モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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136ランチデート?を楽しみましょう。

大きなお胸の話を大きな声で話したら、大きなケイさんが倒れてしまった。

……自分でも言ってる意味が分からないが、実際そうなのであって。

 

 

「………………。」

「は、ハイビスさん。大丈夫ですか?」

「……穴があったら入りたいです……。」

「は、ははは。」

 

 

乾いた笑いしか出てこない。

ハイビスさんはどうやら俺がケイさんのお胸に興味津々なのを見て、ムスッとしてしまったらしい。

さすがハレンチ禁止受付嬢である。

 

俺にも非はあるため、責めることなどできない。

顔を真っ赤にして俯いてしまわれている。

すみません……。

 

 

ちなみにケイさんは、厨房の更に奥にあるお住まいへ。

お兄さんが運んでくれたのだが、「耐性が無さすぎる……。」と渋い声で漏らしていた。

 

それは確かになぁ。

失礼ながら結構いいお年だと思うのだが、下ネタに対する耐性は小学生並である。

夜も営業する居酒屋的な側面も併せ持つこの店。

お客さんから冷やかされることもあるだろうに。

 

兎にも角にもケイさんにはお休みいただき、俺とハイビスさんはカウンターに戻ってきた。

そして今、なんともいたたまれない空気に包まれている、というわけである。

 

 

「…………とりあえず注文しますか?」

「そ、そうですね。」

「じゃ、じゃあオスズさん!」

「はいにゃ!承りますにゃ!」

 

 

オスズが元気よく駆け寄ってくる。

ランチを2つ、注文した。

 

これから一人でホールを回すのかと心配だったが、元々予約も多く、オスズは弁当の販売があるため、もう一人のバイトさんがすぐ来る手筈らしい。

そこは安心したが、ハイビスさんは相変わらず少し落ち込んでいた。

 

 

「ケイさんに悪いことしました……。」

「ま、まぁ大丈夫でしょう。それに、俺も悪かったです。女性と食事だというのに、何の配慮もなく。」

「い、いえ……。」

「…………。」

「…………。」

 

 

二人して、カウンターに座り、無言の時間が続く。

カランカランとなる鐘の音と共に、背後では徐々に客でテーブルが埋まっていく。

ザワザワと店内が騒がしくなってきた。

 

肩と肩が触れ合うかどうかの距離で黙り合う俺たち。

…………何だろう、緊張してきた。

 

 

「……あ、あのー、ハイビスさん。」

「ひゃっ、ひゃい!何でしょう!」

「とりあえずさっきの事は忘れて……その、例の話をしてもよろしいですか?」

「あ、あぁはい!そ、そういえばそうでした。」

「?」

 

 

不思議なことを言うハイビスさん。

そういえばそうも何も、そもそもがそういう約束だったわけで。

 

 

「え、えっとですね……まず、私がギルマスから聞いたことから確認してもよろしいですか?」

「はい、その辺のすり合わせから始めましょう。」

 

 

料理を待ちながら、ハイビスさんの話に耳を傾ける。

とうやら伝達内容の過不足は無いようであった。

 

何でも、昨晩シガイアさんに直接呼び出され、話を聞いたらしい。

骨折したことについてはとても心配されたようだ。

優しい人である。

 

 

「今現在、ギルドに異常個体が現れた、という報告は今の所来ていません。」

「あっ、本当ですか。」

「はい。少なくとも、私がギルドを出るまではそのような話はありませんでした。……これからが心配ですね。」

「ええ。もし獰猛で強化された個体が増えたら……ハンター……しいてはそれに付随するすべての人の生活が激変してしまう。」

「はい……。」

「俺は、そこが一番心配です。何とかしたい……。骨折なんて早く治して、とっとと狩りというか、調査に出たいです。」

「ソウジさん……。」

 

 

強さには、責任が伴う。

ハンターランクが上がった時に、意識し始めたこと。

俺にできることなら、このお世話になった町、ワサドラに恩返しがしたい、

 

できることなんて、まぁ限られてくるんだろうけど。

とにかく今は、腕をさっさと治したい。

 

俺が本音を言うと、ハイビスさんがにっこり笑った。

 

 

「ソウジさんは、やっぱり前向きですね。」

「そうですか?」

「私、腕を折ったなんてなったら……多分家に引きこもっちゃいますよ?」

「まぁ、こんな仕事ですからね。骨を折るなんてまぁ……よくあることでしょう?実際、骨折も初めてじゃないですし。」

 

 

ディノバルドの時はもっとひどかったしなぁ。

だとすれば、今回の治りはもうちょっと早くなりそうだけども。

 

 

「ソウジさんのそういうところ、き、きらいじゃないですよ?」

「ショウコには怒られてばっかりですけどね。『無茶はせんといてください!』って。」

「その役目も大変なんですから、甘んじて受け入れてください。無茶という言葉、ソウジさんにぴったりです!」

「はい……。」

「……ふふ。」

 

 

何も言い返せない。

笑って言ってくれたが、無茶は沢山してきたわけで。

常々、ご心配をおかけしております。

 

 

そうこうしていると、いつの間にか出勤していた新しいバイトさんが料理を持ってきた。

外を見ると、いつものようにオスズが元気よく弁当売りを始めていた。

結構な人だかり……順調なんだな。

よかった。

 

 

カウンター越しに並べられたランチに目を落とす。

今日のランチは、チーズをふんだんにつかったアツアツハツのグラタンと、砲丸レタスのサラダ。

サラダにはレアガーリックという、にんにくみたいな食材がチップになって入っていた。

グラタンからは湯気が立ち上り、グツグツと音が鳴って食欲をそそる。

肉の匂いと、焦げたチーズの香り。

チーズはムーファのものだろうか……ハンズの故郷で頂いた味を思い出す。

移動集落のご飯、おいしかったなぁ……。

 

 

「冷めないうちに、いただきましょうか。」

「そうですね。……ソウジさん、食べられそうですか?」

「スプーンとフォークなので……多分いけます。」

 

 

左手だが、まぁ大丈夫だろう。

 

 

「いただきます……あっちぃ!!」

「わわ!!そ、ソウジさん!」

 

 

スプーンならいけるとか油断した俺。

恥ずかしい……。

 

 

* * * * * *

 

 

「骨折も心配ですが、それよりもその……赤い目の症状が気になります。平気なんですか?」

 

 

口と舌をやけどした後、いたくハイビスさんに心配されてしまった。

実に不甲斐ない。

まぁ骨折してるし、大目に見てほしい。

 

そんなこんなでようやく食べ頃になってきたグラタンを頬張っていると、ハイビスさんが俺の目の症状を心配してきた。

 

 

「んー……正直わからない、としか言えないです。」

「まだ目は赤いままなんですか?」

「えっと……。」

「あ、これ。どうぞ。」

 

 

そう言ってハイビスさんが小さな手鏡を渡してくれた。

常に携帯しているなんて、実に女性らしい。

猫柄の絵が書かれたそれをお借りし、じっと自分の目を見てみる。

 

…………変化はない。赤いままだ。

 

 

「……赤いですね。瞳が嫌な感じで光ってます。」

 

 

手鏡を丁重にお返しする。

いい気分はしないが……体調などは全く変わっていない気がする。

脱力とか変に高揚するとか、そういう変化は感じられない。

 

 

「私には……普通に見えます……。」

「そ、そうですか?」

 

 

ハイビスさんが俺を覗き込んできた。

目と目が合う。

…………キレイな人だ。

瞳が青く、透き通っているのまでよくわかる。

まつげ長い。

 

…………変態か。

自重自重。

 

 

「……とにかく、なにかおかしいところがあったら、すぐ教えて下さいね?心配です……。」

「……はい。ありがとうございます。」

 

 

ハイビスさんが、本気で心配してくれている。

 

この街に来て、最初にハンターとしての俺の面倒を見てくれた人。

まさかここまで深い付き合いになるとは思っていなかったけど。

仕事ができてカッコいいところもあれば、ドジなところも多々あって……。

容姿以外の部分も、とても魅力的な人である。

 

 

(…………いかん。意識したらドキドキしてきた。)

 

 

女性と二人でランチをいただく。

まぁ傍目から見れば、完全にこれデートな訳で。

以前、偶然町中で会って、デートっぽいことをしたが…………こんな美人さんと飯を食う機会などそうそうあることでは無い。

 

 

「おいしいですね、アツアツハツのグラタン。」

「ハイビスさん、チーズ好きなんですね。」

「トロトロのチーズが嫌いな女子はいないかと……。」

「そういやショウコもガツガツ食べてたなぁ……。」

 

 

ジンオウガ討伐の際に、放牧の民であるハンザさんたちに食事を提供してもらった。

俺もだが、ショウコはとにかくチーズの料理を気に入っていた。

このメニューがあること、帰ったら教えてあげよう。

 

 

「ソウジさんは、安静になさっている間はお暇なんですよね?」

「まぁ多分……そうですね。装備の話も……今の所どん詰まりですし、アイテムは常に揃えていますし。」

「……それなら、修練場に足を運んでみませんか?」

「え?ギルドの修練場ですか?」

 

 

骨折している人に訓練をさせようとか、そういうこと?

いやいや、ハイビスさんがそんな教官みたいな事、言うわけない。

案の定、すぐに否定してハイビスさんが話を続けた。

 

 

「あ、いえ、ソウジさんが鍛えるわけではないですよ?ただ、最近ソウジさんに訓練を見てもらいたいってお声がありまして……。ほら、例のファンの方々です。」

「お、俺が見るんですか?」

「教えていただく必要はないんですよ?それにほら、ギルド内にいるのなら、何かしらの異常があった際はすぐにお伝えできますし。シガイアも訓練所の方を心配してまして。」

「俺に伝えられることなんて、無いかもですけど……。」

「そんなことありませんよ!やっているトレーニング方法とか、攻撃の避け方とか回避攻撃の話とか……そういう情報共有の場って、中々無いじゃないですか。ソウジさんが良ければ、ですけど。」

「そうですね……。」

 

 

メリットは多いよな。

ギルドの近くに日中いれば、モンスターの異常とかいろいろな情報をすぐに教えてもらえるだろう。

俺が教えるなんておこがましいが……まぁ、技術は専有ばかりしていては良くない。

ワサドラギルドで頑張るハンターたち全体のスキルアップにつながるかもしれないし、何なら俺の方が勉強になることもあるだろう。

激しく動くことはできないが、口頭でなら全く問題ないし。

ギフトのことは内緒にして。

 

 

「……分かりました。俺で良ければ、力になります。」

「わぁ、良かったです!実は、初心者講習の方もグレードアップしたくて……いろんなハンターさんが来ていただいて情報共有すれば、いいんじゃないかなって。」

 

 

俺も初心者の頃……と言っても一年ちょっと前でしかないが、大変世話になったし。

これも一つの恩返しだろう。

 

しかしハイビスさん、仕事熱心というか……そこまで考えて動いてらっしゃるとは。

やはり、すごい人だなぁと感心してしまった。

 

 

「…………近くにいれば、また誘える…………。」

「へ?なんか言いました?」

「い、いえいえ。あー……また、こうやってお食事、お誘いできたら嬉しいなー、な、なんて……。」

「あ、全然いいですよ?」

「ほ、本当ですか!?」

「え、えぇ。ハイビスさんが嫌じゃなければ。」

「いいいい嫌だなんて!そ、それじゃあ明日またいかがですか!?」

「わ、わかりました。俺で良ければ。」

「…………はいっ!」

 

 

……ニコニコしながら、サラダを頬張るハイビスさん。

そ、そんなに喜んでもらえるとは……。

 

…………。

 

あれ?

もしや俺、で、デートに誘われた!?

ていうか、今現在もそういえばデート……。

 

 

「どうかしましたか?ソウジさん?」

「い、いえ。冷めないうちに、食べきっちゃおうと。」

「そうですね!ほんと、この店があってよかったです。そういえばお弁当も美味しくてですね……。」

 

 

その後、イシザキ亭をかなり利用している話や、ちょっとした愚痴を言い合いながら、ランチは進んだ。

おっさんなのに、デートとか意識した途端、何か動悸が早くなってしまった。

 

…………赤い目の影響か?

いや、違うな。

 

 

「あ、会計は俺が。」

「だ、だめですよ!ここはしっかり割りましょう!」

「いえ。俺が払っちゃいます。」

 

 

社会人同士の会計お支払い合戦は俺に軍配。

 

ハイビスさんを意識してしまっている自分に気がついたから。

ドキドキしちゃったんだな。

……こんな美人さんとデートだなんて考えたら、男なら誰でも意識しちゃうでしょうよ。

 

 

そんな思春期の男子みたいな悶々とした気持ちを抱えながら、ハイビスさんとギルド前で別れた。

明日、修練場に顔を出す約束をして。

 

 

「……まだまだ未熟だなぁ、俺。」

 

 

大通りを戻って、宿に足を向ける。

…………いや。

ちょっと遠回りするか。

市場や道具屋を冷やかしつつ、ゆっくり宿に帰ることにしよう。

何だかまっすぐ帰る気にならん。

何でかは知らんが。

……まぁこういう一日もいいだろう。

 

こうして俺は、時間をかけて「ホエール」に戻るのであった。

 

 

* * * * * *

 

 

ちなみに。

 

 

 

「こんな沢山、どうするんですか!?」

「い、いや、市場のおっさんに勧められたら断れなくて……ほ、ほら。この野菜とかうまいぞ?何でも首都の方で最近作られるようになったベルナスっていう……。」

「あかん……次からはウチ呼んでください!ええカモになってるやないですか!!」

 

 

市場でしこたま食材を買い込んだ……もとい買い込まされた俺は、ショウコに説教を食らってしまった。

それら食材は、殆どをドールに渡すことに。

 

 

俺に街ブラは難しいと、改めて自覚するのであった。

 

未熟だなぁ、俺。


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