ワサドラ村……もう俺の中では町と言っても遜色ない、そんな規模の村の中で、ひときわ大きな3階建ての建物があった。
石造りで、よく言えば迫力のある、悪く言えば雰囲気の悪い、そんな建物だ。
なんとなくバサルモスを連想させるのもよくない。俺のトラウマを刺激してくる。
「でっかいなぁ……。」
現代日本で様々な巨大建築物は見てきたはずなのだが、この建物のもつ独特の雰囲気はすごい。
威厳を感じるとともに、おどろおどろしいような。
どこか、入ってはいけないところ感じてしまう。
まあ入るんだけど。
石造りの建物の入り口には、「ワサドラ冒険者ギルド」という看板が掛かってある。
とりあえず入ってみた。
正面と右手にカウンターがあり、何人かのハンターのような人が、受付の方々に対応を受けている。
左手は食事をするところまであるようだ。というよりも、酒場のような雰囲気だ。
さすがにこの時間に飲んでいる人は少ないのか、閑散としている。
天井には、まるで市役所のように案内板があちこち垂れ下がっている。
迷わずに「冒険者登録」の窓口まで来ることができた。
「冒険者の登録に来ました。」
なるべくにこやかに、受付の女性に話しかける。
第一印象は大事だ。社会人の基本にして全てと言ってもいい。
「こんにちは!ハンターの登録ですね?」
「は、はい。」
緊張して声が裏返ってしまったが、逆に初々しい印象を与えられたようで、にこやかに応対してくれた。
お姉さんは、おそらくギルドの受付の制服と思しき服を身にまとっている。
受付台に隠れて上半身しか確認できないが、めちゃくちゃ美人さんだ。
「それでは、こちらをご記入下さい。代筆や代読は必要ですか?」
「多分大丈夫です。…もし必要ならお願いします。」
「わかりました!」
自分が文章を書けるのか、読めるのか、それさえ分からない。何とかなるだろうと思って返事をしてしまったが、文字なんて転生してから書いてない。大丈夫だろうか……。
「はい!ありがとうございます。きれいな字でとても読みやすいです!」
……普通に日本語を書いたつもりなのだが、ほめられてしまった。
これもギフトの一部なのだろうか、鉛筆で文字を書くとき、思いのままに書くことができた。
次は、受付のお姉さんとの簡単な面接が始まった。
「ソウジさん……ですね。ハンターズギルドは、その方にあったクエストを紹介・斡旋し、ハンターの方々と依頼主が同時に笑顔になれるよう、お手伝いをする機関です。そのため、ハンターとなられた皆さんには、必ずこうして簡単な面接を行っています。たくさん質問しますが、よろしいですか?」
それは納得だ。犯罪者やよからぬことを企むやつはどこにでもいるものだし。
「はい、大丈夫です。」
「それではよろしくお願いします!ではまず……。」
質問に答えていく。
「答えにくい質問は、お答えいただかなくて大丈夫ですよ。ではまず、ご出身は?」
「えと、覚えが無くて……。」
「……記憶があやふやということですか?……では、得意な武器種やハンタースキルなどはございますか?」
「ぶ、武器ですか?ちょっとよくわからなくて……。」
「……では、以前なされていたお仕事などは……?」
「えと、資材管理です。クライアントに資材等物品を納品する業務の傍ら、そのシステムの構築や改善、現地の担当者との交渉など、あらゆる部門で仕事を行ってきました。」
思わず転職活動中の決まり文句のようなことを言ってしまう。
この世界に商社という概念があるかは知らないが、お姉さんの表情が「ぽかーん」としている。
多分この答え方はよくなかった。うん。
「な、何かしらの商いを行っていた、ということですよね?」
「そ、そうです。」
フォローされてしまった。
だ、だんだんとお姉さんの顔が曇っていくぞ……。
* * * * * *
結局面接は10分ほどで終わってしまった。
最後辺りの「あ、ダメだこの人何もわかっていない。」的なお姉さんの顔は忘れられない。
適正武器とか言われても、わからないものは分からない。
必要なら買うべきなのだろうが、そんなお金は無い。
稼ぐためには仕事をしないといけない。
その仕事はハンター。
……詰んだ気がする……。
ハンターズギルドに登録され、無事にハンターになることはできた。
だがお姉さんは「ごほん」と咳をすると、少し険しい表情で俺に話しかけてきた。
「ソウジさん。これでハンターに登録することはできました。ギルドカードは、もうすぐお渡しできます。ですがその前に、私からソウジさんに一つ、ご提案をいたします。」
「は、はい。たいへんありがたい限りです。」
「まずハンターになられる方々の多くは、大きな街の養成所や、出身の町や村でハンターとしての経験を積み、ギルドに登録なさいます。」
「そ、そうなんですね。」
養成所なんてあるのか。
「確かに、全く何も経験の無い方が、いきなりハンターになるというケースも珍しくはありません。」
「はい。」
「ですが……そういった方々は。9割方辞められるか、行方不明になられます。」
「……わあ……。」
「我々ギルドは、ハンターになる方を止める権利はありません。ですがこの状況を良しとしてはおりません。こんな村ですので、村付きのハンターになってくれるなんて、とってもありがたいんです。」
切羽詰まっている状況なのですか?とは聞き返せない。
俺はかなりの異端みたいだから。
「ですので、せめて武器の扱いや採取の仕方といった最低限のスキルを身に付けていただければ……ということになりました。初心者ハンターの育成機関を、ギルド側でも設けることにしたのです。」
「それは、ありがたいことです……」
「ですので!ソウジさん。講習会に参加して下さい!私たちが精一杯ハンターさんのサポートをします!先ほども申し上げましたが、村に貢献できるハンターさんになって下されば、私たちもありがたいんです!」
そうか、何のスキルもない俺みたいなやつが、だれでもハンターになれる。
よほどの食い詰めた者もやってくるに違いない。
一攫千金を求めて。
一種の救済機構のようなものなのかもな……。俺は今、この世界の社会の底辺にいる。間違いなく。
その後、受付のお姉さんから、ギルドの講習会の日程を聞いた。
何でも、新人ハンターが割と増えているらしく、そのほとんどは、さっきの話みたいに行方不明やら失踪やらあるいは……。
なので、その講習会とやらは、ほぼ毎日開設しているらしい。
しかも現役ハンターさんが。
ギルドカードと呼ばれる、ハンターの免許証みたいなものももらえた。
発行に銀貨5枚はかかるらしいが、ギルド側からお金を借りる形で払ってしまった。
正直財布の中が心許なかったので助かった。絶対に返そう。
そのまま明日の講習会の予約を行い、俺はギルドを後にするのだった。