「結局の所、世代の主役たる
新聞記者である藤井泉助は、自社である新聞社の会議室で‘ある記事’を広げながら熱弁する。彼が語るのは今期クラシック世代最強と目されている‘トウカイテイオー’の不在と、それが周囲に与える影響についてだ。
日本ダービー後に骨折が判明したトウカイテイオー。記者会見によれば全治には最低でも半年以上かかるという。11月開催の菊花賞にはギリギリで間に合わない。
「無論、クラシックレースだけじゃあらへん。仮にテイオーの復帰が予想以上に長引いたとして、彼女不在でこの先この世代が戦っていけんのかっちゅー事や」
クラシック級が終われば次はシニア級が待っている。何年もウマ娘レースを走ってきたような怪物たちとも戦わなければいけないし。新しいクラシック世代のウマ娘達だって続々と台頭してくるだろう。
シニアには現役最強と言われる芦毛のウマ娘‘メジロマックイーン’が。ジュニア級には「私は皇帝ルドルフを超える」と記者会見の場で宣言してみせた‘ミホノブルボン’が。そして来年にデビューを控えたウマ娘の中には計算され尽くした圧倒的なレースを繰り広げる‘ビワハヤヒデ’が。その他にも評論家達を‘こいつは凄いぞ!’と唸らせるウマ娘が上にも下にもゴロゴロいるのだ。
そういった強力なウマ娘達を前に‘テイオー世代’のウマ娘達は戦っていけるのか。
「──いけるにきまっとるやろ」
自分で提示した根拠を全て無に返すような発言をする藤井。ザワザワとざわめく同僚達を焚きつけるべく、藤井は声を張り上げる。中長距離だけではない。マイルに短距離にダートに障害に、自分達の知らない所にこそ、輝く原石がきっとある筈だ。
「──探せ」
まだ発掘されていない原石を。‘テイオーの代わり’はおろか、彼女を越える可能性のあるウマ娘を──!
「全力で探しだすんや! 第二の主役を──!」
「──で? 速攻で躊躇無く俺に連絡を取ったと?」
朝早くから掛ってきたその電話にしかめっ面になりながら、柴中は応答する。
「いやー、やっぱこういうんは柴中はんの右に出る者はおらん思いましてね? 三坂さん、たづなさん、沖野はん、南坂はん、東条はん……みんなそう言ってましたで?」
柴中は「……はぁぁああああ……」と深い溜息を付きながら、次に何を言うべきか迷っていた。やはり厄介事を自分に押しつけてきた者達に、報復として藤井に情報を流してやるべきだろうか。否、流すのは決定としてどうやってこいつをあしらおうか。
「つい昨日強化合宿が終わったばかりで疲れている──」とでも言えばこの場はくぐり抜けられるだろうが、それはつまり「じゃあ何時なら空いてます?」という
「……第二の主役を探してるって言ってたな?」
そうだ、だったらこう返そう。時期的に少々早いかもしれないが、両者共に良い焚きつけになるかもしれない。
「そうそう! なんかいませんかね? こう──「来年の春以降で良いならいるぞ」──っとマジですか!」
柴中が「来年の春以降」と言ったのは気に掛るが、それはつまり彼が眼に掛ける程の
「つーことで来年の春以降になったら教えてやる。それまでは自分達の眼で良さげな奴を探しな」
「ら、来年!? ちょっとそんなご無体な──」
「こっちは強化合宿終了直後で疲れてるんだよ。仮にも記者なら相手側の予定ぐらい把握しといてくれ」
一応断っておくが、藤井は相手側の都合を把握して無かった訳ではない。一記者として、トレセン学園屈指の強豪チーム「ステラ」の予定ぐらいキチンと分かっていた。毎年夏に行なわれる強化合宿は勿論、普段の練習風景も「一つの情報」として過度な露呈を嫌がると分かっていたからこそ、強化合宿中は連絡を取らなかったのだ。
「ま、楽しみにしてな。今期には前人未踏の記録を打ち立てられるかもしれないウマ娘がいるかもしれない──って」
それを最後に、柴中は今度こそ通話を切って年に数回できるか否かの