—ホウジョウ国—
サコミズ
「何だというのだ……!?」
先ほどまでエイサップ達と交戦していたポイントに突如発生した重力場。そのポイントに現れた黒い球体。それは今までサコミズ王や、ヘリコンの地で生まれたものですらも、見たことのないものだった。
ショット
「わかりません。現地へ偵察に出た兵士2名、重力に引き込まれ未帰還となりました」
バイストン・ウェルを覆う未曾有の危機。そうとしか言えない何かを目の当たりにし、コドールやコットウは平静ではいられない様子だった。無理もない、とサコミズは思う。しかし、そんな彼らを一喝し、事態の対応に当たらせているのが今。平静を装ってこそいるが、サコミズ王も気が動転しているのをなんとか抑えている状態だった。
サコミズ
「リュクス…………」
他ならぬリュクスが、あの黒い球体の中にいるのだから。
ショット
「…………王、万が一あの重力場が拡大すれば、被害は広がる一方です」
そんなサコミズ王の心情を察しつつも、ショットは冷静を務めていた。それが、蘇ったショットの役割だった。
ショット
(ライラが動き……そして、シャピロか。どうやら、静観の時は終わったらしい)
ショット・ウェポンが、ライラの手により蘇り与えられた役割……それは、オーラマシンを再び開発し、地上侵攻を王に唆すこと。そしてシャピロの役割は、王の軍を少しずつ私兵化することにあった。シャピロは、自らの野心と役割を混同し焦り動いたようにショットには思える。そして、シャピロがそういう人間なのは、ショットも知るところだった。だからこそショットは、シャピロがこうして動くことまで自分の個人的な計画に織り込んでいる。
そのための器を、シャピロに与えていた。
ショット
(さて、シャピロ……。お手並み拝見といかせてもらおうか)
サコミズ王からの指示を待ちながら、ショット・ウェポンはほくそ笑んでいた。
彼のポケットには、亡き恋人ミュージィの遺したナイフが白銀に煌めいていた……。
……………………
第7話
『失われた者達への鎮魂歌』
……………………
—???—
その世界は、暗闇に包まれていた。見渡す限りの暗黒。星ひとつ煌めかないそこは、宇宙よりも暗い世界。そんな暗黒の中に、槇菜達は辿り着いた。
レイン
「アマルガンさん、ここは……?」
アマルガン
「いや、ワシもこんな場所ははじめて来た」
この地で生まれ、育った老人アマルガン・ルドルを持ってしても、こんな場所は知らない。しかし、このゾッとするような感覚は伝説に聞くカ・オスであるかのように、アマルガンには思えた。
槇菜
「ゼノ・アストラが反応してる……。ここは、危険だって」
ゼノ・アストラ。黒き巨人はその瞳を赤く輝かせ、この空間を睨む。その視線の先を、槇菜は感じていた。冷たく、暗い。呪いのような視線が、遥か彼方からこちらを睨んでいる。
槇菜
「邪神の種子……? 萌芽?」
ゼノ・アストラの示す警戒反応は、あの邪霊機アゲェィシャ・ヴルと戦った時と同等か、それ以上のものを示していた。邪神の種子。それが何を意味する言葉なのか、槇菜にはわからない。しかし、ミケーネ帝国やゲッターロボとガサラキ、オーラロードとそして、邪霊機。それらは必ず一つの線で繋がる。そう槇菜は確信していた。そしてその大事なピースが、ここにある。
槇菜
(…………怖い。でも!)
逃げずに、正面を見据える槇菜に応えるように、ゼノ・アストラは盾を構えた。
ドモン
「師匠、ここは……」
東方不敗
「聴こえるかドモン。この場所に眠る魂の声が」
風雲再起を宥めながら、ゴッドガンダムとマスターガンダムも歩を進める。一歩一歩を踏みしめるだけで、胸が張り裂けそうなほどの痛みをドモンは、ゴッドガンダムを通してダイレクトに伝わっていた。
自身の神経系をダイレクトにガンダムと接続するモビル・トレース・システムを搭載するモビルファイター。ゴッドガンダムの足はドモンの足でもある。その機械の足はしかし、ドモンにこの場所の哀しみを伝えるのだ。
ドモン
「あの時、師匠は俺にネオホンコンの裏側を見せてくれた……。ガンダムファイトにより荒廃の一途を辿る地球の、断末魔の悲鳴。それと同じ、いやそれ以上の悲しみが、ここには眠っている……!」
東方不敗
「ウム、故に目を逸らすなドモンよ。ワシを倒したお前は、この先を進む義務があるのだぞ!」
マスターガンダムの東方不敗もまた、ドモンと同じようにその悲しみを感じていた。しかし、感じ方はドモンとは違う。むしろ東方不敗は、この悲しみを自分の一部であるかのように受け入れていた。
東方不敗
(おそらく、ワシもドモンに救われなければこの地獄に堕ちていたのだろうな……)
悲しみ。悲鳴。慟哭。絶望。それら負のオーラ力が支配する空間。その一部と確実に化していたかつての自分。その呪いから解き放ってくれたドモンに感謝を感じながら、マスターガンダムは痛みとともに進む。しかし、その痛みの中で進む気力を持つドモンや東方不敗、ゼノ・アストラにより護られている槇菜以外の者にとってこの地は、まるでこの世全ての災いと呪いを集めた箱の中であるかのように息苦しいものだった。
エレボス
「いや……イヤだよ。何、ここ……」
アムロ
「怨念……怨恨……呪詛……負の意識が渦巻いて、この空間を作っているのか」
暗黒の世界に足を踏み入れてアムロやエレボスが感じた負のオーラ力。それは、この世界が生命の悪意によって作られたものであることを物語っている。
トビア
「こんなところにずっといたら、正気じゃいられなくなる……!」
そんな、誰もが平静ではいられなくなる空間に、トビアやハリソンはおろかアムロとシャア、エイサップにショウ、マーベルも呻き声を上げる。
ハリソン
「俺はニュータイプなんて太それたものじゃないが、それでも感じるぞ。なんだこの重苦しさは……」
シャア
「ええい、情けないものだな……。足を踏み入れただけでこの私が恐怖するとは」
だがしかし、その中をダンクーガは突き進んでいた。眼前に迫るのは、飛行ユニットのないダンクーガもどき。槇菜曰く、にせダンクーガ。
偽ダンクーガは、胸のパルスレーザーを放ってダンクーガを迎撃する。しかし、本物のダンクーガを前に偽物の攻撃は通用しない。
この空間に呑まれているのならばいざ知らず、獣戦機隊は既にこれと同じ地獄を経験し、突破しているのだ。心を蝕む負の重圧などに負ける道理はない。
パルスレーザーの斉射を避けながら、ダンクーガは腰に格納されていたソードを抜く。
亮
「心にて、悪しき空間を断つ。名付けて、断空剣!」
忍
「やってやるぜ!」
瞬間、まさに刹那の出来事だった。剣を抜いたダンクーガは、偽物と一瞬交差する。一瞬。その一瞬の後、偽ダンクーガは真っ二つとなり爆発。
断空剣。野生を解き放ったダンクーガが使用する切り札とも言える武装。その一撃は、何者かが用意した偽物と真の野生を持つ4人との、決定的な差として顕現していた。
偽ダンクーガのうち1機が消滅する。それを合図に、残りの偽ダンクーガが真のダンクーガへと襲いかかった。だが、それらを相手に怯むほど、獣戦機隊はヤワではない。
ダンクーガの背中から、一門の砲塔が展開される。断空砲。圧倒的な火力を誇るダンクーガの必殺武器。それをまとめて浴びせ、木偶のような偽物どもを一掃する。それと同時、忍が叫んだ。
忍
「偽物なんか用意しやがって、いい加減姿を現したらどうだシャピロ!」
忍の叫びは、暗黒の宇宙に木霊した。やがてその声に応えるかのように、白銀のオーラバトラーがダンクーガの前に降り立つ。それは、このドス黒い悪意の塊の中においては神々しいほどの美しさを持ったマシンだった。しかし、
シャピロ
「ほう……。少しはできるようになったようだな、藤原」
白銀のオーラバトラーから、黒い声がする。
エイサップ
「あいつはっ!?」
沙羅
「シャピロ!」
シャピロ・キーツ。岩国を攻撃した張本人であり、沙羅達にとっても忘れることのできない因縁の敵。それがどういうわけか、オーラバトラーに乗っている。そしてそのオーラバトラーにショウは、見覚えがあった。
ショウ
「あのオーラバトラー、ズワァースかっ!?」
ズワァース。かつてバイストン・ウェルのアの国でショット・ウェポンが開発した最強のオーラバトラー。その性能はダンバインや、ショウが以前愛機としていたビルバイン以上の高機動と重武装を両立させるに至ったオーラバトラーの完全形とも言うべき機体。それに今、シャピロ・キーツは乗っている。
シャピロ
「フフフ、ショットも面白いものを用意してくれたものだ。このズワァース、私に馴染む」
シャピロ・キーツの野心、妄執、執着。それらが闇色のオーラ力となり、ズワァースの力となっている。それをショウは、肌で感じていた。
沙羅
「はっ。新しい玩具で上機嫌になるなんて、随分と器の小さい男になったねシャピロ!」
白銀の機体を漆黒に輝かせるシャピロに唾を吐き捨てたのは、沙羅だった。
シャピロ
「何だと、沙羅……?」
沙羅
「シャピロ、私はね。果てしない夢を語るあんたのことが好きなんだと思ってた。でも、違う。私が好きだった男は、その果てしない夢を一緒に見てくれる人だった……。今のあんたは、見る影もないね!」
沙羅は叫ぶ。それはまるで自分に言い聞かせているかのような響きだった。しかし、その訣別はシャピロにとって、侮辱でしかない。
シャピロ
「フフフ、沙羅……。いいだろう、まずは貴様から殺してやる!」
ズワァースが右手に構える剣を翳す。それと同時、暗闇の中から再びダンクーガの偽物が浮かび上がった。それも、5機。
槇菜
「また、にせダンクーガ!?」
シャア
「どうやらあのマシンは、この空間が作り出している幻影に近いもののようだな。しかし、質量を持っている……」
アラン
「この空間そのものに指向性はないはずだ。ならば……」
百式のコクピットの中で、シャアは推測する。この暗黒空間の中で生み出されるエネルギー。それをダンクーガの形に象らせている。
だとしたら、それを司どる者がいる。アランは状況からそう推測した。それは、おそらく。
アラン
「藤原、とにかく今はシャピロを倒すのが先決だ!」
シャピロ・キーツ以外あり得ない。ブラックウィングは偽ダンクーガへと切り込んでいく。パルスレーザーの砲撃を掻い潜る。戦友がその奥にいるシャピロ・キーツへと喰らい付くべく、バルカン砲を撃ちまくり偽物を牽制する。
忍
「おう、一撃で決めてやるぜ! 断空砲フォーメーションだ!」
ダンクーガの背中に搭載された巨大な砲塔。それと同時に腰部のキャノン、パルスレーザー。全ての砲身が展開された。狙うはただ一つ。白銀の装甲からドス黒いオーラを発する、邪悪なオーラ力の根源。
「OK忍!」という仲間達の号令と同時、全ての砲塔から、強烈なエネルギーが放たれた。巨大なダンクーガから放たれた野生のエネルギーが、小型のオーラバトラー・ズワァースを飲み込んでいく。
雅人
「やったか!?」
亮
「いや、まだだ!」
断空砲フォーメーションの中を、無傷で突き進む白銀の体躯。シャピロの乗るズワァースは、断空砲の反動を受けるダンクーガの目の前に躍り出ていた。
シャピロ
「フハハハハハ! これだ、この力こそが、私を神の国へと導くぅぅぅぅ!?」
忍
「な、シャピロ!?」
ズワァースのシールドの裏から放たれた爆弾が、ダンクーガに命中し爆ぜる。その爆発が、ダンクーガの全身を飲み込んだ。
忍
「うわぁぁぁっ!?」
アラン
「藤原ッ!?」
ブラックウィングがヒューマノイド・モードへ変形し、ズワァースを取り押さえようと動いた。しかし、ブラックウィングのバルカン砲はズワァースに当たらず、直前で弾かれてしまう。
ショウ
「オーラバリアかっ!?」
アムロ
「オーラバリア?」
ショウ
「ああ、地上に出たオーラバトラーは、バイストン・ウェルで制限されていた機能を解放してしまう。パイロットのオーラ力をバリアへと変換するオーラバリアも、その一つだ。それに、フレイボムの爆発もバイストン・ウェルの頃より大きい……」
重い頭を必死に動かしながら、偽ダンクーガの鉄拳を避けてショウが説明する。説明しながら、ショウはここがバイストン・ウェルよりも地上に近いどこかなのではないか。と思った。オーラバリアが強く発現しているのがその証拠だ。反撃にダンバインもオーラショットを偽ダンクーガへ浴びせた。すると、ショウのオーラ力を吸うようにオーラショットは大きな爆炎を上げ、偽ダンクーガを飲み込んでいく。
マーベル
「ショウ、これは……」
マーベルのボチューンも、同様だった。
ショウ
「ああ。みんな聞いてくれ! ここは地上に近い場所かもしれない!」
トビア
「なんだって!?」
ショウ
「オーラバトラーの性能が上がっているのが、その証拠なんだ。みんな、ここが正念場だ!」
そう叫び、ショウのダンバインは高く翔んだ。上空から、オーラショットによる波状攻撃を偽ダンクーガへ浴びせていく。
そうして上空からこの暗黒の宇宙を見て、ショウはあるものに気付いた。
ショウ
「あれは……?」
シャピロ率いる偽ダンクーガ軍団との戦場の遥か先。ゼイ・ファーとドル・ファーが何かを取り囲んでいる。それは、廃墟と化した城のようだった。錆びれ、焼け煤け、原形を留めていない無残な城。その城に、ショウは見覚えがあった。だが、確証がない。しかしムゲ帝国の戦闘メカ達はその城へ攻撃を繰り返し、城が放つオーラバリアに阻まれている。
城がオーラバリアを展開する。それがショウの記憶と、その城を符合させる。
ショウ
「グラン・ガランだ……!?」
マーベル
「何ですって!?」
グラン・ガラン。かつて、ショウ達反ドレイク勢力の旗艦として地上で激戦を繰り広げたオーラ・バトル・シップ。しかし、グラン・ガランは最後の戦いで沈み、女王シーラ・ラパーナによる“浄化”を以って地上からオーラマシンを消滅させた。
槇菜
「グラン・ガラン……。ニュースで聞いたことある。たしか、バイストン・ウェル軍の旗艦のひとつだって」
かつて、地上に浮上したバイストン・ウェルの軍は大きく5つの旗艦を持っていた。ドレイク・ルフトのウィル・ウィプス、ショット・ウェポンのスプリガン、ビショット・ハッタのゲア・ガリング。それにエレ・ハンムのゴラオンと、シーラ・ラパーナのグラン・ガラン。
その全てが強大な戦力を保有し、地上の各国政府にとって大きな脅威となっていた。そして、地上界への侵攻を開始したドレイク派の3隻と、それに反抗するシーラ、エレ派の2隻の構図が固まった時、国連軍はシーラ、エレ派に協調する姿勢を見せることにした。
もっとも、その戦いにおいてまともにオーラバトラーと戦えた地上のマシンは、マジンガーZくらいのものだったのだが。
ともかく、そのうちの一隻……グラン・ガランはショウとマーベルにとっては家にも近いものだった。
それが、どんな因果でこのような地に流れ着いたというのだろうか。いや、それよりも。
オーラバリアを発動させているということは、搭乗者のオーラ力を増幅させているということだ。つまり、あの残骸というべき無残なグラン・ガランには人が乗っている。
まさか、とショウは額に流れる感じた。
シーラ・ラパーナ。若年にしてナの国の女王として気高く振る舞い、ショウを聖戦士として導いていくれた聖女。もし、シーラがグラン・ガランの中で生きているというのならば……。
ショウ
「すまないみんな、大事な人が敵に囲まれている。俺は、あの人を見捨てられない!」
ダンバインが、闇の中を飛んでいく。オーラコンバーターから、世界のオーラを吸い込んで速度に変える。今までよりも速く。
マーベル
「アマルガン殿、私はショウを援護します!」
アプロゲネのアマルガンに断りを入れて、マーベルもショウへ続く。
アマルガン
「ショウ殿、マーベル殿!」
偽ダンクーガ達は、戦線から離れるニ機のオーラバトラーを無視し、一機がアプロゲネへと迫った。それを阻むのは、Zガンダムのハイパー・メガランチャー。メガ粒子の光が偽ダンクーガの頭を潰す。さらに、百式のクレイバズーカがトドメとなり、偽ダンクーガの一機が堕ちた。
アムロ
「あの青年は、本気だとわかる!」
シャア
「あの若さを守るのが、我々の役目ということか。いいだろう!」
ベース・ジャバーから飛び降り、百式はさらに偽ダンクーガのうち一機へビーム・ライフルを浴びせまくる。そして、バーニアを吹かして突撃し、百式より遥かに巨大なダンクーガの頭部を思いっきり蹴り上げた。
シャア
「今だ、トビア君!」
トビア
「了解!」
自身より遥かに巨大なマシンを相手にする際には、セオリーがある。頭か足。どちらかを潰すこと。まともにやり合えば体積の差をひっくり返すパワーはモビルスーツにはない。それを、技術でカバーするのがモビルスーツ乗りの戦い方だった。
トビアのクロスボーン・ガンダム……スカルハートの持つムラマサ・ブラスターが唸りを上げる。頭部を損壊した偽ダンクーガは、それに反応することができなかった。
トビア
「こ・の・おぉぉっ!?」
斬撃。スカルハートの一閃が、さらにもう一機の偽ダンクーガを破壊する。
シャア
「こんなところで、手こずるわけにはいかんのでな!」
アムロ
「シャア、援護しろ! また一機来るぞ!」
Zガンダムがメガランチャーを構える。しかし、背後から伸びる高出力ビーム……ヴェスパーが、ダンクーガの背中を焼いた。
ハリソン
「俺を忘れてもらっちゃ、困るな!」
青い閃光。ハリソン・マディン大尉のガンダムF91である。ハリソンのF91は、強力すぎるが故に持て余していた兵器……ヴェスパーをここぞとばかりに連発していた。
ハリソン
「こいつら、スペックはダンクーガと互角だが、魂の籠らない人形だ。パイロットの能力を感じない。こんなダンクーガなら、モビルスーツでも勝算はある!」
青いF91が、獅子奮迅の活躍で偽ダンクーガの軍団を相手取っていた。とはいえ、パワー面ではダンクーガに分がある。偽物のダンクーガは、ダイガンの狙いをハリソンのF91に定め、発射する。しかし、銃身が向けられたその直後にハリソンはF91の機体を逸らし、ダイガンの射線を避ける。
光の速さを誇るビームを避ける方法。その初歩的な……しかし訓練されたパイロットでもなかなかできない芸当を、ハリソンはやってのけていた。ビームを避けるなど本来不可能だから、ビームを耐えられる重装甲に価値があり、F91もビーム・シールドを装備している。しかし、ビームを避けることができて一人前と言われる達人の域にある戦いを、ハリソンは披露していた。
ハリソン
「もらった!」
F91の高機動でダンクーガへ迫り、ビーム・バズーカをブッ放すその勢いで、偽ダンクーガをさらに撃破。
トビア
「さすがハリソン大尉だ。あの人とまともにやり合いたくはないな……」
本来は敵対している宇宙海賊という立場上、トビアはその戦いぶりをそう評するしかなかった。
…………
…………
…………
—グラン・ガラン内部—
グラン・ガランは今も、ムゲ帝国の激しい攻撃を受けていた。その衝撃で船体が揺れ、遺されていたオーラバトラーが倒れる。
チャム
「あー! それを潰したらダメよ!」
グラン・ガランの中でミ・フェラリオのチャム・ファウは甲高い声を上げていた。桃色のふわりとした髪を揺らしながら、チャムはぱたぱたと船内を飛び回る。
チャム
「それは、ショウのために残してあるのよ!」
旧式のオーラバトラー、ダーナ・オシーが横転し下敷きにしてしまったオーラマシンを助け出そうと、チャムは小さな身体をいっぱいに使ってダーナ・オシーを押す。しかし、全長30㎝程の大きさしかない妖精には、比較的小型のマシンであるオーラバトラーとて絶望的な体積を誇るものだ。当然、ビクとも動かない。
???
「どうしました、チャム」
そんな騒がしい船内で、凛々しい女性の声がした。
チャム
「あっ、シーラ様! 大変なのよ!」
シーラ・ラパーナの声が、チャムを包む。バイストン・ウェルへ戻る旅路の途中、グラン・ガランとシーラに再会できたことが、チャムにとって唯一の慰めだった。
地上界での激戦の後、海に放り出されていたチャムはシーラの“浄化”の中に入ることができず……ただ一人、地上に取り残されていた。
それからアメリカ海軍に助け出され、人々にバイストン・ウェルの物語を……ショウの戦いの話を語って聞かせた。それが、あの戦いで死んだ全ての命への慰めになる。そう思ってのことだった。
中でも、視察にきた西田という盲目の男性は、バイストン・ウェルの御伽噺を熱心に聞き入っていたからチャムは今でも覚えている。しかし、地上の環境はバイストン・ウェルの者には過酷だった。慣れ始めていたとはいえ、故郷へ帰れないとなれば異郷の地は、怖いものなのだ。魂の敏感なフェラリオという種は特に、死者の魂で満ちた地上にひとりきりは嫌なのだった。
そしてある満月の夜、チャムはひっそりと地上から姿を消した。
帰りたかった。バイストン・ウェルに。例えこの命がワーラーカーレンに還ることになっても、地上で死ぬのは嫌だった。
最期に、バイストン・ウェルを見たい。その一心が、チャムを行動させ…………目が覚めた時、チャムはここにいた。
地上よりも遥かに寒く、悪意に満ちた世界。しかし、グラン・ガランの中は温かくて、平気だった。シーラに言われるがまま、チャムは英気を養い……元気を取り戻した。
それから、チャムはシーラに、「ショウとマーベルが生きている」と聞かされた。そして、ショウがここに来た時のためにこれを用意していたと。
だが、そのシーラが用意したものがダーナ・オシーの下敷きになっているのだ。何とかしなければ、とチャムは抗議するが、シーラの声はそれを意に返さない。
シーラ
「大丈夫ですチャム、今はそれより、安全な場所へ」
寝室から出てきたシーラ王女にチャムは飛び寄り、渋々「はーい!」と返事をする。
シーラ
「チャム、見えますかあれが」
そんなシーラが、窓の外を指さした。窓の外にはいつもおどろおどろしい怪物がいて、正体不明のメカ怪獣がグラン・ガランを襲うからシーラ様はオーラバリアを発動させるためにオーラ力を吸われている。そんな外は嫌いだが、チャムはシーラに言われて外を見やった。
そこには、藤色の甲虫を模した頭部を持つ、チャムも見知ったオーラバトラーが舞い、メカ怪獣たちを斬り伏せている。
チャム
「ダンバイン! ショウなの!?」
シーラ
「ええ、ショウ・ザマが来てくれましたよ」
優しいシーラの声色が、ショウの帰還を物語っていた。ミ・フェラリオは元来、コモン人に比べて霊的な存在である。フェラリオという種族特有の勘は特に、色恋に関しては敏感だった。だからチャムは、シーラという少女がショウを内心強く慕っていることを理解している。
チャム
(シーラ様……ショウとまた会えるのが嬉しいんだ)
だが、ショウと会いたかったのはシーラだけではない。長い戦いを共にしてきたチャムにとっても、ショウは掛け替えのない存在だった。
窓から見えるダンバインとボチューンは、敵を斬り伏せながら進んでいた。しかし、多勢に無勢。ゼイ・ファーのビーム砲が、ボチューンへ炸裂している。それをボチューンはバリアで防いでいたが、連戦とこの空間が齎す不調で、マーベルのオーラ力は大きく揺れていた。その揺れが、オーラバリアを弱めた瞬間が仇となる。敵の波状攻撃の中に、マーベルのボチューンは次第に飲み込まれていった。
マーベル
「嗚呼ッ!?」
ショウ
「マーベル!? クソッ……!」
ショウのダンバインが、ボチューンを助けようと振り返る。その瞬間、敵に喰らい付かれてしまう。
ショウ
「クッ、南無三!?」
オーラショットで敵を爆破しようとしたが、それでは最悪マーベルを巻き込むことになる。ショウとマーベルは、敵の軍勢の中で完全に分断されてしまっていた。
チャム
「ああ、ショウ!?」
その光景を見つめながら、チャムが叫ぶ。
シーラ
「ショウ……」
シーラも、そんなショウを心配そうに見つめている。そんな時だった。2人の後ろから、声がする。
ヤマト
「俺が行って、2人を助ける!」
声の主は、黒髪の少年だった。歳の頃はショウより少し下か同じくらい。しかし、強い意志を宿した瞳と腰に下げた剣はたしかに、戦士のものだった。
シーラ
「ヤマト……行ってくれますね」
ヤマト。そう言われた少年はシーラの言葉に頷くと剣を抜き、掲げてみせる。
ヤマト
「シーラさん、あんたをショウって奴と会わせてやるのが、俺の使命なんだ。俺の愛する人との約束だからな!」
ヤマトと呼ばれた少年は、高らかに掲げてみせた剣を見つめそして、叫んだ。
神の名前を。邪悪なる魂達を屠る、剣の名前を。それは、即ち。
ヤマト
「ゴッドマジンガー!」
ゴッドマジンガー。そうヤマトが叫ぶと、グラン・ガランの前に突如として巨大な石像が降り立った。ヤマトは、石像の中へワープし、魔神の中で贄となる。
ヤマトの魂を取り込んだ石像は、体色を青銅色に変化させていく。そして、像の瞳に魂が宿った。今、ゴッドマジンガーと呼ばれた石像にヒトの頭脳が……火野ヤマトの魂が加わったのだ。
巨神像……ゴッドマジンガーは腰に下げられた剣を抜き歩き出す。ズシン、ズシンと地を揺らすその足音と共に、ムゲ帝国の戦闘メカの群れに魔神は突っ込んでいく。
ヤマト
「邪魔をするな、お前ら!?」
剣の一振り。それだけで敵戦闘メカを両断し、その巨体から放たれる蹴りが、拳が、次々とゼイ・ファーを破壊し進んでいった。そして、敵の中央で孤立するオーラバトラー、ダンバインを発見し、ゴッドマジンガーはさらに進む。
ヤマト
「行くぞ、マジンガー!」
ゴッドマジンガーが、咆哮を上げる。唸り声のままに振るう剣の一閃で、ダンバインを包囲する敵の軍団を斬り開いていった。
ショウ
「何だ、魔神……?」
大魔神。そうとしか形容できないその姿にショウは戦慄する。
ヤマト
「あんたがショウ・ザマか?」
大魔神から流暢な日本語が伝わる。ショウはコクピットの中で頷きつつ、大魔神……ゴッドマジンガーと合流する。魔神はその巨体から繰り出される剛腕豪脚で敵を踏み潰しながら突き進んでいく。
ヤマト
「ここは俺が引き受ける。ショウ、あんたはグラン・ガランへ行きシーラと会ってくれ!」
ショウ
「シーラ様、無事なんだな!?」
ヤマト
「…………行けよ、相方は俺が助ける!」
ゴッドマジンガーが咆哮を上げ、剣を振るう。ゼイ・ファーが真っ二つに分断される。敵の標的は次第に、ゴッドマジンガーへ集中し始めた。それは確かに、ダンバインがグラン・ガランへ向かう好機となる。
ショウ
「すまない、助かった!」
ダンバインはショウを乗せ飛び立つ。廃墟のように襤褸く、今にも崩れそうなグラン・ガランを目指して。それを見送り、ヤマトは再び敵の軍団へ切り込んでいく。敵の大群に押し寄せられたのはもう1人、チャムとシーラが言うマーベルという女性だろう。
ヤマト
「……これでいいんだろう、アイラ」
マジンガーで敵をたたきのめしながら火野ヤマトはそう、ひとりごちた。
…………
…………
…………
ゴッドマジンガーの出現は、偽ダンクーガと戦うエイサップ達にもしっかりと、確認できていた。アプロゲネのアマルガンは、見たこともない魔神の登場に驚きを隠せない。
エイサップ
「ショウ達の行った方から、何か来ます!」
アムロ
「何だ、大魔神……?」
長くバイストン・ウェルで暮らしていたアムロも、あんなマシンは見たことがない。いや、そもそもあれはマシンと呼んでいいものなのだろうか。鉄の塊が持つ特有の存在感は、感じない。むしろ、あれは意志を持った何かのように感じられる。
ドモン
「どことなくだが、マジンガーに似ているような気もするが……?」
だが、それでもドモン達の知る「マジンガー」ではあり得なかった。鉄の城とも形容されるマジンガーではなく、寧ろあれは天然自然の中から生まれたものの息吹を感じられる。
トビア
「味方、なのか……?」
ムゲ帝国の戦闘メカを蹴散らながら、魔神は歩みを進める。魔神から、少年の声がした。
ヤマト
「俺は火野ヤマト、地上人だ! 助太刀するぜ!」
火野ヤマト。その名前は日本人のものだ。快活な少年。そんな印象を与える声の主はそう名乗り、魔神の剣でゼイ・ファーを斬り伏せる。
槇菜
「ゼノ・アストラ……。あれを知ってるの?」
ゼノ・アストラのコクピットの中、槇菜が呟く。ヤマトの乗る魔神の出現に、ゼノ・アストラが反応を示したのだ。だが、今までのような危険を示すような反応ではない。
むしろ、その逆。
槇菜
「光宿りしもの……ゴッドマジンガー?」
ゼノ・アストラははじめて、明確に“味方”であるという反応を示していた。それは、邪霊機やミケーネ、そしてこの空間への反応とは違う。槇菜には、ゼノ・アストラがまるで旧友との再会を喜んでいるのが感じられるのだ。
槇菜
「そっか……」
槇菜が最初に感じたのは、安堵だった。この世界で、ゼノ・アストラの存在には必ず大きな意味がある。そうジャコバ・アオンは言った。だがゼノ・アストラが知るものは全て、危険で邪悪か、凶暴なものばかりだった。
だが、ゼノ・アストラにも仲間がいる。槇菜と同じように。
槇菜
「なら……。ヤマト君って、言ったよね。私達は、この空間にいるはずの邪悪の元凶を倒さなきゃいけない。手伝ってくれますか?」
ヤマト
「ああ、当然だ!」
快く引き受けるヤマト。その声は快活で、人を惹きつける力のある声だった。
槇菜
「よろしく……ね!」
叫び、槇菜はゼノ・アストラのシールドを思いっきり偽ダンクーガへ叩きつける。本来身を守るための盾だが、20mの巨体の半身以上を覆うようなそれを空から叩きつければ、凶悪な質量兵器と化す。退避しようとする偽ダンクーガを指のワイヤーを射出し、槇菜は固定する。
槇菜
「今だよ、エイサップ兄ぃ!」
エイサップ
「ああ、行くぞ!」
ワイヤーを離そうともがくその一瞬。そこにナナジンが飛び込み、燃え上がるオーラソードで偽物をまた斬り裂いた。
エイサップ
「まやかしの器なんかに、本物のオーラ力が宿るものか!」
ヤマト
「へっ、あいつらなかなかやるじゃねえか。よっと!」
槇菜達の戦いぶりを褒めつつも敵を蹴散らし、ヤマトのゴッドマジンガーはマーベルのボチューンを救助していた。ボチューンはこの空間の瘴気に充てられた結果か、オーラバリアがうまく働かず結果並のオーラバトラー以下の装甲に集中攻撃を受けていた。そんな中でなんとか耐え、辛うじて動けているのはマーベルのオーラ力のおかげだろう。
マーベル
「う……ブツゾウ?」
ヤマト
「仏像、ね。まあ、似たようなもんだけど説明はあとだ。あんたはショウのところに行ってくれ!」
マーベル
「ええ、わかったわ……」
敵の猛攻に晒され、大きく損壊したボチューンを守るようにゴッドマジンガーは敵の前に出る。巨体から繰り出される攻撃で戦闘メカを破壊し進む。目指すのは、今まさにダンクーガと激戦を繰り広げるオーラバトラー・ズワァース!
シャピロ
「何だ、貴様は?」
ヤマト
「こいつはゴッドマジンガー。邪悪を討つため、2万年の眠りから蘇った守り神だ!」
ゴッドマジンガーの青銅色の機体が、金色に輝いていく。そして、閉じていた口がまるで悪魔のように大きく開かれ、咆哮をあげる。
その咆哮が衝撃となり、シャピロを守っていたズワァースのオーラバリアを打ち破った。
シャピロ
「何だと! この力……まさか!?」
衝撃で、弾き飛ばされるズワァース。ダンクーガはその隙を逃さず、ダイガンを浴びせにかかる。ダイガンの一撃に、バリアが間に合わない。
忍
「くたばれ、シャピロ!?」
シャピロ
「ええい!?」
シャピロは咄嗟に、左腕のシールドを投げた。ダイガンの光にぶつかり、シールドは爆ぜる。その間に体勢を立て直しながら、シャピロは敵を睨んでいた。
シャピロ
「忌々しい奴らめ……どこまでも、神の座に座るべき男の邪魔をするか!」
沙羅
「裏切り者に合う椅子なんか、最初からありはしないんだよシャピロ!」
沙羅が叫ぶ。それがシャピロをより一層、苛立たせる。右肩を震わせながら、ズワァースは再びダンクーガへと向き直る。
シャピロ
「沙羅……。この俺を捨てたこと、後悔するがいい!」
ズワァースの掲げるオーラソードが、妖しく輝いた。それと同時、ズワァースの全身から黒いオーラ……シャピロそのものとでも言うべき漆黒の意思が噴出し、ズワァースに力を与える。
オーラマシンとは、獣戦機だ。人間の生命エネルギーをマシンの力に変えるという点で、オーラバトラーとは獣戦機の特性をより発展させたマシンであると言える。
しかし、オーラバトラーが吸う人間の生命力……オーラ力とは、人間の精神の均衡と調和。世界と人とのバランスそのものが描く宇宙のようなものだった。ショウ・ザマのように、雑念を振り払い、世界のために正しく在ろうとする者にこそ、真のオーラ力は宿る。
今のシャピロは、その真逆の存在であると言えた。世界という弧の中に存在する個としてではなく、自らが世界の中心に君臨しようという野心。それを最愛の女性に理解されない孤独。そんな夢追い人の慟哭が、シャピロのオーラ力を歪んだ形で高めていた。
シャピロ
「沙羅……。なぜだ、何故理解せんのだ!」
シャピロは、気付いていなかった。
自分が今でも、沙羅を愛していることに。
自らの首を絞め掛けるほどの、危険な喜び。
新たな宇宙の神となり、世界を救うという使命。
それをただの愛憎故の復讐心にまで自ら貶めてしまう熱情。
それが、沙羅。
シャピロ
「私が神となった世界で、お前は私と2人……真の楽園へ誘われるはずだったのだ。それが、それを、お前はぁっ!?」
やがて全ての偽ダンクーガは破壊され、ダンクーガを中心にブラックウィング、ゴッドマジンガー、スカルハート、F91、Zガンダム、百式、ゴッドガンダム、マスターガンダム、それにナナジン、ゼノ・アストラが集まっていく。
それらを睨みながら、シャピロは沙羅への愛憎を吐露し続けていた。
シャピロ
「沙羅……。思えば私がお前を愛さなければ、お前と出会わなければ、こんな、こんなことにはならなかった!」
シャア
「あの男……」
シャアには、シャピロの吐き出す激情が痛いほどに理解できた。だが、理解できたからといって認めるわけにはいかない。
トビア
「シャピロ……。お前は、人間だよ。どこまでいっても、ただの人間だ!」
そんなシャアに代わり叫んだのが、トビアだった。
シャピロ
「人間だと……? 神の座へ君臨するこの私を、貴様ら矮小な存在と同一視するか!」
トビア
「ああ、そうだ! お前によく似た男を、俺は知っている……」
ベルナデット
「…………」
クロスボーン・ガンダムが、スカルハートが動いた。
トビア
「だから、せめて人間らしく……ここで終わらせてやるっ!?」
ピーコック・スマッシャーを構え、ズワァースへ仕掛ける。しかし、ズワァースのオーラバリアを貫通できず、ビームの雨は霧散していく。
トビア
「クソッ!?」
シャピロ
「無駄だ、この神の前にはなぁっ!?」
次に動いたのは、ズワァースだった。残像を撒き散らしながら飛ぶズワァースは一瞬の間にスカルハートへ迫る。そして大きく剣を振り上げ、振りかぶった。シャピロのオーラ力を収束させた、渾身のオーラ斬りが、トビアを襲う。
トビア
「避けられ、ない!?」
シャピロ
「神を侮辱した罪、その身で味わうがいい!」
しかし、その斬撃は届かなかった。スカルハートの前に飛び込んだ光の翼をはためかせる黒い機体。ゼノ・アストラの巨大な盾が、シャピロの攻撃を阻んだ。
槇菜
「ッ!?」
シャピロ
「旧神めっ、邪魔をするな!」
ズワァースは八つ当たりのようにゼノ・アストラを蹴り上げる。強大なオーラ力により増幅されたパワーが、槇菜を襲った。
衝撃で、ゼノ・アストラは大きく弾き飛ばされる。だが、ゼノ・アストラに意識を向けたその一瞬。その間がシャピロの命取りとなった。
忍
「シャピロ!」
ズワァースへ迫るダンクーガ。断空剣を構え、獣戦機4機分の巨体が突進する。ズワァースはそれを避けようとした。だがそれを許さない5本のワイヤーが、ズワァースに喰らい付く。
槇菜
「ッ……今です!」
ゼノ・アストラの左の指から放たれたワイヤーが、オーラバリアを貫いてズワァースに深く突き刺さっていたのだ。ワイヤーが力強く、ズワァースを離さない。
このワイヤーが、邪悪なる者を追い詰める為の狩猟機能であることをこの時槇菜は、無意識のうちに理解していた。ただの補助ユニットではない。
旧神。そう呼ばれるこのマシンには恐らく、槇菜の気付いていない多くの機能があるはずだった。ワイヤーの特性もそのひとつ。そして、このワイヤーはシャピロの怨念のオーラ力を突き破った。それは即ちシャピロは、ゼノ・アストラにとっても倒すべき邪悪ということに他ならない。
シャピロ
「おのれ、小癪な!?」
ワイヤーを引き剥がそうともがけばもがく程、ズワァースに食い込んでく。そして、ダンクーガは既に目前に迫っていた。
忍
「行くぞみんな、アグレッシブ・ビーストチェンジだ!」
忍の合図と共に、ダンクーガが四つのマシンに分離変形する。忍が操る猛禽・イーグルファイターがまずはその機動力で突撃した。バルカン砲を撃ちまくりながら、その風切り羽でオーラバリアを貫き、ウィングに纏う野生のオーラがズワァースの右脚を切断する。
シャピロ
「グッ、藤原ァッ!?」
雅人
「まだだ、こっちからも行くぜ!」
次に飛び込んだのは雅人の乗る金獅子ランドライガー。獅子の牙が、ズワァースの装甲へ喰らい付く。ズワァースはそれを必死に振り払うが、その直後にダンクーガの胴体の役割を果たす巨象がシャピロの前に躍り出た。
亮
「シャピロ……。あんたの野心、わからんでもなかった。だが、お前は引き返すべき一線を越えた!」
亮の操るビッグモスだ。マンモスを模したその巨大なツノとノズル、そして体積を生かした体当たりがズワァースに炸裂する。オーラバリアで防ぎ切れない波状攻撃を前に、堅牢なズワァースはついにその剣を折った。そして、
沙羅
「シャピロ……!」
最後に飛び出してきた女豹。ランドクーガー。沙羅の乗る黒豹が、鋭利な爪が、ズワァースのキャノピーに喰らい付きそして……切り裂いた。
シャピロ
「沙羅……!」
中に座る男を、沙羅は一日たりとも忘れたことがない。かつて愛し合い、そして今憎み合っている男。共に出掛けたフランスの美術館のことを思い出した。2人で食べたサンドイッチの味は、今でも特別な味だ。彼から贈られたラブソング……ハーモニー・ラブを聴くと、胸が苦しくなる。
ランドライガーのコクピットハッチを開き沙羅は、自らの顔をシャピロに晒した。
沙羅
「沙羅。この私を、もう一度殺すのか」
沙羅
「そうだよ、シャピロ。あんたをこの手で殺す。せめて、私の手で!」
乾いた音が一発。それだけが2人の世界に響いた。もう、ラブソングは聞こえない。
ただ、シャピロの胸に大きな穴を開けた一発の銃弾が2人の、離別の音。
シャピロの胸から流れる赤色を認めた沙羅は、ランドクーガーへと戻りそして、離脱する。ズワァースの纏う邪悪なオーラ力が、その勢いを弱めていた。シャピロの命の灯火が、消えるのを沙羅は感じていた。
力なく地へ堕ちる白銀のオーラバトラー。その中でシャピロは、二度目の死を迎えようとしている。
シャピロ
「ふ、ふふふ……」
何故、こんなことになってしまったのだろう。シャピロは最期の思考の中で、そんなことを考えていた。
シャピロが異世界人や異星人の存在を感知したのは、ムゲ帝国の迫るより遥か前の出来事だった。宇宙の調和が乱れる音。それを確かにシャピロは聴いた。
それは、福音なのだと思った。調和の乱れた宇宙を自らの手で調律する……それは、神の所業。宇宙は、シャピロという男にそれを求めている。そう、感じていた。
だから、全てはそのための準備に過ぎない。シャピロ自らが神になる。その傍らには、シャピロの愛する伴侶がいる。神たるシャピロの手で齎される千年王国……。
だが、神の傍にいるはずのものはもう、戻ってはこない。
隣に沙羅がいない世界に意味など、あるのだろうか。
ならば……ならばいっそ、
シャピロ
「天よ砕けよ! 宇宙よ、お前は再び暗黒の世界に姿を隠すがいい……。神が今ここに誕生し、そして神が! 自らの裁きで、この世界を無のものとするぅ……」
こんな世界など、滅びてしまえばいい。
リュクス
「シャピロ・キーツ……」
エイサップ
「目を背けちゃダメだ、リュクス」
シャピロ
「よいか、よいか……宇宙よ。今こそこの神の足元に、永遠にその魂を委ねるがよい……。フ、ヒャハハハハ! さあ宇宙よ! 何を躊躇うことがあるぅというのだ! 今こそ、今こそこの、神の下、へ……」
プツリ、という音がしたかのようにシャピロはもう、何も喋らなかった。ただ、自らの怨念と愛憎の果てに、何もかもを失った男を哀れむような視線が、彼への餞別だった。
沙羅
「シャピロ……。あんた、馬鹿だよ。シャピロ!」
只一人、沙羅だけがシャピロの為に涙を流していた。獣戦機隊の者達以外に、沙羅とシャピロの関係を知る者はここにいない。それでも、シャピロへ向ける強い殺意と執念。そして愛を悟らぬ者など、この場にいなかった。
忍
「沙羅……」
アムロ
「…………」
沙羅の啜り泣く声以外に、聞こえるものはなかった。そんな静寂の世界。だが、この空間を包む黒い意思をアムロは未だ感じていた。そして、その意思はシャピロの死を通してより、強くなっている。
シャア
「アムロ、この感じは……!」
アムロ
「ああ。みんな気を付けろ、何か強大な邪悪がここに迫っている!」
アムロが叫んだ、その瞬間。
シャピロ・キーツの遺体を黒い怨念が包み込む。まるで、シャピロの身体を通して放出されているかのような暗黒の空気が、この空間で姿を持って具現化するかのように。
ヤマト
「マジンガー、どうしたんだ!?」
ヤマトと一体化しているゴッドマジンガーが、突如として吠えた。まるで怨敵を見つけたかのように、魔神は怒りの雄叫びを上げる。
槇菜
「ゼノ・アストラ!?」
ゼノ・アストラも同様だった。槇菜には読めない、しかし何を言いたいのかは漠然と伝わるような象形文字がモニタに表示され、邪霊機と対峙した時と同じように警戒のアラートを鳴らせている。
槇菜
「死の宇宙の支配者……。暗黒の使徒……」
ヤマト
「闇の帝王の、仲間だっていうのか!?」
愛機の示す反応を、槇菜とヤマトはそれぞれに理解する。今現れようとしているものこそ、旧神が、魔神が撃ち倒すべき邪神。生の世界を脅かす、暗黒の使徒。
亮
「どうやら、真打が現れたようだぜ忍!」
忍
「ああ……。ようやくお出ましかムゲ野郎!」
忍が叫ぶ。そしてついに、暗黒の使徒は姿を表した。
ムゲ
「大儀であった、シャピロ。お前の中でこうして私は、力を取り戻すことに成功した」
ムゲ・ゾルバドス帝王。かつて、記録上はじめて地球に降り立った異星人文明。ムゲ・ゾルバドス帝国の支配者。ダンクーガにより倒されたはずの怪人が、暗黒の世界に降り立ったのだ。
…………
…………
…………
沙羅
「ムゲ野郎……。あんたが、シャピロを生き返らせたのかい?」
再びダンクーガへ合体した獣戦機隊。沙羅は涙を拭い、宿敵を睨んでいた。
ムゲ
「否。私は無限。この世に負の魂が存在する限り何度でも甦る。私はシャピロの亡骸に自らを転写し、再起の時を待っていた。だが……シャピロの魂を操り、現世に舞い戻らせた者がいた」
雅人
「じゃあ、シャピロを生き返らせた黒幕は別にいるってことかよ!」
雅人が呻く。ムゲ帝王は首肯し、言葉を続けた。この声は重く、脳を縛り付けるほどの威圧感を与えている。それが、暗黒の宇宙を支配する存在。ムゲのプレッシャーだった。
ムゲ
「シャピロを蘇らせた者は、蘇らせた存在……リビングデッドを介してこの世界に混乱を齎そうとしている。シャピロもまた、その為の駒に過ぎない」
リュクス
「そのために、父上の軍隊を私物化しようとしたというの!?」
ムゲ
「そうだ。私は蘇ったシャピロに協力し、手駒を貸し与えた」
アラン
「バイストン・ウェルの軍がムゲ帝国のマシンを使っていたのは、その為か……!」
ムゲ
「そうだ。そして私は復讐の時を待っていた。私の存在を貶めたダンクーガ。その存在を滅ぼすために!」
ムゲ帝王の周囲に、暗黒のオーラが集まっていく。悪霊、怨念、呪縛。それら生きる力と対を成す死の力とでもいうべきエネルギーが渦巻いて、ムゲ帝王の力となる。
ムゲ
「ダンクーガだけでない。旧神と、光宿しものまでいるとなればそれは僥倖というもの。お前達は、ここで果てよ!」
ムゲの全身が、妖しく輝いた。そして、この世全ての呪いを集積したかのような波動が、彼らを襲う。
ヤマト
「ぐぁぁっ!?」
ゴッドマジンガーが、膝をつく。それだけではない。悪霊達のエネルギーによる波動。それは機械の鎧をすり抜けて、中の人間を襲うのだ。
ドモン
「クッ……!」
東方不敗
「馬鹿者! ドモン、悪霊などに負けてはならぬ。ならぬのだぁっ!?」
ゴッドガンダムとマスターガンダムが立っているのも、ほとんど意地同然だった。しかし、それで精一杯。あまりにも凶悪な悪意の総体は、武闘家の頑強な心すらも蝕んでいく。
アムロ
「クソッ……。なんてプレッシャーだ!」
シャア
「カミーユ……。お前は、こんな重圧を受けていたというのか?」
ニュータイプと呼ばれる、鋭敏な感性を持つ者達にとってこの攻撃は、地獄だった。アムロやシャア、トビア達には聞こえてしまうのだ。自分達が戦場で殺してきた、自分達のために死んでいった者達の声が。
トビア
「ドゥガチ……! カラス先生……!?」
かつてトビアが戦った宿敵達の怨念の声が、トビアの耳元で囁き続ける。それがムゲの力により生み出されたものであると分かっていても、意識がそこに向いてしまう。
悪霊の塊。その中に彼らがいるという実感を得てしまう故に。
エレボス
「いや……。何、これ。怖い、怖いよ!」
レイン
「エレボス……!」
ミ・フェラリオのエレボスはその悪意を感じ取り、膝を屈する。無理もないことと、レインは思えた。自分だって立っているのが精一杯なのだ。
槇菜
「嫌だ……何これ、気持ち、わるい……!」
ゼノ・アストラの巨大な盾を持ってしても、悪霊というアストラルな存在を完全に弾くことはできない。そして、これほどまでに悪霊という存在を身近に感じたのは槇菜にとってはじめてだった。
槇菜
「あ……」
息遣いが聞こえる。もっと生きたかった。どうしてお前がまだ生きているんだ。そんな、呪いの言葉を吐く声。
それが、あの時ゼノ・アストラの下敷きになっただろうクラスメイトや、先生の声であると気づくのにそう時間は掛からなかった。
槇菜
「違う! 違うの! 私……私じゃない!?」
それでも、学校を潰し友達を死に追いやった機械に染み付いている怨嗟の声を感じてしまえば、そんな槇菜の抵抗する声は弱々しいものになる。
槇菜
「私だって、みんなに死んでほしくなかった。鬼になんてなってほしくなかった。だけど、だけど……あの時の私には、これしかできなかった!」
取り乱したように、泣き叫ぶ槇菜。それがムゲの……暗黒の使徒の手口だと理性で理解できていても、心まで思い通りにはできない。
次第に、呪いの声が強くなる。どうしてお前はここにいる。一緒に来て。こっちに来て一緒に遊ぼう。そんな、よく聞き知った声が槇菜の耳を覆うほどに溢れてくる。
槇菜
「やだ……。やだよ……! こんなの……。う、うぅぅ……」
猛烈な嘔吐感に苛まれながら、槇菜は呻いた。ムゲの操る悪霊の重圧を前に、そんな槇菜を助けに行ける余裕のある者もいない。ハリソンも、エイサップも、自分を襲う悪霊と格闘するので精一杯だった。
しかし……。
忍
「みんな、狼狽えるんじゃねえ!」
この男は、違った。藤原忍の一喝と共に、ダンクーガは立ち上がる。
忍
「悪霊が、なんだっていうんだ! 俺達が生きてきた中で出会い、死んでいった人が全員悪霊になったわけじゃねえ!」
アムロ
「……!」
忍の言葉で目が覚めたかのように、アムロのZガンダムも立ち上がった。
アムロ
「そうだ。マチルダさん、リュウさん、ハヤト、スレッガーさん。それにララァ……」
ドモン
「シュバルツ、キョウジ兄さん……。全ての命が呪いだけなんてこと、あるものか!」
ドモンの言葉とともにゴッドガンダムが一歩を踏み出した、その時だった。
「その通りだ!」という言葉と共に、高速で接近するものがあった。
シャピロのズワァースよりも速く飛び、闇の宇宙に紛れながらもオーラを輝かせる深緑の機体。甲虫のような頭部を持つそれは、オーラバトラー。
ショウが戻ってきた。そう、誰もが思った。だが、今までのショウとはオーラが違う。オーラ力の桁が、並外れている。
チャム
「やっちゃえショウ!」
ショウ
「チャムのオーラ力も貸してくれ!」
深緑のオーラバトラーが握るオーラソードに、オーラの光が灯る。残像を撒き散らしながらムゲ帝王に迫ったそのオーラバトラーは、ショウのオーラで翼を輝かせそして、ムゲ帝王を前に大きく振りかぶった。
ショウ
「その怨念を……断つ!」
チャム
「ヴェルビン! いっけぇぇぇぇぇぇっ!?」
ヴェルビン。そう呼ばれた深緑のオーラバトラーがムゲ帝王の周囲に蠢く闇のオーラを、怨念を断った。
…………
…………
…………
—グラン・ガラン内部—
話は、ゴッドマジンガーにダンバインが助けられた直後へ巻き戻る。
ショウのダンバインがグラン・ガランへ辿り着くと最初にショウを出迎えたのは、耳をつんざくようなキンキン声だった。
チャム
「ショウ! ショウなの!?」
その金切り声がしかし、ショウには懐かしくすら感じられる。ショウはダンバインのキャノピーを開くと、そのかしましいミ・フェラリオを出迎えた。
ショウ
「チャム! チャム・ファウじゃないか!」
チャム・ファウ。左も右もわからないバイストン・ウェルで、ショウと共にいてくれたミ・フェラリオの少女。それが今、ショウの目の前にいる。
チャム
「ショウ! 本物のショウだ!」
ショウ
「チャム、無事だったんだな。そうだ、シーラ様がいると聞いた。どこだ?」
普段はあれだけ迷惑だった顔の周りをちょこまかと飛び回るその羽音すらも、今のショウには掛け替えなく感じられる。ショウはダンバインから降り、チャムへ聞いた。
チャム
「そうだ、シーラ様よ! シーラ様が、あなたに会いたがってるの。すぐに来て!」
ショウの言葉を聞き、チャムは一目散に飛び立ってしまう。ポロロン、という不思議な羽音と共に、チャムはグラン・ガランの奥へと行ってしまった。
ショウ
「全く……」
苦笑しながら、それを追うショウ。
勝手知ったるグラン・ガランの内部はしかし、外観同様に廃墟のような有様だった。
それだけ、ドレイク軍との戦いは熾烈なものだった。グラン・ガランの中にいると自然、それを思い出しショウは陰鬱な気分になる。
こんな場所にいれば、いかにシーラ・ラパーナとて気が狂ってしまうのではないか。早く、シーラを連れ出そう。そうショウは思いながら、進んでいた。
やがて、ショウはシーラがいる管制塔までたどり着く。だが、そこにいたのはショウの知る聖女シーラ・ラパーナとは似ても似付かぬ容貌だった。
ショウ
「あなたは……?」
チャム
「ショウ何言ってるの? シーラ様よ?」
たしかに、ショウの目の前にいる少女から感じられるオーラは、シーラ・ラパーナとよく似ている。しかし、透き通る水色の長い髪も、ルビーのように赤い瞳もない。そこにいたのは、栗毛色の少女だ。簡素なワンピースを纏い、シンプルな、しかし価値のあるものだとショウにもわかる宝石を下げた少女。そんな少女が、シーラ・ラパーナのオーラを纏っているのだ。
ミ・フェラリオのチャムには、シーラと同じオーラを発しているから「シーラ様」であると認識できているのだろうか。とショウは一瞬考えた。だが、ミ・フェラリオと人間の眼に映るものがどう違うか等、ショウにはわからない。
シーラ
「ショウ……ショウ・ザマ」
しかし、その凛々しい声は間違いなくシーラ・ラパーナのものだった。
ショウ
「シーラ……シーラ・ラパーナなんですか?」
シーラ
「ええ。私はあの“浄化”の際、自らの身体を失ってしまいました。肉体を失った私は、同じようにこのカ・オスの地に流れ着いた少女……アイラ・ムーの身体を借りて、あなたを待ち続けていました」
そう言ってシーラは、ショウの頬に手を添える。ひんやりとした触感が、ショウの頬を伝った。だが、その中には確かに熱を持っている。
それは、シーラの魂の熱なのだろうか。
それとも、アイラという少女の身体の熱なのだろうか。
だが、ひとつ確かなことはショウの知るシーラはもう、彼岸の側へと旅立とうとしているということ。
ショウ
「シーラ様。俺は、あなたの命を守ることができなかった……」
悔恨が、ショウを撃つ。だがシーラは首を横に振ると、その依代とする身体でショウを抱き締める。
シーラ
「本当は、生きている時にこうしてあなたに想いを伝えたかった。でも、もうよい」
ショウ
「シーラ・ラパーナ……!」
ショウの身体から離れるとシーラは、アイラの身体を通して優しく、微笑みかける。
シーラ
「これは、私の未練です。これで私も悔いなく、ワーラーカーレンへ還れます」
アイラ・ムーの身体を通して笑いかけるシーラ。その姿はショウを聖戦士と認め、それ故に苦言を呈し、そしてショウを信じてくれた少女ではない。しかし、それでも確かにシーラ・ラパーナだとショウには感じられる。信じられる。
シーラ
「最期に、あなたの声を聞きたかった。それだけでいい……それだけで」
アイラ・ムーの身体から、ショウのよく知る魂が抜けていく。チャムが甲高い悲鳴を上げているのが、ショウの耳に煩わしく響いた。
力なく倒れる少女の身体を、ショウは抱き抱える。その腕の中で、シーラ・ラパーナは最期の言葉を、囁いた。
シーラ
「ショウ……貴方の成すべき事を成しなさい。その為の剣は、ここにある」
ショウ
「剣……?」
それを最期に、シーラの魂はアイラの身体から消えていた。その命はワーラーカーレンへ還り、また次の転生を待つのだろうか。それとも今度は地上へ、バイストン・ウェルの世界を忘れて誕生するのだろうか。わからない。それが、バイストン・ウェルという世界。
チャム
「ショウ……。シーラ様死んじゃったの?」
ショウ
「違うよ、シーラ様は眠ったんだ。きっといつか、また逢える」
それは、自らの魂が何度転生した果てにある再会だろうか。ショウにはわからなかった。だがこの生に意味があるのならば、出逢うはずのないふたつの世界が交錯したことに意味があるのならば、きっと幾百、幾千年の後にまた出会えるだろう。そう、ショウは悟る。
シーラの依代となっていたアイラ・ムーという少女を抱き抱えながら、ショウは再び立ち上がった。シーラの魂が尽きたことで、グラン・ガランのオーラバリアが大きく弱まったのを、ショウは大きく揺れる船体で感じていた。
ショウ
「急ぐぞチャム、ここを脱出する!」
チャム
「うん!」
再びグラン・ガランの船体を駆けるショウとチャム。格納庫へたどり着いた時、丁度マーベルのボチューンがグラン・ガランに辿り着いていた。ボチューンのキャノピーを開き、マーベルが顔を出す。
マーベル
「ショウ! シーラ様は?」
ショウ
「…………」
小さく首を振るショウに、マーベルは全てを察し「そんな……」とだけ呟いた。
ショウ
「チャムとこのアイラ・ムーが、俺たちが来るまでシーラ様の魂を守っていてくれたんだ。俺たちに……あれを託すために」
そう言ってショウが指差すのは、横転するダーナ・オシーの下敷きになっている白い布を被せられたオーラバトラーだった。マーベルがボチューンでダーナ・オシーをどけ、白い布を取り払う。
ショウ
「ビルバイン……?」
そのオーラマシンは、ショウがかつてシーラ・ラパーナから託されたオーラバトラー・ビルバインに似ている気がした。しかし、その面影を残しながらも騎士を思わせる風貌と甲冑を着込んだ聖騎士を思わせる深緑のオーラマシン。
チャム
「シーラ様、ショウのためにこのマシンをずっと守ってたのよ。このオーラバトラーには、シーラ様の想いが込められてるの!」
ショウ
「シーラ様の……。チャム、このオーラバトラーの名前は?」
ビルバインを失ったショウに与えられた、新たな聖戦士の剣。その威風堂々とした佇まいには、シーラ・ラパーナが求めた理想の騎士の姿が込められている。
チャム
「ヴェルビンよ。ねえショウ、早く!」
ショウ
「ヴェルビン……。ヴェルビンか」
いい名前だ。そう呟くと同時、ショウは深緑のオーラバトラー・ヴェルビンのキャノピーを開く。そのコクピットは、ショウの身体に合わせて作られていた。
ショウ
「少し窮屈だけど、我慢してくれ」
眠るアイラをなんとかして膝の上に乗せ、チャムが乗り込むのを確認すると、ショウはヴェルビンのキャノピーを閉じる。
ショウ
「マーベル、俺はこのヴェルビンで出る。みんなに合流するぞ!」
マーベル
「ボチューンも相当ダメージを受けている。ダンバインに乗り移るわ。よろしくて?」
ショウ
「ああ。今のダンバインなら俺よりも、マーベルに合ってるはずだ!」
マーベルがボチューンを乗り捨て、ダンバインへと乗り換えるのを確認すると、ショウはヴェルビンのオーラコンバーターを起動する。
最初に感じたのは、圧倒的なパワーだった。
オーラバトラーは、パイロットのオーラ力に呼応して強くなる性質を持っている。旧式のダンバインがこれまで戦い抜けていたのは、ショウ、マーベルのオーラ力が抜きん出たものだったからだ。
しかし、マシンであるオーラバトラーには当然性能差が存在する。ヴェルビンはショウの知る限り、最高の性能を感じるオーラバトラーだ。或いは、サコミズ王のオウカオーよりも強力かもしれない。
ショウ
「凄い……。5倍以上のエネルギーゲインだ。ビルバインと同じか、それ以上のパワーを秘めてるぞ。この機体」
だからこそ、ショウは意識を研ぎ澄ませる。
機械の力に頼り切れば、人は簡単に堕落する。堕落したオーラ力では、聖戦士として見極めねばならないものも見極めることができなくなる。
それでは、強大なオーラマシンの力に魅せられたドレイク・ルフトやショット・ウェポンらと同じになる。それはシーラも望まない。
新しい玩具を貰ってワクワクする子供の心を制御しなければ、聖戦士たる資格はないのだ。
ショウ
「ヴェルビン、出るぞ!」
…………
…………
…………
ムゲ
「バカな! この空間は、私の宇宙と同質の存在。私の宇宙で、怨念を断つだと!?」
ヴェルビンの放った一撃で、ムゲ帝王の周囲に渦巻く怨念が、悪霊が、妄執が霧散する。
人を殺めず、その怨念を断つ。ショウ・ザマが聖戦士として覚えた唯一の真理。ヴェルビンは、その真理を体現するオーラマシンだった。
力の源を絶たれ、驚愕するムゲ帝王。それと同時、槇菜達を襲っていた呪霊達も徐々に薄らいでいく。
槇菜
「はっ……はぁ……!」
首を絞められた後のような不快感と開放感に槇菜は喘いだ。だが、すぐにヴェルビンから感じられる神秘的なオーラ力を見て、平静を取り戻していく。
槇菜
「そうだ……。全ての人が悪霊になるわけじゃないんだ。私たちを守ってくれる命も、きっとある……!」
ドモンや忍達の言葉を思い出し、再び立ち上がる槇菜。
エイサップ
「ショウ・ザマ……。そのオーラバトラーは?」
ショウ
「ヴェルビン。俺を信じてくれた人から託された、聖戦士の証だ」
聖戦士の証。即ち、リーンの翼と同等のもの。それを纏ったショウのオーラ力は力強くしかし、しなやかだった。
マーベル
「ショウ!」
マーベルが乗るダンバインがヴェルビンと合流する。既に、ショウが悪しきオーラ力を断ち、戦局を大きく動かしたのをマーベルもまた、見届けていた。
マーベル
「やったのね、ショウ」
ショウ
「だが、まだだ。悪しき魂の根元は、生きている!」
ショウが言うと同時、闇色の光弾がヴェルビンに迫る。オーラの壁でそれを防ぎ、ヴェルビンは再びオーラソードを構えていた。
ムゲ
「私の宇宙を穢した。その罪は贖ってもらうぞ聖戦士!」
ムゲ帝王の怒りの光弾を弾きながらも、ヴェルビンはとぶ。この世に災いを齎す元凶を相手に、それを翻弄するように。
ムゲ
「小癪な。こうなれば……この空間全ての悪霊の力、私に差し出してもらう!」
叫ぶと同時、ムゲ帝王の周囲に再び黒いオーラが集まっていく。それを吸い込み、ムゲ帝王は次第に巨大化していく。
チャム
「ハイパー化!?」
ショウ
「違う、もっと恐ろしい……邪悪な力だ!」
残像を散らしながら、ヴェルビンは巨大化したムゲ帝王の周囲を飛び回る。邪悪の根源。ショウが断つべき怨念の本体を斬るために。
そして、それを見極めたのは。
東方不敗
「そこだっ!?」
マスターガンダム。ビームの帯を収束させた一撃が、ムゲ帝王の胸部を叩く。そして、鋭利な爪ニアクラッシャーを翳し、右肘を突き出すと天高く舞う。
東方不敗
「酔武! 再現江湖デッドリーウェィブ!?」
武術の極み。自然の恵み。江湖の二文字に凝縮されたマスターアジアの魂の激突が、ムゲ帝王を襲う。その一撃は邪悪な魂を粉砕するかの如く、ムゲ帝王に重い一撃を示していた。
東方不敗
「若き戦士達よ! 筋道はワシが斬り拓いた。あとは……お前達の仕事だ!」
東方不敗の一声と共に、戦士達が動く。エイサップのナナジンが、オーラソードに炎を宿らせて舞った。オーラフレイムソードは確かに、ムゲの心臓を狙い突き刺される。
エイサップ
「やったか!」
トビア
「ま・だ・だぁっ!?」
クロスボーン・ガンダムが、ムゲの背後に回り込んだ。ビーム・ザンバーを展開し、オーラフレイムソードの裏側から切り込んでいく。
ムゲ
「そんなもので……そんなものでこの私を倒せるものか!」
ヤマト
「だったら、こいつはどうかな。ゴッドマジンガー、フルパワーだ!」
ゴッドマジンガーが、金色に輝く。光宿しもの。かつて、暗黒勢力との争いの前に顕現したとされる荒ぶる魔神の力。その渾身の突進が、ムゲ帝王を大きく弾き飛ばした。
ムゲ
「おのれ……おのれぇっ!?」
ムゲ帝王の両腕に、邪悪な瘴気が集まっていく。その一撃でナナジンを、クロスボーン・ガンダムを、ゴッドマジンガーを振り払い、ムゲ帝王は荒れ狂う。
ドモン
「そこだっ!?」
だが、荒れ狂い平静を失ったムゲ帝王を更なる波状攻撃が襲った。ドモンのゴッドガンダムが、愛馬風雲再起と共に駆け抜ける!
ドモン
「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ! 勝利を掴めと轟き叫ぶっ!」
金色に輝くゴッドガンダム。その命の輝きが、ムゲの周囲に渦巻く悪霊達を吹き飛ばしていく。それが、それこそが。
ドモン
「ばぁぁぁくねつ! ゴッド・フィンガァァァァッ!?」
キング・オブ・ハート!
ムゲ
「ぬぉぉぉぉっ!?」
槇菜
「まだ、終わりじゃない!」
ゼノ・アストラの光の翼が大きく羽ばたいた。光の翼から舞い散った羽根の一枚一枚が舞い、邪悪な意志を持つものへ……ムゲ帝王へと飛んでいく。
槇菜
「想いの翼。命の翅。運命を切り裂け!」
翅の一枚一枚が熱を放ち、ムゲ帝王を四方、八方から追い詰めていく。それは、今までのゼノ・アストラにはない機能だった。
だが、邪霊機との接触、ムゲ帝王との対決がゼノ・アストラの中に封じられていた機能を確実に解放している。槇菜は自らの命で、それを感じ……示していた。
ムゲ
「馬鹿な、巫女の目覚めが始まっていると言うのか!?」
槇菜
「やっぱり、何か知ってるんだ。答えて! ゼノ・アストラって、旧神って何!?」
シールドを構え、ムゲ帝王に激突しながら槇菜が叫ぶ。
ムゲ
「何も、知らぬのか……。いいだろう、教えてやる。お前のマシン……旧神は、太古の世界において、“光宿しもの”と共に邪神の徒と戦った」
槇菜
「え…………?」
ヤマト
「なんだって? だが、俺はあんなマシン知らねえぞ!」
“光宿しもの”ゴッドマジンガーの操縦者であるヤマトが叫ぶ。それをムゲ帝王は嘲けるように笑った。
ムゲ
「無理もない……火野ヤマト。だが、これ以上を知る必要はない。どのみちお前達は、ここで死ぬのだ!」
再び、ムゲの暗黒の力が増幅する。ムゲ帝王自身を巻き込むほどの闇のエネルギーの膨張。圧倒的な暗黒の力の発露に、ゼノ・アストラとゴッドマジンガーも引き剥がされてしまう。
槇菜
「きゃあっ!?」
ヤマト
「うわぁっ!?」
しかし、それと入れ替わるように迫る野生の獣の存在に、ムゲの暗黒の力は気圧されていく。超獣機神ダンクーガ。その勇姿が、ムゲの眼前に飛び込んだ。
亮
「俺達の魂。ぶつけるぞ忍!」
雅人
「頼むぜ忍! 俺たちの命、預けた!」
ムゲ帝王の目には、見えていた。
ムゲ
「どういうことだ、この悪霊の空間に……なぜ!」
ダンクーガを守るように、正の魂が……守護霊とも言うべき意識の力が集まっている。ここはワーラーカーレンではない。そんなものは、介在する余地のない暗黒の世界のはず。
忍
「決まってんだろムゲ野郎! 人は、命は悪いもんばかりじゃねえってことさ。たとえどんな悪人だろうと、善の心を持っている。それが人間だ!」
ムゲ
「我の支配する悪霊。その中に残る善の意志がお前達を守っていると言うのか!」
それを可能にするものがいるとしたら、それは……。
アイラ
「…………はい、シーラ様」
ヴェルビンのコクピットの中で、少女が目を覚ました。
ショウ
「気づいたのか?」
アイラ
「ショウ・ザマ……。シーラ様を通して、あなたを見ていました。今、シーラ様の最期の霊力が、この空間に残る善の意識を集めてあのマシンに送っているのです」
チャム
「うん、感じるわ。あのロボットの中にニーが、キーンが、エレ様やリムル、ガラリア、バーンまで!」
アムロ
「ララァ、チェーン。ハサウェイもいるのか……?」
シャア
「ハマーン。お前も……?」
人々の魂の加護を受けたダンクーガ。その善の魂が、ダンクーガに更なる機能を増幅させていた。
亮
「このエネルギー量なら……忍、ガンドールの支援なしでいけるぞ!」
忍
「よっしゃあ! やってやるぜ!」
ダンクーガが、断空剣を構えた。そして、ダンクーガに集まるエネルギーが断空剣を、真紅に輝かせる。
雅人
「寮長……ゲラールの兄貴!」
沙羅
「私からも頼むよ、シャピロ……力を貸して!」
真紅に輝く断空剣を構え、ダンクーガが往く。人々の魂の加護。それは、
リュクス
「似てる……リーンの翼に」
エイサップ
「ああ。リーンの翼が顕現した時と同じ感覚だ。これは!」
忍
「愛の心にて、悪しき空間を断つ!」
真紅に輝く断空剣。その赤いエネルギーが爆発し、一つのビッグバンを巻き起こしながらムゲ帝王へと斬りかかった。
忍
「名付けて、断空光牙剣! やぁぁぁってやるぜ!?」
赤い光の中に、ムゲ帝王は飲まれていく。野生の光。今、ダンクーガはまさしく人を超え、獣を超え……神の戦士として君臨していた。
その威力の中に、悪霊達の意志ごとムゲ帝王は消えていく。自身の魂の消滅。悪霊の力がある限り決して起こらないことが、いくつかの奇跡の重ね合わせにより起きていることをムゲ帝王は今、悟っていた。
聖戦士ショウ・ザマの覚醒とヴェルビンの力。
聖少女シーラ・ラパーナの最期の意識が起こした霊達の反乱。
そして、真の覚醒を果たしたダンクーガ。
ムゲ
「あり得ない……全ては完璧だった。私の宇宙で、こんなことがぁぁぁぁぁっ!?」
ビッグバンの中に消えていくムゲ帝王。その消滅を忍達は確かに、認識していた。
忍
「今度こそ最後だぜ、ムゲ野郎!」
…………
…………
…………
ムゲの消滅。そして、断空光牙剣の起こしたビッグバンは、その暗黒の空間に一つの歪みを起こしていた。
ドモン
「これは!?」
ドモンの、シャッフルの紋章が輝いている。仲間が……シャッフル同盟の同志が近くにいることをドモンは悟っていた。
東方不敗
「どうやら、あの宇宙の歪みの向こうに地上があるようだな。ならば、あれをやるぞドモン!」
マスターガンダムが、金色に輝く。その輝きはこの暗黒の宇宙を眩く照らし出していた。
ドモン
「はい。師匠!」
ゴッドガンダムも、マスターガンダムに続いて金色の輝きを照らし出す。ハイパーモードとなったゴッドガンダムと、マスターガンダム。2機のマシンを中心とした輝き。それは、まさに生きる命の煌めきだった。
ハリソン
「何を、しようというんだ?」
身構えるハリソン。敵は倒したはずなのに、ドモンと東方不敗はムゲとの戦いの時の、それ以上の闘気を発している。
そして、師弟は動き出した。
東方不敗
「流派! 東方不敗はっ!」
ドモン
「王者の風よ!」
高く飛び上がった2機は空中で脚を高らかに交差し合う。ハイパーモード同士のぶつかり合い。それだけで、世界が揺らぐほどの衝撃。
東方不敗
「全新系裂!」
ドモン
「 天破侠乱!」
その直後、ゴッドガンダムとマスターガンダムの2機は激しく打ち合った。拳と拳を重ね合わせる度に、ドモンの心に師匠の心が流れ込む。二つの拳が交わり合い、ドモンの、東方不敗の闘気を高め合っていく。
次が、ラスト。
東方不敗、ドモン
「 見よ! 東方は赤く燃えている!」
二人同時に叫ぶと共に、ハイパーモードの超パワーが収束していく。マスターガンダムの両手へ。ゴッドガンダムの拳へ。
東方不敗
「行くぞドモン! お前の拳で、未来を切り拓け!」
マスターガンダムの掌から、烈火の如き爆熱が巻き起こった。その爆熱を背に受けたゴッドガンダム。日輪が、マスターガンダムの、師匠の全身全霊を込めた石破天驚拳をゴッドガンダムのエネルギーに変えていく。そして!
ドモン
「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ、未来を掴めと轟き叫ぶっ!」
マスターガンダムのエネルギーを背に受けたゴッドガンダムの掌が、虹色に輝き出したではありまんか!
ドモン
「ばぁぁぁぁっくねつ! 石破ァッ!?」
東方不敗
「究極!」
ドモン
「天きょぉぅけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんッ!!」
ドモンの拳から放たれた光!
それは皆の目にはどういうわけか、形を持って見えていました!
その姿は言わば、トランプの絵札さながらの男。
初代キング・オブ・ハートであると、その顔を見たことのない全員が自然と理解できていました!!!
ドモン
「ヒィィィィィィット・エンドッ!!」
ドモンが拳を握り締めると同時、光の塊……
初代キング・オブ・ハートの姿見はその怪腕を振り上げして、この時空の歪みを砕いたのです!!
砕かれた暗黒の宇宙。その先に見えるのは、黄昏色に染まる星。即ち……
ドモン
「見えたぞ。東方の……真っ赤に燃える朝焼けだ!」
究極・石破天驚拳。その爆発が、次元の位相すらも切り拓いた。
槇菜
「地上に、戻れるの!?」
トビア
「ベルナデット!」
アプロゲネに乗っていたレインとベルナデット。それにエレボスがゴッドガンダム、スカルハート、ナナジンへと乗り移っていく。
チャム
「ショウ、また地上に出るの?」
ショウ
「……どうやら、バイストン・ウェルだけの問題ではなくなっているらしい」
ヴェルビンの中で不安そうにショウを見つめるチャムを、諭すようにショウは言う。
ショウ
「大丈夫。今度は、もう離れたりしない。それに、すぐにまたバイストン・ウェルへ戻れるさ」
チャム
「本当? 嘘だったらイヤよ!」
マーベル
「大丈夫よチャム。ショウを信じて」
ヴェルビンとダンバインが並び、先陣を切って飛び込んでいく。それに続くようにダンクーガ、ブラックウィング、スカルハート、F91、ゴッドマジンガーが続く。
ヤマト
「アイラ……アイラは、無事なのか?」
アイラ
「ええ、大丈夫よヤマト。ありがとう……私を守ってくれて」
ヴェルビンのコクピットに同乗するアイラ・ムーは、想い人の操る守護神へそう、柔らかく笑いかけた。その笑顔を眺めながらショウは、どことなくシーラの面影を感じていた。
エイサップ
「……行くぞ、リュクス」
リュクス
「でも、エイサップ……」
ナナジンの中で、リュクスもまた不安そうにエイサップを見つめる。リュクスの不安も、理解できる。サコミズ王のことは結局、まだ何も解決してはいないのだから。
エイサップ
「でも、俺達がリーンの翼の沓を持っている以上、サコミズ王も迂闊な動きはできないはずだ。それに……近いうち、また俺達はここに戻らなきゃいけなくなる。そんな気がする」
その時のために、地上でやるべきことがある。それがジャコバ・アオンの言う『世界を知る』ということなのかも知れなかった。
だが、そんな超常的なまやかしは所詮、言い訳に過ぎない。
エイサップ
「大丈夫。俺はどこにいてもエイサップ鈴木だし、君だってどこにいてもリュクス・サコミズだ」
そう言って穏やかな笑顔を見せるエイサップの手を握り、リュクスも覚悟を決めた。
アマルガン
「リュクス姫様、王のことは……私にお任せください」
アプロゲネから、アマルガンの通信。それを受けてリュクスは頷くと、アマルガンへ礼を言う。
リュクス
「アマルガン、ありがとう……。あなたは父の友として、すべき事をしてください。私とエイサップが、ヘリコンの地に戻るまで」
アマルガン
「ええ。この老体が動く限り、約束致しましょう」
そうして、ナナジンも地上へ繋がる裂け目へ飛び込んでいく。エイサップに続くように、槇菜のゼノ・アストラも。
槇菜
「ムゲ帝王を倒した。だけど、邪神って……ムゲ帝王は、何を知っていたんだろう」
その答えを知るものはおそらく、もうバイストン・ウェルにはいない。いや、或いはあの邪霊機アゲェィシャ・ヴルとそれに乗る少女ライラならば。だが、彼女達と再会するのも恐らくはこの先になると槇菜は、直観していた。
アムロ
「シャア、俺達は……」
シャア
「……行こうアムロ。元はと言えば、私達の戦いが今の世界を生んでしまったのかもしれない。ならば、見届けなければならん」
それが、2人の戦いで死んだもの達への、手向けとなるならば。
アムロ
「そうだな。俺達が戦ったその意味を、もう一度確かめるためにも」
シャア
「そうだ。それに……」
シャアは、先行する若きガンダムパイロットの少年に、漠然とした期待を抱いていた。
トビア・アロナクス。あの少年の戦いの先にこそ、もしかしたらかつて自分が欲した答えがあるのではないかと。
それがどれだけちっぽけで矮小なものだとしても、受け入れる覚悟はできていた。だからこそ、
シャア
「……新しい時代を作る者を、見届けたくなった」
Zガンダムと百式も、地上目掛けて進んでいった。そうして、残るのはゴッドガンダムと、マスターガンダム。
ドモン
「師匠! 俺達も……」
東方不敗
「馬鹿者! 何を惚けておるのだ!」
ゴッドガンダムが差し伸ばした手を、マスターガンダムは払いのける。そして首を振ると、踵を返してしまう。
レイン
「マスター!」
ドモン
「師匠!?」
東方不敗
「いいかドモン。ワシはこの地に残り、アマルガン殿と共にサコミズ王との戦いを続ける。ワシが睨みを効かせておけばかのオウカオーも、下手な手は打てんからな」
そう言って、マスターガンダムはアプロゲネの艦板へと降り立った。風雲再起は、名残惜しそうにマスターを見上げている。
ドモン
「師匠……。せっかく、せっかく再会できたのに!」
東方不敗
「何、すぐにまた会うことになる。お前があの2人の聖戦士と共に戦う限り。地上とバイストン・ウェルは密接に結びついておるのだからな」
2人の聖戦士。ショウとエイサップ。確かに2人は多くの神業をドモンの前で見せてきた。そして、2人の因縁、世界を覆う闇はまだ、完全には晴れてはいない。
東方不敗
「ドモンよ……お前はあの若き聖戦士達を助け、時に導くのだ」
ドモン
「師匠……わかりました。師匠も、お気をつけて!」
振り返ることなく、ゴッドガンダムも突き進む。いずれこの空間は消滅し、通常のバイストン・ウェルへと戻るだろう。そうなれば、おそらく戻る手段はない。マスターの決意と、自身の使命を悟った以上、ドモンが振り返る理由はなかった。
やがて、全員が時空の歪みに突入すると、マスターの目からもゴッドガンダムの姿も見えなくなっていく。だが、熱く燃えるシャッフルの紋章が、2人を繋いでいた。
…………
…………
…………
東方不敗
「よぅし……。それでこそ、真のキング・オブ・ハートだ」
そう言い残し、マスターガンダムの中で東方不敗はこの暗黒の宇宙の消滅を感じていた。
バイストン・ウェルの最下層に存在するカ・オスの空間。その空間の一部をムゲ帝王が支配し、自らの宇宙にした。概ね、そんな絡繰だろうとマスターは理解している。そして、ムゲの宇宙が消えれば、待っているものはひとつ。
東方不敗
「アマルガン殿。戦の準備をしておけぃ」
アマルガン
「まさか……サコミズはこの事態を読んでいると?」
もし、自分がサコミズ王ならばどう動くか。それを予期し予め策を練る。それもまた、兵法。
東方不敗
「サコミズ王の元に現れたという地上人……シャピロの他にもう一人いただろう?」
アマルガン
「ショット・ウェポンといったか……まさか、奴も!」
東方不敗
「ウム、奴もシャピロ同様何者かの操り人形やもしれぬ。ならば、邪悪の使徒はこの期を逃すまい?」
ほぼ、東方不敗は確信していた。バイストン・ウェルを混乱に導く者と地上の争いを煽る者。それは、同じ糸で繋がっている。だからこそ自分がバイストン・ウェルに残り見えている敵と戦い、裏に隠れる真の敵をドモン達に見つけてもらう。それが、東方不敗の狙い。
やがてムゲの宇宙は完全に消滅し、そして……。
ショット
「主砲発射準備、急げ!」
アプロゲネが現れた場所を、既にホウジョウ軍は包囲していた。それを予期していたかのように、マスターガンダムが動く。
東方不敗
「未熟な兵法家め! その程度の罠を読めぬ、東方不敗ではないわぁっ!?」
超級覇王電影弾が、敵陣に風穴を開けた。その穴を突き進み、アプロゲネは戦場を離脱する。
東方不敗
(元よりこの身は一度死んだ身。バイストン・ウェルによって恵まれた命……。ドモンよ、地上は任せたぞ!)
かくして、物語の舞台は再び激動の地上へと移り変わる。そこで彼らを待つものは……。
次回予告
みなさんお待ちかね!
槇菜達がバイストン・ウェルへ降りていったそれと同じ頃、地上ではミケーネ帝国の大軍団が日本を襲います!
応戦するダブルマジンガーとゲッターロボ。ですが、その機に乗じた木星帝国は、キンケドゥの愛する者を奪っていったのです!
次回『F91ガンダム出撃』に、レディ・ゴー!