ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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ようやくモチベ含めて執筆することが出来る状況が整いそうなので復帰として軽く……。
長い間お待たせして本当に申し訳ありません。


チーム‘ステラ, 4/9

「ふっふふん♪ ふっふふん♪ ふっふっふーん♪」

 

どこかで聞いたような鼻歌を歌いながら、その類い希なる巨躯を有するウマ娘──ヒシアケボノはチームルームのキッチンに立っていた。

彼女は手に持った包丁でキャベツや豚バラ肉、各種食材を丁寧に下処理しては適当な大きさに切って、直径50センチはあろうかという三つの大きな土鍋に次から次へと詰め込んでゆく。にんじんや椎茸を花形にしたり十字に切り込みを入れたりするのも忘れない。──随分と慣れた手つきだった。

 

 

「みーんな綺麗に並べたら、あとはボーノ特製のおいしーいお出汁を注いでー……。うん! 準備オーケーなの!」

 

土鍋の蓋を閉めてコンロの上にガチャンと置く。後は火を点けて暫く煮込んで灰汁を取った後、塩なり醤油なりで味を調えるだけだ。何のひねりも変哲もないただの寄せ鍋だが、チームステラの「歓迎会」なら‘これ,は外せない。

みんなで一緒においしい鍋を囲む──。新メンバーを迎え入れる歓迎会として、これほど相応しい物は無いとヒシアケボノは考えている。

 

 

「フラワーちゃーん、そっちはどうかなー?」

 

「はーい、ちょっと待ってくださいね……。よいしょっと」

 

同じく台所に立ってなにやら色々と動いていた童女──ニシノフラワーに声を掛けると、彼女は冷蔵庫の冷凍室から大きな二つのボウルを取り出し、大きなスプーンで中身をジャクジャクとかき回し始めた。辺りにふわりとバニラの良い香りが立ちこめる。

 

 

「うーん、まだ少し水っぽいですね。20分後にまた冷凍室から取り出してかき混ぜておきます」

 

「分かった! でもそれはここの片付けと一緒にボーノがやっておくから、フラワーちゃんは‘謁見室,の準備をしてるみんなの──主にルビーちゃんのお手伝いをして欲しいな!」

 

言うが早いか、ヒシアケボノは使い終えた調理器具を纏めて放り込んでおいた流し台に立つと、蛇口を捻って桶に水を溜め始める。

 

 

「えっ、でも……」

 

「いいのいいの! ボーノがあっちに行っても、高いところの飾り付けをするぐらいしか出来ることなんて思い付かないし、それに──」

 

 

『──おい! ちょっと待てなにをしている貴様ら!!』

 

 

ヒシアケボノの言葉を遮るように、怒号にも近い叫び声が遠くの方から聞こえてきた。チームメンバーにとっては既に聞き慣れた、アキツテイオーの声だ。

 

 

『ヴェ!? な、なぜにアキツ先輩がここに!?』

 

『生徒会役員ならびに教師陣との会合が予想以上に早く済んでな……。で、貴様らは一体何をしているんだ?』

 

『なにってそのぉ……。Welcome的なパーティをするってルビっちに聞いたんで、会場をデコるサポ的な?』

 

『この季節感も無ければ統一感も無い頭の悪い装飾でか? それとルビィ!!』

 

『わ、私の所為ではありませんわ! このバカがクソダル──このおバカさんが私に執拗に粘着してくるのが悪いのです!!』

 

『だったらせめて止めるなり私なり陛下なりトレーナーなりに連絡を取れ! 何故一緒になってこいつの悪行を手伝っている!?』

 

『そ、それは……』

 

『ルビっちってマジでウチの煽りに対して耐性ゼロだよねー。あと善意のお手伝いに対して悪行って言い過ぎっしょパイセーン! マジつらたんなんですけどー。統一感ゼロなのはー……和洋折衷的な? っていうか、パーティするならウチらも混ぜてくださいおなしゃす!』

 

『貴様がステラ(我ら)の趣旨を勘違いしている事と、全く反省していない事はよーく分かった。取りあえずそこに直れこの痴れ者共が』

 

 

 

「……あ、あはは」

 

「……ね? 早く行ってあげて。このままじゃ収集つかなくなっちゃいそうだから」

 

キレたアキツテイオーの怒号がキッチンにまで響き渡るなか、フラワーは彼女にしては珍しく力の無い笑顔を浮かべながら、それでも自分に出来る事があるのならばとカオスと化した謁見室へ小走りで駆けていく。

 

 

 

 

──中央トレセン学園──生徒会室──

 

 

 

「──それで? 何の用だシンボリルドルフ。会合が終わりもしない内から「少し残って貰いたい」などと呼び止めておいて」

 

マイルの皇帝‘ニホンピロウイナー,は、内なる不機嫌さを全く隠そうともせず、自分の眼前でソファ-に座る皇帝‘シンボリルドルフ,に話しかけた。広大な学園の敷地内において、最も内装が凝っていると言っても過言では無い生徒会室の中だ。

中世における大貴族──その当主の部屋をイメージとした内装や装飾品は、生徒会長専用の机から本棚に照明、窓枠に万年筆の一つに至るまで選び抜かれたオーダーメイドの高級品である。

 

彼女達以外に人はいない──皇帝二人の間に割って入れる者などいない。

お茶は出さない──息を入れなければならない程の時間など、掛けるつもりはない。

 

中央トレセン学園の生徒会長にして、初代七冠ウマ娘である彼女は彼女で「相変わらず、君はつれないな」と、ウイナーの気迫を笑顔でサラリと受け流しながら質問に答えた。

 

 

「こうして君と二人だけで話しをするのも何時ぶりになるかな? まだ私と君がトゥインクルシリーズのレースを走っていた頃以来に感じるよ」

 

「仕事のしすぎでとうとうボケたか? 去年の聖蹄祭の打ち合わせをした時にもこうして貴様から呼び止めただろう。しかも肝心の内容が八割方‘帝王,の自慢兼惚気話だったぞ。あの時ほど‘無駄な時間を過ごした,と思った事はない」

 

「おや、では約半年ぶりか。それにしても酷い言いぐさだ。私としては君とこうして話す時間こそ、一刻千金に値すると思っているのだけどね。それと、確かにあの時は少々本題から逸れた話しをしすぎてしまった自覚はあるが、まだまだあの程度では語り足りな──待った、冗談だから無言で席を立たないでくれないか」

 

そのまま扉の方へ向かって歩き出しかねないウイナーを手で制すると、彼女は「次は無い」と言わんばかりの視線でルドルフを一瞥して用意された席へ腰をかけ直す。

 

 

「やれやれ……。かつて君が言った意見と主張は覚えているし理解出来るが、もう少し‘戯れ,に付き合ってくれても良いんじゃないか?」

 

「私達は‘必要以上に顔を合せるべきでは無い,仕事だろうがプライベートだろうが戦場(レース)だろうがな。……私も暇ではないんだ、とっとと本題を言え」

 

「ふむ‘暇ではない,というのは、君のチームに入るウマ娘の件でかな?」

 

──ピクリ、とウイナーの耳の先が僅かに動いた。

 

 

「……それが?」

 

「いやなに。世の中や学園の流行に疎い私だが、昨日のレースを含め学園内でそこそこ話題になれば流石に耳にも入るのでね。レースも見たが……ふふっ、色々と期待出来そうな娘じゃないか。偶然か必然か──いずれにせよ、彼女をいの一番に見出した君と柴中トレーナーは流石の慧眼だと言わざるをえないな」

 

「‘とっとと本題を言え,──そう言ったはずだが? その様な事を聞かせる為に声を掛けたわけではあるまい」

 

ゼファーは勿論、ウイナーや柴中の事まで褒めちぎるルドルフだが、当のウイナー本人はそれを鼻で笑うことすらせずに言葉を紡ぐ。

 

 

「本心だよ。まぁ確かに本題じゃないのは事実だが──他ならぬ君の事だ、見当は付いているんだろう?」

 

「……我が意図に反する異端者共が沸いて出て来た──それだけの話しだろう」

 

尊大な態度と物言いを全く崩そうとしないウイナーに「意味は分かるがもう少し言い方をだな……」とルドルフは苦笑いを浮かべながら独り言ちる。自分が言えた口では無いが、ウイナーは‘皇帝らしい物言いや佇まい,をするよう常日頃から心がけている節がある。それも、ルドルフよりもずっと強く意識して──それこそ四六時中変わらないのではないかと感じさせるレベルでだ。

 

 

「今はまだ表立ってなにか動いているわけでは無いが……。君の、より正確に言うなら彼女の言動と活躍によっては本格的に横槍を入れてくるかもしれない。ああ、先に言っておくが君個人の心配はしていないよ。彼女ないし君の周りにいるウマ娘達の事を案じているんだ」

 

「随分な物言いをしてくれるな、シンボリルドルフ。我が臣下達が異端者共の悪意程度に倒れるとでも? これが貴様の言の葉でなければ侮辱と受け取っている所だぞ」

 

「ほう? 侮辱と受け取らないのであれば、どう受け取るんだい?」

 

ホンの僅かな、だが確かな怒気を放ったウイナーを見て流石のルドルフも飄々とした態度を取る気がなくなったのか、真面目に表情を引き締めて‘対談,に取りかかる。──とてもではないが、まだ高等部に所属する学生二人が醸し出せる雰囲気とは思えない──そんな皇帝二人の気が、生徒会室に満ちていた。

 

それから少しだけ時間を置いて、ウイナーが言葉を返す。

 

 

「心配性でお節介焼きな貴様からの「警告」──そう受け取っておいてやる。この学園で唯一無二、私と同じ‘皇帝,である貴様の言葉をな」

 

「そうしてもらえるとありがたいよ。私としても言葉を意図していない形で受け取られてしまうのは本意ではないからね。心配性なのもお節介なのもそこまで否定する気は無いが、こうして君に一言だけでも良いから何か言っておきたかったんだ」

 

「それがお節介だと言うんだ」

 

ウイナーから大凡望んでいた言葉を聞く事が出来て満足したのか、再び和やかな表情へ戻るルドルフ。ウイナーはそれを見て「話はすんだな」と言わんばかりにソファーから立ち上がり、そそくさと扉の方へと歩いて行く。

 

 

「本当につれないな。私としては君ともう少し気軽に談話をする事が出来る関係になりたいと思っているのだけどね」

 

「──ハッ」

 

ウイナーはルドルフの意見を鼻で笑う。私とこいつが気軽に談話する事が出来るだって? ──無い。そんな可能性は絶対に有り得ない。

もしもそれが成立する時が来るのならそれは──

 

 

 

 

 

「私と貴様のどちらかが‘皇帝,ではなくなる時だ。それを成したいと本気で思っているならマイルレース(我が領域)に進行してこい、完膚なきまでの敗北をくれてやる」

 

 

 

 

 

その言葉を締めとして皇帝二人の対談は終了した。ウイナーを見送り、一人生徒会室に残されたルドルフは少しだけ目を閉じて一言ボソリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マイルレースに参る……フフッ」

 

 

 

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