少し遅れてすみませんでしたm(__)m
雄英の謝罪会見は始まった。
「この度、我々の不備からヒーロー科1年生に被害が及んでしまった事。ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
相澤が代表して発言する。
「NHAです。雄英高校は今年に入って四回、生徒が敵に接触していますが、今回、生徒に被害が出るまで各ご家庭にどのような説明をされたのか、また具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください」
記者の問いに対して根津が答えた。
「周辺地域の警備強化、校内防犯システムの再検討、〝強い姿勢〟で生徒の安全を保障する……と説明しております」
「生徒の安全……と仰いましたね。イレイザーヘッドさん。事件の最中、生徒に戦闘を促したらしいですねぇ……。その意図について是非、お聞かせ下さい」
先ほどの記者が質問を続けていた。
「私どもが状況を把握しきれなかった為、最悪の事態を避けるべくそう指示いたしました」
「最悪の事態とは? 多数の被害者とは最悪では無いと仰るので?」
粘着するように、質問を続ける記者。
「……私が考えた最悪の事態とは……生徒たちが成す術もなく殺されてしまうことでした……」
「被害の大半を占めたガス攻撃……これについては、判明しており、敵の個性によるもの。催眠ガスの類だったそうです。生徒たちの迅速かつ適切な判断により、全員、命に別状はなく、また生徒達のメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません」
根津が相澤の発言を繋ぐようにそう述べる。その回答が気に入らないのか、記者は少し敵意を混ぜた質問をした。
「……不幸中の幸いだとでも?」
「未来を侵されることが一番の最悪だと考えております」
「……緑谷出久君についても同じことが言えますか?」
緑谷出久の名前が出た途端、場の空気は一気に変わり、ザワザワと話声が広まっていく。
「彼は過去に、冤罪事件により、その未来を潰されました。そして、現在では行方不明となっています。彼に対しても同じことが言えますか?」
「(分かってはいたが攻撃的だ……! ストレスをかけて、粗野な発言を引き出そうとしている……! これはマズいぞ……恐らくイレイザーのメディア嫌いを知っての挑発か……!? ダメだイレイザー! 乗ってはいかん!)」
相澤の言動を気にするブラド。
「……行動については私の不徳の致すところです」
だが、予想はいい意味で裏切られ、相澤は綺麗に頭を下げた。なんとか気持ちを抑えていることを確認し、ブラドが安堵するも……
「私は一つの仮説を立てました。最近、噂になっているヴィジランテのバットマン。彼が活躍し始めたのは緑谷出久が行方不明になった一週間後です。偶然にしては出来過ぎではないですか? 彼の正体は、緑谷出久。そして、もしや彼は、ヴィラン連合側の内通者だったのでは? バットマンは今回の合宿襲撃にも顔を出していますが、その場の敵達に生徒たちの個性を知らせ、有利に進めて行くためでは? 今までの事件や、マスキュラーの件も油断させるための策だと考えると、成立しないわけではありません……これが、私の考えた仮説です」
自信満々に話し終えた記者。その周りは大きくざわめいた。
そこに、
「私に、言いたい事があるようだな?」
そんな言葉が会場に響く。全員がそこを見ると、バットマン本人が立っていた。
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遡る事三十分前。
「出久君、これ見てください!」
バットスーツを装着し、出撃しようとするバットマンは、ルーシャスの方に振り返った。ルーシャスは、タブレットの画面を見せてくる。
そこには、手だらけの男〝死柄木弔〟が記者のような男に金を渡している所が映っていた。
「これは?」
「監視カメラの映像です。この記者が、さきほど雄英の謝罪会見場のに入っていくのが目撃されました」
「……仕事が増えるな。塚内警部にメールで遅れると伝えてくれ」
「分かりました」
ルーシャスは、引き返してバットコンピュータからメールを送信し、その他のパソコン作業を行っている。
バットマンはバットウィングに乗り、謝罪会見の場所に向かった。
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バットマンの登場に周囲がざわめく中、バットマンは記者の元に歩いていく。それを記者の男は、目を見開いて興奮したような顔でバットマンを見た。
「そして今、私の仮説が真実だという証拠に、彼はこうして私の元に歩い、グハッ!」
バットマンは、記者が言い終わる前に首を掴んで持ち上げた。その光景に周囲の記者たちが、「本当に内通者なのか!?」と騒ぎ始める。
だが、バットマンの次の言葉で、その話題は別のモノとなった。
「お前の素性は調べてある。表ではゴシップ記者の
「な、なるほど…ですが、証拠は? 証拠がなければ、貴方は暴行罪の罪に問われ「一時間前の映像だ。お前が、敵連合の死柄木弔から金を貰っているところだろう?」な!?」
証拠を要求した報煉に、バットマンは会見場にあるテレビをジャックして証拠映像を流した。これにより、他の記者たちが怒鳴り始めた。
「ふざけんなよ! クソ野郎!」
「報道を舐めてんのか!? ゴラ゛ァ゛!」
「バットマンの事を敵とか言って、お前が敵じゃねぇか!」
周りの声に怯えだした報煉は、バットマンの体を蹴って手から解放される。バットマンは蹴られたところが痛むのか、動くのが僅かに遅れた。
その隙に逃げようとするが、その先には、他の報道関係の記者やカメラマンが壁のように並んでいた。そのうちの一人の女性記者が、笑っていない笑顔でマイクを向ける。
「今のお気持ちをお聞かせください♪ 真実を皆に届ける仕事をする、我々記者を馬鹿にしたお気持ち、をっ!」
生々しくグシャッという音が響く。この後、報煉がどうなったかは、独房で「報道怖い。女性怖い」とリピートしながらもうない股間を抑えていた事から推して知るべしだ。
報煉がマスメディアに囲まれる一方で、バットマンは蹴られた所に鎮痛剤を注入して我慢する。そこに、相澤たちがやってくる。
「おい、み「この場ではバットマンと」…バットマン。お前病院は?」
「昼に抜け出してきた」
「リカバリーガールが治癒したとはいえ、君は肋骨を二本骨折していたんだから、動かない方がいいのさ」
根津がバットマンに「ゆっくり休むべき」と提案するが、バットマンはそれを頭を振って拒否し、入り口へ向かう。それを呼び止める人がいた。相澤だ。
「バットマン、どこに行く?」
「長い夜になる。今夜は、まだバットマンが必要だ」
バットマンはそう呟いてその場を去っていった。