ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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風が吹くまで 12 有馬記念

 

 

「この際だからハッキリ言っておくが、君にレースの才能は無い」

 

小さい頃に通っていたスクールの先生から何度も何度も言われた事を思い出す。あれは確か、五歳の時だった。

 

 

「タイムは平凡以下、フォームもぎこちない、オマケに驚くほどの虚弱体質。申し訳無いが、私に何とか出来る範疇を超えているよ」

 

そう、何度も言われたとも。元々の超虚弱体質に加え、私にはそれを補える程の力も才能も無かった。

 

 

「才能は努力で補える……とは言うが、君はその中でも特別だ。だから──」

 

‘諦めて別の道を探した方が良い’そんなの、最初っから分ってた。他の誰でもない私自身が、よーく分っているとも。──だから

 

 

「絶対に嫌です」

 

だから、諦めない。諦められない。子供の頃にレースで見た、神々しいまでの輝きを放つ伝説のウマ娘。史上二人目の三冠馬にして五冠馬。彼女の走りが、瞳の裏に焼き付いて離れなかったから。

 

 

「私は、いつか必ず──!」

 

何時か必ず、GⅠを勝利する様なウマ娘になる。彼女が見せたあの輝きに、ホンの少しでも近づきたい。そんな思いの丈が通じたのか、中央トレセン学園のスカウトマンに目を付けられた私は、休養寮に入寮する事を許可されたのだ。

 

最初はそりゃあもう大変だった。まず私の体質は先天的かつ特殊なもので、良くはなっても完治は見込めないと一番最初に宣告された。トレーニングはレース教室のそれと比較にならないぐらい厳しかったし、模擬レースではいつも大惨敗。体調が悪すぎてベッドから動けないなんて日も珍しくなかった。──それでも諦められなかった。

 

毎日毎日必至にトレーニングを積み重ね、体調が悪い日はベッドで座学をし、出れる模擬レースや合同トレーニングには必ず出席した。その成果か、少しずつ、ホンの少しずつだが体質は確実に良くなっていった。トレーニングをする事が出来る時間も増えてきて、心身共に余裕が出て来た。模擬レースで初めて勝てた日の感動と興奮は、今でも忘れられない。

 

そうこうして休養寮での日々を過ごしているうちに、気がつけば私は入居者の中で一番先輩になっていた。自分より入居時間が長い娘は全員卒業と言う名の退去をしてしまっていたから。‘ダイユウサクって名前の先輩だからダイ先輩’と初等部の娘達から親しみを込めて呼ばれ始めたのはそれからになる。

 

そして──

 

 

「あの、ダイユウサク先輩ですよね?」

 

彼女──ヤマニンゼファーと初めて会ったのは、ダイ先輩と呼ばれるようになってからおよそ一年が経った頃だった。

 

 

 

 

 

芝右2500m / 天候 : 晴 / 芝 : 良 /開催日:十二月二十二日

 

 

 

 

 

『さぁ、今年のトゥインクルシリーズの総決算! 第○○回有馬記念!!

 

『十二万のファンが見守る中、ファンファーレが流れまして、まずメジロマックイーンがゲートに誘導されました』

 

『細江さん今回のレースですが、やはりツインターボが逃げを打つというのは間違いないでしょうね』

 

『ええ、まず間違いないと思いますよ。それから少し離れてダイタクヘリオスといった感じではないでしょうか』

 

『そうですか。さぁ、メジロマックイーンが最内枠1番ですが、どの辺りで外に持ち出すのか、注目して頂ければと思います』

 

やっぱりというか何というか、マックイーンに対するコメントが多いなとそのウマ娘──ナイスネイチャは思った。まぁそれも仕方が無いだろう秋天の降着事件、ジャパンカップでの四位入着を含めてもやはり『国内現役最強ウマ娘はメジロマックイーン』という認識はブレない。

その圧倒的な安定感から繰り出される走りは正に圧巻で、一度でもその魅力に捕われれば抜け出すのは容易ではない。そんな観るものを惹き付けるある種のカリスマ性が、マックイーンには備わっている。

 

 

(でも、私達だって──!)

 

拳をギュッと握りしめ、決意をより一層固める。前哨戦の鳴尾記念では見事に1着となったし、身体の調子もすこぶる良い。カリスマ性なんて物が無くともレースには勝てるって所を、世間に見せてやらなくてはならない。

 

──そして、もしもこのレースで勝てたなら──

 

 

「ブルルルルルルルるン! ターボは今日も絶好調だー!! 完・全・燃・焼するぞー!!」

 

「…………」

 

自分のすぐ横で両手をグルグルと回して無駄な体力を消費しているそのウマ娘がどうしても気になり、ナイスネイチャはここで一旦思考を途切れさせる。

 

 

「あの、ターボさんターボさん。レース前なんだからもうちょっとお静かにですね……」

 

「静かになんかしてられないぞ! 今日は、今日こそはターボが勝つんだもん!! 絶対に勝つもん!!」

 

ウガーッ! と両手を高々と天へ振り上げて絶叫する。この娘──ツインターボのレース前はいつもこうだ。気合が入るのか何なのか、やたらとギャギャー騒ぎ立てる。彼女にとって今回が初となるGⅠレース……な筈なのだが、まるで緊張している様子がない。それもまた一つの強みかな、とナイスネイチャは内心で独り言ちた。

 

 

(実際、あの逃げでペースを崩されると危ないんだよね)

 

こう見えて(失礼)だが、ツインターボは重賞ウマ娘だ。前走前々走となるGⅡ、GⅢのレースで2着に入っている所からしても、その実力は本物と言って差し支えない。今日は11番人気だが決して軽視できるウマ娘ではないことを、同じチームであるナイスネイチャはよく知っている。

 

 

「まぁでもやっぱり……」

 

主役と呼べるウマ娘が放つ‘キラキラ’の前では霞んでしまうと、ナイスネイチャはメジロマックイーンを一瞥して思った。

 

 

「…………」

 

 

凄まじい集中力だ。彼女の持つ決意が、覇気か何かになって見えそうなぐらいのそれ。

 

 

(……反則でしょあれは)

 

同期の‘天才’トウカイテイオーだけではない。シニア級にはテイオーに匹敵するどころか凌駕するかもしれないウマ娘がいて、自分達はこの先、ずっとそんな怪物と戦わなくてはならないのだ。

 

 

「だけど」

 

──それでも私は勝ちたい。否、勝つ。例え現役最強のウマ娘が相手だろうと、勝ちたいって気持ちでは絶対に負けていないから。

 

決意を口には出さず、ナイスネイチャは少しでも集中力を高めるためにマックイーンを見習って瞑想を開始──。

 

 

「うわーおっ! 良いね良いねターボ、ノリにノッてんじゃん! ホンじゃ私も便乗してアゲてくぜウェーイ!!!」

 

「…………はぁ」

 

──することは出来なかった。ターボに感化されたのか、笑いながら走るウマ娘として有名なダイタクヘリオスまで騒ぎ始めたからだ。結局、自分はこういう役回りがお似合いなのかなと、ナイスネイチャは二人に対してお説教を開始する。

 

 

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