ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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風が吹くまで 10 有馬記念

 

 

──話しは一週間前の有馬記念に遡る。

 

 

 

「さぁ、今年もやって参りました締めの大一番。年末の中山で行なわれる夢のグランプリ、有馬記念! 貴方の夢、私の夢は叶うのか!!」

 

暮れの中山レース場といえば‘有馬記念’だ。ターフは芝、距離は2500Mの長距離。当初「中山グランプリ」と呼ばれていたそれの歴史は長く、一つ一つ解説するにはあまりにも時間が掛るため、ここでは省略する。大事なのはこのレースがファンからの投票によって出走権利が与えられる‘グランプリレース’であることだ。極端な話をするが、年間無敗の100勝ウマ娘がいたとしても、ファン達から票を選ばれなければURAからの推薦枠でしか出走出来ない。

 

ファン達に夢を見せた者。このレースに参加して欲しい、また夢を見させて欲しいという願い。有馬記念は、そんなファン達の想いに応えるためのレースだ。

 

 

「ところでお前、誰に投票した?」

 

観客席の最前列で、みなみと呼ばれている眼鏡を掛けた小太りの男が、隣に立っているますおと呼ばれているパーカーを着た男に問いかける。「そりゃマックイーンだろ」と即答された。

 

あの名門、麗しきメジロ家の令嬢であるメジロマックイーンが現役最強のウマ娘である事を疑う者は誰もいない。斜行事件があった秋の天皇賞は失格になってしまったとはいえ、プレクラスワンに六バ身もの大差を付けてゴールしていたし、ジャパンカップも不得意な展開──最後の直線コースでの末脚勝負になってしまったとはいえ、四着に食い込んでいる。ファン投票だけではなく、実際の勝ちウマ娘投票でもどうどうの一位だ。

 

 

「ま、かくいう俺もそうなんだけどさ」

 

「みんな見たいんだよ。マックイーンの復活劇を」

 

あまりにも強すぎるが為に世間から「退屈」とまで言わしめる彼女が、このグランプリレースで復活するところが見たい。ウィニングライブでセンターに立って欲しい。これはマックイーンに投票した人ならば誰もが持つ願望だった。

 

 

「だけど他の娘達も粒ぞろいだ。レースに絶対は無い。正直な話し、俺は彼女が勝つって自信を持って言いきれないよ」

 

不知火賞から京都新聞杯まで四連勝。前走の鳴尾記念でも見事に勝利を収めたナイスネイチャに、天皇賞ウマ娘のプレクラスワン。宝塚記念でマックイーンに勝利しているメジロライアンに、マイルチャンピオンシップ勝者のダイタクヘリオスと、少しの油断も許されないような面子ばかりだ。

 

 

「だなぁ。……他にも面白そうな娘が何人か出てたけど、その娘達にも頑張って欲しいよな」

 

「ああ。例え誰が勝とうと感動できる、悔いのないレースがみたいもんだな」

 

 

 

 

 

「……で、お前の言う所の先輩……ダイユウサクの調子はどうだ?」

 

──今回はチームから出走者はいない為、関係者席ではなく普通に観客席──で、柴中はゼファーに聞いた。彼女は自信満々に「勝つのは先輩です!」と宣言する。

 

 

「先々週行なわれたOP戦も調子が良かったですし、今朝も──『聞いて聞いて! 私、今日のレースで勝つ夢見ちゃってさ!! しかも枠順も面子も実際のそれと寸分の狂い無し!! 身体も心も絶好調! 期待して見ててよね!!』──との事でした」

 

ハキハキと自信を持って答えるゼファー。彼女は自分の先輩が──ダイユウサクが勝利する事を微塵も疑っていない。例え現役最強ウマ娘が相手だろうと勝つのは先輩だと、彼女にしては珍しい事に鼻息を荒くしている。

 

 

「今更ですけど、トレーナーさんには感謝しています。私達のチームの誰かがが出るレースじゃないのに中山まで連れて来て頂いちゃって……」

 

「気にすんな。短距離特化のチームだからって短距離とマイルのレースばかり研究するわけじゃないし、俺もお前の「先輩」ってのが気になったからな」

 

本来、短距離からマイル専門のチームであるステラが長距離レースである有馬記念をワザワザ現地に見に来る必要性は少ない。今日だって本当はゼファー一人で中山レース場まで足を運ぶつもりだったのだ。その事を柴中に話した所『俺も一緒に行って良いか?』と誘われたと言う訳である。

 

 

「あはは……。でも、本当に期待して良いと思いますよ。今のダイ先輩はなんかこう……究極に仕上がっていますから」

 

前走のOP戦を解消し、有馬記念に出走が決定してから何回も何回も併走に付き合ったゼファーには分る。今の大先輩──ダイユウサクは本当に強い。正確にいうと、強いとか弱いとかいう言葉がちゃちなそれに見えるぐらい仕上がっている。「へぇ……」と柴中は感心したように頷いた。

 

 

「お前がそこまで言うなら、俺も期待してようかな」

 

「はい! ……っと、ちょっと失礼しますね」

 

ゼファーがスマホを見ると、見た事の無い番号から電話が掛ってきていた。一瞬躊躇うも、素直に電話に出る。

 

 

「はい、ヤマニンゼファーですけど……え、ダイ先輩!?」

 

『あ、あはははは……ゼファー、ちょっと面倒掛けるんだけどさ……。お願いしたい事があるんだよね……』

 

数秒後、事情を把握したヤマニンゼファーの「えええええええええええええ!!?」という絶叫が周囲に響き渡った。

 

 

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