ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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チーム‘ステラ, 9/9

「……ふぅ」

 

一心地ついたと言わんばかりに、ゼファーはベットの上へ倒れ込む。ステラの歓迎会が終わり、そのまま寮の自室へ直帰してシャワーを浴びた後だ。同室であるシンコウラブリィは「片付けがあル」と他のメンバーと共にチームルームに残っていた。「私も手伝います!」と言うのは簡単だし正直そうしたかったのだが、自分の為に歓迎会の準備をしてくれたのは他ならぬ‘ゼファー以外の,チームメンバー達だ。ここで自分が乱入しては折角の歓迎会の意味と意義が薄まる。「今日はもう帰って休め」と柴中の後押しも有り「ありがとうございました!」とだけ最後にみんなの前で告げて、ゼファーは一人先に自室へと戻っていた。

 

先んじてベッドの上に放っておいた、カレンチャンから入隊祝いにとプレゼントされたふわふわのクッションにボフッと顔を埋める。……なるほど、確かにこれは良いものだ。まるで心までふわふわと和らいでいくような気がする。カレン曰く「ふわふわソムリエのお墨付き」らしいが、一体何者なんだろうか。

 

 

「……」

 

ゼファーはクッションに顔を埋めたまま、今日あったことを頭の中で振り返った。大まかに言ってしまえば「転入初日」「クラスメイトとの初顔合わせ」「チーム‘ステラ,の歓迎会」なのだが、その三つだけに焦点を絞ってもまだ考えるべき事が多すぎる。

 

 

──クラスメイトに挨拶した時に感じられた二つの気配。

 

うち一つは先に退寮した大先輩から時々聞いていた「風潮と偏見」で間違いないだろう。あの淀んだ空気と厄介者を見るような眼にはゼファー自身覚えがあった。小さい頃に何度も何度も味わった、ある種馴染み深い物だ。学園全体に蔓延るこれをなんとかしなくてはならないが、これに関してはゼファー一人ではどうにもならないし、そもそも一人でどうこうしようとする気もない。むやみやたらに賛同者を増やせば良いというものでは無いが、例えどれほどの力を持っていたとしても一人では大した事は成せないという事を、ゼファーはよく知っていた。

 

規模が段違いとはいえ、あのウイナーですらウマ娘レース界に革命を起こす際は方々に助力を願ったのだ。取りあえず近い内に大先輩に会って意見と情報を交わし、トレーナーである柴中や風紀委員に通ずる所があるというアキツテイオーにも助言を請わなくては。

 

もう一つが、ゼファーが今まで味わったことのない類いの物。

 

あれは一体何なんだろうか。警戒というには軽すぎる──否、軽いと言うより「楽」の感情が詰まりすぎている。一部のウマ娘達から向けられた、なにか面白そうな物を見つけた時の子供のようなそれに、ゼファーは困惑していた。

 

自分の隣の席になったレガシーワールド曰く「いずれアンタが脅威になるかもしれないと感じた奴ら」からの視線らしいが、‘評価されている,と受け取れば良いのだろうか?

イソノルーブル、ダイナマイトダディ、ヌエボトウショウ、シスタートウショウ、そしてレガシーワールド……。主にこの五人から感じたものだが、何というか──うん。それがどういう意味を持つのかはまだハッキリとは断言出来ないが‘こうだったら良いな,という願望はあった。もし本当に‘そう,なのであればこれほど嬉しい事はそうそう無いだろう。

 

 

「うーん……」

 

──もう一つゼファーの頭を悩ませているのが、他ならぬチームの事。延いては、今の自分の事だ。

 

見ただけで分かる──なんてふざけたことを言うつもりは微塵もないが少なくとも最低限分かる事として、今の自分の実力はチームメンバーの誰よりも下だ。休養寮から本校に転入してきたばかりで、今まで碌なトレーニングを積んでなくて(中央トレセン学園レース科基準)、なによりまだ体質が完治していないのだから至極当然の事かもしれないが、例えこれから柴中の元でトレーニングを積んだとしても今までの頑張る(それ)では全く届かないだろう。

 

‘マイルの帝王,‘閃光乙女,‘華麗なる一族,‘東雲,‘天才少女,‘ケルトの女戦士,そして‘マイルの皇帝,──柴中曰く、海外遠征に出ているメンバーを加えればもっといるらしい。カレンチャンとヒシアケボノは「本格化」がまだ来ておらずトゥインクルシリーズへの登録を控えている状態だが、それでも今の自分よりは何倍も強い筈だ。

 

誰も彼もが圧倒的な実力でレースを席巻するだろう一線級のウマ娘。そんなウマ娘達が登録している強豪チームの一員に、何の因果かもやしっ子の自分がいる。……今後への不安は勿論あるが、それは恐れ多いとか臆してるとかそういう話しではなく──

 

 

「‘私らしく,いつづけられるかなぁ……?」

 

こういう話し──強くなっていく過程で‘自分を見失わないか,という話しだった。強くなれるかとか、レースで勝てるかとか、チームに相応しいウマ娘になれるかとか、ゼファーはそういう心配は一切していない。必ず強くなるし、レースで勝つし、チームに相応しい名ウマ娘になる。自分で‘そう,と決めた時点で、それは決定事項(・・・・)だ。例えそれが途方もない時間を掛けるような物であっても、その過程がどれだけ困難で、幾重もの敗北を味わおうとも、決して諦めない。そこまで自己評価が高くないゼファーだが‘そういう事,なら自信があった。なにせ、あの傍若無人で唯我独尊を地で行く姉二人からのお墨付きだ。

 

故に、彼女が真に恐れるのは副作用の方。ゼファーの二人の姉すら恐れた、自分の芯が揺らぐ(・・・)事。──とても大切で尊い、大事な気持ちを失ってしまうこと。

 

それは、とても怖い。凄く、凄く恐ろしいことだと思うのだけれど──

 

 

「──ん!」

 

ゼファーは突然クッションから顔を上げると、自分の両頬を手でバチン! と挟むように強く叩いた。……気合を入れ、弱気な気持ちを叩き直す為だ。

不安が消えるわけではないが、その辺りは考えたって仕方がない、というか考えた所で解決など出来ない。結局の所、それが起こりうるとすれば自分が凄く強くなった未来の話しであり、今の自分にはそれを怖がるだけの資格すら無いのだから。

 

 

(そもそも、今そんな事で悩んでたら強くなれるわけ無いもんね)

 

故に、ゼファーは思考を切り替えてこの日最後の疑問への考察に取りかかった。──最後の最後。歓迎会が終わり、解散の流れになる直前。ウイナーから受け取ったバッジとカードの説明を柴中から受けた時だ。結論から言うと、やはりあの二品はチームステラに所属していることを示す物で、カードの方はチームハウスの門と玄関の鍵に対応したカードキーになっているらしい。

 

「ああやっぱり」と思ったゼファーはその場でカードを箱から取り出し、裏面に書かれている文字をなんとなしに読んでみた。チームメンバーが名を名乗る時に使っていた物とよく似た文章だ。これからは学園内では自分もこう名乗った方が良いのだろうか──ゼファーが頭でそう思うよりも前に、声が上がった。

 

 

「な……!?」

 

「……?」

 

それに反応して、ゼファーは顔を上げる。誰の上げた声だったかは定かではないが、ウイナーと柴中を除く全員がそれぞれ驚愕の感情を抑えきれないと言わんばかりの顔をしていた。アキツテイオーが「陛下……。あなたは、そこまで……」と呟くように言う。問われたウイナーは何も言わず、ただジッ──とゼファーの方を見つめていた。

 

──場の空気と雰囲気が、驚きのそれへと一変している。理由はどう考えてもあの場で自分が読み上げた、カードに書かれていた文章だろう。彼女達に何がそこまで驚かれたのか未だに分からず、ゼファーはベッドの上で再びカードを箱から取り出してみる。

 

 

そこには、こう記されていた。

 

 

 

 

『チームステラ 第十二席‘そよ風,のゼファー』

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

カタカタと、パソコンのキーボードを打つ音が部屋へと響く。チームステラの二階に用意されているトレーナールームの中だ。後日トレセン学園の総務課へ提出する各種レポートを作成しながら、柴中は今日の事を頭の中で振り返る。

 

……歓迎会の進行と内容はチームステラ特有のいつも通りの物だったが、最後の‘アレ,にチームのウマ娘達はみんな随分と驚いていた。「よもやそこまで──」とでも言いたげな表情でウイナーと柴中を見つめる彼女達の顔が想像以上に新鮮で、柴中は思わず「ふっ」と思い出し笑いをしてしまう。

 

 

「なにかおかしいですか?」

 

「う゛おぁっ!?」

 

直後、突如として真後ろから声を掛けられて驚き、情けない声を出しながらバッ! と勢いよく後ろを振り返る。──見慣れた顔のウマ娘が、手に珈琲カップを持ってそこに立っていた。

 

 

「なんだフラワーか……驚かすな」

 

「ごめんなさい。でも、何回ノックしても返事がなかったので……。陛下からも『奴が仕事に集中しているならノックしたところでどうせ気付かん。勝手に入って良いぞ』とお許しが」

 

「あいつ……いやまぁ確かに気付かなかったけどさ……「はい、これどうぞ」っと、ありがとな」

 

フラワーから差し出された珈琲カップ受け取る。淹れたてのコーヒーの香ばしく華やかな香りが鼻腔をくすぐった。そのまま口に運ぶ──美味い。思わずほっとするような旨みのある苦みが口いっぱいに広がっていく……柴中の好みにピッタリとハマるエスプレッソだ。

元から料理が上手かったフラワーだが。ここ最近は更に上達が著しいように思う。ヒシアケボノという頼もしい料理友達を持ったからだろうか。食後のデザートとして出て来たアップルパイも格別だったし。……恐らくフラワーは、歓迎会の片付けが終わったと珈琲(差し入れ)片手に報告しに来てくれたのだろう。

 

 

「謁見室ならびに王城の片付けはほぼ終わりました。最後に各処の点検をしたら、陛下以外は寮に戻りますね」

 

「ん、了解。助かったよ。……でも良かったのか? 俺も手伝いに加わらなくて」

 

いくら人間とウマ娘相手とはいえ、柴中は大人で彼女達は子供──と言うと、一部不機嫌になるウマ娘がいるのでこう表現する──未成年だ。「私達のために働いてくれているのだから」と彼女達から歓迎会の準備の時点で「こちらの手伝いではなく自分の仕事をしてくれ」と柴中に言ってきたのだが、やはり少しばかり思う所がある。

 

 

「はい! むしろトレーナーさんには常日頃から色々と助けて頂いてるのに、こういう形でしかサポート出来なくて申し訳ないぐらいですから。……あと、大人だからこそ、こういった未成年(私達)でも出来るお仕事は積極的に任せてくれて良いんですよ?」

 

「……お前はなんて言うか、ホントいい娘だなぁ」

 

思わず彼女の頭に手を伸ばしてよしよしと撫でる。こちらの心情を慮る配慮、背伸びはしても無理はしない冷静さ、そしてさり気ない気遣い──まだ小学生の子が意識して出来ることか? ゼファーもかなり場の空気や雰囲気という奴に機敏で鋭いウマ娘だが、感覚はともかく対処法や気の遣い方なんかはフラワーの方が上かもしれない。頭を撫でられて「えへへ……」と若干恥ずかしそうに俯く様はどう見ても年相応のそれなのだが……。

 

 

「……あ、そうそう。今の内に言っとくけど、ゼファーがチームに加わって「席」が一つ埋まったから名簿の更新と椅子の追加がある。近い内に職人に仕事を頼むから──」

 

「はい、職人さんがいらしたらトレーナー、あとゼファーさんに連絡ですね?」

 

「ああ、頼んだ」

 

やはり「円卓の騎士」を模したのだから、当然ゼファーにも座るべき椅子がなければならない。ゼファーの座高や脚の長さなんかのデータは既に把握しているが、実際に彼女に座って貰う以上に座り心地の良さを確かめる良い方法は無いだろう。

 

 

「……皆さん、やっぱり驚いてましたね。──‘十二席,とは」

 

あの時の光景を振り返るようにフラワーは言う。他ならぬフラワーも驚いた一人ではあるのだが、他のウマ娘達と比べると冷静な方ではあった。

 

 

「やっぱお前の眼から見ても意外か? 俺も最初は‘五,か‘十一,のどっちかを渡すもんだと思ってたよ」

 

「意外というか……うーん……」

 

フラワーは少し考え込むように頭を捻る。

 

 

「……陛下の感覚とお考えですから、私なんかじゃ計り知れない部分が殆どですが‘十二,をゼファーさんに渡したとなると、恐らくただ強くなる事、だけを期待しているんじゃ無いと思います。席が席ですからね。つまりは‘そういうこと,だと思うんですけど……でも……」

 

円卓の騎士と彼らの王を描いた物語には王と宮廷魔術師を除き、特に物語のキーパーソンとなった騎士が何人か存在する。‘第四席,‘第十二席,‘第十三席,主だっていうとこの三名だが、その中の一つ──かの王とその姉の息子(諸説有り)でありながら、最終的にかの王へと剣を向けた‘反逆の騎士,──輝かしいかの物語を終わらせたその騎士が座っていたとされるのと同じ席を、ウイナーはゼファーに渡したのだ。

 

 

「でも肝心のゼファーが‘そういうこと,を起こすとは思えない──って奴だろ。俺もそう思う」

 

「ええ。ですのでやはり──‘運命を感じた,のではないかと」

 

基本的に「異世界における前世がある」と言われているウマ娘には、他のウマ娘に何か特別な感情を抱く時がある。抑えきれない、どうしようもない程のそれは、親愛だったり友愛だったり宿命だったり同調だったりと様々だが、レースで好成績を残すような優秀なウマ娘であればあるほどそれを感じることがあると言われている。──前世からの因縁──という奴だ。

 

 

「案外、前世じゃ本当に親子だったりしてな」

 

「もう! 本当にそうならシャレになりませんよ。なにせ──」

 

ハハハ! と笑いながら言う柴中に、フラワーは忠言するように言った。ウイナーが大好きな偉大なる王と円卓の騎士達の物語。その終焉は──

 

 

「させないよ」

 

強く、断言するように、花姫たるフラワーを安心させるように柴中は告げる。──チームステラが宮廷魔術師(トレーナー)‘  ,の柴中として。

 

 

 

「俺はどこぞの宮廷魔術師みたいに、世界の終わりまで楽園に閉じこもるような真似をする気は毛頭ないからな」

 

 

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