ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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外伝 とある灰被りの少女の祈り 10/15

 

 

 

イソノルーブル(あなた)と戦う事が出来る──!」

 

 

目を見開いたシスタートウショウからそう言われて、イソノルーブルは再び頭の中が真っ白になった。今度は「え?」とかそういった呟きすら出てこない。

 

──まさか、その為か? その為なのか?

 

桜花賞で弱気になっていた自分を励まし鼓舞したのも、その後の落鉄事故で真っ先にトレーナーへ連絡を取ったのも、トレーナーに自分の好物と趣味趣向を教えたのも、そもそも普段何かと自分を気に掛けてくれていたのも。

 

全部が全部‘最高の状態,と言えるようになったイソノルーブルと戦う──その為にやってきた事だったというのか?

 

 

「ええ、それなりに苦労しましたよ?」

 

なんの躊躇いもなく、シスターはそれを認める。

 

 

「自覚があるでしょうが、あなたは精神的に脆い部分がありますからね。それもただ勇気づけ、励ませば良いというタイプの性格でも無かったので時として関わらず、あなたの強さを信じて放置するという真似をしなければならない時もありました」

 

「…………」

 

やれやれと言いたげな、肩を竦めるような動きで。いつものシスターなら絶対しないような、おどけた風にも見える表情で。

 

 

「中でも一番大変だったのは──「何で、ですか」……」

 

我慢しきれなくなって、ルーブルはシスターの言葉に割り込む。

 

 

「なんで、私なんですか……?」

 

「……何で、とは?」

 

「強い人と走りたいのなら、私なんかよりずっと強いウマ娘が他に幾らでもいます。同期でも世代最強のウマ娘だって言われているスピカのテイオーさんがいますし、ティアラ路線に絞ってもブーケさんやリリーさん……有力だって言われてる娘はちゃんといるじゃないですか──!」

 

仮にシスターの目的が『強いウマ娘と鎬を削ること』だとして、ルーブルに拘る必要性がどこにも無い。確かにルーブルは今期のティアラ路線の有力ウマ娘として当初から注目されていたし、肝心の実績も同期の中では既にトップクラスのそれだが、逆に言ってしまえばそれだけだ。

 

同期には‘トウカイテイオー,という、クラシック級で既に皇帝シンボリルドルフのお墨付きを貰っているようなウマ娘がいるし、前期前々期とまだトゥインクルシリーズを走っているウマ娘には、今のルーブルなど手も足も出ないような怪物がゴロゴロいる。極めつけが現状最強のウマ娘である‘メジロの最高傑作,だ。それと比べれば自分なんてまだまだヒヨッコ。むしろ‘精神的に脆い,という弱点を抱えている辺り、総合的な実力は下から数えた方が早いのではないかと、ルーブルは本気でそう思っている。

 

だから多分。彼女は『強いウマ娘と戦いたい』のではなく『強いイソノルーブルと戦いたい(・・・・・・・・・・・・・・)』そう推察できる。

 

故に分からない。なぜシスタートウショウがそこまで自分に拘るのか。なぜ自分と戦う事が目的なのか。一体何が彼女をそうまでさせたのかが。「ふむ」とシスタートウショウは小さく頷いて

 

 

「ではこうしましょう──。今回のレースで‘私に勝てたら,お教えします」

 

「──!!」

 

‘お前じゃ私に勝てない,とも受け取れる、あまりにも分かりやすい挑発。よりルーブルに全力を出して貰いたいという、見え透いた内心。「無論、勝つのは私ですが」と当然の様に告げて

 

 

「あの時も同じ事を言いましたが──。お待ちしてますよ、今期の桜の女王として」

 

 

振り向くことすら無くそう言い放ち、シスターは未だ呆然としているルーブルをその場に置いて、コツコツとバ場内へと続く道を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

「──とまぁ、そんな事がありまして……」

 

「ほほー!」と、良い話し(ネタ)を聞く事が出来たと言わんばかりの表情で藤井泉助はガシガシ手帳に筆を走らせる。

 

 

「担当ウマ娘の精神(こころ)を少しでも和らげる為に手ずからケーキをですかぁ。ルーブルはんのトレーナーいうたら言動含めてトレセン学園でも屈指の超イケメン言われてますけど、いや正にって感じですねぇ」

 

「最初に調理を少しお手伝いした位で、あまり大した事は出来なかったんですけど……。最終的にはルーブルさんの好みに合いつつ、カロリーや栄養の調整も万全なバターケーキを焼き上げられたみたいです。『君のおかげだ、本当にありがとう』ってお礼を言われちゃいました」

 

「えへへ……」と嬉しそうに告げるフラワー。一方で具体的な事実(そういう方向)に話しが行くとは思わず、柴中は「何か他にもイソノルーブルを推す理由があるとは思ってたけど、そういうことか」と納得しつつも(こいつの前であんま余計な事喋るなよー……)と少しばかり渋い顔をしていた。

 

 

「なるほどなるほど。そういう食事関係のややこしい諸事情ゆうたらタマモクロスがいっちゃん有名でっけど、柴中はんはそういう経験ありまっか?」

 

「無いな。そいつの好みは勿論、今必要な食事とその内容なんかは当然把握してるし具体的にこれを摂るようにって薦めることもあるけど、少なくとも一から十まで世話をしたような事は無いし、そもそもする気も無い」

 

ウマ娘のトレーニングだけではなく、体調管理もトレーナーの重要な仕事内容の一つであるのは間違いないが、だからといって全部を全部トレーナーが一々指示をしていては適応力も判断力も育たない。ゼファーのような特殊な事情があるのなら少々話しは別だが、基本的に『自分の体調なんだから、ある程度は自分で管理しろ』という理屈でチームステラは動いている。トレーニングにおいても柴中が具体的な指示をし続けるのは稀で、時には『今日は自分で考えてやってみな』とトレーニングを完全自習性にする事まである。(無論、その内容はシッカリ視ている)

 

むしろ最近の食事事情云々なら、ウマ娘達よりも自分の胃袋の方がフラワーとアケボノに把握及び管理されてしまっているような気がしてならない。インスタント食品やカップラーメンなんか滅多に食べなくなったし。「厳しいですねー」と半ばおちょくるように言いながら、藤井は続けざまに質問をしようとして──

 

 

『さぁ! いよいよ各選手達が本バ場へ入場して参りました!!』

 

「おおっとぉ!!」

 

大急ぎでメモ帳と筆を鞄にツッコんで代わりに一眼レフカメラを取り出すと、聞こえてきた場内アナウンスに従ってターフの方を視た。

 

 

 

『まずは三番人気。今回こそGⅠ勝利という名の花束を受け取ることが出来るか! ‘希代の名女,スカーレットブーケ!!』

 

『続きまして五番人気。先月末のサンスポ杯で見せた抜群の差し足でGⅠ昇進を狙います! サンカイヘー!!』

 

『そして二番人気。昨年十月にデビューしてからここまで一度も着外無しの、現在三連勝中! GⅠの舞台でその勝ち鬨を響かせる事が出来るか! ツヴァイボイス!!』

 

『さらに六番人気。桜花賞三着入線の実力者。樫の女王となる為に、ターフの上を駆け抜ける! ノーザンドライバー!!』

 

 

 

「キタキタキター!!」

 

ウマ娘達の入場と共にスタンドからは歓声が鳴り響き、柴中の横では藤井がカメラのシャッターを切りまくる音が鳴り響く。二人っきりであれば『うるっせぇ!』と遠慮無く怒鳴りつけているところだが、フラワーの手前それは躊躇われた。それを察しているのか、フラワーはフラワーで「あはは……」と苦笑いを浮かべている。

 

 

『さぁ登場しました!! 今年の桜花賞ウマ娘!』

 

──ワァアアアアアアアアア!!──

 

客席からの歓声が一気に強くなったのが先か。それとも赤坂のアナウンスが会場に響き渡ったのが先か。ターフの上では殆どのウマ娘が、何も言わずに彼女の方を見やっている。

 

 

『‘五強,から‘一強へ,! オークスを制し、ダブルティアラ、そしてトリプルティアラを神に捧げることは出来るのか!!』

 

 

『‘鮮麗なる修道女,シスタートウショウ!!』

 

──ワァアアアアアアアアア!!──

 

歓声が上がる。桜花賞で見せたその圧倒的追い込みに魅せられてか、はたまたシスタートウショウというウマ娘の人柄に惹かれてか、もしくは以前からシスターの知り合いないし友人だった者達か、でなければ──

 

 

(──! トレーナーさん、あれって……!!)

 

(……ああ、凄まじい仕上がりだな)

 

シスターの完成度を見抜いた、一部の眼が良い者達による驚嘆のざわめきか。

 

 

「おーおー! 流石は桜花賞レコード勝ちウマ娘やな。当然の様に一番人気で歓声も凄……い?」

 

興奮気味にシャッターを切っていた藤井の声が止まる。──それもそのはず。

 

 

「…………」

 

『そ、そして四番人気のイソノルーブル選手なのですが……。これは一体どうしたことだ!? 素人目線でも気概があまり感じられません! さながら静寂な湖畔の水面のように静かです!!』

 

「……!」

 

「これは……」

 

気概と闘気の塊のようになっているシスタートウショウとはまるで逆。

 

 

「ふ、フラワーはん!? ほんまにあの娘大丈夫なんでっか!?」

 

何も感じられないほど静か雰囲気を携えて、シンデレラがターフの上に姿を現わした。

 

 

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