Fate/Virtual_Apocrypha   作:うるち※

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赤のプロローグ ①

 ガラス窓から陽光が照らされる廊下を一人、コツコツと歩く。

 ここは時計塔と呼ばれる魔術協会の総本部ともいうべき場所であり、本来私のような下級魔術師が足を踏んでいいような場所ではない。しかしながら、今回はある方からの招集を受けてきているため、特例で足を踏むことが許可されている。

 一体何の――……と迷走しながら歩き、ようやく目的の場所に到着する。

 

『アインフォート』

 

 扉に取り付けられていた名札には、その文字が刻まれていた。時計塔において隋一ともいうべき風の魔術を行使する魔術師だ。時計塔に所属していない私でも、その名は聞き及んでいる。

 扉を数回ノックすると、静かに『入りなさい』という声が響く。その響きからも気迫というかそういう何かを感じさせる、鳥肌が立ってしまう程だ。

 

「無所属の魔術師、諏訪部千尋です。アインフォート教授の招集を受けて参りました」

「ああ、分かっている。私がその、アインフォート教授だ。立ち話もなんだ、そこのソファに座りなさい」

「……はい」

 

 緊張した足取りで用意されたソファに重い腰を下ろす。先ほども言った通り、目の前にいるのは魔術師ならば誰もが知る有能な魔術師の一人だ、無名である私にとっては天下人にも等しい存在故に、つい畏まってしまう。

 だが今回私が招集された理由、それは要約すれば『力を貸してほしい』といったような内容だ。有能な魔術師である筈の人が、何故私のような力を欲すのだろう。

 

「……失礼ですが、さっそく本題を聞いてもいいですか? 『力を貸してほしい』……とのことでしたが」

「あぁ、そうだ。君は聖杯戦争というものを知っているか? わからないなら、そこから説明するが――」

「昔、お母さんから聞きました。何でも、過去の英雄を召喚し、最後の一騎になるまで争い続ける儀式、だとか」

 

 聖杯戦争、それは魔術師ならば名前とその意味は嫌でも知らされる儀式のお話だ。過去に名を刻んだ英雄を7騎、その座から地上に召喚して最後の一騎になるまで争い続けるというもの。

 その壮大な戦いの末に待っているものは、どんな願いすらもかなえる事が出来る願望器、『聖杯』を手にすることができるという。

 それだけ聞けば、ただの御伽話にすら思えるだろうが、実際に起きた出来事だ。

 

「うむ、その知識で問題ない。では『聖杯大戦』と呼ばれた戦争が一度過去に起こった事は知っているか?」

「聖杯、大戦?」

「ふむ、それは知らぬか。いや、無理もない。君らが知っている聖杯戦争は、7騎のサーヴァントの7人のマスターによって行われるものだ。だが、聖杯大戦ともなると少しルールが変わる」

「ルール?」

 

 曰く、聖杯大戦は7騎のサーヴァントとマスターがチームとなった2つの陣営が、争い抜くというチーム戦のような聖杯戦争とのこと。

 つまり集まるのは、14騎のサーヴァントと14人のマスター。なんともスケールが大きい、絶対地獄絵図と化すに決まっている。

 

「成程。でも、その話を急にどうして……」

「その、聖杯大戦の開催宣言が、ある地であがってしまった」

「は、はい!?」

 

 彼はそういうと、机の上に一枚の紙を広げる。そこには、ある一国を統治する『カラカバー』という風や水属性の魔術を行使する者の中でも『電気』に関する魔術を専門に扱う者で構成された魔術一族が、()()()聖杯大戦を勃発させるという内容の手紙だった。

 内容を要約すれば、『カラカバー』と同じ系統の魔術を集わせ、別の世界に生きる電気生命体(バーチャル)という存在をサーヴァントとして召喚し争わせようというものらしい。曰く、そのサーヴァントを召喚できるのは、そういう魔術師だけとのこと。

 

 ――まず、何の目的でこんなことを。

 ――あと一つ、嫌な予感がする。

 

「……あの、この『電気』を専門に扱う魔術師って……」

「無論、君も含まれている。下級の魔術師でも、その性能は極めて希少だ」

「つ、つまり」

「君に、この聖杯大戦に参加し、彼の一族が所有する聖杯を奪取してきてもらいたい」

「軽くいいますねっ!?」

 

 嫌な予感は的中した。つまり彼は私に、その地獄絵図と形容できるような死地に赴けという事らしい。

 死ぬか生きるかってレベルの話じゃないぞ? 聖杯戦争に参加するという事は、殆ど死ぬことは確定みたいな話しか聞かないんですけど。

 

「そ、そんな。私、それぐらいしか取り柄のない下級魔術師ですよ!? 聖杯大戦なんて、そんな……」

「安心したまえ、君の力量は手に取るようにわかるさ」

「サラッとディスりましたよね?」

 

 彼はふふっと微笑すると、引き出しから小箱をコトッと置く。

 

「これは……?」

「私が君に用意した電体触媒だ、本来は高くつくというレベルの品ではないが、事態が事態だから無償提供だ。完璧な英雄のものだ」

「完璧な、英雄」

「必ずや、君を守ってくれる存在となるだろう」

 

 改めてその置かれた触媒とやらに目を通す。一見何の変哲もないメモリのようだが……これが本当にサーヴァントを召喚する触媒となり得るのだろうか。

 ――サーヴァント。母からその話を聞いたとき、ちょっと憧れていた時期はあった。いつか私も、サーヴァントに出会えるような、そんな魔術師になりたいとさえ思った事が。

 いざそういう状況に直面すると、なんとも言えない感情になる。

 

「さて、どうだ? 君が受けずとも、別の魔術師を探すだけだが。もっとも、君や『カラカバー』の一族の魔術師のような存在を見つけるのは、中々骨が折れる話なのだが」

「でも、聖杯大戦は7vs7ですよね? 私が含んでも、残りの6名は?」

「もうすでに手配済みだ。よりどりみどりの凄腕ばかりだ。君とは天と地ほどの差だね」

「一々ディスらないでください、頼む態度ですか……」

 

 思わず毒ついてしまった。昔から思った事はつい口にしてしまうタイプだ。あぁ、怒られる。

 

「……ははは、その口が叩ける根気があるなら、何も問題ないだろう」

「小さな根拠じゃないですか……うぅ……」

「もし聖杯が手に入った際には、その力の行使の権限を、君にも授けようと思うのだが」

「っ!」

「叶えたい願い、一つある事は知っている」

「……」

 

 私の事情は調査済みか。やはりそこは時計塔、抜かりはないということか。

 そう、私にはもうすでに叶える事の出来ない願いがある。そう、自身の宿るこの魔術回路……既に継承の法を失っている。というのも私の力量が弱い故に、魔術基盤を維持する事が出来ないでいるのだ。

 私の魔術は『電気』を専門に扱う魔術師の中でも一等品と言われた。『電気』を扱うだけでなく、『電気』の流れを"把握"し、"視る"事が出来る。魔術回路を自身の眼球に伸ばすことで、その力を発揮できるというもの。

 魔眼の一種と言えば聞こえがいいだろう。そういうもので殆ど間違いはない。

 

 そしてこの力は、母が残してくれた大切なものでもある。それを途絶えてしまうとなれば、死後に母へ顔向けができない。

 私はこれまで、様々な方法を模索してきたが、遂にその手段の案が無くなってしまったのだ。――辛い現実だ。

 

「どうかね?」

「……」

 

 私は拳を握り、ゆっくりと顔を上げる。

 

「二つ、条件があります」

「何だね?」

「一つ、先ほどの聖杯の使用権を取引の確約。そしてもう一つは……」

「もう一つは?」

「……いえ、言わないでおきます。言って負けたら、恥ずかしいですから」

「ということは」

 

 

「その話、引き受けさせていただきます」

 

 

 

 

 現地に到着する、今になって承諾してしまったことを後悔してしまう。

 

「はぁ」

 

 私が今降り立っている国は例の一族によって高度な結界が張られているらしい。それはこの地にやってきてからすぐに分かった。

 私は微小な粒子単位の電流でも可視化できる。国の周囲には常に微量な電流が流れており、この国一面が高度な機械回路のような状態になっていた。

 いわば、この国事態が一つの大きな機械。一番電界に近くなっている状態だろう。

 

「もうここまで来たら、断れないよね」

 

 この国に降り立った時点で、もう私は参加者なんだ。どうも彼の教授曰く国の民は少数逃げ出しており、好き放題暴れても問題ない状態とのこと。

 もっとも、自分たちが統治する国なんだから、その国民がどうなろうが何のダメージも受けないといった感覚なんだろう。腹立たしい。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。手向ける色は赤」

 

 召喚の詠唱を紡ぐ。目の前の魔法陣が淡く輝き出し、中心のメモリが軽く浮遊する。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ!」

 

 魔法陣を使った詠唱は初めてだが、どうやら上手く起動できているようだ。

 魔法陣の輝きと共に、私の魔術回路から放たれる荷電粒子が竜巻のように吹き荒れ、大きな雷と化す。

 こんな光景、初めてだ。がらにもなく興奮してしまう。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」

 

 果たして私は、この聖杯大戦で何を知り、何を掴むというのだろうか。

 それは、この先を見てみないと分からない。これから出会えるであろう、私のサーヴァントと共に。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」

 

 銀色に輝く私の長髪がたなびく。いよいよだ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 詠唱が完全に終わる。刹那、大きな爆雷がはじけ、激しい砂煙を巻き起こす。それはまるでこの世ならざるヤバイ何かが降臨したかのような光景だ。

 これから現れる者が何か知っていなければ、おしっこを漏らしてしまっていたかもしれない。

 

「……ッ」

 

 砂煙が落ち着きを取り戻し、段々と視界が晴れていく。

 それらが完全に消沈し、完全に取り払われる。

 

 ――そしてその先には、一人の男が立っていた。

 

「ぁ……」

 

「サーヴァント・セイバー。貴方の召喚に応じ、この地に降り立ちました」

 

 金髪をこしらえ、重々しい鎧に剣を背中に担いだ青年。

 その風貌は正に一等級の剣士。英雄と形容しても問題ない風貌だった。

 

「真名はエクス・アルビオ、よろしく。――おっと、念のため聞いておきましょうか」

 

 

「貴方が、僕のマスターですか?」

「……は、はい?」

 

 これが、これから私の運命を共にする、サーヴァント(セイバー)との出会いだった。

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