TS転生したら怪しげな教団に拾われた   作:糖分が足りないぞ

2 / 5
第2話

少年は夜の住宅街を走っていた。後ろからは、命を狙ってくる殺人鬼の哄笑が聞こえてきた。

 

「クハハハハハハハハハ!!!!!!!!!」

 

「何なんだよ!誰か!助けてくれッ!」

 

その叫びに応える者はいない。周囲の人間は少年に、否少年たちに視線を向けることはない。まるで、3人を認識できないかのように。

 

鼓動はうるさいほど高鳴り視界は揺れている。少年は、星野結芽はコンビニバイト終わりに、たまたま立ち寄った公園でクラスメイトが殺人鬼に襲われており、それを咄嗟に助けた少年は、少女を背負ったまま5分ほど追いかけっこをしていた。

 

殺人鬼に斬りつけられた痛みが走っても足だけは止めない。

 

耳鳴りが始まり、視界がかすんでくる。

 

体力の限界を迎えた結芽に追いつく殺人鬼。殺人鬼の蹴りが少女に放たれる。

 

結芽は悲鳴を上げる身体に構わず少女を庇って、吹き飛ばされる。派手な音を立てて、公園の遊具に激突した。慌てて、結芽は周囲を見る。自分が庇った少女にはどうやら怪我はなかったらしく安堵のため息をつく。

 

「クソ!なんで………なんで俺はいつも肝心な時に、無力なんだ!」

 

それは悲鳴だった。単純な怒りの情ではない。もっと複雑で歪んだ自己嫌悪と理不尽に対する憎悪。

 

「キヒッキヒヒヒヒ」

 

殺人鬼がナイフを持って迫ってくる。絶望的な状況の中、結芽はそれでも逃げなかった。

 

「来るなら来いよ、クソ野郎」

 

拳を固める。結芽が構えを取った瞬間—————この場に似つかわしくないチリンという澄んだ鈴の音があたりに響いた。

 

気がつけば一人の少女がその場に立っていた。恐ろしくも美しい夜の闇を内包したような黒髪に、凪いだ水面のような蒼い瞳。その顔は人形のように無表情だ。あまりに場違いな少女の存在に、ナイフを持った男すらも一瞬固まった。それも一瞬のこと、男は何のためらいもなくナイフを振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女を庇って走る少年を見て、なんだか主人公みたいだなあと思った。あと、ナイフを持っている男は、神父が話していたはぐれ能力者だろう。

 

あれだけ叫びながら、走っている癖に誰も騒いでいない。周囲には、何人も人がいるのに、誰も気にした様子がない。最近連続殺人事件の報道が続いている。そして、それに伴いパトロールの警官も増えている。しかし、その誰もが走り回る殺人鬼と少年を見ていない。認識すらできない。こんな異常なことができるのは、非日常的な何かを持っている人間だけだ。

 

「認識阻害の能力持ちだよね………。どうしようかな。僕、戦闘能力はほとんどないからなぁ」

 

この場であの能力を解除させることはできる。だけど、解除させた後が問題だろう。パニックが起こって、死傷者が増えるだけだ。何せ、ナイフを持った男がいきなり現れるんだ。市民はパニックになる。そして、殺人鬼も動転するだろう。最善は、能力が効いている演技をしつつ僕が不意打ちをして助けることなんだけど、手段がない。こんなことなら、神父の言う通り護身用の拳銃を持ち歩いているべきだった。

 

いや、一つある。だけど、これを使うということは…。

 

「クソ!なんで………なんで俺はいつも肝心な時に、無力なんだ!」

 

そんな叫び声が聞こえた。気が付けば、体は動いていた。懐から神楽鈴を取り出す。神楽鈴の鈴は三段の輪状に付けられ、下から七個、五個、三個になっている。僕は中段の鈴の一つを指ではじく。

 

チリン———その音と共に、僕の身体は殺人鬼と少年の間に瞬時に移動する。殺人鬼はナイフを振りかざしているが、それは問題ない。少年は咄嗟に何かを叫んでいるけど、僕にそのナイフが届くことはない。

 

僕の首を狙っていたナイフの軌跡は、その30cmほど手前で弾かれた。まるで見えない壁でもあるかのように。事実、視認不可能の壁が存在している。神父が僕に植え込んだ防衛機構。それがこの不可視の防壁である。そして、業腹だけど使ってしまったこの巫女鈴こそ護身用の武器であり僕に対して付けられた首輪だ。

 

計15種類の神戯が内包されているこの鈴は、僕が指ではじくことでその能力を開放する。しかし、ストックされているのは1種類ごと一回分なので15回使うとただのGPSに成り下がる。ちなみに、神父は「これはGPSでなくGod Power Systemですよ。ハハハハハ」

などとふざけたことを言っていたが。

 

僕が自身で行使できる能力は、戦闘向きのものではないため大抵はこれに頼らざるを得なくなる。

 

チリン―――――。鈴が鳴る。そして、凄まじい高揚感が体を支配する。それを無理やり、抑え込む。

 

僕は、怯んでいる殺人鬼を見据え、そのがら空きの胴体に強烈な蹴りを放った。

 

「ガッ!?」

 

男は吹き飛ばされる。

 

少し遅れて轟音と共に土煙が舞う。それを見届けてから、僕は驚愕でポカンとしている少年の腕をつかんで鈴を鳴らした。次の瞬間、強烈な浮遊感と共に景色が入れ替わる。僕は、自分の部屋に空間移動できたことを確認すると、少年の方に視線を向けた。

 

少年は………白目をむいて気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件から一夜が明けた現在。僕は一人の男と電話していた。

 

「怪我はしてないですよ。先ほど伝えた通り、はぐれ能力者を抑えるのに鈴を使っただけです」

 

『巫女様さぁ、別に俺っちは鈴を使ったことを責めてるんじゃないんだぜ?面倒ごとに首を突っ込むのも、あんたの自由さ。ただな、肝心のはぐれ能力者が逃げちまってるのが問題なんだよ』

 

そう、電話の向こう側にいる男の言う通り今朝のニュースに昨日の騒動は乗っていない。がら空きの胴体に本気で蹴りを放ったのだから、あの場で伸びているとばかり思っていた。しかし、回収に行った教団の人間は彼を見つけられなかったそうだ。

 

「助けてあげたあの子たち、教団の人間に頼んで家に帰したの問題でしたかね?」

 

『的確な神戯使いに運ばせたから、問題はなかったと思うぜ?今頃は、自宅のベットで目を覚ましてるだろ』

 

「そうですか」

 

『俺っちが危惧してるのは、はぐれ能力者の足取りがつかめないってことだ。巫女様の話だと、認識操作系の神戯なんだろ?隠れるのにはうってつけなんだよな。巫女様みたいな神戯を無効化できる特殊な人間でもいない限り、見つけるのはほぼ不可能だぜ』

 

「神父は何してるんですか?」

 

神戯の無効化は出来なくとも、神父なら容易く見つけられるはずだ。

 

『ああ、神父様は今東京にいないぞ。人に会いに行くために、昨日の夜から出かけたよ』

 

あいつ肝心な時にいないじゃん。犯人は野放し。顔は見てないから能力を使ってくれないと探すのは困難。そして、フード越しとはいえ顔を見られた可能性のある少年たちを見逃す可能性はほぼないと言えるだろう。

 

「………つまり、僕が動かないと昨日助けた二人はまた危ない目に遭いかねないと?」

 

『可能性の話だよ、別に巫女様が気にするようなことでもないと思うぜ?相手ははぐれ能力者だ。俺っちたちもできる限りは調査する。姐さんが目を覚ませば見つけられるだろうし、あんまり心配はしてねえけど』

 

「でも、早くあの殺人鬼捕まえないと警察にも無駄な犠牲者が出ますよね」

 

『まあ、神戯の存在を知らない警察じゃあ恰好の餌食だろうな。信者の中に警察もいたと思うが、被害状況聞いとくか?』

 

「いえ、結構です。代わりに、教団の人間を数人護衛に宛がってください」

 

『昨日の二人に対してか?』

 

「はい、そうですけど…」

 

『それはむずいなぁ。俺っちを含めて、高校に潜入できるようなやつはいないからな』

 

「別に、学校にまで潜入しなくてもいいのでは?」

 

『犯人が学生でない保証はないだろ?もしかしたら、教師かもしれない』

 

彼の言っていることには一理あるが、本音は別だろう。

 

「僕は学校には行きません」

 

どうして、神父以外の教団のやつらはみんなして僕を学校に行かせたがるのか?

 

『ええー。何でだよ!学校いこーぜ?大学生からすると高校生ってのは夢の生活だったわけよ!そんな楽しい時間を捨てるのを黙って見過ごせないって』

 

「貴方がちゃんと授業に出て単位を取れば、楽しい大学生活になるのではないのですか?」

 

『あーあー。そういう正論は聞きたくありませーん』

 

この人、頭はいいんだから授業にちゃんと出ればいいのにさぼるから、単位を落として超タイトスケジュールになっているのだ。

 

『でもまじめな話、出席日数確保のために行った方がいいぜ?ほら、おあつらえ向きに助けた少年少女の安否確認っていう言い訳もできたことだしな』

 

「………余計なお世話です」

 

そう言って、電話を切った。正直、彼の言っていることは正しい。神戯の発動地点を感知できる蓮華先輩がいれば、殺人鬼はすぐに炙り出せるだろう。なにせ、殺人鬼の活動エリアはこの町に限られているのだから。

 

蓮華先輩が目を覚ますのは大体三日後。つまり、三日間学校に通い彼らの安否確認をすれば僕も枕を高くして眠れるというわけである。三日………三日ね。

 

僕が今制服を持っているのは、学校に行くためではない。一人でファッションショーをするためだ、断じて学校に行くためではない。

 

白いセーラー服に、青地の涼し気なチェックスカートがこの美少女様には似合うなぁと感慨に浸るだけだ。決して、僕は日が出ている時間帯に外には出ない。

 

 

 

 

そう誓いつつ、僕は制服を着てうろ覚えの通学路に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。