ワサドラに帰る途中、セツヒトさんが救援信号を見つけ、ヘルプに向かった。
そこに居たのは、俺のオトモ、ショウコだった。
ひとまずショウコ達から事情を聞き、この後について考えてみたいと思う。
「え、えーっとですね……ま、まず、ウチらは普通にクエストを受けまして……。」
緊張しているのか、おっかなびっくり話し始めたショウコ。
説明をまとめるとこうだ。
いつもの様に今朝早く、クエストを受注。
気候も暖かくなり、ワサドラでは大型モンスターの討伐クエストが少しずつ増えてきた。
だが、彼らは近頃あまり大型を相手にしていなかったらしい。
肩慣らしも兼ねて、ドスジャギイの狩猟を行おうとしたようだ。
だが。
「ウチらアイルー二人で探し回ったんですけど……ドスジャギィなんかひとっつもいませんでした。」
モンスターがいなかったという。
小型さえ。
こっそりマップを見る。
……確かに周辺にはいないが……あ、岩山の向こうに一体……。
「何か強力なモンスターがいたんじゃないか、と。」
「ウチらもそう思って、警戒を強めたんです。そしたら、例のセルレギオスが出てきて……。」
「なるほど。」
セルレギオスにいち早く気づいていた周辺のモンスターは、どこかに雲隠れ。
そこに突如現れたセルレギオス。
そういうことか?
「あいつらホント奇襲が好きだよねー。」
「そうなんです……実は、ウチとフェニクさんは、セルレギオスは初めてではなくて……。」
「そうなのか?」
「…………そこからは、私が説明するよ。」
フェニクさんが割って入ってくる。
「……実はショウコさんとは、ソウジさんと出会う前から懇意にさせてもらっていてね。」
「そうだったのか。」
「すみません、言うてなくて。」
「その時に、一度ヤツから奇襲を受けたんだ……この辺じゃ目にすることは殆ど無いモンスターと知ったのは、しばらく後だったけどね。」
ガシャ……。
上を見上げるフェニクさん。
防具の鎧が、音をたてる。
「あの時は何とか救援が間に合い無事に済んだが……まさか二度もあるとは思わなかったよ。」
「すみません……ウチ、引きが悪くて。」
「いやいや、そういうことじゃないさ。これは誰にでも起こりうる事だしね。」
フォローをきっちりと入れるフェニクさん。
……俺と出会う以前、か。
ショウコが「招き猫」と呼ばれ、周りから距離を置かれていた時期だ。
……この人、いい人なんだろうな。
「とにかく、警戒はしていたんだ。だが、突然空から飛来し、猛攻を仕掛けてきてね……トツバはいち早く気づいていた。そして救援信号を出そうと素早く用意した時……。」
「……セルレギオスに、狙われた。」
「そういうこと。後は見ての通りだよ。大剣で何とか追い返そうとしたんだが、私では力不足だった。」
自分の力が不足していたと言い切るフェニクさん。
立ち居振舞や所作を見たところ、腕はかなりのものだと思うのだが……見間違いだったか?
「私は元兵隊なんだ。対人には自信があるのだが、どうもモンスターは勝手が違うね。……トツバとショウコさんには、迷惑をかけている。」
「いやいや、ウチもいつも助かってますから。」
「ふふ……ありがとう。」
そう言ってトツバの髪を撫でるフェニクさん。
トツバの容態は落ち着いているように見える。
応急処置が良かったのかな。
流石ハイビスさん。
「しかしヤツを一蹴するとは……さすが、ワサドラでも有名なお二人だね。本当に助かったよ。……改めて、感謝する。」
手を膝に置き、一礼するフェニクさん。
様になっているなぁ……実力者であるというのが伝わる。
「まあさー、無事だったんだしー?それでいいよねー。……それより気になるのは、セルレギオスの動向だねー。」
「……撃退したのではないのかい?」
「うーん、そうなんだけどねー?」
そう言うと、ちらりと俺の方を見るセツヒトさん。
…………マップを確認しろということか。
すでに起動している情報画面から、マップを見る。
……やはり、ワサドラ方面に飛んでいるな。
「……逃げた方向が、ワサドラ方面、南東の方角でした。このまま行けば途中でかちあうかもしれません。」
「そーだよねー。どうするかなー。」
どうするとはつまり、やつをこのままにしておいていいのか、という話だ。
…………。
沈黙。
俺も考えてみる。
まず戦力。ここは申し分ないだろう。
おそらくセツヒトさん一人でも何とかしてしまうだろうし、俺にフェニクさん、ショウコもいる。
ただし、それ以外……ハイビスさんや御者のおじさん、何よりトツバを考えるべきだ。
トツバは今の所容態は安定しているが……どんなに急いでもワサドラまではあと半日はかかるだろう。
その間に容態が急変するかもしれないし、仮に野宿をするならばその護衛は必須だ。
戦力を振り分ける必要がある。
「……分散しましょう。」
「……そうだねー、それがいいかなー。」
「俺の考えとしては……まずは全員でこのままワサドラに帰還。最も良いのはこれです。だけど、途中でセルレギオスにかち合う可能性もある。最悪の可能性を想定したい。」
俺の案は、分散。
仮にセルレギオスに襲われた際、打って出るのは俺かセツヒトさん+ショウコだろう。
どちらかがセルレギオスに対応し、どちらかがワサドラに急ぎ連絡。
厳しいことを言うようだが、フェニクさんには荷台の方に回ってもらおう。
「俺としては、モンスターもそうですけど、野盗とかその辺が怖いです。」
「あぁ、なら私が適任だね。捕縛なら任せてくれ。」
「私は人間相手はちょっとなー……。」
セツヒトさんが言い淀む。
何で?セツヒトさんなら、その辺の人間など問題にならないだろうに。
「どうしてですか?」
「…………やりすぎるかもー。」
「あぁ……。」
なるほど。
それはちょっとマズいか。
「じゃあ、こうしましょう。仮にセルレギオス等強力なモンスターに襲われた際は、俺とショウコ、二人で行きます。」
「えっ!?ウチとですか!?」
「あぁ。」
「ご主人さまとセツヒトさん、お二人の方が簡単やと思うんですけど……。」
「俺たちがいなくなったこの車に、万が一にも新手が出たときは……モンスターならセツヒトさん、人間ならフェニクさんに対応してもらう。むしろ、ガーグァ車に残る方が重要だ。怪我人もいるし、戦えない人間を守る人が欲しい。」
「な、なるほど……。」
簡単に分散の方法を提案した。
一応、皆も異存は無いようだ。
「いいんじゃなーい?私とショウコちゃんが組むよりも、ソウジとショウコちゃんが組んだほうがいいよー。黄金コンビでしょー?」
「お、黄金?」
「お互いわかってる方が、動きやすいだろうしねー。それにー、ショウコちゃーん。」
「は、はい!」
ショウコが元気良く返事をする。
……もしかしてセツヒトさんが苦手なのか?
「ソウジならー、多分セルレギオス、問題ないよー。私が保証しまーす。」
「えっ?」
「多分じゃなくてー、確信。……確定?」
「俺は一生懸命やるだけですよ。……ショウコ、万一の時は、頼むぞ。久々だけど、大丈夫だよな?」
「は、はい!むしろよろしくおねがいします!……強くなったご主人さま、見てみたいです!」
よし。
方針は固まった。
まぁセルレギオスに襲われれば、の話だが。
「おじさん、ハイビスさん、そういう感じで、よろしくおねがいします。」
「おぅよ!分かったぜ!」
「何もない事を願いますが、その際は、ソウジさん。ショウコちゃん。ご武運を。」
ガーグァ車に残る二人にも、確認しておく。
「しかしよ、門外漢の俺が口をだすのもアレだが……。」
おじさんが俺に問いかけてきた。
「はい、何でしょう。」
「思い切ってよ、ワサドラへの道を外れて、迂回するってのはどうなんだ?このまま行きゃあ、コイツらならそれでも明日までにはワサドラに着くだろうしな。」
おじさんが、ガーグァたちを首で差す。
「それもいいんですけど、あのセルレギオス、俺たちを覚えましたからね……。」
「おっ?……それはヤバいのか?」
「ヤツの性格は執拗、且つ奇襲が目立つ。飛行能力もかなり長けています。……迂回しようとも、襲われるなら一瞬。なら、いっそまっすぐ向かったほうがいいでしょう。……こちらには一人、負傷した者がいますしね。急ぐに越したことは無いです。」
「なるほどなぁ……ソウジさん、考えたなぁ……。」
執拗に攻めてくる性格のモンスター、そして移動スピードもかなり速い……そこを考えれば、迂回しようと変わらないだろう。
なら、急いだほうがいい。
トツバも、心配だ。
「承知した!余計な口を挟んですまねぇな!」
「いやいや、そういうアイディアが活路を見出すこともありますし、ぜひ言ってください。」
「ははは!了解、っと!」
ピシィッ。
手綱を握り直したおじさんは、笑いながら俺に返事をした。
うーん、仕事人って感じで、かっこいいなぁ。
「ショウコ、簡単に打ち合わせしておこう。まぁ……やることは変わらないだろうけど。」
「はいっ!よろしくおねがいします!」
「ふふっ……ダメだな、妬けてしまうよ。」
フェニクさんが笑顔で言うと、その腕を組んだ。
灼ける、とは?
「いや、出会いこそ私の方が早いが……見てわかるよ。君たちは最高のペアだろうってね。」
「さ、最高のペア……。」
ショウコ、何故顔を赤くする。
「えぇ……多分ですけど、ショウコと俺なら、大丈夫です。俺の、唯一無二のオトモなんで。」
「ご主人さま……ちょっと……は、恥ずかしいです……。」
「そ、そうか?すまん。」
「いや、謝るのはおかしいですよ、ご主人さま。」
「えっ!?じゃ、じゃあどうすればいい!?」
「その辺は変わってないようで安心しました……。」
何だ?なんか間違ったのか俺?
「ショウコちゃん……あなたのご主人さまは強くなったんですよ……その辺はまっっっっっったく変わっておりませんが。」
「あぁ……ですよねぇ……。」
「おー?その話ー、私も混ぜてー。」
打ち合わせをするはずが、ハイビスさんを皮切りに、突如ガールズトークを繰り広げだす女性陣。
怪我人もいるのに。
「まぁ、後でいいか……。」
とりあえず、方針は決まったわけだし、俺とショウコなら打ち合わせ何もいらないだろう。
現場に出れば、ショウコならいくらでも合わせてくれる。
信頼感が違う。
「よっ、と……。」
幌の後ろからその上に飛び乗った俺は、周辺の監視をすることにした。
「おじさん!何か居たらすぐ言いますから!」
「おぅ!よろしく頼んだ!」
とかなんとか言いつつ、こっそりマップを起動。
「…………。」
一応、周辺には敵影無し。
このまま何事も無く、事が過ぎればいいけど。
ゴソ。
水筒を取り出し、一服する。
そこから夕方まで、周囲の監視を続けた。
* * * * * *
夜。
日も沈み、今日はこの辺で野営をする事にした。
ワサドラまでは、もう目と鼻の先……とまではいかないが、かなり近づいた。
草原にまばらに生える大きな木を拠り所に、川の近くでキャンプを張る。
人員総出でやったら、準備はすぐに終わった。
「……ん……?」
「…………トツバ?」
ショウコが声を上げる。
「…………ここは……。」
「トツバ、起きたね。……体はどう?無理に起きなくていいよ。」
「フェニクとショウコ……それに……誰?」
「あぁ、私達を助けてくれたみなさんだ。」
フェニクさんが俺たちを紹介してくれた。
「…………どうも、ありがとう。私は、トツバ。」
「ソウジだ。体の方は平気か?」
「大丈夫……そう、あなたが……。」
「あぁ、ショウコと組んでいる、ハンターだ。」
トツバが起きた。
と言っても、態勢は横たわったまま。
腹に大きな裂傷を受けていたのだ。無理もない。
「……私は失敗した。」
「失敗などではない。いち早く知らせてくれたおかげで、お前以外は全員無事だ。ありがとう、トツバ。」
「礼はいい。体が勝手に動いただけ。」
「あぁ。そう言うと思ったよ。」
トツバとフェニクさんが話をするのを聞いていると、二人の関係性が何となくわかってきた。
分かりあっている、そんな印象を受けた。
「どれぐらい、経ったの?」
「ウチらが襲われて、その日の夕方や。ほんまもう……無茶しすぎ、トツバ。」
「ショウコも無事なら、問題無い。」
「問題大アリや……でも助かったから……ありがとうな、トツバ。」
「ん。」
トツバはショウコよりも小さい。
黒のショートヘア、猫耳も黒く、クリっとした目、いかにもアイルー系の亜人という印象だ。
装備は外してラフな格好になっているが、荷台に積んであった獲物はハンマーだった。
……アイルーなのに、力が強いんだろうな。
「セツヒトさん、ソウジさん……知ってる。有名。ありがとう。感謝してもしきれない。」
「気にしないでー、こういうのはー、持ちつ持たれつー。」
「ありがとう。ハイビスさんも、久しぶり。」
「トツバちゃん……良かった、目を覚まして。」
ハイビスさんとは知り合いなのか。
そりゃそうか、ワサドラのハンターやオトモで、この人を知らない人はいないだろう。
「もう一人の……おじさん。ハンター?」
「いや、俺は違うぜ、アイルーの嬢ちゃん。安心しな。俺が責任持って、ワサドラまで連れてくからよ!」
「この車の……そう。」
皆が心配してゾロゾロと集まってきた。
野営も一通り終わり、夕飯時。
……腹減ったな。
「…………そろそろご飯にしようと思うけど……ショウコ達は、何か持ってるか?」
「携帯食料ならありますけど。」
「なるほど。」
俺のポーチには、人数分の食糧が十分に入っている。
弁当は昨晩で食い尽くしたけど。
……ワサドラ帰ったらお礼を言いに行こう。美味かった。
トツバは、食欲はあるというので交代で夕飯を取った。
思ったより元気そうで良かった。
「アイルーは体力や俊敏さもそうですけど、復活も早いんです。」
「そうなのか?」
「はい……まぁご主人さまは異常やと思いますけど……。」
「…………。」
何も返せない。
ティガレックスの時に負った肋骨の負傷も、既にそこまで痛みはない。
…………女神様の朝食のおかげなのだろうか。
ありがとうございます、女神様。
「だからー、私とソウジは外で寝るってー。見張りもしなきゃだしー。」
「いや、ここは私が見張りをしよう。ショウコとソウジさん、セツヒトさんには体力を温存してもらわないとね。」
「あ、あのー、私は荷車にいるだけですから、テントでなくても……。」
「ウチは平気ですよ?何ならご主人さまと寝泊まりなんて、毎日のことでしたし。」
「「「えっ……?」」」
どこで寝るか、誰が見張りをするのかで譲り合いが止まらない。
そしてショウコがいらぬことを言い出し、場は混乱を極めてきた。
「そういやショウコちゃんはー、ソウジと同じ部屋で毎日寝泊まりしてたんだよねー。」
「そ、そうなのか……?私はてっきり同じ宿で2つ部屋を取っていたものだと……。」
「…………ショウコちゃん、ちょっと私とお話しましょう?ね?」
「ご、ご主人さまぁ……。」
穏便で平和な話し合いの結果、俺、セツヒトさん、フェニクさんが一人ずつ交代で見張りをすることに。
俺はおじさんと荷車で仮眠。
他の女性陣は2つのテントで寝ることに。
「さぁショウコちゃん。こっちのテントにいらっしゃい?」
「ご、ご主人さまぁ……。」
ズルズルズルズル……。
ハイビスさんに引きずられ、トツバのいるテントに入っていくショウコ。
何故かフェニクさんもセツヒトさんも一緒に。
………………。
いやー穏便に済んで良かった良かった。
寝よ。
「ソウジさん、俺はガッツリ寝るが……大丈夫かい?」
「ええ、構いませんよ。護衛と見張りは俺たちの領分ですし。」
「いや……大丈夫ってのはそっちじゃねぇんだが……。まぁいいわ。よろしく頼む。」
「はい。おやすみなさいです。」
「お、おぅ。」
おじさんが物凄い目でこちらを見た後、毛布を被った。
何かあったのだろうか。
……不安が無いよう、きっちりと見張りをしよう。
「よっ、と。」
音を立てないよう慎重に幌の上に登る。
毛布を取り出して、防寒態勢。
そこからしばらく、俺は辺りを警戒するのであった。