ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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今更ですがバンブーメモリーの学年を勘違いしていたので後日修正を入れ……ようかとも思ったんですが、ヤエノにタメでオグリ達に先輩呼びの敬語って違和感があるのでちょっと考え中です。


至高の紅玉 8

 

 

『先頭はダイタクヘリオス! 先頭はダイタクヘリオス!!』

 

(オケまるオケまるー! たまにはトレぴっぴの言う事も素直に聞いてみるもんだねー。いつもウマ娘の耳に念仏とかマジありえないって事がよく分かった!!)

 

自分でやっておいてなんだがここまで上手くハマるとは思っていなくて、ダイタクヘリオスはその笑顔を更に強める。

 

──今回は‘差し,で行こう──

 

数週間前にトレーナーがそう進言してきた時はブーブー文句を言いまくったが、最終的には「いつもいつも自分の事を気に掛けてくれるトレーナーの言うことだから」と素直に了承を──。否である。トレーナーの事は凄く大切に思っているが、あのヘリオスがそれだけで脚質(スタイル)を変える事を了承する訳がなかった。例えこの一戦だけだとしてもだ。

 

それプラス「暫くルビーの隣で走れるぞ」という甘言と、言葉巧みに思考を誘導されて「面白そう!」というノリにさせられた結果がこれである。それでこうも上手くいくのだから、やっぱり自分のトレーナーは‘次世代の天才,って奴なんだろうなぁと、ヘリオスは思わず嬉しくなってしまった。

 

 

『いよいよ残り200を通過しようとしています!!』

 

(いける……いける!!)

 

あと少し。あと少しでGⅠ制覇に手が届く。そうすれば、そうなればきっと──!

 

 

 

──カッ──!

 

 

 

と、何かが後方で目映く光り輝いたような気がした。それが自分にとってあまりにも大切な物のような気がして、ヘリオスは思わず後ろを振り向いて後方を確認する──次の瞬間

 

 

──パァン──!!

 

 

というピストルの弾がハジけたような音と共に、集団最後方から愛しの彼女(ダイイチルビー)が、それこそ弾丸のような勢いでヘリオスに差し迫ってくる。

 

 

 

──領域(ゾーン)──

 

 

 

華麗なる紅玉 ダイイチルビー

 

 

 

「はぁあああああああああああああああ──!!」

 

『ここで大外からダイイチルビー! ダイイチルビーが凄まじい差し足で先頭目掛けて突っ込んできたぁああ!!』

 

 

──動きがあったのは、やはり第3.4コーナーに差し掛かったタイミング。ヘリオスが最後の直線コースに備えて自分の位置を上げ始めた時だ。ダイイチルビーはヘリオスとは逆に、自分の位置を大きく下げた。それこそ最後尾に至ってもおかしくない程に。

 

簡単な話である。仕掛けるにはタイミングが悪く、かといって位置を上げることも難しいのなら、一旦仕切り直せば良い。絡まれるのがダルい(執拗にマークされる)のなら、強引にでも無視すれば良いのだ(独りになれば良いのだ)

 

 

「……ハハッ」

 

残り600Mを切ったタイミングの後方大外周り(それ)、並大抵のウマ娘なら勢いを失ってそのままバ群後方へと沈みかねないが──彼女は到底、並大抵のウマ娘などではない。

 

 

「──アッハハハハハハハ!! さっっっすがルビっち!! 眩しすぎの尊すぎでマジマンジ!!!!」

 

『大外からダイイチルビー! ダイタク粘るダイタク粘る!! しかし大外からダイイチルビー目映いまでの末脚!!』

 

ならば上等。気分は上々。もはや彼女以外に敵はなく、ゴールまで残り100Mを切った。位置の関係上、後はいつも通り自分がバカみたいに逃げ切るか、彼女に華麗に差されるかの2択──

 

 

──バリン──

 

 

「──なに勘違いしてるんすか」

 

「……ひょ?」

 

「進路を塞がれる、バ群に囲まれる、そんなこと今までどれだけ経験してきたと思ってんすか」

 

思わず呆けたような声を出してしまうヘリオス。先ほどとは逆……大外のダイイチルビーと逆の内ラチ沿いから聞こえてきたその声は、聞こえてくる筈のない物の筈だ。そんなバカな、ありえない。だって彼女は直線コースに入ったタイミングで完全に進路を──!

 

 

『最内からはバンブーメモリー! バンブーメモリーがバ群を一点突破して先頭に差し迫ろうとしている!!』

 

「えちょ、ウソでしょデジマ!? あそっから抜け出てこれるって集中力ヤバすぎるっしょ!?」

 

「先輩を……あんま舐めるんじゃねぇっすよ、後輩!!」

 

全力で走った事による疲労により、レース最終盤に出来るそれ。自分の目の前横一線に並んでいたウマ娘達の列が乱れた一瞬の隙を付いて、怪物達に比肩するウマ娘が遂に真のバ脚を現わした。

 

 

──これで役者は揃った。

 

 

「──アッハハハハハハハハハハハ!! マジ超アガる! 最っっ高じゃん!!」

 

太陽か。

 

 

「──!!」

 

紅玉か。

 

 

「うぉらぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

記憶か。

 

 

 

……それがハッキリしたのは、残りあと50Mを切ってからだった。

 

 

 

『しかし、しかし! やはりダイイチルビーだ!! 大外から差し迫るダイイチルビーだ!! 先頭のダイタクヘリオスを捕らえた!!』

 

(……あーあ。ここまで上手く決まってもダメかぁ……)

 

やはり最後の直線勝負までに彼女に脚を十全に溜められると、例えどれだけ距離が開いていたとしてもキツい。自分の付け焼き刃程度でしかない差し足とは違う、まさしく惚れ惚れするような末脚だ。ホンの少し下がったテンションで、ヘリオスは自分の真横に並んだ──そのまま鮮やかに抜き去ろうとしているルビーを横目で見やる。

 

 

目映い宝石のような瞳。端正極まりない顔立ち。天然のシルクのような艶やかな肌。

 

 

「──あなたに差しが向いてない理由、お教えしましょうか?」

 

やはり何度見ても最高に綺麗だとヘリオスが思うより前に、一瞬だけ併走する形になったルビーが口を開いた。疲労しているからか頭はもちろん口もいつも上手く回らず、碌な反応を返すことが出来ない。

 

 

「──あなたは、太陽(ヘリオス)ですから。……要するに目立つのですよ」

 

圧倒的な存在感。数多ある星々の何倍も光り輝き、灼熱の火をその身に宿しながらありとあらゆる生き物を育む陽光を放つ、宙で一番目立つ天体──それ即ちヘリオス(太陽)

圧倒的な存在感。いつも陽気な笑顔を振りまき、滾る情熱をその身に宿しながら誰かを笑顔にする為に走る、中央トレセン学園でも特に目立つウマ娘──それ即ち太陽(ヘリオス)

 

そんな彼女が‘差し,をすれば、当然周囲を走る全員から注目される。自分のすぐ傍に光り輝く太陽があるのだ、なにをどうしたって気になって目で追ってしまう。何名かはそれで目を眩ませられるかもしれないが──。逆に言うと、彼女に慣れて(・・・)いるウマ娘には通用しない。そして作戦が通用しないのであれば、己の脚質と合わない走りをしたヘリオスの方が不利な事は明らかだ。

 

どうやったって‘目立つ,というのなら、いつも通りに逃げを打ってバカみたいに先頭をひた走り続ける方が、慢心も油断も誘えるだろう。

 

 

『ダイイチルビーだ! ダイイチルビーが先頭のダイタクヘリオスを差しきった!』

 

「ですが……そうですね」

 

ヘリオスを完全に抜き去る際のホンの一瞬。

 

 

「──楽しかったですわ。いつもとちょっとだけ違うあなたを、こうして見られた事ですしね」

 

 

年相応の微笑みを自分にだけ見せたルビーに、ヘリオスは今度こそ完全に呆けてしまった。

 

 

 

『そのまま1バ身以上にリードを広げて今ゴォォオオオオオルイン!!!! ダイイチルビーです!! 華麗な末脚でGⅠ初制覇となりました!!』

 

 

 

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