俺には、倒すべき宿敵がいる。
斬竜、ディノバルド。
以前ボッコボコにされた相手である。
ボッコボコにされたとまではいかないが、もう一つ。
雷狼竜、ジンオウガ。
雪山に向かう際襲われて、ほとんど何もできなかった。
セツヒトさんに救われたけど……あの麻痺は厄介だ。
そして一昨日、セツヒトさんに素材を集めると約束したモンスター。
アンジャナフ……リオレウス……オロミドロ……。
そして何より、ラージャン。
セツヒトさんをして、ティガレックスよりやばいと言わしめたモンスター。
…………。
マジかぁ……。
だが……やる前から怖気付いてもしょうがない。
というわけで、強くなるためにも。
昨日からトレーニングを再開した。
そして今朝は村……町の外周ランニングも再開。
ワサドラはもう町でいいだろ……。
ランニング後は汗を流し、朝食。
ドールの作ってくれたご飯を、ありがたく頂いた。
「どう?今日はパンにして見たけど。」
「……これ、自家製パンか?」
「う、うん。頑張っちゃった。」
「うめぇ……うめぇよ……。」
「そ、そうかな……。」
パン食も絶品。
もう俺は、ドールの飯から離れられない。
その後、ギルドへ。
とはいっても、クエストを受注するわけでは無い。
ショウコはまだ、フェニクさん達との契約中。
寝泊まりは同じ部屋だが、今朝も早くから出かけていった。
今日が最後の契約の日。忙しいのかな。
ショウコと狩りを行うと決めた以上、俺一人でクエストには行けない。
今できることは、専ら情報収集である。
(ディノバルドは……無いか。リオレウスは、あるな……。アンジャナフ……ある。ジンオウガ……無いな……。オロミドロ……めっちゃある……何で!?)
件のモンスター達のクエストを探してみる。
クエストボードの前には、今日も今日とて数々のハンターが群がっていた。
何とか後ろからボードを観察……こういう時は、目が良くて良かったと思う。
様々なモンスターのクエストがある中で、ジンオウガとディノバルドは無かった。
珍しいのだろうか。
そして最も警戒すべきラージャン。
ヤツの名もない。
(……まさか、ボードには貼り付けられないレベル、ってこと……か?)
上位ハンター向けのボードをいくら探しても、ラージャンの名は無かった。
…………あまり強すぎるモンスターはボードには貼られず、ギルドからの紹介でのみ受付されると聞いたけど……。
それか?
受付の方に目をやる。
ハイビスさんは……いない。ヒナタさんも、見当たらない。
二人とも休みだろうか。
…………まぁこの際誰でもいいか。
「あのー。」
「はい、どうされました?」
ギルドの受付にいた若い男性に声をかける。
ハイビスさんより若いだろうか。こっちの俺と似たような年頃だろう。
黒い短髪にメガネをかけた、イケメンさんである。
俳優さんみたい。知的。
「モンスターのクエストの事で、少し質問が。」
「あ……申し訳ありません。そういった質問は順番にお並びいただいておりまして……よろしいですか?」
「は、はい。すみません。並びますね。」
「ありがとうございます。」
お兄さんの横を見ると、結構な列ができていた。
見落とした。すみません。
横入りしようとしたわけではないですよ……。
最後尾に並ぶ。
……しかしまぁ、女性ばかりの列である。
イケメンさんにもなると、こうなるのか。
あっちの受付嬢の方は男ばかりだし。
……んー、分かりやすい。
まぁいいや、とりあえず待って、大人しくしとこう。
気のせいか、列に並ぶ女性方にジロジロ見られている気がするし。
…………。
「次の方、どうぞ。」
「あ、はい。よろしくおねがいします。」
ようやく呼ばれ、知的イケメンのお兄さんの前に座る。
にこやかで爽やか。こらモテるわ。
「はい、よろしくおねがいします。並び直していただいて、ありがとうございますソウジさん。今日のご用向は?」
「え、えーっとですね。」
名前を覚えられていたのか。
「とあるモンスターのクエストを探していまして。」
「なるほど。クエストの確認ですね。……失礼ながら、HR7の内容まで参照するのに少しお時間をいただきますが、よろしいですか。」
「はい。」
「討伐対象のモンスターは?」
「ラージャンと、ジンオウガ、ディノバルドです。その3体のやつが、あるかどうか。」
「…………か、かしこまりました。」
爽やかスマイルが引きつったものに変わる。
…………変なことを聞いただろうか。
「少々お待ち下さい……。」
「はい。」
知的イケメン君は、言うなり受付の奥へ。
……何やら上司と思しき人に相談している。
こちらをチラチラと見ながら、何か話をしているが……何だろう。
気にしていないフリをして、堂々としていよう。
……あ、帰ってきた。
「お待たせしました。」
「いえ。」
何かの書類を手に、こちらに戻ってきた知的イケメン君。
すると、眉を顰めながら話を始め出した。
「……3体ともに、ございます。」
「おっ、そうですか。」
「はい……上位ランク、その中でも認められた方しかご紹介はできかねますが、ソウジさんは大丈夫です。……ち、ちなみになんですが、今日は受注をされていきますか?」
「あ、いえ。確認だけです。準備を整え次第、また来ますので。」
「あ……わかりました。では、そのように。」
「は、はい……。」
イケメン君の顔が、どこかホッとしたような顔になる。
……受注すると、あまり良くないことでもあるんだろうな。
「では、内容のみお伝えします。」
「はい、よろしくお願いします。」
知的イケメン君が数枚の用紙を提示してきた。
どれどれ……。
【クエスト名】火山に潜む斬竜
【目的地】火山地帯 採掘場近辺
【時間】なるべく早く
【ターゲット】ディノバルド一体の狩猟
【報酬金】95,500z
【依頼主】
採掘場管理責任者
採掘場管理組合 組合員一同
【依頼文】
採掘場を荒らしまわる斬竜が現れました。傷あり、強個体の可能性あり。
即座に討伐をお願いしたいです。
※高難易度、紹介はHR6以上推奨※
【クエスト名】雷鳴絶歌
【目的地】ワサドラ北東部丘稜地帯
【時間】無制限
【ターゲット】ジンオウガ一体の狩猟
【報酬金】100,500z
【依頼主】ワサドラギルド本部
【依頼文】
ジンオウガ一体、北東部丘陵地帯にて発見。
咆哮により、家畜放牧が困難な状況。
至急、対応されたし。
※高難易度、紹介はHR6以上推奨※
【クエスト名】暴れん坊を捕まえて
【目的地】南部森林地帯
【時間】無制限
【ターゲット】ラージャン一体の捕獲
【報酬金】24,2000z
【依頼主】南部農家主 キタバの娘 イパス
【依頼文】
初めて見るモンスターです。父も長く農家をしているが、見たことがないと言っておりました。
腕利きのハンターさんをお願いします。
※現状被害なし。要生態等確認。捕獲推奨。 ワサドラギルド観測班主任
※ザキミーユ本部との重複の可能性あり。要確認。 ワサドラギルド本部長シガイア
※※※高難易度、HR7以上推奨※※※
ディノバルド、ジンオウガ、ラージャン。いずれも、クエストボードには無かったが……言ってみるものである。
そりゃあそこに無いわけだ、推奨HRが高い。
ラージャンに至っては、HR7以上ときたもんだ。
おっそろしい……。
しかし、クエスト……というか、モンスターの出現自体は確認されているということが分かった。
安心。
同時に不安。
こいつらを……俺は無事に狩れるのだろうか……。
「あ、あのー……。」
「あ、すみません。見すぎましたね。どうぞ、お返しします。」
「あ、いえいえ、それは差し上げます……ソウジさん、で……お間違い無いですよね。」
「は、はい。そうですが……。」
紙と睨めっこして難しい顔をしていたら、イケメン君に声をかけられた。
何だ?
「……不躾で申し訳ないのですが、ソウジさんの活躍は、伺っております。」
「は、はぁ。」
「ハンターになられてから短期間での成長っぷり。男として、とてもかっこいいと思っております。」
「あ、ありがとうございます。」
「ぜひ頑張ってくださいね……応援してます!」
キラッ。
擬音が付きそうな、爽やかすぎる笑顔で挨拶された。
うーん、イケメンさんにそんなことを言われるとは。
存外嬉しいものである。
「また、お越し下さい。」
「はい、ありがとうございました。」
挨拶をして、席を去った。
* * * * * *
「ご主人様、そのクエスト、受けるんですよね。」
「あぁ。そのつもりだが。」
「じゃあ狙いはまず……。」
「当然、ディノバルドだな。」
ギルドから宿に帰ってしばらく。
ダラダラしていたらショウコが帰ってきたので、夕飯を食いにイシザキ亭に出かけた。
ショウコは無事、フェニクさんとの契約を満了。
その報告を受け、明後日から遂に俺たちの通常営業を始めることにした。
明日も休みにしたのは、ショウコが疲れているだろうと思ったから。
本人は明日からやる気満々だったが、トツバ不在のクエストを二人でこなし、疲労もあるだろうと思ったのだ。
無理はいけないよ、無理は。
「ご主人様に言われたく無いです。」と厳しいお言葉を頂いたが。
ディスコミュニケーション。
「その……正直に言いますね。」
「あぁ、何だ?」
「不安です。」
ショウコがらしからぬことを言う。
先程まで「明日からまたがんばりましょう!」と意気込んでいたというのに。
「……まぁ、気持ちはわかる。一度ボコボコにやられた相手だしな。」
「はい……。」
「……だが、クエストの内容。これを見てほしい。」
「…………緊急性は、高そうですね。」
「だろ?採掘場が使えないとなると、そこで働く人たちやその家族、周囲の人達の営みが回らなくなるということだ。」
「…………。」
「何とかしてあげたい。」
これは一応本音である。
ハンターは、人間の生活を守る存在だから。
「…………まぁ、リベンジしたいという気持ちも、もちろんある。」
「……それが本音ですか?」
「どちらも本音だぞ。嘘じゃない。」
「…………ふふ、ご主人様らしい答えですね。」
「そうか?」
思えばゆっくりショウコと二人で過ごすのも久々だ。
俺は右手に持つビールをゆっくりとあおった。
…………んまい。
イシザキ亭は、今日も満員御礼。
カウンター席に何とか腰を据えられたが、ここも空いてなければどこかのテイクアウトを買う予定だった。
幸運である。
「ソウジさん!おまたせー!はい、リノプロスのステーキと……サービスの春野菜のサラダだよ!」
「わ、ありがとうございます、ケイさん。」
「わー!ウチこれめっちゃ好きなんです!」
「ショウコちゃんが喜ぶからって、兄貴が作ったんだよ!遠慮なく食べてね!」
「はい!」
「ありがとうございます。」
既に常連中の常連の俺達。
ケイさんがサービスと、大盛りのサラダボウルを持ってきてくれた。
ありがたい。
どうしても野菜って不足しがちだからなぁ。
そして今日もケイさんはナイスバディ。
バルルンと、音を立てて揺れる。
重ね重ね、ありがとうございます。
「ご主人様!はよ食べましょ!」
「あ、あぁ。食べようか。」
「どうかしました?」
「いや、すまん。あまりの大きさにな。」
「大きいですよねー、このサラダ。ウチ草食やから、助かるわー!いただきます!」
…………そっちの大きさではないんだけどな!
…………はい、オヤジは自重します。
…………。
食べ進みながら、話は先程の話題へ。
「モグモグ……受注すること自体は、別に問題ないです。…………ウチも、強くなったんですよ?まぁご主人様には……遠く及ばんかも知れませんけど。」
「いや、楽しみにしているよ。セルレギオス戦のショウコの動きは、かなり良かったしな。」
「ホンマですか!?……いやぁ、嬉しいわぁ……。」
フォークを更に突き立ててクルクルするショウコ。
褒めるとすぐに照れるので、分かりやすい。
この辺の性格は、とても可愛いと思う。
厳しい時は厳しいけど……それはそれで助かる。
「…………ご主人様が無理せんように、ウチがブレーキになりますからね!」
「あぁ、頼む。ショウコがオトモだと、どうしても安心してしまうんだ。」
「そ、そんなこと言うて……だ、騙されませんよ!」
いや、超本音なんだが。
暴走する俺を止めてくれる存在。
これは大きい。
「頼りにしてるぞ、ショウコ。」
「はいっ!」
ショウコは少食ながら、サラダと肉をもぐもぐと食べ進めている。
俺もつまみながら、ビールをゴクゴク。
あぁ……たまりませんなぁ。
「ソウジ君!久しぶりだな!!」
バァン!!
「ブフォ!!!」
「おや!すまない!驚かせてしまったな!」
「ゴホッ!!ゴホッ!!…………きょ、教官!!?」
「ハッハッハッハッ!!今のを避けられないとは、腕が落ちたか?ソウジ君!」
「避けようが無いわ!てか飲んでる時に思いっきり背中を叩くとかありえませんって!!」
「うむ!すまない!」
「…………。」
「以上だ!」
「謝って終わりなんですね……。」
叩かれた瞬間、誰だか分かった。
こんな非常識なことを、悪気も何もなくする存在を、俺は一人しか知らない。
マショルク教官、登場。
* * * * * *
教官の登場に驚かされてしばらく。
俺とショウコは、席を変えて教官と飲むことにした。
運良く後ろのテーブルが空いたところに、ケイさんが気を利かせてくれた。
「マショルクさんは、何飲まれます?」
「何!?これはこれは、気が利くアイルーさんだ!ショウコ君……だったかな!ビールを頼む!」
「はい!」
「ショウコ、ありがとう。……教官、本当にお久しぶりです。」
教官と飲むのは、いつ以来だったか。
久しぶり過ぎて忘れてしまったぞ。
「さてソウジ君!積もりに積もった話がいくつもあるぞ!」
「俺もです、教官。とりあえず……ワサドラに無事に戻れました。」
「うむ!色々と噂は聞いているぞ!ショウコ君も、ディノバルドの時以来かな!元気にしていたようで何より!」
「あ、ありがとうございます。」
元気だなぁ。
そうそう、こういう人だった。
「さて……。」
ゴクゴク。
ドン。
ビールをグッとあおって、飲み干す教官。
早いな!
「……ソウジ君!ティガレックスの討伐をしたそうじゃないか!恐ろしいまでの成長速度だ!感服したぞ!」
「あ、ありがとうございます。」
「それに、HRも上位トップにたどり着いたと聞いた!素晴らしい!」
「あはは……いやぁ。」
「照れるところではないぞ!むしろ誇ってほしい!弟子がここまで成長したのだ!……こんなに嬉しいことはない!」
ゴクゴク。
ドン!
追加のビールをまたもや飲み干すと、教官は心底嬉しそうに笑った。
……何だろうなぁ……やっぱりこの人に褒められるのが、一番嬉しい……。
俺の下地を作ってくれた、恩人だから。
「…………ご主人様、めっちゃ嬉しそうです。」
「そ、そうか?……ショウコの前で恥ずかしい……。」
「ハッハッハッハッ!」
何だか急に温かい雰囲気になってしまった。
……まぁこれ以上飲んだら、教官は下ネタゲス野郎に成り下がってしまう。
こんな雰囲気も、確かに今しかないだろう。
「次の目標は……やはりディノバルドかな!」
「あ、そうなんです。そこを今ショウコと話していて。」
「ティガレックスを屠れるなら、問題はあるまい!油断だけはしないように!いいな!」
「さ、サーイエッサー!!」
おぉぅ。
脊髄反射してしまった。
ショウコも俺のいきなりの大声にビックリしている。
「話は聞いてましたが……マショルクさんの鍛え方は凄いですねぇ……。」
「ショウコ君もぜひ訓練所に来るといい!鍛えてやろう!」
「う……でもご主人様のためなら……!」
「い、行くな!ショウコ!キツイってもんじゃないぞ!」
そこからは俺の訓練時代の話やショウコの狩りの話になった。
教官の飲むペースは早いが、まだ下ネタ変身はしていない。
少しは大人になったんだろうか。
いや、いい大人なんだけど。
…………。
夜も更け、イシザキ亭で飲むのはお開きにした。
ショウコは「お二人で積もる話もありますよね!」と、気を利かせてくれた。
……教官の飲み癖の悪さは俺から聞いていたので、逃げた可能性もある。
……とりあえず、店を変えることにしよう。
だが、その前に。
確認したいことが、一つ。
「…………教官。」
「お!どうした!」
「一つ、聞きたいことがあります。」
意を決して、聞くことにした。
雰囲気を察してか、酔いながら真顔になる教官。
「…………セツヒトのことかな。」
「……はい。せっちゃ……セツヒトさんから聞きました。色々。……どうして、教官……教官達は、あの時助けに来られなかったんですか?」
ミヨシ村の壊滅。
シガイアさんたちは、再三再四、首都に救援を求めていた。
教官達がいた、カホ・チータにも。
だが、返事はノー。
…………理由が知りたいと、部外者ながら思ったのだ。
「…………分かった!丁度いい機会だしな!」
「……え、いいんですか!?」
教えられないなどと言われるかと思ったのに。
「伝えても構わないと思うのだが!……言い訳がましくてな!……セツヒトにも、村の人たちにも顔向けができん!」
「……時効……とは言いませんけど、お二人はしっかり話し合われた方がいいかと思います。」
「そ、そうか。……ありがとう、ソウジ君。」
二人が仲が悪いのは、どちらとも懇意にさせてもらっている俺としては、正直あまり見たいものではない。
まぁ単純に馬が合わないというのもあるかもしれないが……アヤ村に滞在している時は、二人仲よかったんだし。
修復可能なのではと、勝手に思っている。
だがその為には、不明になっている事を紐解いて、腹を割って話す必要があるだろう。
…………。
あまり人に聴かれたくない話だと教官が言うので、俺たちは近くのバーに入ることにした。
静かな雰囲気。
込み入った話をするにはもってこいの場所だ。
教官は、珍しく度数の高い蒸留酒をロックで頼んだ。
よく分からんので、俺も同じものを頼むことにした。
「あの時の話を人にするのは、初めてだな……。」
いつもの元気は鳴りを潜め、教官がゆっくりと語り出した。
「どこから話せばよいか……首都にやって来たのは、リオ夫婦、その亜種。……ひどい物だった。どういうわけか、民衆が寝静まった夜に襲来。上空から炎を撒き散らして帰っていく。被害も甚大だった。……首都の民衆は恐怖の底に叩き落とされた。パニックを起こした暴徒が街を破壊。混乱の極みだった。」
「…………。」
「まるで首都を破壊するためだけに現れたモンスターとしか思えなかった。それを治められるのは、私たちしかいなかった……。信じられないかもしれないが、あの首都のギルドでさえ逼迫するほど、周囲のモンスター出現状況は、おかしかった。」
「……セツヒトさんのところも、異常だったと聞きました。」
「あぁ……。後でわかったことだが、似たようなことが各地で起こっていたらしい。……あの天変地異とも言うべき事態に、私たちは不眠不休で解決に当たった。……タオカカから救援要請が来た時、既にザキミーユには人手が無かった。……あれだけ戦力をかき集めていたのに、だ。」
「…………。」
セツヒトさんも、G級の昇格の際、首都に招聘されたという。
蹴ったらしいけど。
「……後々、文献で色々調べたが……セツヒトの方も中々のモンスターの量であったらしいな……あいつはアレを、一人で倒して回ったのだと思うと……正直敬意しか湧かない。」
「……ザキミーユの方は、モンスターの量は……?」
「約5倍だ。」
「ご……!?」
「……それだけ、ザキミーユギルドがカバーする範囲は広いのだ……既に周囲の村や町に向かったものも合わせれば、5倍ではきかんだろう。……あの時は完全に異常だったのだ。」
恐ろしい数である。
……教官達は、それでもなお……。
「リオ夫婦に、ついに大ダメージを喰らわせることができた、その時。タオカカギルドから一報が入った。獄狼竜、襲来とな。」
「セツヒトさんが、見つけた時のこと……。」
「私は、ギルドの静止を振り切って走った。ファンゴより速く行く自信はあったからな。」
「……めっちゃ行動力高いです……。」
「まぁな。……必死だったのだ。だがまぁ、着いた時には遅かった。ミヨシ村は壊滅、アヤ村にも甚大な被害が出た。……セツヒトの方に顔を出したのも、その時だった。」
「……。」
「……そこであったことは……セツヒトから聴いているだろう?……再三にわたって救援を無視し続けたザキミーユギルドにも責任はあると思うが……はっきり言って、あの時は首都はその機能を果たすことなどできなかっただろう。……そして、また踵を返して戻った時には、既にハスガ達がリオ夫婦亜種に引導を渡していた。」
「……教官は、リオレウス達を倒す前にこちらに来たんですね。」
「あぁ。だが、それは言い訳にしかならん。結局どちらにも間に合わなかった、中途半端で馬鹿な男だ。」
セツヒトさん……教官はやっぱり、動いてくれていましたよ。
動き出すのが遅すぎたのも、理由がありました。
……あのスタンピードは、どうやらかなりの規模で起こっていたようです。
……シガイアさんは、事情を知っていそうだけど……あぁ、事情を知っているからこそ、そこまでマショルク教官に恨みつらみは感じていないということかな。
シガイアさんの教官への対応も普通だったし。
セツヒトさんは、故郷やその隣村を守りきれなかった悔しさと恨みが、そのまま教官達に向いた形だ。
…………どちらも、仕方ないといえば仕方の無いこと。
納得できるかは、全く別の話。
うーん……。
「……ソウジ君。私は、あの時の一連の流れに、どこか違和感しか感じられなかった。」
「違和感、ですか。」
「はかったような大型モンスターの大発生、生態系の大変動、リオ亜種が首都に夜間のみやって来るというおかしさ、そして観測などされたこともない超強力個体の獄狼竜の発生……それらを同時に起こす、何かがあったと思っている。」
「……それは……確かに。恣意性を感じてしまいます。」
「……優良なハンターの育成は急務。私がここにやってきたのは、ソウジ君のようなハンターをたくさん育て上げるためだ……カホ・チータも、終わってしまったしな……。」
カラン。
グラスが、音を立てる。
「……今日の所は、ここまでにしよう。死んだ者の話など、これからを生きるソウジ君の為にはならんだろうしな!」
教官が組んでいたパーティーチーム。
カホ・チータ。
二人のメンバーが亡くなり、結果解散を余儀なくされた、とは聞いたが。
……この辺の話は、また今度にしよう。
今回、ミヨシ村壊滅の事情の裏をたくさん聞くことができた。
……今日はそれでいい。
「……ソウジ君!今日は飲むぞ!」
「いや、既に飲んでますって!」
「何を言う!明日は休みなのだろう!師匠に付き合うのもまた、弟子の仕事だぞ!!」
「普通にパワハラ!!」
「私もそろそろ下ネタを言いたい!」
「自覚してんのかよ!」
そこから教官は一転、下ネタおじさんにジョブチェンジ。
店にいた女性たちにナンパさながらの相席を始め、さらにヒートアップ。
……さっきまでの真剣な雰囲気は完全に消え去ってしまった。
まぁ、いいか。
とりあえず、今の話で教官が嘘をついているとは思えなかった。
…………すれ違いでセツヒトさんと教官が仲違いしているのであれば、何とかしたい。
だが、この飲み癖の悪さは……おそらくマイナスポイントだろう……。
今日も周囲に謝り倒して終わる、教官との飲み会であった。