ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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重賞 18/26 GⅢクリスタルカップ その5

 

 

『さぁこれから第4コーナーのカーブ! 直線コースに向いてこようとしています!!』

 

 

レースもはや終盤で、残り400Mを通過した所。現在トップを走っているのは11番人気の‘モモガール,。ここまでの道中は常に先頭を走っていたが、あまりに全力を出しすぎたのか身体が既にバテ始めているようで、ハァハァと息苦しそうなのが遠目にもよく分かる。

 

それに続いているのが7番人気の‘ブレイブワンラン,。彼女はモモガールに張り付くように2番手に付けて様子を伺っていたのだが、こちらはまだ十分に余力がありそうだ。

 

更にその二人を見るように控えているのが2番人気の‘ミリョクゴコウ,だ。彼女は二人の様子を注意深く観察しながら、仕掛けるタイミングをシッカリとその眼で推し量っている。パッと見、このウマ娘が1番冷静かつ前を向いて勝利へと突き進んでいるように感じられた。

 

 

『400を通過!』

 

「…………ん」

 

この時点でゼファーは5,6番手。多少囲われるような形になってしまってはいるものの、幸いにも前は空いている。あいつの脚なら前に抜け出すことは十分可能だろうと、関係者専用席から見ている柴中はそう推察する。……あの状態(・・・・)でよく何も気にせず走れるなと半ば感心しながら。

 

──そして、レースは最後の直線コースへと入った。

 

 

 


 

 

 

『さぁ前が、直線コースに向いて参りました! 先頭は未だモモガールとブレイブワンラン、モモガールとブレイブワンランです!』

 

「…………」

 

静かに、静かに。ニホンピロセブンは自分のすぐ前を走るヤマニンゼファーを見やる。別にワザとそうした訳では無いのだが、彼女はここまでゼファーの後ろに付いて様子を伺うような位置取りをしていた。──故に思う。

 

 

(やはりコイツはあの人に──あの城の騎士の一員として相応しくない……!)

 

なるほど、確かに中々良い脚を持っている。位置取りも悪くない。重賞初挑戦だというのに落ち着き払っている部分も評価出来る。正直な話、セブンは内心でゼファーに感心すらしていた。これでちょっと前まで休養寮に所属していたというのだから、そりゃあ学園内でちょっとした()にもなるという物だろう。……どちらかと言えば「新たなコミュ強ウマ娘」としての意味合いの方が圧倒的に強かったのだがそれは置いておいて。

 

 

「ハァッ……ハ、ッア……!」

 

……だが、やはりそれだけだ。前走、前々走同様……否、今回はその二つより更に早くゼファーは息切れを起こしていた。重賞レース特有の様々な重圧による物だろう、顔色を少し見るだけで、辛く苦しそうなのがよく分かる。GⅢ──それもクラシック級限定のそれでここまでの苦戦をしているようでは、まるで話にならない。別に「無敗でいろ」とか「圧倒的な勝ち方をしてみせろ」とかそんな事を言うつもりは微塵も無いが、仮にもあのチームに入ったのであればいつか必ずGⅠレースを勝利して貰わねば困る。

 

 

『そして3番手外からミリョクゴコウが上がろうとしている、ミリョクゴコウは現在3番手!』

 

(だがコイツは精々OP戦を……上手くやったとしてもGⅢを1回取れるかどうかってとこのウマ娘だ!)

 

それでもウマ娘レース出走者としては十分過ぎるほど上澄みなのだが、やはりその程度ではダメだ。あの城は、あのチームは、あの人の努力の結晶。次なる開拓を行なう為の大切な武具そのものなのだから。……それを理解しているからこその評価。あの人にそれを叶えて貰いたいが故の拒絶。もし仮にゼファーがあの人のチームではなく別のチームに入っていたなら、同じ短距離路線を歩む同期兼強力なライバルの一人として接していたかもしれないが──。

 

 

(──どうでも良いか、そんな事……)

 

レースも終盤、残り250Mを切った。脚は十分残っている、ここから先頭目掛けて一気に──! そうやってセブンが意気込んで力強く前に踏み込んだ──その一瞬前(・・・・・)

 

 

 

──ぶわあぁっ

 

 

 

と風が、吹いた。いや、違う。より正確には──

 

 

「た、ぁああああああ、ああああああああ!!」

 

「……ん、なっ!?」

 

既にバテバテだった筈のゼファーが、今までよりも更に力強くスパートを掛けた事による余波。それが突風のように感じられたのだ。

 

 

『おっとミリョクゴコウの後ろからヤマニンゼファーも突っ込んできた!!』

 

(そんな、馬鹿な!?)

 

一体どこにそんな余力が残っていたのかと、思わず目を見張るセブン。体力や脚を温存しているようには全く見えなかったし、そもそもそれだけの余力が残っていたのなら直線コースに入った段階でスパートを掛けてしかるべきだ。レース数日前からゼファーのここまでのレースを分析し「間違いない」とした結論──彼女は未だ完治していない虚弱体質の影響で、残り200Mを切ってからでないとスパートを掛けられない。恐らく、トレーナーからもそういう指示を受けている筈だ──たった数秒、たった50Mの違いとはいえ、それを覆すような結果がセブンの目の前で起きている。

 

 

(一体なにが──!?)

 

『あとは内を通ってカメマルビンオーであります! これは上手い!!』

 

「──しまっ!?」

 

ゼファーがスパートを掛ける200M、その前に彼女を抜き去ってしまおうと考えていたセブンはここでようやく、最後尾にいたはずの‘カメマルビンオー,が第4コーナーを上手く曲がって最内を走り、一気に先頭集団に躍り出ていたことに気が付いた。現在のセブン順位は──着外の7番手。

 

 

「たぁああああああああああああああ!!」

 

「──こ、こんのぉおおおおおぉおおおお!!」

 

最早思考は不要。ただただ全力で走る事だけを念頭に、ニホンピロセブンはゼファー同様、全身の力を振り絞るように吠える。

 

 

『さぁ、前は残り後100Mを切りました! 先頭はまだ頑張っているブレイブワンラン! ブレイブワンラン頑張っているがこれが変わった!

 

 

 

 

 

──今度はミリョクゴコウ! ミリョクゴコウが先頭に変わりました!! ミリョクゴコウが今一着でゴールイン!! ミリョクゴコウです! 前走スプリングステークスの鬱憤を晴らすが如き見事な勝利で重賞初制覇!! 2着にブレイブワンラン! そして3着にはヤマニンゼファーと続いています!!』

 

 

 

結果として、ヤマニンゼファーは3着。ニホンピロセブンは5着。両者共に、試合には敗する結果となった。

 

 

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