モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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134わがままを言いましょう。

思春期の頃。

 

まだ子どもがケータイを持つことが珍しかった、そんな時代。

好きな子に告白と言えば、やはり直接伝えることが多かった。

今ではメッセージアプリとか、メールとか……若い子のやり方は知らんけど、その時はそうだった。

 

そしてその次に多かったのは、ラブレターである。

 

俺も書いたことがある。

だが、終ぞ渡したことは無かった。

なぜなら、夜中にしたためた文章なんぞ、次の日の朝には赤面必至の内容と化すからである。

数回ほど自分のアホさ加減に恥ずかしくなり、ゴミ箱に突っ込む。そんな経験をしてきた。

 

夜中のテンションとはかくも恐ろしい。

 

以上、中身おっさんの回顧エピソードでした。

 

 

 

そして現在。

 

 

「……やってしまった……。」

「すぅ……すぅ……。」

 

 

朝目覚めたら、隣にショウコの顔があった。

 

……一応、ショウコはアイルー系の亜人である。

体格は、小柄。下手したら小学生とかその辺の部類。

見た目は可愛い。さらに言えば、猫耳に尻尾なんぞ俺の趣味にどストライクではある。

 

だが。

そういう目で見てはいけない。

 

……いけないのですが。

 

 

「こ、この状況は……。」

 

 

同じベッドで一晩過ごしてしまった。

 

…………誤解無きよう。

俺は何もしていない。していないぞ。

字面にすると完全に「お前やったな?」とか思われそうだが、断じて無い。

 

なぜ昨晩の俺は、一緒に寝るのを許可してしまったのか。

なぜあんなかっこつけて「好きにしろ」なんて言っちゃったのか。

疲れてたし、夜のテンションってば、恐ろしいわぁ……。

 

 

いかんいかん。考えろ。

 

 

……この世界でアイルーに何かしらやましい事をしようものなら、アイルーを親愛の対象とする恐ろしい方々からの私刑は免れない。

 

……過ぎたことは、言っていても仕方がない。

ここから最善を尽くすのみである。

 

 

「と、とりあえず……誰にも見られないように……。」

『ソウジー?』

「ぶふぉっ!!」

『んー?だいじょぶー?おっはよー。お見舞いにきたよー。』

 

 

スヤスヤ眠るショウコを起こさぬよう、ゆっくりベッドから降りていこうとした瞬間。

呑気な声がドア越しに聞こえ、思わず吹いてしまった。

 

な、なぜセツヒトさんが!?

 

 

『……ソウジー?入ってもいいー?』

「ちょ、ちょっとお待ちください……。」

『えー?なにー?聞こえなーい。』

 

 

ショウコを起こさないように小声で返事すれば、セツヒトさんに聞こえない。

かといって大声を出せばショウコが起きる恐れが。

 

急いでドアまで行って、すぐに誤魔化すしかない!

 

…………なんて言う俺の浅はかな考えは、無慈悲にもドアの音によって、意味のないものとなってしまった。

 

 

ガチャッ。

 

 

「失礼しまー…………。」

「…………。」

 

 

状況。

 

ベッドに腰掛ける俺。

横に眠るショウコ。

それを見て固まるセツヒトさん。

 

……以上。

 

 

「…………これはー…………。」

「せ、セツヒトさん……あのですね……。」

「…………。」

「…………。」

「……お楽しみー?」

「ち、違います!!」

 

 

ここは何が何でも否定させてもらう!

 

 

「な、何もしてませんから!」

「……この状況でー?」

「そうです!もちのろんです!」

 

 

必死過ぎて逆に怪しくなりそう。

いやいや!今は否定していくぞ!

 

とか何とか声量も考えずに話してしまい、ショウコがもぞもぞ動き出した。

 

 

「……う、うーん…………?」

「あ、ショウコちゃーん?おはよー?」

「え?……セツヒトさん……おはようございます……。」

「お、おはよう、ショウコ。」

「あ、ご主人様……。」

 

 

まだ寝ぼけているのか、トロンとした目でこちらを見て、少し頬を赤らめるショウコ。

いや、ショウコさん、まずいんですよその反応。

余計に怪しくなるじゃないですか。

 

とか何とか思ってたら、ショウコから爆弾発言が落とされた。

 

 

「き、昨日は……ありがとうございました……。改めて、嬉しかったです……。」

「……ショ、ショウコ?その発言は完全に誤解を招くから―――」

「い、一緒に寝てくれて、ありがとうございました。」

「ちょっと待ってストップショウコォォ!!」

「うわー。これはギルティー。」

 

 

セツヒトさんが引いている。

 

何がどう転んでもまずい状況。

 

寝ぼけるショウコを起こし、セツヒトさんに何とか説明し。

事なきを得るまでに、しばらく時間を要するのであった。

 

 

* * * * * *

 

 

何とかセツヒトさんへの説明を終えて、そのまま宿の食堂に向かった。

 

今日も白ごはんに味噌汁と焼き魚という、スタンダードなメニュー。

世界で一番落ち着くこの宿で、俺が大好きな最高の献立。

 

ここまではいい。

ここまではいいのだけれど。

 

 

「はい、ソウジさん。口開けて。」

「あの?ドールさん?俺、自分で食べられますよ?」

「だめ。せっかく食べにくい焼き魚にしたんだから。はい。」

「ど、ドールちゃん?ウチも……。」

「ショウコちゃんはダメ。今日は私。一緒に寝たんだから、我慢だよ?」

「う、うぅ……。」

 

 

朝食が並んだと思ったら、俺の箸がなかった。

フォークもスプーンもない。

……と思ったら、ちょっと怒っている風のドールから箸を向けられて、口を開けるよう要求される。

これどんな状況だよ。

 

 

「いやー、私も一緒になんてー。すみませんねーホエールさんにドールー。」

「ほっほっ。また自堕落に生活しとるんじゃろ?たまにはドールの飯を食いに来るとええ。」

「うっ……わ、分かります?いやー気をつけてはいるんですけどねー。」

 

 

向かいにはホエールさんと会話を交わすセツヒトさん。

ドールに、俺とショウコが添い寝したことをチクった張本人である。

……何食わぬ顔で白米を口に運んでは、ホエールさんと盛り上がっている。

 

食堂で一緒に机を囲むのは、俺とドール、セツヒトさんとホエールさん、ショウコ。

ハンズは居ないけど、修練所に向かったのだろうか。

 

 

「ソウジさん?はい、ご飯。」

「い、イエスマム。」

 

 

言うことを聞くしかない。

何かプレッシャーが凄い。

以前ディノバルドによって負傷した際、ドールはやたら俺の看護に張り切っていた覚えがある。

今回もそれかな……。

 

俺はこの子に、完全に胃袋と寝床がお世話になっている訳であって。

ある意味、一番怒らせてはいけない人物である。

 

……よし、もうこの際開き直ってガンガンいただいてしまおう。

うんそうしよう。

 

 

まるで雛鳥の様に言われるがままに食べる。

重症患者でもないのに。

恥ずかしいのを我慢していたら、ニヤニヤしながらセツヒトさんがこちらを見てきた。

 

イジりの予感!

……よし、塩対応で流そう。

 

 

「……ソウジー、良かったねー。こんな可愛い子にあーんされてー。」

「はい、よかったです。」

「私もあーんしてあげようかー?」

「い、いえ、丁重にお断り申し上げます。モグモグ。」

「……ちょっと言い淀んだねー。……想像したんでしょ?」

「な、何のことやら!」

 

 

ドールに食わされ、セツヒトさんにからかわれ。

ショウコは朝から赤面のまま。ホエールさんは「ホッホッ」と笑って。

 

自分史上最高ランクに落ち着かない朝食であった。

味がしない……。

 

 

* * * * * *

 

 

「……で、せっちゃんさんは何のご用だったんですか?」

「あーごめんごめんー。」

 

 

ようやく朝食を食べ終え、ドールからも解放され。

お茶を飲んで落ち着いた時には、もう朝とは呼べないような時間に差し掛かかっていた。

 

……結構寝てしまったんだな、と睡眠時間を逆算していると、セツヒトさんが話し始める。

 

 

「いやー、ベッドに寝転んでいるショウコちゃんを見て全部吹っ飛んじゃったよー。……ショウコちゃん本当に何にもされてないー?」

「は、はい。大丈夫です。」

「何かあったらすぐ言ってねー?」

「い、いやウチはまぁ……はい。」

「ショウコ、何だその微妙な返事は。」

 

 

セツヒトさんも失礼な方である。

 

 

「あー。で、用ってのはねー?」

「あ、はい。」

 

 

話の内容がコロコロと変わる。

セツヒトさんとの会話は常にこんな感じであるため、慣れっこである。

 

 

「まず、ソウジが怪我したって聞いてー、お見舞いにきたのさー。うちの店の前で偶然ハンズに会ってねー?教えてくれたよー。」

「ハンズが?」

「そー。『今朝も会えていなくて……心配です……。』って言ってたよー。」

 

 

妙に似ているモノマネをしながら、経緯を話してくれるセツヒトさん。

この人、形態模写上手いんだよな。

器用な方である。

 

しかしハンズにまで心配をかけてしまった。

昨日は会えていない。

俺の怪我のこととか、ドール辺りから聞いたのだろう。

 

 

「あとー、どうせ暇になるだろうと思ってー、前話した装備のこと、相談しとこうと思ってねー。」

「あ、それ、俺も話したかったんです。」

「うんうん。多分、それ装備すればー、ソウジ相当戦えるようになるのになーって。」

「でも素材がないんですよね……。」

 

 

無いものは作れない。

それはもうしょうがないことである。

 

 

「それなんだけどさー……シガイアさんからも話が来ててねー?」

「シガイアさん?」

 

 

なぜあの人の名前が出てくるんだ?

 

セツヒトさんは、話のトーンを少し落とした。

 

 

「……現状、聞いたよー?結構やばいことになってるよねー。」

「……そうなんです。」

「昔ちょっと聞いたことあるんだけどさー。狂竜化……ちょっち珍しいよねー。」

「はい。」

「で、それの対処の最前線、ソウジに立ってもらうしかないのに、ってさー。シガイアさん、割と必死だったよー?」

「え?そうなんですか?」

 

 

昨日、バーテンの格好をしたギルドマスター……つまりはシガイアさんからは、そんな様子は感じられなかったけど。

そう言うと、セツヒトさんは机の上湯呑みを持って、口に運んだ。

 

 

「ズズズ…………ふぅ…………。ドールちゃん、お茶の腕あげたねー……あー、それでねー?」

「はい。」

「……ソウジの素材、用意できるよー?」

「うぇっ!?」

「ラージャン以外は、まぁうちにあったのさー。」

「い、いえ、そうではなくて。……用意……していいものなんですか?」

「え?うん、問題ないよ?もちろん……コレは頂くけどねー。」

 

 

と言いつつ、指で輪っかを作るセツヒトさん。

いや、払えるもんはもちろん払いますけど……。

 

 

「正直全く実力ないハンターが同じことしたら、まぁ非難ごーごーだろーけどさー?……ソウジはもうかなり強いほうだしー?いーんじゃなーい?」

「うーん……。」

「緊急?みたいだしさー。ほらー、前も言ったよねー?あの時……属性武器の話をした時ー。装備に頼るようなハンターはよくないってさー。……でも、ソウジはとっくにその段階ではないしー?……HR7の装備としてはー、それ、結構弱めー?」

「いや、聞かれても。」

 

 

……だかまぁ、セツヒトさんの言うことは分かる。

 

要は今の装備は、俺の強さに比例していないっていうか。

いや、自分で言うのも何だが。

 

……正直新しい装備は欲しい。

それにとっとと腕を治して、今起きているモンスター異常の調査を再開したい。

 

だけど。

仰ることは分かるんだけど。

……これは俺のワガママ。

 

 

「セツヒトさん。」

「せっちゃんー。」

「せ、せっちゃんさん……。素材はその、ありがたいんですけど……できたら、自分で倒したモンスター達の力をモノにしたいと言うか。」

「…………。」

「ラージャンはやめるように言われているんですけどね……。ですがその、わがままなんですけど。残りの素材も、頑張って集めたいと言うか。」

「…………ふんふん。」

「……ハンターになって……やっぱり俺はまだ甘い。どこか、命をとることに対して臆病なんです。これは、この世界の人間ではないことが関係しています。だから……何と言うか、自分の装備だけは、きちんと自分の手で倒したモンスターの物を使いたい。」

 

 

俺が言ってることは、正直矛盾していると思う。

だって、食べている物とか、使っているアイテムとか、知らないモンスター由来のものばかりである。

言い出したらきりがないほど。

 

命を大切に頂きたいなんて言うなら、ベジタリアンにでもなって、ハンターなど辞めるべきである。

 

 

……だけど、俺はハンター。

せめてハンターとして生きる為の、自分の装備だけは、自分で何とかしたい。

作ったり加工するのは俺じゃないんだけども。

 

…………やっぱりわがままだわ、と自分でも思う。

でも。

 

倒したモンスター達への敬意というか、思いだけは忘れたくない。

俺がいなければ、死ぬこともなかったかもしれない命。

それを断ち切った、せめてもの償いというか。

 

 

モンスター側からしたら、何言ってんだって話だよなぁ……。

 

 

俺の正直な思いを伝えると、セツヒトさんはニヤニヤしながら顎を手に乗せた。

……この人のこういう顔は、よく知っている。

 

機嫌がいい時だ。

 

 

「…………いーねー。やっぱいいよー、ソウジー。」

「…………いや、すみません。急を要するって時に……。」

「いやー、男を見たねー。気持ちはわかるよー?うん。」

「……ありがとうございます。」

 

 

褒められている、と思っておこう。

まるで子どもが駄々をこねる様な感じで、ひどく申し訳ないけど。

 

 

「まー、ラージャンはキツイだろうから……その時は私が組んでもいいよー?」

「えっ!?本当ですか!?」

「うん。お力になれるかは分かりませんがー。」

 

 

いや、アナタが力にならなかったら、それはもうどうしようも無いでしょう。

俺が心の中で突っ込んでいると、ショウコから質問が上がった。

 

 

「……実際、ご主人様の右腕、どれぐらいのもんですか?」

「ん?どれぐらい、ってのは?」

「えっと、ほら、ご主人様の怪我の治り具合って、はっきり言って異常やないですか。ウチらアイルー並というか、それ以上やし。今、腕の具合はどんなもんかな、と。」

「んー……。」

 

 

ドールの勢いに押され、起きてから朝食まで全く右手を使ってなかった。

試しに優しく右手を握ったり、腕を押さえたりしながら確認する。

…………痛みは殆ど無いな。

三角巾の下は包帯でよく分からないが、昨日夜熱かった幹部は、腫れが引いていると思う。

 

 

「……まぁ無茶は禁物だろうけど、多分治ってきてると思うぞ?ちょっと痛いから、安静にするけど。」

「普通腕折ったら、一週間は痛いですよ?……でも、良かったです。引き続き無茶せんよう、ウチが様子を見ますからね!」

「は、はい。」

 

 

まるでおかんである。

 

 

「うーん、ソウジー。尻に敷かれてるねー。」

「これは尻に敷かれるとは言いません。」

「じゃー……夫婦漫才?」

「「誰が夫婦か(ですか)!?」」

「いやー、一緒に寝るぐらいだしー?」

 

 

息ぴったりのツッコミである。

その話、いつまで引きずるんだ。

 

 

* * * * * *

 

 

片腕でもリオレウスを狩ったことのあるセツヒトさんの逸話を話聞いたり、一緒に寝ていたことを散々いじられたりした後、セツヒトさんは帰っていった。

「無茶は禁物だよー?」なんて言いながら。

 

どの口が言うんだ。どの口が。

 

 

「さて……ショウコさん。一つお願いがありまして……。」

「…………一応聞きますけど、ランニングしたいとか筋トレしたいとか、そんなんだめですからね?」

「…………。」

「図星ですね……。絶対ダメですよ!」

「うぅ……。」

「ついでにお酒もだめです!怪我人なんやから、大人しくしとって下さい!」

「い、イエスマム。」

 

 

本日2回目のイエスマム。

いつまでもショウコには勝てない気がする。

 

 

その後、あまりに暇を持て余した為、俺がギルドにでかけることを提案。

「絶対安静!」と釘を差された後、なんとか解放された。

 

ホッとしている自分が情けない。

 

 

「いろいろ情報収集しないとな。」

 

 

相変わらず癖になってしまった独り言を吐きながら、ワサドラギルド本部に向かうことにした。

そういやハイビスさんに何の報告もしてないし。

今ならまだ人は少ないだろう。

 

 

時刻は昼前。

 

町中の喧騒を抜けつつ、俺は昨日ぶりのギルドに顔を出しに行くのであった。

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