シガイアさんとの話も終わり、ギルドを後にした俺たち。
そのままなんとなく解散して、なんとなく部屋に戻ってきてしまった。
ハイビスさんに働きすぎだと言いはしたが、俺も負けてはいない。
休みの日、何をしているかと言われれば、トレーニングかアイテムの補充か装備の点検か……いずれにせよ、ハンターに関することである。
体は休まっているが……これは良くない。
うーん……改善しないとなぁ。
「…………明日からどうするかなぁ。」
独り言ちる。
目下の目標は、ディノバルドの狩猟。
リベンジしたい、それだけである。
だがその先は?
(……オフィシャルな依頼って……どんなやつだろう……。)
シガイアさんやハイビスさんから聞いた、何か偉い方から来るかもしれないという依頼。
……おそらくは強敵が待ち構えていることだろう。
HRも上がり、その辺との戦いも増えてくる……のかな。
……分からんが、当面はそうしたクエストをこなしていくことになりそうだ。
(…………すると、今のままの防具や武器でいいのか?)
必然、こう考えてしまう。
だって死にたくない。
世の中には痛いほうが良いという稀有な方もいるにはいるらしいが、俺は至ってノーマル。
痛いのは嫌である。
(そうと決まれば、早速武具屋に―――)
コンコン。
今日も今日とて、休みを仕事で消化しようと決めかけたその時。
部屋にノックの音が響いた。
「はい。」
『おぉソウジさん。ワシじゃ。入っていいかの?』
「ホエールさん。どうぞ?」
ガチャ。
「すまんの、お休みのところ。」
「いえ、暇してましたし。なんのご用ですか?」
ホエールさんが訪ねてくるとは珍しい。
「用というわけでは無いがの。……ソウジさん、しばらくは休みなんじゃろ?」
「は、はい。ハンター業はもう少ししてから再開しようかと。」
ショウコと昨日少し話した事。
フェニクさん達との雇用契約はまだ少しだけ続いているらしい。
とは言ってもトツバは怪我で動けない。
トツバに気を使わせないよう、フェニクさんと二人でもう数日ほどクエストを受けたいとのこと。
断る理由も無く、そもそも契約なのだから履行するのが当たり前。
なので、ショウコが働き終えるまで数日は、のんびりするつもりだったが……。
「休む時は、しっかり休むんじゃぞ?」
「うっ……。」
「…………まさかとは思うが、せっかくの休み、仕事をしようと思っていたのではないかの?」
「そ……その通りです……。」
「ほっほ。正直じゃわい。」
笑うホエールさん。
「…………ソウジさん、噂は聞いておるよ。強敵を何体も屠った、とんでも無い遠征だったのじゃろう?……しばらくは、体も心も休まれたほうがええ。」
「い、いやー……その通りですよね……。」
「分かっておるのなら、わしからは以上じゃ。……根を詰めすぎて破綻するハンターなど、たくさん見てきたからの。……おおかた、今後に向けて装備を整え直そうとか、その辺じゃろ?」
「うっ……。」
図星を突かれる。
大正解です。
「当たりじゃな……。何も考えないほうが、かえって考えられるようになる。これは持論での。」
「はい……。」
「まぁ……世の中には休むことばかり考える輩もおるがの……そういう奴に限って長生きするもんじゃ。」
それはわかる。
前世でも、オフの為に効率よく仕事しているような同僚が、結局辞めずに残っていた。
俺はダラダラ仕事したいタイプ。
…………早死にする方かな…………。
「休む時は、全力で、の?」
「は、はい。」
「ではの。」
バタン。
出ていった。
…………あれだけを伝えるために、わざわざ来てくれたのか。
……確かになぁ。その通りですよ。
ハイビスさんの社畜っぷりに心配をしつつも、俺は俺で働きすぎだ。
「全力で休む、か。」
しかし、何をすればいいのだ。
…………あ、何もしなければいいのか。
簡単である。
「…………出かけるか。」
何もしない、をする。
矛盾するが、仕方ない。
だって、休むとはそういうことであるからして。
宛もなくブラブラ街を歩いてみるか。
街ブラというやつである。
特に目的も立てず、俺は宿を出ていった。
「夕飯までには帰るかもしれません」などと、実に曖昧な言葉をホエールさんに伝えると、「それでいいわい。」と笑われた。
まぁ予定が無いんだから、どうなるかも分からん。
なるようになるか。
* * * * * *
2時間ほど街をうろついた。
このまま走ればトレーニングになるんじゃないかと思ったが、それは無し。
ダメだ……まだ頭は完全に仕事モードだ……。
本来怠け者であると思っていたが……この世界に来てからは、とにかく一生懸命にやることしか考えなかったからなぁ。
いつの間にか、勤勉な人間になってしまっていたらしい。
らしいって。
自分の事なのに。
「はーい!!安いよ安いよ!!どれも採れたて新鮮だよー!!」
「こちらアヤ直送のポポ肉だよー!シチューに炒め物に、夕飯は決まりだよー!!」
気が付いたら市場に着いていた。
出店の店主たちの大声が飛び交う中を、用も無く歩く。
もうしばらく行くと飲食店の出店が並ぶのだが、この辺はどうやら食品そのものを取り扱うような店の多いエリアらしい。
色とりどりの野菜や旨そうな肉を所狭しと並べ、色んな掛け声で客を呼び込んでいる。
じっくりと見たことは無かったが、結構な賑わいだ。
活気が溢れている。
(こういうのも新しい発見か。)
特に買うつもりもないが、掛け声につられる。
あ、あれは……アオアシラの肉って書いてあるけど。
こういうところに卸されるのか。
新発見。
よく見れば、至るところにモンスターの肉や、採取されたと思われる薬草などの類が並ぶ。
ハンターの仕事は人々の生活に繋がっているんだな、と実感させられた。
小学生の社会科じゃないが、勉強になる。
…………。
「断りきれなかったな……。」
ただボーッと歩いていたせいか、肉の串焼きを買わされた。
美味そうだったのでじーっと見ていたら、「食べていくかい!?」とおばちゃんに言われた。
そうしたら最後、様々な文句で言い負かされ、結局お買い上げ。
おばちゃんの「勝った」と言いたげ顔が忘れられない。
……まぁうまそうだからいいか。
ノーと言えない男です。
すみません。
市場の抜けた先のベンチに腰掛けて、頂くことにする。
串4、5本は入っている包み。
多すぎだよ、おばちゃん。
「ハンターさんならこれくらいはいかないとね!」と言い切られてしまった。
食いきれねぇって……。
「……よし……いただきま……ん?……あれは……。」
肉だけの昼食にしようかと意を決して串を持ち上げた時、視界に入った人。
……あれは…………ハイビスさんか?
同じ広場の向かいにあるベンチで腰を下ろし、何かの包みをゴソゴソしている。
…………中身は……パニーニみたいな……野菜やら何やらを挟んだパンというか。
それを取り出して、食べようともせず……溜息をついている。
まさか……。
近づいてみる。
「はぁぁ……こんなに食べられませんよぉ……おじさん……。」
「…………ハイビスさん?」
「ふぇ…………へ!?そ、ソウジさん!?」
「ど、どうも。」
「ど、どうも……。」
驚き顔のハイビスさん。
完全に私服。
春らしい淡いピンクのセーターに黒いミドル丈のスカートが、非常に女性らしい。
私服姿はミヨシで少なからず見てきたが、新鮮である。
……あれ?さっきまでギルドで受付嬢の制服を着ていたはずでは?
「…………そ、ソウジさんもお買い物ですか?」
「え、ええ。まぁ……いや、嘘です。」
「え?」
「…………武器や防具を見てみようとしたら、ある方に『休む時は休まないといけない』と言われまして。……なので、街をぶらついていた、が正しいです。」
「そ、そうですか。」
ハイビスさんに正直に話す。
隠すことでもない。
「ハイビスさんは?」
「……私も似たようなものです。あの後、もう帰るように言われて……。休みに何をしていいかわからず、とりあえず、散歩を……。」
「……それで、それを押し売りされた、と。」
「うっ……その通りです。……ソウジさんも?」
「は、はい……。食べきれないほどの肉の串焼きをを……。」
「…………。」
「…………。」
「ふ、ふふふ。」
「ちょっ、笑わないでくださいよ……。」
「い、いえ……すみません。…………似た者同士だなぁ、と。」
確かになぁ。
休みに何をすればいいかわからず、街ブラしていたらたくさんのメシを買わされ、広場にとりあえず腰を落ち着け、溜息をはき……。
全く同じではないか。
「…………俺と行動が同じ過ぎて、ビックリですよ。」
「本当ですね。あ、隣、どうですか?……一緒に食べませんか?」
ハイビスさんからのお誘い。
是非も無い。
こんな美人さんからの申し出を断る男など、この世にはいないと思う。
とりあえずお互いに交換し、食べることに。
「……ふふ、なんか嬉しいです。」
「嬉しい?」
ハイビスさんが変なことを言う。
「あ、いえ。……私だけじゃなかったんだな、と。休日に何したらいいか分からないなんて……ちょっと落ち込んでたんです。」
「……それどころか行動まで同じですよ?……ほら、こんなに買わされて。」
言いながら、串焼きが入った包みを持ち上げる。
「ブッ……ちょ、ちょっとソウジさん……笑わせないで下さい……。」
「あ、あぁすみません……いや、でも、これすごい偶然ですよ?」
「ふふ……そうですね。本当に、昨日も今日も会っていますし。」
「……仲いいですね、俺たち。」
「ふぇっ!?……そ、そうですね!な、仲いいですね……。」
俯いて黙ってしまうハイビスさん。
何かマズい事を言ってしまっただろうか……?
「…………そ、ソウジさん!」
「うぇっ!?は、はい!」
とか考えていたら急に大声で話しかけられた。
緩急がすごい。
「こ、この後良かったら、どこかお出かけしませんか?」
「へ!?」
「い、いえ。これも何かの縁ですし……お買い物などあれば、一緒にどうかな、と。」
「…………分かりました、行きましょう。」
「え!?いいんですか!?」
ハイビスさんと一緒にいるなら、それはもういつもの日常とは違う訳であって。
立派な休日の過ごし方と言えるのではないだろうか。
それに。
「むしろハイビスさんの様な女性と一緒にいられるなんて、光栄ですよ。」
「ふぇっ!?」
「エスコートの仕方なんぞ全く分かりませんけど……まあ一緒に買い物行くぐらいなら、大丈夫かと。よろしくおねがいします。」
「よ、よよよよろしくお願いします!」
思わぬところで予定をゲット。
ハイビスさんと街ブラである。
……いかん。少しワクワクしている。
…………。
そこからハイビスさんと過ごした。
極力仕事の話はせず、お互いの服を見たり、用もないのにまた市場をぶらついたり。
あれ?これってデートだ。
と気付いた頃には、既に日が傾き始めていた。
…………。
「ふぅ……満喫しましたね……俺たち。」
「ええ……。乗り切りましたね……。」
まるで一狩り行ったあとのハンター同士の会話である。
「俺はこの後、銭湯にでも行こうかと思いますが……流石にそこはご一緒じゃないほうがいいですよね。」
「あ……そ、そうですね。」
なぜ寂しそうな顔をする。
確かこの世界では、銭湯に一緒に行くのはハレンチ行為だったはず。
それを教えてくれた張本人が目の前にいるわけで。
「…………ご、ご遠慮しておきます…………。」
「は、はぁ。」
どこか悔しそうに見えるのは気のせいか……?
「俺、今日、楽しかったです。とても。」
「わ、私もです。」
「……あー、これでまた、ハンター業がんばれそうです。」
「あ、明日からですか?」
「いえ、ショウコがまだ忙しいみたいで……。明日は装備を見直そうかと。」
「結局仕事になってません?」
「あー……難しいなぁ……。」
「……ふふ。頑張って休んでくださいね!」
「はい、気をつけます。」
笑い合う。
……なんだろう、冬山で一緒に過ごしたからか、自然と笑えている気がする。
ハイビスさんと二人きりとか、以前ならドキドキしまくっていたと思うのだが。
本当に仲良くなったものである。
「それじゃあソウジさん……ぜひまた、何したらいいか分からなくなったら……誘ってくださいね。」
「は、はい。」
「では、失礼しますね。」
去っていくハイビスさん。
な、何だ。やはり最後はドキドキしてしまったぞ……。
……完全にデートであった。
もう、完全に。
しかも楽しんでしまった。
……いや、別に悪いことなんてしていないんだけど。
……。
よし!気を取り直して?
……銭湯でも行くか……。
そうして俺は、たまの休日を楽しんだ。
その後、俺とハイビスさんの目撃情報が市場のおばちゃんによって色んな人にもたらされた。
その凶悪なおばちゃんネットワークは、拡散力も凄まじく。
銭湯に入っている間に既にドールの耳にも入ったようで、「は、ハイビスさんとは……ただならぬ仲だって聞いたんだけど……?」と恐る恐る聞かれてしまった。
尾ひれが付きすぎたその噂の誤解は何とか解いたが……さすがハイビスさん、もはやこの街のアイドルである。
銭湯一緒に行かんで良かった……。
行動に気をつけて休日を過ごさなければならないと肝に銘じた、休日であった。