ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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外伝・How Much to Miracle

 

 

 

「フッ──!」

 

そのウマ娘は、力強くトレセン学園のターフを翔る。美しく、力強く、それでいてどこか脆く儚げな雰囲気を絶えず身に纏ったまま、そのウマ娘はただ只管にスパートの練習を繰り返していた。

 

 

「キャー! ミラクル先輩超格好良い!」

 

「ちょっと! 絶賛練習中の先輩に色目使わないでよ!!」

 

「大丈夫です~! 超集中モード(ああなった)時の先輩は私達みたいな外野なんて気にするような人じゃないもん!!」

 

「……自分で言ってて悲しくならないの、それ?」

 

キャーキャーと外周から掛けられる声援を単なるノイズではなく好意的に受け止めることで力に変え、その儚げな雰囲気を携えたウマ娘──ケイエスミラクルはターフをひた走っていた。

儚げで超絶美形の髪型ショートカット。トドメに一人称「おれ」──在校生2000人を超えるトレセン学園でなお、彼女を知らないウマ娘は少ない。なにせトレセン学園の学園祭。その演劇、もしくはダンスの演目で‘相手を務めて貰いたいウマ娘’トップ5の常連ウマ娘だ。あくまで噂だが、所謂‘ガチ恋勢’から本気の告白をされた事もあるという。

 

 

「仮にああなった先輩が自分から足を止めるとしたら、例のお嬢様か──」

 

「う゛う゛ぉおおおおおおおおん! これで三日連続でお嬢からの既読スルー!! マジ卍の下げみざわー!! いくらチームの合宿中とはいえ、この超絶塩対応はああぁんまりだぁあああああああああ!!」

 

「…………あの切り株の穴に向かって泣き叫んでる人ぐらいでしょ……」

 

はぁ……と溜息を付いて、トンでもない声量が聞こえてきた方を見ると、案の定あの人──ダイタクヘリオスが溜った鬱憤を晴らすが如く、鬱陶しいシャウトを泣き叫んでいた。

 

ダイタクヘリオス──ケイエスミラクルを越える、トレセン学園屈指の有名人だ。ただし、彼女の場合‘良い意味でも悪い意味でも’という前置きが付く。所謂‘今時のギャル(パリピ)を体現したようなウマ娘で、例えどんな人物だろうが持ち前の陽気さで絡みに行く。イベント(楽しい事)に目が無く、毎日毎日「アッハハハハハ!」とバカみたいに笑っている。極希に気落ちしている時ですら、親友であるパーマーを中心にリア友達に「慰めてちょ!」と絡みに行くのだ。噂では、彼女に元気がない日はトレセン全体が妙に暗くなるとまで言われている。

 

 

「う゛ぉおおおおおおおおん!」

 

「……ねぇねぇ、いい加減誰か止めてきなって。チケゾー先輩みたくなっちゃってるよあの人」

 

「えぇ……。いやだよ絶対ダル絡みされるじゃん…………あ、案の定ミラクル先輩が足止めちゃってる」

 

超集中モードに入っていた筈のケイエスミラクルが足を止め、いつもの事とばかりにヘリオスの方へ近づいていく。

 

 

「やぁヘリオス。またルビーにあしらわれたのかい?」

 

「それな!」

 

待ってましたと言わんばかりにミラクルに縋り寄るヘリオス。情緒が不安定で表情をグチャグチャにさせる彼女に対し、ミラクルは至極自然体な表情と態度だった。それは彼女と付き合っていく内に自然と身についた物か、或いは最初から自分にはそういう才能があったのか。兎にも角にも、ケイエスミラクルはメジロパーマーとダイイチルビーに次ぐ‘ヘリオス係’なのである。

 

 

「うーん……。確かに合宿中とはいえ、彼女が三日も既読スルーをするのはちょっと変かもしれない。参考までに、君がどんな呟きをしたのか聞いても良いかな?」

 

この時点で大方の予想は付いていたものの、一応、念の為にヘリオスにどんな呟きをしたのか聞き出す事にしたミラクル。すぐさま「おk!」と色好すぎる返事と共に、魔改造された(デコられた)スマホの画面が突き出された。

 

 

「…………えっと、ヘリオス。流石に朝昼晩を問わずにこの数の呟きはどうかと思うよ、おれ」

 

やはりというか何というか、質の問題ではなかった。(特段質が良いという訳でも無いが)単純に呟きの数が多すぎるのである。

 

 

「えー? でもいっぺんに大量の文読むのってマジ辛くね? 小分けにした方が読みやすくね?」

 

「本読んでるんじゃないんだし」とヘリオスは言うが、幾ら小分けにされて読みやすいところで区切られているとはいえ、全体の文章量が変わっていないのなら意味がないではないか。内容も「いま何中?」とか「いつ帰ってくるの」とか「帰ってきたらめっちゃ構って貰うからね」と簡潔に結論づけられる物が殆どだった。

 

 

「ルビーもきっと忙しいんだよ。そうだね……数を打つんじゃなくて、一文に愛をギューッと込めた方が良いんじゃないかな?」

 

「!!! なる! 確かにどこかで似たようなこと聞いた事ある!!」

 

ルビーから既読スルー続きで少々躍起になってしまっていたと自覚したヘリオスは、早速とばかりにUMAINEを開くとたった八文字だけ打ち込んで送信。先ほどまで泣き叫んでいたとは思えない晴れやかな笑顔でミラクルにお礼を言った。

 

 

「マジでサンキューミラッチ! おかげで大切な事を思い出せた気がする!!」

 

「それはよかった。あ、ついでと言ったらなんだけど、もし良かったらこの後併走出来ないかな?」

 

「マ? ウチはもちろんおkだけど……大丈夫なん?」

 

色んな意味を含めたヘリオスの言葉に、ミラクルはふふっと笑って返す。

 

 

「大丈夫、今日は足の調子が良いんだ」

 

「そっか……。したらトレぴっぴに‘ミラッチと併走する’って言ってくんね!」

 

悩みが解決したからか、実に軽やかな駆け足でその場を立ち去るヘリオスの後ろ姿に一種の羨望の眼差しを向けながら、ミラクルは小さな声で静かに呟く。

 

 

「──奇跡っていうのは、ただじゃないからね」

 

こういう調子が良い日に出来る事をやっておかなくては、成せるはずだった事も成せなくなる。いつか奇跡を起こすその日に向けて、やれるべき事はやっておかなくては。

そうして己を奮起させたミラクルは、まずはとばかりに改めて全身のストレッチを開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「──『愛してるぜ!!!』──全く、本当に鬱陶しい人ですわね」

 

 

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