モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

132 / 175
132挽回しましょう。

今まで、様々なピンチに直面してきた。

 

思えば一番ヤバかったのは、やはりディノバルド戦。

腕もまだまだ未熟だった。

骨を折り、裂傷を喰らい……結局あの時は、教官とセツヒトさんに助けられた。

感謝してもし切れない。

 

初めてこの世界に来た時のバサルモスも中々ヤバかった。

何せなんの知識もない中、放り込まれていきなり、である。

未熟とかそういうレベルの話ではない。

違法臭い方法で何とか逃げ延びることができたが……あれもよく考えたら、相当に命の危機だった気がする。

 

ベリオロス……ガムート……ゴシャハギさん……雪山でも結構ギリギリの連続だった。

ティガレックス戦は特にきつかった。

セツヒトさんという極力なバックアップがいない中で、まぁよくやれたと思う。

 

そして現在。

多分自分史上最高にヤバい。

 

タマミツネ……おそらくだが、コンディションさえ良ければ、普通に狩ることができると思う。

その位の強さ……だと思う。

だが、今目の前にしているコイツは……ちょっと凄い。

 

 

「ギャァァァァァァ!!!」

「よっ……!!いってぇ……!!」

 

 

ズドォ!ズァ!!

 

 

避けるので精一杯。

上手く剣が握れない。

右腕が振れないので、体も中々自由がきかない。

痛みも走る。

 

……そう、ただのタマミツネではない。

少なくとも、狩猟始めに俺が相手した個体と同じとは思えない。

挙動も鳴き声も……何だったら見た目も違う。

体色は全体的に黒みがかり、口から漏れる唾液は紫色。

気持ち悪い。

 

そして何より……強い。

一発一発が、致命傷レベル。

多分ティガレックスとかディノバルドの尻尾とか……それぐらいの力はあると思う。

 

痛かったもんなぁ……さっきののしかかり。

死んだかと思った。

 

 

(装備のおかげか……体が丈夫になったか……。)

 

 

バシャッ!!

 

 

動きは止めない。

タマミツネに標的にされないように、常に走り続ける。

骨は痛むが、走れないほどではない。

回避に専念すればイケる、と楽観視したい……が。

 

できない。

懸念がもう一つ。

 

 

「グァァァァァァ…………。」

 

(またこの霧……。)

 

 

俺が攻撃を喰らってしまった、一つの原因とも言える。

この黒い霧?煙?のようなもの。

タマミツネのどこから発生しているのかは知らんが、多分これを吸い込んだらやばい。

というか、やばかった。

体の自由が、効かなくなってしまった。

 

自由が効かない、とは表現が少し違う。

かなり疲れて、体が異様に重くなった……その様な状態になってしまう。

現在も体はだるい。

また体が動かなくなるようなことがあれば、今度こそ……。

 

 

(なのになぁ……何でだろう。)

 

 

「ギィヤァァァァァァ!!!」

「ふっ!」

 

 

ザバァン!!ズドン!!

 

 

体スレスレに、タマミツネの尾の先端が振り回される。

ギリギリで避けて、タマミツネを見据える。

 

状況は最悪。

このタマミツネ、かなり強いし……訳の分からん煙で俺は弱いし。

果ては骨折、避けるしかできない。

いつかはジリ貧。

そんなザマなのに。

 

 

(よく、見える。)

 

 

心が、落ち着いている。

腕は痛む。うまく双剣が握れない。

体は……まぁ動くけど、万全ではない。

だけど、とても冷静だし、タマミツネの攻撃がよく見える。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

ズザ!ザシュ!!

 

 

「グァァァァ……。」

 

 

僅かなスキを見ては、タマミツネにカウンターを入れる。

左手だけで。

攻撃力は半減だが、何もしないよりはましだろう。

 

 

「グォォ……!」

「……!?よっ……と。」

 

 

突然首を伸ばしたと思ったら、タマミツネはその場でグルンと横に回った。

布団の上で転がるかのごとく、俺に向かって。

 

充分に距離を取り、攻撃を避ける。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

ザン!ザシュ!!

ズザザザ!

 

 

「ギャァァァ!!」

「……いってえ……。」

 

 

攻撃後のスキを見つけては、一撃、二撃。

それを繰り返す。

軋んで痛む体は、この際気にしないことにする。

 

はっきり言って、左だけでは大したダメージにはなっていない。

このまま続けてもあまり意味は無いだろう。

……だが、やるしかない。

どうせジリ貧なら、少しでもコイツにダメージを入れる。

体力なら負けない。

 

 

さぁ、タマミツネ。

 

 

「やれるところまで、やろうか。」

「…………グァァァァ…………!」

 

 

それは返事なのか。

正気を保たぬモンスター。

傷を負ったハンター。

 

俺たちの泥沼の殺し合いが、再び始まった。

 

 

 

* * * * * *

 

 

「ふっ……はぁっ!!」

 

 

ザン!ザシュ!ズザザン!!

 

 

「グァ……ギャァァァァ!!」

「ぐっ!!」

 

 

ドガァ!!

 

 

バシャア!!

 

 

…………。

 

 

タマミツネの攻撃を避けては一撃、避けては二撃。

重い体に鞭を打ち、攻撃を入れていった。

 

何度か判断を誤り、吹っ飛ばされている。

文字通りの、泥まみれ。

何度も何度も転がされ、体中ビチャビチャ。

幸い、致命傷は食らってはいない。

が、小さなダメージがコツコツと累積している。

 

……だが、それはタマミツネも同じだ。

先程から、動きが鈍い。

流石にスタミナ切れしたのだと思っている。

 

そして、変化したことが一つ。

 

 

(体が軽くなってきた……。)

 

 

俺の方は、徐々に回復してきている。

酷い風邪をひいたかの様にだるかった体が、だんだん微熱程度のそれまでにおさまってきた。

理由はわからんが……まぁいい兆候だ。

 

 

(回復薬グレート。)

 

 

スッ。

 

 

ポーチに触れ、回復薬グレートを即座に2つ選択。

2本のうち、1本を飲み干し、もう1本は体にぶっかける。

 

 

(薬の効き目がすごいのか……俺の体がおかしくなったのか……。)

 

 

骨折の方の痛みは相変わらずだが、スキル気にしないを発動しているので何ともない。

 

……嘘です。

 

めっちゃ痛いのを我慢してます。

 

 

(ま、まぁ……ディノバルドの時よりは数段マシか。)

 

 

辛い基準があるから耐えられる。

ブラックな社畜のような考え方だが、今ばかりは社会人経験に感謝である。

 

 

「グゥゥゥゥゥゥ……。」

 

 

恨めしそうに俺を見つめるタマミツネ。

相変わらず苦しそうな表情だ。

 

 

「ガアァァァァァ!!!」

「しっ!!」

 

 

ドガァ!!

 

ヒュッ……。

 

 

(うまくいった!!)

 

 

ザシュッ!ズザザザザン!!

 

 

「ギャァッ!!」

 

 

馬鹿の一つ覚えのようにのしかかりを繰り返してくるタマミツネ。

 

その疲れ様も込みで、攻撃範囲は読み切っている。

右腕を庇いつつ、左の双剣で回転斬り。

カウンターが綺麗に入った。

 

 

(よしっ!)

 

 

ビキッ!

 

 

「いぃっ!!??」

 

 

強烈な痛みが右腕に走る。

……調子に乗るとこれである。

アホか。

 

 

(慎重にいかないと。)

 

 

右腕をカバーしながら左手で双剣を振り回す。

当て木でもしたいが、そんな悠長なことはしていられない。

俺の見た目はもう片手剣である。

 

 

「ギャァァァァ……!!」

「ん……?」

 

 

ダッ。

 

 

急に間合いを取ったと思ったら、タマミツネが咆哮をあげる。

顔を上げて口の周りに小さな泡……ビームか?

 

 

「やらせるか……!」

 

 

パシャッ!

 

 

無事な両足で、急いでタマミツネに近づく。

ブレスや長い咆哮の時間は、チャンスタイムだ。

タマミツネは、細長い水のビームを扇状に繰り出してくる。

その扇の要が、狙い目だ。

 

右側面に回り込みながら、近づき。

 

 

「うらあ!!」

 

 

ザシュ!ザザザザザン!!

 

 

左だけの鬼人化乱舞を入れる。

 

 

「ギャァ!!」

 

 

ゴロン!ゴロゴロ……。

 

 

タマミツネが派手に転んだ。

チャンスだ。

 

 

(頭部!!)

 

 

転んだタイミングと体勢を見て、最も頭部に近くなるだろう位置に、先に回り込む。

左手でしか攻撃ができない。

少しでもダメージを多く大きくしたいのなら、こちらは頭を使うしかない。

 

左手で剣を振るその瞬間、ちょうどタマミツネの頭部が目の前にやってきた。

 

 

(タイミングバッチリ……!)

 

 

「ふっ……!」

 

 

ザシュッ!ザザザザザン!!

 

ズザン!ザシュ!!

 

 

二段斬り、ならぬ一段斬り。

それを皮切りに、左手一本の攻撃を入れていく。

焦れったい。

いっそ右手も使ってしまいたい。

でもできない。

 

だって折れてるし。

 

焦りは禁物なのだが、欲張ってしまう。

 

 

(慎重に……今は少しずつ……。)

 

 

「うらぁ!!」

「ギャオォォオ……!!グゥゥゥ……!」

 

 

らしからぬ声を上げ、ようやく立ち上がるタマミツネ。

……ようやくダメージが入ってきたか。

 

 

「おまけぇ!!」

「グァ……!!」

 

 

負傷しているその赤い右目に、もう一閃。

……入れたのだが。

 

 

ヒュパッ!

 

 

「!!」

「ギャァ!!!?」

 

 

たった一撃。

それだけなのだが。

 

 

「グァッ……ガァ……グゥゥゥ……!!」

 

 

身をよじり、痛みをこらえる様子のタマミツネ。

今のは……。

 

 

「…………ガァッ!!」

「うおっ!?」

 

 

ズガガガガガ!!

 

 

蛇がその身を動かすように、突如突進してきた。

沼を抉りながら進むのを、ギリギリで避ける。

 

 

(危なかった……。)

 

 

突進に、爪撃を混ぜて攻撃してきた。

喰らえば致命傷だった。

 

考え事をしながら戦うと良くないんだが……。

先程の一撃。

 

感触が違った。

 

いつもの攻撃ではない。

軽い一撃が……とてもきれいに入った。

 

 

(もう一回……。)

 

 

タマミツネを見据える。

さっき当てたところは、右目。

狙うには、ちょっとリスクは高い。

見極めて……。

 

 

「グァ―――」

(……今っ!)

 

 

バシャッ。

 

 

その巨体を捻らせ、俺の左に位置取ろうとするタマミツネ。

その動きはもはや見飽きた。

移動先を読む。

 

 

(ここっ!!)

 

 

ヒュパッ!

 

ザン!

 

 

「グァァァァ!!」

 

 

(また()()()……。)

 

 

「入った」という表現が、一番しっくりくる。

タマミツネの動きを読んで先に回り、合わせる形で入れた左の剣。

 

まるで切っ先に何も当たっていないかの様であった。

軽く透き通るような、でも手応えは充分の一撃。

 

これは……。

 

 

(……考えてもわからん。)

 

 

深く考えるのは辞める。

とりあえず、弱点である目に、いい感じの攻撃を入れることができる。

そこまでは確実。

…………確実、に持っていくまでが大変なんだけども。

 

 

「グァァァァ!!」

「よっ。」

 

 

ヒュパッ。

 

 

「ギィヤァァア!!」

「ほっ。」

 

 

ヒュン!ヒュパッ!

ザザン!

 

 

(すげえ。入る。)

 

 

タマミツネの動きを読み、カウンターを合わせる。

狙うのは顔ばかり。

その数撃全てが、入る。

 

かなりの集中力を要するが、回避攻撃のタイミング合わせよりは楽だ。

 

 

(先を読んで……。)

 

 

ヒュパッ!

ズザザン!!

 

 

「グァァァァ!!…………グゥゥゥ……。」

「おぉ……。」

 

 

自分でも驚き。

かなりのダメージが入っている。

タマミツネに、反撃らしい反撃ができている。

 

心無しか、体も軽い。

先程から体の重さは少しずつ無くなり、膝をついていた時が嘘のようである。

 

 

(……何が起きているのかわからんが……チャンス。)

 

 

集中力の持続。

自信のある体力。

 

剣は一本しか使えていないが。

 

 

(このまま……押す!!)

 

 

左手の剣を再び強く握りしめ。

俺はタマミツネに猛攻を仕掛けた。

 

 

* * * * * *

 

 

「グァァ……ガァ……。」

「…………。」

 

 

それから一刻ほど。

 

()()一撃を、繰り返し繰り返し続けてきた甲斐もあってか。

タマミツネは見るからに消耗していた。

 

 

「…………やっ!」

 

 

ヒュパッ!

 

ザン!!

 

 

「グァァァァ…………!」

 

 

ドン!……ダンッ……。

 

 

「尻尾、切れたか……。」

 

 

タマミツネのその自慢の尻尾を、体から切り離すことに成功した。

変色したその尻尾が、沼地に転がる。

 

 

「グゥゥゥ……。」

「……辛いよな……今、やるから。」

 

 

バシャアッ。

 

 

沼地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。

目の前に来て尚、タマミツネは動かない。

 

 

(限界か……。)

 

 

ヒュパッ!!

ズザン!!

 

 

首の付け根に、再び剣を入れる。

この感触、忘れたくない。

 

 

「ギャァァァァァァ…………グォォォォ…………。」

「……じゃあな。」

 

 

ヒュン!

 

ズザン!

 

 

「ガァ………………。」

 

 

ズン…………。

 

 

「………ふぅ………。」

「…………。」

「倒した……か……?」

 

 

沼地にその身を横たえたタマミツネ。

……そのまま動き出すことは、終ぞ無かった。

 

 

「はあっ…………しんど……。」

 

 

バシャン!

 

 

水などお構いなしに、地面に尻をつく。

じんわりと冷たい感触が下半身に広がるが、正直動きたくない。

 

 

「…………正気のお前と、最後までやりたかったよ。」

 

 

タマミツネの骸に、返りもしない言葉を投げかける。

分かっていても、声をかけてしまう。

 

自分の心の整理のため。

 

 

(勝ったぞ!って……そこまで思えないわ。)

 

 

追い詰められて、死にかけて……。

何故かは分からないが回復して来て。

左手一本しか使えないという状況で、何とか倒すことができた。

 

 

「…………お前は、何でそうなったんだ?」

 

 

タマミツネの目を見る。

青く鈍い色をした眼球。

先程まで赤く妖しく光っていた目から、元に戻っている。

…………どういう理屈なんだ。

 

……だが、何かの外的要因でこうなったとしたら。

それを仕向けた……何かがあるとしたら。

 

 

「…………許せないな。」

 

 

最初の頃のタマミツネの流麗な様。

オロミドロと2体で、仲睦まじげにしていた、あの姿。

 

一変してしまった。

 

荒々しい攻撃、耳をつんざくような苦しげな叫び声。

そして、赤い目……。

 

それを仕向けた第三者がいるというのなら。

 

許すことは、できない。

 

 

ジャボ……。

 

 

「……とりあえず信号弾打って、ギルドに戻って報告―――」

 

 

立ち上がり、ふと目を落とした。

水面に映るのは、俺の顔。

 

ギョッとした。

 

 

「…………は?」

 

 

確かに、間違いなく。

 

 

「今……俺の目……。」

 

 

赤く光っている。

妖しく、自分の目なのに、恐ろしくもあった。

 

 

「…………。」

 

 

俺は意味もわからず、ジッと水面を見つめた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。