ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

81 / 109
ダイイチルビーの実装はパーマーのシナリオから覚悟していましたが、ミラクルまで来るとは聞いてません。(ミラクルもオリジナルウマ娘として出す予定だった人)
幸い、私がイメージしていたミラクルのキャラと大分似通っていたので軽傷ですが……。少しプロットの見直しを行なわなければ。


強化合宿編 3

 

 

「……とは言ったのだガ、これ本当に私の出番などないのでハ?」

 

ニホンピロ財閥が運営する宿泊施設に着いた日の翌日。3000m級の山してはほぼ完全と言って良いぐらいに整備された山道を見て、シンコウラブリイは感心したような、でもどこか寂しそうな声を出した。

 

──仙丈ヶ岳(せんじょうがだけ)──そのなだらかで女性的な山容から「南アルプスの女王」とも呼ばれている山だ。日本百名山、花の百名山、新・花の百名山など様々な場所で名山として登録されているその山は、初級レベルの登山者でも登りやすい山としても有名である。北沢峠から小仙丈尾根を登る稜線ルート……要するに今チームステラの面々が登っているルートなのだが──

 

 

「あ! 見て下さいトレーナーさん!! 信濃撫子(シナノナデシコ)ですよ!! 花言葉は──」

 

「純愛、無邪気、快活、だろ? こういうのもなんだが、お前にピッタリの花だと思うよ」

 

「そ、そうですか? えへへ……。ありがとうございます! ならトレーナーさんは当薬竜胆(トウヤクリンドウ)*1。陛下は石楠花(シャクナゲ)*2辺りですかね? 生憎シャクナゲの花はもう時期を過ぎてしまっていますけど……」

 

 

「ふぅ……。私の求める華麗さ、美しさとは少々毛色が違いますが流石は日本のアルプス、実に素晴らしい景色ですわね」

 

「同感だ。これでルートさえ選べば人間でも日帰りが余裕なのだから、人気があるのも納得だな。それはそうとゼファー。身体の調子は大丈夫か?」

 

「はい、全然大丈夫です! 登山なんて本当に久しぶりで、子供の頃に無理なく行けるトレッキングコースを歩いて以来でしたから少し不安だったんですけど……。風は気持ちいいし、景色も最高で、調子も凄く良いですよ!!」

 

「ふふっ。基礎体力が身体の根本から付き始めている証拠ですわ。我々は長距離のレースは走りませんが、それでも丈夫な身体とスタミナがあるに越したことはありませんもの」

 

「ええ。でも、まだまだこれからです! もっともっと頑張ります!!」

 

 

「──えっと、ここをこうしてっと……。うん、これでよし!」

 

「カレンチャン、ウマッターの更新してるの? それとも写真?」

 

「ふっふーん! 勿論そっちも後でやりますけど、今はこっちです!! 登山者ご用達のコミュニティサイト‘ウマレコード,通称‘ウマレコ,!」

 

「んん? もしかして新しいSNSアプリ?」

 

「はい! お兄ちゃんが計画を立ててる時に使ってるのを見てカレンもスマホに入れてみたんですけど、かなり凄いですよこれ。山の最新情報が見れるのも勿論ですけど、凄く簡単に登山の計画が立てられたり、記録が作れたり、歴戦の登山家さん達のアドバイスもリアルタイムで受けられるんですよ。今回はみんな事前に出したから使いませんでしたけど、登山届けだって簡単に出せちゃうんです!!」

 

「ボーノ! それは凄いねぇ。ボーノは所謂‘登山クッキング,っていうのをライブ配信でやってみたかったんだけど今回は人数も多いし、あんまり場所を取るような事をすると他の人達に迷惑かなって諦めちゃったんだ……」

 

「あ、それ色んな意味で懸命かもしれません。アケボノさんの言った事も勿論あるんですけど、それ以上に私達みたいなカワイイウマ娘が公共の場で配信をすると、リアルタイムで人が集まって来かねないので……」

 

「あー……。ここは南アルプスだしそう簡単に集まってこない──って断言は出来ないかも。カレンチャン、本当凄い人気だもんね。初心者向けとはいえ山の中だし、止めておいて正解だったかな」

 

 

──とまぁこんな感じで、登山中にも関わらずチーム内で気軽に会話が行なわれている。南アルプス関連の登山書籍を見れば、ほぼ間違いなく「初心者にお勧め」のルートとして紹介されているだけあって、3000m級の山にしてはなだらかで落ち着いた道が多いというのも起因しているだろう。そも、人間でも7時間半程度で往復が出来ると言われているのだ。ウマ娘の力と体力に換算した場合は言うまでも無い。

 

天候は快晴で現状全く問題なし。落石及びその他アクシデントも無く、ラブリイ個人が一番懸念していた獣の襲来も無い。熊は勿論、猿や猪の気配も感じられない。精々が数㎞先の崖にニホンジカがいるのを視認出来るぐらいである。なんとも、出発前に想像していたそれより何十倍も平和な登山ではないか。

 

 

(これが日本の……否、現代の一般的な‘登山,カ)

 

「どうした、女戦士よ。随分と隔靴掻痒(かっかそうよう)な面持ちだが」

 

「! ……陛下」

 

敬愛するウマ娘でありチームリーダーでもあるウイナーから話し掛けられて、ラブリイは即座に姿勢を正す。

 

 

「登山道の入り口でも言ったが、楽にして良い。折角の壮大で雄大な景色なのだ。貴様のその在り方は決して嫌いではないが、堅苦しい振る舞いをするべき時でもなかろう」

 

「……恐れ入りまス」

 

「大凡、貴様が想像していた‘登山,とは毛色も難易度も。何もかもが違っていて困惑している──といった具合か」

 

当然の様にズバリと言い当てられた。心情を完全に見透かされていて、より複雑な心境となったラブリイは何も言えずに目を伏せる。

 

 

「当然だ。貴様がこれまでやって来たそれは‘山籠り,。……今の日本だと修験道に属する坊主や、極地へ至ろうとする一部の格闘家ぐらいしかやっていない物なのだからな」

 

厳しい大自然の中に己を置き、その息吹を一身に浴びながら修行と生活を行ない続けるそれ。変わりやすい天候に予定を左右され、ウマ娘にも劣らない力を持つ獣達に備えながら、身も心も強くしていく厳しくも効果的な修行方。

 

……だがそのあまりの厳しさと古めかしいやり方から、現代で行えば時代錯誤というレッテルを張られかねない物でもある。‘山,という存在の解析及び分析が科学的に進み、人の手で管理、踏み入ることの出来る領域が増えたというのも大きいだろう。

 

誇り高きケルトの戦士として小さな頃から過酷な環境での修行を積んできたシンコウラブリイというウマ娘にとって、この登山というレジャー(・・・・・・・・・)はあまりにも衝撃的な物であった。

 

 

「……時代遅れ、なのでしょうカ」

 

風が吹けば消えてしまうほど小さな声でラブリイは呟いた。山籠りだけではない。剣や槍(当然刃は抜いてある)を用いた決闘にも近い戦闘訓練や、服と靴以外何も持たない状態で行なう森林でのサバイバル訓練、毒のある動植物をワザと食して身体に耐性を付ける毒食訓練など、ラブリイが本国であるアイルランドで行なってきたそれは一般的な感性から言って、いずれも古めかしい物ばかりだった。

 

‘古くさい,‘効率的じゃない,‘危険なだけだ,。……今まで散々言われてきた言葉だ。部族外の人間やウマ娘は勿論、部族内の者達すらも、ラブリイの古い伝統に則った修行法を奇異な物を見る眼で見ていた。銃の扱いが得意な軍人志望だというウマ娘に‘戦士なんて概念すら、もう時代遅れだわ,と言われた事もある。事実、秒間何十発という数の弾を撃てるガトリングガンや、マッハ10以上の速度で空を飛ぶ戦闘機の前では、如何に強靱なウマ娘の戦士と言えど手も足も出ない。

 

どんなに強大な敵とも戦う者こそを‘戦士,と言うのであれば、全く歯が立たず一方的に敗れるだけのそれに、果たして価値はあるのだろうか。

 

 

「知ったことか」

 

そんなラブリイの苦悩を、皇帝たるウイナーはたった一言で一蹴した。

 

 

「時代遅れだ何だとはいうが、そいつらも貴様も実際に命がけで戦い、争ったことは無いのだろう? ならば結果も何も出ていないのと変わらん。レースで言えばまだ誰もゴール板を駆け抜けていない状況だ。貴様をよく知らん者達の下バ評如きで調子を落とすな」

 

「──!!」

 

「それと、先も言ったがもう少し力を抜いて楽にしろ。これは‘訓練,ではなく、あくまで‘トレーニング,の一貫。貴様の言う通り、レジャーとしての側面もあるのだから」

 

この世は結果が全てでは無いが、結果が伴えばそこまでの過程に意義が生まれる。意義は納得を生み、人々を引き寄せる。──まだ肝心の「結果」が伴っていないのであれば、過剰に一喜一憂するのも馬鹿馬鹿しい。

 

 

「──力を持って結果で示せ。戦いでも、レースでもな。貴様はそういう‘戦士,の筈だ」

 

「…………はい!」

 

僅かなりとも気概と調子を取り戻したラブリイを見て、自分にしてはそこそこ良い助言が出来たのではないかとどこか満足げなウイナー。確かに彼女は「弱者」の心やその思考回路をあまり理解出来ないが……。逆に「強者」の心や思考は、何も考えずとも理解出来る性質の持ち主でもあったのだ。

 

 

*1
正義感、的確。

*2
威厳、荘厳。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。