「ハァッ……ハアッ……ハアッ……ハアッ……!」
──上手く呼吸が出来ずに息が詰まる。肺に空気を送るたび、喉が引き裂かれるように痛む。
腕がゼリーみたいにプルプルと震えて力が入らない。脚が感電したかのようにピクピクと痙攣し続ける。心臓がエンジンのようにバクバクと鳴り響く。苦しくて苦しくて、呼吸をすること以外何も考える事が出来ない。
もうとっくにレースが終わったにも関わらず、私は未だ一人でダートコースを走り続けていた。ゴール板を完全に駆け抜けたと確信した辺りでいつものようにゆっくりと速度を落としながら丁度コースを一周──つまり、レースがスタートした位置まで戻ってきて、ようやくまともに思考をする事が出来るようになる。
「…………」
──勝った。本当に勝った。あまり実感が沸かないが最後の直線コースで自分の前を走っていたウマ娘全員を抜き去った記憶があるし、レース場に設置されている大型電光掲示板の一位の位置には間違いなく自分のゼッケン番号が点灯している。
それを確かめた途端、心の中に自分で想像していたよりも遙かに高い喜びの感情が沸き、それに比例するかのように頬がドンドンと緩んでゆく。嬉しくて嬉しくて、感情が高ぶった結果逆に暫くのあいだ何の言葉も口に出す事が出来なかった。──レースに勝ったから、
「……これなら、本当に夢を叶えられるかも……!!」
「…………勝ったね、ゼファー」
「……うん、勝っちゃった」
「……そんなにケーキを一人で全部食べたかったのかな?」
今だ殆どのメンバーがボーッとしている中、三バ鹿と呼ばれている例のウマ娘達はポツリと呟くようにレースの感想を言った。いつもなら三人目のボケに「「んなわけねぇだろ」」と鋭くツッコむ二人もその気力までは無いらしく、やはり他の娘達同様にボーッとしながら目をパチクリさせている。引率役の清瀬にいたっては、一分前とは別の意味で全く声が出せていない。唯一子供組だけが「ゼファーお姉ちゃんすごーい! ビュオンッ! ってなってたよビュオンッ! って!!」と清瀬や他のウマ娘の裾を引っ張りながら無邪気にはしゃいでいた。
「……なに? あの娘ってあんなに強かったの?」
「わ、私に聞かれても……。いっしょに併走したことも無いから分かんないよ……」
スタート直後のゼファーの様子から「もしかして「追い込み」をするつもりなんじゃないか」と予想していたまとめ役のウマ娘すら考えもしなかった爆発的な末脚を見せられて若干引きつった顔で聞いてくるが、そのウマ娘もプルプルと首を横に振ることしか出来ない。
「い、今まで手を抜いてた……って訳じゃないよね? ゼファーちゃん、多分そういうの好きじゃないと思うし……」
「……あ……え、うん。それはない……筈」
気弱なウマ娘がおどおどと確認するように聞いてきて、ようやく我に返った口悪ウマ娘が拙い口調で同意する。そも、ゼファーは休養寮で模擬レースはおろか、誰かと併走したことすら無かった。体質を改善させる為の治療とそれに伴うリハビリ、それから持久力を少しでも身に付ける為のスタミナトレーニングのみを、ただ只管にやり続けていたのだ。それ以外のトレーニングもするようになったのは退寮の目処が立った数ヶ月前だが、それだって本校のレース科と比べればあまりにも優しい「運動」と言って差し支えない程度の物。
要するに今まで寝食を共に過ごしてきた休養寮のウマ娘達は誰一人として『レースを想定した‘ゼファーの全力,』を見たことが無かったのである。
「……つまり、あれがアイツの──」
「ああ、それは違うだろうな」
「……へ? きゃあっ!」
「おっと悪い。また驚かせちゃったか」
「な、なにしに来たのよアンタ!!」
思考と発言の間に割り込んで来たのは、ゼファーのトレーナーである柴中だった。いつの間に
「し、柴中トレーナー……」
「本日はゼファーの応援に駆けつけてくださり、ありがとうございます」
柴中は引率役を担っているであろう清瀬に対して軽く頭を下げる。一方、昨日怒鳴りつける所まで行ってしまった清瀬は色んな意味であまりにも気まずすぎるのか、言葉に詰まってしまっていた。
「──で、どうだった?」
「俺の言った通りだっただろ?」と柴中は得意げな顔でウマ娘達を見る。口の悪いウマ娘なんかは「ぐっ……!」とまだ何か言いたげな表情だったが、新バ戦や条件戦はおろか、将来的には重賞レースにだって勝ててしまいそうな走りをまざまざと見せつけられてはもう黙るしかない。
「トレーニングの殆どをダンス練習に割いていたって知った時は『本当に何を考えてるんだ』──って思いましたけど。……本気で「勝てる」って思ったから、休養寮ではあまりやらないダンストレーニングをさせていたって事ですか」
「……ええ。休養寮にはウイニングライブ練習用のスタジオと、屋外ステージがありませんから」
六日間に「小さなトレセン学園」とも言える休養寮を訪れた際に柴中が感じた、どことない‘寂しさ,。その理由は「ウイニングライブに関する施設が何一つとして存在しない」からだった。ダンス自体はリハビリとして少しだけメニュー組み込まれているのだが、トレーニングと同じく本格的な物はまずやらない。
そもそもウイニングライブは‘レースに勝利したウマ娘,が自分を応援してくれたファンへ返礼として行なう物だ。「勝利する可能性が皆無」である休養寮のウマ娘には必要のない物。必要のない物に貴重な経費を使うことは出来ない。──そうみなされていたのである。
だからこそ、柴中とウイナーはトレーニング初日から頭を抱える事になってしまった。
「正直焦りましたよ。ゼファーならCⅠまでだったらほぼ勝てると踏んでたので、一番の懸念材料だったダンス力の測定並びにそのトレーニングを初日からさせてみたんですけど……」
ゼファーのダンス並びに観客へ向けたアピール能力は、二人の想定を下回っていたのだ。踊る時の表情が笑顔で固定されず、気持ちが先行してしまうのか
今まで全くダンストレーニングをしてこなかった、もとい出来なかった弊害が思わぬ形で現われ、それを矯正するのに多大な時間を要してしまった。幸いゼファーの飲み込みが悪く無かったため、全体の三割程度の時間は『スピード』トレーニングに当てることが出来たが、そうでなければトレーニングの全てをライブ練習に費やすことになっただろう。チーム『スピカ』を担当している沖野が嘗てスペシャルウィークの育成でやらかした‘完全棒立ち状態のウイニングライブ,を再現するわけにはいかないのだ。
「……凄かったですよ。本当に……」
荒くなった呼吸を整えるため未だターフの上をゆっくりと走っているゼファーの方を見ながら、清瀬はポツリと呟くように言った。その瞳は、あまりにも遠い場所へ行ってしまった教え子を見るかのような哀愁に溢れている。──否。そもそも最初から、ゼファーが本来いるべき場所は
「……そうね、認めてあげるわ。……アイツは強い。私なんかとは違う、正真正銘の『特別』って奴だったみたい」
「あれがゼファーちゃんの素質……。本当の実力なんですね……」
悩みの種である体質さえ改善してしまえばご覧の通り。
「んー……。まぁ確かにゼファーが全体的に頭一つ抜けてるのは認めるけどさ。それは君達だって同じだろう?」
「はい?」
「いやだから──君らだってCⅠまでなら
柴中があまりにもサラッと言う物だから、ウマ娘達は最初言葉を聞き間違えたか、さもなければ質の悪い冗談じゃないかと思った。
「なに……、言ってるの、アンタ……」
「そもそもの話しなんだけど……。っていうか、よくよく考えれば当り前の事なんだけどさ」
「君たちって『体質さえ改善してしまえば入学試験を突破出来ただろう』ってあの娘──じゃなかった。学園長とスカウトマンに認められたから休養寮に入ってるんだろう? それってつまり、ウマ娘レース出走者として絶望的なハンデを背負っているのにトレセン学園が『このままにしておくのは惜しい』って思った、‘とんでもない才能の持ち主,って事じゃないか」
柴中自身休養寮に何度も訪れ、リハビリやトレーニングをその眼で見てようやく気付いたことなのだが、休養寮には才能溢れる逸材が沢山いるのに、その殆どが自分の凄さに気がついていない。ゼファーが最も良い例だ。あれだけの気概と根性のある良い脚を持っておきながら、彼女は柴中とウイナーにスカウトされるまで自分の事を‘頑張るしか得意な事がない凡ウマ娘,だと本気で思っていた。
ただでさえ休養寮という狭い世界の中に今までいた上に、誰とも併走をせず模擬レースにも参加してこなかったのだから己の異常さに気づけなくて当然と言えば当然なのだが──。
「体質の影響で‘実力の十分の一も出せない,ような娘までいたらしいし、今までずっとその状況だったっていうなら勘違いしても仕方がないんだけどさ。君らも似たような状況にあると考えれば、本当の実力は五倍十倍──」
「ま、待って、ちょっと待ってください!」
たまらず清瀬が声を荒げる。
「……おかしいじゃないですか。もしそうだとしたらなんで──!」
「そういう風習があるからですよ」
「……は?」
──なんで休養寮を出たウマ娘達は今までずっとレースで勝てなかったのか。答えは至極単純で「トレーナーが付かなかったから」だ。
中央トレセン学園とはURA──延いてはこの国が長きに渡って運営してきた一大機関である。全国各地から
現在トレセン学園には「ナリタタイシン」というデビュー前の小柄なウマ娘がいるが、そのウマ娘は中長距離の模擬レースで中々の好成績を納めているにも関わらず、誰もトレーナーが付こうとしない。彼女自身がスカウトを突っぱねているというのもあるが、それ以上に彼女をスカウトしようと考えるトレーナーがいないのだ。──『体格が小さい上に脚質がパワーを必要とする追い込み、おまけに適正距離が中距離以上』という‘ハンデ,があるからである。
それでもタイシンの場合は「なんとでもなるはずだ!」と考えた少数人のトレーナーからスカウトをされた事があるのだが──。休養寮のウマ娘がトレーナーのスカウトを受けてチームに入ったという例は、ゼファーを含めてたったの
多少素養が劣っているようなウマ娘だろうと毎日厳しいトレーニングを積み続ければ挽回する事が出来るし、仮にも中央トレセン学園のライセンスを習得したウマ娘トレーナーにとって、それはそこまで難しい事ではない……。しかし、医者でも匙を投げるような特異体質や奇病持ちのウマ娘は難しい。(あまりにも飛び抜けた才能の持ち主ならば話しは違ってくるのだが)
──「怪我をしやすい」「特殊な悪癖がある」「奇病持ち」「虚弱体質」──そういった「ハンデ」があるウマ娘を好んでスカウトしたがるトレーナーが滅多にいないのである。例え完治に近い状態だとしても「浪費した時間」という絶対的なハンデがあるのに変わりはない。
「だから、全部自分一人でやるしかなかったんです。徹底した選抜式のエリート校故の悪癖ですね。俺だって、ゼファーと出会っていなかったら休養寮の娘に眼を向けられていたかどうか分かりませんから」
自己管理も、トレーニングも、レースの出走日程や作戦も、学生としての勉強も。ただでさえ病み上がりなのに、今までずっと治療に専念してきたウマ娘が、誰の指導もなくそれら全てをそつなく熟す事など出来る訳がない。──故に圧敗。故に惨敗。……当然の結果である。
「そんな……そんなのって……ッ……!」
「大小色んな理由でトレーナーが付いていない──所謂『フリー』のウマ娘がトレセンにはいますし、それで本来はトレーナーがするような事を全部一人で熟してGⅠレースに勝っちゃうような娘も確かにいますけど……‘休養寮のウマ娘,は無理ですね。トレーナーのサポートがほぼ必須で──」
「…………なんでよ」
蚊の鳴くような小声で、しかし腹の底から絞り出すような声で、口の悪いウマ娘が言った。
「だったらなんで、あんなこと言ったのよ……!」
「あんなことって?」
「──ッ! 『レースで勝てる』って言ったでしょう!!」
グイイッ!! ──と、柴中は胸ぐらを掴まれて引き寄せられる。そのまま吠えるように怒鳴りつけられた。
「『勝てるようになる』って言ったでしょう! でもそれって『トレーナーが付いてくれたら』の話しなんでしょう!?」
話しが矛盾している。‘休養寮のウマ娘,にこそ‘トレーナー,というサポーターが必要不可欠な筈なのに、‘
「だったら……なんで……!!」
結局の所体質か。休養寮に入らなければいけないような……走るのに向いていない身体で生まれてきてしまったのが、万に一つの奇病を患ってしまったのが悪いということなのか。──今までの努力や想いが全て水泡に帰したような気さえして、口の悪いウマ娘は目尻に涙さえ浮かべて力なく俯く。
「……‘速くて強くて丈夫なウマ娘を育てる,だけが、ウマ娘トレーナーの仕事じゃない」
「……?」
「おいおい、昨日言っただろ?」と柴中は未だ胸元を掴まれながら軽く笑うように言った。
「『契約したウマ娘の‘望み,と‘願い,を出来うる限り‘叶えさせる,』。究極的に言って、それがウマ娘トレーナーの仕事だって俺は思ってる。自分と契約したウマ娘に……ゼファーに‘夢,を託すんだ。それぐらいはしないとな」
「……なにが言いたいのよ」
「六日前……俺と正式な契約を結んだ時に、ゼファーが言ってた」
柴中は思い出す。自分のウマ娘トレーナーとしてのポリシーを熱く語り
『そういう訳なんだけど、なにか‘望み,や‘願い,はあるか? このレースに勝ちたいとか、こういった路線を進みたいとか、そういう現実的な物じゃなくても全然良い。教えてくれ』と聞いた時のこと。
彼女は『うーん……』と困ったような顔をしながら暫く考えた後に『……これは私個人の「夢」じゃないんですけど……。大先輩の「夢」に共感しただけの、ただの同調なんですけど……』と前置きをした上で‘望み,を話してくれた。
『
『ここだったから、休養寮のウマ娘だったから、私は頑張り続ける事が出来ました。清瀬トレーナーや遠藤院長。他にも沢山の良き人達が、毎日笑顔でウマ娘を支えてくれる場所なんです──だから』
一瞬だけ眼を閉じて、すうっと息を深く吸って、ハッキリとした力強い口調でゼファーは告げる。
『私も、レースに勝って証明したいです! みんなは──休養寮のウマ娘は、絶対に‘ハンデがあるから,‘大抵負けるから,‘育成が面倒臭いから,なんて理由で蔑ろにされていい存在なんかじゃない。‘弱い駄バ,なんかじゃないんだって事を!!』
「…………あの娘が……」
「ゼファーちゃんが、そんな事を……?」
「想像が出来なくて」ではなく、むしろその光景がありありと想像出来てしまって、休養寮のウマ娘達は反射的に聞き返す。‘淀んだ空気,がなにより嫌いで部屋の換気を毎日欠かさず行い、嫌な感じの空気が人と人との間に漂っていれば無理矢理にでも関係をこじつけて会話に加わり、なんとかして間を取り持とうとするお人好しウマ娘だ。風潮蔓延る休養寮の現状に心を痛めていたとしてもなんら不思議ではない。
「だから取っ払わせるよ、風潮」
そこまで言ってようやく胸元鷲づかみ状態から解放された柴中は口悪ウマ娘だけではなく、清瀬を含めた休養寮のメンバー全員に語りかけるように言った。
「ただのレースじゃない。重賞──GⅠレースで何度も何度も勝って、‘休養寮のウマ娘は弱い,なんて誰も言えなくなるぐらいの、風潮を文字通り空の彼方まで吹き飛ばすぐらいのスターウマ娘にさせてみせる」
溢れんばかりの自信を携えた瞳と表情で、柴中は力強く宣言する。彼個人としてもゼファーと契約をして今まで以上に休養寮について深く調べていく内に、トレセン学園及びウマ娘レース界に蔓延る‘嫌な風潮,に嫌気が差してきていたのだ。
「まぁ結局、風潮を取っ払ったところでトレーナーからスカウトを受けられるかどうかは君たち次第なんだけどさ。中央地方問わず、トレセン学園は常時トレーナー不足……延いては人手不足だし」
むしろウマ娘レース界全体としてはそっちの方が深刻な問題だった。中央だけで2000人以上在籍しているウマ娘に対し、中央のライセンスを習得出来ているトレーナーの数があまりにも少なすぎるのである。つまりそれは、休養寮のウマ娘にトレーナーが付かない事の遠縁にもなっている訳で……。優秀なトレーナー候補生の確保並びに育成は、URAをしても常に頭を悩ませている案件だった。
「……本気で言ってるの?」
確かにそこまで強いウマ娘が休養寮から誕生すれば、トレーナーや世間に蔓延る風潮を取り払う事は難しくないだろう。‘休養寮,という施設の存在を世間に知って貰う良い機会にもなるだろう。──だが重賞、特に【GⅠ】レースに勝利したウマ娘は、長いウマ娘レースの歴史においても極僅かしかいない。
現在中央トレセン学園で会長を務める‘シンボリルドルフ,や、副会長の‘ナリタブライアン,。彼女達の先輩にあたる‘ミスターシービー,なんかの所謂【三冠馬】が良い例だが、
「逆に聞きたいんだけど、出来ないと思うか?」
ようやくコースを一周(正確に言えば一周以上)し、最後の直線コース……つまりはスタンド席前方へと戻って来たゼファーを見ながら柴中は言う。休養寮のウマ娘一人一人とゼファーがどんな関係にあるのかそこまで詳しくは知らないが、例えどんな仲だろうと今まで一緒に過ごしてきたからには、柴中よりもずっと色々な事を知ってる筈だ。そう思ったからこそ、柴中は昨日ああしてゼファーの事を聞きに休養寮まで足を運んだのだから。
「…………」
「もう一度聞くぞ? 出来ないと──」
「ねー! トレーナーさん!!」
難しい話しが続いて痺れを切らしたのか、この中では一番年下らしい子供のウマ娘が会話に割り込んでくる。
「もしふーちょーっていうのが無くなったら……。トレーナーさんが付いてくれたら、私もレースに勝てるようになるかなぁ。お姉ちゃんみたいに毎日毎日頑張って病気を治して、リハビリもして、本校に通えるようになったら……。トレーナーさんが付いてくれたら……私も、あんな風に勝てる? お父さんとお母さんに「ごめんね」じゃなくて「おめでとう」って言って貰える?」
「──ッツ!」
その子の願いがあまりにも純粋で、それでいて子供の頃の自分とモロに被っていて、口の悪いウマ娘は今度こそ完全に黙り込んだ。--自分も最初の頃は、こんな願いを持って毎日リハビリに励んでいた筈だったのに。
「……ああ」
そのウマ娘の頭を軽く撫でて、シッカリと目線を合わせながら、先ほどと同じ溢れんばかりの自信を携えた瞳と表情で、柴中は力強く宣言した。
「それがゼファーの目標なら、俺も頑張ってそれを叶えさせてみせる。──だから」
「……うん! 私も頑張る!! 頑張って頑張って……夢を叶えるよ!!」
そう言って、彼女はターフの上でこちらに向かってヒラヒラと手を振るゼファーに元気よく手を振り返す。それを見て清瀬や他のウマ娘達も我先にとスタンド席前方ギリギリまで躍り出て、手を振ったり称賛の声を掛けたりと一気にその場が騒々しくなる。
「──ああ、頑張れ!」
この世界にいる‘ウマ娘,全員に声が届くように願いながら言った柴中のエールが、会場に沸いた数多の声援に掻き消されていった。