ここまで続けられたのも、読んでくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます。
200とか300とか続けていらっしゃる作者さん、本当にすごい……。
ゆっくり進んできたソウジの話も、折り返しが過ぎています。
もう少しお付き合いいただけると、嬉しいです。
セツヒトさんが帰郷した。
とは言っても近くにある村、アヤ村にだけど。
セツヒトさんは歩いて向かうそうだ。
何でも山道を突き抜けたほうが早く行けるのだとか。
……そんな裏技ができるのはあなただけですよ!!
とは言わなかった。
そう、俺は女性を傷つけない人間。
ジェントルメェン。
残された俺たち……俺とハイビスさんは、それはもうギクシャクしてしまっている。
何故かって?
……セツヒトさんの爆弾発言のせいだよ!!
『二人っきりだよー?』
『だよー?』
『だよー?』
これである。
頭の中でエコーで繰り返される声。
……意識するなと言われても。
目の前にいるのだ。
女性が。
超絶美人さんが。
ワサドラじゃ人気ナンバーワンの花形受付嬢、ハイビスさんが。
今日だって、受付嬢の制服の上に白いモッコモコのコート。
白い布地に金髪が、最高に映えていらっしゃる。
こんなんどんな男でも余裕でイチコロだろう……。
……だが!
俺は女性を傷つけない人間。
ジェントルメェン。
「そ、ソウジさん。それでは、行きましょうか。」
「は、はい。いきましょうね!!」
オレたちは、それはもうウルトラギクシャクしながら、ログハウスを出た。
ギルドに向かうだけなのに、やたらと緊張してしまう。
「そ、ソウジさん!きょ、今日もいい天気ですね!」
「そうですね!……すんごい曇ってますけど……。」
「えぇ!?……あ、ホントだ……。」
すごい顔をして空を見上げるハイビスさん。
思わず笑ってしまう。
「……ぷっ……ははははは!」
「えっ!?えっ!?」
ハイビスさんが俺以上にテンパっていたからか。
……なんか少し落ち着いてきた。
「はー笑った……ハイビスさん。」
「は、はい!?」
「……やめましょう、これじゃ俺たち、疲れるだけです。いつも通り、やりましょうよ。」
「……それも……そうですね。」
「はい……それに俺、紳士なので。……信じてはもらえないかも知れませんが。」
「いえ……信じますよ。むしろ、信じ切れるからこそ、ダメだというか……?」
「ダメなんですか!?」
「い、いえ!……ととととにかく!ギルドに行きましょうね!」
雪道の中、いつもと違う二人だけの出勤。
俺もハイビスさんも、そこからはいつも通りに話すことにした。
セツヒトさんがいなくても、なんとかなるかなぁ……などと。
考えていたのが甘かった。
事件は夜に起こった。
* * * * * *
今日はセツヒトさんもいないということで、小型のクエストを受けることにした。
野生のポポの肉を納品するというものである。
とは言っても、やることはただの討伐。
俺はポポを狩猟し、回収班が肉体をそのままギルドまで輸送するのである。
いつだか、疲労困憊の中、アオアシラを解体した思い出が蘇る。
すっごく大変だったなぁ……。
というわけで、慎重にクエストを選んでみた、というわけである。
結果は上々。午後までに目標の10体を倒すことができた。
野生のポポは、比較的大人しい性格である。
狩ること自体はそこまで難しくない。
群れで移動していることが多いのだが、一頭を仕留める間に他のポポは逃げてしまう。
なので、追いかけっこになるのだが……注意点が一つ。
実はたまに、ポポの中にガムートの子供が紛れ込んでいる事がある。
間違えてその群れを襲ってみたらどうなるか。
答えは簡単。
怒り狂った巨体のガムートが、「うちの子に何しとんじゃコラァ!!」と突っ込んでくるのである。
これは怖い。
群れを遠くから観察し、慎重に狩猟対象を見極めなければならない。
……万が一を考えると、上位クエストに分類されているのも頷ける内容である。
今回は何とかなったが、できればやりたくないクエストだな……と狩猟中に思ってしまった。
やり切ったけど。
ギルドに完了報告をしたら、いつものように素材の分配の話に。
これまたいつものようにハイビスさんにお願いしていると。
いつもとは違うことが起きた。
「ソウジさん……ポポノタンが余っているそうですよ……!」
「な、なんですって!?」
「シッ!小さい声で!……先ほど回収班の方から聞きまして……狩猟したソウジさんに少し分けてはどうかと言われまして……!」
「ま、マジっすか……!」
ひそひそ声で話す、俺とハイビスさん。
それもそのはず、ポポノタンは超希少部位の肉。文字通り、ポポの舌。
一回だけ、村長さんのお裾分けをもらったことがあるが……まぁうまかった。
美味かった。マジで。
タレとか塩とかいらない。
そのままいけた。
タレ付きの肉を先に網に乗せるとかされたら殺意が湧くレベルで、美味かった。
それが本日、頂けるのかもしれない、というのだ。
……っ是非!いただきたい!!
「ハイビスさん……ぜひ、お願いします……!」
「はいっ……!伝えておきますね……!」
「今日は焼肉です……!」
「……!(ニッコリ)」
超満面の笑み。
……美人のいい笑顔って、すげえわ。破壊力。
ひそひそ声で、話を続ける。
「でも……何でポポノ……例のお肉が余ったんですか?」
「何でも、ポポの狩猟クエストを受けた方が今日は多かったらしいですよ?それでダダ余りになっても仕方がないよな、って……回収班と解体班の方かおっしゃっておりました。」
「なるほど……美味しいお肉にありつけるなら、ありがたいですねぇ……。」
「えぇ……今夜が楽しみです……!」
今夜が楽しみとか、変な意味ではないことは理解している。
……邪推してはいけない。俺はジェントルメェン。
「それでは、よろしくお願いします……!」
「はいっ……!」
軽やかに返事をしたハイビスさんは、ニコニコで業務に戻っていった。
よし、今日は焼肉だ。
万全の準備をしよう。
部屋の中……暖炉で炙るという手もあるな……。
……いかん、涎が止まらん。
夜を待とう。
食材の買い出しをして……ログハウスで装備の整備と、訓練でもするか……。
俺はルンルン気分で、ログハウスまでの道を歩いて行った。
* * * * * *
「よし……準備完了。」
今日は焼肉である。
だが、ポポノタン様だけではいけない。
少し高めのお肉と新鮮野菜を買い集めてきた。
流石に野菜を切るぐらいはできるので、準備を終わらせた。
「あとはハイビスさんを待つばかりだな……。」
そういえば。
焼肉を一緒に食べるカップルは、かなりの深い仲であると、何かで見たことある。
根拠は知らんが。
安易に焼肉と言わない方が良かったかも。
ただでさえ二人きりの夜のなのである。
……俺が意識してどうする。
そもそもこの世界にそんな概念なんかないだろうし。
……でもなぁ……サウナでハレンチとか言われる倫理観だしなぁ……よくわからん。
慎重に夕飯を食べるとしよう。
ザッザッザッ。
お、外から足音が聞こえてきた。
雪を踏みしめる音……なのだが……ハイビスさんにしてはちょっと重い?感じがする。
ドンドンドン!
「ソウジさん!いますか!?ソウジさん!」
「は、はいはい!ただいま!」
この声は……いや誰!?
女性みたいだが……分からん、とりあえず出よう。
ガチャッ。
「はい、どなたでーーー」
「あぁよかった!すみません!私、ハンズです!」
「ハンズさん!どうしました?」
玄関を開けてそこにいたのはハンズさんだった。
昨日、ザボアザギルから助けた女性。
息を切らしながら、青い顔をしている。
……ただごとではないな。
「……緊急事態ですか!?」
「は、はい!……す、すみません!とにかく、ギルドへ来てください!」
「わ、分かりました!」
「あ……そ、装備もお願いします!」
「装備!?」
……流れがマズい。
これは、おそらく。
「はい、出たんです。ヤツが……。」
「ヤツ……。」
「ご、轟竜……ティガレックスが!」
「!?わ、分かりました!先に行っていてください!すぐに向かいます!」
「はい!分かりました!」
バタン!
ザッザッザッ……
よりにもよってセツヒトさんがいなくなったこの日に。
最悪の事態が起きてしまった。
轟竜ティガレックス。
話には聞いていた、あの怪物が。
出てしまったのだった。
しかしなぜハンズさんが?
……疑問は尽きないが、とにかく急ごう。
* * * * * *
「お待たせしました!」
「あっ!ソウジさん!」
「お待ちしておりました!こちらへ!」
ポーチで一瞬で着替え、暖炉を消してすぐにギルドにやってきた。
早速ハイビスさんとアワキ村長に呼ばれ、集会所の隅の長机に並ぶ。
慌てた様子の村長さんが、話し始める。
「急なお呼び出し、申し訳ありません……何せもう、ソウジさんしか頼れる方がおらず……。」
「気にしないでください。それより、ティガレックスは……。」
「それは……私から説明します。」
ハンズさんから説明を聞く。
ハンズさんは第一発見者だという……今日は俺と同じ、ポポの討伐に出かけていたらしい。
「私が狩場について、群れを確認していた時……ヤツが山上から突っ込んできました。」
ハンズさんがポポの群れを確認している時、ティガレックスが奇襲。
観測されてもいないモンスターの急な出現。
それは驚いたことだろう。
「それで、すぐにギルドに報告しなきゃって思っていたら……今度はガムートがティガレックスに突っ込んできて……。」
「うわぁ……。」
「怪物同士の大決戦だな……。」
顔を顰めるハイビスさん。
恐ろしい戦いが繰り広げられたのだろう。
「私もそこからはよく見てないんですが……一人でしたし。とにかく安全最優先で戻ってきたんです。そしたら……。」
「あっ、そこからは私から説明します。」
ハイビスさんが手を挙げる。
「観測班も完全に見落としていたのだと思います。全く出現の話はありませんでしたから。申し訳ありません。」
「いやいや、大型は本当に分からないですから。」
「……すみません。それで慌てた観測班からの報告では……ガムートに追われたティガレックスが、タオカカとミヨシを結ぶ街道のすぐ横に居座っている、と……人里をすぐに襲ってもおかしくないような場所です。」
「……。」
「ソウジさん。」
今度はアワキ村長さんが話し始めた。
「現在、ミヨシにいる上位ハンターは4名……逗留を終えて村を出る方が増えまして、その影響で……そのうちティガレックスと交戦経験がある猛者は一人も……。唯一、セツヒトさんがいましたが……。」
「セツヒトさんは今、ここにはーーー」
「はい、ハイビスさんから聞きました。」
知っていたか。
「……それで、俺っていうわけですね。」
「はい……そしてさらに悪いことに……。」
「……まだ何かあるんですか?」
「アヤとミヨシを結ぶ街道が、雪崩で堰き止められておりました。」
「……。」
驚きすぎて言葉もない。
それじゃ、アヤ村に救援を呼ぶ……もといセツヒトさんを呼ぶことができない。
あの人単体が来るだけなら、山道をすっ飛んでくるかもしれないが……。
「明日朝になれば、報を飛ばして、アヤ、タオカカ両ギルドに連絡することは可能です。」
ハイビスさんが話し始める。
「ですが、相性の悪いガムートのいる群れに突っ込むほどの空腹であるティガレックスが、この村の目と鼻の先にいます……ポポ車のポポを狙ってこないとも限りませんし、時は一刻を争います。」
「……。」
「最近のポポの狩猟ペースは異常でした。正直に申し上げますが……生態系を制御できなかったギルドの落ち度です。それで、餌が減ったティガレックスが、ここまでやって来たのではないかと。」
「なるほど……。」
「近年の記録では、周辺にこの時期、ティガレックスがやってきたことはありません。厳冬なら、一昨年にも一頭撃退していますが……ハンターさんたちが減るこの時期に来るのは、初めてです。」
なんともまぁ、最悪の条件が揃ったな。
強敵、轟竜ティガレックスの襲来。
村の近くに潜んで、いつ襲われるかもわからない。
アヤ村に救援を出したいが、雪崩。
タオカカへ結ぶ道は、ティガレックスが潜む。
セツヒトさんは、不在。
タオカカとアヤに連絡は取れるが、それは明日の朝。
夜間にヤツに襲われたら、こんな小さな村、ひとたまりもないだろう。
話に聞くティガレックスの強さは、ゴシャハギさんに匹敵するか、それ以上だと言うし。
……ここまで状況が悪いと、逆に笑えてくる。
そして頼れるのは、俺しかいない、と。
「……村長さん、俺は……。」
「ソウジさん……無理にとは言いません。万が一にも襲われるかもしれない、ということです。」
「万が一、でいいんですか?村の近くにいるんですよね?」
「……え、えぇ。ですが、明日の朝になれば、周辺のギルドに知らせることはーーー」
「しかも空腹。村のポポを狙われたら、防ぐ手立ては俺しかいない。」
「はい……。」
村長さんの大きな体が、とても小さく見える。
ヨツミワドウなんて例えていたのが申し訳ないと思うぐらいには、縮んでしまっている。
「ソウジさん……ティガレックス1頭の狩猟、お願いできますか?」
ハイビスさんが聞いてくる。
少し前の俺なら、これは単なる自殺行為。
でも、今は違う。
ゴシャハギに敵ったという自信が、今まで冬の間頑張ってきたという自負が、ある。
この村に今、俺しかいない。
なら、やるしかない。
「……受けます。打って出ましょう。やってみますよ、そのクエスト。」
「そ、ソウジさん……!」
ガタッ。
村長さんが立ち上がる。
止めようとしてくれている。
スッ。
だが、それをハイビスさんが手で制した。
「アワキ村長、ソウジさんを、信じてください。ゴシャハギを倒したのは、まぐれでも何でもありません……ソウジさんの実力です。」
力強い目で訴えるハイビスさん。
村長さんもいい人だ。
そりゃ俺を無碍に殺したくはないだろうしな。
……だが、俺しかいないのだ。
村を、この数ヶ月過ごさせてもらった村を、守る。
やる理由としては、十分に十分すぎる。
先に動いて、ティガレックスを叩く。
この村に自分より強いものがいると分かれば、おいそれと手出しはしないだろう。
「ハイビスさん、ありがとうございます。俺、行ってきます。」
「はい!あっ……場所はこちらです!」
ペラッ。
地図が描かれた紙を渡される。
まぁ俺のギフトを使えば、相手の位置なんて丸わかりなんだが。
ハイビスさん。気遣い、恐れ入ります。
「……ご武運を。」
「はい……戻ってきたら、アレ、一緒に食べましょうね。」
「……ハイっ!」
さて、行くか。
夜の狩りなんて、久しぶりだけど。
まぁ、なんとかなるだろう。
やるしかないのだ。
やってやる。
待ってろ、轟竜ティガレックス。