ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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至高の紅玉 7

 

 

『さぁ、16人が第3コーナーをカーブ! 残り1000Mを通過!! ここで先頭はロードヒポグリフ! ロードヒポグリフが先頭!! 二番手にユキノインティ!! あとは一バ身半下がってマイスーパーレディが三番手!!』

 

「キャハハ☆ これがルビっち達が普段見てる景色かー! なーんか新鮮だなぁ!!」

 

「…………」

 

バ群後方に控えながら、私はあくまで俯瞰的に周囲の状況と位置関係を確認する。斜め外前方、私の動向を最低限窺える位置にヘリオス(バカ)。ほぼ真横で私の事を完璧にマークをしにかかっているのがメモリーさんとダンサーさん。私がこれ以上内に入れないように、すぐ斜め内後ろにいるのがプリティさん。

 

外にはまず出られない。仮にメモリーさんを上手いこと躱せたとしても、更に外にダンサーさんがいる……二重の防壁。かといってこれ以上内に入ろうとすれば、私よりも内にいるプリティさんが即座に反応して内に入らせまいとしてくるだろう。そうなれば私は、横一線で三人からしつこくマークされ続けることになる。それもこれも、あの(・・)ヘリオスがレース開始直後のタイミングであからさまに私を意識した位置取りをしてきた所為だ。あまりにも意図が分かりやすかったそれに、周囲のウマ娘達が総じて便乗してきた。

 

 

(ヘリオスを含め、15人中8人が京王杯に出走されてましたから、マークされる覚悟は当然していましたが……)

 

よもや、それをヘリオスが率先してやってくるとは。慢心しているつもりはなかったがどうせいつものように逃げか、やっても先行策だろうと高をくくっていたのは間違いなく、私は己の未熟さを恥じる。……それを実感させたのがよりにもよってヘリオスだというのは非常に腹が立つが、このままでは最後の直線で末脚が使えなくなってバ群に沈むこと必至だ。

 

 

(……どんな時でも華麗に。いかなる状況でも優雅に)

 

自分の根幹を思い出して、余裕を持った冷静な思考を心がける。……ここは間違いなく私の本領を発揮できる理想の位置ではあったのだが、こうなってしまったら話は別。──つまり。

 

 

(さーて、ルビっちの様子も十分見られたし、そろそろアゲる準備しとこっかなぁ!)

 

『3,4コーナー中間をカーブ! ダイタクヘリオスは中段から前方グループへと少しずつ位置を上げだした!! 逆にダイイチルビーは集団最後方辺りまで下がっていきます!!』

 

 

「そうだ、それで良い」

 

私の選択に対して、そんな声が観客席の方から聞こえた気がした。──その通り、焦る必要は無い。それは、華麗さとは無縁の物。心に余裕を持ち、落ち着き払って最善の行動を取り続ければ、自然と勝利への道筋は見えてくるのだから。

 

 

 

『さぁ第4コーナーを回って今直線コースを向きました! 先頭はロードヒポグリフとユキノインティ! 更にはノワールナルシストが続いています!!』

 

「「「ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

東京レース場に大歓声が沸く。GⅠレースにおける最後の直線コースではいつもの事なのだが、今回は少しばかり毛色が違った。──というのも。

 

 

「このまま最後の直線勝負になりそうだが……どう見る?」

 

「ほぼ集団一塊の団子状態だし、全員にチャンスはありそうだけど……でも、一番有力なのはやっぱ──」

 

 

「アハハハハハハ! テンション一気に急上昇──ってね!!」

 

 

『大外からダイタクヘリオス! ダイタクヘリオスが追い込んでくる!! 残り400を通過!!』

 

色んな意味で有名なギャルウマ娘──ダイタクヘリオスが、まさかの奇策を打ってきたのだ。大抵は逃げ、もしくは先行策で今までのレースを走ってきた彼女が後方待機策の差し。

 

 

「いくぜいくぜいくぜ、私はいくぜぇえええええい!!」

 

「こ、んのぉ……!」

 

『先頭はダイタクヘリオス! ここでダイタクヘリオスが先頭躍り出る!! ノワールナルシストとプラザレオが二番手か!』

 

故に最初こそ上手くいくのか疑問視する声は少なくなかったが、レースが進むにつれて、それは驚愕と歓声へ変わった。素人目にも分かるぐらい、完璧な走りだったのだ。3,4コーナー中間を通過した辺りで外から位置を上げ続け、第4コーナーをカーブする手前頃には差しウマ娘の誰もが羨むような絶好の位置に付いていた。

 

逆に──

 

 

『バンブーメモリーは! バンブーメモリーは伸びないか内のバ群の中!!』

 

(……くっそ、まんまとやられたっすね!!)

 

1番人気のバンブーメモリーは、ものの見事にバ群の中へと沈んでいた。こうなった原因は色々とあるが、一番大きな要因を挙げろと言われればやはりダイタクヘリオスだろう。3,4コーナー中間時点ではこんな事にはなっていなかったのだが、ヘリオスが早めに位置を上げた事に反応して他のウマ娘達も一気に動いた結果、第4コーナーをカーブする手前頃には進路がほぼほぼ塞がれてしまっていたのである。……なんの事はない。ヘリオスがバ群の中へ沈めに掛かったのは、彼女が日々執着しているダイイチルビーだけではなかったのだ。

 

──ダイタクヘリオス(あのバカ)がここまで意識して動くのだから、きっと狙いはダイイチルビーに違いない──そんな思い込みまで利用して、彼女はルビーとメモリーを含む何名もの差しないし追い込みウマ娘達を面白いように手玉に取った。

 

油断に慢心、気の緩みに怠惰……。これではどちらがバカだか分かりゃしない。

 

 

(何にせよ、小っ恥ずかしくて仕方ねぇっす……! ──けど!!)

 

そうだ、レースはまだ終わっていない。幸い、ずっと後方に待機していただけあって脚は十二分に溜っている。僅かでも進路が空けば十分チャンスはある筈だと信じ、バンブーメモリーは虎視眈々と前方を睨み付ける。

 

 

 

「凄い……。こんな大舞台で奇策を打って、しかもシッカリ決めちゃうなんて……」

 

ナイスネイチャは驚嘆の表情を浮かべる。ウマ娘が自分の脚質(スタイル)を変えるのはそう容易なことではない。ダイタクヘリオスは本来、典型的な逃げウマ娘なのだ。しかし今日は後方待機策の差し……。埋もれないよう位置取りに注意を払ったり、最後の直線コースに備えて脚を溜めたり、逸る気持ちを抑えつけたりと、いつもと違う事をしながら走らなければならない。

 

……筈なのだがそれがどうだ。走りも作戦もこれ以上ない位にバッチリと決まったではないか。実は差しにも適正があったと言われれば素直に信じてしまいそうになるほどだった。

 

 

「……一昼夜で物に出来るそれではありません。相当念密な鍛錬とイメージトレーニングの賜……と、言いたい所ですが、ヘリオスさんですからね。案外、ぶっつけ本番でやってみた──というパターンもありえるかもしれません」

 

「あ、あはは……。流石にそれは──」

 

「無い」と南坂の発言を否定しようとするが、たった二文字の言葉が口から出てこない。ネイチャ自身「……ありえるかも」と頭のどこかで思ってしまっているのだ。本当にそうなのか、あるいはそういった心情からくる油断こそがヘリオスの狙いだったのか。

 

 

「んー。難しい事は良く分かんないけど、ヘリオスはいつもみたいに大逃げした方が良いと思うぞ? ターボならそうするもん!!」

 

「……ええ、それはそうです。今回は上手く決まりましたが、僕も彼女本来の持ち味は、あの思わず注目してしまうような逃げにこそあると思います」

 

ニシシ! と笑うツインターボに南坂は同意した。笑いながら先頭を走り続けるその陽気極まりない様に惹かれたというファンも少なくないし、なにより彼女本人が楽しそうだ。

 

 

「……それに、上手くいったと判断するにはまだ早いですしね」

 

……果たして彼女は知っているのだろうか。前を塞がれる。バ群に囲まれる。そんなこと、後方待機策を取るウマ娘達にとっては日常茶飯事なのだということを。

 

 

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