「コホン……。それでは我らが大先輩ことダイユウサク先輩の有馬記念勝利を祝して──乾杯!」
「「「かんぱーい!!!」」
カチャンと音を立ててグラス同士がぶつかり、軽快な音を立てる。休養寮の食堂での事だ。普段は使わないようなパーティーグッズまで大量に持ち出して、生徒達は騒ぎに騒ぐ。
「先輩! 私、いつか必ず先輩みたいにレースで勝ってみせます!!」
「ん? おお、良いね良いね。頑張りなよ」
「先輩! 私も!!」
「先輩!」「先輩!!「先輩!!!」
当然の事かもしれないが、輪の中心にいるのはダイユウサクだった。休養寮初のGⅠウマ娘。それもトレーナーがいないフリーのウマ娘が有馬記念を勝利したとなれば周囲の憧憬を集めもしよう。
「あははっ! 皆気合が入ってるみたいで何より。必死に頑張った甲斐があったってもんよ」
ゴクゴクと、にんじんジュースを一気にあおる。ああ美味しい。普段飲んでいる物と同じメーカーの同じ商品な筈なのに、今日は何だかとびっきり美味しく感じた。
「ふぅ……。成せば成る──って訳じゃないけどさ。少なくとも必死に頑張ればいつかどこかで夢が叶うかもしれない。特異体質で、貧弱で、トレーナーに見捨てられて……。そんな私だって、最高の舞台で最強のウマ娘に勝てたんだから」
医者に完治に至ることはないと宣告され、休養寮で地獄のようなリハビリを続け、いざ本校へと転入しても模擬レースでボロボロに負け続けて……。そんな自分が夢のグランプリ、GⅠ有馬記念で現役最強のウマ娘、メジロマックイーンを破り、勝利に至ったのだ。
……やってやれないことはない。諦めても良い理由がどんなに大量にあろうが、それを理由に諦めなくても良いのだと、ダイユウサクはあのレースで証明してみせたのだ。
「だから皆も負けるな! 折れなければ、諦めなければ、いつかきっと夢は叶うんだから!!」
「「「はい!!」」」
「あははっ──!」とダイユウサクは笑った。確かにこれならば問題は無い。ヤマニンゼファーのもくろみ通り、休養寮の換気はほぼ完了したのだから。
「それにしても残念でしたね、ゼファーの奴。一番先輩の勝利を喜んでたのに……」
「しょうがないわよ。年が明けて一週間後にはレースに出る予定なんでしょ? 調整なり何なりあるわよ」
そう、このパーティー会場にヤマニンゼファーはいない。彼女はダイユウサクの勝利とウイニングライブを見届けると、すぐさまトレーナーと一緒に帰ってしまった。
『先輩に負けていられませんから』
とのことらしい。それを聞いたダイユウサクも「そっか」と、どこか嬉しそうに素っ気ない返事をしただけだった。
「次は自分が──って思ってるんでしょ。うんうん、嬉しいよ私」
休養寮の娘達の手作りだという特製リゾットを食べながら、ダイユウサクは満足そうに頷く。このまま自分とゼファーで快進撃を続ければ、休養寮に対する偏見を吹き飛ばせるかもしれない。勝ち続けて力を示せれば、トレーナーにも‘休養寮’という場所に興味を持って貰えるかもしれない。そんな明るい未来が次から次へと浮かんでくる。聞いた話しではゼファーはダイユウサクの勝利を確信していたらしいが、ダイユウサクに言わせればこっちの台詞だ。だって、ヤマニンゼファーはいつか必ずGⅠを勝てる。それも、一つじゃない。まぐれでもない。二つか三つか四つか……。現役最強のウマ娘の一人と呼ばれるようにすらなれるだろう。夢のような前人未踏の大記録だって打ち立てられるかもしれない。
「負けないからね、ゼファー!」
だが、それを理由にむざむざと勝利を譲る気は無い。何時か必ず、どこかで闘うことになる。その時は全力を持ってそよ風を打ち破るのみだと、ダイユウサクは強く決意した。
中央トレセン学園──ウイナー城──ダイイチルビーの個室
「ふぅ……」
その日、ダイイチルビーは「あること」で困っていた。
些細なことだ。しかし、軽視できないことだ。ケイエ
最初は高級フルーツの詰め合わせでも送ろうかと思ったが、あまりに高価な物はかえって気を使わせるし、他の見舞客がすでにやっている可能性がある。某有名な高級チョコ菓子メーカーの製品も同じ理由で却下。もういっそ手編みで何か作るか? いやいや、それは幾ら何でも重すぎる。はてさてどうした物か。仮にも同室なのにミラクルの趣味趣向を殆ど把握していないという現状が、たまらなく不甲斐なく感じる。
「まさか本物の白鳥を捕らえてくる訳にもいきませんしねぇ……」
出て来た唯一のアイデアは、彼女が大好きな鳥──白鳥をモチーフにした小物を送るという物なのだが、満足いくような品が中々見つからず、見つかっても既に売り切れていたり販売停止になっていたりと散々だったのだ。
「ミラクルさん……」
ポツリと言葉を零す。優しさと儚さが具現化したような性質を持つ彼女。レースの途中で重大な故障をし、今にも折れかかっている彼女を何とかして元気づけたい。その為なら金に糸目は付けず、プライドと矜持まである程度は捨て去る覚悟である。
はてさてしかし本当にどうした物か……。そんな感じにルビーが一人で頭を悩ませていた時だった。コンコン! と入り口のドアがノックされる。「どうぞ」と返事をすると、ヒシアケボノが部屋の中へと入ってきた。
「ボーノ! もうすぐ早夕食だけど、ルビーちゃんはどうする? 他の皆は陛下とトレーナー、あとアキツ先輩以外全員いるけど……」
「あら、もうそんな時間でしたか……。ええ、こちらで食べていきますわ」
時計を見やると、既に一八時を回ろうとしていた。……これ以上一人で悩んでいても仕方がない。腹を割って誰かに悩みを打ち明けた方が良いだろうと、ルビーはチームのメンバーに相談することを決意する。
貴方にとって「読みやすい」一話分の文量を教えて下さい。
-
800~1200文字
-
1201~1600文字
-
1601~2400文字
-
2401~3200文字
-
3201~4000文字
-
4001~5000文字
-
5001~6000文字
-
6001文字以上