今日はクエストの日。
相手は、超強敵、金獅子ラージャン。
シガイアさん曰く、下手な古龍よりも強い、とか。
もちろん古龍なんぞ見たこともないが……俺史上最も強敵になることは間違いないだろう。
そして心配事もある。
昨日シガイアさん達から聞いた、首都ザキミーユギルドとのあれこれ。
今回の依頼の形としては、紆余曲折あって、結局俺の所属するワサドラギルドに丸投げしたと言うもの。
だが、それを疎ましく思う人も少なくないのでは、ということであった。
(妨害などもあり得る、か。)
ハンターランクが7まで上がったときに忠告された、気をつけろという話。
それを思い出す。
ただ俺は、ハンターとして生活していければそれで良かったはずなのに。
どうしてこうも、人はいがみ合うのか。
…………いや、違うな。
俺が首を突っ込んでるのだろう。
俺は、俺の周りを守りたい。
人々の営みを、生活を、その命を。
その為に、強くなりたい。
そうしたら縁ができて、しがらみも増えて……。
そんなとこだろうな。
「ご主人様?大丈夫ですか?緊張してます?」
「あぁ、大丈夫だ。これでも、人生経験は豊富なんだ。何せ、中身は結構な年だしな。」
「そら……よかったです。」
少し寂しそうな顔をするショウコ。
「あぁ、ショウコ。今日も頼りにしているぞ。……俺が暴走しそうなときは頼んだ。」
「…………はいっ!!」
寂しそうな顔の真意は分からない。
だが、俺は自分一人で何でもできる人間ではない。
本音を、そのままショウコに伝えた。
ショウコは以前、自分がちゃんと力になれているのか、不安だったみたいだし。
きちんと言葉にして、頼りにしていると言うことを伝えておきたかった。
そういえば、今朝、宿の出かけ。
日課のドールの頭を撫でる時、「今日は念入りにね?」と言われた。
もはやご利益を願う信者のごとく、それはもう丁寧にやらせてもらった。
困ったときの、ドール頼み。
俺には、ドール様がついている。
更にショウコもいる。
しかもしかも、今回は俺だけではない。
道の向こう、ガーグァ車乗り場の近く。
4人が、俺を待ち構えていた。
「おー……おっはよー、ソウジー。」
「おうっ!ソウジさん!今回もよろしくな!!」
「ソウジさん、おはよう。ほら、トツバ。挨拶。」
「……眠い。」
頼りになる方々が、勢揃い。
まぁ約一名、眠そうな顔をしているアイルーがいるけど……。
先程までの不安と緊張も、一気になくなった。
ありがたい。
「みなさん、おはようございます。……おじさん、今回も危険な道程になりますが、よろしくおねがいします。」
「おうよ!なーに、ギルドからの依頼だ。コレも、結構頂いたからよ!気にしねぇで、頼ってくれ!」
「はい。それはもう、めっちゃ頼りにしますので。」
「ははは!まぁ運んでやるだけしかできねえけどな!」
ガーグァ車のおじさんが、指で円を作りなが笑い飛ばす。
俺がセツヒトさんとハイビスさんと共に冬山に向かったとき、そして帰るとき、お世話になった人物。
ジンオウガの時も、危険を顧みず運び役をやっていただいた。
その仕事ぶりからも、俺はひそかに尊敬している。
「ソウジさん、今回はよろしく頼むよ。」
「フェニクさん、おはようございます。よろしくお願いします。あの、ギルドの方から話は……。」
「あぁ、聞いている。今回は、ハンターと言うよりも護衛として頑張らせてもらうよ。」
「ありがとうございます。」
「何、元本職だ。安心して狩猟に備えていてくれ。むしろ、勉強させてもらう。」
「はい。改めてよろしくお願いします。」
フェニクさん。
ショウコと結構昔からの付き合いがある、ハンターである。
ミステリアスな印象を受けるが、これで結構よく笑う方だ。
凛とした佇まい、ブロンドをきっちり三つ編みにして、銀に青色が混じった鎧を見に纏っている。
すごく似合っていると思う。
「おー?フェニクー?今日はクロムメタルコイルー?青と銀色……発色もコーデもいいねー、似合うねー。」
「セツヒトさん。またあなたとご一緒できて、光栄だ。よろしく頼む。」
「よろしくねー。……うーん、いい仕事してますなー……。」
セツヒトさんが、ジロジロとフェニクさんの装備を見ている。
マニア魂に火がついたのだろうか……?目が怖いぞ。
「セツ……せっちゃんさん、その辺で。フェニクさんが珍しく狼狽えてます。」
「おー?あー……ごめんごめん、趣味というか仕事というかさー。」
「いや、気にしないでほしい。セツヒトさんには世話になっているしな。」
よくわからないところが多分にある人たちなので、二人の会話は聞いていて新鮮である。
すぐ横に目をやると、トツバとショウコが何かを話している様子。
さすが、幼馴染は仲がいい。
「ショウコ、正直に言う。」
「……一応聞くわ……何?」
「……ねむい。」
「聞くだけ損やったわ……ほら!行くで!!」
「あー、引っ張らないでー。」
ズルズルズル。
……仲がいい……んだよな?
ま、まぁ気の置けない関係と捉えよう。
ショウコに引っ張られて、荷台に乗り込まされるトツバ。
相変わらずよくわからない子である。
「しかしまぁ……ソウジさんよ。不思議なメンツが集まったもんだなぁ。」
「おじさん。確かにそうですね……。」
ミステリアスなフェニクさん。
よくわからんトツバ。
長い付き合いなのにやはりよく分からないセツヒトさん。
うーん……ある意味似た者同士が集まったのか?
「ま、とりあえず車出すわ!とっとと乗ってくれ!」
「は、はい。」
おじさんにせっつかれて、俺たちは荷台に続々と乗り込んだ。
今日は大所帯。
打ち合わせもしっかり行わないと。
「お前たちも、よろしくな。」
「ガー。」
「グー。」
車を引く二頭、ガーグー達に挨拶する。
相変わらずの、のんびりした顔。
安心するぜ。
* * * * * *
「それじゃ、打ち合わせをしておきましょう。」
この声を皮切りに、荷台にいたみんなが俺を見てきた。
やっぱり不思議なメンツだが、まぁ慣れるだろう。
「今回は……まぁみなさん聞いての通り、結構色々めんどくさいクエストになります。その辺の理解は、大丈夫でしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ。その辺は、我々も聞いている。」
「おっけー。問題ない。」
返事をくれるフェニクさんとトツバ。
二人が事情を知っていれば、とりあえず問題はないだろう。
「よかったです。と言うわけで、ラージャンの狩猟は、俺とショウコ、セツヒトさん、3人で行います。そして森林狩猟地域のスタート地点に、おじさんとガーグー……この車が待機。護衛にフェニクさんとトツバに残ってもらう形です。……ここまで大丈夫でしょうか?」
「あー、ソウジー。私からいーいー?」
「あ、はい。」
片膝を上げて座っていたセツヒトさんから、声が上がった。
セツヒトさんは、ロアルドロスの胸当てをつけているものの肩とおへそは丸出し。
胴回りはカムライという、腰から足首まである長布をロングスカートのようにつけている。
……スカートというか、脚の前面は完全に開いており、その御御足はしっかりと見えているのだが。
ショートパンツの下、足にハンターグリーブを付けていなかったら、もう痴女の部類に入るのでは無いかと思えるほど。
見ないようにするのが大変である。
……何故こんなに防具の名称に詳しいかって、荷台に乗り込んですぐ、フェニクさんと二人で防具談義で盛り上がっていたからである。
決して俺は女性装備マニアでは無い。
繰り返すが、マニアではない。
……大事なことなので!
……さて。
セツヒトさんが言いたいことは、フェニクさんの配置についてであった。
「行きと帰りの道中はー、まぁいいとしてさー。クエスト中はそれでいいのー?」
「へっ?」
「おじさんの護衛は確かに必要だけどさー。私がもし邪魔をするならー、クエスト中にやるかなー。」
「…………あー。」
セツヒトさんの言いたいことが、なんとなくわかった。
フェニクさんを車に残すとして、クエスト中に俺たち側に何かあった際、対応が難しいってことか。
「確かに……どうしましょうか。」
「んー、難しいねー。おじさんの安全は最優先だからさー、さっきの分配でいくしかないかなーとも思うんだけどー。」
「い、いや!気にしなくていいぞ!?何かあったら逃げちまうからよ!」
「それはだめ。」
俺とセツヒトさんが考え込み、おじさんが気にするなと言うと、思わぬ人物から声が上がった。
眠そうな目はそのままの、トツバである。
「ガーグーおじさんがいなくなったら、私達を運ぶ車も無くなる。今回、ワサドラからの迎えはこれ一本。いなくなったら、困る。」
「そ、それはそうだけどよぉ……。」
おじさんがトツバに言い返そうとする。
手綱を握りながら、自分がクエストの邪魔になっていると思って言ってくれているんだろう。
おじさんは、そういう人だ。
確かに今回、めんどくさいクエストの手前、送迎はおじさんに任せる形である。
おじさんに何かあれば、大変なことになる。
だが、トツバは違う提案をしてきた。
「私が、この車を守る。」
「……えっ!?」
「私なら、平気。」
「………………ほ、本当に?」
いきなりの提案。
セツヒトさんも、どう話していいかわからないって顔をしている。
「……トツバは、護衛とかできるのか?」
「む。ソウジは失礼。私は、その辺のハンターには負けない。」
「す、すまん。」
「……ソウジさん。多分大丈夫だ。」
「フェニクさん。」
フェニクさんが、補足を入れてくれる。
「トツバは……まぁこう見えて力が強い。私よりもな。その辺のハンターなら、まず相手にならんだろう。」
「ま、まぁハンマーを使うってんなら、そうでしょうね。」
「ああ。それに、素早く動く、というタイプでもない。むしろ、車に張り付いて護衛するというなら、向いているかもしれない。そう思うよ。」
「…………なるほど。」
ショウコがスピードタイプなら、トツバはパワー特化ということか。
何だろう、レーシングゲームの車選びみたい。
すると、そのスピードタイプのショウコが話し始めた。
「ウチも、ええと思います。トツバの提案。コイツ、力は凄いんです。おまけに目も凄くて。落とし物とか、めちゃくちゃ見つけてきよるんですよ。」
「あの、たまに地面に落ちている、モンスターの落とし物をか?」
「はい。それだけで飯食えるんちゃうかなぁ……いや、分かりませんけどね。」
「私は強い。安心して。」
ぐっと力の入った目で俺を見つめるトツバ。
「…………分かった。おじさんとガーグー達を頼んだぞ、トツバ。」
「がってんしょうち。」
「よ、よし。」
じゃあそうすると……。
「それじゃあ、フェニクさん。危険なところですが、俺達と同行して、万一の時の為に、対人の護衛をお願いします。」
「あぁ、任された。セツヒトさんほどでは無いが、そういうのは得意だ。頑張ってみるよ。」
「はい。……ラージャンが出てきたら、すぐ離れてくださいね。」
「ははは、言われなくてもそうするさ。」
よし。
だいたい固まってきた。
狩猟は俺とショウコ、セツヒトさん。
クエストについてくる形で、人間的な警戒と警護をフェニクさん。
スタート地点におじさんとトツバ、そしてガーグー達。
こんな感じか。
「…………うん、いーんじゃないー?警戒し過ぎな気もするけどー、あれだけシガイアさんが気にかけてたしねー。やりすぎる位がいいと思うよー。」
「はい。万全を期していきましょう。」
6人+2頭の配置は決まった。
あとは狩猟についてだな。
「じゃあショウコ、このままラージャンについて情報共有といこう。」
「はいっ、ご主人様!」
「セツヒトさんも、よろしくおねがいします。」
「はいよー、りょうかーい。」
そのまま俺たちは幌の上に登り、辺りを警戒しながら、ラージャン討伐について打ち合わせをした。
何でわざわざ登ったかって、俺のギフトの話をせざるを得ないからである。
セツヒトさんの狩猟経験、そして俺のモンスター情報の内容を照らし合わせながら、対策を練ることにした。
「私も倒したわけじゃないんだよねー……一人だと、正直キツイかもー。いやー、あの時どっか行ってくれて助かったよー。」
いや、狩猟経験がある事自体すごい。
セツヒトさんへの尊敬の念が深くなった、俺とショウコであった。
* * * * * *
「よーし、そろそろ着くぞー!」
「ありがとうございます、おじさん。お疲れさまです。」
「いいってことよ!今日はここに宿泊でいいんだよな?」
「はい。ゆっくり休んでください。」
おじさんと予定を確認しながら、たどり着いた村を見渡す。
名前はチダイ村。
村という名前の通り、ここに住む人間はそう多くない。
だが、ここは大陸南部の一大農産地の中心。
依頼主はイパスという人。
依頼文からは、ここの地主さん?村長さん?の娘ということだけど……。
農家主って何だよ。
……とっても偉い人の娘さんだから、礼儀正しくしよう。
俺は目上の人にはとても弱い人間である。
ここまでの行程は、大体一日半。
整備された街道沿いを進むだけだったので、距離としては離れていても、そこまで遠い印象は受けなかった。
心配していた妨害も影形なく、安心。
ワサドラと首都を結ぶ道を進んできたが、タオカカや移動集落を結ぶ道よりもかなり楽だった。
あちこち筋肉が固まって痛いけど。
「あーケツ痛い……。それじゃ、俺はイパスさんとお話してきます。皆さんは……。」
「あー、宿とか無いかいちおー見てみるー。無かったら野宿でー。」
「はい、分かりました。よろしくお願いします。……じゃ、ショウコ。」
「はいっ。」
ショウコを呼んで、二人で挨拶に行くことに。
残りのメンツには宿を探してもらおう。
…………。
ショウコと二人で村の中を歩く。
ハンターの姿は珍しくないのか、特に視線を感じたり、かと言って無視されたりということも無い。
村の、おそらくメインストリート。
そこかしこに商店はあるが、基本的には住居と倉庫のような建物ばかりが建ち並ぶ。
だが、人々が元気よく働いている姿を見ると、中々に栄えている様子が伺える。
途中にあった学校のような大きめの建物では、子どもたちが大きな声で騒いでいる様子が見られた。
すげぇ、普通教育も行えているのか。
「ウチ初めて来ましたけど……こんな村なんですね。」
「あぁ。俺はもう少し規模が小さい村を想像していたぞ。」
「そうですねぇ。ここは首都と北部を結ぶ中継地としての役割もありますから。ウチも聞いた話ですけど。」
「なるほどなぁ。勉強になる。」
「…………ご主人様は、その力で何でもわかるかと思ってました。」
「村の規模とか地理的なこととか……その辺の子どもより知らないかもしれないぞ?」
ギフトのマップはたしかに便利であるが、詳細な情報を教えてくれるわけではない。
唯一素晴らしいと思っていたモンスターの配置を教えてくれる機能も、ここの所反応が微妙だし。
「だから、こうやってショウコが教えてくれると助かる……おっ。」
「あ、ありましたね。」
しばらく行くと、『集会所』と書かれた看板を発見。
周りの建物よりも大きい木造の建物。
だが、ミヨシで見たようなログハウス的な作りではなく、木材をきっちり加工して建てられている。
屋根の勾配もキツくない。雪とか無縁の土地ってことかな。
「じゃ、じゃあ入るぞ。」
「ご主人様、ファイトです。」
「……いざというときは頼んだ。」
「偉い人と話す時はいつもこうなんやから……。」
仕方ない。
俺は元現代日本人。
保守的かつ長いものには巻かれる人間なのである。
コンコン。
ギィィ……。
「し、失礼します……。」
「ん?あ、入っていいですよー?」
「あ、すみません。」
中にいた、おそらく村の人であろう女性に返事を頂いた。
頭を下げて、恐る恐る入室。
「恐れ入ります。ワサドラギルドより参りました、ソウジと申します。依頼を受けて、参りました。」
「オトモのショウコです!」
「あらら、これはこれはご丁寧に。どうぞ、こちらに。話は伺っています。」
「はい、失礼します。」
手で示されたテーブルに向かう。
集会所の建物の中は、想像通りやはり木製。
所々に柱が建ち、中央に広く取られたスペースにはたくさんの机と椅子が並んでいた。
更にその奥は、バーカウンターと数席の椅子。
右手には書類をまとめる職員さんの姿が数人見える。
役所兼集会所兼酒場、といった感じだろうか。
村の中心を担う場所なんだろうな。
キョロキョロしていると、案内の女性から声がかかった。
「あらあら、すみませんね。珍しい造りですよね。お客様は、いつもそういった反応です。」
「い、いえいえ。すみません、失礼な真似を。」
「あらあら……礼儀正しい方なのですね。お話とは違って、安心しました。」
応対してくれているこの女性……受付か何かの方だろうか。
濃い茶色の長い頭髪を後ろで編んで、白のロングスカートと細めの青と白のストライプシャツを着こなしている。
襟の立ったシャツの奥は、控えめなネックレス。
丸淵の眼鏡の奥は、青い瞳。
農家の人、というよりは、都会にいそうな上品な女性という印象であった。
フェニクさんよりも年上だろうな……なんか優雅な大人の女性って感じがする。
……失礼な目線は控えよう。
今は話に集中集中。
「どうぞ。今、お茶を入れますからね。」
「いやいや、お構いなく。すぐに話は終わりますので。」
「まぁまぁ、そう言わず。……お噂に聞いたハンターさんとお話できるんですもの。お茶ぐらい入れさせてください。」
「で、では遠慮なく。」
「はい。」
ニコリと微笑むと、ゆっくりとした足取りで事務所のような場所へ向かう。
優雅で……ともすれば、のんびりした方だなぁ。
「……御主人様?鼻の下伸びてません?」
「な、何を言うか。濡れ衣だ。」
「ウチ知っとる……このパターン、ハンザさんの時と同じや……!」
アホ言ってるショウコは無視しておこう。
そんなやりとりをしていると、奥から先程の女性が戻ってきた。
「どうぞ?私達自慢のお茶です。」
「あ、どうも。ありがとうございます。」
「ふふふ……本当に、噂とはあてになりませんね。」
「え?」
「いえ。ティガレックスやジンオウガをいとも簡単に狩猟した凄腕の新人ハンター……なんて聞いたものですから。」
「いやいや。私は普通ですよ。普通。」
「ご主人様は自覚が足りないんです!強いので安心してください!」
「うふふ……オトモの……ショウコさん、でしたっけ?可愛らしいのに、腕前は超一流と伺っています。……あぁ、噂のお二人を前にして、緊張してしまいますわ。」
随分と持ち上げてくれるが……正直な話、とっとと依頼について話をしたい。
いや、ありがたい話ではあるんだけども。
俺たちの噂って……きっとあることないこと尾ひれに背びれに色々ついて回っているんだろうな。
人の伝聞なんて、得てしてそういうものだ。
「……。」
「……。」
「……あ、あのー。そろそろ、その、依頼を下さったイパスさん……農家主の娘様だと思うのですが、その方とお話をしたいのですが。」
「……あ、あらあらあら。申し訳ありませんね。私としたことが……。」
よかった。
この女性のまったりとした雅な雰囲気に流されてしまうところであった。
というか流された。
一瞬、何も話さないというよくわからん時間が流れたぞ。
「紹介が遅れまして……私です。」
「……えっ。」
「すみません……こうしてのんびりしている性格なものですから、父にもよく注意されておりまして……。」
「……し、失礼ながら、お名前をお伺いしても……。」
「はい。申し遅れました。私、当村で村長、及び首都北部農家連合長代理を務めさせて頂いております、イパスと申します。どうぞ、お見知りおきを。」
「……えっ。」
ショウコと二人で言葉を失う。
え?
この人が?
……マジで?