「──とまぁそんな訳で俺からは以上だ! 何かあるか、マックイーン」
「そうですわね……。強いて言うのであれば、対抗ウマ娘について、もう一度聞かせてくださいませんか?」
中山レース場は、チームスピカに用意された控え室で沖野とマックイーンは作戦会議をしていた。無論、今日のメインレースである有馬記念で勝利するためだ。仕上げは上々。タイムも調子も文句無しの今のマックイーンに敵う相手など早々いないだろうが、それでもレースに絶対は無い。この前のジャパンカップだってそうだった。
「ん、そうだな……。仮に今のお前に食らいつける相手がいるとすれば‘ナイスネイチャ’と‘プレクラスワン’だろう」
やはりその二人になるかと、マックイーンは頷く。‘ナイスネイチャ’は公言こそしていないものの、あのトウカイテイオーが認める数少ないライバルだし、プレクラスワンは先の天皇賞での屈辱の勝利を払拭するべく、猛特訓をしてきているという噂だ。
「あとはそうだな……ダイタクヘリオスのバカ逃げペースには素直に乗らないようにしろってぐらいか」
「マイルチャンピオンシップでの事ですわね。ええ、承知しておりますとも」
マイルチャンピオンシップを制覇して、マイル女王の座を手に入れたダイタクヘリオスも決して侮れない。スタミナの削り合いなら負けるつもりはないが、超ハイペースな展開になった場合、それにむざむざと乗ってしまった場合、ヘリオスと共に自爆しかねない。
「……やっぱいつもより緊張してるか? マックイーン」
「!? そ、そんなことは……」
冷静ながらもどこかぎこちなさを見せるメジロマックイーンに、普段のそれとは一線を越す真剣な表情と言動で話し掛ける沖野。やはり、数ヶ月前の天皇賞・秋で起こった降着事件の事が響いているのだろう。
「……何度も言ってるだろ? 碌な説明もしないであの指示をお前に出したのは俺だ。お前が、お前だけが原因じゃあない」
‘荒れているであろう外はなるべく通るな’‘お前お得意の先行策でインに入って、好位置をキープし続けろ’沖野がマックイーンに出した指示はこの程度の物だったが、それでああいう動きになってしまうのは仕方がない。一時は「悪いのは全部俺だ」と退職届を理事長に提出しようか本気で悩んで、東条ハナや柴中に滅茶苦茶キレられた位だ。
『自分のウマ娘の不祥事を一緒に背負わないで何がトレーナーだ』という二人の声でようやっと目を覚ました沖野の努力と誠意がマックイーンや天皇賞・秋出走していたウマ娘達。マスコミ各社に伝わった事でなんとか事件のほとぼりを冷ますことが出来たが、レースで出来てしまった傷は、レースでしか癒やせないのもまた事実だ。
「あの時も言っただろ? 大丈夫だ。お前が背負ってるもんを、俺も全部背負う。良い事も悪い事も全部だ」
「トレーナーさん……」
「お前らしいレースを、お前の走りを見せてくれ、マックイーン」
思わず涙ぐんでしまいそうになるのをグッと堪えて、メジロマックイーンは頷く。そうだ。今の私には、憂いなど微塵も無い。
──すみませーん!
メジロの一員として、チームスピカの一員として、今度こそ、誇り在るレースをするのみだ。そして、それが出来た時には……
ちょっと通してくださーい!!
……? なんだか妙に通路の方が騒がしいと、メジロマックイーンは訝しむ。一体何事かとドアを開けて外の様子を伺えば、学園内で見た事があるような気がするウマ娘二人が通路で騒いでいた。
「先輩! 急いで急いで!!」
「分ってる、分ってるってば!」
何やら随分と焦っているらしい二人は、通路を一気に駆け抜けて検量室へと入っていった。
「……なんなんですの? 一体……」
「いやぁ……ホント助かったよ、ありがとねゼファー」
「いえ、これぐらいどうってことないですよ。間に合って良かったです」
検量を終え、出走登録受け付けを無事に済ませてようやっと落ち着いたのか「たはは……」と頭を掻くダイユウサク。よもやよもやだが彼女は大一番の今日、中山レース場に遅刻するところだったのだ。迷子の子供を親元へ送り届けていたら、自分が迷子になってしまったということらしい。
晴れのGⅠレースが遅刻で失格になりかけるウマ娘など前代未聞だ。間に合って本当に良かったと、ゼファーもため息を吐く。
「スマホの充電が切れてて検索機能は全滅。こういう時に頼りになるのがトレーナーなんだろうけど私はほら、フリーだから」
「先輩……」
フリーと言えば聞こえは良いが、様はトレーナー不在な上、チームにも入っていないウマ娘のことだ。悪く言ってしまえば‘トレーナーに見捨てられた’のとほぼ変わりない。フリーのウマ娘は本当に大変だ。普通はトレーナーがするべき出走登録やトレーニングプランを一人で考えて実行しなければならないし、その他雑用も自分一人でやらなければならない。学園側も「教官」の数を増やすなどしてフリーのウマ娘達のサポートに当たっているが、現状ではとても「何とかなっている」とは言えない。
「アンタが応援に来てくれててホント助かったよ、ゼファー。休養寮の娘達でもよかったんだけど、あの娘達の前では‘憧れの大先輩’でいたいからさ」
もう何度目になるかも分らないお礼を言う。彼女が「必ず応援に行きます!」と前もって連絡してくれていなければ、誰に頼れば良いのか途方に暮れてしまっていただろう。最悪の場合、遅刻で失格──なんて笑い話にもならない事態になってしまっていたかもしれない。
「そんな、お礼なんて良いですよ。私も先輩のレースが見たかったんですから」
素直に感想を告げる。そう、今日この日まで何度も何度も併走に付き合ったゼファーにはよく分る。今のダイユウサクは強いとか弱いとか、そういう次元で計り知れない高みにいる。レースに出るウマ娘が一生に一度、到れるか到れないかの究極の境地と呼んで差し支えないそれだ。
「そっか」とダイユウサクは小さく呟いて
「そんじゃ、観客席で見てなよ、私の走り。憧れの‘大先輩’の晴れ舞台、その目に焼き付けさせてあげる!」
「はい!!」
大先輩らしい、威風堂々とした姿勢と態度で、ビシッ! と宣言した。
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