バットマンが、空を移動する敵とそれを追う轟と障子を見つける数十分前。
森の中で轟、障子、蛙吹、お茶子は敵と会敵していた。元々は常闇もおり、爆豪を護衛していたはずだったが、姿を消していた。
「彼なら、俺の
だが、マント・ハット・手袋・マスクというマジシャンのような出で立ちの敵〝Mr.コンプレス〟に何らかの方法で爆豪と常闇が捕えられていた。手には何か小さなビー玉のようなものがある。
「コイツは、ヒーロー側にいるべき人材じゃない。もっと輝ける舞台に俺たちが連れてくさ」
「返しやがれっ!」
「返せ? 妙な話だぜ。爆豪君は誰の物でもねぇ。彼は彼自身のモノだぞ? エゴイストめ!!」
轟がそう叫ぶ。しかし、それをコンプレスはさも当然のように言い放った。
「んの野郎!」
轟は右の氷を使って捉えようとするが登っている木に到達する前に敵は跳んで回避する。
「我々は、凝り固まった思考に、〝それだけじゃないよ〟と道を示してあげるだけ。今の子たちは価値観に道を選ばされている」
木の上に着地し、演説めいた言葉を発するコンプレス。その手にある玉は二つに増えた。
「それと、常闇君もね。ムーンフィッシュは「歯刃」の男でな、あれでも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それを一方的に蹂躙する暴力性。彼も良い、と判断し、アドリブで頂いた」
「貰ってんじゃねぇ!」
轟は背負っている人をお茶子に預け、大氷壁を発生させて攻撃した。体育祭でも見せたあの大氷壁。それをコンプレスは回避していた。
「悪いが俺ぁ、欺きと逃げ足だけが取り柄でね。ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか! 『開闢行動隊! 目標回収達成だ! 短い間だったがこれにて幕引き! 予定通り、この通信後5分以内に回収地点へ向かえ!』」
そう通信しながら、コンプレスは器用に木の枝を跳躍して逃走する。
「幕引き…だと…!?」
「駄目だ!」
それを、轟たちは全力疾走で追いかけた。
しかし、敵の移動速度が速く、なかなか追いつけない。このままでは見失い、逃げられてしまう。
「くっ、何か追いつける手は…!」
「……麗日! 俺と障子を浮かしてくれ! それを、蛙吹が舌でぶん投げる! 障子は複製腕で軌道修正だ!」
「なるほど! 人間弾か!」
「わ、わかった」
麗日は自身の“個性”で二人を軽くする。そして二人を蛙吹が舌を使ってしっかりと固定する。
「二人とも、爆豪ちゃんたちをお願いね」
蛙吹の言葉に二人は頷くと投げ飛ばした。
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その一方。
森の獣道の一つで、
「やばいって やばいって!! やばいってこいつぅ!!!」
それを、頭にバイザーを付けた2mほどの身長の大男の背中に、チェーンソーやドリルがついた腕を計五本くっ付けた様な見た目の脳無が追いかけている。
「八百万!? 生きてるか?! おい! 頼む走ってくれ!」
「すみません…泡瀬さん……」
そう呼びかけられる八百万は、頭から血を流しており、かなりの重症である。
「チクショウ! チクショウ……! ッ!」
泡瀬が歯を食いしばりながら走っていると、走ってる先に人影が見えた。シルエット的に男である。
「まだ…敵g「ここまで走れ!」
何者かはわからない者のその声に励まされ、泡瀬はそこまで走りきる。男は泡瀬とすれ違うと、腰に携えている刀を取り出した。鞘はないため、腰にしまったとしても刃は丸見えである。
その刀で円を描き、脳無のチェーンソー等が生えている腕を斬り落とした。
「ギェエエエアアアア!?」
泡瀬はその光景を傍観していた。男が脳むと戦っているおかげで余裕ができた泡瀬は、男の恰好をよく見た。
その姿は、黒い鎧に黒いマント、頭には鋭く尖った耳がある。泡瀬もニュースを見たため、正体は分かっていた。バットマンである。
しかし、ここで疑問が生まれる。
「(なんで……耳が短いんだ…?)」
その他にも、よく見れば他にも違うところがあった。マスクの形や、スーツの素材。胸のバットマークも微妙に違っている。
「……中に誰かいるな」
その声を効いて、泡瀬は思考の海から引き揚げられた。気づけば、男、バットマンは脳無を倒しており、片膝をついて全身を見ていると、そんな事を言ったのだ。
「誰かって…誰がいるんだ?」
「それを、今から確かめる」
バットマンは、刀を脳無の腹に当てて斬り開いた。すると中から緑の長髪の女性が裂け目から吐き出される。
「ラグドール!?」
「……知り合いか?」
そう聞くバットマンに、泡瀬が頷く。すると、脳無の腹の傷が塞がっていき、斬られた腕が背中の中に収納され、立ち上がった。
「ま、まだ立つのかよ!?」
「だが、戦う気はないみたいだな」
バットマンがそう言う通り、脳無はバットマンたちに背を向けて、どこかへ去っていく。
「どこに行く気だ?」
泡瀬の疑問は尤もだ。そもそも、敵の目的は爆豪だ。つまり、あの脳無が引き返していくということは。
「帰る…? 役目を…果たしたということ…?」
「ふむ、そういう事か」
八百万の言葉を聞いたバットマンは、立ち上がって腰に装着されている折り畳み式のライフルを取り出した。
それを脳無に構えて引き金を引く。銃口から飛び出したのは、ただの弾ではなく追跡装置だ。
「これで、ヤツを追える。が、それは
森に風が流れ始めた。次の瞬間、空からジェット機体〝ザ・バット〟が飛んできてバットマンの頭上で停止した。
バットマンはそれにグラップル・ガンのアンカーを発射して乗り込み、空を飛んで去った。
ザ・バットの中では、アルフレッドから通信が繋がっている。
『日本のバットマンに挨拶をしなくてもいいのですか?
泡瀬たちを助けたのは、バットマンはバットマンでも、中身はブルース・ウェインだった。嫌な予感が頭をよぎり、飛んできたのだ。場所に関しては、ルーシャスのパソコンから出久のバットコンピュータをハッキングしたのだ。
「別にいいだろう、忙しそうだったからな。それに、いつか訪問しに行く予定だしな」
『分かりました』
通信が終わり、ザ・バットは速度を上げて、去っていった。
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一方その頃。
蒼炎に焼かれた森の開闢行動隊の集合地では、荼毘とトゥワイスが集まっていた。そこへトガが現れる
「あれ? まだ集まってるの、これだけですか?」
「イカレ女。血は取れたのか? 何人分だ?」
荼毘の問いに、トガは「一人分取れました!」と声を弾ませて報告する。それにトゥワイスが反応した。
「一人ぃ!? 最低三人分取ってこいって言われてたよなぁ!?」
「仕方ないのです。殺されるかと思いました」
「っていうか、テンション高いな?! 何かあったのか?」
トゥワイスの質問に、トガは幸せそうに話した。
「お友達ができたました!」
「おお! それって俺?! 嫌だね! 仲良くしよう!」
「うるせえ、少し黙れ。っ!」
荼毘が、トガと支離滅裂なトゥワイスの会話を黙らせようとしたその時、空から轟、障子に踏みつけられながらコンプレスが落下してきた。
「爆豪と常闇を返せ!!」
轟がそう叫ぶ。
「オイオイオイィ~! 知ってるぜ? この餓鬼共! 誰だッ!?」
二重人格だろうか、またも正反対の言葉をいうトゥワイス。
「Mr.避けろ」
「了解っ!」
コンプレスは荼毘の指示通り、姿を消すことで避ける。そこに、荼毘の蒼炎が放たれた。
「グッ! ウグゥウ!?」
「障子!」
炎に焼かれる障子を心配する轟。轟の場合、炎に耐性があるため効果はない。だが、炎に耐性のない障子は違ったのだ。
そんな轟に、トゥワイスが接近しメジャーの武器で斬りにかかってきた。
しかし。
「グべッ!?」
「何とか間に合ったか!?」
そのトゥワイスの横腹を、バットマンがグライドキックした。
「バットマン?!」
「なぜここに!?」
バットマンの登場に驚く轟と障子。だが、バットマンは気にせず周りを見渡した。
「(『爆豪と常闇を返せ』と言ってたな、轟君。ってことは、この中に誘拐できる個性がいる。そして可能性が高いのは…)」
バットマンの脳裏に描かれたのは、先ほどの轟と障子に炎が放たれる場面。あの時、仮面の敵コンプレスは体を圧縮して球体上にすることで炎を逃れていた。そして、今。その球体状態から元の体に戻っている。
己の体にできることを、他人にかけられないというのは考えにくい。そこでバットマンの方針は決まった。コンプレスを攻撃し、二人を奪還する。
そうと決まれば話は早い。バットマンはコンプレスの方へ走り移動する。しかし、そこにチューブのついた針のような物が飛来し、回避する。元を辿れば、トガがナイフ片手に走ってきた。
「私! 貴方の血を見てみたかったんです! 血ぃ流して、バットマン!」
「断る。自分の瘡蓋でも剥がしてろ」
バットマンはトガのナイフを振り回す軌道を読んで回避し、ナイフを持つ腕を掴んで吹っ飛ばす。
「まったく、飛んで追って来るなんて、発想が飛んでる!」
「貴様ほどではないだろう」
「!? 速、グホォ!?」
トガを吹っ飛ばしたバットマンは、スーツの性能に物を言わせて超スピードで接近し、コンプレスの顔面にフックを入れ、体勢を崩させる。
「バットマン! 右ポケットだ!」
障子の言葉を受けて、右ポケットを探るとビー玉が二つあった。爆豪と常闇だろう。
「よし」
バットマンは、それを確認してコンプレスから離れ、障子の元に近寄る。
「これか?」
「ああ。さっき見せびらかしていた、これが爆豪と常闇だ!」
爆豪と常闇を奪還した障子たち。そこへ黒霧が現れ、ゲートを開く。
「合図から五分経ちました。行きますよ」
黒霧は、それぞれトガ、トゥワイス、コンプレスと荼毘の所にワープゲートを開き、その中に入っていくトガとトゥワイス。
「待て、まだ爆豪が」
「いいや、大丈夫さ。マジシャンの悪い癖でね、モノを見せびらかす時は、そりゃ大体───」
そう言ってコンプレスは仮面を外す。その口の中には、ビー玉が二つ入っていた。
「───見られたくないモノがあるからだぜ」
その言葉と同時に、障子が握っていたビー玉が圧縮解放され、中のモノが現れる。それは、轟の氷だった。
「俺の氷!?」
「さっきの大氷壁で、逃げながらダミー作ってたか!」
障子と轟が走り出し、奪い返そうとするが間に合う距離ではない。
「そんじゃ、お後が宜しいよう───」
お後が宜しいようで。そう言おうとしたコンプレスの顔になにかが当たる。その正体は、バットマンのバットラングだ。
「掴め!」
コンプレスの口からビー玉が吐き出される。それを障子と轟が手を伸ばして掴もうとする。
障子は掴んだが、轟は掴めず、荼毘に奪われてしまった。
「クッ!」
「悲しいな、轟焦凍」
荼毘は轟を見下ろしながらそう言った。
「確認だ。“解除”しろ」
「あの野郎! 俺のショーが台無しだ!」
Mr.コンプレックスが指を鳴らすと個性によって囚われていた二人が解放される。
障子が手にしたのは常闇の方であった。そして敵連合の手には爆豪がいた。
「問題無し」
そう呟いて、ワープゲートに消えていく荼毘と爆豪。
それを見てバットマンは走り出し、手を伸ばした。
突然だが、人間とは裏表がはっきりしない生物だ。だからこそ、焦った時などはその人間の本性が出る。
だからだろう。バットマンが言うには、有り得ない言葉が口から飛び出した
「
「!? お前、デク……?」
バットマンが、出久が手を伸ばすもそれは届かず、爆豪は連れ去られてしまった。
この日。出久は、バットマンとして初めての完全敗北をした。
さて、今回の話でどれだけのA組生徒がバットマンの正体に気付くのか!
「かっちゃん!」を聞いていた爆豪、轟、障子、常闇にはバレてそうですが……
AFO戦の後の出久のその後は?
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