ソウル・オブ・ゼファー   作:部屋ノ 隅

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風が吹くまで 6 SS

 

 

「……ふぅ」

 

中山レース場の最前席……の、更に前。最早お馴染みとなった関係者専用席で、柴中は軽く溜息を付いた。特段疲れている訳でも眠いわけでもないのだが、ここ最近はゼファーとルビーの最終調整で随分忙しかった。「お疲れですか?」と柴中の隣に座っていたニシノフラワーが聞いてくる。

 

 

「いや、一心地付いたなって思ったら自然と出てた」

 

「そうですか……。もしお疲れでしたら遠慮無く言ってくださいね?」

 

「そうだよトレーナー! ただでさえチームステラ(私達)の面倒を見てるのに、お願いされたら他の娘達のトレーニングにまで口を出して、メニューまで考えるんだもん。疲れが溜まってるなら早く言ってね?」

 

「ああ、ありがとな」

 

ニシノフラワーとヒシアケボノにお礼を言う。GⅠトレーナーとして忙しい日々を送っている自分を心配してくれるチームのメンバーにありがたさを覚えながら、柴中は前を向いた。

 

 

「それでどう? ルビーちゃんとゼファーちゃんの仕上がりは」

 

「万全……とは言い切れないな。特にゼファーの方はこれが初のGⅠ挑戦だ。負けるつもりで送り出したつもりは無いけど厳しい戦いにはなるだろうさ」

 

「ルビーちゃんの方は?」

 

「万全とは言えないけど、こっちは良い具合だな、気合の乗りようも力の入り加減も上々だ。入着は勿論、勝てる可能性は十分過ぎるほど在るよ」

 

「おお~」

 

三人でパドックの方を改めて見やる。何名かのウマ娘がパドックに並ぶ中、ルビー、ゼファー、そしてミラクルの三人がなにやら話をしている。

 

 

「ミラクルも良いな。前回が初のGⅠだったとは思えない落ち着き具合だ。二人に……否、俺達にとっちゃ厄介な好敵手の筆頭だろう」

 

「……勝てるでしょうか」

 

「さぁな。順当に行けば可能性は十分あるけど、ゼファーは兎も角ルビーは他のウマ娘達からマークされるだろうし、レースに絶対は無い。予想外の展開や事態が起こって有力なウマ娘が着外になる──なんて事があるのも珍しい事じゃないからな。ほら、ついこの間もあっただろう?」

 

「……天皇賞・秋の事ですか?」

 

「ああ」

 

相槌を打って、それから暫くの間沈黙が流れた。数ヶ月前に行なわれた天皇賞・秋でのメジロマックイーンの降着騒動。彼女にとって天皇賞春秋連覇が掛った大事な一戦で、見事に華々しい勝利を飾った──かと思われたその後。スタート直後に複数名のウマ娘の進路を斜行妨害したとして、メジロマックイーンは最下位に降着。当然ニュースを始めとした各種メディアにも取り上げられ、一時期は相当な騒ぎになった。

 

 

「トレーナーも相当怒ってたよね。沖野さんの胸ぐらを掴んで『テメェマックイーンにどういう指示しやがった!!?』だもん」

 

「大外を引いたら終わり──って言われてる天皇賞・秋のコースにも問題の一端はあれど、だからといってスタート直後にインに入りゃ良いってもんじゃない。あれは何度も何度も試行錯誤と専用の練習を繰り返して、初めて成立する策だ」

 

それを怠ったというのであれば、実際に斜行をしたマックイーンと、降着処分(そうなる)可能性が高い指示をした沖野にこそ、根本的な問題があるだろう。GⅠ免許の剥奪と数週間のトレーナー業務の停止処分……自宅謹慎程度で済んだのは奇跡に近い。なにせ、一歩間違えれば選手生命を絶たれるような怪我をしたウマ娘がいても不思議じゃなかった。実際、斜行の影響を一番受けたとあるウマ娘は、競走能力が三割ほど落ちるほどの大怪我を負ったのだから。

 

 

「そんな訳だからこのレースがどうなるか──なんて誰にも分らないよ。俺達が今から出来る事と言えばただ一つ。レースが何事もなく無事に終わってくれるのを祈るだけさ」

 

 

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