TS転生したら怪しげな教団に拾われた   作:糖分が足りないぞ

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第3話

僕の通っている高校は七つ先の駅に存在している。ただ、距離でいえばそんなに離れてはいない。一駅一駅の間隔が小さいためだ。

 

最寄り駅の東口から続く緩い坂を上っていくと、学校の敷地が見えてくるあたりで大きな十字路に差し掛かる。信号はいまだに赤のため、多くの生徒が足止めを喰らっている。しかし、集団の中にあっても僕は目立っていた。純粋に、目立っていた。無理もない、人形じみた造形もあるが、一番は身長だろう。めちゃめちゃ目立つはずだ。147cmの高校生なんて。その上、ここにいる多くの生徒が見たことないのだ。僕はレア度でいえば、アイスの当たり棒なみである。

 

初夏の足音を告げる生ぬるい風と梅雨を予感させる湿気。そして、周りからの好奇の視線がうざい。指先で前髪をいじっていると、後ろから視線を感じた。

 

振りむくとそこには、昨日助けた少年が信じられないと書いてある顔で、こちらを見ていた。こんなところでエンカウントか。やっぱり、主人公みたいなやつだなぁと思った。

 

不用意にしゃべる必要性を感じないため、僕はそのまま歩を進めた。

 

教室に入って、僕は周り右して帰りたくなった。理解はできる。今までほぼ不登校だった生徒が、いきなり学校に来たら珍しさに目を剥くだろう。低身長で整った顔立ちをしていて、基本無表情。わかる。お前らの気持ちはわかるよ。

 

立ち尽くす僕を見つめるクラスメイト達の視線は様々だった。興味、無関心、困惑、嫌悪に嫉妬。いくら珍しいとは言え、これはちょっと過剰な注目度だと感じた。

 

信者たちの相手をしていたせいで、何となく目線を感じやすくなってしまった。だから、余計に人の多いところは疲れるのだ。

 

僕は一つ困ったことに気が付いてしまった。席が何処かわからない。完全に失念していた。自分の席というものがあるんだった………。

 

「席は廊下側の二列目の前から三つ目だよ」

 

後ろからそんな声がかかった。振り向くとそこには、昨日助けた少年が立っていた。

 

「お、同じクラスの人ですか?」

 

「うん。そうだよ。俺は星野結芽、よろしく。名前聞いてもいいかな?」

 

うーん。イケメンだ。スポーティな感じの笑み、でも顔に書いてあるよ?昨日のこと問いただしたいって。

 

「僕は水原鏡花。よろしく、星野君」

 

 

 

 

 

 

その後、好奇の目にさらされつつホームルームを迎える。この学校はどちらかと言えば、進学校よりのため授業中は割と静かだ。だから問題は昼休みに起こった。

 

4限目の終了の鐘の音色を皮切りに、僕に質問と人波が殺到する。

 

「なあなあ、お前って何で今まで学校に来なかったんだ?」

 

そんなデリカシーもクソもない質問で、質問内容のハードルが極限まで下がったらしい。

 

「水原さんでいいんだよね?」

「一緒にご飯食べない?」

「ってかすげー美人じゃん」

 

「髪の毛とかきれー」

「特別なケアとかしてるのかな」

「小さくてかわいいー!」

「人形みたーい!!!!!」

 

「なんか水原さん、そっけなくない?」

「こーゆキャラなんじゃないの?」

「うちらにはあんま合わない感じだね」

 

「んー、あの寡黙な感じ。同志の気配だわ」

「えー、絶対性格違いますって」

「顔はいいけど中身怖い感じでしょ、あれは」

 

「お嬢さん美術部に興味はありませんか?」

「体が弱いって言ってたけど、どれくらい学校来れるの?」

 

不登校の原因は体が弱いってことにしておいた。もちろん、そんなことはないのでちゃんと調べたらバレかねないけど。適当に質問を捌きつつ、めんどくさいのは無視していると特大の質問が飛んできた。

 

「水原さん、夜の街で見かけた気がするんだけど」

 

それは正確に言えば、質問ではなく独り言だった。

 

「………すいません、ちょっと休んでいた関係で先生に呼び出されていまして、職員室に行かなくちゃいけないんです」

 

そう言って無理やり席を立った。そして、バレない様に星野君に視線を向ける。

 

廊下を歩いて階段を上る。漫画の世界ではよく屋上の鍵は空いているが、現実ではそうはいかないため、必然的に屋上の扉の前は人の気配がなかった。

 

「どうしたんですか?こんなところに上がってきてしまって」

 

「君を追いかけてきたんだ」

 

「おや、ナンパですか?僕は今はそういうの受け付けてなくてですね」

 

悪戯っぽく微笑む。ロリコンじゃなくても、美少女に微笑まれると男はうろたえる。案の定、星野君は少し顔が赤くなる。

 

フー、美少女ボディーで男を揶揄うの愉しくて癖になりそうだ。

 

「昨日のあれは君ってことでいいのかな?」

 

星野君はすぐに真顔に戻った。可愛くない奴だ。どうやら、問答をする気はないらしい。だが、僕は彼に詳しいことを説明する気がない。詳しいことを説明するということは、非日常に巻き込むということだからだ。それに僕はあと三日後にはまた不登校生活に戻る。出席日数は、教団メンバーに頭を下げて、圧力をかけてもらえばいい。

 

僕が彼をここに誘い出したのは、どの程度事態を把握しているのか探るためだ。少女の方も気になるし。

 

「昨日?昨日、何かあったんですか?」

 

答える気がないと悟ったのか、星野君は閉口した。数十秒後。意を決したように話し出す。

 

「昨日、俺はナイフを持った男に襲われてるクラスメイトを見た。で、そのクラスメイトを背負ってナイフの男から逃げてる途中で君とよく似た女の子に助けられた」

 

かなり端折ってあるため、全体像が見えないがこれが精いっぱいなのだろうと思った。超能力や魔法のような超常現象を省けば、確かにこのぐらいしか説明できないだろう。

 

しかし、思った以上に覚えちゃってるな。

 

「その後はどうしたんですか?」

 

「よく覚えてない。気が付けば、朝部屋で寝ていて一瞬夢かと思ったけど、リアリティがあり過ぎたし………。両親は夜勤で妹はもう寝てたから、いつ帰ったかの確認が取れなかったけど、君を見て確信した」

 

「昨日のことは夢じゃなかったと?」

 

「ああ、それに桜さんが今日は来てなかった。昨日のことと関係があると思う」

 

スカートの裏から鈴を一つ取り出した。記憶操作の神戯を込めた鈴だ。それを握りしめて、ここからの計画を考える。ここで、ある程度事情を話して協力してもらったほうが、効率がいいよな。でも、必然的に彼を巻き込むことになる。んー、どうしたものか。この場で記憶を書き換えるか?

 

声が響く。ここにはいない誰かの声が。

 

『使えるものは使うのが賢者です。我々は神の力を扱うもの。有象無象は利用するためのものだと思いなさい。あなたは神域のミコです。神戯を振るうのを躊躇してはいけない。あなたは人とは違うのですからね』

 

『あなたに何が成せるというのですか?中途半端で為せることなど一つもありませんよ?覚悟のないあなたには飼われている今の姿こそがふさわしいでしょう?未熟で非力で覚悟のない哀れな迷い子よ』

 

神父の言葉がよみがえる。

 

『最後に記憶を消すのですから、問題はありませんよ………利用しましょう、事情を話して寄りかかりましょう、媚び方は知っているはずです。罪悪感はいりません。あなたは神域のミコ。この世で神の意志を代行できるただ一人の存在なのだから』

 

ああ、そうだよな。うん、後で記憶をいじるのだから今は協力してもらいましょう。だって、僕は未熟で非力だから。

 

「わかりました。詳しいお話は放課後にしましょう」

 

僕は笑みを作ってそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と星野君はカランというドアについた鈴の音と共にお店の中に入った。店の中は外のざわめきは消えて、恐ろしいほどの静寂が支配している。信者の店に連絡したかいがあったというものだ。

 

「まずは注文だけしてしまいましょう」

 

「そ、そうですね」

 

「別に僕に合わせて敬語にする必要はないですよ」

 

僕は自身の美しさを引き出す笑みを浮かべると席に着いた。メニュー表を開くことなく、僕は星野君にそれを手渡す。彼はだいぶ迷ったようだが、最終的には店員にコーヒーを注文した。

 

「本題に入りましょうか。まず、認識のすり合わせからしましょう。前提として、僕はあなたの昨日見た少女で間違いありません。そして、昨日のことは現実です。星野君が見た不可思議な出来事。それも現実です」

 

「………!ッ?…あー、えっと」

 

「少し頭を整理する時間を取りますよ」

 

テーブルに無言で運ばれてきたコーヒーを口元に運びながら、僕は混乱する星野君に困り顔で譲歩する。

 

「どうして俺が目を覚ましたのは家のベットだったんだ?君の体格だと俺を運ぶのは無理だよな?」

 

「ああ、もう一つ言い忘れていました。この世には不可思議な力、あなた方にわかりやすく言うのであれば、超能力のようなものが存在しています」

 

「………」

 

星野君は完全に沈黙してしまった。それはそうだろう。こんな話、普通は信じない。だけど、彼は実際に昨日の殺人鬼の能力を見てしまっている。

 

僕は手持ち無沙汰になり、外を眺めた。

 

僕ら二人の席に面した大窓の向こうにある歩道は人一人おらず無人だ。ここのマスターの能力で人が寄らないようにしているからだ。歩道には、午後のきつい日差しがアスファルトを照らしているだけ。周りのできごとがすべて背景になり、日常だった放課後の空気がねじれてゆく。

 

「信じるよ。そういう非日常の存在があることも君がそれを使っていることも」

 

「存外、頭の回転がいいのですね。では続けます。ここ数週間で起きている連続殺人事件については、ご存じですか?」

 

「ああ、9人殺されてるやつだろ?」

 

「はい、星野君が昨日エンカウントした男はその連続殺人犯です」

 

混乱する彼の頭の中とは違い、喫茶店の中には喧しい話声は一筋もなく、室全体として静物の絵のしとやかさを保っていた。

 

「確かに、オカルトのような超能力を認めれば殺人犯が見つからないことにも説明が付くし、昨日の誰からも無視されるみたいな現象に説明が付くな」

 

「あれ当事者からしたら、恐ろしいですよね。誰も気づいてくれない、助けてくれない、でも殺人鬼は後ろから追いかけてくる。怖かったでしょう?」

 

「怖かったさ………正直、桜さんを助けた時も何で俺こんなことしたんだろって後悔したくらいだ」

 

「おや」

 

「でも、後悔しなくて済んだ」

 

「どうしてですか?」

 

「君が助けてくれたから」

 

「………偶々ですよ」

 

そう偶然だ。僕しか助けられなかったから、助けただけ。特別になりたかった。特別に固執した、結局今の地位にある程度の優越感を抱いてしまっているが故に、僕は動いただけだ。

 

「でも、俺はうれしかった。だから………本当にありがとう」

 

「あ——————っ」

 

そんなまっすぐな目で僕を見ないでほしい。僕は、そんなに高潔な人間じゃないんだ。星野結芽、僕は能力のない状態で誰かを助けるほど素晴らしい人間じゃない。彼の姿が、あの人に重なる。

 

僕は、彼が想像しているよりもはるかに自己勝手で、臆病で、愚かだから。だから、彼を僕は——————。

 

 

 

 

 

思い出したくないものは思い出さなくていいではないですか。

 

声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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