TS転生したら怪しげな教団に拾われた   作:糖分が足りないぞ

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第1話

とある地下室、そこに100人近くの人間がひしめき合っていた。彼らは一様に前方にある壇上に祈りをささげている。

 

「平伏せよ、賛美せよ、傾聴せよ、神域の巫女の御前である」

 

壇上に立つ神父姿の男から、そんな言葉が放たれる。そして、一人の少女が現れた。現れた少女は巫女服をまとっていた。しかし、白の小袖と緋袴の組み合わせではなく、黒と淡い青色を基調とした巫女服だ。

 

一般的な巫女服を想像するものからすれば、違和感を覚えてしまうだろう。しかし、そんな服装など気にはならなかった。なぜなら、そんなものが目に入らなくなるほど、少女が美しかったからだ。腰まである黒髪は、常に濡れそぼっているかの様に艶やかだ。蒼眼は妖艶に輝いており色香を感じさせる。年齢にしてはかなり小柄だが、道を歩けば間違いなく、百人が百人振り返る美少女だ。

 

「顔を上げよ、我が神の信徒たちよ」

 

言葉を発した瞬間、少女の雰囲気が一変した。柔らかで神秘的な雰囲気から一転し、重く恐ろしい支配者の神威を放っていた。

 

巫女と呼ばれている少女は、その瞳に炎を宿し笑みと共に信者達を逆らうことを許さない絶対的な重圧を持って睥睨する。ドクンと抑えきれない音を上げて信者達の胸が震える。

 

「我が受けし啓示は大いなる戦いを示した。世界を捻じ曲げてでも、願いを叶えんとする信徒たちよ。我に従え!我に答えよ!力を蓄え、我に御霊を捧げよッ!さすれば、我が神は汝らの願いを叶えるだろう」

 

告げられた言葉に信者達は瞠目する。先ほどまで黒かった少女の髪は、腰まで届く長い金髪に変わっていた。そして、少女の大きな瞳は炎のように赤く輝いていた。輝くその瞳には静謐で美しい儚さと昏く悍ましい力強さが混ざり合っていた。

 

信者たちの歓喜が地下空間に響く。その光景を見て、神父は微笑み巫女は目を閉じた。

 

 

 

 

どうしてこうなったのだろう。僕はため息をついた。目を覚ましたら、TS転生していました。なんてラノベにありそうな話だ。当事者からすれば、パニックになって発狂してもおかしくない現象だ。転生だけでも、困惑しそうなのに性別が変わっているのだから。だが、僕は一切動揺することがなかった。否、正確に言えばめちゃめちゃ動揺はしていたが、取り乱す一歩手前で誰かに諭された様に冷静さを取り戻した。冷静な自分がもう一人いて、常にブレーキになっている感じだ。正直、TS転生自体には問題はない。前世の人格はだいぶ曖昧だったようで記憶はあるものの、僕という存在にあまり影響は与えなかった。精々、異性という存在に対する認識がはっきりとしないだけだ。

身長が全然伸びずにこのままだと合法ロリになりそうな予感はあるが、人形並みに整った容姿は自分だとわかっていても見惚れる。美少女ボディーで遊ぶのは割と楽しい。だから、それに対しては困っていない。

 

そう、TS転生に問題はなかった。問題は、意識を取り戻してすぐよくわからない男に拾われて、怪しげな教団の偶像にされたことだ。

 

この世界にはどうやら異能の力があるらしいのだ。遥か昔、魔女狩りとかが実際に行われていた時代には神様という存在が残っていたらしくその神様に力をもらった人間たちが異能の力を振るっていたらしい。西洋でいえば魔女が、日本でいえば巫女や陰陽師がそういった存在にあたる。しかし、神様同士が諍いを起こし滅びていったことで人間から異能の力は失われていった。今では、わずかに残った神の残滓と共鳴をした人間がちょっとした力に目覚める程度だという。教団の目的は、神々を復活させ完全な異能の力を手に入れることらしい。

 

さて、まあここまではファンタジーな世界観なんだなと納得できなくもない。20年前のとある事件により、異能の力を扱う人間が各国に現れ暗躍しているものの、表面上は異能の力なんて都市伝説だし普通にしていれば関わることなんてない。

 

だが、僕はどうやら意味わからないくらい神との親和性が高いようで、弱体化しているが異能の力を他人に譲渡できるのだ。その体質を知ったクソ神父は僕を誘拐。神父は、僕に三食昼寝付き、巫女としての仕事をした後には100万を渡す、そして戸籍も経歴も用意するという契約を提示したのだ。当時、戸籍なし、今世の記憶なし、生きる指針皆無、あるのは謎の家と超絶美少女ボディーだけだった12歳児が思わず取引してしまったのは仕方がないと言える。

 

そうして、現在に至るわけだが………。

 

「いやぁ、見事な演説でしたネ。流石は神のミコ様だ。年々、神とのつながりが強くなっているようで何よりですヨ」

 

陽気で飄々とした男の声が僕を思考の海から引き上げた。先ほどまで集会を行っていた地下室の上、人のいない夜の教会で僕は黒髪に糸目の男………僕を拾った神父と今後のことについて話し合っていた。なぜか照明が破損しているため、教会内部は薄暗かった。唯一、教会の壁面に複数存在しているステンドグラスだけが小さな明かり取りの窓のような役割を果たしている。

 

「神父の書いた台本を読み上げていただけだよ」

 

「ええ、ですが演技力がなければ意味がない。あなたはいい役者になれるでしょウ」

 

いい役者、か。ひどい皮肉だな。

 

「そうそう、鏡花君。演説前にも言った通り、しばらくは自由にしていていいですヨ。むしろ、自由にしていてくださいネ」

 

「………今度は何を企んでいるんだ?」

 

「…最近、私たちが何をしているのか気にし始めましたネ?教えてもいいのですが、知ったところでどうするのですカ?」

 

僕の質問を受けて、神父の相貌から表情が抜け落ちる。そして、神父は僕に無邪気な子供のようなそれでいて恐ろしい悪魔のような声色で問い掛ける。

 

「君は傍観者でいることを選んだ。いや、当事者であることから逃げたのです。それを責めようとは思いませんが、そんな半端な覚悟で踏み込んできて本当によろしいのですか?」

 

逆らうことを許さない絶対の矢尻を僕に差し向ける。ドクンと抑えきれない音を上げて僕の心臓が震えた。自身の行動の結果に対する憂慮は存在している。だけど、神父の言う通り僕には覚悟がない。感情が理性を抑え込んでいた。

 

だから、僕にはどうすることもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたときには、夕日が沈みかけていた。タワマンの30階から見える夕日が目に刺さり、少し涙が出てきた。

 

現在、僕は15歳の高校1年生だがほとんど学校には行っておらず、家で過ごしている。なぜかと言えば、説明が長くなるが、あえて一言で表現するとすれば、無断欠席をしすぎて気まずくなったのである。原因は、巫女の仕事が忙しすぎるからだ。僕は信者に対する演説以外でも、とある目的のため全国を飛び回っていた。

 

彼らが神業と呼ぶ異能力を神父が見つけてきた人間に付与するためである。そのため必然的に無断欠席が、増え続け、学校に行かずに友人ができるわけもなくぼっち街道を進んだ結果、学校に行く気がなくなってしまったのである。

 

教団の幹部には教職を持っているものが複数人おり、学校に行かずともマンツーマンで勉強を教えてもらえるため、学校に行く必要性をあまり感じていなかったというのもある。

 

そんなわけで、絶賛引きこもり生活を謳歌しているわけだが、先日巫女としての仕事をしばらくしなくていいという旨を伝えられ、正真正銘の暇人になってしまったため、生活リズムが死んだ。

 

ただでさえ、狂いまくり生活リズムだったが行くところまで行ったらしく今は、昼夜逆転の生活を送っていた。そんなこんなで、僕は伽藍洞の一室で目を覚ました。

 

いつも通りのパーカーに着替え、外に出る。買い出しに出るつもりで外に足を向けたわけだが、寝起きの運動がてら、少し散歩をすることにした。

 

街の大通りを歩くこと10分、その喧騒から遠ざかると緑で覆われた中央分離帯と上下合わせて4車線ある道路をぐるっと一つの輪っかで結んだ巨大な歩道橋に出くわす。

歩行者用の信号はないので歩道橋に上がるしかない。歩道橋の上から見下ろす。夜の街を見ながら、少し思考に耽る。

 

今考えているのは、暇をつぶす方法と金銭的な問題だ。黙っていれば神父から、尋常じゃない生活費が振り込まれるが、神父と自分の関係が無限に続く保証はない。かといって、自分でお金を稼ぐのはなかなか厳しい。

 

何故なら、身分と時間の制約があるからだ。普段、巫女という仕事をしている以上、シフト制の仕事はできない。加えて僕は今高校生だ。その上見た目は、身長147cmのただの美少女であるため、めちゃめちゃ目立つのである。

バイトをして、現在の通っている高校にばれた場合は面倒くさいことになってしまう。別に、バイトが禁止というわけではないのだが、学校に行かずバイトをしているというのはさすがにバツが悪いのだ。

 

「戸籍なしの転生からの謎の教団に拉致だもんなぁ。対処できるわけないでしょ」

 

もっとよく考えて動けば何とかなったのかもしれないが、後の祭りである。

 

夏の足音はまだまだ遠いが、じめっとした空気が春の終わりを示している。そういえばあと5日ほどでゴールデンウィークだ。毎日が休日の僕には関係ないけどね。

やけくそ気味に吐き捨てて、歩き出す。散歩と言いつつかなり歩いてきてしまったので、帰りは電車に乗った。最寄りの駅に着いた頃には、19時を少し過ぎていた。

 

自宅までの間にあるコンビニで、食事を買いつつ帰路につく。その途中、僕は奇妙なものに出会ってしまった。

 

街灯の上に腰かけこちらをガン見している女がいたのである。普通にホラーなんだけど。住宅街近くとはいえ、この辺にはまだ人がいる。なのに、誰もこの女に視線を向けていない。まるで、ここで顔を上げてはいけないかのように。

 

女は僕と少しにらみ合った後に、街灯から音もなく降りた。そして、僕に声をかけてくる。

 

「ねえ、お姉さんと少し話さない?」

 

お前みたいな得体のしれない女はお断りだと言い放つ前に、その視線にからめとられて気が付けば公園に来ていた。ベンチに座らされた僕は、目の前のお姉さんを見ている。青髪に蒼い眼。顔の造形はまるで人工物のように整っているがそれでも近づきずらいといった空気がなく、まるで強制的に好意を抱かせるような何かを持っていた。歳は20くらいだろうか。

 

「先に言うけど、私は怪しいものだけど怖いものではないよ。特に、今の君にはね?」

 

話しかけてきた、お姉さんがうーんと伸びをする。背筋をピンと伸ばしていたので少し体が固まっていたらしい。それをほぐすように、慣れた感じで立ったままストレッチを始めた。それから、体をひねって大きく反って屈伸して、Y字バランスまで披露してくれた。

 

下はスキニーパンツなので、体の線がくっきり出ているがボディラインは健康的で、ちっともよこしまな気分になれなかった。

 

と言うか転生して以降あまり邪な気分というものになったことがない。自分にとって、どれが異性に当たるのかという認識がすごくあやふやだったのだ。最近は、どっちも行けるのではないかという怖い思考に陥りかけていた。

 

そんなくだらないことを考えながら、自販機で買ったペットボトルのお茶で喉を潤す。

 

「おねえさんはなんで僕に話しかけたんですか?」

 

少し舌足らずな声を出す。知らない相手にはいつもこういう甘い声を出して接していた。その方が都合がいいし。

 

「へえ。甘ーい声だね?そんな声も出せるんだ?一人称も我じゃなくて僕、かぁ。巫女様もちゃんと人間なんだねぇ」

 

風が凪ぐ。木々の葉がかすかに踊った。薄い雲とともにほとんど音のない時間がゆっくりと流れていく。そして、僕は流れゆく事象の中で硬直したまま動けなかった。この女、僕が巫女であることを知っているのか?なら、信者か?いや、でも。幹部以外の信者には僕の顔は金髪の時以外ははっきりとは見えない様に認識阻害がかけてあるし。幹部にこんな顔の女は、いないはずだけど。

 

「何のことだかわかりませんね」

 

ペットボトルに口をつけながら短く返事をした。口元から降ろしたペットボトルにキャップをした。視線を上に上げたくなかったからだ。

 

「今はそれでいいよ。まだわからないだろうしさ。おねーさんのこともしばらくは忘れていいよ。ただの乱数調節だから」

 

何を言って—————

 

そう言いかけた時、女はいなくなっていた。まるで、キツネにつままれたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不思議な出来事のあった夜に、僕は出会った。少女を背負って傷だらけになりながら走る少年とそれを狂気の笑みで追いかける殺人鬼に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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