ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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外伝・とあるトレーナー達の会談

 

 

 

「ええ……。はい、はい、分かりました。今年もよろしくお願いします。──では、失礼します」

 

柴中は実に礼儀正しい言葉遣いで、スマートフォンの通話を切った。教職員やトレーナー専用の食堂エリアだ。丁度昼食を摂っている最中だったのだが、いつもお世話になっている恩人からの各種確認の電話とあれば「すみません、またあとでかけ直します」と言うのも躊躇いがある。

 

「ふぅ……」と一息ついた後、改めて食後のコーヒーを飲もうとした時だった。

 

 

「お! 珍しい顔だな、そっちも昼飯か?」

 

「……沖野か」

 

まるで同僚に話し掛けるような気さくさで、割と独特な髪型をした一人の男が話しかけてきた。

 

──少数精鋭ながら凄まじい変人(実力者)が揃っている、チーム‘スピカ,のトレーナーである沖野だ。挨拶が済むやいなや、そのまま至極当然の様に相席される。それ自体に大した文句はないが、せめて一言断ってから座るのがマナーという物ではないだろうか。……仮に言ったところでまったく効果がないだろうから、ワザワザ口にするような事はしないが。

 

 

「あ、怪盗風ミートボールパスタのランチセットA。それから食後にプレミアムミニサンデーとエスプレッソで」

 

あらかじめ食べる物を決めていたのか、お冷やを配りに来たウェイトレスにパパッとそのまま注文をし済ませた沖野を見て、柴中は不思議そうに口を開く。

 

 

「意外だな、デザートまで頼むなんて。お前にしては羽振りが良いじゃないか」

 

一見してなんの変哲もない極普通の注文だったが、この沖野という男の昼食にしてはこれでもそこそこ豪勢な方である。中央のウマ娘トレーナー、それもGⅠ級の凄腕トレーナーとしてかなりの額を貰っている筈なのだが、彼は貰った給料の殆どをチームのウマ娘達の為に消費してしまうのだった。食事やおやつなどの食料品は勿論、最新の筋トレ道具やアンチドーピング検査済みの医薬品。バイクの専門雑誌やティーンズ向けのファッション誌などの書籍類や、果ては最新のセグウェイといった遊び目的でしかないような物まで。あくまで自分が出せる範囲だが、それはもう惜しげもなくポケットマネーを消費しまくっている。おかげで彼は中央所属のGⅠ級トレーナーにも関わらず、年がら年中すかんぴんなのだった。

 

 

「あ、それ聞く? 聞いちゃう??」

 

ニヨニヨと気色悪い笑顔を浮かべる沖野を見て、即座に「聞かなきゃ良かった」と後悔する柴中だが時既に遅し。沖野は鞄から折りたたまれたスポーツ新聞を取り出すと、まるで突きつけるように柴中の方に差し出した。

 

 

──‘新時代の帝 未だ無敗の‘トウカイテイオー,ダービーウマ娘はほぼ確実か?,──

 

 

「……なるほど」

 

得意げな笑顔とVサインで新聞の一面をデカデカと飾っている彼女の写真と、その見出しで全てを察した柴中。単純な話し、ウマ娘とそれに関連する物にしか興味がないような沖野の機嫌が良いのは、担当ウマ娘であるトウカイテイオーの調子が絶好調だからだろう。

 

 

「いやぁ、現状無敗で皐月を勝ったってだけでやれ二冠だ三冠だ言われても困るんだけどなぁ。マスコミ関係者達がどうしてもなぁ」

 

本当に困っている風にしたいのならせめて顔の緩みをどうにかしろ。──そう言ってやりたいのは山々なのだが、テーブルマナーと時と同じく殆ど効果がないどころか、逆に調子づかせる結果になってしまいかねないのでここでも黙っておいた。

 

 

(……こいつがトンでもないウマ娘なのは事実だしな)

 

「ニッシッシ!」という笑い声が今にも聞こえてきそうな、如何にも彼女らしいその写真と記事の内容を改めて見る。

 

‘トウカイテイオー,──今期最強と言われているウマ娘。去年の十二月にデビューし、なんと後続に4バ身もの差をつけての圧勝という強烈なデビュー戦を飾る。以後オープン戦を三連戦し、全て2バ身以上の差を付けての圧勝。そのままクラシックレースである‘皐月賞,に挑むも、これまた1バ身の差を付けて勝利し、今年の皐月賞ウマ娘となった。

 

その他者を圧倒する走りがかの皇帝‘シンボリルドルフ,のそれを思わせることから、史上二人目の‘無敗の三冠ウマ娘,の誕生を期待しているファンも多い。ニシノフラワーやマヤノトップガンなんかとはまた違ったタイプの‘天才,だ。

 

 

(こいつにとってはスペシャルウィーク以来の‘三冠を狙えるウマ娘,で、しかもこの前の春天はメジロマックイーンの圧勝劇……そりゃこうもなるか)

 

取り巻いていた状況が状況だったため自分にはあまり覚えが無いが、人並みの感性で言えば‘ハイ,になっていてもなんら不思議じゃないだろう。ぶっちゃけた話し、メジロマックイーンとトウカイテイオーが両方所属しているチームスピカこそ、今のトゥインクルシリーズで最強のチームと言っても過言では無いのだ。

 

 

「あいつらも俺も今が気合の入れ所とはいえ、毎日ホント大変でさぁ。偶には贅沢の一つもしなくちゃやってらんねぇってな」

 

目前に迫ったダービーに、一ヶ月後の宝塚記念。秋には菊花賞、それから秋天JC有馬記念の‘秋の三冠,。沖野がどういうローテーションで二人をレースに出してくるかは分からないが、少なくとも出走するレースでの最有力候補になることはまず間違いない。

 

 

(……ま、俺達にはほぼ関係無い話しだ)

 

‘短距離路線集中狙い,それに超特化させたチームであるステラは長距離に分類されるレースは勿論、中距離のレースにもほぼ参加しない。彼らが狙うのはマイル王決定戦の『安田記念』と『マイルチャンピオンシップ』それから年末の『スプリンターズ・ステークス』だ。本人の希望があるなら『宝塚記念』や『天皇賞・秋』にも出走するが、精々そのぐらいである。つまり仮にスピカの二人とかち合うとすればその中距離GⅠのどちらかなのだが……まぁほぼ無いと見て良いだろう。

 

 

「気合が入ってるのは良いことだけど、お前もウマ娘達も無茶はしないようにしろよ。調子の良い時は特に気をつけろ。怪我や故障もそうだけど、肝心な時に最悪なミスをすると目も当てられない事になるかもしれないぞ」

 

「分かってるって先輩(・・)。こう見えて俺達よりもずっとキャリアが長いアンタの助言だ、忘れないようにするさ」

 

割と真剣な忠言に対し嘗ての呼び方で返す沖野に、柴中は顔を「うわっ」っと言わんばかりに顰めた。最初から思っていたのだが、事実であるとはいえこいつから「先輩」呼びされるとどうにも怖気が走る。率直に言って気持ち悪い。年齢的に言えば沖野の方が年上なのがよりそう思わせるのだろうか。

 

 

「その呼び方止めろ気色悪いな……。俺はもう行く、腹ごなしがてらグラウンドで自主練してる奴らを見張っといてやらないと」

 

「えー? 折角こうしてタイミング良く出会ったんだから、久々に奢ってくれよせんぱ~い」

 

「‘次に奢る時はお前が驕んなくなったらだ,っつったろ? たかるならせめて積もり積もった借りを少しでも返してからにしてくれ。ただでさえお前には色々と貸しっぱなしなんだから」

 

そんなやりとりを最後に、柴中は席を立ってその場を後にする。

 

 

 

 

 

──数ヶ月後「だからあの時‘気をつけろ,っつっただろうが!!」と説教をする羽目になるとは夢にも思わずに。

 

 

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