TS転生したら怪しげな教団に拾われた 作:糖分が足りないぞ
大体の話はまとまった。まず、前提情報として昨日の少女は泉桜というらしい。彼女は、学校を体調不良で欠席しており、無事を確認できていない。
「えーっと、水原さんの目的は君のコネで殺人犯を拘束するまでの間俺らを保護すること。問題点としては、俺らが学校外にいる間の安全が保障できないことでいいんだよな?」
「厳密に言うと違います。保障できないのは星野君の身の安全だけです」
「え、なんで!」
「私の能力の関係です。遠隔で結界のようなものを張ることが可能ですが、対象が一人だけなのです。桜さんに会いに行き、結界を施すのは確定ですがそうすると星野君が裸同然になってしまうわけですね」
「………」
「そこで、俺に対して能力を使えと言わない当たり流石ですね」
実を言えば、他人に結界を施す能力は持っていない。能力の関係とは、つまるところ記憶操作が一度しか使用できない点のことだ。星野君の記憶を操作した後に、泉桜の記憶を操作することはできない。しかし、星野君には事情を話しているため記憶の操作は行わなければならない。
故に、泉桜に記憶操作が行えない以上事情を深く話せないということだ。そして、僕が建てた仮説が正しいのであれば、むしろそれは好都合だ。まあ、なんにしても泉桜に会いに行く必要がある。
「星野君に提示できる選択肢は二つ。僕が星野君のお宅に泊まるか星野君が僕の家に来るかです」
「………!?」
百面相から、硬直してしまった。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だなぁ。
「先に桜さんの家に行きましょう。彼女の安否確認が最優先です。口裏は合わせてくださいよ」
そう言って、席を立つとマスターが目配せしてくる。カウンターまで行き、代金を置くついでに耳を傾ける。
「念のため大丸殿が護衛に付くとのことですが、どういたしますか?」
「神父派の人間は僕に近づけないで」
「承知いたしました」
「いつもありがとう」
「もったいなきお言葉です」
マスターとの小声の会話が終わり、後ろを振り返ると財布を片手に星野君が立っていた。
「水原さん、流石に自分の分は出すよ」
少し焦ったようにそういう星野君だが、巻き込んでしまった手前そういうわけにもいかない。それに、こうやって貸しを作っておきたい。
「星野君、こういう話を知っていますか?二人で食事をした際、片方が会計をするともう片方の人はそれ人ともう一度食事をするきっかけが生まれるのです。何が言いたいかと言えば、相手の好意は受け取りましょうということですよ」
適当なことを並べて、会話を切り上げる。
絶対そういう意味じゃないでしょっという文句はいりませんので。
泉桜がいるとされる最寄り駅に着いた。僕は星野君と一緒に改札口を通った。そこから歩くこと約5分。
「すごいな」
僕は小さな声でそう呟いた、星野君が立ち止まったのは閑静な住宅街の一角だった。一戸建てばかりが立ち並ぶ落ち着いた町並み。周囲に見えるマンションも一番大きくで5階建てぐらい。空が広く思える空間だった。
「ここだ」
星野君が両開きの立派な門扉の横にあるインターホンに指をかける。電子音とともに、女性の声が応対してきた。
「桜さんと同じクラスの星野です。提出物を届けにきました」
少しして、扉が半開きになる。けっして、僕たちを家に招き入れる気はないようで、泉桜は顔だけ出して僕たちと相対していた。
栗色の髪に、赤い瞳。間違いなく、昨晩襲われていた少女だ。
「あ、あの………提出物のプリントだけいただけませんか?すごく、具合が悪くて………長く応対できそうにないんです」
彼女は、顔色が悪く一見体調が悪いように見える。実際に、星野君にもそう見えているようだ。まあ、昨日のような事件に巻き込まれた人間の反応としては普通だ。
「あー、桜さん。昨日のことって………」
「………ッ!」
星野君は気まずいのを隠しながら、なんとかそう切り出して見せた。すると、泉桜の身体が僅かに震えた。
「き、昨日のこと………。やっぱり、夢じゃないんだよね」
「そ、それは………」
「よくわからない人にナイフで切りかかられて、星野君が助けてくれて、それで、それでもあの人追いかけてきて、怖くて、どうしようもなくて、気を失って………目が覚めて、家にいたから夢だと思ったのに、なのに………!お母さんもお父さんも海外出張でいないし!もう、私………どうしたらいいのか」
頭を抱えて彼女は恐怖を吐き出す。このまま、倒れてしまいそうなほど不安定になっているなと思った。おそらく、カウンセラーに見てもらわないと学校にも来れない。っというか、まともな事情聴取ができないな。
「すいません、思い出したくないのであれば無理に思い出す必要はありませんよ」
僕はそう切り出した。
「あ、貴方は?」
「初めまして、泉桜さん。同じクラスの水原です。諸事情で、今日まで休学していました。実は、昨日の出来事私は遠くから目撃していまして心配だったので、お見舞いに来たんです。だます形になってしまい、申し訳ないです」
昨日、僕が助けに入った時点で彼女は気絶していた。そういう風に見えた。だから、僕と彼女は初対面である。なので、とりあえず素直に現状を伝えた。
「………無理に聞き出す気はありません。ただ、僕たちの話を聞くだけ聞いてください。大丈夫です。いざとなれば星野君が守ってくれますから………ね?」
「え、あ、うん!大丈夫だ、また昨日みたいに背負って逃げてみせるから」
星野君の対応は悪くなかった。ここで、こういう発言ができる彼を少し羨ましく思う。
「………」
怯えた様子で玄関から出てこようとしない彼女を落ち着かせるため、穏やかな声色を意識する。
「一応、僕たちは警察に昨日のことを話しに行こうと思っていまして、あなたの意思を確認しに来たのです。証言者は多い方が良いでしょうし………。一緒に警察に相談に行きませんか?」
「………あ、あの、少し考えさせてくれませんか?」
まあ、そう来るだろうね。
「わかりました。また明日、ここを訪ねます。僕たちもそうですけど、混乱しているでしょうしね」
「す、すいません」
「………最後に一つ、聞いてもいいですか?」
「何でしょうか………」
「その足はどうしたのですか?」
左足は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。まあ、聞くまでのなく昨日の事件の傷なのだろうけど。
「こ、これは、昨日の」
「ああ、すいません。ですよね」
「…桜さん、医者に入ったのかってのは愚問だよな。その足、放っておいて大丈夫なのか?」
「はい………傷は深くありませんでしたから」
その後最低限の挨拶を済ませて、逃げるようにその場を離脱した。
帰り道、僕らの間に会話は存在しなかった。当たり前と言えば当たり前だったのかもしれない。正直、彼女の姿はあまりにも痛々しかった。そういうのに慣れている僕でなければ、高校生にはかなりダメージが行くのだろう。
特に、メンタルが強いとは言えど優しい彼のような少年には。
「星野君、時間切れです」
「は?」
だから、無理やりでも気分を変えさせるしかない。そう、ショック療法のように。
「今晩は、僕の家に泊まってください。拒否権はありませんよ?」
僕は、相手を威圧する笑みととろかすような甘い声でそう言い放った。
玄関のドアに到着する。星野君の腕をつかみつつ、僕が鍵を差し込みドアを開けた。彼を逃がさないための処置だ。決して面白がってなんていない。
この部屋は自動で電気がつくようになっている。照明が、一斉に僕らを出迎えてくれた。
「一応言っておくけど俺は男だぞ」
「そうですね。でもさすがに知っている人間がそれも一度助けた人間が、翌日死体で発見されるというのは気分が悪いのですよ。それに直感ですが、星野君のことは信用しても大丈夫だと思っています」
そう断言すると彼は少し照れたように、後頭部を掻いた。
「俺としては警戒される男になりたいんだけどなー」
「ハハハ、面白い冗談です」
軽口が叩けるくらいには、回復したらしい。
玄関を上がると一段と静けさが深まっていく。制服の擦れる音がやけに大きく聞こえる。吹き抜けになった広い玄関がそうさせるのだろうか?いや、そんなことはない。それはいつも通りだからだ。僕は、いつもと違う感覚にちょっとしたワクワク感を抱きつつ、笑みを噛み殺す。
「で、でけぇ………タワーマンション、初めて来た」
星野君はリビングを見て唖然とした顔をしていた。まあ、確かに高校生の一人暮らしとしてはありえないほどの広さを誇っている。
「えっと、親御さんは?」
「僕は一人暮らしですから、気を使わなくてもいいですよ」
彼は、目まぐるしく変化する状況についていけないのか、この家に僕以外がいないことを疑問視していなかったようで、今更になってそんなことを言った。
「え゛!?」
シンプルさと落ち着きを重点に置いた部屋の内装。座り心地の良さそうなソファーの正面には60インチの大型テレビが置かれている。
キッチンは対面式で中の見えるガラスの戸棚にはモデルルームのように食器や調味料が整然と並んでいる。廊下は全て間接照明というおしゃれ仕様だ。シンプルで上品それでいて豪華な雰囲気を併せ持った空間であるため、彼の考えはよくわかる。ここに一人暮らしは、かなりの訳ありだ。
「僕の保護者は基本的に、日本中を飛び回っているので帰ってこないんです」
「あ、ああ。なる、ほど?………えっと、俺は今日ここに泊まるのか」
「そうですよ。大丈夫です。部屋はありますから」
僕はそう言い放ち、彼にこの部屋の内装を説明する。彼は、流石あの夜を生き残った男と言うべきか、すぐに状況に順応し始めた。頭は痛そうにしていたが。
ソファーに座り込んだ、彼にテレビのリモコンを渡し、僕は言い放った。
「宅配にピザを頼んでおきましたので、食事の心配はありませんよ。あ、アレルギーとかはないですか?」
「ないけど………」
「そうですか、よかったです。じゃあ、僕はお風呂入ってくるのでテレビでも見といてくださいねー」
僕はその場から離脱した。後ろから聞こえる慌てた声と狼狽えて赤くなっている彼の顔を報酬に、昨日からの疲れを落としに行った。
洗面所の前で僕は体に付いた水気を落とし、髪をまとめる。その後、寝間着を着て廊下に出た。
リビング前にある全身鏡を覗き込む。
「おー、さいきょーだな。僕は」
白とパステルピンクのボーダーのパーカー、そのフードには猫の耳を模した飾りがついている。ドルフィンパンツは黒地で少し落ち着きのあるもの。さらに同じ黒色のニーハイがすらりとした長い脚と真っ白で柔らかそうな太ももを同時に強調して、見事な絶対領域を作りあげていた。
我ながら、最強のコーデだと思う。普段、絶対に着ないコーデだけど。ニーソは寝る時、脱ごうかな。
「上がりましたよ」
リビングで携帯を覗き込んでいた星野君に声をかける。テレビのリモコンを渡しておいたのだが、見ていないらしい。正直、一人暮らしの時はいつもテレビをつけてBGM代わりにしているから、強烈に違和感を覚えてしまった。
彼は僕の姿を見て固まった後、目線を窓の方に向けて逸らした。そういう反応されると、気分が上がってしまうから勘弁してほしい。意外と女慣れしていないらしい。
「おやおや、どうかしましたか?」
「………何で寝間着なんだよ、っていうか髪乾かしてから来いよ」
「ここ、僕の家だし」
「いや、だから、そういう問題じゃなくて」
「大丈夫、僕を襲う度胸がある人はこの家に入れないから」
「………ハァ~」
ニヤニヤとした笑みを抑え、ソファーに近づく。どうしようかな?どこのラインまでは、揶揄えるかな。気分を高揚させつつ、ソファーに膝を乗っけると彼のスマホの画面が目に飛び込んできた。
まあ、リラックスするのは難しいよな。いろんな意味で。
「ああ、夕飯が来ましたね。取りに行ってきます」
僕は、少し冷静さを取り戻しながら玄関に向かう。彼のスマホの画面には、とあるネット記事が表示されていた。
『連続殺人事件を追っているジャーナリスト七橋さんが語る!犯人の異常性と手口の特異性について』