動物さんとお話出来ます 作:知能が少し弱い
「石宿利取、昨日は楽しかったか」
「はいっ……あれ?」
「私の個性は何だ」
え?
あれっ、なんだったかな。雇用主の個性も分かってないってマジヤバです。
わたしがそんなポカをするはずがありません。
思い出せ。思い出すんだ、わたし。
手掛かり、何か手掛かりを思い出すのです。
最初に思い浮かんだことが手掛かりって誰かが言っていました。最初に思い浮かぶのはええーと。
ピカチュウ、600ボルトだ。これは違う気がする。
でも、惜しい感じもする。
電気じゃないなら、電気で起きること、火災!
火でそれっぽいのは大道芸人。
確か大道芸人って手足が伸びて火も吹けたはず。
ここまでくれば、もう答えは目の前です。
大道芸人は人を驚かせて楽しませるから、人を楽しませるもの。火とくれば、水。花鳥風月!
スーツ着てるしサラリーマンっぽい。サラリーマンといえば、宴会で急に振られる一発芸に答えないといけない。やっぱりこれだ。わたし天才。
「確か宴会芸でしたね」
「なかなかユニークな解答だが、外れだ」
「まだふぁいなるあんさーとは言ってません」
「では、改めて私の個性は何だ」
これは当ててもダメ。外してもダメ。微妙なのも多分ダメな雰囲気。
どうしよう。わたし芸人じゃないのに。
よし、ここは勢いです。
今日のわたしもフィジカルとテクニックとメンタルを兼ね備えたパーフェクトリトルちゃんなのです。
「はいっ、筋肉です!」
「ファイナルアンサー?」
「ふぁいなるあんさー!」
「……残念っ!」
「ええ~、惜しかったな~」
何が惜しかったのか全く分からないけど、何か動いているわたしの口すごい。ずっと眼を逸らさない眼もすごいし、笑顔を保ちつつ、ガーンと落ち込む表現もする表情筋もすごい。あと、全身で喜怒哀楽を表現するわたしの体もすごい。結論、わたしすごい。
「外した者にはペナルティーを与えなければ」
「どんなお茶ですか。特製青汁ですか。やめてください、死んでしまいます」
「違うが、そういう方向もありだな。素晴らしい。参考にしよう」
「やった。わたし、褒められて伸びるたいぷなのです。身長は伸びなかったけど」
余計な知識与えちゃった。
わたしの口はダメダメでした。
沈黙は金なのです。
「冗談は置くとして、本来ならお前の取った態度はよろしくない。しかし、お前の境遇を思うと致し方無い面もある。もっと早く救えていれば。我々ヒーローも反省すべきところだ。申し訳ない。
もうすることはないだろうが、気を付けるべきだ」
「はいっ」
もうすることはないなんてどうして言えるんだろう。
予言者かな?よくわからないけど怖い。また、トラウマが。ガクブル。引きこもって仕事したい。時代はテレワークだよ。
「さて、率直に言ってお前は劇薬だ」
「ええっ。わたしの取扱には危険物取扱資格が必要なのすか」
「お前のジョークに付き合いたいところだが、そうすると本題に入れなさそうだ」
「いえっさー、お口閉じときます」
お話したい気持ちを頑張って抑えて口を閉じて聞いていると、わたしはワクチンみたいな扱いをされるみたい。
なんかこういうやつも居るから気を付けるようにって感じ。ちょっとだけ触れ合いさせて慣れさせるとか。ひど~い。
しかも、サ、サーなんとかさん。あっ、思い出した。サーナイトさんもわたしが劇薬という意見に確証はなく、個性で見た結果から推測しているとか。観察に自信ありなんてポーズしてるのに。その目は節穴なんですか。なんかよくわからんけど動くからまあヨシッ!の精神なんですか。ちょっと男子~。わたし泣いちゃう。
サーナイトならテレパシーくらい使えるでしょ。ほら、わたしのガラスのピュアピュアハートを読み取って反省して。あと、ファミチキください。
じとっと視線を上げて眼を合わせていると、踏み台を持ってきた後、手を出してきた。
何かな?ファミチキ代寄越せ?それとも手品を見せてくれるのかな?ははーん、ほんとは個性が宴会芸なんでしょ?
あれ、違う。ハッ。もしかして握手?
「すいません。握手券持ってないんですけど」
「そんなものを売りに出した覚えはない」
「がらくたと抱き合わせで売っても売れそうなのに。わたしなら買います」
そして転売します。
いよっ、人気のプロヒーローは謙虚でイケメンのナイスガイだねなんて適当なヨイショをしながら、握手した。
「ようこそ、サー・ナイトアイ事務所へ」
「どうもどうも、パーフェクトスーパーリトルちゃんです。よろしくお願いします」
サーナイト・アイドル事務所?やっぱり握手券売れるって。転売用にサインもらおう。得体の知れないグッズも作ろう。サーナイトさんの個性って千手観音だったりしないかな。一度に千人と握手できそうだからスゴく捗りそう。
そこから実際の業務の説明に移った。さすがにヒーローは暇ではないらしく、ほかの人が説明してくれた。
わたしはそれを細かくスケジュールにメモメモ。
基本的には事務的な作業で、時々色んな場所で色んな人とお話しすれば良いらしい。天職!
わたし戦闘力皆無なので現場に行っても足手まといですし。
なんなら、事務作業でもゴホッゴホッ。おっと、仮病の咳が。
わたしの身長と筋力に合わせない社会が悪いのです。プンプン。
幸い、わたしの勤務時間は普通です。残業もとりあえずはない。お話ししてたまに頭を撫でられるだけの簡単なお仕事です。ホワイトだなぁ。ヒーローたちは年中無休だけど。ブラックだなぁ。リトルちゃんは子供舌なのでブラックコーヒーなんて飲めないのです。わたしホワイトコーヒー大好き。ところで、ホワイトコーヒーって何?
ほかの人が働いているのを尻目に元気よく定時退社する。リトルマウスは良く動き、リトルフェイスは超分厚いのです。アイドルの素質ありありです。リトルアイは節穴で、リトルイヤはフィルタ付きですけど。ついでにリトルスケジュールは本体です。
まあそんな冗談はどうでも良いのです。家に帰ったら気晴らしにサーナイトのあーる18絵と黄金の鉄の塊で出来たサーナイト小説でもかいてやるのです。メチャメチャハードな腕とか欠損してるやつ。でもサーナイトアイズホワイトドラゴンカーファックスの第三期始動って手もある。何故か賛同があまり得られなかったけど。ともかく覚悟なさいっ。
サーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彼女を初めて見たのは、とある宗教組織の名を被った小さなヴィランの組織を討っている最中だった。その時は、特に何も感じなかった。本当にただの子供にしか見えなかった。その後、組織に囚われていたほかの子供たちが、短い者でも三ヶ月は眼も心も死んでいた中、救出後三分で眼を輝かせ、コロコロと表情を変えながらイキイキと話しかけて来たのには驚いた。しかし、被害者が自分を守るため、現実を認識していない場合ではこういうこともあり得る。特に小さな子供ならなおさらである。
だから、次の仕事の予定は迫っていたものの時間のゆるす限り丁寧に応対し、また、自身がその場を離れる時は、近くに居たほかのヒーローに子供の話し相手になってくれるように頼んだ。
痛ましいと思い、また、もっと早く助けられなかった自身の不甲斐なさを感じたが、彼女の異常性には気付きもしなかった。
言い訳ではあるが、ヒーローをしているならたまに遭遇してしまう場面であり、またヒーローとして当然の行動であったから。
しかし、後日ヴィランの中核人物を尋問した際に違和感を覚えた。何かがおかしい。そんなモヤモヤした気持ちが何時間か続き、そして気付いた。
なぜヴィランたちは子供たちを人質に取ったり、少なくとも目に見える暴行は加えていないのか。
世の中には色々なヴィランがいる。子供には手をかけないなんてヴィランもいるかもしれない。しかし、彼らがそうだとはとても思えなかった。
運が良かった、その発想が出てくる前にヒーローが叩き潰した、要因は他にもあるかもしれない。
だが、経験則が告げている。最大の要因は個性である、と。そして、この場合最も疑わしいのは、あの少女だというのは誰の目にも明らかだった。
彼女はこちらが不安になるほど警戒心が無かったため、私は簡単に彼女を"見る"ことができた。
そして、信じがたいものを見た。
彼女は満面の笑みを浮かべてオールマイトと対峙していた。大勢の人を従えて、明らかに敵として。
オールマイトは私個人の感情を抜きに見ても、最高のヒーローである。オールマイトと敵対するということは、彼女が既にヴィランか、あるいはこれからヴィランになるということにほかならない。
私は彼女の動向を注視したが、彼女がヴィランだと疑わしい様子は見られなかった。おしゃべりで頭が少しばかりお花畑な少女でしか無かった。私が調べるまでもなく、お話しが出来る個性ですと彼女自身が話し、それは医師の見解と一致していた。動物とお話ししたいという願望も、おしゃべりな彼女らしいと微笑ましさを感じた。
調査の結果を良く見ると、少なくとも戸籍上は彼女が成人しているという事実には驚かされたが。
しかし、私の個性は将来、彼女が危険人物になると告げていた。だから、私は彼女の変貌がいつ始まるのかを見ようとしたが、まったく分からなかった。二回目以降、彼女は感情豊かでおしゃべりで少し残念な小さくか弱い女性にしか見えなかった。
私は、私の個性が最初に見た彼女を見間違いか何かとして彼女の監視を打ち切ろうとしていた時、渡りに船とも言えるものが見えた。
彼女は初日こそ残念な理由で欠勤するものの、その後は私の事務所に所属し、様々な人と話していた。
そしてそれは人々の顔を明るくしているように考えられた。
私は彼女を事務所に呼び寄せるべく、根回しをおこなった。天涯孤独で頼るべき当てのない彼女は容易に釣れた。
そして今日彼女と話していて、ふととんでもない妄想にとりつかれた。
彼女の個性は、会話が出来る、という個性なんてなくても出来る人は出来るものである。
このような考え方を私は好まないが、あえて言うなら弱個性と言えるだろう。
だが、逆に会話が出来るというのが強個性だとしたらどういう力を持つだろう。
会話とは反応のやり取りである。リアクションが無ければ会話とは言わない。
会話をするには、相手に警戒され過ぎていてはいけない。殺人鬼と話したい人なんてそういないだろう。
個性は所持者の体を変化させる場合がある。少なくとも個性の無かった時代と比べて人々の姿は多様性に満ちているはずだ。
とはいえ、所詮は妄想か。
私は変な妄想を振り払いながら、仕事に取り掛かった。
利取と事務所の面々の声は定時まで途切れなかった。