モンスターに対しての相性。
これは、絶対的に存在する。
極端な話、遅くて鈍い、遠距離攻撃を持たないようなモンスター。
これはもう、ボウガンの出番だ。
じっくりと料理するかのように、少しずつダメージを蓄積していけばよい。
まぁそんな簡単な話では済まないのが、大型モンスターなのだが。
今、俺の目の前にいるモンスター。
絶対強者、轟竜ティガレックス。
……はっきり言おう。
双剣、めっちゃ相性悪い気がする。
俺はこれしかできないからしょうがないとして。
選択肢があったら、もう少し間合いの取れる武器。
防御できる武器を選ぶと思う。
「……グァァァ!!」
「やべっ!!」
ズドン!
凄まじい音。
ティガレックスが、その右の爪を振り下ろしてきた。
咄嗟に飛び退いたが、威力が凄まじい。
(もし急所に命中したら。)
戦いに、たられば話など、意味はない。
残るのは結果だけ。
だが、仮定してみる。
頭……胸……金的……。
……致命傷になるのは間違いない。
先程、足運びに失敗し、突進を食らった。
幸い牙には当たらず、両腕でガードできた。
ふっ飛ばされたけど。
……まだ、腕が痛い。
折れてはいない。
たが、その力を存分に味わってしまった。
「グァッ!ギャァ!!」
「くっ!ふっ!!」
避ける。避ける。
とにかく転げて、跳んで。
何とか攻撃を躱していく。
「はあっ……はあっ……!」
「グルルルル……。」
まずい。
息が上がってきた。
このままでは、ジリ貧。
削られて、削られて。
その先は…………。
(やべぇな……。)
今まで何度となく、命の危機に見舞われてきた。
……今回も、そんな予感がしてくる。
本能で感じる。
自分の死を。
「グァァァ!!」
「くっそ……!!」
突進攻撃。
明らかに、はじめより速い。
ぎりぎりで躱す余裕がない。
ティガレックスのスピードが上がり、俺のパフォーマンスは下がっている。
そんな余裕は、とうに消えている。
(だめだ!考えろ……!考えるんだ……!)
躱し続けながら、考える。
どうすればよいか。
生き残るには、コイツを狩るには、どうすればよいか。
当たり前だが、死ぬわけにはいかない。
俺が死んだら、村はどうなる?
壊される。
蹂躙される。
人も死ぬかもしれない。
守る。
みんなを。
これからも、ずっと。
ハンターとして、守り続けたい。
そして…………勝ちたい。
俺は、強くなった。
そんな自分を誇っている。
コイツに……勝ちたい!!!!
「…………よぅ、ティガレックス。」
「グルルルル……。」
絶対強者なんて、たいへん名誉な名前をもらっているモンスターに。
俺は呼びかけた。
「当たらなきゃ、勝てないぞ?」
「…………ギャァァァ!!」
咆哮。
だが、慣れた。
この音、多少距離を離せば、耐えられないことはない。
……体は竦んでしまうけども。
「っ……!……そんなに吠えて、余裕がないのか?」
「グルルル……。」
ジャキン……!
双剣を取り出す。
勇気を出せ。
振り絞れ。
相手はおそらく、俺史上最強。
だが、やらなければ、やられる。
このままだと、ジリ貧。
なら、やれることをやる。
「ほら、来い。」
正直言って、めっちゃ怖い。
だけど、そんなこと言ってられない。
意を決して、ティガレックスを呼ぶ。
……頭を回せ。
まずは……。
「グァァァ!!」
―――卑怯な手を使うぞ。
ドドドドド!!
挑発に乗ったティガレックス。
狙い通りの、突進。
だが、今度は避けない。
カチン。
―――した直後。
スドォン!
「ガァ!…………グアッ!!」
「っし!!おらぁぁぁあ!!!!」
一目散にティガレックスに、近寄る。
狙いは、その後自慢の牙。
穴にハマった、その顔めがけて、目一杯を。
(叩き込む!!)
ザン!ザシュ!ザザザザン!!
「グァァァァ!!」
落とし穴にハマり、もがくティガレックス。
頭は激しく左右に振られる。
その動きを読んで、的確に牙を狙う。
ギン!ガギン!!
ザシュ!!ザザザザン!
「グァァァ……!!」
激しく爪を立て、必死に落とし穴から抜け出ようとするティガレックス。
おそらくあと5……4……3……..2……1……!
(……退避!!)
「ガァァァァ!!!」
ズゥン……。
ズル……。
穴からようやく抜け出たティガレックス。
(……上手くハマってくれたな。)
卑怯な手。
そう、落とし穴を使った。
ギフトで。
俺のギフトは、アイテムを選べば、即使用が可能。
ポンッと選べばハイ不思議。
設置完了である。
目の前にいながら、何もしていないのに落とし穴ができていて、ティガレックスは困惑したことだろう。
……卑怯な手だ。俺にしか使えない手。
だがすまん。
このやり方しか、思い浮かばなかった。
「悪いな……ティガレックス。お前は強い。」
「…………グルルルル!」
「だから……。」
「…………ガァッ!!」
牙を立て、もう一度突進するティガレックス。
カチン。
バックステップ。
ビリビリ!!
「グァァァァァ!?」
今度は、シビレ罠。
罠ハメ、ってやつだ。
ディノバルトにやった、この戦法。
卑怯というほか、あるまい。
「うらぁ!!」
ザシュ!
「グァァァ!!」
「鬼人化……!!」
ザン!
ザシュ!ザザザザザ!ザザン!
「ギャァ!!」
シビレ罠の効力が切れる前に、離脱。
目一杯を、叩き込んだ。
「グルルルル……!」
「怒るよな……そりゃ。」
唸り声に、怒気がこもっている。
「こいつ、何しやがった?」って感じ。
はい、卑怯なことをしました。
神のギフトってやつです。
すんません。
「悪いな、こんなやり方しかできなくて。だが……。」
「…………グルルル……!」
ティガレックスは、二の足を踏んでいる。
困惑。
目の前の小さな存在が、何もしていないのに自分を2度も罠にはめた。
そう思っていることだろう。
すると、次は中々踏み込めない。
また何かされるのでは。
落とされるか、痺れさせるか。
はたまた違う手か。
「そして、賢いお前なら……。」
「…………グァッ!」
バッ。
後方に下がるティガレックス。
「距離を取るよな。そして……。」
「ガァァァァァァ!!!」
ズサッ!
ティガレックスが跳躍。
俺めがけて、爪を立ててくる。
(そう来るよな。)
地面になにかある。
なら、そこを飛び越えて、攻撃すればいい。
……賢いこいつなら、そう来ると思っていた。
(……ここっ!)
だが、動きがわかるなら、単純。
着地後に起きる、その技後硬直を狙って……。
「…………ふっ!」
ザッ。
俺はギリギリのタイミングでバックステップ。
そして。
(空中回転乱舞……!!)
着地後のティガレックス、その頭めがけて。
跳躍した。
「…………うらぁぁぁ!!」
「グァァァ!!」
ザシュ!ザザザザン!
ズザッ!ザザザン!
「よっと……!」
バッ。
攻撃後、すぐに距離を取る。
追撃は、しない。
「…………ガァァァァ!!!」
「っ〜!!」
凄まじい咆哮。
距離を取ってよかった。
近かったらあれ、鼓膜やられるぞ……。
「…………はあっ……はあっ……。」
「…………グル、グルルルル……!」
心なしか、ティガレックスも疲れているように見える。
攻撃が、効いている。
良かった、これでノーダメージとかだったら、心が折れるぞ。
「ふぅ……。」
「…………グアッ!!」
短く吠えるティガレックス。
だが、そこから動かない。
罠を仕掛けたら、絶対に地面を警戒すると思った。
ならば、ヤツの次の動きは何か。
おそらくは……跳躍して、俺に最短距離で攻撃してくる。
そう、読んだ。
罠が怖いなら、翔べばいい。
そう考えてくると思った。
賢い、こいつなら。
だから、その動きの裏をついた。
相手が着地する、そのタイミングを狙って、攻撃。
爪を避けながら、攻撃できる手段。
そう、俺も跳べばいい。
空中回転乱舞で。
「グァァァ!!」
「そしたら次は、……そう来るよなっ!!」
バッ。
再び後退したティガレックス。
間髪入れずに、繰り出す攻撃は。
(多分!岩飛ばし!!)
突進してもダメ。
跳躍してもダメ。
なら次は?
……遠距離攻撃だろう。
では、俺がやることは?
簡単な話。
(岩を飛ばす前に……近づく!!)
「鬼人化……!」
スピードを上げる。
少しでも速く、少しでも早く、ヤツの懐へ。
振り上げた爪が、地面を抉る前に。
「ガァッ!!」
狙い通り、地に向けて爪を立てようとするティガレックス。
だが、遅い。
動きは、読んでいる。
「…………あぁぁぁぁ!!」
「グァァァァ!!」
爪を振り下ろすその目の前に、辿り着いた俺は。
(回転……!)
その振り下ろされる爪を掻い潜るように、前へ、前へ。
見上げれば、ティガレックスの顔。
それに、めがけて。
「……ふっ!!」
(空中回転乱舞!!)
ズザン!
ザシュ!ザザザザザン!
ザザン!
回転しながら跳躍して、落下し始める体。
正面には、着地したくない。
ならば。
(このまま……背中を……!!)
「グァァァ!!」
急襲して来た俺に、声を上げるティガレックス。
その顔を確認する間もなく。
「ぬぁぁぁ!!」
ザシュ!ザザザザザザザザン!
ズザン!
ティガレックスの
背中を転がるように、斬撃を与え。
ズザン!
「ギャァ!」
着地。
場所は、ティガレックスの後方。
(……うまくいった!!)
バッ!
距離を取る。
「…………グル、ガァッ…………!」
「はあっ……はあっ……はあっ……。」
息を短く吐いて、呼吸を整える。
ティガレックスは、こちらに向き直る。
…………ティガレックスの動きが、遅い…………?
明らかに、ダメージを食らって辛そうにしている……ように見える。
(初めてやったが……うまくいったな。)
空中回転乱舞。
この技の最も怖いところは、技の後の硬直。
正面にいたままそれが起きては、致命傷を喰らいかねない。
だから、試した。
ティガレックスを見下ろしながら、何とかヤツの後方に着地する。
どうしたらいいか。
……背中を伝って行けばいい。
アホな発想だと思ったが、必死だった。
回転を上げ、坂を下る歯車のように、斬撃。
着地したのは、ティガレックスの後方。
狙いが、うまくいった。
(これ……もう一度やれって言われて……できるかなぁ……?)
厳しいと思う。
どうやってやったのか、自分事ながら何となくしか分からない。
分からないが……。
「グルルルル……。」
ティガレックスの、絶対強者の戸惑いを引き出すのには、十分な攻撃だったようだ。
威圧的な目をしながらも、ティガレックスは固まっている。
迷え、迷え。
そして、攻撃してこい。
俺は、その全てを。
「……受け切ってやる。」
* * * * * *
「ふっ!はっ!!」
「ギャア!!グアァ!!」
避ける。
仕掛ける。
動きを読んで。
あるいは、誘導して。
後の先を取る。
「……はっ!!」
カチッ。
バリバリバリバリ!!
「グァァァァァ!!」
シビレ罠が発動する。
急いで砥石を使用。
双剣の斬れ味を戻す。
(落ち着け……落ち着け……。)
罠にかかっているとはいえ、モンスターの前で研ぐのは怖い。
それがティガレックスなら、尚の事。
何度も何度も繰り返してきた動きなのに、体がこわばる。
「ふぅー……。」
深く息を吐いて、慎重に、素早く研いだ。
(3……2……1……。)
「グァァァァァ!!」
「くっ!!」
ダッ!
後退する。
刀は、研げた。
「何とか間に合ったな……。」
「グルルルルル……。」
ギリギリのところで、研磨が完了。
危なかった。
(シビレ罠の効力が、少しずつ短くなっている……耐性がついてきたか。)
体感、毎回1秒弱ほど、シビレ罠の効果時間が短くなってきている。
その計算に合わせて、カウントをしているが……。
(今までに使った罠は、シビレ罠3回、落とし穴4回……効果がどんどん薄くなってきているな……。)
罠を使った戦法は、いつまでも通じるわけではない。
モンスターも、慣れてくるのだ。
これは、教官から教わったこと。
そもそもモンスターの中でも最強と呼ばれる部類は、罠が効きにくかったり、或いは効果がなかったりするらしい。
この戦法も、潮時というわけだ。
(研ぐ時間ぐらいは、あと2、3回は稼げるかな……?)
冷静に考えて、研ぐ時間を確保できそうなのは、あと2、3回。
怒涛のように攻撃をしてくるこいつは、研いでいる暇など与えてくれない。
罠が効きそうな残りの回数的に考えて、それぐらいだと計算する。
「……グルルルル……。」
「またか……?何なんだ……?」
先ほどから、ティガレックスの挙動が、少しおかしい。
俺の攻撃を受け、ダメージを負ったと思ったら、一瞬だけ目が空を向くのだ。
こんな動き、他のモンスターには見られなかった。
何を考えている……?
スッ……。
考えても仕方のないことは、頭の片隅に一応置いておいて。
眼前のティガレックスに集中し、双剣を構える。
……動きを読んで、避けて、攻撃して。
かなりの数の斬撃を叩き込んできた。
牙の片方を破壊、尻尾の方も、恐らくもうすぐ斬れる。
なんとなくだけど、分かる。
そんな予感が、する。
……だが、違和感がぬぐえない。
先ほどから、ティガレックスがおかしい。
まるで、俺の攻撃を読んできているような。
何かを待っているかのような、そんな予感がするのだ。
「何を仕掛けてくる気だ……?」
「……グルルルル…………ガァァ……。」
突如、ティガレックスが伏せた。
いや、元から4足歩行なのだが、さらにその身を低くした。
攻撃の構え。
(……絶対に、避ける。技後硬直を、狙う。)
そんな考えを持った。
その直後。
フッ。
「!?」
ティガレックスが、消えた。
(何!?どこだ!?どこにいる!?)
落ち着けば分かることだった。
消えたのでは無かった。
ティガレックスは。
「グァァァァァァァァァァァ!!」
「なっ!?」
ただ俺に向かって。
ドガァ!!
「ぐぅぁぁ!!」
ドンッ……ドン!
ゴロゴロゴロゴロ……。
ドン!
木にぶつかる俺。
ティガレックスは突っ込んできただけだった。
(じゃあ何故見失った!?……一瞬消えた……いや!!)
全身痛む体を、起こす。
体中にまとわりついた雪は、無視。
とにかく、視認できる態勢に……。
……マジかよ……。
ティガレックスは、そこにいた。
だが、
どういうことか。
「月か……!!」
「……グルルルルル……。」
今までの戦いで、月明りを頼りに戦っていた俺。
だが、目の端にとらえた月は、雲に隠れてしまっていた。
雲など、無かったはずだが……発生したのか。
(雲に月が隠れる、その瞬間を利用したのか……?)
だとすれば、こいつ、賢いなんてもんじゃないぞ。
……自然の状況をしっかり見極め、攻撃してきたというのか。
頭良すぎるだろ。
効果覿面だよチクショウ。
「ぐぅっ!?」
ズキィ!!
もろにやられた。
双剣で受ける余裕もなかった。
呼吸の度に、両わき腹が激しく痛む。
(肋骨が、イカれた……!!)
腕も足も腹も頭も、すべてが痛い。
だが、耐えられないほどではない。
問題は、肋骨。
折れてる。めっちゃ痛い。
「ぐっ……いってぇ……。」
思わず口に出すほどの、激痛。
あまり苦しい顔をしてはいけない。
モンスターに、隙があると思われるから。
だが……あまりにも強烈だった。
おれは、こんな一撃を、今まで避け続けていたのか。
強いなんてもんじゃない。
刻まれる、ティガレックスの恐ろしさ。
恐怖。
だが。
「……でもな……。」
「グルルルルル……。」
こんな痛み、こんなケガ。
「初めてじゃないんだよ。……こちとら、耐えることには定評のある、元日本人でね。」
ディノバルトの強烈な、あの一撃に比べれば。
セツヒトさんや教官の、アホみたいな速さに比べれば。
「……楽勝だ!!!」
「グァァァァ!!」
俺を見て、好機と捉えたか。
そこから、ティガレックスの更なる猛攻が始まった。
「グァァァァァ!!!」
咆哮。
「ギャア!!グァァ!!」
後退してからの、跳躍攻撃。
「ガァァ!!」
からの、尻尾回転攻撃。
その全ての攻撃を、見切って避ける。
避ける。
「ガァァァァ!!」
爪!
「ふんっ!!」
シュン!
目の前を、ティガレックスの爪が通過する。
スウェーで避ける。
間一髪!!
「あぶねぇ!!……あででで……。」
「グァァァ!!!」
腹部が痛み、声を上げる俺。
同じく、苛立たし気に声を上げるティガレックス。
お前の攻撃、大体は分かった。
もう、遅れは取らない。
攻撃を、避け続ける。
双剣は構えたまま。
いつか、隙ができたら、反撃に転じたい。
しかし。
「グァ!グァァ!!ガァ!!」
「ふっ……うぉおっ!!」
避け続けていては、ジリ貧。
話が、また戻ってしまった。
息を吹き返したかのように、怒涛の攻撃を繰り返すティガレックス。
罠ももう、あまり効かないだろう。
(くそっ!どうしたら……!)
とにかく避けて、後退し続けながら。
「グァァァァァ!!!!」
俺は、ただひたすらに、チャンスを待ち続けた。