スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

7 / 42
サブシナリオ1「トッド・ギネス」

—地上/岩国—

 

桔梗

「酷い……」

 

 特務自衛隊の櫻庭桔梗中尉は、生まれ故郷である岩国の惨状を、上空を飛ぶヘリの中からありありと見つめていた。

 

桔梗

「槇菜…………。連絡つかないけど、大丈夫かしら」

 

 仕事用の端末カメラで上空から街の被害を撮影しつつも、桔梗は妹の無事を祈っている。槇菜は甘えん坊で、可愛い妹だ。この夏はとある縁で知り合ったマジンガーZの兜甲児が側についていてくれているはずなので、もしかしたら今頃光子力研究所か、科学要塞研究所かもしれない。そうであることを祈りながら、勝手知ったる故郷の惨状を目に焼き付けていた。

 火の手は未だ止まず、市街地を灼熱に包んでいる。炎の気配がない、消化の終わった箇所も「完全に無事」な場所はほとんどなかった。むしろ、街の中心ほど被害は甚大。崩れた中学校、ショッピングモール。レストラン。それらは全て、桔梗の学生時代の思い出の場所でもあった。また、在日米軍基地はその中でも大きな被害を出しており、未だに消化活動が続いている。

 

桔梗

「……あれは?」

 

 そんな岩国の海岸沿いに、桔梗は見慣れぬものを発見した。濃紺色の、甲虫のようなツノを持つ10mに満たないマシン。オーラバトラー・ダンバイン。記録にあるそれと配色は違ったが、間違いなくそれは一年前に東京上空に現れたダンバインだった。

 もしかしたら、記録にあるショウ・ザマが不時着しているのかもしれない。桔梗はヘリの運転手に指示を出すと、ダンバインへ近づかせる。見れば、ダンバインは手ひどいダメージを受けているらしい。所々損壊しており、開け放たれたキャノピーの奥には、金髪の男が項垂れていた。

 

桔梗

「座間翔は日本人。これは、違う……?」

 

 桔梗は、プラチナブロンドの髪を結い纏めるとゴーグルをつける。それから地上へロープを放り、そのロープを伝ってヘリから降りていく。風をその身に受けながらダンバインの近くへ着地し、おそるおそる、そのコクピットへ歩みを進めた。

 

桔梗

(報告では、地上のオーラバトラーは機械獣など比にならないほど強力だと聞いているけれど……)

 

 腰に装備している、対機械獣用特殊ハンドガンを右手で確かめる。もし、オーラバトラーのパイロットが抵抗の意思を示し、ダンバインが満足に動くのなら……この装備ではオーラバトラーのバリアを貫けず、自分は死ぬかもしれない。そういう、危険な任務だった。

 

 櫻庭桔梗が上層部から受けた任務。それは岩国の救援ではない。状況証拠の整理と、可能ならばオーラマシンに関するものの回収。それが、桔梗が独自に受けた密命である。そして桔梗はよりにもよって、ダンバインを見つけてしまったのだ。そうなれば、任務を遂行せざるを得ないのが自衛隊員……いや、軍人である。

 ダンバインのコクピットに座る男は、気絶しているようだった。呼吸は正常、脈はある。命に別状はないだろう。それを確認し、桔梗はヘリへ指示を出す。やがて、不時着したヘリから数名の隊員が駆けつけると、金髪のオーラバトラー乗りをダンバインのコクピットから降ろし、そして男をヘリへと乗せ再び空へ発つ。ダンバインの方は、すでに輸送トレーラーが手配されていた。トレーラーを待つために隊員を2名だけそこに残し、男を乗せて桔梗は自分達の基地へと戻っていった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—???—

 

トッド

「う……ここは?」

 

 トッド・ギネスが目を覚ました時最初に見たものは、白い天井だった。それがバイストン・ウェルのものではないと気付くのに、トッドは10秒ほど、必要だった。懐かしい消毒液の匂い。それは、地上の病院だ。

 

トッド

「そうだ、俺はエイサップ鈴木とかいうハーフ野郎に負けて……」

 

 思い出すだけで、屈辱的だった。だが、ここはフガクでもなければキントキでもない。地上の匂いを、バイストン・ウェルのオーラ・バトル・シップは醸し出してくれない。自分はどうやら、病院かどこかに連れ出されたらしい。そこまでトッドが自分の置かれた状況を理解すると同時、ガラガラという音と共に扉が開かれる。

 

桔梗

「気づいたみたいね」

 

 やってきたのは、銀髪に青い眼の女だった。色白だが、白人ではない。また、女の身に纏う服には、日の丸の徽章がついている。

 

トッド

「……ジャップか。その見た目で」

 

 自衛隊員。そう理解してトッドは吐き捨てた。

 

桔梗

「生憎、クォーターなの。祖父がロシア系。それでも私はれっきとした日本人よ」

 

 ジャップ。という蔑称を開口一番に言われるとは思わず、桔梗は思わず凄む。だが、それをトッドは意に返した風ではなかった。

 

トッド

「それで、日の丸つけた自衛隊員様が俺に何の用だ?」

 

桔梗

「……まず、いくつか質問に答えてもらうわ。あなたの名前と国籍は?

 

トッド

「……トッド・ギネス。23歳アメリカ人。出身はボストンだ」

 

 聞かれていない、しかしこれから質問する予定だったことまで素直に答えるトッドに、桔梗は目を丸くする。

 

桔梗

「思ったより、殊勝なのね」

 

トッド

「日本人には、随分煮湯を飲まされたからな。俺も学んだのさ」

 

 そう言って得意げに笑むトッド・ギネスに桔梗は思いの外好感を抱いた。ただのヤンキーよりは、よほど分別がある人間に見える。

 そういう相手の方が、都合がいい。

 

桔梗

「…………次の質問。あなたはオーラバトラーに乗っていた。バイストン・ウェルという世界からやってきたということで間違いはない?」

 

トッド

「…………ああ。俺と、トカマク・ロブスキーとかいうロシア人。それに、ショウ・ザマって日本人が、同じ時に地上から召喚された。俺は、あの世界でオーラバトラー乗りをして生計を立ててたのさ」

 

 嘘は言わなかった。だが、ホウジョウ軍のことはあえて伏せる。ショウやエイサップとの決着をつけたい気持ちはあるが、今はそんなことよりこの場を切り抜ける方が先だろう。とトッドは直感的に感じていた。

 

桔梗

「そう……」

 

 頷きながら、桔梗はタブレット端末に何やらを打ち込んでいた。そして一泊を置いて、改めてトッドへ向き直る。

 

桔梗

「確認が取れたわ。トッド・ギネス。あなたはアメリカ空軍学校に在籍していたが、フライト中にMIAになっている……その時、バイストン・ウェルに召喚された。その認識でいい?」

 

トッド

「ああ、OKだ」

 

 その後、数回の質疑応答を経て桔梗は、トッドへの質問を終えた。

 

桔梗

「医師の見立てでは、怪我は大したことないらしいわ。立てる?」

 

 桔梗がそう訊ねると、トッドはベッドから降りて立ってみる。確かに、少し痛むがそれ以上でもそれ以下でもないようだった。それは、もしかしたらトッドを撃墜したエイサップ鈴木のオーラ力の賜物なのかもしれない。トッドは軽く伸びをして、自分の身体の調子を確かめたい。

 

トッド

「問題ないな。それで、俺をどうするつもりなんだい?」

 

 桔梗がただの自衛隊員なら、そのままアメリカ空軍に引き渡されることになっただろう。しかし、桔梗がただの自衛隊員ではないと、これまでの会話からトッドは勘づいていた。

 

桔梗

「……ついてきて。あなたに、見せたいものがあるの」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

トッド

「こいつは……」

 

 桔梗に言われるまま着いて行ったトッドの目の前にあるのは、緑色のオーラバトラーだった。軽装のダンバインよりも見てくれから重く、重装備であることが窺われる緑のオーラバトラー。ショット・ウェポンが末期に開発したオーラバトラー・ライネック。それが、どういうわけか日本人の、櫻庭桔梗の案内した先に鎮座していた。

 

桔梗

「ライネック。かつて地上にバイストン・ウェルの軍勢がやってきた時、ショット・ウェポンから秘密裏に入手していたオーラバトラーよ」

 

トッド

「ショットの奴も、一助地上に降りてたのか……」

 

 ショット・ウェポンの野心と叛意は、トッドの目から見ても明らかだった。恐らく、ショットは自らの立場を確保するためにドレイク軍の預かり知らぬところで取引をしていたのだろう。その見返りがライネック1機というのなら、ショットからすれば安いものだ。

 

桔梗

「トッド・ギネス。あなたにはそのオーラバトラーで、私達の作戦に協力してほしい」

 

 桔梗がそう言うと、トッドは「ハッ!」と笑い飛ばす。

 

トッド

「俺にジャップと手を組めっていうのか?」

 

桔梗

「別に、日本人と手を組んでほしいとは言ってないわ。あなたには、国籍不明の謎の軍として動いてもらう」

 

トッド

「何……?」

 

 それは、あまり穏やかな台詞ではなかった。

 

トッド

「それじゃあ何か。あんたは俺に、テロリストにでもなれって言いたいのかい?」

 

桔梗

「そうね、そういうことになるかもしれないわ」

 

 冗談じゃない。そう、トッドは吐き捨てた。しかし、その反応も無理はない。そう桔梗も理解している。トッドが、アメリカ空軍の出だと言うのならば尚更だ。

 

桔梗

「聖戦士トッド・ギネス。これは世界に必要なことなの」

 

トッド

「だったら、洗いざらい説明してもらおうじゃあないか」

 

 そうトッドが言った時だった。「その説明は、私にさせてもらいましょう」そう言って、2人に近づくものがいた。

 

トッド

「…………!?」

 

 老人。男性。日本人。そう言った散発的な情報を、その男の出立ちからトッドは判別する。その全ては正確だが、しかしそれで何かを理解できた気がまるでトッドはしなかった。

 まず、男はたしかに日本人で、齢60は過ぎているだろう老体だ。しかし、背筋ひとつ曲がらずむしろ生気に満ちている。その一方で、男のオーラ力はまるで、小川のせせらぎのように穏やかだった。そうでありながら、腰に携えた刀と、そして両の眼を開かせない刀傷。それらはアンバランスでありながら、その全てが男の中で調和していた。

 

西田

「お初にお目にかかります、聖戦士トッド・ギネス。私は西田啓。この世界を憂う者であります」

 

 西田。そう名乗った盲目の老人のオーラにトッドは、気圧されていた。ショウのような清らかさと、サコミズ王のような力強さ。それらを兼ね備えた存在。そんな人間をトッドは、見たことがない。

 それでも、トッドはせめてそれを気取られぬよう、何とか言葉を探す。

 

トッド

「…………その目は、どうしたんだ?」

 

 しかし、必死に探した末の言葉はあまりにも、不躾だった。

 

西田

「汚れていく祖国を直視に絶えず、自ら断ちました。しかし、そのおかげで今はより鮮明に、物事の本質が見えています」

 

 それでも尚西田は、穏やかな口調を絶やさない。

 

西田

「トッド・ギネス。あなたは地球の、ボストンで生まれた。ならば理解しているのではないですか。今の地球圏は、極めて危ういバランスの上で成立していると」

 

トッド

「…………まあな。上の連中はガンダムファイトなんぞにかまけて、下の人間を見ちゃあいない。日本はマシな方かもしれないが、アメリカは本当にひどいもんだぜ?」

 

 事実、トッドの幼少期はひどいものだった。食う物に困り、ストリートチルドレンへ流れ盗みで生計を立てていた幼馴染も数多い。そんな中、トッドの母は女手ひとつで悪事にも手をつけず、トッドをハイスクールまで出してくれた。そんな母への恩返しがしたくて、出世のチャンスが多い軍へ志願したのがトッド・ギネスだ。

 

西田

「今、世界中で地球はコロニーから独立し生きるべきだという決起が起きている」

 

トッド

「つまり……宇宙人どもは宇宙で勝手にガンダムファイトでもなんでもやってくれ。俺達地球人は地球人として独自の生き方をするべきだ……ってことか?」

 

西田

「左様。それこそが、地球再生の道であると私は考え、計画に賛同しました」

 

トッド

「計画?」

 

 西田は頷き、言葉を続ける。

 

西田

「ゴッドマザー・ハンド計画……あなたの祖国であるアメリカ人が立案し、内情の思惑はどうあれ世界中に賛同者を得た計画です。トッド、私はあなたに日本人としてではなく……地球市民のひとりとして、この計画への参加を願っているのです」

 

 ゴッドマザー・ハンド計画。神の手。トッドの預かり知らぬところで、地上でも大きな流れが動いていることを、トッドは悟っていた。

 そして、その渦中で自分は再び、拒否権のない選択を迫られていることも。

 

トッド

「…………へっ」

 

 毒づき、トッドは西田と、桔梗を交互に睨め付ける。桔梗は腰の銃へ手を伸ばし……西田に制された。

 

トッド

「いいぜ、そのゴッドマザー・ハンド計画とやら手伝ってやるよ。だがな、条件が2つある」

 

桔梗

「2つ……?」

 

トッド

「ひとつは、ボストンに手を出さないこと。碌でもねえ街だが、あそこにはお袋がいるんだ。もし、ボストンを……お袋を巻き込むようなことをしたら、俺は後ろからでもお前らを斬る」

 

 そう言って凄むトッド。西田は見えていない目でトッドを見つめて、一つ頷く。それを了承の合図と認め、トッドは続けた。

 

トッド

「もうひとつは……とにかく地上のメシが食いたい。ハンバーガーとポテト、それにコーラだ」

 

 今はとにかく、故郷の味が恋しかった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

—べギルスタン—

 

 そうして今、トッド・ギネスは中東の小国べギルスタンにやってくる米国軍を迎え撃つ準備をしている。彼らの計画では、べギルスタンの持つ特殊兵器の威力で米国部隊は壊滅。そして、本格的な鎮圧部隊を派遣するという筋書きになっているらしい。それがゴッドマザー・ハンド計画の中でどのような意味を持っているのか、興味はなかった。

 だが、こうして頬張るハンバーガーの肉の旨味は間違いなく、トッドの故郷の味だった。

 

桔梗

「そろそろ、アメリカ軍が来るわ」

 

 ライネックの隣に並ぶ、20mほどの人型機動兵器。そのコクピットに座る桔梗から通信が入る。バイストン・ウェルに比べて、地上の通信はクリアだった。今はミノフスキー粒子が薄いのも理由だろう。

 

トッド

「ライネックは問題ない。こいつなら、ダンバインだろうがなんだろうが倒せるぜ。あんたのそれは、どうなんだ?」

 

 桔梗の乗る青いマシン。アシュクロフトと名付けられたその機体は、ある理由で開発が凍結になったFI社のアサルト・ドラグーンと呼ばれる機種を日本の式部重工がそのデータを買収し、開発したものであるらしい。現状、この世界でアサルト・ドラグーンはこのアシュクロフト1機しか存在しない。

 

桔梗

「大丈夫よ。アシュクロフトには簡易入力システムが組み込まれている。私の判断に対してプログラムがオートマである程度動いてくれるの。そう言う意味では、オーラバトラーに近いのかもね」

 

トッド

「ふ……ん。それで、あの小さいヤツはなんだ?」

 

 ライネックとアシュクロフト。オーラバトラーとアサルト・ドラグーンの混成部隊などたしかに所属不明としか言いようがない。だが、トッドと桔梗の他にもべギルスタンへ派遣された者がいた。

 オーラバトラー以上の小型の、箱に四肢がついたようなマシン。オーラバトラーでもアサルト・ドラグーンでも、断じてモビルスーツでもない妙な機体が数機。そのうち1機には、鈴蘭のマーキングが施されていた。

 

桔梗

「……TA?」

 

トッド

「何?」

 

 

桔梗

「私もそこまでは知らないわ。ただ、これが私達所属不明軍の戦力、ということになるわね」

 

 桔梗が本来所属する特務自衛隊に少数配備されているTAによく似たその機体の側で、少女が空を見つめていた。

 

ミハル

「…………」

 

 青い空の向こう、薄く朧げな月が顔を出している。少女の視線の先に目を向けながら、トッドは天体の存在する地上の空を懐かしく思い、少しだけ泣いた。

 

 

 

 それから数時間後、べギルスタン軍はアメリカ軍の威力偵察に対し徹底抗戦。未確認兵器の威力を持ってアメリカ軍のモビルスーツ部隊を壊滅へ追い込むことになる。

 その未確認兵器の中に混じり、オーラバトラーが存在していたことが科学要塞研究所のメンバーをべギルスタンへ誘い込むことになるのだが、それはまた別の話。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。