徹夜明け。
学生時代は、飲みや麻雀などの付き合いで朝まで、なんてこともしばしばあった。
変なテンションになるわ、次の日最悪のコンディションだわで、いい思い出はあまりない。
ティガレックスの狩猟は、夜に始まり朝終わった。
久々の徹夜明け。
考えたら、こっちに来てからは初めてかもしれない。
だが、今朝は少し気持ちがいい。
ポポ車に揺られ、ゆっくりと進むその道のり。
なんとかやり遂げたという達成感が、ちょっとだけ徹夜明けの体を元気にしてくれる。
……まぁ、体は疲労困憊。
小さな傷や打撲は数えたらキリが無い程。
そんな状態なんだけど。
御者の方や救援のハンター達には、いたく心配された。
「こんな傷だらけで、よく無事だったな……。」と、若干引かれた。
うん、自分でもそう思う。
編み出した技。
仮に……回避攻撃と名付けよう。
その回避攻撃の弊害の一つが、この傷だらけの体かもしれない。
骨折や重度の裂傷こそ負っていないが、小さい傷が無数につく。
攻撃を受けながら躱すのだから、まぁ当たり前といえば当たり前だ。
むしろこれだけで済んで、良かった。
ショウコあたりに言ったら、こっぴどく叱られそうな技である。
切り札……として考えておこう。
長時間傷ついたままで戦闘に臨むのは、おそらくキツイ
何より、周りに引かれるし。
…………頼むからジロジロ見ないでくれませんか…………。
救援に来てくれたハンターたちは、3人。
いずれも、タオカカでもトップランカーの方々……らしい。
……名前は知らないが、御者の方がそう言っていた。
ティガレックスを倒すための、編成なのだろうが……その方々からジロジロと見られている気がする。
…………スキル、気にしないを発動した俺は、ポポ車の振動に何とか眠らないよう踏ん張りながら、ミヨシまで帰っていくのであった。
* * * * * *
「よぅ、若いの。」
「あ、はい。俺ですか?」
ミヨシに着いて礼を言い、ギルドに向かおうとした時、野太い声に呼び止められた。
救援に来てくれたハンターの一人。
おそらくその中でも、リーダ格の人だと思う。
「…………おめぇ、名はなんだ。」
「あ、ソウジ、です。」
「武器と、ハンターランクは?」
「双剣で……多分4とかです」
「…………はぁぁぁ!?」
まるでキレたように返してくるリーダー格のハンター。
…………なんか悪いことしたか!?
「…………ハンター歴は?」
「へ?」
「だから、ハンター歴だよ。双剣を握って、どれぐらいだ。」
「……ええっと……おそらく、一年弱ぐらい……ですかね。」
「「「はぁぁぁぁぁあ!??」」」
またキレられた。
ハンター全員に。
キレてるよ。
だって青筋立ってるもん。
「…………と、討伐歴は!?今まで何していた!?」
「え、えーっと……。」
「まぁまぁ、リーダー!!」
「落ち着いてください!!ビビってるじゃないですか!!」
周りの男性二人が押さえる。
やはりリーダーだったのか、この男の人。
丸太のように太い腕。
武器は馬鹿でかいヘビィボウガン……だと思う。
大剣とかハンマーとか似合いそうだけど。
取り巻きのような二人は、完全にイケメン。
顎に髭を生やしたワイルドな感じのイケメンと、アイドルみたいな顔つきの可愛い感じのイケメン君。
……怖い人、ワイルドさん、アイドルさんと覚えておこう。
……なんてバランスの悪い組み合わせなんだ。
眠いので、何となくこれまでの経緯を伝えていった。
やはり俺ぐらいのやつがティガレックスを狩るなど、ありえないことなんだろうな……。
いや、よくやったよ、俺。
…………。
ひとまず、彼らは宿をとって、明日にはタオカカに帰るということだった。
俺がティガレックスにやられていたら、助けに入るその姿が見られたかもしれない。
だが、その実力を見ることなく、別れた。
まぁ、またどこかで会うこともあるだろう。
そんなこんなで、ようやく俺はギルドにたどり着いた。
多分、時刻は昼前。
狩猟にだいぶ掛かってしまったな。
急いで報告しなくては。
ギィィ……。
ギルドの扉を開けた。
「「「うぉーーーー!!!!」」」
その瞬間。
物凄い歓声。
人々の沸き立つ大音量。
「ソウジーー!!あんたすげぇよ!!」
「あの轟竜やったのか!?本当か!?」
「今日も祝いだ!!」
ワーワーと囃し立てられる。
……いやらしい話だが、まぁ想像はしていた。
褒められるかなー、位には。
だが、これは想像以上。
……気恥ずかしい。
「ど、どうも。あ、どうも。お、す、すみません。」
あ、とか、お、とか、言葉1つ置いて話してしまうのは、日本人の癖なんだろう。
拍手をされ、握手を求められ、それに応じながら、どうしても日本式のお辞儀をしてしまう。
だが、周りはそんなのお構いなし。
もみくちゃにされながら、俺は受付に向かっていく。
「ソウジさん!!」
「あ、ハイビスさん。」
ようやく見知った顔に出会えた。
いや、今までの人たちもなんとなく顔は覚えているんだが……名前と一致していないし、そもそも知らない人もいたし。
ちょっと安心。
「す、すみません。遅くなりましたが、ティガレックスの討伐、完了です。」
「はいっ!…………ほ、本当に…………おがえりなざいですぅ……うぅ…………!!」
「えっ!?な、なんで泣くんですか!?ハイビスさん!」
「だって……傷だらけで……帰ってきてくれただけでもうれじいのに……うぅぅ……!!」
おいおい。
参った。
ハイビスさん、仕事に関してはめちゃくちゃ優秀なものだから。
泣くなんて、想像もしてなかった。
「お、落ち着いてください……!ほら、俺、ピンピンしてますよ!見た目傷だらけですけど……大丈夫ですって!」
「グズッ……はいっ!…………よくぞ、ご無事で!…………グスッ。」
鼻をすするハイビスさん。
…………美人が台無しかと思いきや、これまた絵になる美しさ。
これだから美人は得である。
だって可愛いんだもの。
「はい……ただいま帰りました。」
「…………はい。……すうっ…………おかえりなさい、ソウジさん!」
一息おいて、いつもの顔を見せてくれたハイビスさん。
良かった。仕事モードに切り替わったか。
「…………。」
「…………うっ…………うぇぇぇぇぇぇん…………!」
「切り替わってない!?」
ハイビスさんが本当にいつも通りになるまで。
俺は、あたふたするばかりであった。
* * * * * *
「……で、では!気を取り直しまして!」
「はい。」
「く、クエストの完了報告を承らせていただきます!」
「はい。」
あれから大変だった。
あんまりハイビスさんが泣くものだから、俺も困惑。
実は一緒に生活していると誰かが話し始めたものだからさあ大変。
有る事無い事、話が盛りに盛られていき。
「あの二人……できてんじゃねえの?」
と、邪推が遥か彼方まで進むところで、アワキ村長が登場。
助かった……と思ったら。
村長さんまで男泣きしだすもんだから、更に大変。
「あの二人もできてんじゃないのか!?」
話が宇宙の遥か彼方まで放り投げられていく。
…………冷静に考えて、ありえねぇよ!!
冷静に考えなくても、ねぇわ!!
と、心の中でツッコミ。
おかげで場を収めるまでしばらくかかり。
今、集会所の臨時ギルド長室に駆け込んだ次第である。
『み、みなさーん!!とりあえず事の真相は、また今度!今度で!!』
扉の向こうで、どなたかギルド職員が大声で観衆を静止している。
真相ってなんだ。
アホか。
「い、いやぁ、すみませんなぁ。取り乱してしまいまして。」
「い、いえ。」
部屋の中には3人。
俺、ハイビスさん、村長さん。
「た、大変失礼いたしました……。」
ハイビスさんが顔を赤くして謝っている。
村長さんも、何故か顔を赤くして謝ってくる。
…………アワキさん、あなたまで顔赤くする必要ないんですよ…………。
まぁいいや。
スキル、気にしない。発動。
「それじゃ、ティガレックスの件を簡単に話しますね。」
「あ、はい。」
「よ、よろしくおねがいします。」
二人の気まずさをバッサリ断ち切って、俺は話を始めた。
村を出てすぐ、ティガレックスと対峙したこと。
紛れもなく強敵だったこと、何度も追い詰められたこと。
そして、屠るまでの経緯まで。
思い出せることを、全て話した。
村長さんもいるので、ギフトの部分はぼかしたけど。
「ソウジさんは、本当にお強いですなぁ……いえ、疑っていたわけではなく、むしろより信頼が増しましたぞ。」
「いやいや、正直死ぬかと思いました。何度も。」
嘘ではない。
実際、ギリギリだった。
村を守るという目標が無ければ、とっくにリタイアしていたと思う。
「ソウジさん……村を代表して、心から感謝申し上げます。」
ガタッ。
「本当に、ありがとうございました。」
深々とお辞儀をする村長さん。
……何だ、こっちの世界にも、お辞儀の文化はあるのか。
知らんかった。
いや、そこは問題ではない。
「いやいや!顔をお上げください!本当に!」
「いえ、誠意を示すことが、私にできる最大の礼ですので。」
真剣な目をして訴えるアワキ村長。
……この人やっぱり、いい人なんだな。
だって普通泣かないだろ、知り合って間もないハンターが死ぬ目に遭ったぐらいで。
「ソウジさん。」
「あ、はい。」
村長さんの言葉から少し間を置いて、ハイビスさんが話し始める。
「本当に……本当に、お疲れ様でした。」
「あ……ありがとうございます。」
「信じては……いました。ソウジさんならきっと、討伐してくれるって。……でも、不安で……不安で。また、私のせいで、ソウジさんが大変な目に遭っているんだって思うと……取り乱してしまいました。申し訳ありません。」
「ハイビスさん……。」
「……。」
こちらも真剣な目をして、俺を見つめてくる。
……いつだか、自分がディノバルドに出逢わせてしまったと、ハイビスさんは悔いていると言っていた。
だが、今回は違う。
一つの緊急クエストを俺が受け、俺は仕事を全うしただけだ。
「ハイビスさん、あの時とは違いますよ。」
「ですが、今回クエストを受けられるか迫ったのは私です……あの強敵に挑むことを、ソウジさんは拒むとは思えませんでした。……だから、本当に、本当に生きていて……よかった。」
「……。」
「……す、すみません!完了報告でしたね!……そ、それではこちらの確認をお願いいたします!」
「……はい。」
業務をこなしていくハイビスさん。
さすがプロ、そこからはテキパキと仕事を進めていった。
……涙を流すハイビスさんも、それはそれでよかったけど。
やっぱり、この姿だよな。
俺にとっての受付嬢は、やはりこの人だ。
…………。
「はい、ありがとうございます。……以上で、報告完了です。……あ、そういえば……。」
「え?」
ハイビスさんが不意に声をあげる。
何かあるのか?
「アヤ村に出した救援の要請……セツヒトさんのお呼び出しを、したままでした……。」
「えっ?」
「す、すみません、ついうっかりしていて……。」
「じゃあ……セツヒトさんは、今こちらに向かっている可能性が高い、と?」
「は、はい……。」
……まぁ、しょうがないか。
強敵に立ち向かった俺の救援のため、周辺で最強のハンターを招集する。
普通の話である。
「それじゃあ、お手数なんですが、今一度討伐完了の報を出して頂いても、いいですか?」
「はい。すぐに取り掛かりま―――」
なんてハイビスさんが話しだした。
その瞬間。
バタン!
「ソウジーーーー!!」
「うぇっ!?」
激しい扉の音とともに、件の人物が現れた。
セツヒトさんだった。
…………え!?早くね!?
「ソウジ!?…………あれ、いる…………。」
「あ…………はい。いますよ。」
「あー…………よかったぁぁぁぁあ…………。」
ペタン。
その場に座り込むセツヒトさん。
ポカンとした顔をしながら、見つめられる。
「いやー……びっくらこいて急いで来てみたら……あ、ティガレックスは!?」
「や、やりましたよ。」
「……やったって……ソウジが?」
「そうです。」
「…………マジで?」
「大マジです。」
「……おぉぉぉ……。」
セツヒトさんの百面相。
珍しい。
村にいるファンの方々にも見せてやりたいものだ。
「……ソウジー…………やるじゃんねー……うん。よかったー…………。」
「は、ははは。ありがとうございます。」
「……あー!怪我はー!?その傷は平気なのー!?」
「あ、あんまりないです。小さい傷は……まぁ、理由がありまして。また、後ほど。」
「おぉ……そっかー。……いやー、驚きだねー。」
いつもの顔に戻ったセツヒトさん。
…………いや、あなたが戻ってくる早さに驚きですよ。
「いやー、山の中雪崩を避けて走ってきたよー。でも……良かった良かったー。ソウジー。頑張ったねー。」
「あははは……どうも。」
立ち上がり、頭を撫でてくる。
完全に姉によしよしされる弟である。
「アワキ村長……アヤ村からここまで、どれぐらいかかります?」
「はい、ハイビスさん……歩いたら一日はかかりますかな……。」
「そうですか……。」
ハイビスさんが遠い目をしている。
そりゃそうだ。
セツヒトさんの規格外過ぎるご登場に、こちらが呆気にとられる一幕であった。
* * * * * *
「じゃー何ー?結構やばかったんだー。」
「いや、やばいってもんじゃないですよ。いくらギフト使っても、結局追い詰められて。」
「でもー、その……回避攻撃?で倒せんたんでしょー?」
「そうなんですけど……通じるかどうかの技を繰り出す時点でどうなのかと。」
その日は結局、宿……ログハウスに帰ってきた。
村長さんが気を利かせて、集会所の裏口から出させてくれた。
「おそらく質問攻めに合うでしょうし……お三方ともお疲れでしょうからな。」とは、アワキ村長の談。
お言葉に甘えて帰ってくると、俺が昨夜準備しっぱなしの夕飯……もとい、食材が。
3人で話し、ちょいと遅めの昼食を取ることと相成った。
だが、セツヒトさんがどこからか酒を持ち出し。
ハイビスさんも調子よくポポノタンを持って来ていて。
急遽、大焼肉大会が開かれることになった。
ちなみに俺は怪我もあるため、酒は控えておいた。
回復薬を塗りたくった湿布を体に貼り付けたが、肋骨はまだ鈍く痛む。
明日にも痛みが引かないようなら、医者に見てもらおうと思う。
「それも実力ー。ねー、ハイビスちゃーん。」
「そうれす!ソウジさんはギフトも大いに活用されてー……もう大陸イチのハンターになられてくらさい!!」
…………そうして、酔っぱらいが二人、完成。
よくもまぁ怪我人の前でこれだけ飲めるものである。
それだけお祝いしたいということなのだろうし、悪い気はしないけど。
ハイビスさんも、徹夜したらしい。
そりゃ酔いも早いか。
セツヒトさんも、いつにも増してハイペース。
…………怪我人の俺が、介抱する立場になりそうである。
「ねー。私だって、集会所で模擬戦やったときは、本気だったよー?まさか倒されるなんてさー。ソウジはー、強いよー。」
「いや、あの時は憑依状態に……。」
「それー。つまりさー、それってー……。」
グビグビグビ。
言いかけて、ジョッキをあおるセツヒトさん。
既に瓶が4本空いているが、大丈夫なのかこの人達。
特にセツヒトさんは、アヤ村から超速で走ってきたとは思えない飲みっぷりである。
「ぷはぁー……憑依状態ってのはー、ソウジの潜在能力なんじゃないのー?」
「潜在能力?」
どういうことだろう。
酔っぱらいの戯言だと、聞き逃すことはしない。
セツヒトさんは、酔いつぶれるまでは完全に普通の状態を保てる、根っからの呑兵衛であるからして。
「つまりさー、ソウジの持つ力を余すことなく使ったらー、それぐらいできるってことだよー。」
「あ……なるほど。」
「そーそー。」
つまりセツヒトさんが言いたいのはこういうことか。
憑依状態になって物凄い力が使えるようになったとして。
それは俺がその時の身体能力で、限界まで技を極めた状態ということではないか、と。
そういう仮説か。
「…………確かにそうかもしれないです。」
「でしょー。あー、ポポノタンうまーい。」
今まで、訓練含め、憑依状態は幾度となく経験している。
確かに、筋力や柔軟性といった身体能力の向上と共に、憑依状態の強さも格段に上がった。
元々の体が強かった為に気付かなかったが……そういうことなのか?
「だからー、もうギフトの力とかめちゃくちゃに使っちゃえばいいんだよー。」
「いや、それはどうかと。」
「えー。だめなのー。」
しなだれかかってくるセツヒトさん。
いかん、酔ってらっしゃる。
おそらく酔いつぶれる一歩手前。
「ソウジしゃんはー!遠慮し過ぎなんですー!存分に力を奮ってくださぁい!!」
呂律の回ってない酔っ払いハイビスさん。
この人もそろそろ落ちそうである。
まだ日も高いというのに、ベロンベロンのお二人。
「ですからぁ……ハンターとしてもそうですけど……わ、私達にもですねぇ……遠慮なく!どうぞ遠慮なく!ど、どうぞぉ!」
「は、ハイビスさん!?」
「おー、ハイビスちゃーん。いいねー。」
右肩に寄っかかるセツヒトさん。
左側にしなだれかかってきたハイビスさん。
「大体ソウジはさー……。」
「ちょっと聞いてますかぁ?ソウジしゃん!」
完成した酔っぱらい✕2。
俺に説教をするかの如く、絡みに絡んでくる。
適当に相槌を打ち、15分程。
二人は同時に潰れた。
俺に頭を預けながら。
俺怪我人なんですけど……。
「まぁ……いいか。」
右にセツヒトさん、左にハイビスさんを持ち上げる。
そのまま二人を抱え、それぞれの部屋に連れて行くことにした。
部屋に入るのは初めてだが……まぁ、怒られはしないだろう。
寝てるし。
スヤスヤと寝息を立てるお二人をベッドに寝かしたあと、片付けも早々に、俺も寝ることにした。
体は限界である。
眠すぎる…………。
おやすみなさい…………。
ぐぅ。