ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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風が吹くまで 14 有馬記念

 

 

『さぁ、いよいよ第3コーナーに掛ります。ペースは依然として速いペースになっている。さぁ、ツインターボが僅かに先頭ツインターボが僅かに先頭! プレクラスワンがスッと交わして先頭に立った!! 天皇賞ウマ娘・プレクラスワン! 更にダイタクヘリオス!!』

 

「ハァッ……ハアッ……!!」

 

(勝つ……勝つんだ、マックイーンに!)

 

ツインターボを壊滅させて先頭に躍り出たのは今年の天皇賞・秋の覇者、プレクラスワンだが、その胸の内は使命と決意に燃えていた。なにがなんでも勝って、なんとしても返上しなければならない。六バ身ちぎられた天皇賞ウマ娘という汚名を。今度こそ、真のGⅠウマ娘になるために──! 

 

 

「────────」

 

「「「ッツ──!!?」」」

 

その瞬間、ドクン、とターフの上で空気が変わった。何事かと言われれば単純なのだが──マックイーンが溜めていた脚を徐々に解放し始めたのだ。

 

 

「ハァアアアアアアアアア!!!」

 

「クッ……ソぉ……!!」

 

今この瞬間はまだ自分が先頭だが、嫌でも分る、分ってしまう。きっとゴールする時には彼女は私の前にいる。圧倒的なスタミナと落ち着いた集中力で、他のウマ娘をジワジワとすり潰す(・・・・)。メジロマックイーンが最も得意とするレース展開だった。

 

 


 

 

「突然すみません。どうしても先輩に聞きたい事があるんです」

 

ヤマニンゼファーは遠慮こそするが、聞きたい事を躊躇うようなウマ娘ではない。「なに?」と話の続きを促したダイユウサクに、彼女は遠慮無く聞いてきた。

 

 

「先輩はどうして休養寮にいるんですか?」

 

「どうしてって……」

 

決まっている。自分でも信じられない程の虚弱体質で、トレセン学園の入学試験に合格できなかったからだ。もっつと正確に言えば休養寮専門のスカウトマンからスカウトを受けたから──だが。

 

 

「はい、それは分っているんです。でも、もうかなり前に遠藤院長先生から退寮の許可を頂いてますよね? なんで本校の方に行かないんです?」

 

「……誰から聞いた?」

 

ホンのわず穴苛立ちと怒気を含めた声で聞く。苛立ちと怒気の原因は自分にあると分ってはいるのだが、どうしてもこういう言い方になってしまう。「心の根深いところにズケズケと入り込みやがって」という意味も含めていた。

 

 

「すみませんがお話しできません。そういう約束なので」

 

「……別に、本校でズタズタに負けるのが怖いとか、そういうんじゃないんだよ。ただそう……休養寮(ここ)が心地良いからさ」

 

医者やその筋の専門家にすら匙を投げられた特殊体質を持ってしまったウマ娘達が集う場所──休養寮。ここの空気が酷く心地良「嘘ですよね?」

 

 

「……」

 

「それは貴方の本心じゃない。だって、ここの空気悪いんですもん。今すぐ換気をしたいぐらいに」」

 

似たような痛み。似たような苦悩を抱え込んだウマ娘達が集う場所。同じような傷を持っていればこそ、過度な馴れ合いは必ず起こる。

 

 

「言うじゃない」

 

一歩前に踏み出して、ヤマニンゼファーの方に詰め寄る。

 

 

「あんたにもスグに分るよ。そんで、スグにここから出て行きたくなるか、休養寮(ここ)の空気が心地良いと感じるようになる。ここはそういう場所さ」

 

「このまま何もしなければそうでしょうね」

 

動揺一つせずに返された。まるでそういう言葉が返ってくる事を予想していたかのように。

 

 

「何もしなければ……? アンタ、一体何をするつもり?」

 

「休養寮全体を換気……いえ、革命を起こします」

 

革命、革命と来たか。ゼファーが休養寮のウマ娘達を焚きつけて「何か」をするつもりなのは目に見えていた。

 

 

「そして、それには先輩のご助力が必須なんです。その気になればすぐに本校に転入出来て、レースで結果を残せる先輩の力が」

 

「…………」

 

「どうかお願いします。この休養寮を本当の意味で良い場所にするために、協力してください」

 

それが、ダイユウサクとヤマニンゼファーの出会い。休養寮を本当の意味で良い場所にするために手を組んだ、二人きりの会合だった。

 

 


 

 

『残り400Mを切った! さぁプレクラスワンが先頭だ! プレクラスワン先頭! ダイタクが二番手、ダイタク二番手! マックイーンが現在四番手、四番手にまでマックイーン来ている四番手にまで来ている!! それに追従する形でダイユウサクもいる!』

 

「さて、それではそろそろ先頭を譲って頂きましょうか」

 

「……クッソォオオオオオ!!」

 

『残り200を切った! プレクラスワン先頭! ここでマックイーンが来た! マックイーンが来た!! ヤマニンワールドも来ている! さぁマックイーン出てくるか! マックイーン三番手!』

 

マックイーンをマークしていた数名──ナイスネイチャとプレクラスワン以外がスタミナを削られて沈んでいくのに反比例して、メジロマックイーンはその隙間を縫うように前方へと踊りでる。徹底したマークを複数名にやられても芯はブレない。そして動じない。これが現役最強のウマ娘。

 

 

──だが

 

 

「だらぁあああああああああ!!!」

 

『お、おおっとここでダイユウサク、黄色いスカートのダイユウサクが伸びてきた!』

 

「──ダイ先輩!!」

 

「!? 貴方、いつの間に……!!」

 

──内を通って来たダイユウサクが、それに待ったを掛ける。15人中14番人気という影の薄さと警戒されなさを活かしての奇襲。実はここまで、ダイユウサクは理想とも言えるコース取りをすることに成功していたのだ。

──ピシリ、と何かに空間に亀裂が入るような音を、メジロマックイーンは確かに聞いた。

 

 

(医者が匙を投げるほどの特異体質だとか)

 

(トレーナーが付いていないとか)

 

(休養寮出身のウマ娘だとか)

 

(相手が現役最強のウマ娘だとか──!)

 

 

「そんな、理由でっっ、終われるかぁぁあああああああああああああ!!!!!」

 

「こ、れは……!!」

 

地面を思いっきり蹴り上げて前へと進む。全身全霊を込めた渾身の走りが、見るもの全てを驚愕させる。大小様々ばレースを見てきたGⅠトレーナーの柴中すら例外ではない。

 

──その時、理由は彼女に敗北した。

 

 

究極の一(アルティメット・ワン)……!」

 

『マックイーンの内から、ダイユウサクだ! ダイユウサクだ! これはびっくりダイユウサク!!!』

 

『信じられない奇跡が起きました! トレーナーもいないフリーのウマ娘が、この夢のグランプリ有馬記念の覇者となったのです!!』

 

中山レース場がシン──と静まり返る。ざわめきすらなかった。ブービー人気のウマ娘が魅せた渾身の走りに、コースレコードを更新する信じられない大記録に、休養寮のウマ娘がGⅠレースの勝者になったという事実に誰もが驚愕し、口をポカンと開けることしか出来なかったのである。

 

 

「嘘……」

 

「なぁ、これ夢じゃないよな?」

 

「頬を抓ってみる? ただ痛いだけだと思うけど」

 

「ええ。夢なんかじゃありませんよ。夢が叶った瞬間ではありますけど……ダイ先ぱーい!!」

 

誰もが驚愕して開口する中、ヤマニンゼファーだけが勝者であるダイユウサクに声援を送る。

 

 

「おめでとうございます! 本当に素晴らしいレースでした!!」

 

「……へへっ! どんなもんよ!!」

 

勝者はふてぶてしく、そして最高の笑顔で笑う。ウマ娘レース界に、紛れもない革命が起こった瞬間だった。

 

 


 

 

(まさか、本当にあの領域に辿り着いているとはな)

 

柴中は興奮冷めやらぬといった状況で、頭を回転させる。凄まじいトレーニングの元に彼女──ダイユウサクが辿り着いた領域。それは──

 

 

「ところでトレーナーさん、究極の一(アルティメット・ワン)ってなんですか?」

 

ずいいっと興味津々といった様子でゼファーが聞いてくる。別に誤魔化したりする必要も無い為、柴中は素直に答える事にした。

 

 

「領域──ゾーンの話しは知ってるか?」

 

「一応は。限られたウマ娘だけが到れる境地……超集中状態の事ですよね?」

 

「それと対を成すもう一つの領域──それがアルティメット・ワンだ」

 

ゾーンがウマ娘の精神による極地なら、究極の一は肉体的な極地。ウマ娘が厳しいトレーニングによって一生に一度、到れるかどうかと言われる‘究極の仕上がり’それこそがアルティメット・ワン。

 

 

「……肉体的な極地」

 

「ただ厳しいトレーニングをすりゃあたどり着けるってもんじゃない。精神的にも肉体的にもそいつにあったトレーニングを積み重ねて、心身共に最高の状態に仕上げなくちゃあならない。なにより、考えられるだけのことをやっても運が悪けりゃ効果を発揮できない。事実、今のレースでも効果が発揮されてたのは最後の直線に入ってからだっただろうしな」

 

「──でも、先輩はその極地に辿り着いた」

 

「そういう事だ。……ハッキリ言って驚いたよ。トレーナーも無しによく辿り着けたもんだ。化け物染みたコースレコードのおまけ付きだしな。十年ぐらいは破られないんじゃないか?」

 

「ははっ」と柴中は楽しそうに笑う。だがそれも無理ないだろう。ウマ娘レース界に蔓延る風潮の一つが木っ端微塵に砕け散る所を生で見られたのだから。

「なるほど……」とゼファーは興味深そうに頷いた。もしも自分があの領域にたどり着けたら……勝てるだろうか、GⅠレースに。叶うだろうか、昔からずっと焦がれていた夢が。

 

 

そんなことを思いながら、ゼファーは再び勝者であるダイユウサクに向けて称賛と賛美の声を送り始める。

 

 


 

 

──トレセン学園──カフェテラスエリア──

 

 

「……あの日以来ゼファーがさ、何というか活き活きしてるんだよ」

 

回想を終えた柴中が、ポツリと呟いた。

 

 

「まず間違いなくダイユウサクの影響だろうな。自分もあんな風になりたいって気合が入ってるみたいだ」

 

「良い傾向だな。願わくば、そのまま我々のいる高みにまで這い上がってきてくれれば申し分無いのだが」

 

ふふっ──と柴中は笑った。理由が分らず「何故笑う?」とウイナーが聞いてくる。

 

 

「そんなに気にしなくても勝手にお前の所まで来てくれるさ。それを期待して俺達のチームに入れたんだ」

 

ゼファーだけではない。アキツテイオーにカレンチャン、ヒシアケボノにシンコウラブリイと、ウイナーが自分の(チーム)に入れたメンバーは、その誰もがウイナーがいる高みへと登ってこれるであろうウマ娘ばかりだ。

 

いずれニホンピロウイナーと同じレースに出走出来る。皇帝の喉元に刃を突きつけられる。そんなウマ娘を、チームステラ──もとい、ニホンピロウイナーは望む。

 

 

「だから期待して待っててくれよ。ゼファーも、他の皆も、お前のいる場所へ責任持って押し上げてやるからさ」

 

「……ふん」

 

マイルの皇帝──ニホンピロウイナーは待つ。いずれ自分の元へとやって来るウマ娘達に期待して、やるべき事をやりながら、その時を待ち続けるのだ。

 

 

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