ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

51 / 109
重賞 25/26 GⅢクリスタルカップ その12

 

 

「……3着か。休養寮からやって来て一月半にしてはまずまず、といった具合か?」

 

第3回となるGⅢクリスタルカップのテレビでの実況中継が終了してから少し経った後。二杯目となる日本茶を啜りながら、アキツテイオーはまるで‘結果その物には興味がない,とでも言いたげに呟く。こう言っては何だが、事実彼女は今回レースの着順にはさして興味がなかった。ウイナーや柴中同様、ゼファーの走りとその調子だけを重要視していたのだ。──つまり、これからトゥインクルシリーズで戦っていく為の力量が現状どれだけあるのか、という事である。

 

途中何度か後ろを──主にニホンピロセブンの方を後ろ目に見過ぎていた感じはあったが、それ以外は特段と気になる部分はなかった。最後の末脚とそのキレは良く、デビューして間もないウマ娘にしては中々の物に感じる。

 

 

「──で、お前達はどう思う?」

 

そう自分の目の前に座る二人のウマ娘──ダイイチルビーとダイタクヘリオスに尋ねる。二人は先ほどから「「う゛ぅう……」」と不気味な呻声を上げながら、コシコシと頭を優しく擦っていた。あまりにも公共の場でギャーギャーと騒ぎ過ぎてしまった結果、カフェテリアの運営並びに料理長を任されているアラフィフのおばちゃんに怒鳴られ、対ウマ娘用特大ハリセン(設計制作、シャカール&タキオン)で頭を思いっきり叩かれてしまったのである。

 

 

「ピ、ピエン……。流石はカフェテリアマスターこと、中央トレセン学園にて最強の一人と名高い食堂のメシウマおばちゃんの妹……ツッコミぢからが半端じゃない……。あの人に真っ向から悪戯仕掛けられるゴルゴルマジクレイジーウマ娘……」

 

「う゛ぅ……。確かにはしたない真似をしてしまった事は認めますし反省もしておりますが、私はこのバカに煽られた被害者ですのに何故こんな目に……」

 

自由気ままに動き、大なり小なり毎日のように騒ぎを起こすウマ娘がやたらと多い所為で忘れてしまいがちだが、トレセン学園はその名の通り‘学校,で、学校とは‘公共の場,だ。校風と現理事長の方針により、多少被害が出る程度の騒動であれば簡単な注意などで許されるが、そのトレセン学園内でも‘ここでふざけたり騒ぎを起こすのは(許可を取っていないのなら)止めとけ,と言われているのが、食堂とカフェテリアである。

 

二人のアラフォー姉妹がそれぞれの責任者であり、食堂を姉が、カフェテリアを妹が運営をしているのだがなんとこの姉妹、実は対ウマ娘用の戦闘訓練を受けた元傭兵(プロ)なのである。一応言っておくが勿論ウマ娘ではなく、ただの人間だ。諸事情あって早期に引退する事になり、子供の頃の夢だったレストランとカフェを経営していこうと計画を練っていたところ、昔の知り合いである前理事長により中央トレセン学園の料理人としてスカウトされた……という話し(本人達談)だ。

 

そんな経歴を持つ姉妹とあって、まぁいざ怒ったら容赦がない。自分達にさほど影響が無かったり、無礼講の場だったり、本人達が面白いと感じた物であれば悪戯だろうがバカ騒ぎだろうが笑って許す寛容さがあるのだが──

 

『やっかましい! いつまでギャースカギャースカ乳繰りあってんだい!! レースの実況が聞こえなくなるだろうが!!』

 

許容量を超えるとこれである。それはもう綺麗に二人の頭を大きなハリセンで──スパァアアン──!! と叩いて一瞬で大人しくさせると、そのまま厨房の方へ戻って行ってしまった。これぞ中央トレセン学園が誇る名物の一つ‘漫画やアニメに出てくるような食堂のおばちゃんs,である。

 

 

「えー? よく言うじゃん‘県下領セイバー,って。一緒に怒られればテン下げも5割引になるっしょ? 一緒に叱られてよルビっちー」

 

「こんの……! ──コホン! け っ し て 巻き込んだあなたが言って良い事では無いと思います。あとそれを言うなら‘喧嘩両成敗,ですから」

 

流石にこれ以上おばちゃん(妹)を怒らせたくないのか、口から出そうになった罵倒を押さえ込んで普段のお嬢様モードになるルビー。もうこのバカは無視しようと、ルビーは先ほどのアキツの質問に答える。

 

 

「そうですね、私も大体同じ感想です。陛下やトレーナーはより明確かつ鮮明な未来図(ビジョン)が見えているのでしょうが、私の眼ではそこまで感じ取れませんでした。精々、やはり体質の早期完治が鍵になりそうだ、と思ったぐらいですわ」

 

「やはりそう思うか。では相当上手くいったと仮定しても、GⅠレースに出られるのは年末だな」

 

頭を叩かれて悶絶状態にあったとはいえ、レースの観察を怠るルビーではない。しかも今回はチームの新入りウマ娘であるゼファーの、初となる重賞挑戦だ。終わった後に何らかしら具体的なアドバイスをしてあげられる事はないかと、ルビーはゼファーの走りに目を光らせていた。相変わらず見ていて気持ちが良い走りに対する姿勢だとは思ったが、やはりまだまだ彼女の虚弱体質が大きなハンデとなってしまっている。

 

それをどうにかするにはやはり相応の時間をかけて体質を完全に治療し、レースで本領を発揮する事が出来るように身体を慣していくしか──

 

 

「ノ! ノ!!」

 

手を高く上げてそのままブンブンと大きく左右に振りながら「ノ!」と何かを訴えかけてくるように二人を見るヘリオス。アキツテイオーは言葉の意味が分からず「?」マークを頭に浮かべ、ルビーは言葉の意味こそ分かる物の、発言権を彼女に寄越すのが嫌で渋い顔をした。

 

 

「……言っておきますが、下らない意見だったら許しませんわよ。……はい、ヘリオスさん」

 

「大丈夫大丈夫! 任せといてよ、ちゃんとアガる意見だから!!」

 

発言のイントネーションに不安な物を感じつつも、ルビーはヘリオスの意図を汲み取って彼女の話を聞いてみることにした。

 

 

「そもそもの話しなんだけどさー。今のゼッちゃんに‘ガチの治療,ってマジで必要なのかな?」

 

「……? どういう事だ?」

 

本格的にヘリオスが何を言いたいのかが分からず、アキツテイオーは怪訝な顔をする。人間の素人ならば兎も角、自分達は中央のレースを走っているウマ娘だ。感じ取れる物や考えられる事に個人差はあるが、他のウマ娘の走りを見れば「苦しそうだな」とか「余裕がありそうだな」とかはなんとなくでも理解する事が出来る。少なくともアキツが見ていた限り、先のレースのゼファーはいつも通りスタミナ不足に苦しんでいたように見えたのだが……。

 

 

「もち、ウチにも苦しそうに見えたんですけど、最後の末脚は結構ズバッてたじゃん? ゼッちゃんの負けん気……んー、違うなー。いや、結果としてそうなんだけど違う……うっわなんて言うんだっけこーゆーの」

 

「……‘自分への負けん気,ですか?」

 

「そうそれ! さっすがルビっち、語彙力も解析力もマジ神ってる! そう、よく言われるじゃん。‘他の誰に負けても良い、自分にだけは負けるな,って……あれ? そういやこれ元ネタ創作だったっけ?」

 

「はいはいどうも。では手早く続きをどうぞ」

 

ウェイ! とニコニコ笑いながら指を指してくるヘリオス(バカ)を軽くあしらいつつ、話が脱線しないようとっとと続きを喋るように促すルビー。「むぅ……」と若干寂しそうに呻くも、ヘリオスはお嬢様のご要望通りに話を続けた。

 

 

「そんなリスペクト不可避の心意気とガッツを持ってて、ちゃんと重賞レースでも3着に入るだけの力もあって、体質以外大した怪我も故障も無いんだからワザワザDr.ウマに聞いてみる必要無くない?」

 

「……このまま次のレースに出走させても問題ないのでは……と? あと誰ですかDr.ウマって」

 

「知らない(真顔) やー、それは流石にキツイっしょ! 体質が完治してないのはマジっぽいし、OPまでなら兎も角、重賞でVかますのは多分今のままじゃむーりー! そうじゃなくてクラシック時代のタマモ先輩みたいに一度ガッツリ休みを取って、身体の方をレベルアッポさせるべきじゃねって話し。身体の根幹がモりっ☆と強くなれば、自然と体質も良くなるっしょ!! ……あれ? もしかしてあたし頭良くね?」

 

ニシシ☆ と愉快そうに笑うヘリオスと対称に、ルビーとアキツは虚を突かれたような顔で少しのあいだ押し黙った。

 

 

「……一理あるな。そもそも休養寮の異常体質専門医が転入を許可したからこそ、奴は本校にやって来た筈。過度なトレーニングがNGなのは当然だが、逆に言うと怪我や故障が無ければさほど問題は無いと見ても良いのかもしれん」

 

「体質を完全に治してからトレーニングを積むのではなく、トレーニングを積んで体質に負けないよう身体を強くする事に集中するべき──ですか。極普通(中央トレセン学園基準)のトレーニングの最中ですらスタミナ不足で数度倒れるのを見てしまっていますから、その発想に至りませんでしたわ」

 

そも、ゼファーはトレーニング中に何度倒れても、持ち前の心意気とガッツで「まだまだぁ!」と言わんばかりに起き上がり、ルビー達を驚かせてきた。プロ直伝のマッサージ技術を習得している為か、疲れが抜けるのも早い。となれば独自トレーニングメニューを考える必要はあっても、ヘリオスの言う通りさほど心配することは無いのかもしれない。

 

 

「……あっれどしたのルビっちもアキツ先輩も、なんかヒソカの作品みたいな顔しちゃって」

 

「‘ピカソ,ですわよねそれ。……いえ、あなたの口から真面目かつ立派な考察が出て来た事に驚いてしまって……。アキツさん、私達が揃って同じ白昼夢を見ている可能性はどれぐらいあると思います?」

 

「流石に1割……いや、2割は切っていると思いたいが……。タキオン制の珍妙なドリンクをヘリオスが口にしている方がまだ現実味があるだろうな」

 

「ウェ~イ! 二人のあたしに対する容赦の無さがマジでヤバーイ!! ピエン越えてパオンになりゅー!」

 

そのままワイワイと騒ぎ立てる三人だが、先ほどのように料理長(妹)が飛んで来たりはしない。レースの実況が終わったというのもあるが、先ほども言った通り許容範囲内であれば、若人達のジャレ合いを無闇に叱るような大人は中央トレセン学園にはあまり存在しないのだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。