あの後、出久たちはショッピングモールから近い公園に来ていた。
出久は彼等に背を向けており、それを1年A組の面々が不安そうに見ている。一応、帽子は返してもらったので、それを被っている。
沈黙を破ったのは、切島だった。
「み、緑谷…その」
「さっきの切島君たちの謝罪だけどさ、許すよ」
「なら! 「けど、雄英に戻る気はない」ッ!?」
「それは、何でですの?」
八百万の言葉に、出久は元クラスメイトの方を向いて答えた。
「今の僕はもう、ヒーローじゃないから、かな?」
「ヒーローじゃないって、君はさっき麗日君を助けたじゃないか! 十分ヒーローだ!」
「あれは偶々だ。困ってる人を助けるのは誰だってできるさ」
そう言って、出久はA組に背を向けて歩き出した。
「もう君たちが
出久は別れを告げて歩き出した。A組はそれを止めようとするが、声が出なかった。出久の孤独のような背中に、なんて声を掛ければいいのかわからなかったのだ。
そのうち、出久が見えなくなり、出久が去ったと理解した。
出久も、このあとショッピングモールに買った物を取りに行って、帰宅した。
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一方で、雄英では塚内がオールマイトと話をしていた。
「悪いな、時間取っちゃって。塚内くん」
「別に構わないさ。けど、どうしたんだい?」
オールマイトは一呼吸入れて話を始めた。
「なに、個人的な話さ。最近、君が今までより忙しそうにしているのが見えてな」
「最近じゃあ、敵連合に感化されて暴れ出す敵組織が多いんだ。忙しくもなる」
塚内はオールマイトにそう言うが、これはただの誤魔化しだ。塚内は、バットマン、つまりは、出久の無茶ぶりに答えるのにいろいろと捜査情報を提供している。
勿論、その分塚内が追っている他の敵組織はバットマンが片付けていた。今までにバットマンが検挙した敵組織の数は15件。倒した敵は、チンピラ含め100人は軽く超えるだろう。
もはや、バットマンを知らないのは日本以外の国と全世界の刑務所だけである。
「塚内くん。君はバットマンに協力してるだろ?」
「何を言ってるんだ? オールマイト。アイツはヴィジランテだ。警察は逮捕を方針にしてるよ」
「なら、警察署のあのサーチライトはなんだい?」
「設備の故障だろ? 署に帰ったら、整備係に言っとくよ」
オールマイトが問い詰めるも、塚内はのらりくらりと交わしていく。
このままだと平行線だと思い、オールマイトは本題をだした。
「仮に、君がバットマンと繋がってるとして、彼に会うことはできるかな?」
「なぜ?」
「少し、話をしてみたいんだ]
塚内は溜息を吐いて「時間をくれ」と言って部屋を出た。
「塚内くん……」
オールマイトの声が部屋に寂しく響いた。
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その日の夜。
塚内はバットシンボルを照らし、屋上である人物を待っていた。
すると、何時ものように後ろから足跡が聞こえてきた。塚内が後ろを振り向けば、そこにはバットマンがいた。
「来てくれたか」
「用件は?」
「実は、今日の昼頃にショッピングモールで、雄英生徒の一人が敵連合の死柄木弔と接触したんだ」
「生徒の名前と時間は?」
「生徒の名前は言えないが、時間は言える。午後の二時ちょっと前だ」
「そうか」
バットマンはそう返事するが、内心は荒れ狂っていた。
(僕が、もう少しあそこに残っていれば……!)
バットマンである出久は、あのショッピングモールを一時半頃に去って帰宅していたのだ。
塚内は、怒っているように見えるバットマンが心配になり声を掛ける。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ……次の雄英の行事は何だ?」
「え? ああ…来週から夏休みの様で、特に行事は……あぁ! 一年が夏休み後半の一週間で林間合宿だそうだ」
「その合宿先を調べてくれ。それと、敵の情報は?」
「ああ」
塚内からUSBメモリーを受け取ってベルトのポーチに入れながら、塚内の死角に向かうバットマン。
そこで、塚内は思い出したように声を上げる。
「ああ! そう言えば、君に会いたいって人が……」
しかし、塚内が言い終わる前に、バットマンは消えていた。塚内は「またか」と落胆しながら、屋内の階段を降りていった。
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翌日、出久は塚内から貰ったUSBメモリーから情報を抜き取り、バットコンピュータで整理していた。
現在追っている犯罪者は、敵名は「フレイムスカイ」。本名は、
彼は、この個性を使って夜な夜な火事を起こしていた。今までに彼が起こした火事で、老人一人と子どもが三人死亡している。そのうち、一人は赤子だそうだ。
二年前に犯行が止まったそうだが、最近になって放火を再開したらしい。犯罪レポートの一言コメみたいなところには、「敵連合に感化されて活動を再開した可能性有り」と書かれている。
データでは、この敵はウォーターホースというヒーローを敵対視していたそうだ。放火をするもすぐに消火されてしまうため、フレイムスカイは「俺の個性とアンタの個性。どっちが上回るかな?」と言って、放火しては消火の追いかけっこだったそうだ。
しかし、ウォーターホースが死亡した頃にフレイムスカイは消えたらしい。恐らく、フレイムスカイはウォーターホースを敵対視と同時にライバル視もしていたのだろう。その為、ウォーターホースが亡くなったショックで犯罪を辞めたのだ。
しかし、最近では消防署を狙って放火をしているそうだ。既に三署やられているらしい。
出久は、炎獄寺の犯行時の事を調べ始めた。すると、分かったことがあった。どうやら、フレイムスカイは毎週土曜日に放火しているようだ。さらに、狙った消防署は全て〇▽社製の消防車を使っているようだ。
そして、襲われていない消防署はあと一署で、今日は土曜日である。つまり、今日の夜に犯行が起きるということだ。
それに気づいた出久は、時計を見た。現在時刻は午後5時19分。もうすぐ夜だ。
出久は急いでバットスーツに着替えてバットマンになり一階に向かった。
バットマンはガレージに向かうと、そこにはルーシャスがいた。
「ルーシャスさん、バットモービルの改修は?」
「昨日終わりました。出動ですか?」
「ああ」
「なら、目的地まではオートドライブにして、取扱説明書を読んでください」
「分かった」
バットマンは、そう言ってバットモービルに乗り込み、ガレージを出た。
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バットマンが消防署に着いた時には、時間は午後7時ごろ。
消防署は燃えていた。周りには、消防車や報道メディアに野次馬、ヒーローなどがいる。幸い、消防署から結構離れており、バットモービルが入るスペースは十分ある。
バットモービルは、近くのスロープになっている頑丈な木の板で、そこへジャンプした。当然、バットモービルは注目され、上空を飛ぶヘリがその姿を照らす。
しかし、バットマンはそんなこと気にせず、消防署をスキャンしている。
「消火システムの電源が切れている。オンラインにつなぎ直さなければ。バットモービルの出番だな」
バットマンは、バットモービルをバトルモードにして、剝き出しになっている発電機にパワーウィンチを発射し、回転数を増加させて発電機を起動させた。
それに伴って消火システムも復旧し、消防署はスプリンクラーがの雨に打たれて消火される。ヒーローや野次馬が歓声を上げた。
しかし、安心するのはまだ早かった。消防署の壁をぶち破って敵が出てきたのだ。口にガスマスクをして、両手から炎を出し、背中の翼で飛行している。
「フレイムスカイ……!」
バットマンがその名を呟く。それが聞こえてたのか、フレイムスカイは自身の下にあるバットモービルを見下した。
「貴様が、噂のバットマンか…! お前が、俺の炎は消すことはできない!!」
そう言って、フレイムスカイは逃げていく。それを、バットモービルが追った。勿論、マスメディアのヘリも。
フレイムスカイは、中華街を突っ切って東に向かった。それを、ドリフトや再燃焼装置のブーストで追いかけるバットモービル。
「燃えろ! アツく燃えろ!!」
しぶとく追いかけてくるバットモービルにしびれを切らしたのか、フレイムスカイは掌の炎をバットモービルが通る道に放っていく。
バットモービルは、それを横にズレる〝サイドスワイプ〟で避け、スピードを上げる。
しばらく追いかけっこを続けていると、突然フレイムスカイの飛翔スピードが落ちた。
「クッ! 翼が!」
いくら強い個性でも、疲労には勝てない。飛び続けたフレイムスカイの翼は、限界だったのだ。
フレイムスカイとバットモービルの距離が縮まっていき数メートルになったところで、バットモービルからバットマンが飛び出してフレイムスカイに飛びつき、地面に墜落させる。
そのフレイムスカイの上に片足を乗せて固定し、首を掴んで、顔面にラッシュを繰り出した。
数発のラッシュの後、フレイムスカイが声を出した。
「俺は…終わらない…! 炎は……消えは…しない……!!」
「いいや、消えるさ。私が燃えさせはしない」
バットマンはそう言って、頭突きを打ち込んで気絶させた。
そのフレイムスカイを担ぐと、バットモービルの荷台に積み込み、荷台のドアを閉めた。
「おい待て! ヴィジランテ!」
バットマンがバットモービルに乗ろうとすると、進行方向にヒーローがいた。どうやら、追いついてきたようだ。
「なんだ?」
「そ、その敵をどうするつもりだ!?」
「警察署に連れていく。分かったら、退け」
バットマンの威圧感に怯み、ヒーローは道を譲った。バットマンは、それを見て「ありがとう」と一言言って、バットモービルに乗り込んで、警察署に向かった。
警察署では、案の定マスメディアと野次馬、ヒーローでごった返していた。おそらく、行先を公言していたことから、先回りしたのだろう。
だが、バットマンは気にすることなくバットモービルを路肩に止め、荷台を開けて降りる。
フレイムスカイを肩に担ぎ、警察署の入り口にいる警官に引き渡した。
「すみません! 一言コメントを!」
記者の一人がそう言ったのだろう。しかし、バットマンは一言も喋ることなく、バットモービルに乗ってその場を去った。
この出来事が、日本にバットマンがいることが、世界に、ゴッサムに知れ渡った。