モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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110急襲に備えましょう。

明くる朝。

 

空は曇天。

 

そこまで冷え込みは無かったが、毛布が無ければ厳しかった。

その位の気温。

辺りは明るみ始めてきている。

 

 

「おはようございます、フェニクさん。」

「……あぁ、おはよう。よく眠れたかい?」

「お陰様で、ありがとうございます。……モンスターは?」

「特に気配はなかったよ。……セツヒトさんが常に殺気を放っているからだろうね。おかげで楽なものだったよ。」

「あ、分かるんですね。」

 

 

セツヒトさんのとんでも能力は今に始まったことではないが、やはり凄い。

寝ているはず……何なら脱いでいるはずなのに。

そしてその殺気を察知しているフェニクさんも凄いわ。

 

 

「兵役に就いていた頃は、モンスターよりも悪意に満ちた人間の雰囲気に常にあてられていたからね……。見張りは得意なんだ。セツヒトさんの周囲を警戒する空気は、分かりやすいよ。」

「あぁ、なるほど。」

 

 

モンスターの殺気って、分かりやすいんだな。

まぁ俺でも分かるぐらいだし、単純なんだろう。

 

フェニクさんは相変わらず、凛とした佇まい。

背筋をピンと張る姿、かっこいい。

 

 

「……君は、そういう悪意などは、全く感じないな。」

「え?そ、そうですか?」

「ああ。人間、少なからずそういった気配はあるものだが……ソウジさんからは、何も。」

「それはハンターとしてどうなんでしょうね……。」

「モンスター相手なら関係ないんじゃないかな?美徳だと思うよ。」

「そうですかね……なら良かったです。」

 

 

不思議な雰囲気の人だ。

ミステリアス……というのか。

セツヒトさんはミステリアスというより……()だもんなぁ。

 

 

「さて……そろそろみんな起きてくる頃かな。準備をしようか。」

「そうですね。俺、水汲んできますよ。」

「あぁ、ありがとう。」

 

 

フェニクさんはよく分からないけど……そういう人なんだろう。

若干イントネーションがおかしいところも含めて。

 

俺は頭を切り替えて、近くの川に向かった。

 

 

* * * * * *

 

 

朝食を簡単に済ませる。

今日はおそらく、ワサドラに着ける。

今の所、セルレギオスの影はない。

 

 

「トツバ、調子はどうなん?」

「おなかいたい。ショウコ、おんぶして。」

「……ホンマに痛いん?」

「立つのは辛い。我慢すれば大丈夫。」

「しゃあないなぁ……。」

 

 

トツバもよく眠れたのか、昨日よりも顔色がいい。

朝食も普通に食べられていた。

一応体調の確認をしておく。

 

 

「トツバ……でいいか?」

「いい。敬語は、苦手。」

「そうか。じゃあトツバ。調子はどうだ?」

「すこぶるグッド。」

「す、すこぶる、か。……今日はワサドラに着くと思う。安静にしていてくれ。何かあったら、俺とショウコが行くから。」

「助かる。……ショウコをよろしく。」

 

 

返しに笑いかけてしまった。

 

トツバは、ショウコとはアイルーの里にいた頃からの幼馴染だということだった。

仲の良い、気の置かない様子からも、その関係性は伺えた。

 

 

「ショウコは事あるごとにあなたの話をしてくる。おかげで、今は有名人に出会えた気分。」

「ちょっ!トツバ!何言うてんの!?」

「『あんな出会い、もう二度とない。』『ウチは、あの人に追いつきたい。頑張るでー!』……全部、ショウコの言葉。」

「わー!わー!もう行くで!トツバ!!」

 

 

グイグイ。

 

 

「痛い……。」

 

 

トツバ達は、忙しなくガーグァ車の方に向かっていった。

ショウコも嬉しいことを言ってくれる。

頑張らないとな。

 

 

「ソウジさん。」

「あ、ハイビスさん。どうされました?」

「いえ、今日も何もないといいな、と思いまして。……もし、セルレギオスが出てきた時は、よろしくおねがいします。」

「もちろん。……これは予感ですけど、出ますね。」

「えっ!?」

「何か……そんな気がするんですよね。それにもし無事にワサドラに着いても、アイツは俺が仕留めたいです。人間に脅威を感じた個体なら、なおさら早く。」

「そうですか……。ソウジさんもついにその次元に……。」

「次元?」

 

 

答えながらハイビスさんの格好に目を向ける。

おそらくそのままギルドに行くつもりなのだろう、受付嬢の制服に見を包んでいる。

久しぶりに見る姿は、どこか安心する。

 

 

「……達人は、そういった雰囲気に敏感です。ソウジさんも、そういう次元に到達されたのだなぁ、と。」

「い、いやいや。勘ですよ?勘。当たるかも分からない。」

「ソウジー、私も同意見だよー?」

「セツヒ……せっちゃんさん。」

 

 

ハイビスさんの後ろからやって来たセツヒトさんが、俺と同じ意見だと口を挟んできた。

ハイビスさんの両肩に後ろから腕を置き、ダランともたれかかる。

 

 

「せ、セツヒトさん!?」

「はぁ、ハイビスちゃん温かいねー。安心するー。」

「そそそ、それはありがとうござい……じゃなくて!」

「ごめんねー。でもねー、これは仕方のないことなのでー。」

「せ、セツヒトさん……。」

 

 

セツヒトさんが寒がっている理由。

それは、装備を変えたからだ。

例の寒冷地仕様の装備はライトボウガンに向かないとかで、昨夜の警備の交代の際、荷物から出してくれと頼まれた。

野外で着替えだしたので、慌てて後ろを向いたのを覚えている。

「インナー着ているから大丈夫だよー?」などと抜かしていたが、そういう問題ではない。

ドキドキした。

 

そして寒いからと今度はハイビスさんに後ろから抱きよる始末。

うーん……自由だ。

そして百合的な雰囲気を感じてしまう。

 

 

「ソウジ、多分くるね、これ。」

「あ、やっぱりそうですか?」

 

 

少しだけ真剣な口調に変わったセツヒトさんが、俺と同じ考えを口にした。

いまいち真剣味に欠けるのは、ハイビスさんを抱きしめているからだろう。

早く離れなさい。

 

 

「ショウコちゃんにも話しておいてー。いざという時はー、行ってらっしゃーい。」

「承知しました。気をつけます。」

「うん、気をつけてー。アイツは強いけど……ソウジとの相性は抜群じゃないかなー。油断はしないよーに。」

「はいっ!」

「あ、あの、セツヒトさんそろそろ……。」

「んー、はぁ、暖かかったー。」

 

 

二人も荷台に向かっていった。

随分仲良くなったよなぁ、あの二人。

数ヶ月前、ワサドラを出発する時はハイビスさんがビクビクしていたのに。

 

共通の話題を見つけたとか何とか言ってたけど。

何だろう。

 

 

「ソウジさん!準備いいぞー!!」

「あっ!すみません!今行きます!」

 

 

走ってガーグァ車に向かい、荷台に乗る。

ショウコと簡単に打ち合わせしておこう。

 

……多分、ヤツはくる。

 

動き出すガーグァ車。

俺は装備を確認し、ショウコと話し合いを始めた。

 

 

* * * * * *

 

 

「おーし、このままいきゃあ、あと一刻もすりゃあ着くな!」

「あれぇ……?」

 

 

結局セルレギオスは来ない。

…………朝あんなに意気込んでおいて、結局空振りか?

 

情報画面を起動し、マップを眺める。

……モンスターの影も形もない。

……まぁ来ないに越したことはないけど。

無いんだけども。

 

……ちょっと恥ずかしいです。

 

 

「ソウジさん。」

「あ、フェニクさん。」

 

 

俺がいる荷台の上、幌の屋根に登ってきたのはフェニクさんだった。

 

 

「モンスターは、どうかな。」

「いえ……恥ずかしいんですが、来そうで来ないと言うか、アテが外れたというか。」

 

 

昨日マップから反応が消えてからは、音沙汰なし。

大型は神出鬼没、油断はしないが……もうちょっと早く出ると思ったんだがなぁ。

 

 

「ははは、いいことじゃないか。落ち込んでいるのかい?」

「いやいや、昨日も言いましたように、全員で帰還するのが最も良いと思っていますよ。……ただ、意気込んでいた自分が……。」

「……恥ずかしい?」

「……うっ……そ、そうです。」

「ふ、ふふふ……ははははは!」

「そ、そんなに笑わんといて下さい……。」

 

 

なんかツボに入ったのか、笑いが止まらない様子のフェニクさん。

 

 

「い、いや。すまない。……ソウジ君は、面白いな。ショウコさんやセツヒトさん達が放っておかないわけだ。」

「放っておかないのかどうかは分かりませんけど……このまま行くなら行くで、越したことは無いんです。……ただなぁ……。」

「あぁ、ガッカリしているな。隠さなくてもいいぞ。その気持ち、分かるよ。」

「そ、そうですか?」

「あぁ……いや、全く。久しぶりにこんなに笑ったよ……君は、人を惹き込ませる魅力がある。」

「褒められているのか……?」

「は、ははははは!」

 

 

若干小馬鹿にされているような……でも何だろう、このお姉さん的な人にちょっとばかりいじられる感じは。

 

…………。

 

い、いや違うぞ!?何か心地よいとか思ってないぞ!?

 

 

「……まぁでも、君やセツヒトさんぐらいの強者が『出る』と言ったんだ。警戒は怠らないようにしよう。」

「ですね……いや、油断するつもりは一切―――」

 

 

ヒュッ………………。

 

 

「!!」

「ん?どうし……来たのか!?」

「……分かりませんが……せっちゃんさん!」

「はーい……よっと!」

 

 

俺が呼ぶより早く、幌の上に登ってきたセツヒトさん。

予感がした。

アイツの。

 

 

「……例のアレには反応はないですが……来ます!」

「おー、ソウジー……いいねー。私も全く……同意見!!」

 

 

ジャキン!

 

 

明後日の方向にボウガンを構えるセツヒトさんは、しかしどこかを狙いすましている。

 

そっちか……かなり……上?

 

 

「おじさん!」

「おぅ!来たんだな!コイツらも……ちょっとばかり様子が変だわ!」

「大丈夫ですか!?」

「なぁに!問題ねぇ!何とかすらぁ!それより、このまま向かっていいんだな!」

「はい!打ち合わせ通りに!」

「はいよ!!」

 

 

おじさんと連絡。

ガーグァ達は、いつもと変わらず車を引いているようにしか見えないが、おじさんには伝わるんだろう。

流石だ。

 

 

「ショウコ!」

「はいっ!」

「用意は!?」

「いつでも!」

「よし……では、せっちゃんさん、フェニクさん。護衛、よろしくおねがいします。」

「はーい、いってらー。」

「ソウジさん!よろしく頼む!」

「はい!」

 

 

バッ。

 

 

合図もしないで幌から飛び降りる俺。

同じタイミングで飛び出すショウコ。

きれいに二人で着地する。

 

息ぴったりだ。

 

 

「ソウジー!視認できたー!」

「はい!見えてます!」

「ソウジさん!ショウコちゃん!ご武運を!」

「はいっ!」

 

 

ショウコの元気な声が響く。

 

 

ガラガラガラガラ…………。

 

 

遠くに消えていくガーグァ車の音。

……さぁ、ここからだ。

 

 

「……ショウコ、よろしくな。」

「はいっ!ご主人さま!」

「…………来るぞっ!!」

 

 

ピュオオォン!

 

 

上空からほぼ垂直に落下してくる物体。

とんでもない速度だ。

 

 

ズゥン……。

 

 

「ギャァァァ!!!!」

 

 

超速で降りてきたのに、着地の音はそこまで響かない。

飛ぶのが上手いんだな。情報通りだ。

 

するとようやくマップに、目の前のモンスター、セルレギオスが感知された。

遅いわ。

 

 

「よぅ。1日ぶりだな、セルレギオス。」

「グゥゥゥゥゥ……。」

 

 

俺たちの目の前、5メートルほど空けて、ヤツが唸っている。

昨日対峙した個体と同じ奴だろう。

俺とセツヒトさんがつけた傷が残っていた。

 

 

「間違っても、よそに行くんじゃないぞ……?」

「グゥゥゥ…………!」

「相手は、俺たちだ!!」

「ギャァァァァァ!」

 

 

セルレギオスの咆哮と共に。

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

「まずは10分集中!凌ぐぞ!」

「はいっ!!」

 

 

やることは変わらない。

まずは、見る。

昨日は特殊な状況だったから突っ込んだけど、今日は慎重に。

……セツヒトさんが言っていた、飛ぶ鱗、というのも気になる。

 

 

「ギャア!!」

 

 

グァァ!!

 

 

音を立てて翼を広げ、後退したセルレギオス。

翼が動くと同時に、何かを射出した。

 

 

(これか!)

 

 

まさかいきなり出してくるとは。

飛ぶ鱗。

翼から出してくるのか。

……いや、あの松ぼっくりみたいなゴツゴツが飛び出してきた。

あれ見える箇所……体全体、どこから出すかわからん。

 

 

「散!」

「はいっ!」

 

 

ザッ!

 

 

危なげなく、左右に回避する俺たち。

当たるとズクズク痛いらしい。

怖っ。

 

 

「今のが例のやつだ!」

「了解です!」

 

 

打ち合わせで伝えておいた、飛んでくる鱗。

早めに確認できて良かった。

 

 

「ガァァァ!!」

 

 

着地して、距離を詰めてくるようだが……これは……。

 

 

「尻尾!2回!」

「はいっ!」

 

 

その長い尾を振り回し、薙ぎ払ってくるセルレギオス。

バックステップで避ける。

深めに回避し、二回目も避けていく。

 

 

「ご主人さま!」

「まだっ!咆哮!」

「はいっ!」

 

 

技の直後、スキだらけのセルレギオス。

攻撃しようとショウコが動くのを静止。

 

 

「ギャアアアアアアア!!」

「…………っ!」

 

 

モンスターの咆哮は、ティガレックスのような攻撃能力を備えたものもあるが、基本無害だ。

だが、動物的な本能で体がすくんでしまう。

 

そのスキを狙われたら、危険だ。

 

叫ぶだろうなと思ったら叫んだ。

読みやすいやつである。

 

 

「ショウコ、焦らずいこう。」

「は、はいっ!すんません!」

「よしっ!……左っ!」

「はいっ!」

 

 

また飛んで、今度は俺たちの左に着地するセルレギオス。

よく飛ぶ。

視野を縦にも横にも広げないと、動きに対応できない。

ティガレックスは、殆どの攻撃が直線的であったのに対し、セルレギオスは縦横無尽な感じ。

 

 

「ギィァ!!」

 

 

ゆっくり首を捻りだすセルレギオス。

…………何かを出そうとしている?

 

 

「ショウコ!バック!」

「はいっ!……え!?」

 

 

ショウコに、後退を指示。

だが、俺は前進する。

 

セルレギオスが何かを出そうとしている。

なら、その首元は?

 

 

「ガラ空きだ。」

 

 

シュッ。

 

ザシュ!ザン!ザザン!

 

 

「えぇぇ!?」

 

 

ダッ。

 

 

離脱。

 

 

「ギャオオォォォ!!」

 

 

ヒュオン!

 

 

(翼っ!)

 

 

「よっ……と!」

 

 

ショウコを驚かせてしまっただろうか。

いける、と踏んで動いたんだけど。

 

首を捻る動作。

力の溜め具合からして、おそらくは遠距離攻撃をしてくると思った。

バサルモスのようなビームなのか、ラングロトラのような長い舌なのかは分からないが、これはチャンス。

今までに幾度となく試してきた、急接近からの至近距離での攻撃。

うまくいった。

 

その後の翼を振り下ろす攻撃を避け、ショウコのいる場所まで戻る。

 

 

「ご主人さま……言うてることちゃいますやん……。」

「す、すまん。隙だらけで、つい。」

「焦らんでいいって言うたやないですか!!」

「す、すまん。」

 

 

人に注意しておいて自分がやるとは。

最低である。

 

 

「ほ、ほら!次来るぞ!」

「えっ!?も、もうっ!!」

 

 

ちょっと怒っているショウコ。

間髪入れず、セルレギオスが尻尾を振り回してきた。

 

大きく回避する俺たち。

 

 

「……後で話しましょう……。」

 

 

説教確定。

 

そりゃそうか……。

 

……気を取り直して。

 

 

「グゥゥゥゥゥ……!」

 

 

セルレギオスの攻撃は、範囲が広い。

特に飛んだあとの翼や尻尾の振り回しは、脅威だ。

だが、俺とショウコの避けられる範囲を甘く見てもらっては困る。

避けることに関しては、俺たち、自信があるぞ。

 

 

「…………ギャア!!」

 

 

バサッ……。

 

 

また飛んだ。

どうやっているのかは分からんが、2、3回羽ばたくだけでホバリングしている。

……物理法則とか関係ないな……すげぇ……。

 

 

「ご主人さま!アレです!」

「アレか!じゃあ2回!警戒!!」

「はいっ!!」

 

 

アレとは何か。

ショウコとの打ち合わせで確認した、トツバに重症を負わせたという、空中からの滑空攻撃のことだ。

 

これは怖い。

 

アイルーとはいえ、トツバの防具の上から切り裂く威力がある。

避けられれば御の字だろう。

 

だが。

 

 

「ショウコ!すまん!やるわ!」

「え、えぇっ!?」

 

 

……この攻撃は、昨日味わった。

確かに速いし、威力も凄まじい。

だが、ティガレックスほどの力は感じない。

ディノバルドみたいな、超速のものでもない。

 

集中する。

まるで居合斬りをする刀の達人のごとく、低く身構える。

 

 

ヒュゴッッ!!

 

 

振り下ろされる尻尾。

 

 

(……ここっ!!)

 

 

鬼人化。

回避。

回転。

 

世界が回る。

だが、俺の双剣は、セルレギオスの尾を撫でるように切り裂き。

 

 

ズバッ!!ザシュ!!

ザザザザン!

 

 

「ギャオオオオ!!」

 

 

空中の姿勢を、叩き落とした。

 

 

「よしっ!ショウコ、チャンス!」

「ご主人さま!?今の何ですか!?」

「説明は後!」

「は、はい!!」

 

 

空から落とされたセルレギオスは、地面でもがいている。

弱点である喉元に、二人一斉に斬りかかった。

 

 

「…………後退!」

「はいっ!」

 

 

ザッ。

 

 

「…………グゥゥゥゥゥ!」

「おー……怒ってる怒ってる。」

「ご主人さま……今、避けたのに攻撃しました……?」

「ああ、そういう技だ。……次も合わせるから、頼んだぞ。」

「は、はい!」

 

 

ショウコに説明するほどの時間を、セルレギオスは与えてくれない。

現に、既に態勢を立て直し、咆哮をしようと首を捻っている。

 

 

「ギャァァァァァ!!」

「うっ……!」

「……ふっ!!」

 

 

見え見えの咆哮に、ショウコが怯む。

だが、俺は動いた。

 

実は旅の帰りの間、ずっと考えていた。

大声に怯んでしまうなら、その直前に回避攻撃を加えればいいのではないか。

 

まるで憑依状態のように、先に体に指示を出し、回転、攻撃。

空中乱舞を、繰り出す。

 

息を浅く吐き出し、体に活を入れて。

 

 

「――――ャァァァ!!」

 

 

叫び続けるセルレギオス。

だが、俺の体は止められない。

 

 

ザシュ!ザザザザン!

 

 

「ギャア!!」

 

 

たじろぐセルレギオス。

よし、咆哮中の回避攻撃、成功。

 

 

「ご主人さま!今のも!」

「あぁ!できた!」

「できたって……やりすぎです!」

「す、すまん!でも確証はあったぞ!?」

 

 

ヒントは、憑依状態。

心が無になり、ひたすらに体が動いてしまう、あの状態。

それそのものを、再現した。

 

うん、やっぱりできたな。

 

 

「…………お説教2つ目です。」

 

 

わぁ怖い。

 

息ぴったりだなぁ。

 

 

* * * * * *

 

 

「ショウコ!」

「はいっ!」

 

 

声をかける。

同時に飛び退く。

 

 

ズウン!

 

 

「ギャアァァァ!!」

 

 

空中からその後ろ脚を勢いよく降ろしてきたセルレギオス。

特徴的な、その猛禽類のような爪。

おそらくは、獲物を捕まえるために進化したのだろう。

 

当たるとかなり厄介だと思う。

 

だが。

 

 

「散!」

「はいっ!」

 

 

バッ!

 

 

俺達のいた場所に、足の爪を立てて降りるセルレギオス。

 

だが、避けてしまえばスキが生まれる。

左右から挟んで、両翼を攻撃。

前脚に生えた翼を、重点的に攻めていく。

 

 

「スキあり!ショウコ!」

「はいっ!」

 

 

キン!ザシュ!

ザン!ザザン!ザザザン!!

 

 

「グァ……!!」

 

 

バッ!!

 

バサッ!バサッ!

 

 

苦しげな顔から、再び飛ぶセルレギオス。

だが、翼を重点的に叩いたおかげで、少しぎこちない。

 

 

「ギャァァァ!!」

「振り下ろし!」

「後退します!」

 

 

空中からの尻尾攻撃に備え、ショウコは急いで後退する。

だが、俺はそのまま前進。

姿勢を低く構える。

 

意識を、研ぎ澄ます。

 

 

ヒュオン!!

 

 

(…………今!)

 

 

振り下ろしに合わせて、回避攻撃。

双剣を一瞬だけ当て、相手の力をそのままに。

回転乱舞を繰り出し。

 

俺は、セルレギオスの尻尾からその付け根にかけて、斬り裂いた。

 

 

ザシュ!ザザザザザザザン!

 

 

「ギャァァァ……!!」

 

 

ズゥン……。

 

 

「チャンス!」

「はいっ!…………ご主人さま!いけます!」

「おっ!?……はいよ!!」

 

 

倒れたセルレギオスに突っ込むと、ショウコの合図がかかる。

これは、捕獲可能というサイン。

アイルーであるショウコには分かるという、モンスターの体力の残り具合。

 

……流石ショウコ!

 

急いでポーチに触れ、アイテム一覧を起動。

シビレ罠を選択する。

 

 

カチッ。

 

ビリビリビリビリ!!

 

 

「グギャアァァァ……ァ……!……ァァ!」

「ショウコ!」

「はいっ!!」

 

 

痺れながら、苦しげに声を上げるセルレギオス。

ショウコが手に持つ麻酔玉を当てる。

 

 

ボッ、ボフッ!

 

 

それを2発食らったのち、セルレギオスの体は揺らぎ。

 

 

「ガ……ガァ…………。」

 

 

ズゥン…………。

 

 

事切れたかのように、その巨体を横たえた。

 

 

「…………グォォ……グォォ……。」

「ね、寝てる……よな……?」

「はい……や、やかましいですね……イビキ。」

 

 

角が邪魔しているのか、鼻が詰まっているのかは知らんが、イビキがすごい。

父親を思い出した。

 

 

「ご主人さま……お疲れさまでした。」

「あぁ。……おっと、そうだ。」

 

 

信号弾を放つ。

今回は、緑色。

 

よく見えるように天高く飛ばした。

 

空を見上げ、ようやく一息つく。

 

 

「ふぅ……ショウコも、お疲れさま。」

「いいえ……ご主人さま、色々と言いたいことはありますが……まずは!」

「お、おぅ。」

 

 

思い返す。

 

……反省の多い狩猟であった。

ザ・独りよがり。

 

別にショウコの前でいいところを見せようとしていた訳ではないんだが……。

……調子に乗って、突っ込んでしまった。

 

重い一撃は喰らわなかったが、回避攻撃はまだ開発段階。

…………できる、と思ってはいたんだけど。

 

そのことをショウコに怒られるだろうな、と推測して肩をすくめる。

 

……ところが、ショウコの言葉は意外なものだった。

 

 

「…………おかえりなさい、です。ご主人さま。」

「…………へ?」

「い、いや、ですから……二人っきりになったら、言おう言おう思て……まさかこんなタイミングになるとは……ですけど。」

「あ、そういやそうか……。」

 

 

ショウコに、お帰りとは言われてなかったな。

 

 

「……あぁ、ただいま。ショウコ。」

「…………はい。おかえりなさいです。…………みんな、みんな待ってましたよ?早くワサドラに帰って、言うたって下さいね?」

「あぁ、まかせろ。」

 

 

そうだな。

早く帰ろう、ワサドラへ。

色んな人に、ただいまって言おう。

 

 

「…………それはそうとご主人さま。」

「ん?どうした?」

「言いたいことが山程あります!……ええですか?まず始め遠距離攻撃に合わせた突っ込み!あれは……見慣れたもんですが、見てるこっちはヒヤヒヤします!それに、何ですかあの技!あの避けながら攻撃するあれは!もう死ににいっとるようなもんです!しかも平気な顔しとるし!」

「ご、ごめんなさい……。」

「まさかあっちでも、そんな無茶してませんか!?」

「し、しました。」

「ご主人さま……!一体何を相手にしたらそんな技身につけられるんですか!」

「ティ、ティガレックスと少々……。」

「ティ、ティ、ティガレックスぅ!?」

 

 

ショウコの猛追は止まらず。

まさにティガレックスの如し。

 

 

「ホンマにもう……無茶しすぎです!」

「す、すみません!仕方なかったんです!」

 

 

帰ってきたなぁ、と実感。

心配で言ってくれてるのが分かるので、どこかホッとして、顔がニヤけてしまった。

 

 

「…………笑うてませんか?」

「ワ、ワラッテナイデスヨー。」

 

 

笑みの理由は終ぞ話すことなく。

結局、ギルドの回収班が来るまで、その場で俺は謝り続けるのだった。

 

 

た、ただいま。ショウコ。

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