ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。
不定期更新はもう暫く続きます。


風が吹くまで 2

 

 

「ふっふっ、はっはっ。ふっふっ、はっはっ……」

 

突然だが、坂路トレーニングの基礎基本は‘慣れ’だ。それも、これと言って決まった形があるわけではない。

 

どういうフォームをしながらどんなペースで坂を登るのが一番自分にあっているのか……。それを見定めることが出来るまで永延と走る事が必要になる。効率だけの話しでは無く、‘自分に合った

登り方’を己の感覚で掴み、各所を修正しつつ、物にしなければならないのだ。

 

さて、それを踏まえて今現在トレセン学園のグラウンドで坂路トレーニングをしているウマ娘──ダイナマイトダディのそれを見てみよう。

 

 

フォームはとても良く、ペースも己のそれをキチンと維持する事ができている。一糸乱れることなく──とは流石にいかないが、トレーニング時間の割には十分な余裕もある。正しくお手本にしたくなるような、そんな感じだ。

 

 

「ふぅ……今日のノルマはこれで終わりっと」

 

しかして十分な余裕があるダイナマイトダディだが、追加でトレーニングをしたりはしなかった。トレーナーに指示されたトレーニングメニューは全部こなしたし、今の自分に必要だと思える感覚も掴んだ。トレーナーが今自分の傍にいれば相談の上で追加トレーニングをしても良いが、生憎と愛しのトレーナー()は今日トレーナー同士の勉強会で不在なのである。ならば今日は早めに上がらせてもらおう。──そう思ったダディが、鞄からペットボトルに入った水を取り出して飲んでいた時だった。

 

 

「お疲れ様です。シスター・ダディ」

 

「ダディちゃーん!」

 

「あら、お疲れ二人とも」

 

聞き馴染みのある声が二つ、背後から掛けられる。ダディと同じクラスのシスタートウショウとヌエボトウショウだ。

 

 

 

「私もね、今日はもう上がっちゃうんだー。トレーナーも勉強会でいないし、つまらないからシスターちゃんと一緒にお出かけするの」

 

「仕方が無いでしょう。幾らトレーナーといえど、四六時中つきっきりで私達の面倒を見ていただける訳ではないのですから。……トレーニングが出来ないよりはマシ、と考えなさい」

 

そう言いながら、左足を軽くさするシスタートウショウ。既に知らされていた事だが、シスタートウショウは今年のオークス直後に全治一年以上の骨折が判明した。現在はリハビリのためにウマ娘専用のリハビリステーションに通う日々が続いている。『何れ必ずターフの上に戻ります』とは彼女の弁だが、やはり内心では相当キていると見える。「うーん」と腕を組んで何やら考えるダイナマイトダディ。

 

 

「あのねあのね、シスターちゃんってね、ゲームセンターに入ったこと無いんだって! だから連れていってあげるの!!」

 

「あらそう……ねぇ。そのお出かけ、私達も付いていって良いかしら」

 

「うん! っていうかダディちゃんも一緒に行かないかって誘うつもりだったし」

 

「ありがとう。それじゃあ……。ねえ! 私達これからお出かけするんだけど、あなたたちも一緒にどうかしら!?」

 

二人の了承を得たダディは、早速とばかりに隣のコースで合同トレーニングをしていた三人に声を掛ける。メンバーはヤマニンゼファー、シンコウラブリイ、そしてイソノルーブルだ。

 

 

「わぁ! 良いですね! お二人は?」

 

「構いませんよ。私達もちょうどあと一本で上がろうとしていたところですし」

 

「問題なイ。適度な休息もトレーニングの内だからナ」

 

「決まりね! 今日は早上がりして、みんなで街に出かけましょう!」

 

「「「おー!」」」

 

かけ声をピッタリ揃えた三人は、ラストスパートと言わんばかりに本日最後の坂路トレーニングを開始する。──それから約一時間後。

 

 

 

「えいっ! やっ! たぁ!!」

 

ピコピコと、イソノルーブルは手にしたハンマーで穴から出入りするモグラたちを叩きまくっていた。言わずもがな、ゲームセンターに設置されているモグラ叩きだ。やさしい~激むずまで難易度を選べるこの台は、驚愕のハイスコアをとある天才ウマ娘が叩き出してから何人もの廃人ゲーマーが挑んでいるのだが、未だにそのスコアは更新されていない。

 

 

「はぁはぁ……。やっぱり無理でしたかぁ」

 

「お疲れ~。ナイスファイトだったよ、ルーブルちゃん!」

 

「そうそう! 大健闘だったじゃない。私もそこまで上手い方じゃないけれど、不慣れでこれだけの点数をたたき出せれば大した物だと思うわ」

 

ここまでの挑戦者はイソノルーブル、ヌエボトウショウ、ダイナマイトダディだ。全員中々の健闘っぷりだったが、化け物染みたハイスコアの更新は愚か、上位ランキングに入る事すら出来ていない。

 

 

「‘コツ’があるんでしょうね。動体視力に任せて無闇矢鱈に叩けば良いという物では無い気がします」

 

ここまで見学に徹していた三人の内、シスタートウショウが客観的な意見を述べる。

 

 

「ん、シスターちゃん次やる?」 

 

「いえ、結構です。興味があるかないかでいえば有りますが、例え作り物のそれとはいえ、聖職者が無闇に暴力を振るうのは推奨されませんから」

 

予想していた返事だったのか「そっかー」と、ヌエボトウショウにしては珍しく即座に退いた。さて、残るはシンコウラブリイとヤマニンゼファーだが……。

 

 

「では私がやろウ」

 

先に名乗りを上げたのはシンコウラブリイの方だった。イソノルーブルからハンマーを受け取り、台の前に立つ。

 

 

そして「──ふぅ」と、小さく息を吐いた。傍から見ても凄まじい集中力だ。なんというか、彼女とその周りだけ別の時間軸になってしまったような感覚になる。──ゲームが始まり、モグラたちが元気よく穴から出入りする──それとほぼ同時。

 

 

「──はぁっ!!!」

 

ドドドドドドドドドッ!! とそれは凄まじい速さと勢いでラブリイはハンマーを振るう。‘叩く’と言うよりは‘薙ぎ払っている’と言う方が正しいかもしれない。兎にも角にも、今までの三人とはスピードと効率が段違いだ。「……凄い」とイソノルーブルの口から感想が漏れる。

 

 

「……これが限界カ」

 

記録は堂々の歴代五位。ラブリイは見事掲示板に掲載されるほどのスコアを叩き出したのだった。

 

 

「すごいすごい! ベスト5だってよ、ラブリイちゃん!!」

 

「驚いたわね……。確かゲームセンターに来るのも初めてって話しだったけど……」

 

「要するにどれだけ効率良く敵を打ちのめせるかだろウ? さきほどから敵の動きを何度も見ているからナ。いくつかあるパターンの内、全てを記憶してしまえば良いだけのことダ」

 

「パターンがありそうな事は分っていましたが、それをこの数回の内に記憶して対策を立ててしまうとは……」

 

‘戦士’の称号は伊達では無いと言うことなんだろうか。どこどなく誇らしげなラブリイだが、彼女自身は「まだまだベストな動きではなかっタ」と謙虚に構えている。

 

 

「お前はどうすル、ゼファー」

 

「……私ですか?」

 

「ああ」

 

うーん、と腕を組んで悩む。別に参加しても構わないが、少なくともハイスコアを更新出来るとは思えない。思えないが──

 

 

「──分りました、やってみます」

 

姉達がやっているのを何度も‘見たことは’ある。そこそこの点数なら採れるばだろう。ハンマーを受け取り、台の前に立つ。投入口に100円を2枚入れて、‘その時’が来るのを待った。軽快な音と共に、モグラたちが元気よく穴に出入りを始めるのとほぼ同時──

 

 

「──いきます!!」

 

 

 

数日後

 

 

 

「あれ?」

 

「どうかしましたかテイオー」

 

「うん。ハイスコアランキングに見たこと無い名前が二つも載ってるから気になっちゃってさ」

 

「……6位に‘愛の戦士’。2位に‘姉達の影響’ですか」

 

「うんうん。初見だとしたらどっちも凄いよね。まぁこのボクには及ばなかったみたいだけどさ!!」

 

「随分と嬉しそうですわね」

 

「ん? そりゃそうでしょ──」

 

 

 

 

「だってボクと競り合いになる位の子だもん。レースでもゲームでも、強敵(ライバル)が増えるのは大歓迎さ!」

 

 

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