神様との夢の中での邂逅。
そこから起きたら既に朝食時であった。
……頭は完全に覚めているので、なんか変な気分。
だが、腹は減っている。
「メシ……先に済ませるか……。」
ショウコはいるかな。
下手したら、ハンズとトレーニングにでも向かっているかもしれない。
昨日二人で話していたしな。
…………今日は俺はやめておこう。
体はもうあまり痛くないけど、一応けが人だし。
「おはようございます。」
「あ、ソウジさん。おはよう。」
「ドール。なんかしばらくぶり。」
「うん。ジンオウガ、倒したんだってね。……怪我は平気?」
「あぁ、もうあんまり痛くない。さすがに走るのはやめておくけど。」
「うん、そうした方がいいよ。ショウコちゃん、ご主人様が悪くなるといけないからって、ハンズさんとランニングに行ってた。」
「そうか。」
ハンズは、まぁ修練場の特訓を受けがてら、時期を見て帰るんだろう。
俺もトレーニングに付き合いたかったが、今日は休養日。
明日辺りから考えよう。
「朝ごはん、食べる?食欲ある?」
「あぁ、大丈夫だ。腹減った。」
「待っててね。」という返事のあと、水場に向かうドール。
慣れ親しんだ宿の食堂での朝。
やっぱり落ち着くなぁ。
ミヨシでの生活からしばらく、段々とこちらでの生活に戻ってきた。
ようやく感じる、日常のありがたみ。
女神様の言う異変とやらが気になる。
この幸せを壊したくないものである。
…………。
……。
「はい、お待ちどお様。」
「ありが……おぉ……。」
「な、なにかな。嫌いなものでも、あった?」
「いや……完璧すぎて……。」
文字通り、言葉を失う。
白飯、豆腐と青菜のスープ、同じく青菜と大根みたいな野菜の漬物、フルーツ、そして焼き魚。
至ってシンプルな内容。
…………ドールよ、お前は何てよくわかる子なんだ。
そしてこの魚……懐かしの……。
「いいキレアジが入ったから、前ソウジさんが言ってた……ヒラキ?やってみたんだ。」
「覚えていてくれたのか。」
「うん。冬と春は、魚って中々食べられないから。お酒のお供にも好評なんだ。」
「…………うん……うまい……塩味が効いて……ご飯めっちゃ食える。」
「良かった。……ソウジさんには食べてもらってなかったよね。……うん。」
今日初めての笑顔を見せたドール。
心底嬉しそうだ。
エプロンを握りしめて、ガッツポーズ。
「いや、まんま故郷の味だよ。……それ超えてるかも。」
お世辞ではない。
キレアジは正直生食には向かない。
身が締まりすぎて固く、どちらかというと狩猟道具の一つである。
一度持った時、砥石の代用として使えるとアイテム情報で分かったときは、驚いたものだ。
だが、一度焼いたときの旨味は格別だった。
これを活かす料理はないか、魚好きの俺のハートに火が付き、ドールに相談&料理を伝授。
作ったこともなかったが、イメージだけでここまでバッチリとは。
ドールの料理上手さには恐れ入る。
「なめろうはどうだった?」
「やってみたけど、一部のおじさんに好評だよ?お酒のツマミとして出してるんだ。」
「…………それ。今度食べていいか?」
「うん!もちろん!……い、いいよ。」
思わず大きな声が出てしまったのか、急に恥ずかしがるドール。
そんなに俺にうまい飯を食わせたいのか……ええ子や……。
* * * * * *
ドールの朝食を頂き腹を満たした俺は、薬を飲んでギルドに向かうことにした。
ちなみにドールの頭は、今日は盛大にナデナデした。
セクハラとかもう気にしなくていいぞという俺。
気にしたほうがいいぞと自制を促す俺。
そんなアホ悪魔とアホ天使に挟まれながら、今日は前者に軍配が上がった。
アジの開きの感謝も込めて、それはもう丁寧に撫でさせてもらった。
当のドールには「今日は撫で方が雑……。」と言われた。
ショック。
気持ちとは、言わなければ通じないものだと実感した次第である……。
さて。
ギルドにやってきた俺。
とは言っても、例の人には会えるかどうかさえわからん。
忙しそうだし。
誰かに取り次いでもらう必要があるのだが、それさえ難しいほど受付は混雑している。
ハイビスさん……いるけど、長蛇の列だ。
ヒナタさんも……同じだな……。
参った……まぁ、急ぎでも無し。
気長に待つか。
クエストボードでも眺めてよう。
「…………ん?」
クエストボードを見る人だかり。
その中に、異色を放つ見知った顔ぶれを発見。
「おはようございます、フェニクさん、トツバ。」
「あぁ、おはよう。ソウジさんか。」
「えぇ、急に話しかけてすみません。トツバも、元気か。」
「ばっちりぐー。」
「そ、そうか。」
まぁ、良好ということだろう。
あえて流した。
「ソウジさんも、クエスト探しかい?」
「いえ、俺は別の用があってギルドに来ただけです。お二人は……狩猟、ですよね?」
「あぁ、仕事だよ。」
フェニクさんとトツバ。
俺が冬山に籠もっていた際、ワサドラに残ったショウコとパーティーを組んでいた二人。
ミヨシからの帰り道、不運にもセルレギオスに襲われていたのを手助けした。
トツバは、決死の覚悟で信号弾を発射したスキを突かれ、腹部を負傷した。
回復の様子が気になってはいたが、よかった。
復帰できたんだな。
「とは言っても、大型はまだやめておくよ。トツバも、慣らしが必要だ。」
「私は平気。よゆー。」
「今日は実入りのいい採取辺りを狙おう。」
「余裕なのに。」
「無理はしない。」
トツバの口調は相変わらず。
常に眠たげな目、無表情なのも相まって、読みづらいところがある。
……まぁフェニクさんとは以心伝心な様子。
いいペアだと思う。
フェニクさんの格好は、以前のガチガチの鎧ではない。
スラッとした身長と長いポニーテールの金髪によく似合う、黒のロングパンツ。
薄い藍色のウインドブレーカー、下にはボーダーのTシャツ。
ラフな格好だが、スタイルがいいので似合っていると思う。
俺が着たら若干ダサいんだろうけど……。
トツバは相変わらず小さい。
長い靴下にハーフパンツにTシャツと、まあ大型狩猟に向かうにはちょっと厳しい。
腰にポーチを付け、背中にはでっかいハンマーがあるためオトモアイルーとわかるが……見た目が完全にその辺の小学生である。
この体のどこにそんなパワーが隠れているのか……。
「……ソウジに見つめられている。」
「うぇっ!?」
しまった。
まじまじと見過ぎた。
「恥ずかしい。」
「す、すまん。そんなよく見るつもりじゃ。」
「見ていない?それはショック。」
「どうすりゃいいんだ……。」
トツバに突っ込まれて狼狽えてしまった。
見ても見なくてもいけないという、難しい乙女心である。
「ははは、相変わらずソウジさんは面白いな。」
「からかわんといてください。」
「いや、他意はないんだ。気を悪くしないでほしい。まぁトツバはからかう気満々なようだけどね。」
「フェニク、それを言ったらダメ。面白くない。」
「面白くないって……トツバ、俺はそんなに面白い人間ではないぞ?」
「あのショウコがあそこまで気に入ったハンター。面白くないわけがない。」
「あのなぁ……。」
「……ははははは!す、すまない!やはり笑ってしまうな。」
……何故かトツバは俺をイジりに来る。
セツヒトさんにもいつだか、俺はいじりがいがあると言われた。
…………終いには泣くぞ。
まぁこんな感じで軽く会話を交わした後、二人は一枚のクエストを剥ぎ取って受付に向かっていった。
元気そうで何よりだった。
アイルーは回復が早いと言うけど、心配だったし。
……さて、俺の方も用を済ませよう。
受付、早く空かないかな。
* * * * * *
それからしばらく後。
行列も無くなった頃合いを見て、ハイビスさんに声をかけることにした。
「…………ふぅ。」
息をつくハイビスさん。
声をかけるのも申し訳ないけど……致し方ない。
「ハイビスさん。」
「あ、ソウジさん。すみません、お待たせして。」
「いえ。こちらこそ忙しいときにすみません。」
「御用は何でしょう?」
ハイビスさんも俺がウロウロしていたのが見えていたんだろう。
逆に謝られてしまった。
「えっと……ちょっと、相談したいことがありまして……。」
「相談、ですか?」
「はい。シガイアさんに直接、なんですけど。お取次ぎ願えますか?」
「…………重要な案件……ということですよね。」
小声で話すハイビスさん。
俺に顔を近づけ、眉を顰める。
近い……。そして相変わらずの美人さんである。
「はい、重要……かもしれません。」
「……分かりました、確認してきますね!」
そう言うと、後ろの職員に何かを伝えて、颯爽とどこかに向かっていったハイビスさん。
シガイアさんのところに行ったんだろう。
ちょっと待つか。
* * * * * *
コンコン。
「失礼します。」
『はい、どうぞ。』
ガチャ。
相変わらず厳ついドアを開ける。
ハイビスさんに直接部屋に向かっていいと言われ、単独でギルドマスター室に向かうことになった。
案内とか無い辺り、ギルドの忙しさがうかがえる。
まぁ俺も子どもではないし、信頼の証と受け取ろう。
迷うことなく部屋にやってこられた。
「どうもすみません。お時間いただいて。」
「いえいえ!ソウジさんの頼みなら、いつでも時間を取らせていただきますよ!」
軽い挨拶。
相変わらず腰の低いお方だ。
そう、俺が相談しようとしていた人物はシガイアさんだ。
モンスターの異常やワサドラ以外の情報にも長け、且つ頼りになる人物。
この人しか思いつかなかった。
「私からも、ソウジさんにお話したいことがありましたし。丁度良かったです。」
「あ、そうなんですね。…………俺から話しても大丈夫ですか?」
「はい。伺いましょう。」
シガイアさんには、早い段階で俺のギフトや出自などについて打ち明けている。
数少ない、俺の事情を知る人間である。
若干食えないところがある人だけど……まぁ悪い人ではない。
と思う。
「えっと……長くなりますが。」
「大丈夫ですよ。午前の残り一杯は、時間が取れます。」
「お気遣いある言葉、助かります。」
俺は、シガイアさんに、夢での女神様との会話の内容を伝えることにした。
「変なことを聞くんですが、最近のモンスターの動向って、どんな感じですか?」
「どんな……と言いますと?」
「例えば……急な襲来が多かったり、異常のある個体が見つかったりとか。」
「…………それは、ソウジさんがそう感じられたから聞く、ということでしょうか。」
「はい。昨日ジンオウガを討伐しまして……。個体として、何か違和感が拭えないところがありました。」
俺は、ジンオウガの違和感について簡単に話した。
夜間の突然の襲来から、討伐直前の赤い目まで。
話を聞くシガイアさんの様子が、段々と真剣なものに変わってくる。
「赤い目……ですか。……あまり聞いたことはありませんね……。」
「そうですか。……実はこの件に関して、ある筋から情報を得まして。」
「……ある筋?」
「…………頭おかしいと思われてもしょうがないんですけど……神からです。」
「…………は?」
「ええと、ですから。神。神様からです。」
キョトンとするシガイアさん。
そらそうだ。
俺だって逆の立場なら「何言ってるんだこの人」ってリアクションするもの。
そして頭に良い病院を紹介して、回れ右、である。
「その、神というのは……ソウジさんにギフトを与えたという、あの?」
「はい、その神様、です。」
「……どのように聞いたとか……その辺をお伺いしても?」
「はい。」
内容をかいつまんで話す事にした。
…………。
……。
「なるほど……これは信じざるを得ませんね。」
「えっ!?」
「ん?どうしました?」
「いや、その……簡単に信じてくれるんだなぁ、と。」
「ははは……。ソウジさん……私としては、あなたがそこまで話してくれたことに関して、嬉しい限りですよ。私はあまり信頼されていないと思っていましたから。」
「いや、それは……。」
「ははは。いえ、いいんです。私の……これは性格ですね。どうしても慎重になり過ぎてしまう。……ですが、信じます。モンスターに、異変が起きているかもしれない、と。」
シガイアさんが一呼吸おいて、机の後ろにあるファイルを取り出した。
「持ち出し禁止」と書かれたそれは、結構な厚みと、重さがありそうな代物。
パラパラと中身を見ながら、シガイアさんが話し始める。
「…………実は、以前持ち帰ってきてくれた資料の分析が終わりまして。」
「あ、そうなんですね。」
「ええ。今一度振り返ってみると、新たな発見が多いもので……で、今回の話と関係あるかもしれない話が、二点。」
「はぁ。」
資料とは、俺とセツヒトさん、ハイビスさんで雪山に行った際、俺のギフトを利用して持ち帰ったものだ。
元々タオカカギルドのギルドマスターをしていたシガイアさんが持っていたものである。
その分析が終わったというのは……何だろうか。
襟を正して、聞くことにする。
「まず一つ目。セツヒトから聞いているかもしれませんが、数年前のスタンピードについてです。またいずれ、そのようなことがあった際に適切に対処できるようにと、分析をしてみたところ……モンスターの異常な活性化が一つ、兆候として現れていました。」
「活性化……。」
「言ってしまえば、出現の頻度が多くなってきた、ということです。少しずつ……ですが確実に増加の一途を辿っていく。……これです。」
そう言って差し出された資料を見る。
これは……大型狩猟の数と、達成数を数値で表に示したものかな?
女神様のグラフ……とまではいかないが、わかりやすくまとめてある。
「……確かに、少しずつ増えているように見えますね……。」
「でしょう?この日を境に、毎日……という訳では無いのですが、増えては減って、また増えて……1年後には、大変な数になっていました。」
「なるほど……。」
「いや、あの時も気付いていたんですがね。こう、改めて見ると、実におかしい。モンスターの出現が増えるのは、あの地方では冬と相場が決まっていますが……季節関係なく、少しずつ増えている。」
「……これが、今回の俺の相談と関係している、ということですか?」
だとすれば、今度はスタンピードとやらがワサドラに迫っている、ということになるが。
……それはまずいぞ。
「……申し訳ありません、判断が、出来かねる、としか。」
「へ?」
「当時の状況と照らしあわせようにも、比較する絶対数が多すぎるんですよ、このワサドラの場合。あの雪山地方は、雪の無い時期にモンスターが出現するという異常でしたから、すぐにわかりましたがね。」
「じゃ、じゃあこの話をなぜ?」
関係あるんじゃなかったのか。
「……問題は、現在ワサドラ近郊に現れているモンスターの種類なんです。」
「……種類?」
「ええ。近々のモンスターの出現数……これは、ここ数年と比べてもやや増加している程度。誤差の範囲です。ですが、出てくるモンスターが、少しおかしい。」
「…………。」
「ソウジさんが関わってきただけでも、セルレギオス、ジンオウガ……この2体ははっきり言って珍しすぎます。」
「なるほど……。」
「互いに主生息域を砂漠や山間部に置く大型です。ワサドラ周辺の草原や岩山地帯に来ることは、あまりありません。」
フェニクさんが言っていた、ここらでは珍しいというセルレギオス。
そして、だだっ広い草原に襲来したジンオウガ。
……なんだかきな臭くなってきた。
「他にも珍しい大型モンスター……オロミドロやアンジャナフのクエスト依頼が舞い込んでいます。更に、強力な個体……リオ夫婦や、あのラージャンまで出現している。まぁラージャンについては、以前からクエストとして受注はされいましたが、人間の生息域に出てくることは無かった……少しおかしいとは思いませんか?」
「はい……なんか、怖くなってきました。」
「ええ……そして今回のソウジさんのご相談……近辺では珍しいと言えるモンスター、雷狼竜ジンオウガの異常。……信じるには十分過ぎる材料かと思います。」
「…………問題は、そのモンスター自身の異常の判断が、俺にしかできないということなんです。」
「そうですね……。」
女神様との奇妙な問答で確認したのは、あの赤い目は俺しか分からないということだった。
まさか今出て来たモンスターが、全て異常を有するものではないだろうが……。
俺だけで対処するわけにもいくまい。
「……一度話を変えましょう。もう一つ、関係あるかもしれない件についてです。」
「は、はい。」
手元にあるグラスとポットを持って、水を淹れるシガイアさん。
俺に差し出してきた。
「あ、どうもすみません。」
「いえいえ。なかなかに難しい話ですからね。」
ずっと話していたからか、喉がカラカラだった。
ありがたく頂く。
「……もう一つというのは……マショルクについてです。」
「え?教官?」
教官の話がなぜ出てくる?
「マショルクが今、休暇を取って首都に行っているのはご存知ですか?」
「あ、はい。知り合いが修練場に行こうにも行けなくて、困っていましたから。知っています。」
「あぁ……それは悪いことをしましたね……実は、首都に行くよう命じたのは、私なんです。」
「え!?シガイアさんが!?」
「はい。休暇ではなく、極秘に。ザキミーユギルドの本部に探りを入れに行ってもらってます。」
「さ、探りですか?」
な、何だ?
モンスターがどうとか、そんな話では無くなってきたぞ?
「ギルドナイトと言いまして……まぁその辺のギルドの暗部も、ソウジさんならお話しして大丈夫でしょう。」
「え?えっ?ギルドナイト?」
「簡単に言うと、対人用ギルド専属ハンター、とでも表現すればいいでしょうか。」
「た、対人……。」
「えぇ、これは他言無用でお願いしますね。そうですね、今回持って来て頂いたお話とイーブンということにしましょう。」
な、何かさり気なく超でっかい秘密を聞いてしまったぞ!?
……この人、秘密ををあえて俺に伝えているんじゃ……。
「そのギルドの暗部であるギルドナイトの仕事は、多岐に渡ります。超級のハンターにしか頼めない且つ極秘裏に進める必要のある強力なモンスターの討伐。更に違法ハンターの捕縛、粛清……そして諜報活動などです。……今回のマショルクはそれに当たりますね。」
「あ、あのー、それって俺聞いてもいい話なんですか?」
「何を言うんですか。むしろ聞いて欲しいんですよ?……ソウジさんの将来も含めて、ね。」
「うぁー……。」
確定。
この人、あえて俺に重荷を背負わせやがった。
互いに秘密を知っている関係、これって強力……。
やっぱり食えない人だわ……。
「マショルクにギルドナイトとかその辺の意識は無いようですがね。アレは私が知る中でも最強の部類なので、まぁいいでしょう。」
「は、はぁ……。」
「話を戻しましょう……私もマショルクも、首都ギルドの動きには懐疑的です。……数年前の対応、あれは何か裏があるとしか思えなかった。当時そこにいたマショルクも同様に、そう感じていたようです。」
「…………。」
「マショルクも間が悪い男でしてね……首都の民衆のために立ち上がっていた矢先、飛び込んできた獄狼竜の襲来の報。セツヒトの救援に向かうため、亜種リオ夫婦狩猟を中断してミヨシ村に直行しました。……まぁ、結果は知っての通りですがね。」
「あぁ……。」
セツヒトさんから聞いた話。
結局教官は、ミヨシ村壊滅の折、間に合わなかった。
バーで教官から、後悔していると聞いたけど。
「セツヒトは悔やんでも悔やみ切れないでしょうが、私としてはマショルクが必死になって急いだという事実が分かりましたからね。納得しましたし、怒りは湧きません。……まぁセツヒトは、許しはしないようですけど………。」
「……見るなり斬り掛かりそうな雰囲気を出しますもんね……。」
「えぇ。その辺は、当事者同士で話をつけていただきましょう。…………さてソウジさん……以前首都に招かれたこと、覚えておられますか?」
「首都に?…………あぁ、はい。あの時ですね。」
以前、ドールのお母さんであり、ザキミーユギルドの総務長を務めるミヤコさんに「首都に来ない?」と誘われたことがある。
あの時は断ったし、今でも行く気はないけど。
「現在、ザキミーユギルド本部が、優秀なハンターを集めようとしている動きがあります。」
「えっ?」
「そういう極秘の報告を、マショルクが届けてくれました。集めているハンターの数は、結構なものだそうです。……あの時と、状況が似ています。」
「あの時……。」
ミヨシ村壊滅のカウントダウンが始まり出した時。
幾度の救援要請にも応じなかった首都ギルド本部。
教官の話では、首都近郊にもモンスターの出現が異様に多くなり、集めに集めたハンターたちが処理に当たってさえ、対応しきれなかったという話だ。
「……首都近郊に、モンスターが増えている……またはその兆候を何かしら首都ギルド本部は掴んでいるのでは……と考えられます。」
「首都の周辺に……。」
「はい。」
首都にハンターを集める理由。
セツヒトさんもその辺が全く納得いっていなかった様子だったけど……。
「……さて、ここまでの話を整理します。まず我々の町、ワサドラ周辺に出ているモンスター、これに異常が起きている。ここはソウジさんの話……その神様からの情報から確定と見ていい。」
「はい……。」
「そしてマショルクからの報告では、首都ギルド本部で、地方の優秀なハンターの青田刈り……収集が始まっている。」
「は、はい……。」
「その状況は、数年前のケースと酷似している。」
「…………。」
「……申し上げておいて何ですが……これはかなりまずい状況なのかも知れないと、推測できます。」
さらりと話すシガイアさん。
数年前の惨状。
それが繰り返されるのでは、という憶測。
そんなシガイアさんの話に。
俺は唾を飲むことしかできなかった。