ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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風が吹くまで 16

 

「よーし! 全員揃ったな? んじゃ、行くぞ!!」

 

「「「はい!」」」

 

年の暮れ、十二月三十一日……つまりは大晦日。チームステラの面々は、ウイナー城(チームハウス)に集まっていた。あと2時間もすれば年が切り替わるというタイミングだ。当然、この時間に外出するとくれば、彼らの目的は一つである。

 

 

「初詣……日本には年の初めに神様に挨拶をするという風潮があると聞いていたガ……」

 

「ええ。今からやるのがそれですよ。とは言っても目的は挨拶だけじゃなくて、一種の祈願みたいなものも含んでるんです」

 

「paidir──なるほどナ」

 

 

 

「えっへっへー。カレン、今日は張り切っておめかししてきたよトレーナー! これでお兄ちゃんも益々カレンに夢中になっちゃう事、間違いなし!!」

 

「乗せられて同じく着物を着てきた私に言う権利はありませんが、せめてもう少し欲を隠そうとはしませんの? それにサブトレーナーは引き続き海外研修で不在でしょうに」

 

「分ってないなー、ルビーさんは。傍にいられないからこそ、深まる愛もある。近くにないからこそ、触れられないからこそ、高まる物もあるんだって思いません?」

 

 

 

「ところでトレーナーさん。陛下とアキツ先輩とアケボノさんは?」

 

「三人とも神社で合流する手筈だ。ウイナーは本家で年末の会合が終わり次第。アキツはウイナーの会合が終わるまで待ってるらしい。アケボノは神社で配る甘酒造りとテント設営の手伝いで先に神社に行ってる」

 

「そうですか……あ、あの! トレーナーさん!! ……そのぉ……」

 

「着物だろ? よく似合ってるよ」

 

「!! はい! ありがとうございます。……えへへ」

 

揃っているメンバーはまちまちだが、全員神社で合流する手筈だ。他愛のない雑談を繰返しながら、六人は神社へと赴く。

 

 

 

 


 

 

 

 

「ぐわぁああああああ! ギブ! ギブだギブギブマックイーン!!」

 

「まったく……嫌なことを思い出させないでくださいませ!!」

 

赴いた結果がこれである。なぜこの男は年末に神社で担当ウマ娘にプロレス技を極められているのだろうか。正直全力で他人のフリをしたいが、仮にも同僚のピンチを見捨てられるほど、柴中という男は薄情ではなかった。

 

 

「だいたい沖野が悪いんだろうが、その辺りにしといてやれ」

 

「あら、あなた方も初詣に?」

 

「そんなとこ」

 

九の次固めからようやく解放された沖野が、何とか立ち上がってこちらをみやる。

 

 

「あー……その、なんだ。その節は……」

 

「秋天の件なら気にしないで良いぞ。いずれ倍にして返して貰うからな」

 

素っ気なく返す。実際、あの事件で柴中が被った被害と言えば、沖野の立場を少しでも守る為に嘆願書を制作したぐらいだ。トレセン学園はトレーナーが蔓延的に不足しているため、腕の立つトレーナーが少しでも必要なのである。あの程度のこと──と言うつもりは微塵も無いが、それでもこの男をクビにしている余裕など無いのだ。

 

 

「あー、はいはい分りましたよっと。それじゃ気にしないでおくわ。ああ、お前らには紹介がまだだったな。こちらは──」

 

「チームステラの人達でしょう? 短距離とマイルの特化型チーム……。ちゃんと知ってるわよ」

 

「凄ぇよな。短距離とマイル(得意分野)ならあのリギルも凌ぐって話しだし」

 

ダイワスカーレットとウオッカが素早く反応する。既にチームステラの面々とは面識があったようだ。互いに簡単な自己紹介を済ませたあと、暫くの間行動を共にする事にした。

 

 

「へー! じゃあゼファーはお姉さん達に後押しされて学園に来たんだ」

 

「はい。粗暴な一面もありますが、私にとっては何より大切な家族です。快く送り出してくれたことに感謝しています」

 

「分ります! 私もお母ちゃんに後押しされなかったら、トゥインクルシリーズに出走できていたかどうか分りませんからね」

 

 

「まぁ。ではこのあとスグに?」

 

「ええ。多少は猶予がありますが、新年の挨拶回りに伺う予定です。無論、メジロの本家にもお邪魔させていただきます」

 

「……私が言える事ではありませんが、大変ですわねぇ」

 

「いえ、これも華麗なる一族として生を受けた私の責務です。称賛されるような事ではないかと」

 

 

「ところでスカーレットちゃん。お兄ちゃ……サブトレーナーの例の件だけど……」

 

「しーっ! カレン、ここじゃタイミングが悪いわ。後で落ち合いましょう」

 

「了解! 今年こそ、サブトレーナーには覚悟決めて貰わないとね!」

 

各々が和気藹々(?)と会話を続ける中、柴中と沖野は後方から彼女達を見守っていた。

 

 

「どうだ、調子は?」

 

「良いように見える? こちとら去年のダービー以降、テイオーは怪我で。マックイーンは秋天にジャパンカップに有馬記念と負け続きだよ。スペはドリームカップトロフィーリーグに向けての調整でそもそもレースに出られないしな」

 

「秋天は兎も角、ジャパンカップと有馬記念は惜敗だろう? 特に有馬記念はダイユウサクがコースレコードを叩き出すほど強かっただけだ。そこまで気にする事じゃないさ」

 

「言ってくれるねぇ……。ま、路線が被ることは今後も……ウオッカとスカーレットがデビューするまでは無いだろうし、借りはレースで返すって訳にもいかないか」

 

ワシワシと頭を掻く沖野にもう一言何か言ってやろうと、柴中が口を開こうとしたときだった。聞き覚えが有りすぎる声が、二人の後方から聞こえてくる。

 

 

「その二人が出て来た所で結果は変わらんぞ。勝つのは私達のチームだ」

 

「ああ、私と陛下がいる限りは、余所のチームに勝ちなど許さんさ」

 

「ウイナー」

 

「……!! マイルの皇帝にマイルの帝王……」

 

ニホンピロウイナーとアキツテイオーは普段の私服では無く、ニシノフラワーやカレンチャン同様に着物を着ていた。その艶やかさたるや、普段の二人の覇気と相まってより一層麗しく見える。

 

 

「すまない、随分遅くなった。本家での会合が長引いてな」

 

「別に良いさ、こうして無事に合流出来たんだしな」

 

「そうか。……それで、チームスピカのトレーナー。悪いが我らが存在する限り、貴様のチームが我がチームに勝利するなどありえんぞ」

 

「ああ。例えどんなにその二人が強かろうが、勝つのは我らがチームだ」

 

「言ってくれるじゃねぇか……!」

 

挑発に乗るように、沖野がズズイッ──っと前へ出る。それを見てウイナーは愉快そうに笑い、アキツは楽しそうに眉を歪め、柴中はややこしい事になる前に場を納めようと言葉を発しそうになり──

 

 

「あーっ! テイオー!! それにゼファー!!」

 

快活極まりないそこ声に雰囲気が壊された。声の主は濃い青髪をツインテールに纏めたウマ娘──ツインターボだ。傍らには今年の有馬記念で3着に入線したナイスネイチャや、鉄の女との呼び声が高いイクノディクタスもいた。──チームカノープスのお出ましである。

 

 

「ネイチャさん。ネイチャさん達も初詣に?」

 

「んー、まぁそんなとこかな」

 

「今年のカノープスはひと味も二味も違うぞ! 大型新人が入ったんだから!!」

 

「ターボさん。本人が不在の中で勝手にハードルをあげるのは良くないかと」

 

「えーっ!? でもでも、二人ともスッゴい娘だよ!?」

 

ツインターボは神社の拝殿の方向を指す。そこにいたのはコートを羽織った一人のウマ娘。

 

 

「~~~~どうか、今年のレースは上手く行きますように……!!」

 

何やら熱心にお願い事をしているが、その熱心さに反比例するようにでっかい鈴が賽銭箱に落ちてきた。ワンバウンドしてそのまま顔を直撃。

 

 

「う゛えっっへえ! う゛ぇぇえー……!!」

 

「ま、マチたーん!!」

 

鼻血をたらして涙ぐむその娘の傍に駆け寄り、心配するツインターボ。一方で、今のやり取りで興が冷めたのか、ウイナーとアキツはそれぞれ覇気を納めていた。

 

 

「なんだか……大変ですね、色々」

 

「まぁねぇ……。でも、マチたん──マチカネタンホイザが凄い娘なのは本当だよ? それにあの娘だって──」

 

ネイチャが言葉を紡ごうとした、次の瞬間。

 

 

「────!」

 

風が、止んだ。まるで何か強大な存在に支配されるが如く、今の今まで吹いていた風がピタリと止んでしまったのだ。

 

 

(これは……!)

 

「それに、新人はタンホイザだけじゃ無いよ。そろそろ……あ、来た来た、おーい! こっちこっち!!」

 

ナイスネイチャが大きく手を振って遠方にいたウマ娘を呼び寄せる。

 

ボサッとした栗毛の長髪。180㎝はあろうかという大柄。そして何より特徴的なのが、龍を模した刺繍が服の至る所にちりばめられている事だ。ナイスネイチャに呼び寄せられたウマ娘は、全員の前に姿を現わすとこう名乗った。

 

 

「……セキテイリュウオー。よろしく」

 

 

 


 

 

 

そのウマ娘を見た瞬間、ドクンと自分の中で何かが泡立つのを感じた。ドクンドクンドクン──と心臓の音がどうしても収まらない。

 

 

「紹介するね。今年からカノープスに入った大型新人の──」

 

「……セキテイリュウオー。よろしく」

 

初めて風と一緒に走った日や、初めてニホンピロウイナーに出会った日と同じ「運命的な何か」をこの娘にも感じる。それも、懐かしさや平穏さといったタイプの物ではなく──

 

 

(これは……闘志、でしょうか?)

 

ゴウッ! と、闘気にも似た何かが自分の中で燃え広がっていくのを感じる。この娘には、この娘にだけは負けたくない。いつか来る運命の日。いつか来る決着の日。その日に雌雄を決する事になるであろう運命の相手。

風の声に耳を傾けられるヤマニンゼファーだからこそ理解出来る。自分とこの娘は「運命的な何か」で深く結ばれている、と。

 

 

「──よろしくお願いします」

 

「うん、よろしくね」

 

そんな相手に、ゼファーは一切の躊躇いなく握手をしようとした。相手……セキテイリュウオーも快くそれに応じる。……握手をしただけで分る。この娘は強い。特に筋肉の鍛え方が段違いだ。素養だけならば、筋肉オタクとして知られるメジロライアンに匹敵するかもしれない。

 

 

「……ゼファー?」

 

「ああいえ、何でもありません」

 

少々長く手を握りすぎていたか。パッと手を放して普通に会話を再開しだす。

 

 

「なにかあったの?」

 

「いいえ? 特に何も」

 

運命的な何かを感じた、とは流石に言えず、上手く誤魔化す事にしたヤマニンゼファー。こんな時、口が上手いと得をするものだ。幾人もの喧嘩を取りなしてきた成果である。

 

 

「それよりもほら、私達もお参りを済ませちゃいましょう」

 

ゼファーは全員を促すと、シュタタタっと本殿へと駆けていく。

 

 

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