「ギャアアア!!」
「ぬおっ!!」
ドガァ!!
谷肌の岩に思い切り突進してぶつかるタマミツネ。
すんでのところで、まるで闘牛士のように避ける。
コイツ……こんな直線的な動きだったか?
「グゥゥゥ…………ガァアッ!!グァァァァ!!」
「くっ……そ!!」
首を振り回し、体を捻り、尻尾を叩きつけ…………。
無茶苦茶だ。
あの流麗な動きは、見る影もない。
ただ俺を殺すために。
形振りなど構っていない。
そんな攻撃。
「ギャアアア!!」
「ま……じか!!」
ギィン!!
シュバッ!!ズザン!!
「ギャア!!……グゥゥゥ…………。」
振り向きざまにのしかかってきたタマミツネに、何とか回避攻撃を入れる。
一応の反撃を試みたが……効いている様子は微塵もない。
「…………どうしたんだよ、お前。」
答えるわけもない質問を投げかけてみるも、もちろん返答は無かった。
…………。
タマミツネとの戦闘が始まってすぐ。
パターンとして、まずは咆哮。
そしてグルグルと回ってからの泡放出……と読んだ。
だがタマミツネは、一心不乱に突進をかましてきた。
予想外の事態だったが、ギリギリのところで回避。
その後も予想外は続いた。
泡狐竜の名前が疑わしくなるほどには、ヤツは全く泡を吐かなかった。
まるでティガレックスの様に、猪突猛進なモンスターになっていた。
…………赤い目の影響、なのかもしれないな。
動きが単純になっただけならまだ良い。
…………明らかに、タマミツネの攻撃力が増していた。
水しぶきの上がり方、周囲の破壊具合……さっきやりあった時とは、全く違う。
強くなっている。
賢くなっている、とか、俺との戦いに慣れてきている、という訳ではなく。
単純なパワーが上がっている。
(……別のモンスターとして狩猟した方がいい……。)
俺の中で読み切っていた、タマミツネの動きや攻撃パターン。
一旦リセットした。
興奮し、我を失っているような、そんな様子。
……あの黒い霧?煙?が原因なのだと思う。
何となくだけど。
何故なら。
(あの煙吸ってから……調子が悪い……!!)
俺も、霧を吸ってから体が重い。
何度か接近した時、吸い込んでしまった。
体が重くなり、体力も無くなってきている気がする。
毒か何かの類だろうか。
タマミツネも、苦しんでいるのかもしれない。
何故かアイツはパワーアップしているわけだけど。
「グァウ!!」
「やべっ!!」
ガキン!!
その顎先を開き、噛みついてくるタマミツネ。
思わず双剣で防ぐ。
ギギギギギギギギ…………!
「グゥゥゥゥゥ!!!」
「ぬっ……ぅああああああ!!」
ギャン!!
ズザン!!
「ギャァァァァァァ!!!」
「……よっと……。」
バッ。
牙と剣との鍔迫り合い。
勝ったのは、俺の方。
はっきり言って、大型にパワーで勝つなんて無理も無理。
なので、いなした。
剣先を地に向けて、相手の力をわざと受ける。
その後、刀を返して、目を狙った。
そして、バックステップで退避。
タマミツネの赤いその目からは、血がダラダラと流れている。
「グァァァァ…………。」
「くっ……。」
また放出される、黒い霧。
先程の鍔迫り合いで、かなり吸い込んでしまった。
俺の体は大丈夫……ではない。
うまく力も入らないし、今回避攻撃をしろと言われたら、正直しんどい。
風邪を引いたかのようにだるい。
そんな感じ。
(熱が出ても出社を命じられた頃を思い出すな……。)
どうでもいいことを考えてしまった。
あのクソ上司は、元気にしているだろうか。
是非ともこの霧を吸い込んで、寝込んでもらいたいものである。
閑話休題。
……タマミツネは、とても苦しげだ。
あの、どこか華麗な姿は、今は全く感じられない。
やっぱお前もキツイんだな……。
…………早く楽にしてやろう。
「…………っあぁぁぁあ!!!」
「グアァァッ!!」
タマミツネの爪先を狙う。
フリをして。
(狙いはこっち!!)
ズザン!!
「ギャアッ!!!」
前脚を狙って、タマミツネの首元に入り込む。
突然の俺の攻撃に、片脚を上げて避けるタマミツネ。
だが、それはフェイント。
俺はタマミツネの首から切りつけつつ、回転、跳躍した。
「うらぁっ!!」
ズザザザザザザザザザザン!!
ザシュッ!!
「グァァァァ…………!」
跳んだ後、頭部から背中、尻尾にかけて蹂躙。
背骨を渡るように、タマミツネを切り刻む。
基本、俺の攻撃はカウンタースタイル。
今のように自分から仕掛けることは、特に序盤ではあまりない。
だが、今のタマミツネは先程とは違う。
猛攻に次ぐ猛攻を仕掛けてくる。
猛攻を防ぐためには。
…………俺から行くしかない。
だるい体。
回避攻撃は正直自信がない。
「ガァッ!!」
ズドォン!
タマミツネが上半身を持ち上げて、巨体を沼地に叩きつける。
だが、遅い。
いや、先程より速度は上がってはいるのだが。
(動きを読んで……!!)
ズザン!ザシュッ!
ズザザザザザザン!!
(鬼人化……乱舞!!)
「ギャァァァァァ!!」
のしかかりを仕掛けて、スキだらけの側部。
そこに、渾身の力を込めて剣撃を叩き込む。
「…………グゥゥゥ…………。」
「効いてないなぁ……。」
バシャッ。
バックステップで距離を取る。
……力が乗り切っていない。
タマミツネに反応することはできている。
かなり速度は上がっているが、反応は可能。
集中を高めれば、おそらくは討伐できる。
…………だが、肝心のパワーが乗らない。
俺が、弱くなっている気がする。
「グァァァァ…………!」
ブワッ……。
(アレか……。)
黒い霧。
もはやタマミツネの体どころか、周囲一帯までその霧は広がりつつある。
俺も、ぶっちゃけ吸い込みまくっていると思う。
……何とか打開しなければ。
再び仕掛けようと、右足を踏み出した。
その時。
ガクッ。
(あれ……?)
バシャッ。
膝を付きそうになり、慌てて姿勢を立て直す。
(ち、力が……抜けて……!?)
意識すればするほど、自分が思うように動かない。
(ヤバい!ヤバイヤバイヤバイ!!!)
タマミツネが迫ってくる。
その巨体を大きく振り上げ、押し潰してくる。
「こなくそっ………!!」
「グアァァァァ!!」
タマミツネのそれとは思えないほどの叫び声を下に聞きながら。
ドガァ!!
「ぐぁ!!!!」
ドン!バシャッ!!
バシャバシャ……ドン!!
俺は吹っ飛ばされ、谷の壁にぶち当たった。
「ぐはっ……ゲホッ!ゲホッ!……っつぅ……!」
背中をモロに壁に当て、呼吸がままならない。
回らない頭を必死に使って、状況の確認を行う。
(双剣……無い……怪我……足……よし……腕……右……いかれた……!)
思わず頭をかばって振り上げた双剣。
そしてそれを支えた腕。
そのうち、右腕が、おそらく折れた。
(呼吸……!!)
「ひゅうう!!はぁぁぁぁぁぁ………。」
教官に習った呼吸法で、無理矢理息を整える。
こんな苦しさ、教官の鳩尾パンチよりは楽だ。
多少痛むが……大丈夫だ。
(双剣は……?)
一瞬で状況判断を終え、息を整えつつ、目を配る。
タマミツネの後方に落ちている俺の武器。
二本とも仲良く地面に突き刺さっていた。
「グァァァァァァ……。」
そんな俺の様子を見て、なおも攻撃を続けようとするタマミツネ。
……絶体絶命……という状況に追い込まれてしまった。
……何だ、すごく落ち着いているな、俺。
これぐらいのピンチ、いくらでもあったからなぁ。
腕までいかれたのは、久々だけど。
「……タマミツネ……すまないが、まだ終わってない。」
「グゥゥゥゥゥ……。」
「ハンターってのは……しぶといんだよ!!」
バッ!!
振り向いた後、全力ダッシュ。
足は無事だ。
だが、こんな鈍足ではすぐタマミツネに追いつかれてしまう。
「ギャァァァァァァ!!!」
ザバァッ!!
地に体を付け、蛇のように俺を追いかけるタマミツネ。
……
カチッ。
バリィ!!ビリビリビリィ!!!
「ギャァァァァァァァ!?」
「おっけー……いってぇ……!」
伝家の宝刀!!ノーモーショントラップ!!
……我ながらダサいネーミングと技である……。
だが、効果は覿面だ。
引っ掛からなかったモンスターなど、いない。
(武器武器……。)
痛む体と右腕を庇いながらも、素早く武器を回収する。
シュッ……シュッ……。
ぺタペタ……バシャッ……。
(さて……。)
さっと双剣の切れ味を戻し、回復薬を貼ってぶっかける。
我ながら手慣れたものである。
シビレ罠はあと7秒ぐらいか?
……一瞬でいい。
考えろ。
この状態でこいつに敵うのか。
いや。敵うかどうか、ではない。
多分だけど、ここでやらないといけない気がする。
この黒い霧。
ここで断ち切らないといけない。
そんな気がする。
女神様が言っていたのは……多分そういうことなんだろう。
だから、この状態で戦う。
これは確定。
(よりにもよって右手とか、笑えん。)
笑えないはずなのに。
なぜこんなにも冷静なのだろうか。
(……やることが決まっているからか。)
肚を決める。
決めた。
「ギャァァ!!……グァァァァァァァァァァ!!!!」
怒りの咆哮が聞こえる。
ついに罠の効力が切れたか。
「……怒ってるよな?……だろうなぁ。さて……。」
「グゥゥゥゥゥ………。」
「……いくぞ。」
ジャキン!
左手はしっかりと。
右手はやんわりと。
体に力はあまり入らない。
激痛が走る中、双剣を握る。
「折れた腕でどこまでやれるか分からんが……やるか。」
「ギャァァァァァ!!!」
怒るタマミツネを正面に捉え。
俺はダランと双剣を構えたのだった。