄王ゴードン。そう呼ばれた首なしの超巨大機械獣を目指し、デモニカが上昇した。雲を突き抜け、やがて地獄王ゴードンの肩のあたりまで届き、そしてデモニカは自らの船体を存在しないゴードンの頭部であるかのように合体させる。

 

鉄也

「デモニカは機械獣の頭部だったのか!」

地獄大元帥

「そうだ! この地獄王ゴードンは、ワシ自らがパイルダーオンすることで真価を発揮する。そして!」

 

 地獄大元帥の合図と同時、火山島基地から飛び出す戦闘獣が、ブライガーを襲った。女性型のフォルムをし、腰にドレススカートを纏いながら凶悪な爪を持つ戦闘獣。その姿ははじめてみるものだが、その気迫は知っているものだった。

 

キッド

「こいつはっ!?」

ヤヌス侯爵

「あの時の雪辱、晴らさせてもらう。ブラスター・キッド!」

 

 ヤヌス侯爵。以前、科学要塞研究所に潜入し兜甲児を暗殺しようとしたミケーネの女諜報員。さらに続くように現れたのは、不気味な赤い花。

 

キンケドゥ

「な……!?」

セシリー

「あ、ああ……!?」

ハリソン

「資料で見たことがある。あれはたしか、旧クロスボーン・バンガードの……」

 

 ラフレシア。かつてセシリーの父であったクロスボーンの鉄仮面が自ら乗り込み、シーブック・アノーのガンダムF91と対決した悪魔のサイコ・マシーン。その悍ましい赤い花が、火山島基地で不気味に咲き、その悪意を振り撒いていたのだ。

 

カミーユ

「あのマシーン、サイコガンダムと同じか!?」

ジュドー

「だけど、なんだ。こいつ……」

 

 サイコ・ガンダムから放たれたドス黒い波長。それはそれは強化され、人格崩壊した少女達の叫び声だった。だが、ラフレシアから感じられるものは純粋な悪意。

 

アムロ

「悪意の正体は、こいつらか!?」

地獄大元帥

「そうとも。そのラフレシアはザビーネの記憶を元にワシが再現したもの。だが、それを完全に操るにはエゴを強化した強化人間が必要だった」

 

 強化人間。現在では禁止されている人工ニュータイプの製造実験。カロッゾ・ロナは自らを強化し、ラフレシアの生体ユニットとなることでそれを解決していた。だが、地獄大元帥は違う。

 

地獄大元帥

「ラフレシア・プロジェクト……ワシもその資料を集め、調べさせてもらった。人類の粛清管理。それを効率化する画期的なプロジェクトではないか」

キンケドゥ

「黙れド外道!?」

地獄大元帥

「だが、そこには致命的な欠陥があった。それはラフレシアを管理する生体コア……鉄仮面に身を滅ぼす巨大なエゴが存在したこと」

 

 愉しげに、地獄大元帥は語る。その一字一句にキンケドゥは歯噛みし、ドモンは嫌悪の表情を示す。

 

地獄大元帥

「このラフレシアの生体コアは、ヤヌスに拐わせた人間から脳を直接取り出し、戦闘獣化手術の要領で一体化させたもの。そして、その際に植え付けたのよ、人間社会破壊学をな!」

トビア

「な…………!?」

 

 それは、以前ショット・ウェポンがサイコガンダムを阿頼耶識に繋げたのと同じ……いや、それ以上の非道。

 

ヤヌス侯爵

「ホホホホホ、こいつはまさしく戦闘獣ラフレシア! 貴様達を地獄に送る妖花よ!」

戦闘獣ラフレシア

「………………」

 

 戦闘獣ラフレシア。そして地獄王ゴードン。ドクターヘルの悪魔の研究その集大成が今、VBに襲い掛かろうとしていた。

 

地獄大元帥

「さあ、第二ラウンドを始めようではないか!」




次回予告

みなさんお待ちかね!
圧倒的な力でマジンガーを圧倒する地獄王ゴードン。ガンダム達を追い詰める戦闘獣ラフレシア。VBは今、まさに絶体絶命の大ピンチ!
ですが、その窮地に集結するアルカディア号のロボット軍団。そして、ついに闇の帝王との決戦が始まるのです!

次回、『平和の鐘よ、勇者の頭上に鳴り渡れ!』に、レディ・ゴー!
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