ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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外伝 とある灰被りの少女の祈り 4/15

 

 

──第一回『ルーブルちゃんの調子を上げよう』会議の後半──

 

 

「……え? そんな事で良いの?」

 

「協力して欲しい」と言ってきたゼファーに、なになに! と興味津々で話しを聞いたヌエボトウショウは、その内容を聞いてキョトンとした表情を浮かべた。ゼファーの言っている事が理解出来なかったのではなく、ウマ娘レース出走者においてあまりにも常識的、基本的な事すぎたのだ。

 

 

「ええ。ルーブルさんの食事、睡眠、休憩時間並びにプライベートでの過ごし方……は、プライバシーの侵害にならない程度の物で良いんですが、兎に角その辺りに以前と変わったことが無いかどうか調べてみたいんです」

 

一方のゼファーは至って真剣な表情である。むしろ一番最初にその辺りへ手を付けておきたかった──そんな感じさえする。

 

 

「えっとゼファーちゃん。あなたの言いたいことは勿論分かるけど……」

 

ダイナマイトダディは「困惑している」とも「疑問を感じている」とも取れる声で戸惑うように言った。食事に睡眠、それから休憩の仕方──。根本的にプロのアスリートでもある彼女達にとって、それらは全て凄く重要なファクターだ。毎日行なう日常的な事だからこそ、どれか一つでも己に適切な物から外れてしまえばたちまち──というのは流石に大袈裟だが──調子が落ちると言われている。故に、そこに原因があるのではないかと感じたゼファーの推測は、決して無視したり否定出来るような物ではない。──が

 

 

「それはつまり、あいつのトレーナーが担当ウマ娘の──アスリートにとって基礎基本とも言える部分の異常を見落としている可能性があると、そう言いたいんだな?」

 

ズンバラリンと、普段は無表情で寡黙だが、言いたい事はハッキリと言うタイプのレガシーワールドが大胆に切り込む。ダディは勿論、無意識に空気を読んでその疑問を口にしなかったヌエボトウショウさえ、少しばかりギョッとした顔になった。確かに中央トレセン学園といえど、在籍しているウマ娘トレーナー全てが天才中の天才という訳ではない。某超有名一流大学レベルの合格難易度だと言われているし、それをくぐり抜けて来ただけあって優秀なトレーナーが多いのも事実なのだが、毎年何名かの解雇者──担当ウマ娘とその未来をダメにしてしまったトレーナーが出るのも、また事実だ。

 

そして優秀なトレーナーは、担当ウマ娘の食事や睡眠に何らかの異常があればスグに察知する。毎月行なわれる健康診断を兼ねた各種テストの結果など見るまでもない。──それでこそ、中央トレセン学園のトレーナーだ。一流のそれでも気付きにくい精神的負荷の類いならば兎も角、それらはトレーナーとして最も注意すべき事象なのだから。

 

話しが長くなったが、要するにゼファーはこう言っているのだ。彼女のトレーナーは、自分の担当ウマ娘の基本的な部分の異常さえ察知することが出来ないむ──

 

 

「いえ? 別にそうは思っていません」

 

「──は?」

 

久々に、というより初めてレガシーワールドのこんな呆けた表情と声を聞いた気がして、ヌエボトウショウは思わず吹き出しそうになってしまった。

 

 

「ルーブルさんのトレーナーさんのお話は度々お聞きしていますが、ここまでのルーブルさんのズバ抜けた成績といい、ルーブルさんからの信の置かれ方といい、彼個人のファンの多さといい、その人間性と能力の高さは疑いようがありません。最低でもルーブルさんの‘気が満ち足りていない,‘調子が上がらなくなっている,事は私達よりも前に気づいているでしょうし、既になんらかの対策も打っていると思います」

 

「いやいやいや」

 

スラスラとここまでの意見を覆すような発言をするゼファーに、流石のレガシーも首を横に振って否定する。

 

 

「だったらその辺りに原因は無いんじゃないのか? あいつのトレーナーが優秀だってんなら気付くだろう」

 

もう一度言うが、食事、睡眠、休憩の仕方は、アスリートにとって重要なファクターだ。仮にそこに綻びがあったのだとすればまず真っ先に、当のウマ娘本人よりも先に気付くのが、優秀なトレーナーという奴である。逆説的に言えば、その辺りについては問題ないという事に──

 

 

「いいえ。一流(プロ)でも見落としたり、シッカリ調べないと気付かないような事はありますよ」

 

「──!」

 

ゼファーの言葉に、実感と経験いう名の力が入った事が分かる。声質も声量も声色も。何もかもが先ほどまでとまるで変わっていない筈なのに、不思議な説得力が込もりだす。

 

 

「例えば病院……特に三十から五十代辺りの方に多いらしいんですけど、なまじ知識と今までの経験がある所為で症状に勝手な予測を起てて、お医者さんに伝えるべき事を伝えなかったり、ねじ曲げて伝えてしまったりするみたいなんです。我が強い子供なんかもそうですね。痛いだとか苦しいだとか、そういう事を意地を張ったりして伝えなかったりするんですよ」

 

ゼファーがまだ休養寮にいた頃──といっても退寮してからまだ数ヶ月と経ってはいないのだが──遠藤院長から直接教えて貰った医者に関する知識と、面倒を見てきた子供達にあった癖を元にした例え話──他でもない実体験こそが、ゼファーの言葉に力を込める。

 

 

「例えお医者様(プロ)でもそんな事をされてしまったら、身体に何が起きているのか予想するのは厳しいです。シッカリとした薬品や機材を使って、精密な検査をしないと」

 

「……つまり、シスター・ルーブルがトレーナーに偽りの報告をしているか、あるいは彼女のトレーナーでも分からないような狭い範囲で勝手な事をしているのでは──と?」

 

「んー……。あくまで結果的に、という前置きをさせていただけるなら……はい、それを疑っています。より詳細に言うならトレーナーさんへ近況を伝える際に「これは違うだろう」と無自覚に自分で要因を排除してしまっているのでは? と」

 

シスターを含め、その場の全員が黙り込む。各々「可能性として有り得るかどうか」を考えているのだ。──そして、割とスグに結論が出た。

 

 

「……ありえるかもしれませんね。彼女は別段思い込みが激しい性格をしている訳ではありませんが、桜花賞であんなことがあった後ですから。トレーナーに内緒で何らかしらのトレーニングをしていても不思議ではないとみます」

 

「内心で色々と気負っちゃってる──って事はあるかもねぇ。いつも通りにお喋りしてるし、特に気丈に振る舞ってるって感じはしなかったんだけど……」

 

「自覚が無いって考えるとすんなり納得出来る範囲ではあるな。尚且つそれが注意しないと気にならない程度の変化なら、あいつのトレーナーが気づけなくても違和感は無い」

 

「んー……。あまりよく分からなかったんだけど、ゼファーちゃんの言う通りに調べれば良いの? ……探偵みたいで楽しそう! それで原因を解決して、ルーブルちゃんの調子も上げられたら最高だね!!」

 

四者共に納得のいった表情を浮かべ、そのまま発案者であるゼファーの方を見た。

 

 

「決まりですね。では二日後……またこの時間、この教室で調べた情報を交換してもう一度話し合いましょう!」

 

全員で大きく頷く。──シンデレラ(イソノルーブル)の知らないところで、急遽誕生した五人の探偵が調査を始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「あの、突然すみません! 少し教えて欲しいことがあるんですけど──」

 

 

「ええ、ええ。……あら、そうなの? それって何時頃からだったか覚えてる?──」

 

 

「……なるほどそうですか。今の今まで知りませんでしたが、彼女にそんな趣味が──」

 

 

「うんうん、分かるよー分かる! だって美味しいもんね!! ……え? そうなんだ、ふーん──」

 

 

「……って事なんだが、ちょっと協力してくれないか? ……ああ、助かる──」

 

 

 

 

 

そうして、あっという間に二日が経って──

 

 

 

 

 

「第二回! 『ルーブルちゃんの調子を上げよう』会議~!!」

 

 

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